(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一対の心電電極は、同一の筐体に、かつ、使用者が左右の手で該筐体を把持した際に、一方の手と一方の心電電極とが接触し、他方の手と他方の心電電極とが接触する位置に取り付けられており、
前記光電脈波センサは、前記筐体に、かつ、使用者が左右の手で前記筐体を把持した際に、いずれかの手と接触する位置に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体状態推定装置。
前記一対の心電電極のうち、一方の心電電極は、一方の腕の指先から肩までの間のいずれかの部位に接触して取り付けられ、他方の心電電極は、他方の腕の指先から肩までの間のいずれかの部位に接触して取り付けられ、前記一対の心電電極に接続された配線ケーブルは、使用者の体表面に沿うように配線され、
前記光電脈波センサは、いずれかの腕の指先から肩までの間のいずれかの部位に接触して取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体状態推定装置。
使用者の接触が検知されたとき、所定の拍数分の心電信号、光電脈波信号が取得されたとき、及び、対価が支払われたときのうち、少なくともいずれかの条件が満足されたときに、前記生体状態推定手段は、自動的に、使用者の生体状態の推定を開始することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体状態推定装置。
所定の拍数分の心電信号、光電脈波信号が取得されたとき、及び/又は、生体状態の推定開始後、所定時間が経過したときに、前記生体状態推定手段は、自動的に、使用者の生体状態の推定を終了することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体状態推定装置。
自動的に、生体状態の推定を開始する際、及び/又は、生体状態の推定を終了する際に、音声及び/又は画像によるガイダンスを提示する提示手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体状態推定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した、従来の心電図や加速度脈波のデータを用いた心拍変動解析(周波数解析)による自律神経機能評価では、自律神経(すなわち交感神経及び副交感神経)の状態が安定しているときに心拍等のデータを得る必要があるため、使用者(被験者)は計測前に例えば5分間程度、安静座位姿勢にて休息することが必要とされる。そして、十分な休息をとった後、そのままの状態で例えば3分間以上(又は例えば100拍以上)、継続的に心電図又は光電脈波の計測を行う必要がある。
【0007】
そのため、従来の心拍変動解析では、計測前に充分な休息を取ることができない場合や、計測中に安静状態を保てないときには、交感神経が優位になり、正しい自律神経機能の評価を行うことができないおそれがあった。また、これまでの自律神経機能解析では、安静後に計測した場合は、自律神経活動量(TP)や自律神経バランス(LF/HF)が自覚的な疲労症状や、覚醒時活動量、睡眠効率などと関連していることが判明しているが、被験者が安静5分を取らずにすぐに計測した場合は自律神経機能とこれらの関連が失われ、検診価値が著しく低下する。よって、心電図や光電脈波(加速度脈波)等の生体情報の取得に際し、使用者(被験者)が安静にする必要がなく、かつより短時間で自律神経機能等の生体状態を推定できる技術が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、生体状態を推定するための生体情報の取得に際し、使用者が安静にする必要がなく、かつ、より短時間で生体状態を推定することが可能な生体状態推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る生体状態推定装置は、心電信号を検出する一対の心電電極と、発光素子と受光素子とを有し、光電脈波信号を検出する光電脈波センサと、一対の心電電極により検出された心電信号、及び、光電脈波センサにより検出された光電脈波信号それぞれのピークを検出するピーク検出手段と、ピーク検出手段により検出された光電脈波信号のピークと心電信号のピークとの時間差から脈波伝播時間を求める脈波伝播時間演算手段と、脈波伝播時間と生体状態との関係に基づいて予め定められた相関情報を記憶する相関情報記憶手段と、脈波伝播時間演算手段により求められた脈波伝播時間、及び、相関情報記憶手段に記憶されている相関情報に基づいて、使用者の生体状態を推定する生体状態推定手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る生体状態推定装置によれば、脈波伝播時間と生体情報との関係を示す相関情報が予め取得されて記憶されており、心電信号ピークと光電脈波信号ピークとの時間差から求められた脈波伝播時間と、記憶されている相関情報に基づいて、使用者の生体状態が推定される。すなわち、心電信号ピークと光電脈波信号ピークとの時間差から求められた脈波伝播時間が生体状態の指標として使用される。ここで、脈波伝播時間は、精神疲労や安静後のLF/HFと相関を有している(詳細は後述する)。すなわち、脈波伝播時間は、疲労度や自律神経機能との相関が認められる。また、脈波伝播時間は、安静にして計測した場合と、安静にすることなく計測した場合とで、検出結果がほとんど変化しない。すなわち、脈波伝播時間を指標として用いれば、計測前及び計測中に安静にしていることは要求されない(詳細は後述する)。さらに、生体状態を推定するためのデータの取得時間については、脈波伝播時間が取得できればよいため、原理的には、一拍の拍動時間で生体状態を推定することができる。よって、生体状態の評価を行うために必要な計測時間を、周波数解析を用いた従来の手法より短くすることができる。以上の結果、生体状態を推定するための生体情報の取得に際し、使用者が安静にする必要がなく、かつより短時間で生体状態を推定することが可能となる。
【0011】
なお、脈波伝播時間という用語は、生体の所定の2部位間を脈波が伝播する時間をさす場合と、心電信号のピークと脈波信号のピークとの時間差をいう場合とがあるが、本明細書では、以下、脈波伝播時間という用語を後者の意で用いる。
【0012】
本発明に係る生体状態推定装置では、相関情報記憶手段が、脈波伝播時間と疲労度との関係に基づいて予め定められた疲労度相関情報を記憶し、生体状態推定手段が、脈波伝播時間、及び、疲労度相関情報に基づいて、使用者の疲労度を推定することが好ましい。
【0013】
この場合、脈波伝播時間と疲労度との関係に基づいて予め定められた疲労度相関情報が記憶されているため、使用者の脈波伝播時間を計測することにより、脈波伝播時間を指標として、生体状態としての疲労度を推定して評価することが可能となる。
【0014】
本発明に係る生体状態推定装置では、相関情報記憶手段が、脈波伝播時間と自律神経機能との関係に基づいて予め定められた自律神経機能相関情報を記憶し、生体状態推定手段が、脈波伝播時間、及び、自律神経機能相関情報に基づいて、使用者の自律神経機能を推定することが好ましい。
【0015】
この場合、脈波伝播時間と自律神経機能との関係に基づいて予め定められた自律神経機能相関情報が記憶されているため、使用者の脈波伝播時間を計測することにより、脈波伝播時間を指標として、生体状態としての自律神経機能を推定して評価することが可能となる。なお、安静後のLF/HFと自律神経機能とは相関を有しており、よって、脈波伝播時間と自律神経機能とは相関を有する。
【0016】
本発明に係る生体状態推定装置は、脈波伝播時間演算手段により求められた脈波伝播時間を記憶する脈波伝播時間記憶手段をさらに備え、相関情報記憶手段が、睡眠前の脈波伝播時間と、睡眠後の脈波伝播時間と、睡眠状態との関係に基づいて予め定められた睡眠状態相関情報を記憶し、生体状態推定手段が、脈波伝播時間演算手段により求められ、脈波伝播時間記憶手段により記憶されている睡眠前の脈波伝播時間、脈波伝播時間演算手段により求められた睡眠後の脈波伝播時間、及び、睡眠状態相関情報に基づいて、使用者の睡眠状態を推定することが好ましい。
【0017】
このようにすれば、睡眠前後の脈波伝播時間と睡眠状態との関係に基づいて予め定められた睡眠状態相関情報が記憶されているため、使用者の睡眠前後の脈波伝播時間を計測することにより、脈波伝播時間を指標として、生体状態としての睡眠状態(睡眠の質すなわち疲労の回復状態)を推定して評価することが可能となる。
【0018】
本発明に係る生体状態推定装置は、脈波伝播時間演算手段により求められた脈波伝播時間の変動を記憶する脈波伝播時間記憶手段をさらに備え、相関情報記憶手段が、睡眠中の脈波伝播時間の変動と睡眠状態との関係に基づいて予め定められた睡眠状態相関情報を記憶し、生体状態推定手段が、脈波伝播時間記憶手段により記憶されている睡眠中の脈波伝播時間の変動、及び、睡眠状態相関情報に基づいて、使用者の睡眠状態を推定することが好ましい。
【0019】
この場合には、睡眠中の脈波伝播時間の変動と睡眠状態との関係に基づいて予め定められた睡眠状態相関情報が記憶されているため、使用者の睡眠中の脈波伝播時間の変動を計測することにより、睡眠状態(睡眠の質すなわち疲労の回復状態)を推定して評価することが可能となる。
【0020】
本発明に係る生体状態推定装置は、心臓に負荷をかける所定の行為の前後における脈波伝播時間の変動幅を算出する変動幅算出手段をさらに備え、相関情報記憶手段が、所定の行為の前後における脈波伝播時間の変動幅と、血管伸展性との関係に基づいて予め定められた血管伸展性相関情報を記憶し、生体状態推定手段が、変動幅算出手段により算出された脈波伝播時間の変動幅、及び、血管伸展性相関情報に基づいて、使用者の血管伸展性を推定することが好ましい。
【0021】
本発明に係る生体状態推定装置によれば、所定の行為の前後における脈波伝播時間の変動幅と血管伸展性との関係に基づいて予め定められた血管伸展性相関情報が記憶されているため、使用者の脈波伝播時間を計測することにより、脈波伝播時間の変動幅を指標として、生体状態としての血管伸展性を推定して評価することが可能となる。
【0022】
本発明に係る生体状態推定装置では、上記一対の心電電極が、同一の筐体に、かつ、使用者が左右の手で該筐体を把持した際に、一方の手と一方の心電電極とが接触し、他方の手と他方の心電電極とが接触する位置に取り付けられており、光電脈波センサが、上記筐体に、かつ、使用者が左右の手で前記筐体を把持した際に、いずれかの手と接触する位置に取り付けられていることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、筐体を把持することにより、両手間の心電信号、及びいずれかの手の光電脈波信号を取得すること、すなわち、脈波伝播時間を取得することができる。よって、使用者が筐体を把持するだけで、生体状態を推定し評価することができる。
【0024】
本発明に係る生体状態推定装置では、一対の心電電極のうち、一方の心電電極が、一方の腕の指先から肩までの間のいずれかの部位に接触して取り付けられ、他方の心電電極が、他方の腕の指先から肩までの間のいずれかの部位に接触して取り付けられ、一対の心電電極に接続された配線ケーブルが、使用者の体表面に沿うように配線され、光電脈波センサが、いずれかの腕の指先から肩までの間のいずれかの部位に接触して取り付けられることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、一対の心電電極と光電脈波センサとを身体に着けて脈波伝播時間を計測することができる。よって、例えば、身体に着けたまま寝ることにより就寝中の脈波伝播時間を取得して生体状態(例えば睡眠状態等)を推定・評価することや、日中の活動中の脈波伝播時間を計測して生体状態(例えば疲労度等)を逐次、推定・評価することも可能となる。
【0026】
本発明に係る生体状態推定装置では、相関情報記憶手段が、年齢毎、及び/又は、性別毎に分けて、脈波伝播時間と生体情報との関係を示す相関情報を記憶することが好ましい。
【0027】
この場合、年齢毎、性別毎に脈波伝播時間と生体情報との関係を示す相関情報が取得されて記憶されているため、年齢や性別による差を考慮し、より精度よく生体状態を推定・評価することが可能となる。
【0028】
本発明に係る生体状態推定装置では、使用者の接触が検知されたとき、所定の拍数分の心電信号、光電脈波信号が取得されたとき、及び、対価が支払われたときのうち、少なくともいずれかの条件が満足されたときに、生体状態推定手段が、自動的に、使用者の生体状態の推定を開始することが好ましい。
【0029】
このようにすれば、生体状態の推定が自動的に開始されるため、計測・推定を開始させるための動作が不要なため、開始動作に伴って発生する体動ノイズの発生がなく、比較的安静な状態での計測・推定が可能となる。
【0030】
本発明に係る生体状態推定装置では、所定の拍数分の心電信号、光電脈波信号が取得されたとき、及び/又は、生体状態の推定開始後、所定時間が経過したときに、生体状態推定手段が、自動的に、使用者の生体状態の推定を終了することが好ましい。
【0031】
このようにすれば、脈波伝播時間の計測・生体状態の推定が完了したときに、自動的に計測・推定が終了されるため、より簡易に、脈波伝播時間を計測して、生体状態を推定することが可能となる。
【0032】
本発明に係る生体状態推定装置は、自動的に、生体状態の推定を開始する際、及び/又は、生体状態の推定を終了する際に、音声及び/又は画像によるガイダンスを提示する提示手段をさらに備えることが好ましい。
【0033】
このようにすれば、使用者に、計測・推定の開始や、計測・推定の終了といった計測状態を知らせることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、生体状態を推定するための生体情報の取得に際し、使用者が安静にする必要がなく、かつ、より短時間で生体状態を推定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0037】
まず、
図1、
図2を併せて用いて、実施形態に係る生体状態推定装置1の構成について説明する。
図1は、生体状態推定装置1の構成を示すブロック図である。また、
図2は、生体状態推定装置1の外観、及び使用例を示す図である。
【0038】
生体状態推定装置1は、心電信号及び光電脈波信号を検出し、検出した心電信号(心電波)のR波ピークと光電脈波信号(脈波)のピーク(立ち上がり点)との時間差から脈波伝播時間を計測する。そして、生体状態推定装置1は、計測した脈波伝播時間に基づいて、使用者の生体状態(例えば、疲労度、自律神経機能、睡眠の質、血管伸展性等)を推定する。
【0039】
そのため、生体状態推定装置1は、心電信号を検出するための一対の心電電極(第1心電電極11、第2心電電極12)、光電脈波信号を検出するための光電脈波センサ20、及び、検出された心電信号及び光電脈波信号に基づいて脈波伝播時間等を計測して、生体状態を推定する信号処理ユニット30を備えている。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0040】
第1心電電極11及び第2心電電極12は、心電信号を検出するものであり、
図2に示されるように、使用者が生体状態推定装置1の筐体5を両手で把持したときに、例えば親指と接触するように、筐体5の左右の表面に取り付けられている。すなわち、使用者が筐体5(生体状態推定装置1)を両手で把持したときに、第1心電電極11及び第2心電電極12は、使用者の左右の手(親指)が接触することにより、使用者の左右の手の間の電位差に応じた心電信号を取得する。第1心電電極11、第2心電電極12の電極材料としては、例えば、金属(ステンレス、Au等の腐食に強く金属アレルギーの少ないものが好ましい)や導電ゲル、導電ゴム、導電布等が好適に用いられる。その他、第1心電電極11、第2心電電極12の電極材料として、例えば、導電プラスチック、容量性結合電極等を用いることもできる。第1心電電極11及び第2心電電極12それぞれは、配線ケーブルを通して、信号処理ユニット30と接続されており、該配線ケーブルを介して、心電信号を信号処理ユニット30へ出力する。
【0041】
光電脈波センサ20は、血中ヘモグロビンの吸光特性を利用して、光電脈波信号を光学的に検出するセンサである。そのため、光電脈波センサ20は、発光素子21と受光素子22とを含んで構成されている。ここで、光電脈波信号を検出する光電脈波センサ20は、一方の心電電極11の近傍に(例えば、横に並べて、又は一体化されて)配設されている。すなわち、一対の第1,第2心電電極11,12、及び光電脈波センサ20は、同一の筐体5に、かつ、使用者が左右の手で該筐体5を把持した際に、一方の手(例えば左手)と第1心電電極11、光電脈波センサ20とが接触し、他方の手(例えば右手)と第2心電電極12とが接触する位置に取り付けられている。
【0042】
発光素子21は、信号処理ユニット30の駆動部380から出力されるパルス状の駆動信号に応じて発光する。発光素子21としては、例えば、LED、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)、又は共振器型LED等を用いることができる。なお、駆動部380は、発光素子21を駆動するパルス状の駆動信号を生成して出力する。
【0043】
受光素子22は、発光素子21から照射され、例えば指先などの人体を透過して、又は人体に反射して入射される光の強さに応じた検出信号を出力する。受光素子22としては、例えば、フォトダイオードやフォトトランジスタ等が好適に用いられる。本実施形態では、受光素子22として、フォトダイオードを用いた。受光素子22は、信号処理ユニット30に接続されており、受光素子22で得られた検出信号(光電脈波信号)は信号処理ユニット30に出力される。
【0044】
上述したように、第1心電電極11、第2心電電極12及び光電脈波センサ20それぞれは、信号処理ユニット30に接続されており、検出された心電信号、及び光電脈波信号が信号処理ユニット30に入力される。
【0045】
信号処理ユニット30は、入力された心電信号を処理して、心拍数や心拍間隔などを計測する。また、信号処理ユニット30は、入力された光電脈波信号を処理して、脈拍数や脈拍間隔などを計測する。さらに、信号処理ユニット30は、検出した心電信号(心電波)のR波ピークと光電脈波信号(脈波)のピーク(立ち上がり点)との時間差から脈波伝播時間等を計測する(
図3参照)。なお、その際に、信号処理ユニット30は、後述する第1信号処理部310、第2信号処理部320におけるピークのずれ(遅延)を補正し、高精度に脈波伝播時間を計測する。そして、信号処理ユニット30は、計測した脈波伝播時間、及び、脈波伝播時間と生体状態との関係を定めた相関情報に基づいて、使用者の生体状態を推定する。
【0046】
そのため、信号処理ユニット30は、増幅部311,321、第1信号処理部310、第2信号処理部320、ピーク検出部316,326、ピーク補正部318,328、及び脈波伝播時間計測部330、脈波伝播時間記憶部340、相関情報記憶部341、変動幅算出部350、及び生体状態推定部360を有している。また、上記第1信号処理部310は、アナログフィルタ312、A/Dコンバータ313、ディジタルフィルタ314を有している。一方、第2信号処理部320は、アナログフィルタ322、A/Dコンバータ323、ディジタルフィルタ324、2階微分処理部325を有している。
【0047】
ここで、上述した各部の内、ディジタルフィルタ314,324、2階微分処理部325、ピーク検出部316,326、ピーク補正部318,328、脈波伝播時間計測部330、変動幅算出部350、及び生体状態推定部360は、演算処理を行うCPU、該CPUに各処理を実行させるためのプログラムやデータを記憶するROM、及び演算結果などの各種データを一時的に記憶するRAM等により構成されている。すなわち、ROMに記憶されているプログラムがCPUによって実行されることにより、上記各部の機能が実現される。
【0048】
増幅部311は、例えばオペアンプ等を用いた増幅器により構成され、第1心電電極11、第2心電電極12により検出された心電信号を増幅する。増幅部311で増幅された心電信号は、第1信号処理部310に出力される。同様に、増幅部321は、例えばオペアンプ等を用いた増幅器により構成され、光電脈波センサ20により検出された光電脈波信号を増幅する。増幅部321で増幅された光電脈波信号は、第2信号処理部320に出力される。
【0049】
第1信号処理部310は、上述したように、アナログフィルタ312、A/Dコンバータ313、ディジタルフィルタ314を有しており、増幅部311で増幅された心電信号に対して、フィルタリング処理を施すことにより拍動成分を抽出する。
【0050】
また、第2信号処理部320は、上述したように、アナログフィルタ322、A/Dコンバータ323、ディジタルフィルタ324、2階微分処理部325を有しており、増幅部321で増幅された光電脈波信号に対して、フィルタリング処理及び2階微分処理を施すことにより拍動成分を抽出する。
【0051】
アナログフィルタ312,322、及び、ディジタルフィルタ314,324は、心電信号、光電脈波信号を特徴づける周波数以外の成分(ノイズ)を除去し、S/Nを向上するためのフィルタリングを行う。より詳細には、心電信号は一般的に0.1〜200Hzの周波数成分、光電脈波信号は0.1〜数十Hz付近の周波数成分が支配的であるため、ローパスフィルタやバンドパスフィルタ等のアナログフィルタ及びディジタルフィルタを用いてフィルタリング処理を施し、上記周波数範囲の信号のみを選択的に通過させることによりS/Nを向上する。
【0052】
なお、拍動成分の抽出のみを目的とする場合(すなわち、心電波形等を取得する必要がない場合)には、ノイズ耐性を向上するために通過周波数範囲をより狭くして拍動成分以外の成分を遮断してもよい。また、アナログフィルタ312,322とディジタルフィルタ314,324は必ずしも両方備える必要はなく、アナログフィルタ312,322とディジタルフィルタ314,324のいずれか一方のみを設ける構成としてもよい。なお、アナログフィルタ312、ディジタルフィルタ314によりフィルタリング処理が施された心電信号は、ピーク検出部316へ出力される。同様に、アナログフィルタ322、ディジタルフィルタ324によりフィルタリング処理が施された光電脈波信号は、2階微分処理部325へ出力される。
【0053】
2階微分処理部325は、光電脈波信号を2階微分することにより、2階微分脈波(加速度脈波)信号を取得する。取得された加速度脈波信号は、ピーク検出部326へ出力される。なお、光電脈波のピーク(立ち上がり点)は変化が明確でなく検出しにくいことがあるため、加速度脈波に変換してピーク検出を行うことが好ましいが、2階微分処理部325を設けることは必須ではなく、省略した構成としてもよい。
【0054】
ピーク検出部316は、第1信号処理部310により信号処理が施された(拍動成分が抽出された)心電信号のピーク(R波)を検出する。
【0055】
一方、ピーク検出部326は、第2信号処理部320によりフィルタリング処理が施された光電脈波信号(加速度脈波)のピーク(立ち上がり点)を検出する。すなわち、ピーク検出部316,326は、請求の範囲に記載のピーク検出手段として機能する。なお、ピーク検出部316、及びピーク検出部326それぞれは、心拍間隔、及び脈拍間隔のピーク検出を行い、検出したすべてのピークについて、ピーク時間、ピーク振幅等の情報をRAM等に保存する。
【0056】
ピーク補正部318は、第1信号処理部310(アナログフィルタ312、ディジタルフィルタ314)における心電信号の遅延時間を求める。ピーク補正部318は、求めた心電信号の遅延時間に基づいて、ピーク検出部316により検出された心電信号のピークを補正する。同様に、ピーク補正部328は、第2信号処理部320(アナログフィルタ322、ディジタルフィルタ324、2階微分処理部325)における光電脈波信号の遅延時間を求める。ピーク補正部328は、求めた光電脈波信号の遅延時間に基づいて、ピーク検出部326により検出された光電脈波信号(加速度脈波信号)のピークを補正する。補正後の心電信号のピーク、及び補正後の光電脈波(加速度脈波)のピークは、脈波伝播時間計測部330に出力される。なお、心電信号と光電脈波信号の遅延時間がほぼ同じとみなせる場合、ピーク補正部318を設けることは必須ではなく、省略した構成としてもよい。
【0057】
脈波伝播時間計測部330は、ピーク補正部318により補正された心電信号のR波(ピーク)と、ピーク補正部328により補正された光電脈波信号(加速度脈波)のピーク(立ち上がり点)との間隔(時間差)から脈波伝播時間を求める。すなわち、脈波伝播時間計測部330は、請求の範囲に記載の脈波伝播時間演算手段として機能する。ここで、心電信号のR波(ピーク)と光電脈波信号(加速度脈波)のピークとの間隔から求められる脈波伝播時間を
図3に示す。なお、
図3では、心電信号の波形を細い実線で示すとともに、光電脈波信号を破線で示した。また、加速度脈波の波形を太い実線で示した。
【0058】
なお、脈波伝播時間計測部330は、脈波伝播時間に加えて、例えば、心電信号から心拍数、心拍間隔、心拍間隔変化率等も算出する。同様に、脈波伝播時間計測部330は、光電脈波信号(加速度脈波)から脈拍数、脈拍間隔、脈拍間隔変化率等も算出する。算出された脈波伝播時間、心拍数、心拍間隔、脈拍数、脈拍間隔、心電波、光電脈波、及び加速度脈波等の計測データは、脈波伝播時間記憶部340、変動幅算出部350、生体状態推定部360、表示部50に出力される。
【0059】
脈波伝播時間記憶部340は、例えば、上述したバックアップRAM等で構成されており、脈波伝播時間計測部330により算出された脈波伝播時間等の計測データを計測日時等の情報とともに記憶する。特に、血管伸展性を推定・評価する際には、脈波伝播時間記憶部340は、心臓に負荷をかける所定の行為(例えば踏み台昇降、駆血等)を行う前に計測された脈波伝播時間を記憶する。また、睡眠の質(疲労の回復の程度)を推定・評価する際には、脈波伝播時間記憶部340は、睡眠前、睡眠中に計測された脈波伝播時間を記憶する。すなわち、脈波伝播時間記憶部340は、請求の範囲に記載の脈波伝播時間記憶手段として機能する。
【0060】
相関情報記憶部341は、例えば、上述したROM等で構成されており、脈波伝播時間と生体状態との関係に基づいて予め定められた相関情報を記憶する。すなわち、相関情報記憶部341は、請求の範囲に記載の相関情報記憶手段に相当する。より具体的には、相関情報記憶部341は、脈波伝播時間と疲労度との関係に基づいて予め定められた疲労度テーブル(疲労度相関情報に相当、詳細は後述する)、脈波伝播時間と自律神経機能との関係に基づいて予め定められた自律神経機能テーブル(自律神経機能相関情報に相当、詳細は後述する)、及び、心臓に負荷をかける所定の行為(例えば踏み台昇降、駆血等)の前後における脈波伝播時間の変動幅と血管伸展性との関係に基づいて予め定められた血管伸展性テーブル(血管伸展性相関情報に相当、詳細は後述する)を記憶する。なお、その際に、相関情報記憶部341は、年齢毎、及び/又は、性別毎に分けて、脈波伝播時間と生体情報(疲労度、自律神経機能、血管伸展性)との関係を示す相関情報(疲労度テーブル、自律神経機能テーブル、血管伸展性テーブル)を記憶する構成とすることが好ましい。
【0061】
ここで、自律神経機能評価時に充分な休息時間を確保することができず、LF/HFが2以上(相対的な交感神経系の過緊張状態)であった被験者27名に対して、充分な休息(安静5分)を与えたときの休息前後における比較を実施した結果を
図10、及び
図11に示す。まず、
図10は、LF/HFの安静前(変数1)と安静後(変数2)との関連を示す図である。交感神経系/副交感神経系の自律神経バランス(自律神経機能)を表すLF/HFは、安静前と安静後で有意な正の相関が認められる。しかし、安静前は平均値で5.176であったものが、安静後は2.588に低下し、統計学的に有意に低下している。
【0062】
一方、
図11は、脈波伝播速度の安静前(変数1)と安静後(変数2)との関連を示す図である。脈波伝播速度に関係したRa時間は、安静前と後では、相関係数が1に近い極めて強い正の相関が認められる。また、Ra時間の平均値も、安静前(193.29)、安静後(193.35)とほとんど同一な値であり、統計学的に有意な差はみられない。このことは、Ra時間の評価には計測前の安静は不要であることを意味している。なお、脈波伝播速度としては、心電
図R波と、加速度脈波a波との間隔であるRa時間(msec)を、被験者の腕の長さで除した値を使用した。
【0063】
ところで、血管の拡張収縮は、自律神経のうち、特に交感神経が司る。そのため、血管の拡張収縮と密接な関係にある脈波伝播時間と、交感神経系/副交感神経系のバランスを示す自律神経機能とは、相関関係を有している。そこで、心拍間隔又は脈拍間隔から周波数解析により算出された自律神経機能の指標(LF/HF)と同時刻に計測された脈波伝播時間の計測結果とに基づいて、脈波伝播時間と自律神経機能の指標(LF/HF)との関係を定めた相関式又は上記自律神経機能テーブルが予め作成され、相関情報記憶部341に記憶される。なお、本実施形態では、自律神経機能テーブルを用いて自律神経機能を推定する構成とした。
【0064】
次に、脈波伝播時間と精神疲労度との相関データの一例を
図4に示す。
図4に示されたグラフの横軸は、脈波伝播時間(msec)であり、縦軸は精神疲労度(問診評価結果)である。
図4に示されるように、脈波伝播時間が短くなるほど、精神疲労度が高くなる傾向が認められる。そのため、
図4に示されるデータから相関式を求め、求めた相関式を相関情報記憶部341に記憶しておく。ここで、相関式は直線近似でもよいが、多項式近似や指数近似等でもよい。また、相関式に代えて、脈波伝播時間に対して予め求めた計算結果(精神疲労度)を疲労度テーブルにして用いてもよい。なお、本実施形態では、上述したように、疲労度テーブルを相関情報記憶部341に記憶し、疲労度合いの推定に用いる構成とした。
【0065】
また、血管伸展性は、血管の硬さや血管の老化を表す指標であり、脈波伝播時間と正の相関を示す。血管伸展性が高くなるほど、脈波伝播時間、及び脈波伝播時間の変動幅が大きくなる傾向を示す。そのため、脈波伝播時間の変動幅と血管伸展性との相関データを事前に計測し、該相関データに基づいて、脈波伝播時間の変動幅と血管伸展性との関係を定めた相関式を求め、求めた相関式を相関情報記憶部341に記憶しておく。ここで、相関式に代えて、脈波伝播時間の変動幅に対して予め求めた計算結果(血管伸展性)を血管伸展性テーブルにして用いてもよい。なお、本実施形態では、上述したように、血管伸展性テーブルを記憶部341に記憶し、血管伸展性を推定する構成とした。
【0066】
図1に戻り、変動幅算出部350は、脈波伝播時間計測部330により求められた脈波伝播時間をもとに、心臓に負荷をかける所定の行為(例えば踏み台昇降、駆血等)の前後における脈波伝播時間(及び心拍数)の変動幅を算出する。すなわち、変動幅算出部350は、請求の範囲に記載の変動幅算出手段として機能する。なお、変動幅算出部350により算出された脈波伝播時間の変動幅は、生体状態推定部360に出力される。
【0067】
生体状態推定部360は、脈波伝播時間計測部330により求められた脈波伝播時間、及び、相関情報記憶部341に記憶されている相関情報に基づいて、使用者の生体状態を推定する。すなわち、生体状態推定部360は、請求の範囲に記載の生体状態推定手段として機能する。
【0068】
より具体的には、生体状態推定部360は、脈波伝播時間、及び、疲労度テーブル(疲労度相関情報)に基づいて、使用者の疲労度を推定する。ここで、上述したように相関情報記憶部341には、脈波伝播時間と疲労度の程度との関係を定めた疲労度テーブルが記憶されており、生体状態推定部360は、計測された脈波伝播時間に基づいて、疲労度テーブルを検索することにより、疲労度の程度を推定する。
【0069】
また、生体状態推定部360は、脈波伝播時間、及び、自律神経機能テーブル(自律神経機能相関情報)に基づいて、使用者の自律神経機能を推定する。ここで、上述したように相関情報記憶部341には、脈波伝播時間と自律神経機能との関係を定めた自律神経機能テーブルが記憶されているため、生体状態推定部360は、脈波伝播時間に基づいて、自律神経機能テーブルを検索することにより、自律神経機能を推定する。
【0070】
さらに、生体状態推定部360は、変動幅算出部350により算出された脈波伝播時間の変動幅、及び、血管伸展性テーブル(血管伸展性相関情報)に基づいて、使用者の血管伸展性を推定する。ここで、上述したように相関情報記憶部341には、脈波伝播時間の変動幅と血管伸展性の程度との関係を定めた血管伸展性テーブルが記憶されている。生体状態推定部360は、変動幅算出部350により算出された脈波伝播時間の変動幅に基づいて、相関情報記憶部341に記憶されている血管伸展性テーブルを検索して、血管伸展性を推定する。
【0071】
推定された生体状態(すなわち、疲労度、自律神経機能、及び/又は血管伸展性)をはじめ、算出された脈波伝播時間、心拍数、心拍間隔、脈拍数、脈拍間隔、心電波、光電脈波、及び加速度脈波等の計測データは、表示部50等に出力される。なお、取得された生体状態や、脈波伝播時間、心拍数、脈拍数等の計測データは、例えば、上述したRAMなどに蓄積して記憶しておき、計測が終了した後に、パーソナルコンピュータ(PC)等に出力して確認するようにしてもよい。
【0072】
表示部50は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)等からなり、推定された生体状態や、取得された脈波伝達時間、心拍数、脈拍数等の計測データ(計測結果)をリアルタイムに表示する。また、上記情報を、通信部60を介して、例えば、PCや、ディスプレイを有する携帯型音楽プレーヤ、又はスマートフォン等に送信して表示させる構成とすることもできる。なお、その場合には、計測結果や推定結果に加えて、計測日時等のデータも送信することが好ましい。
【0073】
次に、
図5及び
図6を参照しつつ、生体状態推定装置1の動作について説明する。
図5は、生体状態推定装置1による疲労度/自律神経機能推定処理の処理手順を示すフローチャートである。また、
図6は、生体状態推定装置1による血管伸展性推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図5、
図6に示される処理は、主として信号処理ユニット30によって実行される。
【0074】
ステップS100では、一対の心電電極11,12により検出された心電信号(心電波形)、及び光電脈波センサ20により検出された光電脈波信号(光電脈波波形)が読み込まれる。続くステップS102では、ステップS100で読み込まれた心電信号、及び光電脈波信号に対してフィルタリング処理が施される。また、光電脈波信号が2階微分されることにより加速度脈波が取得される。
【0075】
次に、ステップS104では、心電信号、光電脈波信号(加速度脈波信号)のピークが検出される。そして、検出されたすべてのピークについて、ピーク時間、ピーク振幅等の情報が記憶される。
【0076】
続いて、ステップS106では、心電信号のR波ピーク及び光電脈波信号(加速度脈波)のピークそれぞれの遅延時間(ずれ量)が求められるとともに、求められた遅延時間に基づいて、心電信号のR波ピーク及び光電脈波信号(加速度脈波)のピークがそれぞれ補正される。なお、各ピークの補正方法は上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0077】
そして、ステップS108では、補正された光電脈波信号(加速度脈波)のピークと、心電信号のR波ピークとの時間差から脈波伝播時間が算出される。
【0078】
次に、ステップS110では、ステップS108において算出された脈波伝播時間に基づいて疲労度テーブルが検索され、疲労度が推定される。なお、疲労度テーブル等については上述した通りであるので、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0079】
なお、ステップS110では、疲労度に代えて、自律神経機能の推定を行ってもよい。この場合、ステップS110では、脈波伝播時間に基づいて自律神経機能テーブルが検索され、自律神経機能が推定される。ここで、自律神経機能テーブル等については上述した通りであるので、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0080】
そして、ステップS112では、ステップS110において推定された疲労度(又は、自律神経機能)が、表示部50等に出力される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0081】
続いて、
図6を参照しつつ、血管伸展性推定処理について説明する。まず、ステップS120では、例えば踏み台昇降を行う前に、脈波伝播時間が計測され、計測された脈波伝播時間が脈波伝播時間記憶部340に記憶される。
【0082】
そして、踏み台昇降が行われた後に、ステップS122において、脈波伝播時間が計測される。続いて、ステップS124では、脈波伝播時間記憶部340に記憶されている、踏み台昇降を行う前の脈波伝播時間が読み込まれる。
【0083】
次に、ステップS126では、ステップS122において計測された踏み台昇降後の脈波伝播時間と、ステップS124において読み込まれた踏み台昇降前の脈波伝播時間とから、踏み台昇降を行う前後での脈波伝播時間の変動幅が算出される。
【0084】
続くステップS128では、ステップS126で算出された脈波伝播時間の変動幅に基づいて血管伸展性テーブルが検索され、血管伸展性が推定される。ここで、血管伸展性テーブル等については上述した通りであるので、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0085】
そして、ステップS130では、ステップS128において推定された血管伸展性が、表示部50等に出力される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0086】
以上、本実施形態によれば、脈波伝播時間と生体情報との関係を示す相関情報が予め取得されて記憶されており、心電信号ピークと光電脈波信号ピークとの時間差から求められた脈波伝播時間と、記憶されている相関情報に基づいて、使用者の生体状態が推定される。すなわち、心電信号ピークと光電脈波信号ピークとの時間差から求められた脈波伝播時間が生体状態の指標として使用される。ここで、上述したように、脈波伝播時間は、安静後のLF/HFと相関を有している。すなわち、脈波伝播時間は、自律神経機能との相関が認められる。また、脈波伝播時間は、安静にして計測した場合と、安静にすることなく計測した場合とで、検出結果がほとんど変化しない。すなわち、脈波伝播時間を指標として用いれば、計測前及び計測中に安静にしていることは要求されない。さらに、生体状態を推定するためのデータの取得時間については、脈波伝播時間が取得できればよいため、原理的には、一拍の拍動時間で生体状態を推定することができる。よって、生体状態の評価を行うために必要な計測時間を、周波数解析を用いた従来の手法より短くすることができる。以上の結果、生体状態を推定するための生体情報(脈波伝播時間)の取得に際し、使用者が安静にする必要がなく、かつより短時間で生体状態を推定することが可能となる。
【0087】
その際に、本実施形態によれば、筐体5を把持することにより、両手間の心電信号、及び光電脈波信号を取得すること、すなわち、脈波伝播時間を取得することができる。よって、使用者が筐体5を把持するだけで、生体状態を推定し評価することができる。
【0088】
また、本実施形態によれば、年齢毎、性別毎に脈波伝播時間と生体情報との関係を示す相関情報を取得して記憶することにより、年齢や性別による差を考慮し、より精度よく生体状態を推定・評価することが可能となる。
【0089】
特に、本実施形態によれば、脈波伝播時間と疲労度との関係に基づいて予め定められた疲労度テーブル(疲労度相関情報)が記憶されているため、使用者の脈波伝播時間を計測することにより、脈波伝播時間を指標として、疲労度の程度を推定して評価することが可能となる。
【0090】
また、本実施形態によれば、脈波伝播時間と自律神経機能との関係に基づいて予め定められた自律神経機能テーブル(自律神経機能相関情報)が記憶されているため、使用者の脈波伝播時間を計測することにより、脈波伝播時間を指標として、自律神経機能を推定して評価することが可能となる。
【0091】
さらに、本実施形態によれば、心臓に負荷をかける所定の行為(例えば踏み台昇降、駆血等)の前後における脈波伝播時間の変動幅と血管伸展性との関係に基づいて予め定められた血管伸展性テーブル(血管伸展性相関情報)が記憶されているため、使用者の脈波伝播時間を計測することにより、脈波伝播時間の変動幅を指標として、血管伸展性を推定して評価することが可能となる。
【0092】
(第1変形例)
上述した実施形態では、第1心電電極11、第2心電電極12、及び光電脈波センサ20等が筐体5に取り付けられた携帯型の構成としたが、例えば、
図7に示されるように、身体に装着可能な(すなわち装着型の)構成とすることもできる。このような構成にすれば、例えば睡眠中等の脈波伝播時間をより容易に計測することができる。
【0093】
第1変形例に係る生体状態推定装置2は、
図7に示されるように、両腕の先から肩、背中にかけてつながるように装着可能に形成された布地に第1心電電極11、第2心電電極12、及び光電脈波センサ20等が取り付けられている。なお、計測や配線に不要な体幹部の布地はなくてもよい。
【0094】
生体状態推定装置2は、装着することにより、一対の心電電極11,12のうち、一方の心電電極11が、一方の腕(例えば左腕)の指先から肩までの間のいずれかの部位(本変形例では手の甲)に接触して取り付けられ、他方の心電電極12が、他方の腕(例えば右腕)の指先から肩までの間のいずれかの部位(本変形例では手の甲)に接触して取り付けられる。また、一方の心電電極11、及び/又は、他方の心電電極12に接続された配線ケーブル15は、使用者の体表面に沿うように布地に取り付けられて配線される。光電脈波センサ20は、手の指先から肩までの間のいずれかの部位(本変形例では手の甲)に接触して取り付けられることが好ましい。
【0095】
ところで、脈波伝播時間は、一日のうち、時間帯によって長さが変動するが、大きな傾向として、
図8に示されるように、朝には比較的長く、夜には比較的短くなる。これは、比較的疲労が少ない朝に対して一日の疲れが溜る夜に脈波伝播時間が短くなることを示唆している。この短くなった脈波伝播時間は、睡眠による疲労回復とともに長くなる。このことから睡眠前後の脈波伝播時間の値から睡眠の質(疲労の回復状態)を推定する。
【0096】
よって、本変形例では、睡眠(就寝)前の脈波伝播時間と、睡眠後(起床後)の脈波伝播時間と、睡眠の質(疲労の回復状態)との関係に基づいて定められた睡眠状態テーブル(睡眠状態相関情報に相当)を予め相関情報記憶部341に記憶し、睡眠の質を推定する構成とした。
【0097】
生体状態推定部360は、脈波伝播時間計測部330により求められ、脈波伝播時間記憶部340により記憶されている睡眠(就寝)前の脈波伝播時間、脈波伝播時間計測部330により求められた睡眠後(起床後)の脈波伝播時間、及び、睡眠状態テーブルに基づいて、睡眠の質(疲労の回復状態)を推定する。なお、その他の構成は上述した実施形態(生体情報推定装置1)と同一又は同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0098】
次に、
図9を用いて、生体状態推定装置2の動作について説明する。
図9は、生体状態推定装置2による睡眠の質推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図9に示される処理は、主として信号処理ユニット30によって実行される。
【0099】
ステップS200では、記憶されている睡眠前の脈波伝播時間が読み込まれる。続いてステップS202では、計測された睡眠後の脈波伝播時間が読み込まれる。
【0100】
次に、ステップS204では、ステップS200において読み込まれた睡眠前の脈波伝播時間、及び、ステップS202において読み込まれた睡眠後の脈波伝播時間に基づいて、睡眠状態テーブルが検索され、睡眠の質(疲労の回復の程度)が推定される。
【0101】
そして、ステップS206では、ステップS204において推定された睡眠の質が、表示部50等に出力される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0102】
本変形例によれば、一対の心電電極11,12と光電脈波センサ20とを身体に着けて脈波伝播時間を計測することができる。よって、身体に着けたまま寝ることにより就寝中の脈波伝播時間を取得して睡眠の質(疲労の回復の程度)を推定・評価することができる。また、日中の活動中の脈波伝播時間を計測して生体状態(例えば疲労度等)を逐次、推定・評価することも可能となる。
【0103】
特に、この場合、睡眠前後の脈波伝播時間と睡眠状態との関係に基づいて予め定められた睡眠状態テーブルが記憶されているため、使用者の睡眠前後の脈波伝播時間を計測することにより、脈波伝播時間を指標として、生体状態としての睡眠の質を推定して評価することが可能となる。
【0104】
また、本変形例によれば、脈波伝播時間を睡眠中も連続的に計測することができるため、レム睡眠とノンレム睡眠の推定や、睡眠効率(就床時間に対する疲労回復に有効な睡眠時間の割合)、夜間中途覚醒数等も同時に推定することができる。
【0105】
(第2変形例)
ところで、上述した、脈波伝播時間の取得、及び生体状態(疲労度、自律神経機能、血管伸展性、睡眠の質)の推定の開始・終了は自動的に行うようにしてもよい。また、自動的に開始する際、及び/又は、終了する際に、音声又は映像によるガイダンスを行う構成としてもよい。
【0106】
本変形例では、例えば、使用者の接触が検知されたとき、所定の拍数分(例えば数拍)の心電信号、光電脈波信号が取得されたとき、及び、対価が支払われたときのうち、少なくともいずれかの条件が満足されたときに、生態状態推定部360が、自動的に、生態状態の推定を開始する。
【0107】
また、本変形例では、所定の拍数分(例えば30拍分)の心電信号、光電脈波信号が取得されたとき、及び/又は、生体状態の推定開始後、所定時間(例えば30秒)が経過したときに、生態状態推定部360が、自動的に、生態状態の推定を終了する。
【0108】
さらに、本変形例では、自動的に生体状態の推定を開始する際、及び/又は、生体状態の推定を終了する際に、スピーカ70や表示部50により、音声及び/又は画像によるガイダンスが提示される。すなわち、スピーカ70や表示部50は、請求の範囲に記載の提示手段に相当する。
【0109】
本変形例によれば、生体状態の推定が自動的に開始されるため、計測・検知を開始させるための動作が不要なため、開始動作に伴って発生する体動ノイズの発生がなく、比較的安静な状態での計測・検知が可能となる。
【0110】
また、本変形例によれば、脈波伝播時間の計測・生体状態の推定が完了したときに、自動的に計測・推定が終了されるため、より簡易に、脈波伝播時間を計測して、生体状態を推定することが可能となる。
【0111】
さらに、本変形例によれば、使用者に、計測・推定の開始や、計測・推定の終了といった計測状態を知らせることができる。
【0112】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、疲労度を推定するために疲労度テーブルを用いたが、相関式に基づいて演算によって推定する構成としてもよい。同様に、自律神経機能を推定するために自律神経機能テーブルを用いたが、相関式に基づいて演算によって推定する構成としてもよい。また、睡眠の質の取得、及び血管の伸展性の取得についても同様に、演算によって推定する構成としてもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、使用者の生体状態を、予め記憶されている相関情報(疲労度テーブル等)に基づいて推定したが、相関情報に基づいて生体状態(疲労度等)を推定する際に、該相関情報を、例えば、心拍数、血圧、及び/又は、光電脈波信号の検出部位と心臓との間の距離等に基づいて補正するようにしてもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、計測された脈波伝播時間に基づいて疲労度テーブルを検索することにより疲労度を推定したが、さらに、推定された自律神経機能状態、睡眠の質、及び/又は、血管伸展性を考慮して、総合的に疲労度を推定する構成としてもよい。
【0115】
また、上記実施形態では、脈波伝播時間に基づいて疲労度を推定したが、さらに、心拍間隔又は脈拍間隔に基づく自律神経機能の解析結果を考慮して、総合的に疲労度を推定するようにしてもよい。このようにすれば、原因及び症状がそれぞれ異なる肉体疲労と精神疲労を総合的に推定することができる。
【0116】
上記実施形態では、脈波伝播時間の変動幅に基づいて血管伸展性を推定したが、さらに、加速度脈波波形のピーク高さ比を考慮して、総合的に血管伸展性を推定するようにしてもよい。このようにすれば、血管伸展性の推定精度を向上することができる。
【0117】
上記実施形態では、第1,第2心電電極11,12、及び光電脈波センサ20を筐体5の上面に配置したが、例えば、筐体5の裏面の、使用者の中指等が接触する箇所に配置してもよい。
【0118】
上述したように、取得された心拍信号や脈拍信号等の計測データは、PCや、ディスプレイを有する携帯型音楽プレーヤ、又はスマートフォン等に出力して表示させるような構成とすることもできる。その場合に、生体状態の推定は、PCやスマートフォン側で行ってもよい。さらには、データをサーバーに送信してサーバー側で処理を行う構成とすることもできる。このような場合、上述した相関情報等のデータは、PCや、スマートフォン、サーバー側に記憶される。
【0119】
上記第1変形例では、睡眠前後の脈波伝播時間の値から睡眠の質を推定したが、睡眠中の脈波伝播時間の変動と睡眠の質(疲労の回復状態)との関係に基づいて定められた睡眠状態テーブル(睡眠状態相関情報に相当)を予め相関情報記憶部341に記憶しておき、睡眠の質を推定する構成としてもよい。その場合、脈波伝播時間記憶部340は、睡眠中の脈波伝播時間の変動を記憶し、生体状態推定部360は、脈波伝播時間記憶部340により記憶されている睡眠中の脈波伝播時間の変動、及び、睡眠状態テーブルに基づいて、睡眠の質(疲労の回復状態)を推定する。この場合には、使用者の睡眠中の脈波伝播時間の変動を計測することにより、睡眠状態(睡眠の質すなわち疲労の回復状態)を推定して評価することができる。