特許第6126235号(P6126235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6126235耐熱性アルミニウムベース合金を変形させてなる半製品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126235
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】耐熱性アルミニウムベース合金を変形させてなる半製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20170424BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20170424BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20170424BHJP
   C22F 1/057 20060101ALI20170424BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170424BHJP
【FI】
   C22C21/00 L
   C22C21/12
   C22F1/04
   C22F1/057
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 641B
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 685A
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-546420(P2015-546420)
(86)(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公表番号】特表2016-505713(P2016-505713A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】RU2012001027
(87)【国際公開番号】WO2014088449
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】509291781
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティ オブ サイエンス アンド テクノロジー エムアイエスアイエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ベローフ,ニコライ アレクサンドロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】アラビン,アレクサンダー ニコライヴィッチ
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−108191(JP,A)
【文献】 特開昭61−194144(JP,A)
【文献】 特開2001−207231(JP,A)
【文献】 特開平03−122240(JP,A)
【文献】 特開昭63−096236(JP,A)
【文献】 特開平04−314839(JP,A)
【文献】 化学大辞典 5 縮刷版,共立出版株式会社,1976年 9月10日,第750−752頁
【文献】 JISハンドブック 3 非鉄,財団法人日本規格協会,2007年 1月19日,第14−15、1260−1261頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、マンガン、ジルコニウム、ケイ素、鉄、およびクロムを以下の分量(重量%)含むアルミニウムベース合金を変形させてなる半製品であって、
銅 0.6〜1.5
マンガン 1.2〜1.8
ジルコニウム 0.2〜0.6
ケイ素 0.05〜0.25
鉄 0.1〜0.4
クロム 0.01〜0.3
アルミニウム 残余
上記半製品を形成している合金は、その構造中に20nm以下の粒径のナノサイズのAlZr相粒子の形状でジルコニウムを含み、主にマンガンが、少なくとも2容量%の、500nm以下の粒径のAl20CuMn二次相粒子を構成することを特徴とするアルミニウムベース合金を変形させてなる半製品
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウムベース合金から展伸材用半製品を製造する製造方法であって、
上記合金の融解物を生成し、上記合金を凝固させることにより鋳片を製造し、これらの各作業を液相線温度より少なくとも50℃高い温度で行い、
上記鋳片を350℃以下の温度にて変形させることにより、中間展伸材用半製品を生成し、
上記中間展伸材用半製品に対して340〜450℃で焼きなましを行い、上記中間展伸材用半製品を室温で変形させることにより展伸材用半製品を生成し、
上記展伸材用半製品に対して300〜400℃で焼きなましを行うことを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
上記鋳片を室温で変形させることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記展伸材用半製品を圧延シートの形状で生成することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記展伸材用半製品をワイヤの形状で生成することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
上記展伸材用半製品を押出棒の形状で生成することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
上記展伸材用半製品を型鍛造の形状で生成することを特徴とする請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は冶金、より具体的には、展伸材用アルミニウムベース合金に関し、350℃以下の加工温度範囲における製品の製造に使用することができる。
【0002】
本明細書において提供される合金は、高温での強度を有し、軽量化および長寿命化が行われているため、製品の幅が大きく広がる。
【0003】
上記合金は、種々のエンジン部品(ケース、蓋、ノズル、バルブ、フランジ等)を製造するために使用することができる。上記合金は、石油およびガス産業において、取水口の付属器具や水中ポンプ段を製造する時に使用される、鋼鉄や鋳鉄の代わりに使用することが推奨される。また、上記合金は、高い導電率、十分な強度、および熱安定性を組み合わせる必要がある電気機器(送電線の搬送用配線(self-carrying wires)、高速鉄道のトロリ線、航空機の配線等)を製造する時にも使用することができる。
【0004】
〔背景技術〕
Al−Cu−Mn系展伸材用アルミニウム合金は、室温での強度が比較的高く、形成作業の製造性が良好で、耐熱性が高い(250〜300℃)。このような合金の銅含有量としては、アルミニウム固溶体(Al)における銅の最大溶解度と同等、またはわずかに高い、5〜7%(以下、重量%とする)とするのが最適である。上記銅含有量により、ねかし中に形成されるAlCu二次相の析出物の量が最大となる。また、上記合金はすべて、耐熱性を実現する1%以下のマンガンと、再結晶開始温度を上昇させてアルミニウム固溶体の安定性を著しく向上させる、0.25%以下のジルコニウムとを含んでいる。
【0005】
例えば、AA2219アルミニウムベース合金(Hatch J.E. (ed.) Aluminum: Properties and Physical Metallurgy, ASM, Metals. Park, 1984 и Kaufman G.J. Properties of Aluminum Alloys: Fatigue Data and Effects of Temperature, Product Form, and Process Variables, Materials Park, ASM International, 2008, 574 p.)が知られている。このAA2219アルミニウムベース合金は、Cuを5.8〜6.3%、Mnを0.2〜0.4%、Tiを0.02〜0.10%、Vを0.05〜0.15%、およびZrを0.1〜0.25%含む。
【0006】
上記合金のインゴットから製造された展伸材用半製品は、室温において比較的良好な機械的特性を有する。AA2219合金が、高い耐熱性(250〜300℃以下)を有する主な理由は、AA2219合金に1.5容量%以下のAl20CuMn相微粒子が含まれているためである。
【0007】
上記合金には以下のような欠点がある。上記合金を300℃より高い温度まで加熱すると、主要強化相AlCuが粗大化するため、合金の強度が大幅に低下する。また、インゴットから展伸材用半製品を製造する方法は極めて複雑であり、高温での均質化焼きなまし、形成作業、および、焼き入れ・水焼き入れ・ねかしのための500℃より高い温度での半製品の加熱を含んでおり、最終生成物が高額となる。AA2219合金に対して高温で均質化焼きなましを行うと、当該合金の高温での構造的強度を決定する、Al20CuMn二次相粒子の粒径(サイズ)が500nmより大きくなる。AA2219合金は、耐食性が低いため、種々の保護用コーティングを使用する必要がある。また、AA2219合金は、導電率が低い(T6処理で30%IACS以下)ため、電気工学的適用が制限される。AA2219合金の導電率が低い主な理由は、アルミニウム固溶体における合金添加物(例:銅やマンガン)の含有量が多いためである。
【0008】
高温での強度が高いアルミニウム合金、半導体ワイヤ、気中ワイヤ、および製造方法(EP0 787 811 A1、1997年8月6日公開)が知られている。当該発明において、アルミニウムベース合金は、Zrを0.28〜0.8%、Mnを0.1〜0.8%、Cuを0.1〜0.4%、Siを0.16〜0.3%、および他の添加物を含む。この合金からワイヤを製造する方法は、少なくとも750+227・(Z−0.28)℃(Zは合金のジルコニウム濃度(重量%)とする)の温度で合金を生成し、少なくとも0.1K/秒の速度で冷却し、最初の(鋳)片を製造し、当該鋳片を320〜390℃で30〜200時間熱加工し、変形させることを含んでいる。
【0009】
当該発明の欠点としては、合金の導電率が不十分である(53%IACS未満)ことと、加熱処理に時間を要すること(30時間超)が挙げられる。当該発明においては、合金からのワイヤ以外の展伸材用半製品(例:シート)の製造については開示されていない。また、合金の高温での構造的強度を決定する、Al20CuMn相微粒子の含有量が低いために耐熱性が不十分であることも、この材料の欠点として挙げられる。
【0010】
当該発明に対応する最も近い同等物は、耐熱性アルミニウムベース合金および展伸材用半製品の製造方法(RU2446222、2012年3月27日公開)である。上記合金は、構成要素として、Cuを0.9〜1.9%、Mnを1.0〜1.8%、Zrを0.2〜0.64%、Scを0.01〜0.12%、Feを0.15〜0.4%、およびSiを0.05〜0.15%含む。上記合金は、ジルコニウムおよびスカンジウムが添加されているため、室温のみならず、300℃での長時間にわたる熱処理後も、AA2219と比較して機械的特性が優れている。
【0011】
上記発明に係る展伸材用半製品の製造方法は、液相線温度より少なくとも50℃高い温度で合金の融解物を生成し、上記合金を凝固させることにより鋳片を生成し、350℃以下の温度で上記鋳片を変形させ、その加工した鋳片に対して300〜455℃で中間焼きなましを行い、焼きなましを行った鋳片を室温で変形させ、300〜350℃にすることで、展伸材用半製品を生成することを含んでいる。
【0012】
上記発明の欠点としては、550℃より高い温度まで加熱すると、Al(Zr,Sc)相微粒子が極端に粗大化するため、合金の強度が著しく低下することが挙げられる。そのため、この材料を560〜600℃の高温で行うはんだ付けに適用することは難しい。また、スカンジウムは高価なため、最終製品が非常に高額になり、その適用が制限される。鋳片を変形する間にAl(Zr,Sc)相微粒子が析出されることで、アルミニウム固溶体が急速に分解され、形成作業の製造性が低下することも、上記合金の欠点として挙げられる。
【0013】
〔発明の概要〕
本発明の第一および第二の目的において得られる技術的成果は、新規な耐熱性アルミニウムベース合金を提供することであり、当該耐熱性アルミニウムベース合金の展伸材用半製品(シート、棒、ワイヤ、型鍛造製品、または管)は高強度、高耐熱性、および高導電率を有している。
【0014】
上記合金においては、時間破壊強度が300MPa、導電率が53%IACS、比伸長度(specific elongation)が4%をそれぞれ上回り、300℃で100時間加熱した場合の降伏応力が260MPaを上回る。
【0015】
本発明の第一の目的において得られる上記技術的成果について説明すれば、以下のとおりである。
【0016】
上記アルミニウムベース合金は、銅、マンガン、ジルコニウム、ケイ素、鉄、およびクロムを以下の分量(重量%)含む:
銅 0.6〜1.5
マンガン 1.2〜1.8
ジルコニウム 0.2〜0.6
ケイ素 0.05〜0.25
鉄 0.1〜0.4
クロム 0.01〜0.3
アルミニウム 残余
上記合金は、その構造中に20nm以下の粒径のナノサイズのAlZr相粒子の形状でジルコニウムを含み、主にマンガンが、少なくとも2容量%の、500nm以下の粒径のAl20CuMn二次相粒子を構成する。
【0017】
本発明の第二の目的において得られる上記技術的成果について説明すれば、以下のとおりである。
【0018】
上記アルミニウムベース合金から展伸材用半製品を製造する製造方法であって、合金を生成し、上記合金を凝固させることにより鋳片を製造し、これらの各作業を液相線温度より少なくとも50℃高い温度で行うことを含んでいる。
【0019】
上記鋳片を350℃以下の温度にて変形させることにより、中間展伸材用半製品を生成する。
【0020】
そして、上記中間展伸材用半製品に対して340〜450℃で焼きなましを行い、上記中間展伸材用半製品を室温で変形させることにより展伸材用半製品を生成する。
【0021】
最後に、上記展伸材用半製品に対して300〜400℃で焼きなましを行う。
【0022】
上記鋳片は、室温で加工されることが多い。
【0023】
展伸材用半製品は、圧延シート、ワイヤ、押出棒、または型鍛造製品として形成することができる。
【0024】
本明細書において提供されるアルミニウムベース合金のマトリックスには、相微粒子(Mn、Cr、およびZrを含む遷移金属の二次アルミナイド)が含まれるが、AlCu相は含まれていない。アルミニウムのマトリックスにおける微粒子は均等に分布し、アルミニウム固溶体の元素濃度は、微粒子を構成する各元素(Mn、Cr、およびZr)の濃度も含め、最小となっている。
【0025】
上記合金における、特許請求の範囲に記載された合金添加物の濃度について説明すれば、以下のとおりである。
【0026】
本明細書における特許請求の範囲に記載された分量のマンガンおよび銅は、最大500nmの粒径のAl20CuMn相微粒子を少なくとも2容量%形成するために必要となる。濃度がこれより低い場合は、上記粒子の分量は、必要な強度と耐熱性を得るには不十分であり、濃度がこれより高い場合は、導電率および形成作業の製造性が低下する。Al20CuMn相微粒子の粒径が500nmより大きい場合、高温での合金の強度が著しく低下する。
【0027】
本明細書における特許請求の範囲に記載された分量のジルコニウムは、平均粒径が20nm以下であるAl(Zr)相ナノ粒子(L1結晶格子)を形成するために必要となる。濃度がこれより低い場合は、上記粒子の分量は、必要な強度と耐熱性を得るには不十分であり、濃度がこれより高い場合は、合金の機械的特性および製造性に悪影響を及ぼす初晶(D023結晶格子)が形成されるおそれがある。
【0028】
本明細書における特許請求の範囲に記載された分量のクロムは、Al20CuMn相においてマンガンと置き換えることや、耐熱性に対してプラスの効果も有する他の相(例:AlCr)の微粒子を形成することができる。また、クロムを添加することで、鋳片を350℃以下の温度で変形させて中間展伸材用半製品を製造する時に、アルミニウム固溶体の分解が減速される。
【0029】
本明細書における特許請求の範囲に記載された鉄およびケイ素は、形成作業時により均一な微小変形を行うのに役立つ共晶粒子(例:Al15(Fe,Mn)Si相)を形成するために必要となる。これらの元素を有するので、最終構造の形成に対し、例えば、Al20CuMn相微粒子またはAlZr相ナノ粒子の均一な分布に対し、プラスの効果がある。
【0030】
上記合金から展伸材用半製品を製造するための、特許請求の範囲に記載されたプロセスパラメータについて説明すれば、以下のとおりである。
【0031】
融解温度をT+50℃未満(Tは液相線温度)に低下させると、凝固時にAlZr相の粗大な初晶が生成し、アルミニウム固溶体中のジルコニウム濃度が低下しうる。これにより、最終構造におけるナノサイズの粒子量が減少し、合金の強度が低下する。
【0032】
最初の鋳片の変形温度が350℃より高い場合、Zr含有二次粒子の粒径が20nmより大きくなる可能性があり、その場合、合金の強度が低下する。
【0033】
中間展伸材用半製品の焼きなまし温度が340℃未満の場合、合金の構造は、高い強度を実現するために必要な量のAl20CuMn相微粒子を有さない。
【0034】
中間展伸材用半製品の焼きなまし温度が450℃より高い場合、Zr含有二次粒子の粒径が20nmより大きくなり、CuおよびMn含有二次粒子(例:Al20CuMn)の粒径が500nmより大きくなる可能性がある。その場合、合金の強度が低下する。
【0035】
展伸材用半製品の焼きなまし温度が300℃未満の場合、当該展伸材用半製品の比伸長度は4%未満となる。
【0036】
展伸材用半製品の焼きなまし温度が400℃より高い場合、Zr含有二次粒子の粒径が20nmより大きくなる可能性があり、その場合、合金の強度が低下する。
【0037】
液相線温度(T)は、十分な精度を実現する実験的方法または理論的方法により、判定することができる。例えば、Thermo−Calcソフトウェア(TTAL5以上のデータベース)の使用が推奨される。
【0038】
〔図面の簡単な説明〕
本発明は図面によって示され、図1は、本明細書における特許請求の範囲に記載された合金および市販のAA2219合金から製造される展伸材用半製品の製造の各処理経路を示す。
【0039】
図2は、走査電子顕微鏡で見た合金No.2(表1)の展伸材用半製品(シート)の一般的な微細構造を示し、鉄含有相粒子を含むアルミニウム固溶体を示す。
【0040】
図3は、透過電子顕微鏡で見た合金No.4(表1)の展伸材用半製品(シート)の一般的な微細構造を示し、アルミニウム固溶体内のAl20CuMn相微粒子(図3のa)およびアルミニウム固溶体内のAlZrの微粒子を示す。
【0041】
図1の各処理経路を比較すると、本明細書における特許請求の範囲に記載された合金から展伸材用半製品を製造する方が、処理時間が極めて短く(均質化焼きなましを伴わないため形成作業の製造性が高く、半製品の製造工程が短縮されている)、作業量および消費電力が低いことがわかる。上記処理では、焼き入れ用機器(焼き入れ用炉または容器)が不要なため、展伸材用半製品における焼き入れによる座屈の不具合の割合が低下する。また、上記合金は、機械的特性に優れ、耐熱性および熱安定性が高いため、高温での適用を含めて幅広い適用が可能となる。
【0042】
〔発明の詳細な実施形態〕
本発明に係る合金は、展伸材用アルミニウム合金を生成するための市販の機器を使用して生成することができる。グラファイト製耐火粘土坩堝内の99.99%のアルミニウム、99.9%の銅、および二重合金(Al−Mn、Al−Zr、Al−Fe、Al−Cr、Al−Si)から、抵抗炉にて、本明細書における特許請求の範囲に記載された材料を生成するための合金を得た。本明細書における特許請求の範囲に記載された材料を生成するための合金の組成は、表1の組成物2〜4である。グラファイト製鋳型および鋼鉄製鋳型それぞれに合金を流し込み、平坦型インゴット(断面:15×60mm)および丸型インゴット(直径:44mm)を生成した。鋳造温度は、液相線温度より少なくとも50℃高い温度とした。各合金の液相線温度Tは、Thermo−Calcソフトウェア(TTAL5データベース)を使用して算出した。
【0043】
平坦型インゴットおよび筒状インゴットを、実験用機器、すなわち、圧延機、押圧機、押出機、伸線機において、平坦圧延、型鍛造、押し出し、引き伸ばしを行うことによって形成した。鋳片は2段階で形成された。まず、鋳片を350℃以下の温度で変形し、中間展伸材用半製品を生成した。次に、マッフル電気炉において340〜450℃で中間焼きなましを行った。展伸材用半製品を室温で生成し、展伸材用半製品の最終焼きなましを300〜400℃で行った。
【0044】
JSM−35 CF走査電子顕微鏡およびJEM2000 EX透過電子顕微鏡を使用して、合金の構造を調べた。図2および図3は一般的な微細構造を示す。
【0045】
万能試験機Zwick Z250を使用して、算出した長さである50mmに対して4mm/分の速度で引張試験を実施し、パラメータとして、極限引張強さ(UTS)、降伏応力(YS)、および比伸長度(EI)を調べた。300℃で100時間焼きなましを行った後に展伸材用半製品の機械的特性についても測定し、強度および耐熱性の判定を行った。
【0046】
ワイヤおよび、サイズを揃えた平坦型検査サンプルの電気抵抗率ρを、GINSTEK GOM−2デジタルプログラマブルミリオームメータを使用して測定した。そして、測定値を純銅導電率(IACS)に再計算した。
【0047】
〔実施例1〕
本明細書における特許請求の範囲に記載された方法により6つの合金を生成した。表1は、合金の組成物、液相線温度、および300℃でのAl20CuMn相微粒子含有量を示す。300℃で100時間焼きなましを行った後に、冷延シートの機械的特性および導電率を判定した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、本明細書において提供される合金(組成物2〜4)は、Al20CuMn二次相粒子を少なくとも2容量%含み、また、粒径は最大500nmである。合金1および合金6は、2容量%未満のAl20CuMn二次相粒子を含む。
【0050】
表2は、300℃で100時間焼きなましを行った後に上記方法で生成されたシートの引張機械的特性および導電率を示す。
【0051】
表2に示すように、本明細書において提供される焼きなまし後の合金(組成物2〜4)は、最大20nmの粒径のAlZr相微粒子と最大500nmの粒径のAl20CuMn相微粒子を含むため、必要な強度、耐熱性、および導電率を備えている。合金1は強度が低く、合金5は形成作業の製造性が低いため、高品質のシートを製造する時に使用することができない。焼きなまし後の試験サンプル(合金6)は、強度が不十分で導電率(IACS)が低い。
【0052】
【表2】
【0053】
〔実施例2〕
本明細書における特許請求の範囲に記載された方法により、合金3(表1)からワイヤおよび押出棒を生成した。表3および表4に示すように、300℃で100時間焼きなましを行い、ワイヤおよびプレス半製品として形成された合金は、必要な強度および導電率を備えている。ジルコニウム含有相(AlZr)微粒子の粒径は、約10nmであり、Al20CuMn相微粒子の粒径は、200nm以下である。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
〔実施例3〕
本明細書における特許請求の範囲に記載された方法により、以下の3種類の状態(表5)について、合金3(表1)から型鍛造ディスクを生成した:
(ア)450℃での型鍛造によって鋳片から生成した中間展伸材用半製品
(イ)350℃での型鍛造によって鋳片から生成した中間展伸材用半製品
(ウ)加熱を行わない(室温での)型鍛造によって鋳片から生成した中間展伸材用半製品。
【0057】
そして、型鍛造製品に対して340〜450℃で焼きなましを行い、室温で型鍛造を行った。最後に、型鍛造製品に対して300℃で100時間焼きなましを行った。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示すように、室温および350℃で鋳片から生成した型抜き製品は、ジルコニウム含有二次相粒子の粒径が最大20nmであり、Al20CuMn相微粒子の粒径が500nm以下であるため、必要な強度および導電率を備えている。また、450℃で鋳片から生成した型抜き製品は、ジルコニウム含有二次相粒子の粒径が大きく、50nmを超えるため、強度が低い。
【0060】
〔実施例4〕
合金3(表1)から、種々の鋳造温度(950℃、830℃、および700℃)でインゴットを生成した。以下のような方法でインゴットから展伸材用半製品(シート)を生成した。鋳片を350℃以下の温度で圧延して中間展伸材用半製品を生成し、次に、340〜450℃で中間焼きなましを行った。そして上記中間展伸材用半製品を室温で圧延し、展伸材用半製品を生成した。最後に、上記展伸材用半製品に対して300℃で100時間焼きなましを行った。
【0061】
表6に示すように、鋳造温度をこの方法の特許請求の範囲に記載された鋳造温度未満に低下させると、10〜100μmのAlZr(D023)一次相結晶が含まれているため、合金の強度が低下する。鋳造温度がT+50℃より高い場合のみ、合金は必要な強度および導電率を備え、ジルコニウムが、20nm未満の粒径のAlZr(L1)相粒子の形状で合金の構成に含まれる。
【0062】
【表6】
【0063】
〔実施例5〕
本明細書における特許請求の範囲に記載された方法により、合金3(表1)から鋳片を生成した。鋳片を350℃以下の温度で変形させて中間展伸材用半製品を生成し、合金シート(表1)の中間焼きなましを種々の温度(300℃、340℃、400℃、450℃、および550℃)で行った。そして、迅速に冷延シートを生成し、300℃で熱処理を行った。表7に示すように、340〜450℃で中間焼きなましを行った場合にのみ、合金は、その構造中に500nm未満の粒径のAl20CuMn相微粒子を含み、必要な強度および導電率を備える。焼きなまし温度を340℃未満に低下させることにより、アルミニウム溶液におけるマンガンの拡散速度が低下するので、予め設定した時間において、Al20CuMn相微粒子が析出される(当該粒子は存在しなかった。)ことで、導電率と、アルミニウム固溶体の分解抑制とが低下する。焼きなまし温度を450℃より高い温度まで上昇させることにより、合金の強度が低下し、Al20CuMn相微粒子の粒径が500nmより大きく、AlZr相粒子の粒径が100nmより大きくなる。
【0064】
【表7】
【0065】
〔実施例6〕
本明細書における特許請求の範囲に記載された方法により、特許請求の範囲に記載された合金の組成物3(表1)からシート(1mm厚)状の展伸材用半製品を生成した。表8に示すように、300〜400℃で焼きなましを行った場合にのみ、合金は必要な機械的特性を備え、その構造中に20nm未満の粒径のナノサイズのAlZr相粒子を含み、マンガンが500nm未満の粒径のAl20CuMn二次相微粒子を形成する。
【0066】
焼きなまし温度を300℃未満に低下させると、比伸長度が低下する。焼きなまし温度を400℃より高い温度に上昇させると、AlZr二次相粒子の粒径が50nmより大きく粗大化するため、合金の強度が低下する。
【0067】
【表8】
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】本明細書における特許請求の範囲に記載された合金および市販のAA2219合金から製造される展伸材用半製品の製造の各処理経路を示す。
図2】走査電子顕微鏡で見た合金No.2(表1)の展伸材用半製品(シート)の一般的な微細構造を示し、鉄含有相粒子を含むアルミニウム固溶体を示す。
図3】透過電子顕微鏡で見た合金No.4(表1)の展伸材用半製品(シート)の一般的な微細構造を示し、アルミニウム固溶体内のAl20CuMn相微粒子(図3のa)およびアルミニウム固溶体内のAlZrの微粒子を示す。
図1
図2
図3