(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の記述において、説明の目的で、本発明の1つ以上の実施形態の理解を提供するために、多数の詳細事項、例えば例示的な濃度および代替的ステップまたは手順について述べる。しかし、これらの具体的な詳細事項が本発明を実施するために必要でないことは当業者には明らかであるとともに、明らかとなる。
【0012】
さらに、以下の詳細な記述は、本発明を実施するための現在考えられる最良の形態のものである。記述は限定的な意味を意図するものではなく、発明の一般原理を説明するためになされるにすぎない。本発明の多様な特徴および利点は、以下の詳細な記述を添付図面と併せて参照することによって、より容易に理解され得る。
【0013】
最初の事項として、および読者への助けとなるように、複数の用語を定義し、ガス分離膜またはシステムのごく一般的な記述を行う。
【0014】
概して、ガス分離膜は本明細書で使用する場合、薄手金属フィルムおよび/または他の材料の連続層が表面に付着して、液体および特定のガスに対して不透過性の複合膜を形成するガス透過性多孔性支持体より成る。この方式で、該膜を使用して特定のガスを分離することができる。
【0015】
「液密」という用語は、本明細書で使用する場合、製造中のガス分離膜システムに適用される説明用語である。「液密」という用語は、膜および膜が上に載っている支持体の厚さにわたる圧力差の印加時に、液体(通例は水)が膜の孔をもはや通過できないような密度にガス分離膜が達していることを意味する。多くの例において、2、3mmHgの真空の印加時に、水が膜を通過しない場合、膜は「液密」であると考えられる。
【0016】
ガス選択性材料は、本明細書で使用する用語として、高密度の薄手フィルムの形である場合にガスに対して選択透過性であり、このためこのような材料の高密度薄層が選択したガスを選択的に通過させて、他のガスの通過を防止するように機能する材料である。該用語はガス選択性金属を含む。
【0017】
「ガスタイト」または「ガス密」という用語は、本明細書で使用する場合、製造中のガス分離膜システムに適用される説明用語である。「ガスタイト」または「ガス密」という用語は、本明細書で使用する場合、膜が特定のガスを透過させるが、他のガスがある場合でも、膜をほとんど通過させないことを意味する。このため膜は、特定のガスに対して高い「選択性」を有する。多くの例において、特定のガスは水素である。
【0018】
「選択性」という用語は、本明細書で使用する場合、膜を通る漏れ検知ガス、例えば窒素またはヘリウムの流量で割った膜を通る特定のガスの流量の無次元の比によって表される、膜または膜システムの測定された属性である。「流量」という用語は、本明細書で使用する場合、所与の圧力にてガスが膜を通過できる速度を意味する。流量の測定に使用される次元は、使用する測定装置に応じて変わることがある。通例、流量m
3/(m
2時・バール
1/2)として測定され、これは圧力1バールにおけるml/分に変換できる。例として、水素に対して選択性の膜について論じる。高純度の水素を製造する場合、理想的なガス選択性膜は無限に近づく選択性を有するが、実際には、膜の窒素に対する選択性は通常、100から1,000の範囲である。膜における漏れの発生および形成は、膜層の欠陥から生じることがあり、膜がガスタイトでないことを示すものである。
【0019】
「安定性」という用語は、ガス選択性膜に関して使用する場合、合理的に苛酷な高温高圧条件下であっても、膜が長期間にわたるガス混合物からの特定のガス(例えば水素)の分離に使用され、漏れを生じ得ないことを意味する。このため、高安定性膜は、膜の使用中に膜の選択性の低下率が合理的に低い。
【0020】
ここで本発明による方法に転じると、本発明は、ガス分離膜を作製または再調整する方法およびこれの使用に関する。より詳細には、本発明は、少なくとも1つのガス選択性材料のきわめて薄い膜層を有するガス分離膜システムを製造する経済的に有利な方法、このような製造方法によって生じたガス分離膜システムおよびこれの使用に関するものである。
【0021】
請求する発明は、無電解メッキ技法を利用したガス分離膜を作製する方法である。大まかには、無電解メッキ工程は、酸化還元反応を使用して、電流を通すことなく金属を物体に付着させる。
【0022】
概して、公知の無電解メッキ工程において、メッキ槽には公知の量のメッキ溶液が投入される。メッキ溶液は、公知の濃度のガス選択性金属イオン(例えばパラジウムまたは金)および他の成分を含有する。次にメッキされる物品(例えば多孔性支持体)を、メッキ槽にメッキ溶液と接触させて一定時間にわたって配置する。この期間の間に、酸化還元反応が起こり、ガス選択性金属の薄層が物品に付着する。無電解メッキがガス分離膜の好ましい作製方法であるのは、メッキ溶液がメッキする物体のすべての部分に浸漬して、端部に沿って穴の内側に、および電気メッキによって均一なメッキが困難である不規則形状の物体を覆って金属を付着させる傾向がある。
【0023】
無電解技術は、温和な還元剤を使用する錯化金属の還元を包含する。例えば、パラジウムの付着は以下の反応によって起こり得る:2Pd(NH
3)
42Cl+H
2NNH
2+4NH
4OH−>2Pd+N
2+8NH
3+4NH
4Cl+4H
2O。
【0024】
ガス選択性材料の付着のための好適な無電解メッキ法の例は、US7,390,536および7,727,596に開示され、この両方は参照により個の全体が組み入れられている。 PdおよびAg付着の反応速度に対する温度、メッキ溶液成分の濃度および多孔性支持体の回転の効果を示す無電解メッキのさらなる例は、Ayturk,et.al.,Electroless Pd and Ag deposition kinetics of the composite Pd and Pd/Ag membranes synthesized from agitated plating baths,Journal of Membrane Science,330(2009)233−245(「Ayturk論文」)にて論じられ、これの全体は参照により組み入れられている。
【0025】
しかし、無電解メッキの基礎を成す基本的な化学作用は多少理解されているが、複数の問題がガス分離膜の商用製造を妨げている。貴金属膜の作製は普通、膜の最終的な孔または欠陥を封孔する問題により妨げられ、封孔は膜の選択性に影響を及ぼす。現時点で、問題の一部は、多孔性支持体の孔分布ならびに多孔性支持体とメッキ溶液との界面における物質移動効果に関連していると考えられる。
【0026】
膜の封孔を改善する方法を調査するにあたって、無電解メッキ工程中にメッキ溶液を循環させることによって、膜の最終的な開孔および欠陥の封孔が促進され、より効率的な方式での膜の製造につながることが発見された。メッキ溶液を循環させる他の利点は、支持体への膜層のメッキの均質性または平坦性が改善されることならびにメッキ速度が上昇することである。
【0027】
多孔性支持体(および続いて付着した金属膜層)を取り巻く圧力を操作することにより、膜の最終的な開孔および欠陥の封孔が促進され、より効率的な方式での膜の製造につながることも発見された。この2つの発見を組合せることにより、ガス分離膜の生産効率が改善される。さらにこれらの発見は、使用済み膜をガスタイト状態に再調整する能力を提供し、従来の生産方法を使用してガスタイト条件を達成できないと考えられていたシステムにおいてガスタイト膜を生成するために使用されてきた。
【0028】
読者への助けとなるように、本発明は、混合ガス流から水素ガスを分離するためのパラジウム膜を形成する状況にて論じられる。この状況で助けとなるものは、特許請求の範囲を制限するものとして解釈されないものとする。
【0029】
本発明による方法は、多孔性支持体の提供から開始する。本発明のガス分離膜システムの作製で使用される多孔性支持体またはこれのいずれの要素も、ガス透過性(例えば水素透過性)であり、上に付着されるガス選択性材料の膜の支持体として使用するのに好適である、いずれの多孔性材料をも含み得る。多孔性支持体は、多孔性材料が金属間拡散バリア粒子の膜(以下で論じる。)および/またはガス選択性材料の膜の多孔性材料への利用を可能にする表面を有するならば、いずれの形状または形態でもよい。このような形状は、多孔性材料の平面または曲線状シートを含み得る。好ましくは、多孔性支持体は、相互に対向して支持体の厚さを画成する、第1の表面(例えば上面)および第2の表面(例えば下面)を有する。または支持体の形状は、共に支持体の厚さを画成する第1の表面(例えば外側表面)および第2の表面(例えば内側表面)を有し、管形状の内側表面が管状導管を画成する、管状、例えば長方形、正方形または円形管状形状とすることが可能である。
【0030】
多孔性支持体は、これに限定されるわけではないが、ステンレス鋼、例えばステンレス鋼の301、304、305、316、317および321シリーズ、20以上のハステロイ(登録商標)合金、例えばハステロイ(登録商標)B−2、C−4、C−22、C−276、G−30、Xおよび他ならびにインコネル(登録商標)合金、例えばインコネル(登録商標)合金600、625、690および718を含む、当業者に公知の材料のいずれからも選択される、いずれの好適な多孔性材料も含み得る。このため多孔性支持体は、水素透過性であり、クロムを含み、好ましくはさらにニッケルを含む合金を含み得る。多孔性金属材料は、鉄、マンガン、モリブデン、タングステン、コバルト、銅、チタン、ジルコニウム、アルミニウムおよびこれのいずれの組合せから成る群より選択される追加の合金金属をさらに含み得る。
【0031】
多孔性金属材料としての使用に好適な1つの特に望ましい合金は、合金の総重量の約70%までの範囲の量のニッケルおよび合金の総重量の10から30重量パーセントの範囲の量のクロムを含み得る。多孔性金属材料として使用するための別の好適な合金は、30から70重量パーセントの範囲のニッケル、12から35重量パーセントの範囲のクロムおよび5から30重量パーセントの範囲のモリブデンを含み、これらの重量パーセントは合金の総重量に基づいている。インコネル合金が他の合金よりも好ましい。
【0032】
多孔性支持体の厚さ(例えば、上記のような壁厚またはシート厚)、多孔率および孔の孔径分布は、所望の性能特徴および他の所望の特性を有するガス分離膜システムを提供するために選択された多孔性支持体の特性である。通過する高いガス流量を提供するために合理的に薄い厚さを有する多孔性支持体を使用することが所望であり得る。
【0033】
以下で検討する用途のための多孔性支持体の厚さは、約0.05mmから約25mmの範囲にあってよいが、好ましくは厚さは0.1mmから12.5mmの、より好ましくは0.2mmから5mmの範囲にある。
【0034】
多孔率という用語は、本明細書で使用する場合、多孔性支持体材料の総体積(即ち非固体および固体)に対する非固体体積の割合として定義される。多孔性支持体の多孔率は、0.01から0.5の範囲にあってよい。より代表的な多孔率は0.05から0.3の範囲にある。
【0035】
多孔性支持体の孔径分布は、中央孔径値によって片化することがあり、中央孔径値は通例、約0.1μmから約15μmの範囲にある。より通例には、中央孔径値は、0.2μmから10μm、最も通例には、0.3μmから5μmの範囲にある。
【0036】
本発明の実施における必須ではないが推奨されるステップとして、ガス選択性金属イオンを付着させる前に多孔性支持体の表面に金属間拡散バリア粒子の層を施すことが含まれる。多孔性支持体上に金属間拡散バリアを生成することは、当分野で公知であり、本明細書では大まかにのみ論じる。バリアの目的は、多孔性支持体中の金属原子が多孔性支持体に付着した貴金属薄膜中に拡散するのを防止するまたは実質的に排除することである。このような拡散は、膜の選択性を損なうことがある。
【0037】
好ましくは、金属間拡散バリアは、無機酸化物、耐火金属、貴金属エッグシェル触媒およびこれの組合せから成る群より選択される材料の粒子から形成される。これらの粒子は、粒子または少なくとも粒子の一部が、多孔性支持体の孔の少なくとも幾つかに嵌合できるようなサイズであるべきである。このため、粒子は概して約50μm未満の最大寸法を有するべきである。概して、拡散バリア粒子の粒径(即ち粒子の最大寸法)は、本発明のガス分離膜の作製に使用する多孔性支持体の孔の孔径分布に応じて変わる。
【0038】
通例、無機酸化物、耐火金属または貴金属エッグシェル触媒の粒子の中央粒径値は、0.1μmから50μmの範囲となる。より具体的には、中央粒径値は0.1μmから15μmの範囲であることが可能である。粒子の中央粒径値は0.2μmから3μmの範囲にあることが好ましい。
【0039】
金属間拡散バリア粒子の層を形成するのに使用され得る無機酸化物の例としては、特にアルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリコン、カーバイド、酸化クロム、セラミック材料およびゼオライトが挙げられる。耐火金属としては、特にタングステン、タンタル、レニウム、オスミウム、インジウム、ニオブ、ルテニウム、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウムおよびモリブデンが挙げられる。金属間拡散バリア粒子の層を形成するのに使用され得る貴金属エッグシェル触媒に関して、このような貴金属エッグシェル触媒は、米国特許第7,744,675号明細書できわめて詳細に定義および記載され、この全体のテキストは参照により本明細書に組み入れられている。
【0040】
多孔性支持体の表面に施されて表面処理支持体を提供する金属間拡散バリア粒子の層は、多孔性支持体の孔を被覆して、0.01μmを超える、概して0.01μmから25μmの範囲の層厚を有する層を提供するような層であるべきである。層厚は、好ましくは0.1μmから20μmの、最も好ましくは2μmから3μmの範囲である。好ましくは、金属間拡散バリアは、低真空下で短期間(例えば、または10mmから25mmHgの真空下にて約3分から約10または15分間)にわたって施される。
【0041】
ひとたび所望の多孔性支持体が選ばれ、所望ならば金属間拡散層を用いて作製されると、多孔性支持体が一定量のメッキ溶液を含有するメッキ槽内に配置されて、無電解メッキの工程が開始される。しかし、本発明による無電解メッキの機構を論じる前に、当分野における標準慣行となった多孔性支持体を作製するための必須ではないステップ、即ち多孔性支持体の前処理または「シーディング」(支持体を「活性化すること」としても公知である。)について論じることが必要である。
【0042】
多孔性支持体の「シーディング」は、選ばれたガス選択性材料の粒子によって多孔性支持体を前処理して、ガス選択性材料の次の層の付着を補助する核形成部位を提供することを含む。この前処理は複数の形をとることが可能であり、この形の幾つかは、金属間拡散バリアを形成する工程と重複することがある。例えば、本発明の一実施形態において、多孔性支持体は、これをアルミナの層、またはジルコニアの安定化形、例えばパラジウムもしくは金を含有するイットリア安定化ジルコニアによってコーティングすることによって前処理される。
【0043】
または、多孔性支持体は、貴金属エッグシェル触媒の層を多孔性支持体の表面に配置することによって前処理できる。このようなエッグシェル触媒の層を多孔性支持体に施すための方法は、参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第7,744,675号明細書に教示されている。
【0044】
同様に、前処理は、参照により本明細書に組み入れられている米国特許第7,959,711号明細書に記載されているように、ガス選択性金属または金属合金のナノ粉末またはナノ粒子を多孔性支持体の表面に施す形をとることができる。
【0045】
前処理のさらなる方法は、多孔性支持体を液状活性化組成物によって処理することである。例えば、多孔性支持体は、すず(II)ジクロリド(stannous chloride)の酸性水溶液に浸漬して、次に酸性パラジウム(II)ジクロリド(palladium chloride)水溶液浴に浸漬して、表面にパラジウムをシーディングすることができる。多孔性支持体をパラジウム塩で処理して、続いてヒドラジンで処理することは、パラジウム核を多孔性支持体に付着させる別の方法である。
【0046】
前処理のまたさらなる方法は、多孔性支持体の表面に少量のガス選択性材料によって「シーディング」するための、短時間のメッキ反応(以下で論じる。)を行うことである。
【0047】
ここで無電解メッキ工程に転じると、一定濃度のガス選択性金属イオンを有するメッキ溶液が提供される。本発明の実施で用いるメッキ溶液に含有されるガス選択性金属イオンとしては、多孔性支持体の表面上に層として配置される場合に、ガスに対して選択的に透過性である特性を有するいずれの金属または金属合金または合金可能な金属の混合物が挙げられる。ガス選択性金属が水素選択性であることが好ましい。
【0048】
しかし、本発明の実施に特に良好に適したメッキ溶液を定義する助けとなるメッキ溶液の別の特徴がある。この特徴は、特定の付着工程が拡散およびこれに関連する物質移動効果によって影響を及ぼされるか否かということである。現在、幾つかのメッキ工程は少なくとも一部が「拡散制御されている」と考えられ、撹拌が金属付着の速度を改善するらしいことを意味する。反対に、他の参考文献で論じられているのは、メッキ溶液中で機械式撹拌または発泡ガスによる撹拌のどちらかによって、金属付着の速度が一定の程度まで妨げられるらしいということである。Mallory,et.al.,Electroless Plating:Fundamentals and Applications;American Electroplaters and Surface Finishers Society,1990(pp.46−47)。
【0049】
ある金属(例えば銀)を含有するメッキ溶液が拡散制御されるか否かに関して、当業者の間に意見の相違がある。この決定を行うために作用する変数は変動し、数ある中でも溶液中の金属イオンの濃度、溶液の他の成分(例えば安定剤)が挙げられる。しかし、現在までの研究により、本発明による本発明による方法は、(この時点で)拡散律速であると見なされるメッキ溶液を包含する、無電解メッキ手順で使用するために特に良好に適していることが示されている。このようなメッキ溶液としては、パラジウムおよび金ならびにこれの合金を含有するメッキ溶液が挙げられる。
【0050】
このような溶液を形成する方法は、当業者に周知であり、本明細書で詳細に論じる必要はない。サンプルメッキ溶液としては、Ayturk文献;米国特許第7,727,596号明細書;同第7,390,536号明細書;同第7,744,675号明細書;および米国特許出願公開第2009/0120293号明細書に記載されている組成物を用いたメッキ溶液が挙げられる。代表的なメッキ溶液は、金属イオン源(例えばPdCl
2、Pd(NH
3)
4Cl
2、Pd(NH
3)
4Br
2、Pd(NH
3)(NO
3)
2)、錯化剤(例えばエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、NH
4OHまたはエチレンジアミン(EDA))、還元剤(NH
2NH
2、NaH
2PO
2・H
2O、トリメチルアミンボラン)、安定剤および加速剤を含む。浴組成物の例としては、表1に示すものが挙げられる。表1に示す浴成分濃度の幾つかは、Ayturk論文によるものである。追加のサンプルメッキ溶液について実施例で論じる。
【0052】
本発明の実施での使用に好適なメッキ溶液の形成に使用される個々の成分の好ましい範囲としては、表2に示すものが挙げられる。最も好ましい範囲としては、以下が挙げられる:3−4g/LのPd(NH
3)
4Cl
2・H
2O;20−40g/LのNa
2EDTA・2H
2O;190−400ml/LのNH
4OH;および35−55℃の温度。特に好ましい範囲としては、以下が挙げられる:3.5−4g/LのPd(NH
3)
4Cl
2・H
2O;20−40g/LのNa
2EDTA・2H
2O;190−250ml/LのNH
4OH;および40−50℃の温度。
【0054】
簡単に言えば、無電解メッキ反応は、多孔性支持体(またはこれの上に付着した金属薄層)と液状メッキ溶液との間の界面で発生する化学反応である。反応物質(例えば金属イオン、還元剤など)は、メッキ溶液中にある初期濃度で存在している。現在、界面における反応が進行するにつれて、界面のごく近くの反応物質の濃度は欠乏するようになる。この欠乏は、支持体/液体界面(即ち支持体の第1の表面)から、界面から離れた第2の点まで延在する濃度勾配をもたらし、界面における濃度プロフィールの導関数はゼロに近づく。
【0055】
言い換えれば、金属イオンは溶液から出て、液体/支持体界面にて支持体に付着し、これによりメッキ溶液中の界面のごく近くで金属イオンの濃度が低下する。金属イオンが界面から離れるときに、金属イオンの濃度は2つの隣接する点の間の増分がわずかであり、金属イオン濃度がバルクメッキ溶液で測定した濃度と同じである点に達するまで上昇すると考えられる。
【0056】
理論においては、この濃度勾配は数ミクロンの距離にわたって発生し、多孔性支持体の周囲に「欠乏ブランケット(depletion blanket)」を生成すると見なすことができる。あるメッキ溶液を撹拌することによりメッキ付着速度を上昇できることを示す研究を考慮すると、「ブランケット」というたとえは、妥当性を有するように思われる。例えばAyturkおよびMa(「Ayturk論文」)は、PdおよびAgメッキ反応の間に多孔性支持体管を0から600rpmの間で回転させる一連の実験を行った。提示されたデータに基づいて、支持体管の回転を金属付着の速度を上昇させると思われる。
【0057】
しかし、管をメッキ溶液中で回転させるだけの場合、管は「欠乏ブランケット」層内で回転するだけであり、支持体/液体界面にて、欠乏メッキ溶液とより高い濃度のメッキ溶液との十分な交換が行えない可能性が高いことが認められた。同様に、メッキ溶液の撹拌に気泡を使用する取り組みは、メッキ溶液のより完全なバルク混合の助けとなり得る。しかし、支持体/液体界面におけるこのような気泡により誘発された混合はいずれも一様でなく、界面における反応物質の濃度は上昇するものの一貫せず、このためこれらの方法で見られるガス分離金属の均一とは言えない付着につながると考えられる。加えて、機械的撹拌が過剰に行われると、非常に壊れやすい膜が破損するおそれがある。
【0058】
支持体を回転させることまたはメッキ溶液に通気することとは対照的に、メッキ溶液を循環させることは、無電解メッキ中に撹拌を与える改良された方法であり、ガス選択性金属の付着の改善につながる。研究は進行中であり、出願人は特定の理論によって束縛されることを望むものではないが、今回、循環メッキ溶液の流れは、低濃度メッキ流体の層を支持体/液体界面から連続して除去し、または「ふき取り」、付着点における反応物質の濃度を一様の方式で効果的に補充または増加する役割を果たすと考えられる。
【0059】
または、メッキ槽にメッキ溶液を循環させること(以下でより詳細に論じる。)多孔性支持体の表面とメッキ溶液濃度プロフィールの導関数がゼロに接近する点との間の距離を、他の撹拌方法と、特に支持体の回転と比べて著しく短縮すると考えられる。
【0060】
本発明による方法の例示的な議論に戻ると、無電解メッキ用途で使用するのに好適なメッキ槽が提供される。このようなメッキ槽の基本的な設計は、当業者に周知であり、本明細書で詳細に論じる必要はない。しかし、本発明の実施にとっては、無電解メッキ工程の間にメッキ槽がメッキ溶液を循環できることが必要である。
【0061】
大半の例において、メッキ槽が相互に流体連通した入口および出口を有する包囲された空間を含むことが想定される。
【0062】
好ましくは、入口および出口は、中に含有された1個または複数の多孔性支持体の表面全体にわたってメッキ溶液流が提供されるように、相互から十分に隔設されている。メッキ槽の向きは本発明の実施にとって重要ではないため、容器を垂直、水平または角度を付けて配置することができる。
【0063】
同様に、メッキ槽のサイズは本発明の実施にとって重要でないと考えられる。商用用途において、請求された発明は、2、3リットルから数百または数千リットルの量を有するメッキ槽に好適となることが想定される。メッキ溶液の循環を提供する方式は、本発明の実施において変わることがある。好ましい実施形態において、ポンプは入口と出口の中間に位置し、メッキ溶液は容器内を循環する。ポンプは、メッキ槽の設計に応じてメッキ槽の内側または外側に位置することができる。同様に、利用されるポンプのサイズおよび種類(例えば遠心または蠕動)は、特定の商用工程に応じて変わる。
【0064】
大規模商用工程では、1分に付き大量のメッキ流体(例えば1分に付き数百または数千リットル)を循環させることができるポンプが必要とされ得る。より小型のベンチレベルまたは高度に専門化された操作では、流速がml/分またはL/分範囲に設定された小型蠕動ポンプ(例えば実施例で使用されるポンプ)で十分であり得る。大半の工業的工程と同様に、請求された方法の実施に影響を及ぼす正確な工程パラメータは、利用可能な装置および生産上の制約に応じて多少変動する。例示的なパラメータは、読者への助けとなるように、詳細な説明全体で提供される。
【0065】
加えて、
図1から4は、考えられるメッキ槽の構成の概略表示である。
図1から4はまた、本発明を実施するために利用できる多様な方法ならびに陰圧および陽圧の組合せを概略的に示す。これらの図は、実施例の項でより詳細に論じる。
【0066】
多孔性支持体はメッキ槽内に配置され、メッキ溶液と接触している。メッキ溶液から多孔性支持体の第1の表面(例えば外表面)上へのガス選択性金属イオンの無電解付着を促進するのに十分な条件下で一定時間にわたり、多孔性支持体とメッキ溶液との接触を維持して、上で論じたような濃度プロフィールを生成し、最終的に多孔性支持体の第1の表面上にガス選択性金属の膜層を生成させる。
【0067】
温度範囲、時間、メッキ溶液成分などを含む無電解付着を促進するのに十分な条件は、当業者に公知であり、上記のAyturk論文を含む複数の特許および学術文献で論じられている。これらの条件は工程の装置および製造者の特定の目標に応じて変化し得るが、多くの例において、無電解メッキステップは、20℃から80℃の範囲の、より好ましくは30℃から70℃の範囲の、最も好ましくは40℃から60℃の範囲の温度にて行われることが想定される。
【0068】
同様に、メッキ反応を行う時間は、他のメッキ条件に応じて広い範囲にわたって変化することがある。好ましい実施形態において、メッキ反応は、10分から3時間以上の間の時間で行う。好ましい実施形態において、反応は30分から120分の間続く。45分から90分の反応時間が特に好ましい。
【0069】
他の工程パラメータと同様に、メッキ槽中のメッキ溶液の正確な循環速度は、とりわけ他の因子の中でも、メッキ溶液の濃度、メッキ溶液の温度に応じて変化することがある。加えて、循環速度は、異なるが関連した方法で定義することができる。
【0070】
例えば、循環速度を時間当たりの体積で定義することができる。
【0071】
または、循環速度を、一定体積のメッキ溶液が容器を完全に通過するのにかかった時間として定義することができる。この例において、循環速度は、メッキ槽の体積をメッキ溶液の流速で割ることによって計算される(例えば1000体積単位/(250体積単位/分)。例えば、0.1分から1時間以上の範囲である、メッキ槽中でのメッキ溶液の滞留時間(またはメッキ槽を通過する時間)を与える速度として、循環速度を計算することができる。大半の商用用途において、循環速度は、0.1分から3時間の、より好ましくは10分から120分の、最も好ましくは20分から90分のあたりになると想定される。
【0072】
特定の工程の最適循環速度を決定するにあたっての別の考慮事項は、メッキ溶液の流れ(流量)である。循環が低速すぎる場合、本発明の利点は十分に利用されない。同様に、循環が高速すぎる場合、循環によってメッキ工程が抑制されることがある。いずれの特定の工程でも、循環速度に対する定量的制限(例えばL/分の数値)は、この工程の固有のパラメータになると思われる。
【0073】
定量的に言えば、循環速度の上限は、メッキ溶液の層流を維持することがもはや可能ではない速度である。または、循環速度の上限は、乱流が始まる速度である。
【0074】
乱流が循環速度の上限を定義するのは、メッキ溶液の乱流が多孔性基材上の壊れやすい貴金属層を破損するおそれがあるためである。このため乱流は、通気などの撹拌方法を利用するこれらの工程で見られるのと同じ問題を引き起こす傾向があり、回避すべきである。
【0075】
メッキ反応を決められた期間にわたって行った後、多孔性支持体および付着したガス選択性金属膜をメッキ溶液から取り出す。この後、支持体および膜を洗浄、乾燥および好ましくはアニーリングすると、アニーリング済みの膜層を有するアニーリング済み支持膜が提供される。付着したガス選択性金属層のアニーリングは、当分野で公知である。通例、アニーリング工程は、不活性ガス雰囲気下で、使用する特定のガス選択性金属に応じて、200℃から800℃の温度にて行う。例示的なアニーリング工程は、参照により組み入れられている、米国特許出願公開第2009/0120293号明細書で論じられている。
【0076】
アニーリング後、多孔性支持体であって、これのアニーリング済み支持膜層を有する多孔性支持体を研磨して/研削して、約2.5−0.8のSa値を有する表面を得て、次に第2のメッキ溶液と接触するように元のメッキ槽または第2のメッキ槽内に配置する。研磨/研削ステップは、メッキの高さを一様に維持するのに助けとなることが示されている。研磨/研削は、膜が厚くなりすぎないようにするのにも役立ち得る。
【0077】
第2のメッキ溶液は、第2のガス選択性金属イオン濃度を含有する。この第2のガス選択性金属イオンは、第1のメッキ溶液と同じであるか、または異なることがある。同様に、(第2のメッキ溶液の成分の残りと共に)第2のメッキ溶液中の金属イオンの濃度は、第1のメッキ溶液と同じであるか、または異なることがある。
【0078】
次に、メッキ槽(または第2のメッキ槽)内のメッキ条件を維持しながら、および第2のガス選択性金属イオンの第2の濃度プロフィールが第2のメッキ溶液内で生成するようにさせながら、アニーリング済み膜層を第2のメッキ溶液と第2の期間にわたって接触させる。第1の濃度プロフィールと同様に、第2の濃度プロフィールがアニーリング済み膜層は、アニーリング済み膜層から離れた第2の距離点まで延在し、第2の点では第2の濃度プロフィールの導関数がゼロに近づくと考えられる。
【0079】
次にメッキ溶液は、第1のメッキステップと同じまたは同様の方式で、アニーリング済み膜層の表面と第2の距離点との間の距離を著しく短縮するのに十分な循環速度にて循環し、第2の遠隔点では第2の濃度プロフィールの導関数がゼロに近づく。第2のメッキ工程は、第2のガス選択性材料の第2の膜層がアニーリング済み膜層上に付着するまで続き、これにより第2の支持膜が与えられる。
【0080】
第1のアニーリング済み膜層および第2の膜層を現在支持している多孔性支持体が再度アニーリングされて多孔性支持体を形成し、これが第1および第2のアニーリング済み膜層を支持して、これらが第2の支持アニーリング済み膜を形成する。液密、ガスタイトおよびガス選択性である複合ガス選択性膜が生成されるまで、上のメッキステップ、洗浄ステップ、アニーリングステップおよび研削ステップが反復される。
【0081】
上のメッキステップおよびアニーリングステップを反復することによってガスタイトガス分離膜を得ることは理論的に可能であるが、ガスタイト膜を得るために必要なメッキの反復回数を減少させることが示されている、本発明による方法の好ましい実施形態において使用される追加のステップがある。これらの必須ではないが好ましいステップについて以下で論じる。
【0082】
1回以上のメッキステップの間に支持体厚に圧力差を印加することによって、ガスタイト膜を得るために必要なメッキの反復数が減少することが示されている。大まかに言えば、圧力差の印加は、多孔性支持体の一方の表面(ガス選択性材料が上に付着されている表面)に高圧を、反対の表面に低圧を生成することより成る。
【0083】
このような圧力差を生成する1つの方式は、ガス選択性金属が上に付着されている表面と反対の多孔性支持体の面に真空を印加することによる。真空は、より多くのガス選択性金属を多孔性支持体の孔中に吸引し、これによりガスタイト膜をより少ないステップでの生成を補助することができる。しかし、工程の早すぎる時期に印加する真空が多すぎると、またはより少ない真空をあまりに長期にわたって印加すると、過剰なガス選択性金属が孔中に吸引されることがあり、これにより低い浸透性を有し得る重く高価なデバイスがもたらされる。好ましい実施形態において、真空はアニーリング済み膜層が液密となるまで印加されず、このことは多すぎるガス選択性材料が多孔性支持体中に吸引されるのを防止する助けとなる。
【0084】
複合ガス選択性膜によって液密、ガスタイトおよびガス選択性状態が達成される時点を判定するために、1つまたは複数のアニーリング済み膜層の試験を定期的に、好ましくは各付着ステップ後に行う。好ましい実施形態において、アニーリング済み膜層は、これの液体に対する密度を判定するために定期的に試験される。
【0085】
アニーリング済み膜層の密度を試験する代表的な方法は、多孔性支持体を液体、通常は水に暴露しながら、定義された真空レベルを多孔性支持体の1つの表面、通例、アニーリング済み膜層と反対の表面に印加することによる。水がアニーリング済み膜層を通じて吸引されない場合、システムはこの特定の圧力差では液密であると見なされる。
【0086】
本発明の好ましい実施形態において、システムがいったん液密であると見なされると、通常は真空の形の圧力差が多孔性支持体に印加される。第1のメッキ反応の間に、所望ならば弱い真空を印加することができ、他の反応条件(例えば多孔性支持体の孔径)は、多孔性支持体に金属があまりに多く吸引されるのを防止する。
【0087】
代替的実施形態において、支持体の厚さにわたる圧力差の印加は、アニーリング済み膜層を支持する表面(即ち第1の表面)に印加される圧力を、対向する表面(即ち第2の表面)に印加する圧力と比べて上昇させることにより行うことができる。またさらなる代替的形態は、真空および陽圧を支持体に印加することである。
【0088】
圧力差の下でのメッキ開始後に、アニーリング済みガス選択性金属の次の層に定義された間隔で試験を行って、所望の透過率および選択性に近づいているか否かを判定する。概して、メッキ工程中に多孔性支持体の厚さにわたり圧力差を印加すると、市販の機能性ガス分離膜を得るために必要なメッキステップの回数が減少することが示されている。
【0089】
圧力差の印加は、漸増的な段階的方式で行うことができる。例えばシステムがいったん液密と見なされると、次のメッキ工程で40mmHg以下の真空を、続いて次のメッキ工程で25mmHg以下の真空を印加することができる。または、すべての液密後メッキ工程の間に、膜が既定の選択性レベルに達するまで、標準真空、例えば1mmHgから25mmHgを使用することができる。膜がいったんこの既定の選択性レベルに達すると、高い圧力差が基材と膜にわたって印加されて、膜を封孔する。この工程について下でより詳細に論じる。
【0090】
膜システムが可能な限り高い選択性を有することが最良であるが、通例、膜システムで水素に許容されるまたは所望の選択性は、ヘリウムに対して、少なくとも約100である。より通例には、膜システムの所望の選択性は少なくとも500であり、最も通例には、膜システムの所望の選択性は1000を超えるべきである。膜システムの選択性は、5,000さえ、または10,000さえ超え、このため膜システムがこのような選択性を有することは望ましい。
【0091】
層付着の間に膜システムの密度が上昇するにつれ、漏れ速度は低下する。しかし上述したように、複合膜の最終的な少数の孔を封孔して、ガスタイト状態を得ることが困難な場合が多い。このため、複合膜がガスタイト性に近づくと、非常に高い圧力差が支持体厚にわたって印加され、複合膜に最終的に残存する孔にガス選択性金属を追い込む助けとなる。工程における高い圧力差が印加される点は、システムの特徴および実施者の個人的な好みに基づいて多少変わることがある。本発明の好ましい実施形態において、次のメッキステップの間に膜に残存する開口部の封孔が十分に促進されるほどガス漏れ速度が著しく低い場合に、高い圧力差が印加される。
【0092】
前と同様に、高い圧力差は、膜層と反対の表面に印加された真空、膜層を有する表面に印加された陽圧または真空と陽圧の組合せを使用して達成することができる。好ましい実施形態において、20mmHg以下の真空(または同等の圧力差)を使用して膜の最終孔を封孔して、所望のレベルの透過率および選択性を得る。
【0093】
本発明の工程における別の代替的であるが好ましいステップは、多孔性支持体上にコーティングされているガス選択性金属または材料の1つ以上の層の表面を研磨することである。研磨ステップを利用する場合、各アニーリングステップ後に行うことが好ましい。研磨によって、表面の異常や変形を最小限に抑えることにより、ならびに薄膜層に存在し得る開口部、例えば亀裂、ピンホールおよび他の欠陥を充填することにより、さらにメッキを行うためにメッキ層の表面が改良される。研削および研磨法は、米国特許出願公開第2009/0120287号明細書に開示されている。
【0094】
基材上に所望の厚さのガス選択性金属層を得るのに必要な回数だけメッキ操作が繰り返される。多孔性支持体上に支持された膜層の通例の厚さは、0.001μmから50μmの範囲にあり得るが、多くのガス分離用途では、この範囲の上端にある膜厚は厚すぎて、所望のガス分離を可能にする合理的なガス流量を提供できないことがある。概して、膜厚は20μm未満、好ましくは10μm未満であるべきである。上述したように、請求する発明は、商業的に許容される膜を他の公知の工程と比べてより少ないステップで得る能力を示している。
【0095】
本発明の別の実施形態は、再調整されたガス分離膜システムおよびこのような再調整されたガス分離膜システムを作製する方法に関する。この再調整されたガス分離膜システムは、多孔性支持体の第1の表面上のガス選択性金属の既存層が上にある、多孔性支持体を含む。多孔性支持体およびガス選択性金属は上記のものと同じである。
【0096】
この再調整されたガス分離膜システムは、使用中であり、欠陥や漏れを発生したすでに製造済みのガス分離膜システム、または新たに製造されたが、ガス分離膜システムの再生が必要な望ましくない欠陥または漏れを有するガス分離膜システムを再調整することによって製造できる。このようなシステムでは、多孔性支持体および既存の膜層はメッキ溶液中に配置され、上記のような付着およびアニーリングの同じステップが行われる。研磨と共に圧力差を印加するステップも上記のように利用して、再調整されたガスタイトおよび選択性膜システムを得ることができる。
【0097】
すでに製造済みのガス分離膜システムを再調整または再構築する能力は、始めから新たなシステムを製造するのとは対照的に、高価な多孔性支持体およびガス選択性材料の再使用から生じる節減のために多大なコスト上の恩恵をもたらすことができる。例えばリサイクル済み膜では通例、ガスタイト状態を得るために必要なメッキステップは、わずか1−3回である。
【0098】
最後に、本明細書に記載する本発明の方法によって作製されるガス分離膜システムまたはこれの要素は、ガス混合物から選択されたガスの選択的分離で使用され得る。ガス分離膜は、とりわけ高温用途において、水素含有ガス流から水素を分離するのに特に有用である。
【0099】
ガス分離膜システムが使用され得る高温用途の一例は、一酸化炭素および水素を得るための炭化水素、例えばメタンの水蒸気改質と、続いての、二酸化炭素を得るための水素いわゆる水性ガスシフト反応における、生じた一酸化炭素と水との反応においてである。これらの触媒反応は、平衡型反応であり、本発明のガス分離膜は、水素収率に有利となるように平衡条件を向上させるために、反応を行いながら、生じた水素を同時分離するのに有用である。反応が同時に行われる反応条件は、400℃から600℃の範囲の反応温度および1から30バールの範囲の反応圧力を含むことができる。
【実施例】
【0100】
以下の実施例は、本発明をさらに例証するために与えられているが、これらはこれの範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0101】
[実施例1]
本実施例は、循環メッキ浴を使用して得られる漏れ速度の実質的な低下を実証する。
【0102】
本実施例では、2つの多孔性支持体を利用する。支持体Aは、モットコーポレーションから供給された、外径1インチ×長さ6インチ×厚さ0.1インチの厚手多孔性インコネル625支持体であった。
【0103】
支持体Bは、モットコーポレーションから供給された、外径1インチ×長さ6インチ×厚さ0.1インチの厚手多孔性インコネル625支持体であった。支持体AとBの主な相違は初期の多孔率であり、これにより支持体Bは、支持体Aより高い初期漏れ速度を有していた。
【0104】
メッキを行う前に、各支持体に、US2009/1020293に記載されたもののように、パラジウムをシーディングしたアルミナベースのエッグシェル触媒を含む金属間拡散バリアを与えた。
【0105】
本実施例で利用するメッキ溶液は、脱イオン250グラム、28−30%アンモニウムヒドロキシド溶液198ml、テトラアミン(ammine)パラジウム(II)クロリド(Ρd(ΝΗ
3)
4Cl
2・Η
2O)4.0グラム、エチレンジアミンテトラ酢酸(Na
2EDTA
2・H
2O)40.1グラムおよび総体積を1リットルとするのに十分な脱イオン水より成り、Pd金属イオン濃度約4g/Lの溶液を得た。
【0106】
メッキ槽はポリエチレンでライニングされたガラスシリンダであった。シリンダは直径約5.7cm、長さ57cm、総体積約1.45Lであった。ポリエチレン管をメッキ槽の上部および下部に連結して、これの中に含有されているメッキ溶液と接触させた。蠕動ポンプをポリエチレン管の端部の中間に配置して、メッキ溶液がメッキ槽の下部から上部へ循環する向きにした。
【0107】
各支持体を50℃の温度にて90分にわたって1回メッキした。メッキ溶液の循環速度は、1分に付き1.4リットルであった。10分おきに多孔性支持体をわずかに回転させた。
【0108】
表3は、メッキステップの間の支持体の質量増加を示し、メッキ前の支持体の漏れ速度およびメッキ後の漏れ速度を与える。各場合において、漏れ速度は循環メッキ浴を使用することによって劇的に低下する。漏れ速度は、多孔性支持体を通過する窒素の流量に基づいている。
【0109】
【表3】
【0110】
[実施例2]
本実施例は、請求された工程が膜を効果的に封孔する能力を実証する。
【0111】
本実施例において、実施例1で使用した支持体を、2つの追加の支持体である支持体CおよびDと共に使用した。支持体CおよびDはまた、モットコーポレーションから供給され、支持体AおよびBとはこれの初期多孔率および漏れ速度が異なるインコネル支持体であった。
【0112】
メッキ反応を実施例1に記載したように行った。支持体それぞれに行ったメッキステップの回数を表8FIG.に示す。各場合において、メッキ温度は40℃であり、メッキ時間は90分である。表8FIG.はメッキ反応の間の質量増加も示し、メッキ前の支持体の漏れ速度を、最終メッキステップの終わりのメッキ材料の循環後の支持体の漏れ速度を比較した。
【0113】
各場合の循環速度は、1分に付き1.4リットルであった。大半の実験において、最終メッキステップを1mmHg未満の真空下で行ったのに対して、前のメッキステップは25mmHgの真空下で行った。例えばサンプルNo.2を見ると、25mmHgにてメッキ溶液を循環させずに行った8回目のメッキステップでは、生じた膜はなお60.32ml/分(1バールにて)の漏れ速度を有していた。次に、循環メッキ溶液を用いて高真空(即ち1mmHg未満)にて行った9回目のメッキステップでは、膜が効果的に封孔された。
【0114】
各場合において、漏れ速度は、循環メッキ溶液および高真空の利用後には、はるかに低かった。表4の漏れ速度の単位は、異なるサンプルに異なる流量計を使用したために変化することに留意されたい。
【0115】
【表4】
【0116】
[実施例3]
本実施例において、実施例2で使用した支持体を、従来の非循環法によってメッキした。
【0117】
最終的なメッキステップにおいて、1mmHg未満の真空を支持体に印加した。表5において、各場合で漏れ速度が真空印加後により低いことがわかる。
【0118】
【表5】
【0119】
[実施例4]
本実施例4は、ガス分離膜の作製に使用する本発明の方法および手段の実験装置および複数の実施形態について記載する。
【0120】
前述したように、
図1−4は、本発明の実施で使用可能であるメッキシステムならびに循環パターンおよび圧力差の考えられる組合せの概略表示を提供する。
図1は、本発明の実施で使用するメッキシステム10の考えられる一構成を示す。メッキシステム10は、開放された円筒を形成するための開放された第1の端部14および包囲された第2の端部16を有するメッキ槽12を備えている。メッキ槽12内にメッキ溶液18が含有されている。円筒状多孔性支持体20をメッキ溶液18中に浸漬する。円筒状多孔性支持体20は、開放された第1の端部21、包囲された第2の端部23ならびに前記第1の端部21および第2の端部23の中間の主メッキ区間22によって画成される。主メッキ区間22は、形成される貴金属膜の主付着表面を形成する。
【0121】
第1の端部26および第2の端部28を有する管24は、メッキ槽12内部およびメッキ溶液18と流体連通して、管の第1の端部26がメッキ槽12の開放された第1の端部14に近接して、第2の端部が28がメッキ槽12の包囲された第2の端部16に近接するように位置決めされている。蠕動ポンプ30を第1の端部26および第2の端部28の中間に配置して、ポンプ30を通過するメッキ流体の流れが矢印の方向(例えばメッキ槽における下部から上部への流れ)となるような向きにする。
図1のメッキシステム10は雰囲気に対して開放され、本発明の循環の態様を主に示すことに留意されたい。
【0122】
図2は、
図1のメッキシステム10に似たメッキシステム40を示す。
図1に示すシステムとは異なり、
図2のメッキ槽12は環状シールまたはトップ42によって包囲され、円筒状多孔性支持体20の第1の端部21が環状シールまたはトップ42を通じて延在している。円筒状多孔性支持体20の開放された第1の端部21が環状シール42と係合して、気密バリアを形成する。加圧ガス源は、加圧ガスライン44を介してメッキ槽12の内部に設けられる。このため、メッキ溶液18を含有するメッキ槽12内部とメッキ槽12の外部との間の流体連通の唯一の形は、円筒状多孔性支持体20およびこれの上に付着された貴金属薄層における孔によって提供される流体連通である。
【0123】
図2のメッキ溶液18の流れは
図1と同じであることに留意されたい。
【0124】
図2は、円筒状多孔性支持体20の外表面に印加された陽圧が圧力差を生成することができ、圧力差がガスタイトおよびガス選択性膜の形成の助けとなる、本発明の実施形態を示す。
【0125】
図3は、同様のメッキ溶液の流れを有する開放メッキ槽12を示すという点で
図1と同様である。
図3は、ガスタイトおよびガス選択性膜を形成する助けとなる圧力差を生成する手段としての、真空ライン52を介した真空ポンプ50の円筒状多孔性支持体20への取付も示す。この例において、真空は多孔性円筒状管20の内部に吸引されて、管の厚さにわたって圧力差を生成する。
【0126】
図4は、
図4に示す実施形態がメッキ溶液18の循環を利用しないことを除いて、
図2と同様である。
【0127】
本発明の多くの考えられる実施形態を、これの範囲から逸脱せずに行うことができるため、本明細書で述べるすべての事項が、限定的な意味でなく、例証的であるとして解釈されるべきである。
【0128】
本発明は、これの多様な実施形態に関して記載されてきたが、本発明の精神、範囲および教示から逸脱することなく、詳細にわたる多様な変更が本発明の中で行われ得ることが当業者によって理解される。従って、本明細書で開示する本発明は、以下の特許請求の範囲に明記されるように限定されるにすぎない。