【実施例】
【0053】
[保存安定性試験]
ジクアホソル点眼液の保存中の性状変化の有無を目視で確認するとともに、キレート剤であるエデト酸塩が該性状変化に及ぼす影響を検討した。
【0054】
(試料調製)
・キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15gおよびベンザルコニウム塩化物0.0075gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0055】
・0.001または0.1%(w/v)エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15g、エデト酸ナトリウム水和物0.001gまたは0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.002gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0056】
(試験方法)
上記キレート剤非含有処方および0.001または0.1%(w/v)エデト酸塩含有処方をガラス容器中で、25℃で3ヶ月間保存した後、目視によりその性状の変化の有無を確認した。
【0057】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から明らかなように、キレート剤非含有処方については、保存中に目視可能な不溶性析出物が発生することが確認された。一方で、エデト酸塩含有処方では、これらの不溶性析出物の発生が抑制されることが示された。
【0060】
(考察)
キレート剤を含有するジクアホソル点眼液については、流通過程および患者による保存過程においても、不溶性析出物が発生しないか、または該析出物の発生頻度および量が低減されることが示唆された。
【0061】
[ろ過性能試験]
ジクアホソル点眼液のろ過滅菌時のろ過性能の経時的変化を確認するとともに、キレート剤であるエデト酸塩が該変化に及ぼす影響を検討した。
【0062】
(試料調製)
・キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0063】
・0.001%(w/v)エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、エデト酸ナトリウム水和物0.01gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0064】
(試験方法)
各調製物を、ろ過フィルターとして親水性PVDFメンブレンフィルター(日本ポール社製、フロロダインIIディスクフィルターφ47mm、ポアサイズ0.2μm(型式FTKDFL)を2段使用し、ろ過圧力200kPa、室温でろ過を行なった。そのときのろ過時間とろ過量を測定し、その関係をプロットした。
【0065】
(試験結果)
図1は、エデト酸塩含有処方、キレート剤非含有処方それぞれのジクアホソル点眼液でのろ過性能試験の結果を示すグラフであり、縦軸はろ過量(g)、横軸はろ過時間(分)である。
図1から明らかなように、キレート剤非含有処方については、ろ過滅菌中にろ過量の低下(ろ過率の低下)が認められる一方、エデト酸塩含有処方では、ろ過率の低下が完全に抑制されることが示された。
【0066】
(考察)
キレート剤を含有するジクアホソル点眼液については、製造過程(ろ過滅菌過程)におけるろ過率の低下が完全に抑制されることから、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液と比較して、効率的にろ過滅菌できることが示唆された。なお、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液において認められたろ過率の低下は、不溶性析出物(目視できないものも含まれる)の目詰まりが原因であるものと考えられる。
【0067】
[ろ過性能試験−2]
エデト酸塩およびエデト酸塩以外のキレート剤が、ジクアホソル点眼液のろ過滅菌時のろ過性能の経時的変化に及ぼす影響を比較検討した。
【0068】
(試料調製)
・キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0069】
・0.01%(w/v)エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、エデト酸ナトリウム水和物0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0070】
・0.01%(w/v)クエン酸含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、クエン酸一水和物0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0071】
・0.01%(w/v)メタリン酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、メタリン酸ナトリウム0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0072】
・0.01%(w/v)ポリリン酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、ポリリン酸ナトリウム0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0073】
(試験方法)
各調製物を、ろ過フィルターとして親水性PVDFメンブレンフィルター(日本ポール社製、フロロダインIIディスクフィルターφ25mm、ポアサイズ0.2μm(型式FTKDFL)を2段使用し、ろ過圧力200kPa、室温でろ過を行なった。そのときのろ過時間と有効ろ過面積あたりのろ過量を測定し、その関係をプロットした。
【0074】
(試験結果)
図2は、キレート剤非含有処方、またはエデト酸塩、クエン酸、メタリン酸塩もしくはポリリン酸塩含有処方のそれぞれのジクアホソル点眼液でのろ過性能試験の結果を示すグラフであり、縦軸は有効ろ過面積あたりのろ過量(g/cm
2)、横軸はろ過時間(分)を示す。
図2から明らかなように、キレート剤非含有処方については、ろ過滅菌中にろ過量の低下(ろ過率の低下)が認められる一方、クエン酸、メタリン酸塩またはポリリン酸塩含有処方では、エデト酸塩含有処方同様に、ろ過率の低下が完全に抑制されることが示された。
【0075】
(考察)
キレート剤を含有するジクアホソル点眼液については、製造過程(ろ過滅菌過程)におけるろ過率の低下が完全に抑制されることから、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液と比較して、効率的にろ過滅菌できることが示唆された。
【0076】
[眼刺激性評価試験]
キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液である「ジクアス
(登録商標)点眼液3%」の添付文書には、同点眼液を使用したドライアイ患者の6.7%で副作用として眼刺激感が認められたことが記載されている。そこで、ドライアイ患者同様に角膜上皮が障害されたn−ヘプタノール角膜上皮剥離モデルを用いて、キレート剤の添加がジクアホソル点眼液の眼刺激性にどのような影響を及ぼすか否かを検討した。
【0077】
(試料調製)
・3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15gおよびベンザルコニウム塩化物0.0075gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2〜7.8、浸透圧比1.0〜1.1とした。
【0078】
・3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15g、エデト酸ナトリウム水和物0.01gおよびベンザルコニウム塩化物0.002gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2〜7.8、浸透圧比1.0〜1.1とした。
【0079】
・8%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム8g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2gおよびベンザルコニウム塩化物0.0075gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2〜7.8、浸透圧比1.0〜1.1とした。
【0080】
・8%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム8g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、エデト酸ナトリウム水和物0.01gおよびベンザルコニウム塩化物0.002gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2〜7.8、浸透圧比1.0〜1.1とした。
【0081】
・基剤
リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.75g、塩化カリウム0.15gおよびベンザルコニウム塩化物0.0075gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2〜7.8、浸透圧比1.0〜1.1とした。
【0082】
(試験方法)
ウサギの左眼の角膜にn−ヘプタノール処置(1分間)を行なった後、角膜上皮を剥離し、その16〜18時間後に、基剤、3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方、または3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方を1回点眼し(50μL/眼)、点眼後1分間の瞬目回数の測定および点眼時の痛みに関連する症状の観察を行なった。その後続けて、点眼5分後までの閉目および半眼などの痛みに関する徴候を観察した(1群4例)。
【0083】
上記観察後、約1時間の間隔をあけて、基剤、3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方、または3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方を点眼したウサギの左眼に、それぞれ、基剤、8%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方、または8%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方を1回点眼し(50μL/眼)、同様の観察を行なった。
【0084】
(試験結果)
試験結果を表2および表3に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
表2および表3から明らかなように、キレート剤を含有しない処方については、3%(w/v)または8%(w/v)ジクアホソルナトリウムのいずれを点眼した場合においても、点眼後1分間の間に4例中2例で半眼が認められ、本傾向は点眼1分〜5分後においてさらに顕著であった。一方で、エデト酸塩を含有する処方については、3%(w/v)ジクアホソルナトリウムを点眼した場合にのみ、点眼1分〜5分後において、4例中1例で半眼・閉目が認められたが、発現頻度としては基剤点眼群と同程度であった。
【0088】
(考察)
以上のように、ジクアホソル点眼液は、ドライアイ患者同様に角膜上皮が障害されたn−ヘプタノール角膜上皮剥離モデルにおいて、痛みに関する徴候である半眼・閉目を高頻度で引き起こす一方、該点眼液にキレート剤を添加することで、これらの事象の発現頻度は基剤レベルまで軽減されることが示唆された。すなわち、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液をドライアイ患者に点眼した場合に一定頻度で認められる副作用としての眼刺激は、キレート剤の添加により軽減されるものと思われる。
【0089】
[保存効力試験]
キレート剤がジクアホソル点眼液の保存効力に与える影響を確認するため、保存効力試験を行った。
【0090】
(試料調製)
・キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15gおよびベンザルコニウム塩化物0.0036gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2〜7.8、浸透圧比1.0〜1.1とした。
【0091】
・0.01%(w/v)エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15g、エデト酸ナトリウム水和物0.01gおよびベンザルコニウム塩化物0.0024gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2〜7.8、浸透圧比1.0〜1.1とした。
【0092】
(試験方法)
保存効力試験は、第十五改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus brasiliensis(A.brasiliensis)を用いた。
【0093】
(試験結果)
試験結果を表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
なお、表4の試験結果は検査時の生菌数が接種した菌数に比べてどの程度減少したかをlog reductionで示しており、たとえば「1」の場合には、検査時の生菌数が接種菌数の10%に減少したことを示している。
【0096】
表4に示された通り、キレート剤非含有処方では、防腐剤であるベンザルコニウム塩化物の配合濃度が0.0036%(w/v)の場合であっても、日本薬局方の保存効力試験基準(カテゴリーIA)には不適合であった。一方、エデト酸塩含有処方では、ベンザルコニウム塩化物の配合濃度が0.0024%(w/v)であっても前記基準に適合することが示された。したがって、エデト酸塩含有処方は、キレート剤非含有処方と比較して、その保存効力が大幅に増強されていることが示された。
【0097】
(考察)
上記の結果から、ジクアホソル点眼液にキレート剤を添加することで、その保存効力が顕著に向上することが示唆された。すなわち、本点眼液については、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液と比して、点眼液中の防腐剤濃度を低下させ得るものと考えられる。
【0098】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0099】
(処方例1:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1〜0.5g
塩化ナトリウム 0.01〜1g
塩化カリウム 0.01〜1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001〜0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0100】
(処方例2:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1〜0.5g
塩化ナトリウム 0.01〜1g
塩化カリウム 0.01〜1g
BAK−C
12 0.1〜10g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001〜0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0101】
(処方例3:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1〜0.5g
塩化ナトリウム 0.01〜1g
塩化カリウム 0.01〜1g
BAK−C
12 0.1〜10g
クエン酸一水和物 0.0001〜0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0102】
(処方例4:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1〜0.5g
塩化ナトリウム 0.01〜1g
塩化カリウム 0.01〜1g
BAK−C
12 0.1〜10g
メタリン酸ナトリウム 0.0001〜0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0103】
(処方例5:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1〜0.5g
塩化ナトリウム 0.01〜1g
塩化カリウム 0.01〜1g
BAK−C
12 0.1〜10g
ポリリン酸ナトリウム 0.0001〜0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。