特許第6126302号(P6126302)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126302
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/32 20060101AFI20170424BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20170424BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   C23C14/32 A
   C23C14/24 F
   G11B5/84 B
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-508319(P2016-508319)
(86)(22)【出願日】2014年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2014005736
(87)【国際公開番号】WO2015140858
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2016年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-55570(P2014-55570)
(32)【優先日】2014年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】厚見 正浩
【審査官】 吉野 涼
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−169132(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099058(WO,A1)
【文献】 特開平11−350115(JP,A)
【文献】 特開平5−17866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/10−14/58
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に膜を形成する成膜装置であって、
ターゲットを回転軸の周りに回転させる回転部と、
アーク放電を発生させるためのストライカと、
前記アーク放電を発生させるために前記ストライカを前記ターゲットの前記回転軸周りの側面に近づけた近接状態にするように、前記ストライカを駆動する駆動部と、
前記近接状態において前記ストライカに対向する前記ターゲットの前記側面における対向位置を変更するように、前記回転部による前記ターゲットの回転を制御する制御部と、
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記ターゲットを前記回転軸に沿って移動させる移動部を更に有し、
前記制御部は、前記近接状態において前記ストライカに対向する前記ターゲットの前記側面における対向位置を変更するように、前記移動部による前記ターゲットの移動を更に制御することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ターゲットが前記回転軸の周りに1回転した後、前記ターゲットが前記回転軸に沿って移動するように、前記回転部による前記ターゲットの回転及び前記移動部による前記ターゲットの移動を制御することを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記対向位置の前記ターゲットの前記側面における軌跡がらせん状になるように、前記回転部による前記ターゲットの回転及び前記移動部による前記ターゲットの移動を制御することを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記アーク放電を発生させる度に前記対向位置を変更することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記アーク放電によって前記ターゲットに生じるアークスポットのサイズが予め定められたサイズよりも大きくなる度に前記対向位置を変更することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記アーク放電によって前記ターゲットに生じるアークスポットの一部が重なるように前記対向位置を変更することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記ターゲットに対向して配置されるアノードを更に有し、
前記駆動部は、前記アノードと前記近接状態における前記ストライカとの距離が一定となるように、前記ストライカを駆動することを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記ターゲットは、円柱形状、角柱形状、円筒形状又は角筒形状を有することを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
基板に膜を形成する成膜装置であって、
ターゲットを軸に沿って移動させる移動部と、
アーク放電を発生させるためのストライカと、
前記アーク放電を発生させるために前記ストライカを前記ターゲットの前記軸周りの側面に近づけた近接状態にするように、前記ストライカを駆動する駆動部と、
前記近接状態において前記ストライカに対向する前記ターゲットの前記側面における対向位置を変更するように、前記移動部による前記ターゲットの移動を制御する制御部と、
を有することを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に膜を形成する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクなどのメディアの保護膜を形成する方法として、アセチレン(C)やエチレン(C)などの反応性ガスを利用したCVD(Chemical Vapor Deposition)法がある。近年では、磁気読取ヘッドとメディアの磁気記録層とのスペーシング距離やヘッド浮上量をより小さくしてドライブ特性を向上させるため、磁気記録層の上に形成されるカーボンなどの保護膜(カーボン保護膜)もより一層薄くすることが求められている。
【0003】
一方、CVD法で形成されるカーボン保護膜は、その特性から2〜3nmが限界の膜厚と言われている。そこで、CVD法に代わり、より薄い保護膜を形成可能な技術として、アーク放電を用いた成膜方法(真空アーク成膜法:Vacuum Arc Deposition)が注目されている(特許文献1及び2参照)。真空アーク成膜法は、CVD法と比べて、水素含有量が少なく、硬いカーボン保護膜を形成することができるため、膜厚を1nm程度まで薄くできる可能性がある。
【0004】
特許文献1に開示された真空アーク成膜法では、グラファイトからなるターゲットを陰極とし、ターゲットとターゲットの近傍に配置された陽極との間をアーク放電させることでta−C膜に必要なカーボンイオンを発生させている。アーク放電は、陽極に接続したストライカをターゲットに近接又は接触させることで発生させている。
【0005】
このような真空アーク成膜法では、一般に、円柱形状のターゲットを用いて、かかるターゲットの上面の中央部の近傍にストライカを接触させてアーク放電を発生させている。ターゲットの上面のストライカが接触した位置(アーク放電が発生した位置)は、削られて窪み(アークスポット)となる。従って、ターゲットを回転させてストライカとの接触位置を変更することで、アークスポットによるターゲットの凹凸を平均化している。ここで、円柱形状のターゲットを用いる場合、ターゲットの上面の外周部分にアークスポットが生じると、成膜レートが変動するため、アークスポットは、ターゲットの上面の中央部のみに生じさせるとよい。但し、ターゲットの上面の外周部分にアークスポットを生じさせなければ、ターゲットの上面の外周部分は削られずに残ることになる。そこで、特許文献2には、ターゲットの上面のアークスポット(窪み)がある程度大きくなったら、ターゲットの上面をグラインダーなどで削ることで平坦化させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第96/26531号パンフレット
【特許文献2】特開2009−242929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ターゲットの上面を削ることは、ターゲットとして利用可能な部分を除去していることになるため、ターゲットの利用効率を向上させる上で妨げとなる。また、従来技術では、ターゲットの上面を削る工程を、成膜工程の間に組み入れる必要があるため、スループットが低下してしまう。更には、ターゲットの削り粉がターゲットを回転させる回転装置(の駆動部)に入り込み、回転装置の不具合の原因になるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、ターゲットを削ることなく、ターゲットの利用効率を向上させるのに有利な成膜装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての成膜装置は、基板に膜を形成する成膜装置であって、ターゲットを回転軸の周りに回転させる回転部と、アーク放電を発生させるためのストライカと、前記アーク放電を発生させるために前記ストライカを前記ターゲットの前記回転軸周りの側面に近づけた近接状態にするように、前記ストライカを駆動する駆動部と、前記近接状態において前記ストライカに対向する前記ターゲットの前記側面における対向位置を変更するように、前記回転部による前記ターゲットの回転を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、ターゲットを削ることなく、ターゲットの利用効率を向上させるのに有利な成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一側面としての処理装置の構成を示す概略平面図である。
図2A図1に示す処理装置におけるキャリアの構成を示す概略図である。
図2B図1に示す処理装置におけるキャリアの構成を示す概略図である。
図3】成膜装置の構成の一例を示す概略図である。
図4図3に示す成膜装置のソース部の拡大正面図である。
図5図3に示す成膜装置のソース部の拡大上面図である。
図6図4に示すソース部のA−A矢視図である。
図7図5に示すソース部のB−B矢視図である。
図8図3に示す成膜装置の動作の制御に関するシステムの構成を示す図である。
図9A図3に示す成膜装置において、アーク放電を発生させる位置の制御を説明するための図である。
図9B図3に示す成膜装置において、アーク放電を発生させる位置の制御を説明するための図である。
図9C図3に示す成膜装置において、アーク放電を発生させる位置の制御を説明するための図である。
図9D図3に示す成膜装置において、アーク放電を発生させる位置の制御を説明するための図である。
図9E図3に示す成膜装置において、アーク放電を発生させる位置の制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の一側面としての処理装置100の構成を示す概略平面図である。処理装置100は、ハードディスクなどのメディアに用いられる基板に膜を形成する真空処理装置(成膜装置)であって、本実施形態では、インライン式の装置として構成されている。インライン式とは、連結された複数のチャンバを経由して基板を搬送しながら基板を処理する方法である。図1では、複数のチャンバ111乃至130が矩形のレイアウトを構成するように無端状に連結されている。チャンバ111乃至130のそれぞれには排気装置が設けられており、かかる排気装置によって内部が真空排気される。
【0015】
処理装置100において、互いに隣接するチャンバは、ゲートバルブを介して連結されている。また、チャンバ111乃至130のそれぞれには、ゲートバルブを介して、基板1を保持したキャリア10を搬送する搬送装置が配置されている。かかる搬送装置は、キャリア10を垂直姿勢で搬送する搬送路を有している。基板1は、キャリア10に保持されて搬送路に沿って搬送される。基板1は、中心部分に孔(内周孔部)を有する金属又はガラスからなる円板状部材であって、表面及び裏面の両面に磁性層や保護膜などが形成される。
【0016】
チャンバ111乃至130は、各種処理を行うプロセスチャンバを含む。チャンバ111乃至130のうち、例えば、チャンバ111は、キャリア10に基板1を取り付ける処理が行われるロードロック室であり、チャンバ116は、キャリア10から基板1を取り外す処理が行われるアンロードロック室である。チャンバ112、113、114及び115は、キャリア10(基板1)の搬送方向を90度転換する方向転換装置を備えたチャンバである。また、チャンバ117は、基板1に密着層を形成する密着層形成室であり、チャンバ118、119及び120は、密着層が形成された基板1に軟磁性層を形成する軟磁性層形成室である。チャンバ121は、軟磁性層が形成された基板1にシード層を形成するシード層形成室であり、チャンバ123及び124は、シード層が形成された基板1に中間層を形成する中間層形成室である。チャンバ126及び127は、中間層が形成された基板1に磁性膜を形成する磁性膜形成室であり、チャンバ129は、磁性膜が形成された基板1に保護膜を形成する保護膜形成室である。
【0017】
処理装置100における基板1の処理手順の一例について説明する。まず、チャンバ111において、未処理の2枚の基板1が先頭のキャリア10に取り付けられる。かかるキャリア10は、密着層を形成するためのチャンバ117に移動して、基板1に密着層が形成される。この間、チャンバ111において、2番目のキャリア10に対して2枚の未処理の基板1が取り付けられる。
【0018】
次いで、先頭のキャリア10が軟磁性層を形成するためのチャンバ118、119及び120に順に移動しながら基板1に軟磁性層が形成される。この間、2番目のキャリア10が密着層を形成するためのチャンバ117に移動し、基板1に密着層が形成され、更に、チャンバ111において、3番目のキャリア10に対して基板1が取り付けられる。このように、先頭のキャリア10及びそれに続くキャリア10が移動するたびに、チャンバ111において後続のキャリア10に対して基板1が取り付けられる。
【0019】
次に、軟磁性層が形成された基板1を保持する先頭のキャリア10は、シード層を形成するためのチャンバ121に移動し、基板1にシード層が形成される。そして、先頭のキャリア10は、中間層を形成するためのチャンバ123及び124、磁性膜を形成するためのチャンバ126及び127、及び、保護膜を形成するためのチャンバ129に順に移動し、基板1に中間層、磁性膜及び保護膜が形成される。
【0020】
図2A及び図2Bは、キャリア10の構成を示す概略図であって、図2Aは、キャリア10の正面図、図2Bは、キャリア10の側面図である。キャリア10は、本実施形態では、2枚の基板1を同時に保持し、上述したように、垂直姿勢で搬送路上を移動する。キャリア10は、基板1を保持するNi合金からなるホルダー401と、ホルダー401を支持して搬送路上を移動するスライダ402とを含む。キャリア10は、ホルダー401に設けられた複数の弾性部材(板ばね)403で基板1の外周部を保持することで、基板1の表面及び裏面(成膜面)を遮ることなく、ターゲットに対向した姿勢で基板1を保持する。
【0021】
処理装置100の各チャンバに配置された搬送装置は、搬送路に沿って配置された多数の従動ローラと、磁気結合方式によって動力を真空側に導入するための磁気ネジとを有する。キャリア10のスライダ402に設けられた永久磁石と搬送装置の磁気ネジとを磁気結合することで、搬送装置は、キャリア10を従動ローラに沿って移動させる。なお、搬送装置やキャリア10には、当業界で周知のいかなる構成をも適用することが可能であり、例えば、特開平8−274142号公報に開示された構成を適用することができる。また、リニアモータやラックアンドピニオン機構を用いた搬送装置であってもよい。
【0022】
基板1に保護膜を形成するためのチャンバ129には、基板1の電位を変更する(基板1に電圧を印加する)ための電圧印加部が備えられている。キャリア10に保持された基板1は、導電性の弾性部材403を介して、ホルダー401と電気的に接続されている。従って、弾性部材403の電位を変更することで、基板1の電位を変更することができる。電圧印加部は、例えば、電源(直流電源、パルス電源、高周波電源など)又はアース(接地)に接続された電極をホルダー401に接触させる装置を含む。
【0023】
図3は、成膜装置300の構成の一例を示す概略図である。成膜装置300は、図1に示す処理装置100を構成するチャンバ117乃至130(チャンバ112乃至114を除く)のうち、例えば、チャンバ119に対応する。成膜装置300は、本実施形態では、基板1に形成された磁性膜の表面にta−C層からなる保護膜を形成するta−C成膜装置として具現化される。成膜装置300は、プロセスチャンバ(真空容器)302と、フィルタ部304と、ソース部306とを有する。図3では、フィルタ部304及びソース部306を1セットのみ示しているが、実際には、プロセスチャンバ302の両側にフィルタ部304及びソース部306が1セットずつ(即ち、フィルタ部304及びソース部306が2セット)備えられている。なお、2枚の基板を搭載するキャリアを用いる場合は、2枚の基板の両面を同時に処理することができるように、フィルタ部304及びソース部306を4セット用いてもよい。
【0024】
プロセスチャンバ302には、プロセスチャンバ302の内部において、基板1を垂直状態で所定の位置(成膜位置)に位置決めするための搬送装置308が備えられている。プロセスチャンバ302(具体的には、成膜位置)の両側には、フィルタ部304が接続されている。また、プロセスチャンバ302は、その内部を真空排気する排気装置に接続されている。
【0025】
フィルタ部304は、屈曲した管状部材で構成され、その一端がプロセスチャンバ302に接続され、他端がソース部306に接続されている。フィルタ部304の外周には、カーボンイオンを基板側に誘導するための磁場を発生させる電磁石としてのコイルCLが設けられている。
【0026】
ソース部306は、イオン発生部310と、ターゲット駆動部312とを有する。イオン発生部310は、その内部がフィルタ部304に連通されたチャンバ314と、アノード316と、ターゲットTGを保持(載置)するターゲットホルダー318と、ストライカ320とを含む。ストライカ320は、ターゲットTGとアノード316との間でアーク放電を発生させる(即ち、放電を着火する)ための部材である。ターゲット駆動部312は、回転部(回転駆動部)322と、移動部(進退駆動部)324とを含む。
【0027】
ターゲットTGは、本実施形態では、カーボン(グラファイト)からなるターゲットであって、アーク放電によってカーボンイオンを発生させる。また、ターゲットTGは、本実施形態では、円柱形状を有するが、その他の形状、例えば、角柱形状、円筒形状又は角筒形状を有していてもよい。回転部322は、円柱形状を有するターゲットTGの中心軸と回転軸RAとを一致させてターゲットTGを水平方向に支持した状態で、回転軸RAの周りにターゲットTGを回転させる。また、移動部324は、ターゲットTGを回転軸RA(ターゲットTGの中心軸)に沿って移動(進退)させる。
【0028】
図4乃至図7を参照して、成膜装置300の構成を詳細に説明する。図4は、ソース部306の拡大正面図であり、図5は、ソース部306の拡大上面図である。図6は、図4に示すソース部306のA−A矢視図であり、図7は、図5に示すソース部306のB−B矢視図である。
【0029】
チャンバ314は、その内部が真空排気可能であり、ターゲットTGの周囲、即ち、ターゲットTG、アノード316及びストライカ320を収容する。アノード316は、ストライカ320をターゲットTGに近接又は接触させることで発生させたアーク放電を維持するための円筒状部材であって、アーク放電を発生させる部分の周囲を取り囲むように配置されている。
【0030】
ストライカ320は、ターゲットTGに近接又は接触することでアーク放電を発生させる。ストライカ320は、アノード316に電気的に接続され、ターゲットTGの外周面TGに接触可能に設けられている。ここで、ターゲットTGの外周面TGとは、ターゲットTGの回転軸RAの周り(回転軸周り)の側面である。また、ターゲットTGの外周面TGに接触可能とは、ストライカ320が外周面TGに物理的に接触することだけを意味するのではなく、ストライカ320が外周面TGに近接して電気的に接触することも意味する。換言すれば、ストライカ320とターゲットTGとが低抵抗で導通することも意味する。
【0031】
ストライカ駆動部326は、図6に示すように、ターゲットTGの外周面TGとストライカ320(の先端320a)とが近接した近接状態、又は、外周面TGとストライカ320とが離間した離間状態となるように、ストライカ320を駆動する。ストライカ駆動部326は、例えば、図4に示すように、ストライカ用モータ328と、プーリ330a及び330bと、ベルト332と、モータベース334と、磁気シール336とを含む。ストライカ320は、プーリ330a及び330bとベルト332とを介して、ストライカ用モータ328に接続されている。ストライカ用モータ328は、チャンバ314に設けられたモータベース334に固定され、ストライカ320を90度程度回転させる。ストライカ用モータ328が大気側に設けられているため、ストライカ駆動部326は、磁気シール336を介して、大気側から真空側のストライカ320に回転力を導入している。また、本実施形態では、ストライカ320の回転角度にかかわらず、電流を安定して導入するために、ロータリーコネクタ(回転導入器)338を介して、電力を導入している。
【0032】
ターゲットTGは、ターゲットホルダー318に保持されている。ターゲットホルダー318を介して、ターゲットTGに電流を供給することができるように、ターゲット給電端子340が大気側に設けられている。
【0033】
ターゲットホルダー318は、シャフト342の一端に固定されている。シャフト342の他端には、回転部322が設けられている。また、移動部324は、回転部322を支持するベースプレート344を移動(進退)させるように設けられている。シャフト342は、ターゲットTGを水平に支持する部材であって、ターゲットTGに電流を供給するための経路の一部である。また、シャフト342の内部には、ターゲットTGを冷却するための冷却水を流すための水路が形成されている。ターゲットホルダー318は、シャフト342とターゲットTGとの間に設けられているため、ターゲットTGの固定、ターゲットTGの冷却、及び、電流の経路の機能を有する。
【0034】
回転部322について説明する。ベースプレート344は、シャフト342の回転シール部346を備えている。また、ベースプレート344には、大気側において、回転用モータ348が固定されている。
【0035】
ベローズ350は、チャンバ314とベースプレート344との間に設けられ、その内部にシャフト342が配置されている。ベローズ350の内部は、チャンバ314と連通し、真空に維持することが可能である。ベローズ350は、ベースプレート344の移動に応じて伸縮する。
【0036】
支柱352は、シャフト342の内部に形成された水路に冷却水を供給及びかかる水路から冷却水を排出するための継手354を固定する部材である。回転用モータ348は、プーリ356a及び356bとベルト358とを介して、シャフト342を回転させる。
【0037】
移動部324について説明する。取付ベース360は、チャンバ314に固定された部材である。取付ベース360には、LMガイド362を介して、ベースプレート344が固定されている。LMガイド362は、回転部322の回転軸RA(ターゲットTGの中心軸)に沿ってベースプレート344を移動させるように設けられている。
【0038】
図7に示すように、取付ベース360には、移動用モータ364及びボールねじ366が固定されている。第1プレート368a及び第2プレート368bは、ボールねじ366を支持する部材である。移動用モータ364は、第2プレート368bに固定され、歯車370a及び370bを介して、ボールねじ366を回転させる。また、ベースプレート344は、ボールねじ366の回転に応じて移動(進退)するナット372に固定されている。従って、移動用モータ364の回転によって、ベースプレート344に取り付けられた部分を移動させることができる。ベースプレート344には、上述したように、シャフト342及びベローズ350の一端が取り付けられている。
【0039】
図8は、成膜装置300の動作、即ち、アーク放電によってターゲットTGから生じたイオンを基板1に照射して膜を形成する処理の制御に関するシステムの構成を示す図である。かかる処理の制御においては、上位のメインコントローラ801からのコマンド(制御信号)が、制御部802を介して、成膜装置300の各部に伝達される。
【0040】
メインコントローラ801からの制御信号は、CPUなどからなる演算部802a及びメモリなどからなる記憶部802bを含む制御部802に入力される。制御部802は、入力された制御信号を、ターゲット駆動部312、ストライカ駆動部326及び電圧印加部803に送る。また、ターゲット駆動部312、ストライカ駆動部326及び電圧印加部803からの信号は、制御部802に入力され、制御部802からメインコントローラ801に送られる。
【0041】
メインコントローラ801は、処理装置100の全体を制御する機能を有し、例えば、搬送装置、ゲートバルブ、搬送ロボットなどの基板搬送系や他のプロセスチャンバの制御系などを制御する。
【0042】
演算部802aは、ターゲット駆動部312、ストライカ駆動部326及び電圧印加部803からの信号に演算処理を施して現在値及び変化量を求める。記憶部802bは、ターゲット駆動部312、ストライカ駆動部326及び電圧印加部803の現在値及び変化量、制御の順序などを記憶する。また、記憶部802bは、演算部802aからの読み出し信号に応じて、記憶している値(ターゲット駆動部312、ストライカ駆動部326及び電圧印加部803の現在値及び変化量など)を返す。
【0043】
ターゲット駆動部312は、上述したように、回転部322や移動部324を含み、ターゲットTGを回転させたり、ターゲットTGを移動(進退)させたりする。ストライカ駆動部326は、上述したように、ターゲットTGの外周面TGとストライカ320とが近接した近接状態、又は、外周面TGとストライカ320とが離間した離間状態となるように、ストライカ320を駆動する。
【0044】
ターゲット駆動部312やストライカ駆動部326は、エンコーダなどの回転角度を検出するセンサーを備えたモータを含む。換言すれば、ターゲット駆動部312やストライカ駆動部326は、回転角度を制御可能な駆動源として構成される。
【0045】
電圧印加部803は、ターゲットTGとアノード316との間にアーク放電を発生させるための電圧(電力)を供給する。電圧印加部803は、例えば、電源として構成されるが、抵抗計などのセンサーを含んでいてもよい。
【0046】
ストライカ320は、ターゲット駆動部312によるターゲットTGの駆動が完了した後、制御部802からの制御信号に応じて、ストライカ駆動部326によって駆動される。ストライカ駆動部326によるストライカ320の駆動が完了した後(即ち、ターゲットTGの外周面TGとストライカ320とが近接した近接状態にした後)、電圧印加部803によって電圧を印加する。ターゲットTGとストライカ320とが近接状態にあるかどうかの判定は、例えば、ストライカ320を駆動する(回転させる)ストライカ用モータ328の回転速度が0になっていることで行われる。また、かかる判定は、ストライカ用モータ328の回転が開始されてからの経過時間で行ってもよいし、ターゲットTGとストライカ320との間の電気抵抗の状態で行ってもよいし、トルクの増大で行ってもよい。
【0047】
また、電圧印加部803は、ストライカ320がターゲットTGに近接(接触)している近接状態から離間状態になるまでの間、電圧を印加してもよい。具体的には、ストライカ320がターゲットTGに近接した近接状態を一定時間維持し、電圧印加部803は、かかる一定時間の間、電圧を印加し続ける。そして、電圧印加部803が電圧を印加した後、ストライカ駆動部326によってストライカ320を退避させ、ターゲットTGとストライカ320とが離間した離間状態とする。このような制御を行うことで、アーク放電を安定して発生させることができる。なお、ターゲットTGは、アーク放電の終了後、回転部322によって所定の角度だけ回転し、移動部324によって所定の距離だけ移動(進退)する。
【0048】
成膜装置300は、円柱形状を有するターゲットTGの中心軸を水平にした状態でターゲットTGを支持し、ターゲットTGの外周面TGにおいてアーク放電を発生させる。また、ターゲット駆動部312によって、ターゲットTGを回転及び移動させることができるため、ターゲットTGの外周面TGにおけるいずれの位置でもアーク放電を発生させることができる。
【0049】
アーク放電は、ターゲットTGとストライカ320とが接触した位置、本実施形態では、ターゲットTGとストライカ320とが近接した近接状態においてストライカ320に対向するターゲットTGの外周面TGにおける対向位置で発生する。この際、ターゲットTGの外周面TGのうち、アーク放電が発生した部分(対向位置)は削れてしまう。
【0050】
そこで、本実施形態の成膜装置300では、次のアーク放電によって削れるターゲットTGの外周面TGの部分を、これまでのアーク放電によって削られた部分に近づける、或いは、重ねるように、ターゲットTGを駆動する。これにより、ターゲットTGが均等に削られていくため、ターゲットとして利用可能な部分を除去する(削る)ことなく、ターゲットTGの利用効率を向上させながら、アーク放電を安定して発生させることができる。また、成膜装置300では、ターゲットTGを削る工程を成膜工程の間に組み入れる必要がないため、スループットの低下、及び、ターゲットTGの削り粉に起因するターゲット駆動部312やストライカ駆動部326の不具合の発生を抑制することができる。
【0051】
図9A乃至図9Eを参照して、ターゲットTGとストライカ320とが近接した近接状態においてストライカ320に対向するターゲットTGの外周面TGにおける対向位置(アーク放電を発生させる位置)の制御について説明する。かかる制御は、制御部802がターゲット駆動部312やストライカ駆動部326を統括的に制御することで行われる。
【0052】
まず、図9Aに示すように、ターゲットTGの外周面TGの上端においてターゲットTGとストライカ320とが近接状態となるように、ターゲット駆動部312によってターゲットTGを駆動する。そして、ストライカ駆動部326によってストライカ320を駆動して、ターゲットTGの外側面TGとストライカ320とを近接させてアーク放電を発生させる。これにより、ストライカ320に対向するターゲットTGの外周面TGにおける対向位置にアークスポットASが生じる。また、アーク放電の終了後、ストライカ駆動部326によってストライカ320を駆動して、ターゲットTGの外周面TGとストライカ320とを離間状態にする。
【0053】
次いで、図9Bに示すように、アーク放電によってターゲットTGに生じるアークスポットASが隣接する、或いは、その一部が重なるように、ターゲット駆動部312(回転部322)によって、ターゲットTGを回転軸RAの周りに回転させる。そして、ストライカ駆動部326によってストライカ320を駆動して、ターゲットTGの外側面TGとストライカ320とを近接させてアーク放電を発生させる。また、アーク放電の終了後、ストライカ駆動部326によってストライカ320を駆動して、ターゲットTGの外周面TGとストライカ320とを離間状態にする。このように、アーク放電とターゲットTGの回転とを繰り返すことで、図9Cに示すように、ターゲットTGの外周面TGに周状にアークスポットASが生じる。
【0054】
ターゲットTGの外周面TGに周状にアークスポットASが生じたら、図9Dに示すように、ターゲット駆動部312(移動部324)によって、ターゲットTGを回転軸RAに沿って移動させる。この際、これまでのアーク放電によってターゲットTGに生じている周状のアークスポットASと、これからのアーク放電によってターゲットTGに生じるアークスポットとが隣接する、或いは、その一部が重なるように、ターゲットTGを移動させる。そして、上述したように、ストライカ駆動部326によってストライカ320を駆動して、ターゲットTGの外側面TGとストライカ320とを近接させてアーク放電を発生させる。また、アーク放電の終了後、ストライカ駆動部326によってストライカ320を駆動して、ターゲットTGの外周面TGとストライカ320とを離間状態にする。これを繰り返すことによって、図9Eに示すように、ターゲットTGの外周面TGに周状にアークスポットASが更に生じる。
【0055】
このように、本実施形態では、ストライカ320に対向するターゲットTGの外周面TGにおける対向位置を変更するように、ターゲットTGの回転及び移動を制御する。これにより、ターゲットTGの外周面TGOの全面に対して、ストライカ320を近接(接触)させることが可能となり、ターゲットTGを削ることなく、ターゲットTGの利用効率を向上させることができる。また、本実施形態では、ターゲットTGを削るグラインダーなどが不要であるため、装置の小型化やメンテナンスコストの低減を実現することができる。
【0056】
また、本実施形態では、ストライカ320に対向するターゲットTGの外周面TGにおける対向位置を変更するために、ターゲットTGの回転及び移動の両方を制御している。但し、ターゲットTGの回転のみ、又は、ターゲットTGの移動のみを制御することで、ストライカ320に対向するターゲットTGの外周面TGにおける対向位置を変更してもよい。
【0057】
また、本実施形態では、ターゲットTGを回転軸RAの周りに1回転させた後、ターゲットTGが回転軸RAに沿って移動するように、ターゲットTGの回転及び移動を制御しているが、これに限定されるものではない。例えば、アークスポットASがらせん状に生じるように、即ち、対向位置のターゲットTGの外周面TGにおける軌跡がらせん状になるように、ターゲットTGの回転及び移動を制御してもよい。
【0058】
また、本実施形態では、アーク放電を発生させる度にストライカ320に対向するターゲットTGの外周面TGにおける対向位置を変更している。但し、アーク放電を発生させる度に対向位置を変更するのではなく、ターゲットTGに生じるアークスポットASのサイズが予め定められたサイズよりも大きくなる度に対向位置を変更してもよい。換言すれば、ターゲットTGに生じるアークスポットASのサイズが予め定められたサイズよりも大きくなるまでは、対向位置を変更させずに、同一の対向位置を維持してもよい。
【0059】
また、アーク放電によって生じるアークスポットASの位置に応じて、基板1に形成される膜の成膜レートが変動することが知られている。具体的には、アークスポットASがアノード316の中心に存在すると成膜レートが向上し、アークスポットASがアノード316に近づくと成膜レートが低下する。従って、アークスポットASがアノード316から離れた位置に生じさせるとよい。そこで、本実施形態では、ストライカ駆動部326は、アノード316と、近接状態におけるストライカ320との距離が一定となるように、ストライカ320を駆動している。これにより、アークスポットASは、アノード316から常に離れた位置に生じるため、成膜レートを安定させることができる。
【0060】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0061】
本願は、2014年3月18日提出の日本国特許出願特願2014−55570を基礎として優先権を主張するものであり、その記載内容の全てを、ここに援用する。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E