(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)前記ヒートスプレッダに取り付けられた外部抵抗ヒータおよび外部温度センサーと、(ii)少なくとも1つの埋め込み温度センサーとをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
前記異方性熱伝導材料が、グラファイト、グラフェン、天然由来もしくは合成由来のダイヤモンド、またはカーボンナノチューブ(CNT)から成る群から選択される、請求項13に記載のシステム。
前記ヒートスプレッダが、相互接続の熱伝導性を増加させるナノ粒子またはマイクロ粒子を含む材料を使用して、前記マイクロ流体デバイスに固着される、請求項1に記載のシステム。
前記ナノ粒子またはマイクロ粒子が、銀、金、アルミニウムおよびその合金、銅およびその合金、亜鉛、錫、鉄、CNT、グラファイト、天然ダイヤモンド、人工ダイヤモンド、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、ならびに酸化ベリリウムを含む群から選択される、請求項25に記載のシステム。
前記加熱手段が、ペルチェ・デバイス、高温のガスもしくは流体との接触、光子線、レーザー、赤外線、および他の形態の電磁放射から成る群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【背景技術】
【0004】
核酸の検出は、医学、法科学、生産加工、作物および動物育種、ならびに他の多くの分野の中核を成す。疾病状態(例えば、がん)、感染性の微生物(例えば、HIV)、遺伝系統、遺伝標識などを検出する能力は、疾病の診断および予後、マーカー利用選抜、犯罪現場の特徴の識別、工業用微生物の伝播能力、ならびに他の多くの技術のためのユビキタス技術である。対象となる核酸の完全性の決定は、感染またはがんの病理学に関連する可能性がある。
【0005】
少量の核酸を検出する最も効果的かつ基本的な技術の1つは、核酸配列の一部または全体を多数回複製し、次に増幅産物を分析するというものである。ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)は、デオキシリボ核酸(DNA)を増幅するための周知の技術である。PCRを用いて、単一テンプレートDNA分子から始まる数百万のDNAコピーを生成することができる。PCRは、「変性」、「アニーリング」、および「伸長」の段階を含む。これらの段階は、多数回繰り返されるサイクルの一部であるので、プロセスの終了時には、検出され分析される十分な数のコピーが存在する。PCRに関する全般的な詳細については、Sambrook and Russell,Molecular Cloning−−A Laboratory Manual(3rd Ed.),Vols.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(2000)、Current Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel et al.,eds.,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,(supplemented through 2005)、ならびにPCR Protocols A Guide to Methods and Applications,M.A.Innis et al.,eds.,Academic Press Inc.San Diego,Calif.(1990)を参照されたい。
【0006】
変性、アニーリング、および伸長というPCRプロセスの段階は、異なる温度で生じ、標的DNA分子サンプルにそれら自体を複製させる。温度サイクリング(熱サイクリング)の要件は、特定の核酸サンプルおよびアッセイに応じて変わる。変性段階で、二本鎖DNA(dsDNA)が熱的に分離されて一本鎖DNA(ssDNA)となる。アニーリング段階で、プライマーが一本鎖DNA分子に付着される。一本鎖DNA分子は、PCR溶液中のヌクレオチドと一本鎖DNAとの間の特異的結合を通して、伸長段階で再び二本鎖DNAへと成長する。一般的な温度は、変性の場合は95℃、アニーリングの場合は55℃、伸長の場合は72℃である。温度は、各段階において、数分の一秒〜数十秒であってもよい特定の時間量の間保持される。DNAは各サイクルで二重にされ、一般に、特定の用途に十分なDNAを生成するには20〜40サイクルを要する。標的の産物の良好な収率を得るためには、異なる段階におけるサンプル温度を指定の温度に精密に制御しなければならない。
【0007】
さらに最近は、例えば、マイクロ流体デバイス内での増幅反応を伴うもの、ならびに増幅した核酸をデバイス内またはデバイス上で検出し分析する方法といった、PCRおよび他の増幅反応を行うための多数の高スループットの方策が開発されてきている。増幅のためのサンプルの熱サイクリングは、通常、2つの方法のうち1つで遂行される。第1の方法では、従来のPCR機器に非常に類似して、サンプル溶液をデバイスに取り込み、温度を時間内に循環させる。第2の方法では、温度帯域を空間的に変動させることによって、サンプル溶液を継続的に給送する。例えば、Lagally et al.(Analytical Chemistry 73:565−570(2001))、Kopp et al.(Science 280:1046−1048(1998)、Park et al.(Analytical Chemistry 75:6029−6033(2003))、Hahn et al.(WO2005/075683)、Enzelberger et al.(米国特許第6,960,437号)、ならびにKnapp et al.(米国特許出願公開第2005/0042639号)を参照されたい。
【0008】
多くの検出方法は、DNAを特性決定するために、元のDNA分子のコピーを定められた多数個(例えば、数百万個)必要とする。所望のコピー数に対してサイクルの合計数が固定されるので、プロセス時間を低減する唯一の手法はサイクルの長さを低減することである。したがって、合計のプロセス時間は、サンプルをプロセス段階の温度まで迅速に加熱および冷却する一方で、プロセス段階の持続時間の間それらの温度を精密に維持することによって、大幅に低減することができる。
【0009】
融解分析の技術は、増幅に続いて核酸分子を分析するための標準的なツールになってきている。融解分析は、高分解能融解(FIRM)、熱融解、および融解曲線分析といった分野でも言及されており、増幅の変性段階の原理に依存している。つまり、二本鎖DNA(dsDNA)が高温に晒されるにつれて、特定の温度でdsDNAは一本鎖DNA(ssDNA)へと分離され、それによって、光検出し分析することができる蛍光マーカーなど、任意の結合検出剤が放出される。これらの技術は広く使用されているが、ほとんどのシステムは、サンプルが挿入されて、加熱空気を通してサンプル・チューブ/毛細管を回転させるか、または勾配に沿った位置に基づいてサンプルを異なる温度に晒す温度勾配を確立する、ヒータブロックに依存する。したがって、温度測定は、ヒータブロック、空気、または温度勾配の両端の測定に基づく。
【0010】
例えば、Idaho Technology,Inc.およびUniversity of Utah Research Foundationによる米国特許第7,785,776号は、第19欄において、「円筒状の毛細管がアルミニウム製のシリンダによって完全に取り囲まれているため、高分解能機器は、より高いサンプル中の温度均一性をも担保する」ことを記載している。
【0011】
同様に、University of Utah Research Foundationによる米国特許第7,582,429号は、第3段落において、「様々なタイプのサーモサイクラーがPCRを行うことについて文献で説明されてきた。本発明の実施形態とともに採用されてもよいHRMを備えた一部のタイプのサーモサイクラーとしては、AB7300、HR−1TM、LightCycler 480(登録商標)、Master Cycler(登録商標)、LightScanner(登録商標)、およびRotorGene(商標)が挙げられるが、それらに限定されない。これらの機器はそれぞれ、一般的に、リアルタイムPCR反応およびその後に続くHRMを提供する。」として、融解能力を備えた多数の市販機器の概略を提供している。しかし、これらのデバイスはそれぞれ、チューブもしくは毛細管が挿入されるヒータブロックを使用するか、またはRotor−Gene Qなどのように空気中で回転される毛細管を特徴とする。
【0012】
さらに、University of Utah Research Foundationによる米国特許出願第12/514,671号は、空間的温度勾配(即ち、温度が意図的に非均一にされる)に基づいた融解分析の一般的な代替の構成について説明している。
【0013】
融解温度または曲線形状の小さな変化を精密に区別することができるような、十分に再現可能な融解曲線を作り出す、高スループットのデバイスが望ましい。具体的には、これらの融解曲線を作り出す加熱システムは、融解曲線の小さな変化が、単に加熱システムの望ましくない偏差ではなく、対象サンプルにおける偏差(即ち、突然変異)に帰することができる、高い再現性を有さなければならない。
【0014】
当該分野は、大型の固定ヒータブロックを使用して、対象サンプルを並列処理するための方法について説明している。スループットは、固定数の対象サンプルを保持し、ゆっくりと加熱されるヒータブロックのサイズによって制限される。加熱ブロックが大きいと、温度の非均一性によって再現性も劣る。毛細管に基づくものを含む他の方策は、スループットと再現性との間の均衡の点で同様の欠点を有する。
【0015】
したがって、当該分野において、各サンプルを制御された均一な温度プロファイルに晒す高スループットのシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、核酸の解離挙動の分析および核酸の識別に有用なマイクロ流体デバイスを含む、マイクロ流体デバイスのための方法およびシステムに関する。より具体的には、本発明の実施形態は、核酸の変性データの分析を含む、マイクロ流体デバイスを加熱するための方法およびシステムに関する。さらに、本発明の実施形態は、マイクロ流体デバイス用加熱システムを校正するための方法およびシステムに関する。
【0019】
一実施形態では、本発明は、マイクロ流体デバイス用加熱システムであって、1つもしくは複数の液溜めまたは流路を有するマイクロ流体デバイスと、前記マイクロ流体デバイス上に配設された液溜めまたは流路がヒートスプレッダと熱的に連通するようにしてマイクロ流体デバイスに固着されるヒートスプレッダと、ヒートスプレッダを加熱するための加熱手段と、1つもしくは複数の温度センサーを備える、流路または液溜めの1つもしくは複数の温度を測定するための測定手段とを備える、加熱システムを提供する。この実施形態によれば、測定手段は、マイクロ流体デバイス内に埋め込まれた温度センサーおよびマイクロ流体デバイスの外部の温度センサーを含む群から選択された、1つもしくは複数の温度センサーを含む。一実施形態では、1つまたは複数の外部センサーは、マイクロ流体デバイス上の温度帯域の熱キャパシタンスに合致する熱キャパシタンスを有する。さらなる実施形態では、埋め込みセンサーは、1つもしくは複数の液溜めまたは流体流路内のサンプルとの直接接触を防ぐように不活性化される。別の実施形態では、不活性化材料は、ガラス、二酸化シリコン、窒化シリコン、シリコン、ポリシリコン、パリレン、ポリイミド、カプトン、またはベンゾシクロブテン(BCB)のうち1つもしくは複数を含む。
【0020】
一実施形態では、システムは外部抵抗ヒータをさらに備える。さらなる実施形態では、システムは、(i)ヒートスプレッダに取り付けられた外部抵抗ヒータおよび外部温度センサーと、(ii)少なくとも1つの埋め込み抵抗温度検出器(RTD)とをさらに備える。さらなる別の実施形態では、少なくとも1つの埋め込みRTDは、温度センサーおよびヒータの両方として作用する。一実施形態では、少なくとも1つのRTDおよびヒートスプレッダは、マイクロ流体デバイス上で空間的に離れて位置する。別の実施形態では、少なくとも1つのRTDは、少なくとも部分的にヒートスプレッダの下方に位置する。
【0021】
一実施形態では、ヒートスプレッダは少なくとも一方向で対称である。別の実施形態では、ヒートスプレッダは、異方性熱伝導材料から、または異方性熱伝導材料を含む複合材料から作られる。さらなる実施形態では、異方性熱伝導熱界面材料は、ヒートスプレッダをマイクロ流体デバイスに接続する。さらに別の実施形態では、異方性熱伝導材料は、グラファイト、グラフェン、天然由来もしくは合成由来のダイヤモンド、またはカーボンナノチューブ(CNT)から成る群から選択される。別の実施形態では、異方性熱伝導材料は、最も高い熱伝導性を示すその配向が、1つもしくは複数の液溜めまたは流路がマイクロ流体デバイス上に配設される向きと整列されるようにして構成される。
【0022】
別の実施形態では、システムは、1つまたは複数のセンサーを取り付けるための1つまたは複数の陥凹部を含むヒートスプレッダをさらに備える。さらなる実施形態では、ヒートスプレッダ上に位置する少なくとも1つの温度センサーの上に絶縁体が存在する。一実施形態では、ヒートスプレッダは、高圧を加えることによってマイクロ流体デバイスに固着される。さらなる実施形態では、高圧は、空気圧、ばねアセンブリ、打込みねじ、または自重によって発生する。さらに別の実施形態では、ヒートスプレッダは、マイクロ流体デバイスに恒久的に固着される。一実施形態では、恒久的な接合はシアノアクリレート系接着剤を用いて作られる。
【0023】
一実施形態では、ヒートスプレッダは、相互接続の熱伝導性を増加させるナノ粒子またはマイクロ粒子を含む材料を使用して、マイクロ流体デバイスに固着される。別の実施形態では、ナノ粒子またはマイクロ粒子は、銀、金、アルミニウムおよびその合金、銅およびその合金、亜鉛、錫、鉄、CNT、グラファイト、天然ダイヤモンド、人工ダイヤモンド、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、ならびに酸化ベリリウムを含む群から選択される。
【0024】
別の実施形態では、システムは、ヒートスプレッダあるいは1つもしくは複数の流体流路または液溜めの温度を調節する冷却手段をさらに備える。一実施形態では、冷却手段は、1つもしくは複数の流体流路または液溜めの中に存在するサンプルからの熱損失を制限するように構成される。別の実施形態では、冷却手段は、熱損失を制限することによって、温度帯域内の温度の均一性を改善する。さらなる実施形態では、冷却手段はPWMファンまたはブロワーである。
【0025】
一実施形態では、本発明は、マイクロ流体デバイス上で起こる核酸融解分析を行うために構成されたシステムを提供する。別の実施形態では、核酸融解分析の前にDNAの増幅がマイクロ流体デバイス上で起こる。さらなる実施形態では、核酸融解分析は、マイクロ流体デバイス上に提供される生体サンプルの遺伝子型を決定する。
【0026】
本発明の1つの態様では、1つもしくは複数の流体流路または液溜めを有し、マイクロ流体デバイスと熱接触している熱伝導性のヒートスプレッダを有するマイクロ流体デバイスを提供することと、ヒートスプレッダの温度を上昇させて、マイクロ流体デバイス上にほぼ均一な温度帯域を作り出すため、加熱手段を使用することと、ヒートスプレッダあるいは1つもしくは複数の流体流路または液溜めの温度を決定するため、測定手段を使用することとを含む、マイクロ流体デバイスを均一に加熱する方法が提供される。
【0027】
一実施形態では、測定手段は、マイクロ流体デバイス内に埋め込まれた温度センサー、およびマイクロ流体デバイスの外部の温度センサーを含む群から選択された、1つまたは複数の温度センサーを含む。別の実施形態では、ヒートスプレッダは、1つまたは複数の温度センサーを取り付けるための1つまたは複数の陥凹部を含む。さらなる実施形態では、ヒートスプレッダ上に位置する少なくとも1つの温度センサーの上に絶縁体が存在する。一実施形態では、外部温度センサーはマイクロ流体デバイスまたはヒートスプレッダと接触している。別の実施形態では、温度センサーは加熱手段をさらに制御する。
【0028】
一実施形態では、マイクロ流体デバイスは外部抵抗ヒータをさらに備える。さらなる実施形態では、マイクロ流体デバイスは、(i)ヒートスプレッダに取り付けられた外部抵抗ヒータおよび外部温度センサーと、(ii)少なくとも1つの埋め込み抵抗温度検出器(RTD)とをさらに備える。さらなる別の実施形態では、少なくとも1つの埋め込みRTDは、温度センサーおよびヒータの両方として作用する。一実施形態では、少なくとも1つのRTDおよびヒートスプレッダは、マイクロ流体デバイス上で空間的に離れて位置する。別の実施形態では、少なくとも1つのRTDは、少なくとも部分的にヒートスプレッダの下方に位置する。
【0029】
一実施形態では、方法は、得られた温度測定値に応答して、ヒートスプレッダあるいは1つもしくは複数の流体流路または液溜めの温度を調節するため、冷却手段を使用するステップをさらに含む。一実施形態では、冷却手段は、1つもしくは複数の流体流路または液溜めの中に存在するサンプルからの熱損失を制限するように構成される。別の実施形態では、冷却手段は、熱損失を制限することによって温度帯域内の温度の均一性を改善する。さらなる実施形態では、冷却手段はPWMファンまたはブロワーである。
【0030】
別の実施形態では、温度センサーは、ヒートスプレッダに取り付けられた少なくとも1つの交換可能な外部センサーを含む。さらなる実施形態では、ヒートスプレッダは少なくとも一方向で対称である。一実施形態では、ヒートスプレッダは、異方性熱伝導材料から、または異方性熱伝導材料を含む複合材料から作られる。別の実施形態では、異方性熱伝導熱界面材料は、ヒートスプレッダをマイクロ流体デバイスに接続する。さらなる実施形態では、異方性熱伝導材料は、グラファイト、グラフェン、天然由来もしくは合成由来のダイヤモンド、またはカーボンナノチューブ(CNT)から成る群から選択される。さらなる別の実施形態では、異方性熱伝導材料は、最も高い熱伝導性を示すその配向が、1つもしくは複数の液溜めまたは流路がマイクロ流体デバイス上に配設される向きと整列されるようにして構成される。
【0031】
一実施形態では、ヒートスプレッダは、高圧を加えることによってマイクロ流体デバイスに固着される。別の実施形態では、ヒートスプレッダは、マイクロ流体デバイスに恒久的に固着される。さらなる実施形態では、恒久的な接合はシアノアクリレート系接着剤を用いて作られる。別の実施形態では、ヒートスプレッダは、相互接続の熱伝導性を増加させるナノ粒子またはマイクロ粒子を含む材料を使用して、マイクロ流体デバイスに固着される。さらに別の埋め込みでは、ナノ粒子またはマイクロ粒子は、銀、金、アルミニウムおよびその合金、銅およびその合金、亜鉛、錫、鉄、CNT、グラファイト、天然ダイヤモンド、人工ダイヤモンド、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、ならびに酸化ベリリウムを含む群から選択される。
【0032】
一実施形態では、方法は、加熱手段を校正することをさらに含み、加熱手段の校正は、滑らかな加熱プロファイルが存在するかを判断するため、ヒートスプレッダと接触している少なくとも1つのセンサーからの温度データを分析することと、必要であれば滑らかな加熱プロファイルを得るように加熱手段を調節することとを含む。別の実施形態では、加熱手段の校正は、マイクロ流体デバイスの外部にあってマイクロ流体と熱的に連通している温度センサーの動的応答を監視するため、マイクロ流体デバイス上に埋め込まれた1つまたは複数のセンサー素子からのデータを分析することを含む。一実施形態では、加熱手段の校正は、既知の熱的特性を有する対照サンプルを1つもしくは複数の流体流路または液溜めに導入することをさらに含む。別の実施形態では、既知の熱的特性は核酸の融解温度であり、および対照サンプルが野生型DNA、単位複製配列、オリゴヌクレオチドあるいはそれの混合物の1つ以上を含む。さらなる実施形態では、対照サンプルは超保存エレメント(UCE)を含む。さらなる別の実施形態では、対照サンプルは、未知のサンプルを含有する1つもしくは複数の流体流路または液溜めと同じ均一な温度帯域にある1つもしくは複数の流体流路または液溜めに導入される。
【0033】
別の実施形態では、1つまたは複数の外部センサーは、マイクロ流体デバイス上の温度帯域の熱キャパシタンスに合致する熱キャパシタンスを有する。別の実施形態では、加熱は、1つもしくは複数の流体流路または液溜めの中の任意の核酸を含有するサンプルが核酸融解分析に掛けられるように、ヒートスプレッダの温度を第1の温度から第2の温度まで上昇させることを含む。
【0034】
一実施形態では、サンプル中に存在する任意の核酸は、融解分析の前にマイクロ流体デバイス上で核酸増幅に掛けられる。別の実施形態では、核酸融解分析はサンプルの遺伝子型を決定する。
【0035】
別の実施形態では、1つまたは複数の埋め込み温度センサーは、マイクロ流体デバイス上の液溜めまたは流体流路の下方に位置する。一実施形態では、埋め込みセンサーは、1つもしくは複数の液溜めまたは流体流路の中のサンプルとの直接接触を防ぐように不活性化される。さらなる実施形態では、不活性化材料は、ガラス、二酸化シリコン、窒化シリコン、シリコン、ポリシリコン、パリレン、ポリイミド、カプトン、またはベンゾシクロブテン(BCB)のうち1つもしくは複数を含む。
【0036】
1つの態様では、本発明は、マイクロ流体デバイス上の加熱手段を校正する方法であって、1つまたは複数のマイクロ流体流路と、マイクロ流体デバイスと熱的に連通しており、マイクロ流体デバイスに固着されたヒートスプレッダおよびヒートスプレッダと熱的に連通している1つもしくは複数の温度センサーを備える加熱手段と、マイクロ流体流路を通して流体を移動させるための手段と、温度測定手段と、光検出システムと、分析手段とを備える、マイクロ流体デバイスを提供することと、既知の熱的性質を有する対照サンプルを1つもしくは複数のマイクロ流体流路に導入することと、対照サンプルをマイクロ流体流路内へと移動させることと、加熱手段によってマイクロ流体流路の温度を徐々に上昇させることと、光検出システムを用いて光信号について対照サンプルを監視するか、またはヒートスプレッダと接触している少なくとも1つのセンサーからの温度データを監視することと、滑らかな加熱プロファイルが存在するかを判断するため、温度データを分析することと、必要であれば滑らかな加熱プロファイルを得るように加熱手段を調節することとを含む、方法を提供する。一実施形態では、対照サンプルは、野生型DNA、単位複製配列、オリゴヌクレオチド、またはそれらの混合物のうち1つもしくは複数を含む。別の実施形態では、対照サンプルは超保存エレメント(UCE)を含む。さらなる実施形態では、既知の熱的性質は核酸の融解温度である。
【0037】
一実施形態では、マイクロ流体デバイスは外部抵抗ヒータをさらに備える。さらなる実施形態では、マイクロ流体デバイスは、(i)ヒートスプレッダに取り付けられた外部抵抗ヒータおよび外部温度センサーと、(ii)少なくとも1つの埋め込み抵抗温度検出器(RTD)とをさらに備える。さらなる別の実施形態では、少なくとも1つの埋め込みRTDは、温度センサーおよびヒータの両方として作用する。一実施形態では、少なくとも1つのRTDおよびヒートスプレッダは、マイクロ流体デバイス上で空間的に離れて位置する。別の実施形態では、少なくとも1つのRTDは、少なくとも部分的にヒートスプレッダの下方に位置する。
【0038】
別の態様では、本発明は、マイクロ流体デバイス上で核酸融解分析を行う方法であって、1つまたは複数のマイクロ流体流路と、マイクロ流体デバイスと熱的に連通しており、マイクロ流体デバイスに固着されたヒートスプレッダ、外部ヒータ、およびヒートスプレッダと熱的に連通している1つもしくは複数の温度センサーを備える加熱手段と、マイクロ流体流路を通して流体を移動させるための手段と、温度測定手段と、光検出システムと、分析手段とを備える、マイクロ流体デバイスを提供することと、生体サンプルをマイクロ流体流路に導入することと、サンプルをマイクロ流体流路内へと移動させることと、加熱手段によってマイクロ流体流路の温度を徐々に上昇させることと、光検出システムを用いて光信号についてサンプルを監視することと、サンプルの融解温度を決定するため、検出された光信号を分析することとを含む、方法を提供する。一実施形態では、サンプルは、核酸融解分析の前にマイクロ流体デバイス内で核酸増幅を受ける。別の実施形態では、検出された光信号を分析するステップは、融解温度プロットを準備することを含む。さらなる実施形態では、光信号は蛍光信号である。一実施形態では、マイクロ流体デバイスは、少なくとも1つの埋め込み抵抗温度検出器(RTD)をさらに備える。別の実施形態では、少なくとも1つの埋め込みRTDは、温度センサーおよびヒータの両方として作用する。さらなる実施形態では、少なくとも1つのRTDおよびヒートスプレッダは、マイクロ流体デバイス上で空間的に離れて位置する。別の実施形態では、少なくとも1つのRTDは、少なくとも部分的にヒートスプレッダの下方に位置する。
【0039】
1つの態様では、本発明は、1つまたは複数のマイクロ流体流路を備えるマイクロ流体デバイスと、マイクロ流体デバイスと熱的に連通しており、マイクロ流体デバイスに固着されたヒートスプレッダおよびヒートスプレッダと熱的に連通している1つもしくは複数の温度センサーを備える加熱手段と、マイクロ流体流路を通して流体を移動させるための手段と、温度測定手段と、光検出システムと、分析手段とを備える、マイクロ流体システムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
マイクロ流体デバイス用加熱システム、ならびに生体反応を行うためのマイクロ流体デバイスの温度制御のシステムおよび方法の実施形態を、図面を参照して本明細書に記載する。
【0042】
図1は、本発明の一実施形態によるマイクロ流体システム100を示す。
図1に示されるように、マイクロ流体システム100は、マイクロ流体デバイス101と温度制御回路102とを有する。温度制御回路102は、システム・コントローラ103と、ヒータ制御・測定回路104と、デジタル・アナログ変換器(DAC)105と、アナログ・デジタル変換器(ADC)106とを有する。DAC 105およびADC 106は、システム・コントローラ103およびヒータ制御・測定回路104とは別個のものとして
図1に示されているが、その代わりに、DAC 105およびACD 106は、システム・コントローラ103またはヒータ制御・測定回路104の一部であってもよい。それに加えて、温度制御回路102は、マイクロ流体デバイス101を監視する光学システム107を含んでもよい。
【0043】
コンパクトなマイクロ流体デバイスは、限定された空間内で多数の機能を要する。一実施形態では、本発明は、分子診断で使用される非常に効率的なマイクロ流体デバイス101である。2つの可能な特定の用途は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および高分解能熱融解である。
【0044】
PCRは、DNA増幅を要する分子診断および他のゲノム分析用途における最も一般的かつ重大なプロセスの1つである。PCRでは、標的DNA分子は、変性、アニーリング、および伸長という三段階の温度サイクルを通して複製される。変性ステップで、二本鎖DNAが熱的に分離されて一本鎖DNAとなる。アニーリング・ステップで、プライマーが一本鎖DNAとハイブリッド形成する。伸長ステップで、プライマーは、ポリメラーゼ酵素によってヌクレオチドを組み込んで、標的DNA分子上で伸長される。
【0045】
一般的なPCR温度は、変性の場合は95℃、アニーリングの場合は55℃、伸長の場合は72℃である。ステップの間の温度は、数分の一秒〜数秒の時間量の間保持されてもよい。原則として、DNAは各サイクルにおいて量が二倍になり、所望量の増幅を完了するには約20〜40サイクルを要する。標的の産物の良好な収率を得るためには、各ステップにおけるサンプル温度を各ステップに対する所望の温度に制御しなければならない。プロセス時間を低減するために、サンプルを所望の温度まで非常に迅速に加熱および冷却し、それらの温度を、各サイクルにおけるDNA分子の合成を完了するための所望の時間長の間保たなければならない。
【0046】
図2に示されるマイクロ流体デバイス101は、本発明の外部ヒータにしたがって利用することができる。
図22は、薄膜抵抗温度検出器(RTD)212に隣接する複数のマイクロ流路202を示す。例えば、マイクロ流路202の下層にRTD 212があってもよい。RTD 212は、精密な温度センサーならびに速応性のヒータとして機能する。さらに、廃熱を減少させるとともに、別個の機能的帯域204(即ち、帯域1またはPCR帯域)および206(即ち、帯域2またはPCR帯域)をより良好に熱的に隔離するため、薄膜RTDは、RTD 212よりも伝導性が高い、リード線または電極210および211を含む。電極210および211は、任意の適切な導体材料であってもよく、好ましい一実施形態では金である。RTD 212は、温度に対する良好な応答を示し、かつヒータとして使用することができる、任意の適切な抵抗材料から作られてもよい。適切なRTD材料としては、プラチナおよびニッケルが挙げられるが、それらに限定されない。
【0047】
図2に示されるように、マイクロ流体デバイス101は、基板201を横切って延在する複数のマイクロ流体流路202を有してもよい。図示される実施形態は8つの流路202を示すが、より少数またはより多数の流路を含むことができる。各流路202は、1つまたは複数の入口ポート203(図示される実施形態は、流路202当たり2つの入口ポート203を示す)と、1つまたは複数の出口ポート205(図示される実施形態は、流路202当たり1つの出口ポート205を示す)とを含んでもよい。各流路は、PCR熱帯域204を通って延在する第1の部分と、熱融解帯域206を通って延在する第2の部分とを含んでもよい。シッパー(sipper)(図示なし)を使用して、液体を複数のマイクロ流体流路202に引き込むことができる。
【0048】
マイクロ流体デバイス200は、薄膜抵抗熱検出器(RTD)212の形態であってもよいヒータ素子をさらに含む。一実施形態では、1つまたは複数のヒータ素子212は、各マイクロ流体流路202と関連付けられ、マイクロ流体流路202に隣接して位置する。例えば、各マイクロ流体流路202は、1つまたは複数の加熱素子212上で上方に(あるいは別の方法でそれらに隣接して)載置されてもよい。図示される実施形態では、ヒータ素子212(1)〜(8)は、PCR熱帯域204のマイクロ流体流路202と関連付けられ、ヒータ素子212(9)〜(16)は、熱融解帯域206に位置するマイクロ流体流路と関連付けられる。例えば、ヒータ素子212(1)および212(9)は、ヒータ素子212(1)がPCR熱帯域204に位置し、ヒータ素子212(9)が熱融解帯域206に位置して、1つのマイクロ流体流路202と関連付けられる。
【0049】
ヒータ電極210および211は、複数の加熱素子212に電力を供給することができる。マイクロ流体デバイス101の基板201によって提供される限定された空間を最も良好に利用し、必要な電気接続の数を低減するため、複数のRTDは一対の共通電極211を共有する。ヒータ電極210および211は、個別電極210および共通電極211を含む。共通電極の各対は、例えば、第1の共通電極211(a)および第2の共通電極211(b)を含む。共通電極の対211によって、マイクロ流体センサーを三線モードで制御することが可能になる。
【0050】
図2の一例として、16個のRTDヒータ素子212(1)〜212(16)と、16個の個別電極210(1)〜210(16)と、4つの共通電極対211(1)〜211(4)とが存在する。したがって、
図2に示されるように、4つの第1の共通電極211(1a)〜211(4a)と、4つの第2の共通電極211(1b)〜211(4b)とが存在する。各ヒータ素子212は、個別電極210および一対の共通電極211に接続される。複数のヒータ素子212が一対の共通電極211を共有し、その結果、共通電極対211によって多重化される。例えば、RTD 212(1)は、個別電極210(1)と、一対の共通電極211(1a)および211(1b)とに接続される。
【0051】
図2に示されるマイクロ流体デバイス101および抵抗回路網は、四対の共通電極211それぞれに接続された4つのヒータ素子212を有するが、より多数またはより少数のRTDが各共通電極対211によって多重化されてもよい。さらに、より多数またはより少数の共通電極対211が、ヒータ素子のより多数またはより少数の多重化された組を作り出すのに使用されてもよい。
【0052】
マイクロ流体デバイス101のヒータ素子212はそれぞれ、迅速な加熱および温度感知のために独立して制御することができる。その結果、PCR熱帯域204におけるマイクロ流体流路202の温度は、熱融解帯域206におけるマイクロ流体流路202の温度とは独立して制御されてもよい。また、帯域204または206における各マイクロ流体流路202の温度は、帯域204または206における他のマイクロ流体流路202の温度とは独立して制御されてもよい。
【0053】
しかし、マイクロ流体デバイス101は、
図2に示されるように、マイクロ流体流路202の加熱の均一性に対する制限を受ける。したがって、本発明の一実施形態では、
図3に示されるように、熱ヒートスプレッダ313がマイクロ流体デバイス101に固着される。非限定的な一実施形態では、ヒートスプレッダ313は帯域206(即ち、帯域2または熱融解帯域)の上に固着されてもよい。
【0054】
本発明で記載されるヒートスプレッダ313および相互接続材料は、非均一な加熱の問題を解決し、物理的構成を通して均一性が担保されるため、高度に再現可能な融解曲線を作り出すことが可能になる。従来技術は、微小規模での均一性、またはサンプルが加熱システムと断続的に熱接触するように配置された場合は常に存在する再現性の問題に対処してこなかった。したがって、本発明は、これらの課題に対処し、結果として融解の改善をもたらす(したがって、その目的のために設計されたシステム上での遺伝子型決定を改善する)ヒートスプレッダ313をどのように設計し構築するかについて詳述する。
【0055】
一実施形態では、適切なヒートスプレッダ313材料としては、銅およびその合金、アルミニウムおよびその合金、銀、セラミックス(特に、アルミナおよび酸化ベリリウム)、ならびにグラファイトおよび人工ダイヤモンド(化学蒸着(CVD)ダイヤモンド・ウェハなど)などの異方性導電材料が挙げられるが、それらに限定されない。さらに、ヒートスプレッダ313は、上述の材料のいずれかを含む複合材料から作られてもよい。熱拡散能力を向上させる高熱伝導材料が含まれることを条件として、複合材料のヒートスプレッダ313は、ポリマー樹脂などの低熱伝導材料ベースであってもよい。複合材料のヒートスプレッダ313に含めるのに適した他の材料としては、例外的かつ異方性の熱伝導性を有する、グラフェンおよびカーボンナノチューブ(CNT)(単層および多層CNTの両方)が挙げられる。
【0056】
異方性のヒートスプレッダ313は、最も高い熱伝導性をもたらす配向が、マイクロ流体デバイス101上に配設されるサンプル液溜め/マイクロ流路202間の温度の均一性を促進するように整列されるようにして、構成されるのが好ましい。1つの特定の例では、所与の面に複数のマイクロ流路が埋め込まれたマイクロ流体デバイス101の場合、ヒートスプレッダ313の高伝導性の配向は、マイクロ流路202を特徴づける面に平行に整列されるであろう。
【0057】
本発明のいくつかの非限定的な実施形態では、加熱システム(ヒートスプレッダ313、加熱手段、および任意の外部センサーを含む)は、サンプル液溜め/マイクロ流路202および融解分析領域206に関して対称である。システムを対称にすることは、熱の均一性を促進して、各サンプルが同じ熱プロファイルを経験することを担保するという理由で好ましい。1つまたは複数の対称中心線が、熱の均一性を向上させるために使用されてもよい。好ましくは、ヒートスプレッダ313は、融解分析領域206に関して対称的に位置する。加熱素子(1つもしくは複数)および任意の温度センサーも、好ましくは、融解分析領域に関して対称的に位置する。いくつかの対称的な加熱システム配置の非限定例は、
図4および
図5A〜Bに示され、それらの図は対称中心線を示す破線を有する。
【0058】
ヒートスプレッダ313は、ヒートスプレッダ313およびマイクロ流体デバイス101の効率的な相互接続を通して、温度の均一性を担保する(融解の再現性を担保する)ように構成すべきである。相互接続の熱抵抗を最小限に抑えるため、ヒートスプレッダ313をマイクロ流体デバイス101に押し付けて、エアギャップを排除するか、または少なくとも最小限に抑えるべきである。一実施形態では、熱グリース、シリコーン、グラファイト、鉱油、金属箔(特に、錫、鉛、インジウム、銀、およびこれらの合金)、ナノ粒子配合グリースおよびシリコーン、ならびに他のギャップ充填材料が、ヒートスプレッダ313とマイクロ流体デバイス101との間の断続的な接合の熱伝導性を向上させてもよい。
【0059】
一実施形態では、断続的な接合がヒートスプレッダ313とマイクロ流体デバイス101との間で作られる場合、圧力下で行われることが好ましい。圧力は、システムの重量によって引き起こすことができるが、150psi(1034.2kPa)以上の高圧が好ましくは使用される。圧力の上限は、デバイスを構築するのに使用される材料の強度によって決定される。一実施形態では、10〜150psi(68.9〜1034.2kPa)の範囲の圧力が好ましい。別の実施形態では、空気圧、ばねアセンブリ、打込みねじ、および自重のすべてが、必要な圧力を提供するのに使用されてもよい。
【0060】
代替実施形態では、熱の均一性は、マイクロ流体デバイス101に対するヒートスプレッダ313の恒久的な接合を使用することによって担保することができる。ヒートスプレッダ313をマイクロ流体デバイス101に恒久的に接合するための、様々な方法が開発された。ヒートスプレッダ313は、好ましくは、ボイド・フリーの接合をもたらす薄い熱伝導材料を使用して、マイクロ流体デバイス101に接合される。好ましくは、シアノアクリレート系接着剤(クレイジー・グルー、または強力瞬間接着剤と呼ばれることが多い、例えばLoctite 420)は、非常に粘性が低いために、広げて薄いボンドラインにすることができるため、接合に使用される。代替の接着剤としては、光活性化型(紫外線を含む)、室温硬化型、もしくは加熱硬化型接着剤、または当業者には知られている、ボイド・フリーの接合の形成を可能にする類似の性質を有する他の任意の接着剤が挙げられる。熱伝導性であって厚さが均一であることに加えて、接着剤は、融解分析に必要な温度(一般的に、DNAの融解分析の場合、約100℃以下)において安定していることが好ましい。
【0061】
あるいは、ヒートスプレッダ接合313に対するマイクロ流体デバイス101は、グラファイト、グラフェン、ダイヤモンド(天然および人工由来のものを含む)、またはCNT(単層および多層CNTを含む)が挙げられるがそれらに限定されない異方性熱界面材料(TIM)によって作ることができる。これらの材料は、少なくとも一方向で例外的な熱伝導性を示す。異方性材料は、最も高い熱伝導性をもたらす配向が、マイクロ流体デバイス101上に配設されるサンプル液溜め/マイクロ流路202間の温度の均一性を促進するように整列されるようにして、構成されるのが好ましい。いくつかの実施形態では、TIMは、TIMの接着を促進する感圧性接着剤(PSA)などの、1つまたは複数の追加の接着剤層を含んでもよい。これらの追加の接着剤層は、シリコーンもしくはアクリル系接着剤、または当業者には知られている他のものであってもよい。
【0062】
あるいは、マイクロ流体デバイスを加熱システムに接合するのに使用される接着剤は、接合の全体的な熱伝導性を向上するため、熱伝導性粒子を含んでもよい。これらの粒子は、ナノスケールまたはマイクロスケールであってもよく、金属、炭素、およびセラミック粒子を含んでもよい。いくつかの適切な粒子としては、銀、金、アルミニウムおよびその合金、銅およびその合金、亜鉛、錫、鉄、CNT、グラファイト、ダイヤモンド、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、および酸化ベリリウムが挙げられるが、それらに限定されない。これらの同じタイプの粒子は、上述したナノ粒子配合グリースおよびシリコーンで使用されてもよい。
【0063】
加熱システムとマイクロ流体デバイスとの間の薄いボンドラインを担保するため、本発明の一実施形態によれば、高圧下で接合がなされる。一実施形態では、高圧は、空気圧、ばねアセンブリ、打込みねじ、または自重によって作ることができる。あるいは、使用される圧力は1psi(6.9kPa)程度の低いもの、またはそれより少ないものであってもよい。圧力の上限は、デバイスを構築するのに使用される材料の強度によって決定される。非限定的な一実施形態では、10〜150psi(68.9〜1034.2kPa)の範囲の圧力が好ましい。
【0064】
本発明の一実施形態では、本明細書に記載するヒートスプレッド・デバイス313および相互接続材料は、マイクロ流体システム100に含まれてもよく、より具体的には、
図6に示されるような融解分析用の包括的な加熱システムに含まれてもよい。一実施形態では、包括的な加熱システムは、融解分析用に処理される1つまたは複数のサンプルを保持する、マイクロ流体デバイス101を含んでもよい。サンプルは、液溜めまたはマイクロ流路202内にあってもよく、静止しているか、またはデバイスを通って流れていてもよい。包括的な加熱システム622は、マイクロ流体デバイス101の融解分析領域における熱の均一性を促進するように構成される、ヒートスプレッダ313をさらに含んでもよい。ヒートスプレッダ313は、良好な熱伝導性を備えた材料(任意に、複合材料)から形成され、マイクロ流体デバイス101と密接に接触していなければならない。ヒートスプレッダとマイクロ流体デバイスとの間の接触は、熱抵抗が低いものでなければならず、いくつかの実施形態では、恒久的な接合である。加熱手段619は、ジュール加熱および非ジュール加熱を含んでもよい。加熱手段の非限定例としては、ペルチェ・デバイス、高温のガスもしくは流体との接触、光子線、レーザー、赤外線、または他の形態の電磁放射が挙げられる。加熱手段619は、好ましくは、表面実装抵抗器などの単純で安価な抵抗ヒータである。包括的な加熱システム622はまた、加熱システム622の冷却を提供する任意の冷却手段620を含んでもよい。いくつかの実施形態では、任意の冷却手段620は、1つもしくは複数のファンまたはブロワーであることができる。さらに、いくつかの実施形態では、任意に、1つまたは複数の外部センサー621がヒートスプレッダ313と熱的に連通していてもよい。これらのセンサー621は、ヒートスプレッダ313の温度の基準、および融解分析領域206における温度の推定値を提供してもよい。
【0065】
別の実施形態では、包括的な加熱システム622は、加熱および温度感知を制御する加熱システム・コントローラ104を含んでもよい。さらに、包括的な加熱システム622は、マイクロ流体デバイス101自体の上に埋め込まれた加熱システムとセンサー212との間の連通を可能にする任意の構成を含んでもよい。包括的な加熱システム622はまた、一実施形態では、加熱システム・コントローラ104を制御するシステム・コントローラ103、ならびに
図7に示されるような、マイクロ流体デバイス101と併せて利用されてもよい他の任意のシステムを含んでもよい。
【0066】
具体的には、流体制御および光制御システムが、融解分析を行うのに必要とされることがある。システム・コントローラ103は、サンプル調製およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの融解分析、またはマイクロ流体デバイス上に含まれることがある他の任意の機能とは直接関係がない、マイクロ流体デバイスの他の態様を制御してもよい。
【0067】
一実施形態では、光学システムは、マイクロ流体デバイスおよびそれが含有するサンプルを照明するデバイス728を含む。光学システムはまた、マイクロ流体デバイス上のサンプルからの蛍光放射に基づく強度データを収集する、画像化デバイス727を含む。流体システムは、マイクロ流体デバイス上のあらゆる流体フローを始動および制御するため、ポンプ724および圧力制御素子725を含んでもよい。システム・コントローラ103は、コントローラが制御する熱/光学システムから収集する熱/光データを使用して、1つもしくは複数の融解曲線または熱的性質曲線を作り出してもよい。
【0068】
図3は、陥凹部314がヒートスプレッダ313に作られる、本発明の一実施形態をさらに示す。陥凹部314は、当業者には知られている任意の方法によって、ヒートスプレッダ313に形成されてもよい。本発明の非限定的な一実施形態では、封入サーミスタ316をヒートスプレッダ313上に提供することができる。好ましい一実施形態では、封入サーミスタ316は陥凹部314内に位置する。さらなる実施形態では、陥凹部314は、伝導性エポキシまたは当該分野で知られている他の材料など、熱伝導材料で埋め戻されてもよい。封入サーミスタ316は、温度センサーとして機能し、陥凹部314内におけるその配置により、サーミスタ316は、ヒートスプレッダ313の温度を精密に感知する一方で熱損失を低減することができるであろう。本発明の非限定的な一実施形態では、サーミスタ316は、当業者には知られている他の温度センサーと置き換えることができ、したがって、本出願は、サーミスタ316が温度センサー316と交換可能であるものとして理解されるべきである。いくつかの実施形態では、熱損失を制限するとともに、感知素子(1つもしくは複数)316とヒートスプレッダ313との間における温度の良好な一致を担保にするため、高い気泡率を備えた発泡体または他の適切な材料などの絶縁体が、加熱システムの外側に添加されてもよい。
【0069】
図3は、熱を供給するための、ヒートスプレッダ313上における膜抵抗器317の配置をさらに示す。当業者であれば、本発明に記載されるような代替の加熱源が、膜抵抗器317の代わりに用いられてもよく、したがって、本出願は、膜抵抗器317がヒータ317と交換可能であるものとして理解されるべきであることを認識するであろう。いくつかの非限定的な実施形態では、ヒータ317に取り付ける前に、ヒートスプレッダ313上に不活性化層315が提供される。不活性化層は、ヒータ317とヒートスプレッダ313との間の電気的短絡を防ぐのに利用されてもよい。一実施形態では、単純な黒色塗料の層が、短絡を防ぐのに十分なことがある。別の実施形態では、本明細書に記載されるような他の適切な不活性化材料が使用されてもよい。
【0070】
本発明の態様を具体化するマイクロシステムのCADモデルが、上面図および下面図の両方として
図8に示される。この例示的なシステムは、PCRおよびそれに続く高分解能融解分析用に設計されており、いくつかの態様において、参照により本出願に組み込まれる特許および特許出願に記載されているシステムに類似している。システムは、マイクロ流路202と関連付けられた特性を制御し測定する、複数のマイクロ流路202および複数の電極210、211を特徴とするマイクロ流体デバイス101を含む。この例では、融解領域にある埋め込み電極210、211は、融解分析用のサンプル温度を決定する温度センサーとして使用される。ヒートシンク829は、デバイスのPCR部分に対して付加的な冷却を提供するため、デバイスの上流側部分に恒久的に固着される。銅板のヒートスプレッダ313は、融解領域にあるデバイスの下流側部分に恒久的に固着される。この実例となる実施形態では、膜抵抗器317および封入サーミスタ316は、それぞれ熱を提供し、温度を感知するため、ヒートスプレッダ313上に含まれる。
【0071】
別の非限定的な実施形態では、本発明のいくつかの態様を具体化するプロトタイプが
図9に示される。このプロトタイプでは、アルミニウム板のヒートスプレッダ313は、ガラス製マイクロチップに恒久的に固着され、2つの膜抵抗器317が加熱に使用され、単一の抵抗温度検出器(RTD)316が温度感知に使用される。この加熱システムは、2つの対称中心線(リード線を無視する)を特徴とする。この非限定的な実施形態は、2つ以上のヒータおよび/または2つ以上の温度センサーが、本発明のヒートスプレッダ313と併せて利用されてもよいことを実証している。
【0072】
本発明のいくつかの態様を具体化する別のプロトタイプが
図10Aに示される。このプロトタイプは、単一のヒータ317を特徴とし、やはり2つの対称中心線(リード線を無視する)を特徴とする。
図10Bに示される熱画像は、ヒートスプレッダ313と熱接触しているマイクロ流体デバイス101の範囲によって達成される温度均一性を実証している。
【0073】
本明細書で考察されるヒートスプレッド・デバイスおよび相互接続材料を含む、本明細書に記載される方法およびシステムは、スタンドアロン型の融解分析プラットフォームで使用されてもよい。しかし、それらはまた、サンプル調製、DNA抽出、DNA増幅、およびPCRが挙げられるがそれらに限定されない、他のプロセスおよびシステムと組み合わされてもよい。考察されるヒートスプレッド・デバイスおよび相互接続材料は、DNA増幅(例えば、PCR)およびそれに続く熱融解分析を行う、マイクロ流体プラットフォーム(
図11)上に含まれてもよい。この実例となる実施形態では、複数の対象サンプルを同時に並行して処理することができる。サンプル中のDNAは、PCR帯域で増幅され、次いでその直後に融解分析領域で融解される。サンプルの遺伝子型は、改善された融解分析システムを使用して決定されてもよい。この構成では、増幅および分析の両方に対して1つの器具のみが必要とされる。さらに、デバイスのPCR部分は、本明細書に記載されるようなデバイスの融解部分を校正するのに使用される対照を増幅するために使用されてもよい。このデバイスの微小規模によって迅速な加熱および冷却が可能になり、それによって処理時間が最小限に抑えられることが担保される。ヒートスプレッダおよび相互接続材料によって作り出される大面積の熱の均一性によって、並列のマイクロ流路それぞれを高い再現性で融解分析に使用できることが担保される。
【0074】
本発明はまた、コストおよびスループットの点で大きな利点を提供する使い捨てのマイクロ流体プラットフォームに基づく、本明細書に記載されるような融解分析方法に関する。記載される方法によって、均一性および一貫性が担保されることから、高い再現性の融解曲線を作り出すことが可能になる。従来技術は、マイクロシステムにおける融解分析の再現性、または温度勾配によって存在する再現性の問題に対処してこなかった。埋め込みセンサーは、動的な温度応答の問題に対する理想的な解決策である。さらに、制御/校正方法は、均一性および埋め込みセンサーを利用して、融解分析の質に対してより一層大きな向上を提供する。本発明はさらに、個々に、かつ組み合わせて、改善された融解の結果(およびその目的のために設計されたシステム上での改善された遺伝子型決定)をもたらす、融解システムのための制御方法について詳述する。
【0075】
また、任意に、一実施形態では、本発明の加熱システムは、ヒートスプレッダと熱的に連通している1つまたは複数の外部センサーを含んでもよい。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の外部センサーは、マイクロ流体デバイスまたはヒートスプレッダに恒久的に取り付けられる。これらのセンサーは、ヒートスプレッダの温度の基準、および融解分析領域における温度の推定値を提供する。非限定的な一実施形態では、センサー316は、
図13に示されるような回路を介して、システム・コントローラ103またはヒータ制御部104によって制御されてもよい。
【0076】
本発明のさらなる実施形態では、システムは、加熱および温度感知を制御する加熱システム・コントローラをさらに備える。任意に、加熱システム・コントローラは、
図2に示されるような、マイクロ流体デバイス101自体の上に埋め込まれたセンサー212と通信して(そこからの信号を制御し受信して)もよい。これらの埋め込みセンサーは、融解帯域の温度測定に使用されてもよく、または熱が融解帯域に達する時間を感知するのに使用されてもよい。
【0077】
本発明は、また、加熱システム・コントローラが、加熱手段、冷却手段(例えば、ファンおよびブロワー)、ならびに融解領域もしくはヒートスプレッダにおける温度を決定するのに使用される任意のセンサーからの信号を制御し受信してもよいものと規定する。加熱手段は、比例積分偏差(PID)、オン/オフ、またはパルス幅変調(PWM)制御が挙げられるがそれらに限定されない、当該分野で知られている任意の標準的な制御スキームを使用して制御されてもよい。加熱手段はまた、フィードバック制御によって決定される速度ではなく所定の速度で熱が提供される、「開ループ」モードで駆動されてもよい。開ループ制御の1つの方法は、
図12に示されるような、ヒータ電圧を傾斜した階段状にすることである。ヒータに滑らかな入力電圧を与えることによって、ヒートスプレッダの温度が滑らかに上昇して、より質の良い(より低ノイズの)融解曲線がもたらされるので、これらの開ループ方法は有利である。さらに、1つまたは複数の温度センサー(埋め込みもしくは外部)は、開ループを実行することができる滑らかな加熱プロファイルを生成するため、校正ステップで使用されてもよい。この滑らかな校正済みプロファイルを作成するため、第1のフィードバック制御を使用して必要とされるおよその電力(またはヒータ電圧)を決定して、所望の温度プロファイルを作成してもよい。電力(またはヒータ電圧)は、当業者には知られている曲線適合技術を使用して、所定のモデル(例えば、傾斜階段モデルなど)に適合させることができる。次に、適合されたヒータ電力または電圧プロファイルを使用して、フィードバック・コントローラによって作り出される望ましくないノイズを伴わずに、滑らかな加熱プロファイルを作成することができる。
【0078】
融解領域206における熱の均一性を促進し、加熱手段の電力要件を低減するため、本発明の一実施形態では、冷却システムを制御するために様々な方法が任意に使用されてもよい。1つの例示的な冷却システム制御方法は、気流が加熱システムに直接衝突するのを防ぐ、物理的な障壁またはバッフルを含めるというものである。気流が加熱システムに衝突するのを防ぐ物理的な障壁によって、熱損失が減少し、それによって熱勾配が低下する。熱勾配がより低いことで、融解分析領域における温度の均一性はより良好であり、任意の外部センサーの温度は、融解されているサンプルの温度とより良好に一致する。別の冷却システム制御方法は、任意の冷却ファン/ブロワーのパルス幅変調(PWM)を含む。あるいは、当業者には知られている他の制御メカニズムを使用することができる。ファンおよびブロワーは、融解分析後の冷却を加速させるために含まれてもよく、または、PCRのための急速冷却を促進するなど、融解分析に直接関係しない他のシステム機能の役割を果たしてもよい。一実施形態では、上述の理由で融解分析用の加熱システムの上の気流を制限するため、即ち熱損失を低減し、均一性を促進するため、PWMを使用することができる。別の実施形態では、融解後など、デバイスを冷却しなければならないときに、迅速な冷却のための高いデューティサイクル(DC)を使用することができる。融解中など、デバイスを加熱しなければならないとき、気流を制限する低いDCを使用することができる。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態は、上述したような外部センサーを含んでもよい。これらは、融解領域206内の1つもしくは複数の温度を感知するのに使用されてもよく、またはヒートスプレッダ313を制御するのに使用されてもよく、または両方を行ってもよい。RTD、サーミスタ、ダイオード、他の半導体デバイス、熱電対、高温測定、熱反射、または当該分野で知られている他のデバイス/方法を含む外部センサーは、事実上接触性または非接触性であってもよい。外部センサーは、好ましくは、その動的な熱応答に関してマイクロ流体デバイスに合致する。熱は、加熱手段から融解領域および外部センサーの両方まで移動しなければならないので、熱が両方の場所に同時に達することが好ましい。センサーと融解領域との間の良好な過渡的な一致を担保するため、センサーおよびマイクロ流体デバイスの熱キャパシタンスは合致しなければならない。
【0080】
具体的には、それら2つの質量に比熱容量を乗じたものは、ほぼ等しくあるべきである(m1*cp1〜m2*cp2)。2つがより緊密に合致するほど、過渡的な一致はより良好になる。さらに、加熱手段から同様の距離に、センサーおよびマイクロ流体デバイスを位置させるように注意しなければならない。また、これらの比較的低いコンダクタンスの材料が動的な不一致に寄与することがあるので、接合および注封材料の選択に注意しなければならない。例えば、埋め込み金属センサーを特徴とするガラス製のマイクロ流体デバイスと合致させるために、類似のサイズの金属センサー素子をやはり特徴とするガラス封入サーミスタを使用して、熱キャパシタンスを合致させてもよい。
【0081】
いくつかの実施形態では、融解分析のための融解領域の温度は、外部センサーに依存するのではなく、マイクロ流体デバイス自体の上の1つまたは複数の素子によって感知される。任意に、外部センサーは、加熱手段を制御するため、加熱システムに依然として含まれてもよい。マイクロ流体デバイス上の感知素子を含むデバイスの一例が、
図2に示される。この非限定例では、8つの薄膜プラチナ・センサー(RTD)が、融解されるサンプルを含有する8つの対象マイクロ流路の下にある。この例におけるセンサーは、マイクロ流路の下方にあり、サンプルがセンサーと直接接触するのを防ぐ、薄いガラスの不活性化層によって覆われる。金属は生体サンプルと反応することが知られているので、不活性化層は汚染源を防ぐ。さらに、不活性化は、センサー中の電流をサンプルから電気的に絶縁するので、サンプルの電解を防いでもよい。他の不活性化材料としては、二酸化シリコン、窒化シリコン、シリコン、ポリシリコン、パリレン、ポリイミド(例えば、カプトン)、およびベンゾシクロブテン(BCB)が挙げられるがそれらに限定されない。マイクロ流路の側壁上にある、またはサンプル液溜め/流路間に位置するセンサーなど、他のセンサーからサンプルまでの構成が想到される。このように(微小規模で)流路に密着させてセンサーを配置することは、熱損失による影響がより少ないため、精度および再現性の点で利点を有する。容量性デバイス、抵抗性デバイス、半導体デバイス、および熱電対が挙げられるがそれらに限定されない、様々なセンサーを使用することができる。本明細書に記載される薄膜RTDを含む埋め込みセンサー構成は、加工が簡単で再現性が高いので好ましい。
【0082】
一実施形態では、マイクロ流体デバイス上に埋め込まれた1つまたは複数のセンサー素子はまた、外部センサーの動的応答を校正するのに使用されてもよい。センサーと融解領域との間における温度の過渡的な一致についての上述の考察を参照すると、埋め込みセンサーは、マイクロ流体デバイス上のセンサーと融解領域との間に存在することがある何らかの熱的遅れを決定するのに使用されてもよい。この構成では、融解分析のための精密な温度測定が外部センサーを用いて行われる場合、埋め込みセンサーは温度の測定において精密でなくてもよい。しかし、センサーで測定される温度プロファイルを、マイクロ流体デバイス上で融解したサンプルが経験する温度プロファイルに変換することができるように、埋め込みセンサーは、熱が到達する時間を精密に測定しなければならない。あるいは、埋め込みセンサーは、融解分析のための温度を測定するのに使用されてもよく、校正ステップは、外部センサーを使用して制御されてもよい加熱手段の制御を改善するのに使用されてもよい。
【0083】
望ましくない熱をサンプルに付加することなく、あらゆる埋め込みセンサーを読むように注意しなければならない。この問題は、一般に自己加熱と呼ばれる。自己加熱を低減するため、埋め込みセンサーは低圧/低電流で励起されるべきである。例えば、センサーは、分圧器回路の高抵抗感知抵抗器を使用して読まれてもよい。高抵抗感知抵抗器は、センサー素子を通る電流を制限し、望ましくない自己加熱を低減する。非限定的な一実施形態では、2.7kΩの感知抵抗器および1.5Vの電源とともに、〜30Ωの埋め込みRTDセンサーが使用される。センサーのこの例におけるワット損は、わずかに9マイクロワットであり、これは無視できる熱量である。
【0084】
いくつかの実施形態では、外部センサーは、デバイスの精度要件を満たすための校正を要する。この校正は、融解分析を処理する機器で行われてもよく、またはマイクロ流体デバイスの使用前に行われてもよい。
【0085】
いくつかの実施形態では、追加の校正を何ら伴わずに指定の公差を達成するように製造された「使い捨て」または「交換可能な」センサーを含むことによって、1つまたは複数の外部センサーを校正なしに使用することができる。「ポイント・マッチ」および「曲線追跡センサー」の両方が使用されてもよい。ポイント・マッチ・センサーは、特定の温度点において指定の公差内で精密であるように指定される。曲線追跡センサーは、2つのポイント間のすべての温度において指定の公差内で精密である(例えば、0〜100℃で±0.2℃、または0〜70℃で±0.1℃)ように指定される。適切な交換可能なサーミスタは、特に、HoneywellおよびGEから入手可能である。
【0086】
いくつかの実施形態では、1つもしくは複数の外部または埋め込みセンサーは、その融解性質が周知である対照を取り込むまたは流すことによって、校正されてもよい。対照を融解することによって、融解領域の温度が正確に校正されてもよい。対照は、野生型DNA、単位複製配列、オリゴヌクレオチド、または単位複製配列もしくはオリゴヌクレオチドの混合物であることができる。対照は、ヒトゲノムDNA、別の有機体からのDNA、または完全な合成物に基づくものであることができる。対照はまた、ヒト、ラット、およびマウスのゲノムのオルソロガス領域間で確実に保存される、いわゆる超保存エレメント(UCE)であることができる。UCEの利益は、すべてのヒトゲノムサンプルに存在し、かつ同一であることである。対照は、サンプル液溜め/流路の1つまたは複数で使用されてもよい。対照は、試験中のサンプルを分析するための融解の実行と同時に(並列化を利用)、またはその前に実行されてもよい。対照はまた、融解分析のために望ましい再現性の目標を達成するために繰り返されてもよい。均一性を改善する(冷却の向上、および熱伝導性のヒートスプレッダなど)上述の加熱システムの態様によって、試験中のものとは異なる対照を流路に通すことが可能になることに留意されたい。具体的には、本発明の加熱システムによって、両方の流路が同じ大きな熱的に均一な帯域内に位置するため、同じ熱プロファイルを経験することが担保されるので、対照を1つの流路に通す一方で、未知のサンプルを別の流路に通すことができる。別個の液溜め/流路に対照を入れることは、近接した間隔の並列したマイクロ流路を特徴とするデバイスにとって、理想的な構成である。
【実施例】
【0087】
熱の均一性および融解温度の安定性
試験条件およびカートリッジ性能
ヒートスプレッダおよび外部ヒータを特徴とする4つのマイクロ流体カートリッジ上に17個の融解物のロングパネルを通すことによって、温度の均一性および融解の安定性を評価した。パネルは、UCE 17と2C9*3アッセイとの間で交互にした(合計で、UCE 17の9個の融解物および8個の2C9*3)。2つのアッセイを使用して、2つの異なる標的の安定性および均一性をある程度比較した。同じ2つのアッセイの複数の融解物は、統計値、ならびに時間に伴う浮動を決定するのに有用であった。
【0088】
PCR試薬(ブランキング溶液、DNAサンプル・バッファー、*3プライマー、UCE 17プライマー、ポリメラーゼ、RFCalおよびCULSバッファー)を、機器によって自動混合した。PCRを行い、それに続いて熱融解を行った。PCRおよび熱融解の条件は次の通りであった。0.25秒の漸増遷移を含めて95℃で2分、0.25秒の漸減遷移を含めて55℃で1.5分、さらに、6.5秒の漸増遷移を含めて72℃で6.5分。熱融解条件は、標準的に1℃/秒で65℃から95℃までの傾斜を含んでいた。
【0089】
外部温度センサーは、プラチナ・トレース測定と比較して、温度がずれることが見出された。ずれは、マイクロ流体カートリッジごとに変動したが、所与のマイクロ流体カートリッジに対しては、時間に伴って、かつ複数の流路にわたって同じであった。サーミスタの読取り値からの温度のずれは、校正済みPtトレースよりも7.5℃〜11.7℃低い範囲であった。
【0090】
このずれは、ヒートスプレッダおよびサーミスタのリード線に衝突する冷却気流に関係するものと考えられた。外部温度センサーを依然として使用して、温度の傾斜を制御し、融解物を検出することができるが、測定される融解範囲および温度は、Ptトレースの測定値と比べてずれることになる。
【0091】
温度の均一性
上述したPCRおよび熱融解の実行中、外部ヒータを有さないカートリッジで実行される対照よりも、外部ヒータははるかに均一に融解することが観察された。外部ヒータを有さないカートリッジで使用されるプラチナ(Pt)トレースの加熱によって、単位複製配列が最初に融解帯域(帯域2)の中央で融解するときに顕著である大きな温度勾配がもたらされた。流路1および8は、プラチナ・トレースの加熱を備えたカートリッジ内で最初に流路の内部から融解することが観察された。銅板が帯域2全体にわたって温度を有効に均等化したので、これらの効果は外部ヒータ・カートリッジ内では存在しなかった。この改善された温度の均一性の結果、外部加熱システムにおける融解曲線は従来のシステムのものよりも急であった。さらに、外部ヒータによって、内部または外部の流路からの融解物間の差はなかった。
図14は、試験された8個のカートリッジすべてに対する帯域2の校正チェック融解物を示す(米国特許出願第13/223,258号および米国特許出願第13/223,270号に記載されている標準的な校正方法を使用)。外部ヒータ融解物は、従来のカートリッジで作られたものよりも良好に整列した。さらに、従来のカートリッジはすべて、流路2〜7に比べて流路1および8の融解曲線に歪みが示されたが、外部ヒータ・カートリッジのいずれもこの挙動を示さなかった。
図14は、温度の均一性を示す、外部ヒータを有する帯域2全体で同時に蛍光強度が減少したことを実証している。対照的に、プラチナ・トレース加熱では、顕著なホットスポットがトレースの中央にはっきり現れている。Ptトレース加熱における温度勾配は、特に、内部よりも外部がより低温である流路1および8に関して問題である。
【0092】
図15Aおよび15Bは、外部ヒータ・システムを用いた(左側)、および用いない(右側)帯域2の1校正チェックの結果を示す。外部ヒータによって、融解物はより良好に整列され、外部流路の挙動は内部流路に類似する。対照的に、流路1および8は、従来のカートリッジとは異なる融解形状を有する(このことは、高温機構の微分曲線において最も明白であり、外部流路はより低くより広いピークを有する)。
【0093】
図16Aおよび16Bは、第2のカートリッジ組についての、外部ヒータ・システムを用いた(左側)、および用いない(右側)帯域2の2校正チェックの結果を示す。やはり、外部ヒータによって、融解物はより良好に整列され、外部流路の挙動は内部流路に類似することが分かった。対照的に、流路1および8は、従来のカートリッジとは異なる融解形状を有する(このことは、高温機構の微分曲線において最も明白であり、外部流路はより低くより広いピークを有する)。
【0094】
均一性の別の基準を、流路が単位複製配列で完全に充填された校正チェックからの画像データを使用することによって作った。所与の流路の長さに沿って位置する対象領域(ROI)において融解がいつ生じたかを比較することによって(
図17)、相対温度分布を決定した(即ち、単位複製配列は最も高温の領域で最初に融解する)。
図17は、従来のカートリッジと比較した外部ヒータ・カートリッジの相対温度分布を示す。分布は、RFCal単位複製配列におけるRF200ピークのTmに基づいている(これはより高温の機構である)。長さ方向の均一性は外部ヒータによって大幅に改善された。外部カートリッジは、長さ方向で測定した中心1mmにおいて0.2℃(最大・最小)以内と均一である。使用したカートリッジは、CA−576(外部ヒータ)およびCA−709(従来)であった。
【0095】
融解の結果
外部加熱システムに対する代表的な融解の結果が、CA−0576として特定される外部ヒータ・カートリッジに対する全パネル中に得られたUCE 17および*3融解物をすべて示す、
図18A〜Bおよび
図19A〜Bに示される。したがって、
図18A〜Bおよび
図19A〜Bは、72個すべてのUCE 17および64個すべての*3融解物をそれぞれ示す。融解温度(Tm)は、負の微分曲線の最大値を決定することによって計算した。正規化プロット(最大値を100に、最小値を0に設定)は、融解の結果の再現性を実証する、融解物の厳密な分類をより良好に示している。
【0096】
図は、CA−0576に対するプラチナ・トレース温度測定に基づいたUCE 17の融解プロファイルを示す。微分曲線は、2℃のサビツキー・ゴーレイ(Savitsky-Golay)・フィルタ窓に基づいている。正規化プロット(最大値を100に、最小値を0に設定)は、融解の厳密さをより良好に示している。
【0097】
図19A〜Bは、CA−0576に対するプラチナ・トレース温度測定に基づいた*3の融解プロファイルを示す。微分曲線は、2℃のサビツキー・ゴーレイ(Savitsky-Golay)・フィルタ窓に基づいている。正規化プロット(最大値を100に、最小値を0に設定)は、融解の厳密さをより良好に示している。
【0098】
流路ごとのTmのばらつき
1)各流路がRFCal単位複製配列を使用して校正したそれ自体のPtトレースを使用するもの、または、2)すべての流路のTmが単一の外部サーミスタに基づくものという、2つの異なる独立した方法を使用して、各流路に対してTmを計算した。2つの方法は、異なる物理的法則(薄膜抵抗器対半導体)で作動し、異なる回路(AMAPカード対ブレッドボード回路)によって測定した。
【0099】
方法1の利点は、8個のPtトレースが流体流路に近いので、実際の流路温度を最も良好に推定した基準を提供することであった。しかし、Ptトレースは特定のRFCal単位複製配列を用いた校正を必要とし、各センサーがそれ自体のエラーを有することがあるため、8個の異なるセンサーが存在することは、潜在的にエラーの増加に結び付く可能性がある。
【0100】
方法2の利点は、外部センサーが単一の予め校正済みの素子であることであった。したがって、流路ごとのTmのばらつきが観察された場合、それらは非均一な加熱、または融解温度の真のばらつきによるものであった(即ち、異なる流路内の単位複製配列が異なる温度で融解した)。
【0101】
流路ごとのばらつきは、UCE 17融解物およびプラチナ・トレース温度測定値を使用して決定された。流路ごとのTmのばらつきの平均(個々の融解物それぞれに対して流路の両端間でTmの標準偏差を決定し、次に、パネルのすべての融解物に対する標準偏差すべてを平均化することによって計算した)は、外部ヒータの場合、0.19±0.06℃(標準偏差、n=38)であった。流路ごとのTmのばらつきの平均は、非外部ヒータ制御カートリッジの場合、0.22±0.05℃(標準偏差、n=36)であった。
【0102】
流路ごとのばらつきは、流路数の関数としてTmをプロットすることによって調査した(
図20)。8つのPtトレース測定で決定されたTmは、独立した外部センサー測定に良好に一致していた。しかし、Tmの分布は2つのアッセイで異なっていた。さらに、パネルを2つのアッセイ間で交互にしたので、Tmの分布が交互になることが観察された。流路ごとのTmのばらつきは、温度測定とは無関係であり(2つの独立した方法が一致しているため)、かつ温度の均一性とは無関係である(均一性は異なる分布の間で交互にならないので)ように見えた。
【0103】
図20は、外部ヒータを備えた17個の融解物のパネルに対する流路によるTmの分布を示す。奇数の融解物(UCE 17)は左側に示され、偶数の融解物(*3)は右側に示される。8つのPtトレース温度測定(各半分の左欄)は、外部センサー測定(各半分の右欄)と良好に一致している。しかし、Tmの分布は2つのアッセイで異なっており、パネルが2つのアッセイ間で交互であるので、分布は交互であるように見える。
図20で報告されている実験で使用されたカートリッジは、CA−0576として特定された。
【0104】
流路ごとのばらつきを、非外部ヒータ制御カートリッジを用いた同様の分析を行うことによってさらに調査した。制御システムは、9番目の独立した温度測定(外部サーミスタ)を欠いていたが、パネルが2つのアッセイ間で交互であるので、Tmの分布はやはり交互であることが観察された。一例では(エラー、情報源不明)、*3融解物10、12、14、および16において、UCE 17融解物11、13、15、および17には存在しなかった持続的な「M」字形が、Tm分布で観察された。
【0105】
図21は、「Baker」の従来のカートリッジのための17個の融解物のパネルに対する、流路によるTmの分布を示す。Tmの分布はやはり2つのアッセイで異なっていた。*3融解物10、12、14、および16の「M」字形は、UCE 17融解物11、13、15、および17には存在しないことが分かる。しかし、両方のアッセイに存在する傾向もある(例えば、Tm,1は常にTm,2よりも高く、Tm,7は常にTm,8よりも高い)。
図21で報告されている実験で使用されたカートリッジは、CA−0709として特定された。
【0106】
Tmのドリフト
融解温度は、外部ヒータ(
図22エラー、情報源不明)および従来のカートリッジ(
図23)の両方で、パネル全体を通して低下に傾いていることが観察された。傾き(dTm/dt)は分析した流路距離の95%で負であった。平均の傾きは−0.0036℃/分であり、これは、最初と最後のUCE 17融解物間におけるTmの0.4℃の減少と一致する。この効果の理由については追及しないが、この傾向は、2つの異なる加熱方法(Ptトレース・ヒータ対外部ヒータ)、ならびに3つの異なる温度測定(加熱できないPtトレース・センサ、加熱もするPtトレース・センサ、および外部サーミスタ)で類似しているように見える。
【0107】
図22は、「Albert」の外部ヒータ・カートリッジを用いた、時間に伴うUCE 17のTmの浮動を示す。この図では、温度測定は埋め込みプラチナ・トレース・センサーに基づき、UCE 17は9回融解した。明白なTmの下向きの傾向がある。
図22で報告されている実験で使用されたカートリッジは、CA−0435(左上)、CA−0583(右上)、CA−0576(左下)、およびCA−0447(右下)として特定された。
【0108】
図23は、「Baker」の従来のカートリッジを用いた、時間に伴うUCE 17のTmの浮動を示す。UCE 17は9回融解した。少数のアウトライヤーを除いて、明白なTmの下向きの傾向がある。
図23で報告されている実験で使用されたカートリッジは、CA−0777(左上)、CA−0776(右上)、CA−0709(左下)、およびCA−0698(右下)として特定された。
【0109】
要約および結論
外部ヒータは、融解中の帯域2全域における蛍光の均一な減少、より急な融解遷移、ならびに内部のもの(流路2〜7)と同じ融解プロファイルを示す外部流路(1および8)によって証明されるように、温度の均一性の改善をもたらした。
【0110】
外部センサーは、冷却気流によって、プラチナ・トレース測定と比較して温度がずれ、それによってセンサー温度が低下した。これは、外部ヒータの上の気流を遮断することによって対処されてきた。それにも関わらず、外部センサーの使用は依然として、帯域2の温度を徐々に増減させる再現可能な方法であった。外部ヒータ・システムによって、単一の融解物のみが必要とされるので、帯域2の校正プロセスがより迅速に完了した。したがって、校正プロセスはより適時であり、単純であり、かつユーザ・フレンドリーであった。
【0111】
本発明の実施形態について、図面を参照して上記に十分に記載してきた。これらの好ましい実施形態に基づいて、本発明について記載してきたが、本発明の趣旨および範囲内で、記載された実施形態に対して特定の修正、変更、および代替の構成を行うことが可能であることが、当業者には明白であろう。