特許第6126075号(P6126075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6126075機能性核酸分子の構築法、および当該方法に用いる核酸組合せ物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126075
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】機能性核酸分子の構築法、および当該方法に用いる核酸組合せ物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20170424BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   C12N15/00 GZNA
   C12N15/00 A
【請求項の数】16
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-502415(P2014-502415)
(86)(22)【出願日】2013年3月1日
(86)【国際出願番号】JP2013055732
(87)【国際公開番号】WO2013129663
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2016年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-47367(P2012-47367)
(32)【優先日】2012年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100105991
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 玲子
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100114465
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100156915
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 奈月
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉浩
(72)【発明者】
【氏名】丸山 豪斗
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−259453(JP,A)
【文献】 特表2007−521247(JP,A)
【文献】 特表2001−514485(JP,A)
【文献】 特表2000−510847(JP,A)
【文献】 Nucleic Acids Symposium Series,2007年,no.51,pp.353-354
【文献】 Bioconjugate Chem.,2008年,vol.19,pp.327-333
【文献】 日本化学会第89春季年会講演予稿集II,2009年,p.1521, 3 PA-112
【文献】 日本化学会第90春季年会講演予稿集III,2010年,p.785, 3 D4-55
【文献】 FEBS Journal,2010年,vol.277,pp.4814-4827
【文献】 Pharmazie,2011年,vol.66,pp.313-318
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性核酸分子を、ヒト体内細胞を除く細胞内で構築する方法であって、
細胞内化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片を細胞内に導入する導入工程と、
上記細胞内で上記官能基同士を反応させて断片同士を結合し、上記機能性核酸分子を生成する生成工程と、を含み、
上記細胞内化学反応により相互結合する官能基対は、求電子基と、保護基によって保護されている求核基との組合せである、方法。
【請求項2】
上記機能性核酸分子は、同一の核酸鎖内でハイブリダイズするハイブリダイズ領域を有するか、または異なる核酸鎖間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を有し、
上記断片同士の上記結合が、上記ハイブリダイズ領域で生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記機能性核酸分子は、第一の核酸鎖および第二の核酸鎖の2本の核酸鎖からなり、該2本の核酸鎖間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を有し、
上記2本の核酸鎖は何れも、細胞内化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2つの断片として細胞内に導入されるものであり、
上記第一の核酸鎖を構成する断片同士の結合と、上記第二の核酸鎖を構成する断片同士の結合とが、上記ハイブリダイズ領域の異なる箇所で生じる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記求核基は、ホスホロチオエート基である、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記保護基が下記(a)〜(k)の何れかである、請求項4に記載の方法。
【化1】
(なお、上記式中で、R、R'およびR"は置換または非置換のアルキル基またはアリール基を表す。R1およびR2は互いに独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。なお、nが2または3のとき、n個あるR1同士は互いに異なっていてもよく、n個あるR2同士は互いに異なっていてもよい。また、(a)、(b)、(e)、(g)、(h)、(i)、(j)、および(k)中のベンゼン環上の複数の水素原子は互いに独立して置換基によって置換されていてもよい。)
【請求項6】
上記求電子基は、ヨードアセチル基、ブロモアセチル基またはヨード基である、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
上記保護基は、上記細胞中の内因性物質、または光照射によって脱離する、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
siRNAを、ヒト体内細胞を除く細胞内で構築する方法であって、
該siRNAを構成する第一のRNA鎖と第二のRNA鎖の少なくとも一方を、細胞内化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片として細胞内に導入する導入工程、ここで該断片は20mer未満の長さである、
上記細胞内で上記官能基同士を反応させて断片同士を結合し、上記siRNAを生成する生成工程、ここで該siRNAは20merよりも長い、
と、を含み、
上記細胞内化学反応により相互結合する官能基対は、求電子基と、保護基によって保護されている求核基との組合せである、方法。
【請求項9】
上記siRNAは、上記第一のRNA鎖と上記第二のRNA鎖とが二本鎖を形成するハイブリダイズ領域を有し、
上記断片同士の上記結合が、上記ハイブリダイズ領域で生じる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記第一のRNA鎖と上記第二のRNA鎖は何れも、細胞内化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片として細胞内に導入されるものであり、
上記第一のRNA鎖を構成する断片同士の結合と、上記第二の核酸鎖を構成する断片同士の結合とが、上記ハイブリダイズ領域の異なる箇所で生じる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記求核基は、ホスホロチオエート基である、請求項8〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
上記保護基が下記(a)〜(k)の何れかである、請求項11に記載の方法。
【化2】
(なお、上記式中で、R、R'およびR"は置換または非置換のアルキル基またはアリール基を表す。R1およびR2は互いに独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。なお、nが2または3のとき、n個あるR1同士は互いに異なっていてもよく、n個あるR2同士は互いに異なっていてもよい。また、(a)、(b)、(e)、(g)、(h)、(i)、(j)、および(k)中のベンゼン環上の複数の水素原子は互いに独立して置換基によって置換されていてもよい。)
【請求項13】
上記求電子基は、ヨードアセチル基、ブロモアセチル基またはヨード基である、請求項8〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記保護基は、上記細胞中の内因性物質、または光照射によって脱離する、請求項8〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項8に記載の方法に用いる核酸組合せ物であって、
siRNAを構成する上記第一のRNA鎖と上記第二のRNA鎖を備えてなり、ここで該siRNAは20merよりも長い、
当該上記第一のRNA鎖と当該第二のRNA鎖のうちの少なくとも1方が、細胞内化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片として含まれている、ここで該断片は20mer未満の長さである、siRNAの細胞内構築用核酸組合せ物。
【請求項16】
上記第一のRNA鎖と上記第二のRNA鎖は何れもが、細胞内化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片として含まれ、
上記siRNAは、上記第一のRNA鎖と上記第二のRNA鎖とが二本鎖を形成するハイブリダイズ領域を有し、
当該第一のRNA鎖を構成する断片同士の結合と、上記第二の核酸鎖を構成する断片同士の結合とが、上記ハイブリダイズ領域の異なる箇所で生じる、請求項15に記載の核酸組合せ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性核酸分子を細胞内で構築する新規な方法、および当該方法に用いる核酸組合せ物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核酸分子の中には、タンパク質をコードしないが、各種の生命現象に重要な機能を果たすものが知られている。このような核酸分子として、例えば、機能性のnon−coding RNA分子(非特許文献1)、およびRNA干渉作用を引き起こすRNAの小分子(非特許文献2)等が挙げられる。
【0003】
例えば、RNA干渉作用は、細胞内で、標的RNAの作用を特異的に抑制する重要な手法(非特許文献3)として、試薬としては元より、医薬としての応用(非特許文献4)も盛んに研究されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ryan J Taft, Ken C Pang, Timothy R Mercer, Marcel Dinger1 and John S Mattick, J Pathol., 2010, 220, 126-139.
【非特許文献2】Fire A, XuS, Montgomery M, Kostas S, Driver S, Mello C; Nature, 1998, 391, 806-11.
【非特許文献3】Sayda M. Elbashir, Javier Martinez, Agnieszka Patkaniowska, Winfried Lendeckel and Thomas Tuschl; EMBO J. 2001, 20, 6877-6888.
【非特許文献4】John C. Burnett, John J. Rossi and Katrin Tiemann; Biotechnol. J. 2011, 6, 1130-1146.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
RNA干渉作用を引き起こすRNAは小分子であるにもかかわらず、その効果を最大限に引き出すために、細胞膜の透過性をさらに向上させる要求、および免疫系を賦活化することによる毒性発現を抑制するためのさらなる要求が存在する。
【0006】
しかし、このような要求に対して、RNA分子をさらに小分子とするため、その機能発揮に必要最小限な配列に絞りこむ努力がなされているに過ぎないのが現状である。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、機能性核酸分子を細胞に取り込み容易な形態にして細胞内に導入し、細胞内で機能性核酸分子を構築する方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子の構築法であって、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片を細胞内に導入する導入工程と、上記細胞内で上記官能基同士を反応させて断片同士を結合し、1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子を生成する生成工程と、を含む方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、上記方法に用いる核酸組合せ物であって、機能性核酸分子を構成する上記核酸鎖を備えてなり、当該核酸鎖のうちの少なくとも1本が、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片として含まれている、機能性核酸分子の構築用核酸組合せ物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
機能性核酸分子を細胞に取り込み容易な複数の断片として細胞内に導入し、細胞内で機能性核酸分子を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る方法の一実施形態の概略を示す図である。
図2】実施例において、用いた各種RNAの配列を示す図である。
図3】実施例において、in vitroにおけるライゲーションの結果を示す図である。
図4】実施例において、ルシフェラーゼ遺伝子の発現の結果を示す図である。
図5】実施例において、ルシフェラーゼ遺伝子の発現の結果を示す図である。
図6】実施例において、免疫応答測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔1.機能性核酸分子の構築法〕
(構築法の概要)
本発明に係る機能性核酸分子の構築法は、1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子の構築法であって、以下の工程1)および2)を含む。
1)化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片を細胞内に導入する導入工程、
2)上記細胞内で上記官能基同士を反応させて断片同士を結合し、1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子を生成する生成工程。
【0013】
つまり、本発明に係る機能性核酸分子の構築法は、1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子の構築法であって、以下の工程1)および2)を含む。
1)上記核酸鎖のうちの少なくとも1本を、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片とし、その上で、上記1または2本の核酸鎖(すなわち、少なくとも1本は2以上の断片とされている)を細胞内に導入する導入工程、
2)上記細胞内で上記官能基同士を反応させて断片同士を結合し、1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子を生成する生成工程。
【0014】
上記の構築法は、機能性核酸分子を構成する核酸鎖の少なくとも一部を複数の断片として細胞に導入し、細胞内で機能性核酸分子を構築させる。したがって、機能性核酸分子の細胞への取り込みが向上する。また、核酸鎖の少なくとも一部をより短い断片として用いるために、機能性核酸分子に起因する免疫毒性が抑制されうる。
【0015】
(機能性核酸分子)
本発明において、機能性核酸分子とは、複数個の核酸が鎖状に連結してなり(すなわち、オリゴまたはポリヌクレオチド)、タンパク質をコードせず、かつ発生・分化等の生命現象に対して所定の機能を発揮する核酸分子を指す。したがって、生命現象において特段の機能を発揮しない、単に標的特異的にハイブリダイズするだけのプライマーおよびプローブは、本発明における機能性核酸分子の範疇から除かれる。
【0016】
機能性核酸分子は、DNA分子、RNA分子、またはDNA・RNAハイブリッド分子である。機能性核酸分子は、1本の核酸鎖から構成されるものであっても、2本の核酸鎖から構成されるものであってもよい。また、機能性核酸分子は、その一部に非天然の核酸を含んでいてもよい。なお、本明細書において、用語「核酸鎖」とは、機能性核酸分子を構成している状態での全長核酸鎖を指し、当該「核酸鎖」をより短くしたものに相当する用語「断片」(後述する)とは区別されている。
【0017】
上記DNA分子としては、例えば、DNAアプタマー;CpGモチーフ;DNAザイム;等が挙げられる。なお、本明細書において、ベースがDNA鎖であり、一部にRNAおよび/または非天然の核酸等が導入されているものは、DNA分子に分類する。
【0018】
上記RNA分子としては、例えば、RNAアプタマー;shRNA、siRNA、およびmicroRNA等のRNA干渉作用を示すRNA分子(RNAi用核酸分子);アンチセンスRNA分子;RNAリボザイム;等が挙げられる。なお、本明細書において、ベースがRNA鎖であり、一部にDNAおよび/または非天然の核酸等が導入されているものは、RNA分子に分類する。
【0019】
DNA・RNAハイブリッド分子としては、例えば、DNA・RNAハイブリッドアプタマー;等が挙げられる。
【0020】
機能性核酸分子は、好ましくは、その機能を発揮するために、上記核酸鎖内でハイブリダイズするか、または異なる核酸鎖間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を形成するものである。その理由は、後述の(核酸鎖の断片の好ましい設計の例)欄の記載も参照される。
【0021】
機能性核酸分子は、より好ましくは、核酸鎖内または異なる核酸鎖間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を持つRNAi用核酸分子であり、さらに好ましくは2本の核酸鎖からなるRNAi用核酸分子である。2本の核酸鎖からなるRNAi用核酸分子の核酸鎖の長さ(mer)は、例えば、15〜40merであり、好ましくは15〜35merであり、より好ましくは20〜35merである。
【0022】
(核酸鎖の断片)
機能性核酸分子を構成する核酸鎖の「断片」とは、上記「核酸鎖」を2以上に分割した核酸分子に相当する。そして、一つの核酸鎖に由来する全ての「断片」を適切な順序で連結すると当該核酸鎖と同じ核酸配列を有する核酸分子が構築される。ただし、用語「断片」とは、核酸鎖を一度構築した後にこれを分断して当該断片を生成することを意図するものではない。
【0023】
断片を結合して、機能性核酸分子を構成する核酸鎖を構築する場合、異なる断片間の3’側末端と、5’側末端とを相互結合させる。このとき、相互結合させるべき3’側末端と5’側末端との組合せを「対応する末端」と称する。すなわち、「対応する末端」とは、断片のデザインの元となる核酸鎖を構成するように断片を整列化したときに隣り合う末端である。
【0024】
なお、一つの核酸鎖に由来する「断片」の長さは特に限定されないが、異なる断片間の長さ(mer)の差が著しく大きくなり過ぎないようにすることが好ましい場合がある。この観点では、一つの核酸鎖に由来する最長の「断片」に対して、残る全ての断片が〔25%×最長の断片の長さ(mer)〕以上の長さであることが好ましく、〔30%×最長の断片の長さ(mer)〕以上の長さであることがより好ましい。
【0025】
上記「対応する末端」には、化学反応により相互結合する官能基対(官能基の組合せ)が結合されていて、これら官能基同士を反応させて断片同士を結合することにより核酸鎖が構成される。
【0026】
上記の官能基対は特に限定されないが、例えば、求電子基と、求核基との組合せが好ましい。すなわち、上記「対応する末端」の一方に求電子基を結合させ、「対応する末端」の他方に求核基を結合させることにより、異なる断片同士を化学反応により相互結合する。なお、求電子基および求核基は、3’末端および5’末端の何れに結合させてもよい。すなわち、求電子基を3’末端に結合し、求核基を5’末端に結合してもよいし、あるいは、求電子基を5’末端に結合し、求核基を3’末端に結合してもよい。
【0027】
上記の求電子基としては、特に限定されないが、ヨードアセチル基(参考文献:Bioconjugate, Chem. 2008, 19, 327)、およびブロモアセチル基(参考文献:Nucleic Acids Res., 22, 5076)等のハロゲン化アルキル基;ヨード基(参考文献:Tetrahedron Lett., 1995, 38, 55959)、およびブロモ基等のハロゲン基;ホルミル基;等が挙げられる。一実施形態において、求電子基は、ヨードアセチル基、ブロモアセチル基、またはヨード基であることが好ましい場合がある。
【0028】
上記の求核基としては、特に限定されないが、ホスホロチオエート基;チオール基;ヒドロキシ基;アミノ基;チオメチル基等のアルキルチオ基;メトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。一実施形態において、求核基は、ホスホロチオエート基であることが好ましい場合がある。
【0029】
また、官能基対を構成する上記求電子基と上記求核基との組合せも特に限定されないが、ハロゲン化アルキル基またはハロゲン基とホスホロチオエート基との組合せ、またはハロゲン化アルキル基またはハロゲン基とチオール基との組合せ、等が好ましい場合がある。また、一実施形態において、官能基対を構成する上記求電子基と上記求核基との組合せは、ヨードアセチル基、ブロモアセチル基、またはヨード基と、ホスホロチオエート基との組合せであることがより好ましい場合がある。
【0030】
以下に、対応する末端に付される上記求電子基と上記求核基との好ましい組合せの一例、およびこれらの基が化学反応により相互連結する形態を示す。なお、化学式中で、糖は骨格部分のみを示しており、リボースであってもデオキシリボースであってもよい。また、化学式中のBは核酸を構成する各種の塩基を示す。すなわち、以下の例では、機能性核酸分子がRNA分子の場合を示しているが、DNA分子でも同様に構成することができる。
【0031】
【化1】
特に、相互結合させるべき複数の断片を同時に系内に存在させる場合、細胞外で相互結合する断片の割合をより低減する(実質的になくす)ために、上記求核基は、所望のタイミングで脱保護が可能な保護基によって保護されていることが好ましい。すなわち、一実施形態において、官能基対は、求電子基と、保護基によって保護されている求核基との組合せであることが好ましい。
【0032】
求核基を保護する保護基の種類は、求核基の種類に応じて適宜採用をすればよい。好ましい保護基としては、例えば、細胞中の内因性物質の作用によって求核基から脱離するものが挙げられる。「細胞中の内因性物質」とは、後述の「細胞外から導入される物質」と対をなすものであり、その細胞が元々保持している物質を意図している。細胞中の内因性物質としては、例えば、酵素およびペプチド等が挙げられる。遺伝子導入により細胞内で発現させた酵素およびペプチド等は、それ自体が「細胞外から導入される」ものではないため、細胞中の内因性物質の範疇である。
【0033】
細胞中の内因性物質の作用によって求核基から脱離する保護基のうち、ホスホロチオエート基の保護に使用可能なものとしては、以下に構造を示す、フェニルチオ基(a)その他のアリールチオ基のような、ホスホロチオエート基をジスルフィド保護できるもの;ニトロベンジル基(b)、エステル(c、d)、チオカルボニル(e)、およびアミド(f);ならびにこれらの誘導体等が挙げられる。なお、上記ニトロベンジル基は、o−ニトロベンジル基、m−ニトロベンジル基およびp−ニトロベンジル基の何れでもよいが、反応性の観点からm−ニトロベンジル基およびp−ニトロベンジル基が好ましい。
【0034】
【化2】
なお、(c)、(d)、(f)におけるR、R’およびR”は、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、置換または非置換のアルキル基またはアリール基を表す。アルキル基またはアリール基は、例えば、炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜10であり得る。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基およびデシル基等の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基およびアダマンチル基等の環状アルキル基が挙げられる。また、アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基およびナフチル基等が挙げられる。
【0035】
アルキル基またはアリール基が有する置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素)、ヒドロキシル基、炭素数1〜10(好ましくは炭素数1〜4)のアルキル基(鎖状および環状アルキル基)、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜5個のアシルオキシ基、カルボキシル基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数6〜10のアリール基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。なお、置換基として複数の鎖状の上記アルキル基がアリール基上に存在する場合、これら鎖状のアルキル基同士は互いに結合して環を構成してもよく、該環における炭素原子の1〜数個(好ましくは1〜3個)が酸素原子に置換されていてもよい。一例として、アリール基上の隣接する炭素原子上に位置するアルキル置換基同士が環を形成し、かつ2つの炭素原子が酸素原子で置換された1,3−ジオキソラン様の環構造を形成することが挙げられる。
【0036】
置換基として環状アルキル基を有するアルキル基としては、例えば、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロペンチルプロピル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基およびシクロヘキシルプロピル基等が挙げられる。また、置換基としてアリール基を有するアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフタレニルメチル基、ナフタレニルエチル基およびナフタレニルプロピル基等が挙げられる。
【0037】
また、アリール基は骨格の一部が窒素原子、酸素原子または硫黄原子等に置換されて複素環を形成してもよい。また、(a)、(b)、および(e)におけるベンゼン環上の複数の水素原子は互いに独立して置換基によって置換されていてもよい。したがって、(a)、(b)、および(e)の誘導体として、例えば、(a)、(b)、または(e)におけるベンゼン環上の水素原子(例えば1〜3個)が上記で置換基として列挙したものに置換されたものが挙げられる。
【0038】
フェニルチオ基は、細胞内に存在するGSH(グルタチオン)等の生体内チオール源によって還元され脱離する。ニトロベンジル基は、細胞内に存在するニトロレダクターゼによって還元され脱離する(参考文献:Bioorg. Med. Chem., 11, 2453)。エステルおよびチオカルボニルは、細胞内に存在するエステラーゼによって脱離する。アミドは、細胞内に存在するペプチダーゼによって脱離する。
【0039】
上記(a)〜(f)のような保護基によってホスホロチオエート基を保護すれば、当該ホスホロチオエート基は細胞外で実質的に脱保護されない。それゆえ、核酸鎖の断片を細胞外で混合しただけでは結合反応が起こらない。したがって、短い断片のまま1回の操作で細胞内に導入できる可能性が高まる。さらに、細胞内の存在する酵素またはペプチドによって脱保護反応が自然に起こるため、1回の操作で導入工程および生成工程の両方を行うことができる。
【0040】
ホスホロチオエート基を保護する保護基としては、上記の他に、光照射によって求核基から脱離するものが挙げられる。そのような保護基としては、例えば、下記の(g)〜(j)およびこれらの誘導体等が挙げられる(参考文献:Molecular Pharmaceutics, 2009, 6, 669)。
【0041】
【化3】
(g)〜(j)におけるR、Rおよびnは、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、RおよびRは互いに独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数、好ましくは(g)では1または2を表し、好ましくは(h)および(j)では1を表す。なお、nが2または3のとき、n個あるR同士は互いに異なっていてもよく、n個あるR同士は互いに異なっていてもよい。また、(g)〜(j)におけるベンゼン環上の複数の水素原子は互いに独立して置換基によって置換されていてもよい。したがって、(g)〜(j)の誘導体として、例えば、(g)〜(j)におけるベンゼン環上の水素原子(例えば1〜3個)が上記で置換基として列挙したものに置換されたものが挙げられる。
【0042】
上記(g)〜(j)のような保護基によってホスホロチオエート基を保護すれば、当該保護基の脱離に必要な波長の光を照射しない条件下において、当該ホスホロチオエート基は細胞外で実質的に脱保護されない。それゆえ、核酸鎖の断片を細胞外で混合しただけでは結合反応が起こらない。したがって、短い断片のまま1回の操作で細胞内に導入できる可能性が高まる。さらに、光照射のタイミングを制御することによって、所望のタイミングで脱保護反応を起こさせることができる。
【0043】
上記(g)またはその誘導体の具体例としては、例えば以下の基が挙げられる。
【0044】
【化4】
上記(h)の具体例としては、例えば以下の基が挙げられる。
【0045】
【化5】
上記(i)の具体例としては、例えば以下の基が挙げられる。
【0046】
【化6】
上記(j)の具体例としては、例えば以下の基が挙げられる。
【0047】
【化7】
ここで、上記保護基中のRおよびRは、互いに独立して、上記で示したアリール基上で置換されてもよい置換基を表す。
【0048】
ホスホロチオエート基を保護する保護基としては、上記の他に、細胞外から導入される物質によって脱離するものが挙げられる。そのような保護基としては、例えば、アジドベンジル基(k)およびこれの誘導体等が挙げられる。なお、アジドベンジル基は、o−アジドベンジル基、m−アジドベンジル基およびp−アジドベンジル基の何れでもよいが、反応性の観点からp−アジドベンジル基が好ましい。また、(k)におけるベンゼン環上の複数の水素原子は互いに独立して置換基によって置換されていてもよい。したがって、(k)の誘導体として、例えば、(k)におけるベンゼン環上の水素原子(例えば1〜3個)が上記で置換基として列挙したものに置換されたものが挙げられる。
【0049】
【化8】
アジドベンジル基は、ホスフィンを細胞内に導入することによって脱離する(参考文献:Bioconjugate, Chem. 2008, 19, 714)。ホスフィンは、膜透過性の観点から、水溶性ホスフィンであることが好ましい。
【0050】
上記(k)のような保護基によってホスホロチオエート基を保護すれば、当該ホスホロチオエート基は細胞外で実質的に脱保護されない。それゆえ、核酸鎖の断片を細胞外で混合しただけでは結合反応が起こらない。したがって、短い断片のまま1回の操作で細胞内に導入できる可能性が高まる。さらに、脱保護の作用物質(ホスフィン等)を細胞内に取り込ませるタイミングを制御することによって、所望のタイミングで脱保護反応を起こさせることができる。
【0051】
また、所定の条件下のみで互いに反応して結合する官能基対としては、上記した脱保護反応を利用するものの他に、ホスホロジエステル基とヨード基との組合せ(参考文献:J. Mol. Evol., 2003, 56, 607)が挙げられる。この組合せを用いる場合、臭化シアン(BrCN)を細胞内に導入することによって結合反応を起こすことができる。
【0052】
【化9】
さらに、上記官能基対としてアミノ基とアルデヒド基との組合せ(参考文献:J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 10144;J. Am. Chem. Soc., 1997, 1119, 12420)も挙げられる。この組合せを用いる場合、シアノホウ素化水素ナトリウム(NaCNBH)またはシアノホウ素化水素カリウム(KBHCN)を細胞内に導入することによって結合反応を起こすことができる。
【0053】
【化10】
さらに、上記官能基対としてアジド基とアルキニル基との組合せ(参考文献:PNAS, 2010, vol. 107, 15329-15334、ChemBioChem, 2011, 12, 125-131)が挙げられる。この組合せを用いる場合、銅を細胞内に導入することによって結合反応を起こすことができる。
【0054】
【化11】
なお、上記の化学式中で、糖は骨格部分のみを示しており、リボースであってもデオキシリボースであってもよい。また、化学式中のBは核酸を構成する各種の塩基を示す。すなわち、以上の例では、機能性核酸分子がRNA分子の場合を示しているが、DNA分子でも同様に構成することができる。
【0055】
なお、機能性核酸分子が2本の核酸鎖からなる場合、その少なくとも1本が2以上の断片となっていればよいが、2本ともが2以上の断片となっていることが好ましい。
【0056】
(核酸鎖の断片の作成方法)
上記官能基が末端に付された核酸鎖の「断片」の作製方法は特に限定されない。例えば、当該断片のオリゴヌクレオチドの部分は、in vitro transcription合成方法、プラスミドもしくはウイルスベクターを用いる方法、またはPCRカセットによる方法等によって合成することができる。純度の高さ、大量合成可能、in vivoでの使用安全性の高さ、および化学修飾可能等の観点から、化学合成方法が好ましい。化学合成方法としては、例えば、ホスホロアミダイト法、およびH−ホスホネート法等が挙げられ、市販の核酸合成機を使用することができる。
【0057】
また、オリゴヌクレオチドの3’末端および5’末端(対応する末端)に、所定の官能基および保護基を付する方法は、官能基の種類に応じた公知の方法に従い行えばよい。なお、官能基等の導入がより容易であるという観点では、「対応する末端」を構成する核酸は、「核酸鎖」の種類に係らず、デオキシリボ体の核酸が好ましく、dA、dG、dC、dTから選択されることがより好ましい。
【0058】
このように作製した断片は、in vivoでの使用安全性等の観点から、用途によっては、導入工程前に精製されることが好ましい。また、断片の細胞膜透過性を高めるために、当該断片に細胞膜透過性分子を結合させてもよい。このような分子としては、例えば、TATペプチド、オリゴアルギニン、PENETRATIN、およびTP-10等の膜透過性ペプチド;コレステロール;ビタミンA等が挙げられる。
【0059】
(核酸鎖の断片の好ましい設計の例)
上記機能性核酸分子が、その機能を発揮するために、核酸鎖内でハイブリダイズするか、または異なる核酸鎖間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を形成するものである場合、当該核酸鎖の断片は、当該断片同士の結合がハイブリダイズ領域で生じるように設計されることが好ましい。以下、図1に基づき、より具体的に説明する。
【0060】
図1は、機能性核酸分子としてのsiRNAの好ましい設計の一例を示す(実施例も参照)。この例において、siRNAは、第一のRNA鎖と第二のRNA鎖とがハイブリダイズするように構成されている。
【0061】
第一のRNA鎖は、3’末端にホスホロチオエート基(官能基対の一方)を付与された第一の断片(図中A)と、5’末端にヨードアセチル基(官能基対の他方)を付与された第二の断片(図中B)として与えられている。また、第二のRNA鎖は、3’末端にホスホロチオエート基(官能基対の一方)を付与された第三の断片(図中C)と、5’末端にヨードアセチル基(官能基対の他方)を付与された第四の断片(図中D)として与えられている。なお、ホスホロチオエート基は何れもフェニルチオ基(保護基)によって保護されている。
【0062】
第一のRNA鎖および第二のRNA鎖は、互いにずれた位置でそれぞれ2つの断片になるよう設計されている。すなわち、第一のRNA鎖を構成する第一の断片と第二の断片とは、何れも、隣り合うように第三の断片に対してハイブリダイズする。同様に、第二のRNA鎖を構成する第三の断片と第四の断片とは、何れも、隣り合うように第一の断片に対してハイブリダイズする。これにより、第一のRNA鎖および第二のRNA鎖の何れにおいても、官能基が付された対応する末端同士が近接して、生成工程における官能基同士の結合反応を効率的に起こすことができる。
【0063】
なお、図1では、第一のRNA鎖を構成する断片同士の結合と、第二のRNA鎖を構成する断片同士の結合とが、ハイブリダイズ領域の異なる箇所(互いにずれた位置)で生じるものを例示したが、例えば、図1において、第一のRNA鎖または第二のRNA鎖の一方のみが断片化されているものも、対応する末端同士を効率的に近接させることができる観点で好ましい断片化の一例である。
【0064】
また、図1では機能性核酸分子としてsiRNAを例示したが、この図で示した断片の設計は、核酸鎖内でハイブリダイズするか、または異なる核酸鎖間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を形成する機能性核酸分子に広く適用可能である。
【0065】
(導入工程)
導入工程は、機能性核酸分子を構成する上記「核酸鎖」のうちの少なくとも1本を、化学反応により相互結合する「官能基対」を「対応する末端」に付した2以上の「断片」の形態とした上で、当該機能性核酸分子を構成する全ての核酸鎖を細胞内に導入する工程である。なお、「核酸鎖」、「官能基対」、「対応する末端」、および「断片」の定義は上述の通りである。
【0066】
より具体的には、導入工程では、例えば、以下の1)〜3)の何れかの「核酸組合せ物」が細胞内に導入される。なお、「核酸組合せ物」とは、2以上の核酸分子を組み合わせたものを指し、これらは混合された組成物の形態をとっていてもよく、あるいは、別々の保存容器に保管されるなどして互いに隔離された(混合されていない)形態をとっていてもよい。
1)機能性核酸分子が1本の核酸鎖からなる場合、当該核酸鎖を構築するための2以上の上記「断片」。全ての核酸分子が略等量(個数)で含まれていることが好ましい。
2)機能性核酸分子が2本の核酸鎖からなる場合、うち1本の核酸鎖を構築するための2以上の上記「断片」と、他の1本の核酸鎖。全ての核酸分子が略等量(個数)で含まれていることが好ましい。
3)機能性核酸分子が2本の核酸鎖からなる場合、うち1本の核酸鎖を構築するための2以上の上記「断片」と、他の1本の核酸鎖を構築するための2以上の上記「断片」。全ての核酸分子が略等量(個数)で含まれていることが好ましい。
【0067】
核酸組合せ物の導入対象となる細胞は、特に限定されない。対象となる細胞は、原核細胞および真核細胞の何れでもよい。真核細胞としては、菌類、植物および動物等に由来する細胞が挙げられる。動物細胞としては、昆虫細胞等の非哺乳類細胞および哺乳類細胞が挙げられる。哺乳類細胞としては、マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、イヌ、およびネコ等の非ヒト動物の細胞またはヒトの細胞が挙げられる。また、細胞は、培養細胞でもよいし、生体細胞(生体内にある単離されていない細胞)でもよい。細胞の好ましい一例は、ヒトの培養細胞、ヒトの生体細胞、非ヒト病態モデル動物の培養細胞、非ヒト病態モデル動物の生体細胞である。
【0068】
核酸組合せ物の導入方法は特に限定されない。in vitroにおける導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、およびリン酸カルシウム法等が挙げられる。in vivoにおける導入方法としては、例えば、局所投与、静脈内投与、および遺伝子銃を用いる方法等が挙げられる。ヒトまたは非ヒト動物の生体に適用する場合、安全性の観点から微生物等を用いない方法が好ましい。また、in vivoにおける導入前に核酸組合せ物を含む試料を、透析またはpH調節等を行うことによって生体に適合するように調製することが好ましい。また、in vivoに適用する場合、必要に応じて、薬学的に許容可能な担体と組み合わせて薬学的組成物(例えば、リポソーム製剤等)を製造してもよい。
【0069】
また、核酸組合せ物を構成する核酸分子は、全てを混合して核酸組成物として一度の操作で細胞内に導入してもよいし、核酸分子毎に別々に細胞内に導入してもよい。また、核酸鎖を構築するための2以上の断片を、一度の操作で細胞内に導入してもよいし、それぞれを別々に細胞内に導入してもよい。
【0070】
(生成工程)
生成工程では、上記導入工程で核酸組合せ物を導入した細胞内で、上記「官能基対」を「対応する末端」に付した2以上の「断片」同士を結合させる。すなわち、官能基対の間で化学反応が進行して、「対応する末端」同士が結合(化学ライゲーション=非酵素的なライゲーション)されることで、「断片」として与えられていた核酸鎖が1本の連続した核酸鎖として構築される。あわせて、必要に応じて核酸鎖内または異なる核酸鎖間でハイブリダイゼーションのような相互作用を生じて、機能性核酸分子を生成する。
【0071】
上記の(核酸鎖の断片の好ましい設計の例)欄で説明したケースでは、図1に示すように、導入工程後に、ハイブリダイゼーションによる断片の適切な整列化、「官能基」の脱保護、および「官能基対」の間での化学反応の進行(化学ライゲーション)、が同時進行的に生じて、2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子が生成する。
【0072】
〔2.核酸組合せ物〕
(核酸組合せ物の概要)
本発明に係る機能性核酸分子の構築法に用いる核酸組合せ物(構築用核酸組合せ物)は、機能性核酸分子を構成する全ての上記「核酸鎖」を備えてなり、当該「核酸鎖」のうちの少なくとも1本が、化学反応により相互結合する「官能基対」を「対応する末端」に付した2以上の「断片」として含まれているものである。なお、「核酸組合せ物」の例示は、上記(導入工程)欄で説明した通りのものである。
【0073】
(核酸組合せ物の好ましい形態)
核酸組合せ物の好ましい形態では、上記「機能性核酸分子」は、上記「核酸鎖」内でハイブリダイズするか、または異なる「核酸鎖」間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を有し、上記「断片」同士の結合が、当該ハイブリダイズ領域で生じるように、上記「断片」が設計されている。
【0074】
核酸組合せ物のより好ましい形態では、上記「機能性核酸分子」を構成する、ハイブリダイズが可能な第一の「核酸鎖」および第二の「核酸鎖」を備えてなり、これら2本の「核酸鎖」は何れも、化学反応により相互結合する「官能基対」を「対応する末端」に付した2つの「断片」として含まれている。そして、「第一の核酸鎖」を構成する「断片」同士の結合と、「第二の核酸鎖」を構成する「断片」同士の上記結合とが、ハイブリダイズ領域の異なる箇所で生じるように、それぞれの断片が設計されている(図1および実施例も参照)。
【0075】
核酸組合せ物のさらに好ましい形態では、上記「機能性核酸分子」を構成する、ハイブリダイズが可能な「第一のRNA鎖」と「第二のRNA鎖」とを備えてなり、「第一のRNA鎖」は、化学反応により相互結合する「官能基対」を「対応する末端」に付した「第一の断片」と「第二の断片」として含まれている。また、「第二のRNA鎖」は、化学反応により相互結合する「官能基対」を「対応する末端」に付した「第三の断片」と「第四の断片」として含まれている。そして、「第一の断片」または「第二の断片」は、「第三の断片」および「第四の断片」の双方とハイブリダイズ可能であり、「第三の断片」または「第四の断片」は、「第一の断片」および「第二の断片」の双方とハイブリダイズ可能である((核酸鎖の断片の好ましい設計の例)欄、図1および実施例も参照)。
【0076】
(核酸組合せ物の応用)
本発明に係る核酸組合せ物は、その使用手順が記載された使用説明書(ただし、紙媒体はもとより、電子媒体に格納されたものも含み記録媒体は特に限定されない)とともにパッケージ化されていてもよい。当該使用説明書には、例えば、上記(導入工程)欄、(生成工程)欄で説明したような核酸組合せ物の使用説明が記載される。核酸組合せ物はその用途に応じて、医薬、または試薬キットでありうる。
【0077】
〔3.その他〕
(機能性核酸分子の構築法の応用)
核酸組合せ物は、マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、イヌ、およびネコ等の非ヒト動物の個体またはヒトの個体を治療するために用いてもよい。すなわち、非ヒト動物の個体またはヒトの個体に、核酸組合せ物を投与してもよい。投与方法は、上述のin vivoにおける導入方法として挙げたとおりである。
【0078】
また、マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ等の非ヒト動物の個体またはヒトの個体に対する核酸組合せ物の使用が提供される。また、核酸組合せ物が導入されている細胞が提供される。核酸組合せ物が導入されている細胞は、上述の核酸組合せ物を内部に保持している。核酸組合せ物が導入されている細胞は、その使用手順が記載された使用説明書(ただし、紙媒体はもとより、電子媒体に格納されたものも含み記録媒体は特に限定されない)とともにパッケージ化されていてもよい。当該使用説明書には、例えば、(生成工程)欄で説明したような細胞の使用説明が記載される。細胞はその用途に応じて、医薬、試薬キットであり得る。
【0079】
〔4.まとめ〕
以上のように、本発明は、以下のものを含んでいる。
1)1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子の構築法であって、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片を細胞内に導入する導入工程と、上記細胞内で上記官能基同士を反応させて断片同士を結合し、1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子を生成する生成工程と、を含む方法。
2)上記機能性核酸分子は、上記核酸鎖内でハイブリダイズするか、または異なる核酸鎖間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を有し、上記断片同士の上記結合が、上記ハイブリダイズ領域で生じるように、上記断片が設計されている、1)に記載の方法。3)上記機能性核酸分子は第一の核酸鎖および第二の核酸鎖の2本の上記核酸鎖からなり、かつ異なる核酸鎖間でハイブリダイズしてなる上記ハイブリダイズ領域を有し、上記2本の核酸鎖は何れも、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2つの断片として細胞内に導入されるものであり、上記第一の核酸鎖を構成する断片同士の上記結合と、上記第二の核酸鎖を構成する断片同士の上記結合とが、上記ハイブリダイズ領域の異なる箇所で生じる、2)に記載の方法。
4)上記機能性核酸分子は、上記第一の核酸鎖としての第一のRNA鎖と、上記第二の核酸鎖としての第二のRNA鎖とからなり、上記第一のRNA鎖は、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した第一の断片と第二の断片として細胞内に導入されるものであり、上記第二のRNA鎖は、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した第三の断片と第四の断片として細胞内に導入されるものであり、上記第一の断片または第二の断片は、上記第三の断片および第四の断片の双方とハイブリダイズ可能であり、上記第三の断片または第四の断片は、上記第一の断片および第二の断片の双方とハイブリダイズ可能である、3)に記載の方法。
5)上記機能性核酸分子は、細胞内でRNA干渉作用を有する、1)〜4)の何れかに記載の方法。
6)上記化学反応により相互結合する官能基対は、求電子基と、保護基によって保護されている求核基との組合せである、1)〜5)の何れかに記載の方法。
7)上記求核基は、ホスホロチオエート基である、6)に記載の方法。
8)上記求電子基は、ヨードアセチル基、ブロモアセチル基またはヨード基である、6)または7)に記載の方法。
9)上記保護基は、上記細胞中の内因性物質、または光照射によって脱離する、6)〜8)の何れかに記載の方法。
10)上記求核基がホスホロチオエート基である場合、上記保護基が下記(a)〜(k)の何れかである、6)、8)または9)に記載の方法。
【0080】
【化12】
(なお、上記式中で、R、R’およびR”は置換または非置換のアルキル基またはアリール基を表す。RおよびRは互いに独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。なお、nが2または3のとき、n個あるR同士は互いに異なっていてもよく、n個あるR同士は互いに異なっていてもよい。また、(a)、(b)、(e)、(g)、(h)、(i)、(j)、および(k)中のベンゼン環上の複数の水素原子は互いに独立して置換基によって置換されていてもよい。)
11)上記1)〜10)の何れかに記載の方法に用いる核酸組合せ物であって、機能性核酸分子を構成する上記核酸鎖を備えてなり、当該核酸鎖のうちの少なくとも1本が、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片として含まれている、機能性核酸分子の構築用核酸組合せ物。
12)上記機能性核酸分子は、上記核酸鎖内でハイブリダイズするか、または異なる核酸鎖間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を有し、上記断片同士の上記結合が、上記ハイブリダイズ領域で生じるように、上記断片が設計されている、11)に記載の核酸組合せ物。
13)上記機能性核酸分子を構成する、ハイブリダイズが可能な第一の核酸鎖および第二の核酸鎖の2本の上記核酸鎖を備えてなり、上記2本の核酸鎖は何れも、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2つの断片として含まれており、上記第一の核酸鎖を構成する断片同士の上記結合と、上記第二の核酸鎖を構成する断片同士の上記結合とが、上記ハイブリダイズ領域の異なる箇所で生じるように、上記断片が設計されている、12)に記載の核酸組合せ物。
14)上記機能性核酸分子を構成する、上記第一の核酸鎖としての第一のRNA鎖と、上記第二の核酸鎖としての第二のRNA鎖とを備えてなり、上記第一のRNA鎖は、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した第一の断片と第二の断片として含まれており、上記第二のRNA鎖は、化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した第三の断片と第四の断片として含まれており、上記第一の断片または第二の断片は、上記第三の断片および第四の断片の双方とハイブリダイズ可能であり、上記第三の断片または第四の断片は、上記第一の断片および第二の断片の双方とハイブリダイズ可能である、13)に記載の核酸組合せ物。
【0081】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0082】
〔1.RNAの調製〕
(RNAの設計および合成)
ルシフェラーゼ遺伝子の発現を抑制するsiRNA1(図2の(a);配列番号1および2)をもとに、センス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ3’−PS(ホスホロチオエート) RNAおよび5’−アミノ RNAに分割してRNAの合成を行った(図2の(b);配列番号3および4)。
【0083】
3’−PS RNAおよび5’−アミノ RNAは、全てホスホロアミダイト法に基づきDNA合成機(GeneWorld H8-SE)を用いて合成した。アミダイト試薬としては、RNAには2’−O−TOM保護体(Glen Research)を用い、3’末端のリン酸化には3’−Phosphate CPG(Glen Research)およびSulfurizing Reagent(Glen Research)を用いた。また、5’−末端のアミノdTの導入には、5’−Amino dT Phosphoroamidite(Glen Research)を用いた。RNAの脱保護は定法に従い、3’−PS RNAおよび5’−アミノ RNAは粗精製のまま次の反応に用いた。
【0084】
(合成したRNAの化学修飾)
上記で合成したセンス鎖およびアンチセンス鎖における3’−PS RNAをジフェニルジスルフィドと反応させることによってCaged 3’−PS RNAを合成した(図2の(c))。なお、3’末端のジスルフィド結合は細胞内に導入後、GSHなどの生体内チオール源によって脱離が進行する。3’−PS RNAのジスルフィド化は、表1の組成で調製した混合液を室温で6時間インキュベートすることによって行った。
【0085】
【表1】
また、センス鎖およびアンチセンス鎖における5’−アミノ RNAをヨード酢酸N−スクシンイミジルと反応させることによってヨードアセチルRNAを合成した(図2の(d))。5’−アミノRNAのヨードアセチル化は、表2の組成で調製した混合液を室温で2時間インキュベートすることによって行った。
【0086】
【表2】
(比較のために用いるRNAの調製)
非修飾siRNA(25mer:図2の(a)に示す配列)を3’−PS RNAおよび5’−アミノ RNAの合成と同様に、ホスホロアミダイト法に基づきDNA合成機(GeneWorld H8-SE)を用いて合成し、変性ポリアクリルアミドゲルによって完全鎖長の生成物を精製した。
【0087】
また、センス鎖およびアンチセンス鎖における5’−アミノ RNAを酢酸ナトリウムと反応させることによって、3’−PS RNAとの反応性を有さないアセチルRNAを合成した(図2の(e))。5’−アミノRNAのアセチル化は、表3の組成で調製した混合液を室温で2時間インキュベートすることによって行った。
【0088】
【表3】
さらに、3’−PS RNAとヨードアセチルRNAとがライゲーションした場合に生成するligated siRNAについても、3’−PS RNAとヨードアセチルRNAとをin vitro(無細胞系)においてライゲーションすることによって合成した(図2の(f);配列番号5および6)。
【0089】
上記で合成したCaged 3’−PS RNA、ヨードアセチルRNA、アセチルRNA、およびligated siRNAを、HPLC(B.conc.0〜40%、A液:50mM TEAA、5% アセトニトリル in HO、B液:100% アセトニトリル)によって解析し精製した。その後、Sep−Pakカートリッジを用いて脱塩(50%アセトニトリル水 6mLによって溶出)し、遠心エバポレーターを用いて濃縮した。得られたRNAを超純水に溶解し、適宜希釈後UV吸収スペクトルを測定し、溶液濃度を定量した。
【0090】
〔2.in vitro(無細胞系)におけるライゲーションの確認〕
(方法)
in vitroにおいて、Caged 3’−PS RNAとヨードアセチルRNAとのライゲーションが行われることを確認するために、表4の組成で反応を行った。表4中のレーン5はGSHを添加していないコントロールである。
【0091】
【表4】
なお、HBSSの組成は、1.8mM CaCl,0.49mM MgCl,0.41mM MgSO,pH7.4である。
【0092】
上記混合液を37℃で30分間インキュベートした後、ローディングバッファー(100% ホルムアミド、0.5% XC)を加え、90℃で5分間インキュベーションした。反応液を20%変性アクリルアミドゲルで泳動し、CYBR Green IIで30分間染色することによって分析した。マーカーとして、レーン1には25merのRNA鎖、レーン2には19merのCaged 3’−PS RNA(センス鎖)、レーン3には18merのCaged 3’−PS RNA(アンチセンス鎖)を同様にロードした。
【0093】
(結果)
泳動の結果を図3に示す。3’−PS RNAとヨードアセチルRNAとのライゲーションが進行し、25merのRNA鎖が生成したことが確認できた(レーン4)。
【0094】
また、センス鎖のみのCaged 3’−PS RNA4μLおよびヨードアセチルRNA4μLにGSH2μLを加えて同様にライゲーション反応させた場合でも、25merの一本鎖のRNA鎖が生成した。
【0095】
〔3.哺乳動物培養細胞系を用いたRNA干渉効果の測定1〕
(方法)
HeLa−Luc細胞(Caliper(PerkinElmer company)から購入)を10% FBSを含むDMEM(Wako製)培地中、37℃、5%CO下で培養し、96穴プレートに、100μLずつ、4.0×10cells/ウェルとなるよう分注した。さらに37℃、5%CO下で24時間培養し、約60%コンフルエントの状態で各種RNA(センス鎖およびアンチセンス鎖の3’−PS RNAおよびヨードアセチルRNA)をトランスフェクション試薬Gene Silencer(Genlantis製)を用い、トランスフェクション試薬添付のプロトコールに従いコトランスフェクションした。RNAの濃度は、25、50または100nMとした。
【0096】
具体的には、細胞に50μLのHBSS(+)を加えた状態で、下記のトランスフェクション用混合溶液を添加することで行った。トランスフェクション用混合溶液の組成は表5の通りである。
【0097】
【表5】
トランスフェクション後、37℃、5%CO下で6時間インキュベートし、メディウムを10% FBSを含むDMEM培地へと交換した。37℃でさらに18時間インキュベート後、Luciferase Assay System(プロメガ製)を用い、添付のプロトコールに従いルシフェラーゼ発現量を定量した(条件:試薬量50μL、delay time 2秒、read time10秒、機器:Muthras LB 940(BERTHOLD製))。
【0098】
比較として、スクランブル(25nM)、非修飾siRNA(25nM)、ligated siRNA(25nM)、Caged 3’−PS RNA+アセチルRNA(25nM、50nMまたは100nM)、Caged 3’−PS RNAのみ(100nM)、ヨードアセチルRNAのみ(100nM)、およびアセチルRNAのみ(100nM)を上記と同様にトランスフェクションし、ルシフェラーゼ発現量を定量した。
【0099】
(結果)
ルシフェラーゼ遺伝子の発現の結果を図4に示す。non−ligatedなCaged 3’−PS RNAとヨードアセチルRNA(IA)とを細胞内に導入した場合には、ルシフェラーゼ遺伝子の発現が低く、十分な阻害活性が観察された。一方、non−ligatedなCaged 3’−PS RNAとアセチルRNA(Ac)とを導入した場合には阻害活性が観察されなかった。この結果は、細胞内で3’−PS RNAとヨードアセチルRNAとのライゲーション反応によって、ligated siRNAが生成し、遺伝子発現を抑制したことを示唆している。
【0100】
このように、機能性RNAを断片として細胞内に導入し、細胞内で機能性RNAを構築することが可能であることが明らかとなった。
【0101】
〔4.哺乳動物培養細胞系を用いたRNA干渉効果の測定2(浸透圧ショックによるトランスフェクション)〕
(方法)
HeLa−Luc細胞を10% FBSを含むDMEM(Wako製)培地中、37℃、5%CO下で培養し、約60%コンフルエントの状態で回収し、PBSで洗浄した。次いで、hypertonic bufferと各種RNA(センス鎖およびアンチセンス鎖の3’−PS RNAおよびヨードアセチルRNA)との混合液(10μL)で細胞を懸濁し、37℃で10分間インキュベートした。そこへ滅菌水(52.9μL)を加え、さらに37℃で10分間インキュベーションした。その後、細胞を回収し、PBSで洗浄した。次いで、回収した細胞を10% FBSを含むDMEM(400μL)で懸濁し、96穴プレートに100μLずつ分注した。hypertonic bufferの組成は、2.1M スクロース、7.5%PEG(2000)、150mM HEPES(pH7.3)in HBSS bufferである。hypertonic bufferと各種RNAとの混合液(10μL)の組成は表6の通りである。
【0102】
【表6】
トランスフェクション後、37℃、5%CO下で24時間インキュベートし、Luciferase Assay System(プロメガ製)を用い、添付のプロトコールに従いルシフェラーゼ発現量を定量した(条件:試薬量30μL、delay time 2秒、read time 10秒、機器:Muthras LB 940(BERTHOLD製))。また、BCA protein assay kit(Thermo Scientific製)を用い、添付のプロトコールに従いタンパク量を定量し、ルシフェラーゼ発現量を補正した。
【0103】
比較として、スクランブル、および非修飾siRNAを上記と同様にトランスフェクションし、ルシフェラーゼ発現量を定量および補正した。
【0104】
(結果)
ルシフェラーゼ遺伝子の発現の結果を図5に示す。non−ligatedなCaged 3’−PS RNAとヨードアセチルRNA(IA)とを細胞内に導入した場合には、非修飾siRNAを細胞内に導入した場合と比較して、ルシフェラーゼ遺伝子の発現が低く、より阻害されていることがわかった。この結果は、siRNAをCaged 3’−PS RNAとIAとに断片化して導入することによって、細胞膜透過性が向上したことを示唆している。
【0105】
このように、機能性RNAを断片として細胞内に導入することで、細胞膜透過性を向上させ、より多量の機能性RNAを細胞内に効率的に導入することが可能であることが明らかとなった。
【0106】
〔5.哺乳動物培養細胞系を用いた免疫応答測定〕
(方法)
T98G細胞(理化学研究所バイオリソースセンターから入手)を10% FBSを含むRPMI−1640(Wako製)培地中、37℃、5%CO下で培養し、24穴プレートに、300μLずつ、4.0×10cells/ウェルとなるよう分注した。さらに37℃、5%CO下で24時間培養し、約70%コンフルエントの状態で各種RNA(センス鎖およびアンチセンス鎖の3’−PS RNAおよびヨードアセチルRNA)をトランスフェクション試薬lipofectamine 2000(invitrogen製)を用い、トランスフェクション試薬添付のプロトコールに従いコトランスフェクションした。比較として、RNAなし、ポリI:C、非修飾siRNAを同様にトランスフェクションした。RNAの濃度は100nM(final volume 300μL)とした。トランスフェクション用混合溶液の組成は表7の通りである。
【0107】
【表7】
トランスフェクション後、37℃、5%CO下で6時間インキュベートし、20% Serumを含むRPMI−1640培地 300μLを各ウェルに加えた。37℃でさらに18時間インキュベート後、ISOGEN(ニッポン・ジーン製)を用い、添付のプロトコールに従って、total RNAを回収した。回収したRNAおよびOne Step PrimeScript(登録商標) RT-PCR Kit (Perfect Real Time)(Takara製)を用いて、IFN−βおよびβ−Actinの発現量を測定した。得られた結果からΔΔCt法を用いて、IFN−β発現量をβ−Actin発現量で補正し、相対的なIFN−β発現量を算出した。リアルタイムPCRに使用した反応液の組成は表8の通りである。また、リアルタイムPCRの反応条件は表9の通りである。
【0108】
【表8】
【0109】
【表9】
(結果)
結果を図6に示す。RNAをトランスフェクションしなかったNegative Control(NC)と比較して、siRNAまたはポリI:Cを細胞内に導入した場合にはIFN−βの発現量の増加が確認された。一方、non−ligatedなCaged 3’−PS RNAとヨードアセチルRNA(IA)とを細胞内に導入した場合には、IFN−βの発現量の変化は観察されなかった。この結果は、siRNAを断片として細胞内に導入することで、断片化されていないsiRNAによって誘導される免疫応答を回避可能であることを示している。
【0110】
このように、機能性RNAを断片として細胞内に導入することで、断片化されていない機能性RNAによって誘導される免疫応答を回避可能であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、機能性核酸分子を用いた医薬および試薬等の分野に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]