特許第6126145号(P6126145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126145
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/652 20060101AFI20170424BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20170424BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170424BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   B01J23/652 AZAB
   B01J37/02 301P
   B01D53/94 222
   F01N3/10 A
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-13738(P2015-13738)
(22)【出願日】2015年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-137445(P2016-137445A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2016年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】白川 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】平田 裕人
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼田 恵
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−057602(JP,A)
【文献】 特開平03−056140(JP,A)
【文献】 特開2014−158992(JP,A)
【文献】 特開2005−125282(JP,A)
【文献】 特開昭48−085492(JP,A)
【文献】 特開2003−080085(JP,A)
【文献】 特開平11−333294(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0129099(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0288052(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/94
F01N 3/10
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属及びタングステンを含有しているターゲット材料にスパッタリングを行うことを含
前記スパッタリングによって複合金属微粒子をイオン液体中に落とすことをさらに含む、排ガス浄化触媒の製造方法
【請求項2】
前記複合金属微粒子を粉末担体に担持させることをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記ターゲット材料が、前記白金族金属及び前記タングステンを交互に配列した円板状材料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン液体が、脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記粉末担体が、CeO−ZrO、SiO、ZrO、CeO、Al、TiO、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される粉末担体である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記排ガス浄化触媒中の前記複合金属微粒子をSTEM−EDXで分析したときに、個数基準で80%以上の前記複合金属微粒子のタングステンの含有率が、複数の前記複合金属微粒子におけるタングステンの平均含有率の10%〜350%の範囲内である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、高温下において、複数の微粒子の粒成長を均一に抑制し、触媒活性の低下を防止することができる排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関、例えば、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジン等から排出される排ガス中には、有害成分、例えば、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、及び窒素酸化物(NOx)等が含まれている。
【0003】
このため、一般的には、これらの有害成分を分解除去するための排ガス浄化装置が内燃機関に設けられており、当該排ガス浄化装置内に配備された排ガス浄化触媒によってこれらの有害成分のほとんどが無害化されている。
【0004】
従来、このような排ガス浄化触媒としては、多孔質酸化物担体、例えば、アルミナ(Al)等に、白金族元素、例えば、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、及びパラジウム(Pd)等を担持させた触媒が広く知られている。
【0005】
また、この白金族元素は、一般的に、バルクではなく、触媒中に微粒子の形態で担持されている。これは、微粒子の粒径が小さいほど、その比表面積が大きくなることによって、触媒活性が向上するためである。
【0006】
しかしながら、上記の内燃機関から生じる高温の排気ガスに曝された微粒子がシンタリングを生じ、これによってその触媒活性が低下する可能性がある。
【0007】
このため、この微粒子のシンタリングを考慮して、従来の排ガス浄化触媒は、過剰量の白金等の微粒子を担体で担持するようにされている。
【0008】
また、これらの白金族金属の産出地域は少なく、その産出地域が南アフリカやロシア等の特定の地域に偏在しているため、白金族金属は非常に高価な希少金属となっている。さらに、これらの白金等の使用量は、自動車の排ガス規制の強化とともに増加しており、その枯渇が懸念されている。
【0009】
したがって、触媒に含有される白金族元素の使用量を低減し、かつ高温下における触媒活性の低下を阻止するための技術開発が検討されている。
【0010】
特許文献1の排ガス浄化触媒では、パラジウム及びタングステンを含有している溶液に担体を浸漬し、かつこれを焼成することによって、パラジウム及びタングステンを固溶させるようにしている。
【0011】
なお、特許文献2では、スパッタリングによって、銀とニッケルからなる二元金属微粒子を作製することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平3−56140号公報
【特許文献2】特開2014−158992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1の排ガス浄化触媒では、パラジウム及びタングステンは、担体中において均一に固溶していない可能性がある。
【0014】
したがって、本発明は、高温下において、複数の微粒子の粒成長を均一に抑制し、触媒活性の低下を防止することができる排ガス浄化触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、以下の手段により、上記課題を解決できることを見出した。
【0016】
〈1〉白金族金属及びタングステンからなる複合金属微粒子を有する排ガス浄化触媒であって、
上記排ガス浄化触媒中の上記複合金属微粒子をSTEM−EDXで分析したときに、個数基準で80%以上の上記複合金属微粒子のタングステンの含有率が、複数の上記複合金属微粒子におけるタングステンの平均含有率の10%〜350%の範囲内である、
排ガス浄化触媒。
〈2〉粉末担体を更に有し、かつ上記複合金属微粒子が上記粉末担体に担持されている、〈1〉項に記載の排ガス浄化触媒。
〈3〉上記粉末担体が、CeO−ZrO、SiO、ZrO、CeO、Al、TiO、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される粉末担体である、〈2〉項に記載の排ガス浄化触媒。
〈4〉白金族金属及びタングステンを含有しているターゲット材料にスパッタリングを行うことを含む、排ガス浄化触媒の製造方法。
〈5〉上記スパッタリングによって複合金属微粒子をイオン液体中に落とすことをさらに含む、〈4〉項に記載の方法。
〈6〉上記複合金属微粒子を粉末担体に担持させることをさらに含む、〈4〉又は〈5〉項に記載の方法。
〈7〉上記ターゲット材料が、上記白金族金属及び上記タングステンを交互に配列した円板状材料である、〈4〉〜〈6〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈8〉上記イオン液体が、脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、〈5〉〜〈7〉項のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温下において、複数の微粒子の粒成長を均一に抑制し、触媒活性の低下を防止することができる排ガス浄化触媒及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、排ガス浄化触媒を製造する本発明の方法を模式的に示した図である。
図2図2は、本発明の方法の1つの実施態様において使用されるパラジウム及びタングステンを含有したターゲット材料を模式的に示した図である。
図3図3(a)は、実施例1におけるPd−W複合金属微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)によるTEM像を示し、図3(b)は、(a)中の多数のPd−W複合金属微粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図4図4(a)は、実施例2におけるPd−W複合金属微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)によるTEM像を示し、図4(b)は、(a)中の多数のPd−W複合金属微粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図5図5(a)は、比較例1におけるPd金属微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)によるTEM像を示し、図5(b)は、(a)中の多数のPd金属微粒子の粒径を測定して作成したヒストグラムを示す。
図6図6は、比較例2におけるWアモルファスの透過型電子顕微鏡(TEM)によるTEM像を示す。
図7図7(a)〜(e)は、熱耐久試験後において、実施例1の触媒のSTEM−EDX分析によるSTEM像を示し、図7(f)は、図7(a)〜(e)から測定した金属微粒子のPd及びWの割合(原子%)を示す図である。
図8図8(a)〜(d)は、熱耐久試験後において、実施例2の触媒のSTEM−EDX分析によるSTEM像を示し、図8(e)は、図8(a)〜(d)から測定した金属微粒子のPd及びWの割合(原子%)を示す図である。
図9図9(a)及び(b)は、熱耐久試験後において、比較例5の触媒のSTEM−EDX分析によるSTEM像を示し、図9(c)は、図9(a)及び(b)から測定した金属微粒子のPd及びWの割合(原子%)を示す図である。
図10図10(a)は、熱耐久試験後において、実施例1及び2並びに比較例1の触媒のX線回折パターンを示す図であり、図10(b)は、図10(a)において、Pd(111)面の回折を示す領域Dを拡大した図である。
図11図11は、熱耐久試験後において、実施例1及び2並びに比較例1の触媒とその金属微粒子の粒径(nm)との関係を示す図である。
図12図12(a)、(b)、及び(c)は、それぞれ、実施例1、実施例2、及び比較例1の触媒の温度(℃)の変化に対するNOの転化率(%)の関係を示す図である。
図13図13は、実施例1及び2並びに比較例1の触媒と、600℃でのNOの転化率(%)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0020】
《排ガス浄化触媒》
本発明の排ガス浄化触媒は、白金族金属及びタングステンからなる複合金属微粒子を有している。
【0021】
本発明の排ガス浄化触媒では、高融点のタングステンを複合金属微粒子に含有させていることによって、複合金属微粒子の融点を上昇させることができる。したがって、高温、例えば、1000℃程度の温度において、複合金属微粒子の粒成長、特に白金族金属の微粒子の粒成長を抑制し、触媒活性の低下を防止し、かつ触媒の寿命を延ばすことができる。
【0022】
また、本発明の排ガス浄化触媒では、排ガス浄化触媒中の複合金属微粒子をSTEM−EDXで分析したときに、個数基準で80%以上の複合金属微粒子のタングステンの含有率が、複数の複合金属微粒子におけるタングステンの平均含有率の10%〜350%の範囲内である。
【0023】
本発明の排ガス浄化触媒が含有している複数の複合金属微粒子のタングステンの含有率は、全体として略均一であることから、上記のような高温下でも、複数の微粒子の粒成長を均一に抑制し、これによって白金等の貴金属の使用量を最小限に止めることができる。
【0024】
したがって、従来、金属微粒子の粒成長に伴って触媒の活性が低下することを予見して、過剰量の白金等の微粒子を触媒として用いるようにしていたが、本発明の排ガス浄化触媒では、高価な希少金属の使用量が低減され、ひいては、低廉かつ高性能で環境フレンドリーな排ガス浄化触媒を実現することができる。
【0025】
〈複合金属微粒子〉
複合金属微粒子は、白金族金属及びタングステンを含有している。
【0026】
複合金属微粒子のタングステンの平均含有率が1原子%以上30原子%以下である場合には、タングステンによる微粒子の粒成長の抑制効果を十分に得つつ、白金族金属の活性点の数を十分に確保することができる。
【0027】
したがって、複数の複合金属微粒子のタングステンの平均含有率としては、0原子%超、1原子%以上、3原子%以上、5原子%以上、7原子%以上、10原子%以上、12原子%以上、又は15原子%以上が好ましく、かつ30原子%以下、20原子%以下、17原子%以下、15原子%以下、13原子%以下、又は10原子%以下が好ましい。
【0028】
さらに、個数基準で80%、85%、90%、又は95%以上の複合金属微粒子のタングステンの含有率は、複数の複合金属微粒子におけるタングステンの平均含有率の10%〜350%、20%〜330%、30%〜300%、40%〜280%、50%〜270%、又は60%〜250%の範囲内でよい。
【0029】
これによって、金属微粒子の粒成長の抑制効果を十分に得つつ、白金族金属の排ガス浄化能を発揮させ、その結果として、触媒活性の低下を防止することができる排ガス浄化触媒を得ることが可能である。
【0030】
なお、本発明において複合金属微粒子におけるタングステンの「含有率」は、複合金属微粒子をSTEM−EDXを用いて分析して、複合金属微粒子中に含有されているタングステン原子及び白金族金属の原子の合計原子数に対するタングステン原子数の割合として求めることができる。したがって、本発明における「タングステンの平均含有率」は、複数の粒子についてタングステンの含有率を求め、その平均値として算出することが可能である。
【0031】
複合金属微粒子の粒径が大きすぎると、比表面積が小さくなって白金族金属の活性点数が少なくなり、最終的に得られる排ガス浄化触媒について十分な排ガス浄化能を達成できない可能性がある。
【0032】
また、複合金属微粒子の粒径が小さすぎると、排ガス浄化触媒が失活する可能性がある。
【0033】
したがって、複数の複合金属微粒子の平均粒径としては、0nm超、1nm以上、又は2nm以上の平均粒径を挙げることができる。また、複数の複合金属微粒子の平均粒径としては、100nm以下、70nm以下、40nm以下、10nm以下、7nm以下、5nm、4nm、又は3nm以下の平均粒径を挙げることができる。
【0034】
特に、排ガスを効率的に還元する観点から、複数の複合金属微粒子の平均粒径としては、1nm〜5nmの範囲の平均粒径が好ましく、1nm〜4nmの範囲の平均粒径がより好ましく、2nm〜3nmの範囲の平均粒径がさらに好ましい。
【0035】
さらに、個数基準で80%、85%、90%、又は95%以上の複合金属微粒子の粒径は、複数の複合金属微粒子の平均粒径の30%〜200%、40%〜190%、50%〜180%、60%〜170%、又は70%〜160%の範囲内でよい。
【0036】
このような粒径を有する複合金属微粒子を触媒成分として使用することで、白金族金属及びタングステンをナノレベルで確実に共存させ、タングステンによる白金族金属の粒成長を抑制し、触媒の寿命を延ばしつつ、その触媒能を発揮させることができる。
【0037】
なお、本発明において個々の複合金属微粒子の「粒径」及び「平均粒径」とは、特に断りのない限り、透過型電子顕微鏡(TEM)等の手段を用いて、無作為に選択した10個以上の粒子の円相当径(Heywood径)を測定した場合のそれらの測定値の算術平均値をいうものである。
【0038】
〈粉末担体〉
本発明の方法によれば、粉末担体は、複合金属微粒子を担持している。
【0039】
本発明の方法によれば、複合金属微粒子を担持している粉末担体としては、特に限定されないが、排ガス浄化触媒の技術分野において一般に粉末担体として用いられる任意の金属酸化物を使用することができる。
【0040】
このような粉末担体としては、例えば、セリア−ジルコニア複合酸化物(CeO−ZrO)、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)、セリア(CeO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)又はそれらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0041】
粉末担体が担持している複合金属微粒子の含有率は、特に限定されないが、例えば、複合金属微粒子及び粉末担体の総質量に基づいて、一般に、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.50質量%以上、又は1.00質量%以上の含有率でよく、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下の含有率でよい。
【0042】
本発明の排ガス浄化触媒で用いられる複合金属微粒子は、下記の本発明の方法で作製することができる。
【0043】
《排ガス浄化触媒の製造方法》
排ガス浄化触媒を製造する本発明の方法は、白金族金属及びタングステンを含有しているターゲット材料にスパッタリングを行う工程を含む。
【0044】
一般に、ナノサイズの金属微粒子は、量子サイズ効果によってバルクとは異なる電子エネルギー構造をとり、粒子サイズに依存した電気的・光学的特性を示す。さらに、比表面積が非常に大きいナノサイズの金属微粒子には、高活性な触媒として働くことが期待されている。
【0045】
このようなナノサイズの金属微粒子の作製方法としては、例えば、各金属元素の塩を含む混合溶液を用いて、粉末担体に複合金属微粒子を担持させる、いわゆる共含浸法が、一般に公知である。
【0046】
しかしながら、このような従来の共含浸法では、白金族金属及びタングステンの特定の組み合わせにおいて、それらの金属元素をナノレベルで共存させた複合金属微粒子を形成することはできない。
【0047】
原理によって限定されるものではないが、これは、タングステンの酸化還元電位が非常に高いため、溶液中のタングステンを単体の金属に還元することが困難なことによると考えられる。
【0048】
例えば、複数の金属元素を含有している金属微粒子を製造する方法の1つとして、当該金属微粒子を構成する各金属元素の塩と、ポリビニルピロリドン(PVP)等の保護高分子とを含む混合溶液に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を添加することによって、当該溶液中に含まれる金属イオンを単体の金属に還元する方法が知られている。
【0049】
しかしながら、上記の水素化ホウ素ナトリウムなどの強力な還元剤を用いた場合でも、依然として、溶液中のタングステンを金属タングステンに還元することは困難であり、イオン性のタングステンが溶液中に残存していると考えられる。
【0050】
さらに、この他の方法、例えば、共沈法などを適用する場合でも、上記共含浸法等で記載した理由と同一の理由で、白金族金属及びタングステンがナノレベルで共存した複合金属微粒子を得ることは困難であると考えられる。
【0051】
対照的に、本発明の方法の複合金属微粒子は、白金族金属及びタングステンを含有しているターゲット材料にスパッタリングを行う、いわゆる乾式法を採用することにより作製される。したがって、本発明の方法を採用することによって、上記の湿式法で生じる問題を回避しつつ、白金族金属及びタングステンを含有している複合金属微粒子を作製することができる。
【0052】
また、本発明の方法は、任意選択的に、上記のスパッタリングの後、複合金属微粒子をイオン液体中に落とす工程をさらに含む。
【0053】
一般に、スパッタリングは、電荷を帯びた希ガス等の分子を、電圧の印加によって加速させてターゲット材料へ衝突させる。この際に、叩き出された金属微粒子又は複合金属微粒子は、この分子から電荷を引き継ぐ。
【0054】
イオン液体中にこの電荷を帯びた金属微粒子又は複合金属微粒子を落とすことにより、イオン性の分子が、この金属微粒子又は複合金属微粒子に付着する。これによって、当該複合金属微粒子同士の凝集や粒成長を適度に抑制し、かつ安定化させることができると考えられる。
【0055】
したがって、本発明の方法において使用されるイオン液体を適切に選択することで、合成される複合金属微粒子の平均粒径等を所望の範囲に制御することが可能である。
【0056】
さらに、本発明の方法は、任意選択的に、複合金属微粒子を粉末担体に担持させる工程をさらに含む。
【0057】
この工程は、スパッタリングと同時若しくはその後、金属微粒子若しくは複合金属微粒子をイオン液体に落とすのと同時若しくはその後、又はイオン液体から複合金属微粒子を抽出するのと同時又はその後など、任意の段階で行うことができる。
【0058】
複合金属微粒子がこの粉末担体に担持されている場合には、粉末担体の比表面積が大きいことから、排ガスと複合金属微粒子との接触面を大きくすることができる。これにより、排ガス浄化触媒の排ガス浄化能を向上させることができる。
【0059】
図1は、排ガス浄化触媒を製造する本発明の方法を模式的に示した図である。図1を参照して本発明の方法を具体的に説明すると、例えば、まず、タングステン1と白金族金属2を含有するターゲット材料3をスパッタリング装置内の陰極上に設置し、そしてイオン液体4を載せたガラス基板5等を陽極上に配置する。
【0060】
次いで、スパッタリング装置のチャンバー内を希ガスや窒素等の不活性ガス、特に、アルゴン(Ar)ガスを含有する減圧雰囲気にした状態で陰極に高電圧を印加する。すると、陰極と陽極の間にグロー放電が発生し、当該グロー放電によって生じたArイオン等がターゲット材料3に衝突する。この衝突によってターゲット材料3中のタングステン原子6や白金族金属の原子7がはじき飛ばされ、そしてこれらの原子が図1(a)に示すようにイオン液体4中に落ちて複合金属微粒子8が形成される。
【0061】
ここで、複合金属微粒子8の表面はδ+の電荷を帯びている。したがって、イオン性の性質を有するイオン液体4が当該δ+の電荷を帯びた複合金属微粒子8の表面に付着すると考えられ、それによってイオン液体4が、複合金属微粒子8に対して保護剤的に作用し、当該複合金属微粒子8同士の凝集や粒成長を抑制しかつ安定化させることができると考えられる。
【0062】
次に、スパッタリング装置から複合金属微粒子8を含有しているイオン液体4を取り出し、当該イオン液体4中に粉末担体9を導入する(図1(b))。
【0063】
次いで、得られた分散液を適切な温度で加熱等することにより複合金属微粒子8を粉末担体9上に担持させる(図1(c))。
【0064】
最後に、この分散液から濾過等により粉末を分離し、次いで必要に応じて洗浄等によりイオン液体を十分除去した後、この粉末を乾燥等することで、粉末担体9に複合金属微粒子8を複数担持してなる排ガス浄化触媒10を得ることができる(図1(d))。
【0065】
〈ターゲット材料〉
本発明の方法によれば、ターゲット材料は、白金族金属及びタングステンを含有している。
【0066】
白金族金属としては、特に限定されないが、例えば、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、又はイリジウム(Ir)を挙げることができる。この中でも、白金、ロジウム、及び/又はパラジウムが排ガス浄化触媒の触媒金属として好ましく、NOx還元能の高さから、ロジウム又はパラジウムが特に好ましい。
【0067】
白金族金属及びタングステンを含有しているターゲット材料としては、任意の適切な材料を使用することができ、特に限定されないが、例えば、白金族金属及びタングステンを交互に配列したターゲット材料や、白金族金属の粉末及びタングステン粉末を混合して成型及び焼結等したミクロ混合ターゲット材料などを用いることができる。
【0068】
白金族金属及びタングステンを交互に配列したターゲット材料としては、白金族金属及びタングステンを交互に配列した円板状材料を使用することができる。このような円板状のターゲット材料によれば、白金族金属及びタングステンの面積又は面積比を適切に変更することによって、所望の白金族金属及びタングステンの組成比を有する複合金属微粒子を比較的容易に合成することが可能である。
【0069】
本発明の方法の1つの好ましい態様によれば、ターゲット材料としては、例えば、図2に示すように、パラジウム板とタングステン板を放射状に交互に配列した円板状材料を使用することができる。
【0070】
ただし、スパッタリングによる金属の弾かれ易さは、各金属元素によって異なる。したがって、白金族金属及びタングステンの弾かれやすさを考慮して、それらの組成比を決定してもよい。
【0071】
なお、白金族金属の粉末及びタングステン粉末を混合するときの組成比は、スパッタリングによって生成した複合金属微粒子中の白金族金属及びタングステンの組成比と相関してよい。したがって、例えば、目的とする複合金属微粒子中の白金族金属及びタングステンの平均含有率を、それぞれ、X(Xは正の数)原子%及び(100−X)原子%で所望するとき、ターゲット材料中の白金族金属及びタングステンの組成比を、X:(100−X)とすることが好ましい。
【0072】
〈スパッタリング〉
本発明の方法によれば、白金族金属及びタングステンを含有している複合金属微粒子を作製するために、白金族金属及びタングステンを含有しているターゲット材料にスパッタリングを行う。
【0073】
このようなスパッタリングは、任意の適切な条件、例えば、ガス成分、ガス圧、並びにスパッタリング電流、電圧、時間、及び回数を用いて行うことができる。
【0074】
スパッタリングで用いられるガス成分としては、不活性ガス、例えば、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、又は窒素(N)などを挙げることができる。この中でも、取り扱いの容易さから、Ar又はNが好ましい。
【0075】
スパッタリングで用いられるガス圧としては、プラズマを生じさせることが可能なガス圧であれば随意に選択することができるが、一般に、20Pa以下とすることが好ましい。
【0076】
スパッタリングで用いられる電流及び電圧としては、ターゲット材料の組成やスパッタリング装置等に応じて適宜設定すればよい。
【0077】
スパッタリングの時間としては、複合金属微粒子の所望の堆積量や、他のパラメータ等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、数十分から数時間あるいは数十時間の間で適切に設定することができる。
【0078】
スパッタリングの回数としては、例えば、長時間に及ぶスパッタリングによって、ターゲット材料から生成した複合金属微粒子等がシンタリング等を生じるような高温となることを防止するために、数時間ごとに複数回に分けて行うことができる。なお、シンタリングとは、金属微粒子が、その融点以下の温度で粒成長する現象を意味する。
【0079】
〈イオン液体〉
本発明の方法によれば、スパッタリングによって複合金属微粒子をイオン液体中に落とす。
【0080】
イオン液体は、有利な特性、例えば、高温での安定性、広範囲にわたる液体温度、略ゼロの蒸気圧、イオン性を保有しつつ低粘性、及び高い酸化・還元耐性などを有しており、本発明の方法におけるような真空又は減圧下でのスパッタリング条件のもとでも蒸発することなく、安定に液体として存在することが可能である。
【0081】
また、スパッタリングの際に高温に曝されたような場合でも、イオン液体は、その高温安定性のために分解等することなく、安定に存在することが可能である。
【0082】
さらに、イオン液体は、親水性であってもあるいは疎水性であってもよく、またその種類は特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体、又はそれらの組み合わせなどを挙げることができる。
【0083】
〈その他〉
上記の構成要素及びその他の構成要素については、上記の排ガス浄化触媒についての記載及び特許文献2の記載を参照することができる。
【0084】
以下に示す実施例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例】
【0085】
《実施例1(スパッタ法によるPd−W複合金属微粒子の作製)》
〈イオン液体の調製〉
イオン液体としてのBMI−PF6を2.4cm取り、これを加熱しながら105℃で1時間にわたり減圧乾燥し、イオン液体を調製した。なお、BMI−PF6は、下記の式で表すことができる:
【化1】
【0086】
〈触媒の作製〉
スパッタリング装置(Sanyu Electron社製SC−701HMCII4号機)内に、図2に示すようなタングステン(W)板と、白金族金属としてのパラジウム(Pd)板を放射状に交互に配列した円板状の交互配列ターゲット(Pd板にW板をカーボンテープで張り付けたもの、面積比Pd:W=58:42)を設置した。
【0087】
次いで、スパッタリング装置のチャンバー内をArガスで2回置換してから圧力3.0Pa、スパッタリング電流20mAの条件下で30分間プレスパッタリングを行い、安定してスパッタリングを行うことができる状態にした。
【0088】
次に、上記のBMI−PF6をシャーレ(直径:70mm)に均一に広げ、それをスパッタリング装置内に入れた後、さらに30分間減圧乾燥した。
【0089】
次いで、圧力を3.0Pa、スパッタリング電流を20mA、そしてターゲット材料とBMI−PF6との距離を6.7cmとして、300分間にわたりスパッタリングを行った。
【0090】
その後、シャーレ内のイオン液体を回収し、Pd−W複合金属微粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のPd及びWの各濃度としては、Pdが100.5mM、かつWが9.6mMであった。この分析結果から、Pd−W複合金属微粒子中のPd及びWの平均含有率を、それぞれ91.3原子%及び8.7原子%と算出した。
【0091】
〈触媒の担持工程〉
次に、粉末担体としてのセリア−ジルコニア複合酸化物(CeO−ZrO:Rhodia社製)3.3gを、アセトニトリル4mLに分散させ、溶液を調製した。この溶液と、上記のPd−W複合金属微粒子を含む分散液3mLとを50mLのフラスコで混合し、混合分散液を調製した。
【0092】
次いで、この混合分散液を窒素気流中150℃で30分間にわたり加熱及び攪拌した。得られた分散液を冷却後、濾過によって当該分散液から粉末を分離し、それをアセトニトリルで3回洗浄してBMI−PF6を十分に除去した。
【0093】
次いで、得られた粉末を空気中110℃で5時間乾燥することにより、排ガス浄化触媒を得た。なお、Pd−W複合金属微粒子及びセリア−ジルコニア複合酸化物の総質量に基づいて、Pdの含有率は1.00質量%、かつWの含有率は0.17質量%であった。
【0094】
《実施例2(スパッタ法によるPd−W複合金属微粒子の作製)》
交互配列ターゲットの面積比Pd:W=42:58のものを用いたことを除いて、実施例1と同様にして、イオン液体の調製、触媒の作製、及び触媒の担持工程を行った。
【0095】
なお、触媒の作製で行った蛍光X線分析の結果、当該分散液中のPd及びWの各濃度としては、Pdが74.1mM、そしてWが18.0mMであった。この分析結果から、Pd−W複合金属微粒子中のPd及びWの平均含有率を、それぞれ80.5原子%及び19.5原子%と算出した。
【0096】
さらに、触媒の担持工程において、Pd−W複合金属微粒子及びセリア−ジルコニア複合酸化物の総質量に基づいて、Pdの含有率は0.99質量%、かつWの含有率は0.43質量%であった。
【0097】
《比較例1(スパッタ法によるPd金属微粒子の作製)》
〈イオン液体の調製〉
イオン液体を減圧乾燥する温度を120℃にしたことを除いて、実施例1と同様にしてイオン液体の調製を行った。
【0098】
〈触媒の作製〉
スパッタリング装置(同上)内に、円板状のPdターゲットを設置した。
【0099】
次に、上記のBMI−PF6をシャーレ(直径:70mm)に均一に広げ、それをスパッタリング装置内に入れた後、さらに30分間減圧乾燥した。
【0100】
次いで、圧力を3.0Pa、スパッタリング電流を20mA、そしてターゲット材料とイオン液体であるBMI−PF6との距離を6.7cmとして、120分間にわたりスパッタリングを行った。
【0101】
次に、シャーレ内のイオン液体を回収し、金属微粒子を含む分散液を得た。なお、蛍光X線分析の結果、当該分散液中のPdの濃度は、113.7mMであった。
【0102】
〈触媒の担持工程〉
実施例1と同様にして、金属微粒子の担持工程を行った。なお、Pd金属微粒子及びセリア−ジルコニア複合酸化物の総質量に基づいて、Pdの含有率は1.01質量%であった。
【0103】
《比較例2(スパッタ法によるW金属微粒子の作製)》
触媒の作製で、Pdターゲットを円板状のWターゲットに変更したこと、かつスパッタリングを150分間及び300分間にわたって行う操作を3回繰り返したことを除いて、比較例1と同様にして、イオン液体の調製を行った。
【0104】
比較例1と同様にして、触媒の作製を行った。なお、触媒の作製で行った蛍光X線分析の結果、当該分散液中のWの濃度は、75.6mMであった。
【0105】
比較例1と同様にして、触媒の担持を行った。なお、W及びセリア−ジルコニア複合酸化物の総質量に基づいて、Wの含有率は1.72質量%であった。
【0106】
《比較例3(含浸法によるPd触媒の合成)》
300mLビーカーで蒸留水50mLと、硝酸パラジウム0.6gとを混合し、これらを室温で撹拌することによって、硝酸パラジウムを完全に溶解させた。次いで、この溶液とセリア−ジルコニア複合酸化物30gとを混合し、この混合物を加熱し、これによって溶媒を蒸発させた。
【0107】
さらに、上記の混合物を120℃で1時間にわたり乾燥させた後、これを乳鉢で粉砕し、かつ500℃で2時間にわたり焼成し、Pd触媒を得た。Pd触媒の総質量に基づいて、Pdの含有率は1.02質量%であった。
【0108】
《比較例4(含浸法によるW触媒の合成)》
300mLビーカーで蒸留水50mLと、六塩化タングステン(WCl)1.0gとを混合し、これらを室温で撹拌することによって、六塩化タングステンを完全に溶解させた。次いで、この溶液とセリア−ジルコニア複合酸化物26gとを混合し、この混合物を加熱し、これによって溶媒を蒸発させた。
【0109】
さらに、上記の混合物を120℃で1時間にわたり乾燥させた後、これを乳鉢で粉砕し、かつ500℃で2時間にわたり焼成し、W触媒を得た。W触媒の総質量に基づいて、Wの含有率は1.75質量%であった。
【0110】
《比較例5(含浸法によるPd触媒及びW触媒からなる混合触媒の合成)》
硝酸パラジウムを0.27gで用いたことを除いて、比較例3と同様にしてPd触媒を合成した。また、六塩化タングステンを0.11gで用いたことを除いて、比較例4と同様にしてW触媒を合成した。
【0111】
これらPd触媒及びW触媒を混合し、乳鉢で粉砕することによって、混合触媒を得た。この混合触媒の総質量に基づいて、Pdの含有率は0.98質量%、かつWの含有率は0.41質量%であった。
【0112】
《比較例6(還元法による保護高分子及び還元剤を用いたPd−W触媒の合成)》
保護高分子としてのポリ−n−ビニルピロリドン(PVP)、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム、硝酸パラジウム、六塩化タングステン、及びセリア−ジルコニア複合酸化物を用いてPd−W触媒を合成した。Pd−W触媒の総質量に基づいて、Pdの含有率は0.92質量%、かつWの含有率は0.02質量%であった。
【0113】
上記の実施例1及び2並びに比較例1〜6の触媒の構成を下記の表1に示している。なお、触媒の含有率(%)は、ICP−MS(高周波誘導結合プラズマ−質量分析装置)によって分析した。
【0114】
〈TEM分析〉
上記の実施例1及び2並びに比較例1及び2の触媒を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日立製H−7650)によって分析した。分析対像の試料としては、粉末担体に担持する前の各例の微粒子を含有している溶液を用いた。
【0115】
実施例1及び2並びに比較例1及び2の触媒のTEM像及び/又はヒストグラムを、図3〜6に示し、実施例1及び2並びに比較例1の触媒のTEM像から計測した微粒子の平均粒径(dav(nm))及び標準偏差(σ(nm))を表1に示している。
【0116】
【表1】
【0117】
具体的には、実施例1に関する図3(a)のTEM像及び(b)のヒストグラムからは、複合金属微粒子の粒径が、1.0nm〜3.5nm程度の範囲にあることが分かり、かつその粒径が平均粒径1.7nmの60%〜200%程度の範囲にあることが理解される。
【0118】
また、実施例2に関する図4(a)のTEM像及び(b)のヒストグラムからは、複合金属微粒子の粒径が、0.5nm〜3.0nm程度の範囲にあることが分かり、かつその粒径が平均粒径1.6nmの30%〜190%程度の範囲にあることが理解される。
【0119】
したがって、これら図3及び4からは、実施例1及び2の複合金属微粒子が、約2nm又はそれよりも小さい平均粒径を有する非常に繊細な一次粒子で形成され、かつそれらの複合金属微粒子が分散して存在していることが理解される。
【0120】
比較例1に関する図5(a)のTEM像及び(b)のヒストグラムからは、Pd金属微粒子の粒径が、1.0nm〜4.3nm程度の範囲にあることが分かる。また、それらの金属微粒子が分散して存在していることが理解される。
【0121】
比較例2に関する図6のTEM像からは、粒子を観察することはできなかった。これは、タングステンが、WOx等の酸化物として存在し、かつこの酸化物が結晶状の粒子でなく、非晶質のアモルファス形状を形成しているためと考えられる。
【0122】
《評価》
実施例1及び2並びに比較例1〜6の触媒について、粒成長の抑制効果の評価及び排ガス浄化能の評価を行った。
【0123】
〈粒成長の抑制効果の評価〉
粒成長の抑制効果の評価は、触媒に熱耐久試験を行った後に、触媒の金属微粒子を、エネルギー分散型X線分析装置付走査透過型電子顕微鏡(STEM−EDX)(日立製HD2700)と、X線回折装置(XRD)(株式会社リガク製RINT2000)とで分析することによって行った。
【0124】
(熱耐久試験)
実施例1及び2並びに比較例1〜6の触媒を、500℃で2時間にわたって焼成した後、各例の触媒を4gずつ採取し、試料として用いた。熱耐久試験の工程は、下記(1)〜(5)のとおりである:
(1)ガス流速10L/minのN雰囲気に試料を置き、常温から1050℃まで試料を加熱した;
(2)目標の温度に到達した後、雰囲気を混合気体Rに変更し、この混合気体Rを10L/minの流速で2分間にわたり、試料に曝した;
(3)その後、雰囲気を混合気体Lに変更し、この混合気体Lを10L/minの流速で2分間にわたり、試料に曝した;
(4)その後、(2)及び(3)の工程を交互に繰り返し、(2)及び(3)の工程の回数が総計で、150回となった。すなわち、(2)及び(3)の工程を合計時間にして300分間行った。この操作は(2)の工程で終わるようにした。;
(5)その後、1050℃から常温まで試料を冷ました。
【0125】
なお、混合気体R(リッチ)を構成する成分は、CO:1%、HO:3%、及びNバランスであり、混合気体L(リーン)を構成する成分は、O:5%、HO:3%、及びNバランスであった。
【0126】
(STEM−EDX分析)
熱耐久試験の後、試料を取り出し、実施例1及び2並びに比較例5の触媒に対してSTEM−EDX分析を行った。結果を図7〜9に示している。なお、STEM−EDX分析については、一粒子分析を採用し、かつ測定対象となる各微粒子の抽出は、試料中の微粒子を無作為に抽出することによって行った。
【0127】
図7(a)〜(e)からは、微粒子が、分散して存在していることが分かる。また、図7(f)からは、図7(a)〜(e)の各測定点の微粒子が、パラジウム及びタングステンを含有しており、かつタングステンの含有率が約2原子%〜10原子%あることが分かる。
【0128】
したがって、表1の実施例1のタングステン(W)の平均含有率(原子%)が8.7原子%であり、1〜5の測定点で微粒子が約2原子%〜10原子%のタングステンを含有していることから、個数基準で100%の金属微粒子のタングステンの含有率が、タングステンの平均含有率の20%〜120%程度であることが理解される。
【0129】
図8(a)〜(d)からは、微粒子が、分散して存在していることが分かる。また、図8(e)からは、図8(a)を除いて、図8(b)〜(d)の各測定点の微粒子が、パラジウム及びタングステンを含有しており、かつタングステンの含有率が約2原子%〜68原子%あることが分かる。
【0130】
したがって、表1の実施例2のタングステンの平均含有率(原子%)が19.5原子%であり、1〜5の測定点のうち2〜5の測定点で微粒子が約2原子%〜68原子%のタングステンを含有していることから、個数基準で80%以上の金属微粒子のタングステンの含有率が、タングステンの平均含有率の10%〜350%の範囲内であることが理解される。
【0131】
図9(a)及び(b)からは、微粒子及び非晶質が存在していることが分かる。また、図9(c)からは、図9(a)及び(b)の各測定点の微粒子が、パラジウムのみを含有していることが分かる。さらに、上記のICP−MS分析及び表1によれば、比較例5の触媒には、パラジウム及びタングステンが、金属微粒子及び担体の総質量に基づいて、それぞれ、0.98質量%及び0.41質量%で存在していることが分かる。
【0132】
したがって、比較例5の触媒中にパラジウム及びタングステンが存在しているが、微粒子は主にPdからなる微粒子として存在し、タングステンは微粒子としてではなく、非晶質として存在し、かつパラジウム及びタングステンからなる微粒子はほとんど存在していないことが理解される。
【0133】
これは、タングステンの酸化還元電位が非常に高く、溶液中のタングステンを単体の金属に還元することが困難であるため、含浸法により作製された比較例5の触媒では、パラジウム及びタングステンからなる微粒子の製造ができなかったことによると考えられる。
【0134】
(XRD分析)
熱耐久試験の後、実施例1及び2並びに比較例1〜6の触媒に対してXRD分析を行った。結果を表2に示し、特に、実施例1及び2並びに比較例1の結果を図10に示している。
【0135】
なお、XRD分析の測定条件は、下記のとおりである:
測定モードはFT(Fixed Time)モード、X線源はCuKα(1.542Å);ステップ幅は0.02deg;計数時間は0.5sec;発散スリット(DS)は2/3deg;散乱スリット(SS)は2/3deg;受光スリット(RS)は0.5mm;管電圧は50kV;かつ管電流は300mA。
【0136】
また、各例の触媒のXRD分析の結果から、シェラ−(Scherrer)の式を用いて、熱耐久試験後の金属微粒子の粒径(nm)を求めた。シェラ−の式は、下記の式(I)で表すことができる:
【数1】
[式中、
形状因子:K
X線波長:λ
ピーク全半値幅:β
ブラッグ(Bragg)角:θ
金属微粒子の粒径:τ]
【0137】
【表2】
【0138】
図10(a)は、実施例1及び2並びに比較例1の触媒のX線回折パターンを示す図であり、図10(b)は、図10(a)において、Pd(111)面での回折を示す領域Dを拡大した図である。なお、図10(a)の黒丸(●)のピークは、担体としてのCeO−ZrOを示している。
【0139】
図10(b)からは、実施例1及び2並びに比較例1の金属微粒子がPdを含有していることが分かり、かつパラジウムのブラッグ(Bragg)角及びピーク全半値幅を読み取ることができる。なお、ブラッグ角とは、ブラッグ条件を充足する角度を意味する。
【0140】
このブラッグ角等を用いて、上記のシェラ−の式から、実施例1及び2並びに比較例1の金属微粒子の粒径を求めた。結果を図11に示している。
【0141】
図11は、実施例1及び2並びに比較例1の触媒とその金属微粒子の粒径(nm)との関係を示す図である。図11からは、パラジウムのみからなる比較例1の金属微粒子の粒径が44.5nmであるのに対して、パラジウム及びタングステンからなる実施例1及び2の複合金属微粒子の粒径が、それぞれ30.4nm及び28.1nmであることが分かる。
【0142】
したがって、熱耐久試験の後において、パラジウムのみからなる比較例1の金属微粒子の粒径よりも、パラジウム及びタングステンからなる実施例1及び2の複合金属微粒子の粒径の方が小さいことから、パラジウム及びタングステンからなる複合金属微粒子では、タングステンの存在によって微粒子の粒成長が抑制されていることが分かる。
【0143】
〈排ガス浄化能の評価〉
排ガス浄化能の評価は、実施例1及び2並びに比較例1〜6の触媒を排ガスとしての試験ガスに曝したときに、各触媒が浄化したNOxの量を、FT−IR分析計で計測することにより行った。
【0144】
具体的には、触媒を0.3g採取して流通式反応装置(flow reactor)にセットし、この触媒に試験ガスを1(L/min)の流量で曝した。このとき、触媒の温度を、100℃から600℃まで20(℃/min)の昇温速度で昇温させつつ、触媒の温度(℃)に対するNOの転化率(%)を記録した。結果を図12及び図13に示している。
【0145】
なお、試験ガスを構成する成分は、CO:0.65体積%、CO:10.00体積%、C:3000ppmC(1000ppm)、NO:1500ppm、O:0.70体積%、HO:3.00体積%、及びNバランスであった。
【0146】
図12(a)〜(c)からは、100℃〜400℃の範囲の温度では、実施例1及び2並びに比較例1の触媒のNOの転化率(%)はほとんど同じであるが、400℃〜600℃の範囲の温度では、実施例1及び2の触媒のNOの転化率(%)が上昇しているのに対し、比較例1の触媒のNOの転化率(%)が下降していることが分かる。
【0147】
また、表2の熱耐久試験後の粒径(nm)からは、実施例1及び2の金属微粒子の粒径が比較例1の金属微粒子の粒径よりも小さいことが分かる。
【0148】
このことから、400℃〜600℃の範囲の温度では、実施例1及び2の触媒の金属微粒子が、比較例1と比較してほとんど粒成長することなく、ひいては、微粒子の比表面積が小さくなることに伴うNOxの活性点数の減少が少ない又はほとんどなく、触媒活性の低下が防止されていると考えられる。
【0149】
したがって、実施例1及び2の触媒のNOの転化率(%)の上昇は、触媒活性の低下が防止されたことと、温度の上昇にともなって、速度論的にNOx浄化能が上昇したことによると考えられる。
【0150】
その一方で、400℃〜600℃の範囲の温度では、比較例1の触媒の金属微粒子が粒成長したため、NOxの活性点数が少なくなり、触媒活性が低下したと考えられる。
【0151】
したがって、比較例1の触媒のNOの転化率(%)の下降は、粒成長による触媒活性の低下を起因としており、温度の上昇に伴う速度論的なNOx浄化能の上昇によっても、当該触媒活性の低下分を補うことはできなかったと考えられる。
【0152】
さらに、図13からは、600℃でのNOの転化率(%)が、比較例1の触媒より実施例1及び2の触媒で高くなっていることが分かる。このことから、400℃〜600℃の範囲の温度では、実施例1及び2の触媒のNOx浄化能が上昇するのみならず、600℃の高温では、比較例1の触媒より実施例1及び2の触媒のほうが、高いNOx浄化能を示すことが理解される。
【0153】
本発明の好ましい実施形態を詳細に記載したが、特許請求の範囲から逸脱することなく、本発明で使用される排ガス浄化触媒、粉末担体、イオン液体、製造装置、及び測定装置等の配置及びタイプについて変更が可能であることを当業者は理解する。
【符号の説明】
【0154】
1 タングステン
2 白金族金属
3 ターゲット材料
4 イオン液体
5 ガラス基板
6 タングステン原子
7 白金族金属の原子
8 複合金属微粒子
9 粉末担体
10 排ガス浄化触媒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13