(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6126315
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】エッチングによって表面構造を形成するためのステンシル
(51)【国際特許分類】
B05C 17/06 20060101AFI20170424BHJP
C23F 1/00 20060101ALI20170424BHJP
C09D 11/00 20140101ALI20170424BHJP
B41M 7/00 20060101ALI20170424BHJP
B41M 1/20 20060101ALI20170424BHJP
B44C 1/22 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
B05C17/06
C23F1/00 102
C09D11/00
B41M7/00
B41M1/20
B44C1/22 D
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-548743(P2016-548743)
(86)(22)【出願日】2014年11月24日
(86)【国際出願番号】EP2014075404
(87)【国際公開番号】WO2015075231
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2016年7月26日
(31)【優先権主張番号】13194261.7
(32)【優先日】2013年11月25日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516153177
【氏名又は名称】アーカーカー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】AKK GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ケスパー
【審査官】
赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−169090(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0034328(US,A1)
【文献】
特表2009−536983(JP,A)
【文献】
特開平2−93081(JP,A)
【文献】
特開昭53−63103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00−21/00
C23F 1/00− 1/46
C09D 11/00−11/54
B41M 7/00− 7/02
B41M 1/00− 1/42
B44C 1/00− 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチングによって表面構造を形成するための、耐エッチング性ステンシル層(3)を有するステンシルであって、前記ステンシル層(3)は構造化対象の表面(2)に擦り写しによって転写可能であり、前記構造化対象の表面(2)のエッチング処理の後、前記ステンシル層(3)の少なくとも一部の除去が可能であるステンシルにおいて、
前記ステンシル層(3)は少なくとも2つの部分領域(4、5)を備えることと、少なくとも2つの部分領域(4、5)は前記構造化対象の表面(2)から別々に除去可能であることとを特徴とするステンシル。
【請求項2】
前記ステンシル層の部分領域(5)は紫外線硬化型インクを備えることを特徴とする請求項1に記載のステンシル。
【請求項3】
前記ステンシル層の部分領域(4)はペースト状インクを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のステンシル。
【請求項4】
エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作する方法であって、耐エッチング性のステンシル層がドットマトリクスプリンタによってステンシルキャリアに付着される方法において、
構造化対象の表面から別々に除去可能なステンシル材料がドットマトリクスプリンタによって前記ステンシル層の少なくとも2つの部分領域に付着されることを特徴とする方法。
【請求項5】
エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作するための印刷機であって、前記印刷機は少なくとも1つのドットマトリクスプリンタヘッドとステンシルキャリア用の少なくとも1つのレセプタクルとを有し、前記ドットマトリクスプリンタヘッドがステンシル層を前記ステンシルキャリアに印刷するべく構成された印刷機において、
前記少なくとも1つのドットマトリクスプリンタヘッドは、構造化対象の表面から別々に除去可能な少なくとも2つのステンシル材料のフィーダを有することを特徴とする印刷機。
【請求項6】
エッチングによって表面構造を形成する方法であって、ステンシル層がステンシルキャリアから構造化対象の表面に擦り写しによって転写され、前記ステンシル層が付着された前記構造化対象の表面がエッチング処理にかけられる方法において、
1回目のエッチング処理の後、前記ステンシル層の部分領域が除去され、前記構造化対象の表面が少なくとも2回目のエッチング処理にかけられることを特徴とする方法。
【請求項7】
エッチング処理の後、紫外線硬化型インクを備えた前記ステンシル層の部分領域が苛性ソーダによって除去されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エッチング処理の後、ペースト状インクを備えた前記ステンシル層の部分領域が酢酸エチルによって除去されることを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルと、このようなステンシルを製作する方法と、このようなステンシルを製作するための印刷機と、エッチングによって表面構造を形成する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
エッチングによって表面構造を形成するための従来技術から公知のステンシルは、耐エッチング性のステンシル層を備え、このステンシル層は、例えば擦り写しによって、構造化対象の表面に転写可能であり、このステンシル層は、構造化対象の表面のエッチング処理の後に、少なくとも部分的に除去可能である。
【0003】
このようなステンシルは、構造化される像、例えば凹凸のある皮革面の再現、を金属面に、特に射出成形用工具の表面に、生じさせるために使用される。この像は、その後の射出成形において射出成形されるプラスチック部品の表面に転写される。
【0004】
この目的のために、耐エッチング性のステンシル層が、通常はステンシルキャリアから、金属面に転写される。この転写は、通常、例えば紙またはフィルムとして、形成されたステンシルキャリアを構造化対象の表面に載せることによって行われる。次に、このステンシル層は擦り写しによって、すなわちステンシルキャリアを構造化対象の表面の方向に加圧することによって、ステンシルキャリアから転写される。これは、通常は手作業で行われる手順である。その理由は、構造化対象の表面は、通常、ステンシル層の機械的転写が不可能な、または少なくとも極めて複雑な、三次元形状を有するからである。
【0005】
構造化対象の表面にステンシル層が転写されると、このステンシル層は構造化対象の表面の特定領域を覆う耐酸性の層を形成する。ワーク、例えば射出成形品、が酸浴にさらされると、ワークの覆われていない表面の反応性により、酸によって引き起こされた酸化の結果として材料が除去される。
【0006】
エッチング手法によって形成されたこのような表面構造は極めて広範囲にわたる。その理由は、特に射出成形されたプラスチック部品の表面は、最終製品の全体の外観をほぼ形づくるからである。したがって、エッチング手法によって製作される表面構造の構造像に課せられる要件は相応に増加する。多くの場合、これら要件を満たすには、表面構造を形成するためにエッチングを数段階で行う必要がある。これに関連して、各ステップの一部は、その後に更に(第2ステップで)構造化しようとする表面へのステンシル層の転写と、その後の酸浴での更なる処理である。最終的な構造像に課せられる要件と共に、第2ステップまたは更なるステップにおけるステンシル層の転写に対する要件もより厳しくなる。したがって、エッチングによって既に構造化されている面への、通常は手作業で行われる、ステンシル層の転写に要する手間および費用がかなりのものになる。
【0007】
エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作するには、耐エッチング性のステンシル層をドットマトリクスプリンタによってステンシルキャリアに付着させる方法の使用が公知である。ドットマトリクスプリンタ、すなわち、個々の像点を形成することによってその印刷画像を生成するプリンタ、の使用によって、ステンシル層をほぼ如何なる任意の形状にも簡単に製作可能である。
【0008】
エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作するための公知の印刷機は、少なくとも1つのドットマトリクスプリンタヘッドと、ステンシルキャリア用の少なくとも1つのレセプタクルとを備える。このドットマトリクスプリンタヘッドは、ステンシル層をステンシルキャリアに印刷する。これに関連して、ステンシル層の製作には、さまざまな材料が用いられる。例えば、紫外線硬化型インクまたはワックスの使用が公知である。
【0009】
上記のように、エッチングによって表面構造を形成するための複数の方法が公知である。これらの方法においては、ステンシル層がステンシルキャリアから構造化対象の表面に転写され、ステンシル層の付着後に、構造化対象の表面がエッチング処理にかけられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、少なくとも2つの連続するエッチング処理を要する複雑な多層面構造の形成が大幅に簡素化および加速化されるように、エッチングによって表面構造を形成するための公知のステンシルと、エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作するための公知の方法と、エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作するための公知の印刷機と、エッチングによって表面構造を形成するための公知の方法とを精緻化および発展させることである。
【0011】
本発明の第1の教示によると、エッチングによって表面構造を形成するための公知のステンシルは、本発明によると、ステンシル層が少なくとも2つの部分領域を備え、この少なくとも2つの部分領域を構造化対象の表面から別々に除去できるように、精緻化および発展される。本発明によるステンシル層の少なくとも1つの部分領域を本発明によるステンシル層の別の部分領域とは別個に構造化対象の表面から除去可能であるという事実により、構造化対象の表面への本発明によるステンシル層の1回の転写の後に、2段階または多段階のエッチング処理を行えることが保証される。
【0012】
これに関連して、2つのエッチング処理の間に、ステンシル層の少なくとも1つの部分領域が構造化対象の表面から、例えば選択性溶媒を用いて、除去される。したがって、本発明によると、ステンシルの精緻化により、複雑な構造像の形成のために多段階の構造化が可能になるので、更に構造化しようとする表面に各ステップで新しいステンシル層を転写する必要がない。更に構造化しようとする表面に残っているステンシル層の部分領域は、以降のエッチング処理で構造化される表面の部分領域を覆っているので、複雑な構造像の形成が可能になる。
【0013】
本発明の第1の教示は、ステンシル層の部分領域が紫外線硬化型インクを備える有利な実施形態を含む。エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルの製作に紫外線硬化型インクを使用することは、実証済みの公知の手法である。更に、構造化対象の表面から硬化した紫外線硬化型インクを除去するための方法も公知であり実証済みである。
【0014】
ステンシル層の部分領域がペースト状インクを備える場合は、本発明により精緻化されるステンシル層の第1の部分領域を形成するための紫外線硬化型インクの使用を特に好都合に組み合わせることができる。硬化した紫外線硬化型インクを溶解するために用いられる溶媒系は、ペースト状インクを含む部分領域を侵食しない。その結果、一方は紫外線硬化型インクで構成され、他方はペースト状インクで構成された2つの部分領域を構造化対象の表面から別々に除去できる。
【0015】
エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作するための公知の方法は、本発明の第2の教示によると、構造化対象の表面から別々に除去可能なステンシル材料がステンシル層の少なくとも2つの部分領域にドットマトリクスプリンタによって付着されるように精緻化および発展される。本発明によるこの精緻化の利点に関しては、エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルの本発明による精緻化に関して説明した利点を参照されたい。
【0016】
エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作するための公知の印刷機は、本発明の第3の教示によると、少なくとも1つのドットマトリクスプリンタヘッドが構造化対象の表面から別々に除去可能な少なくとも2つのステンシル材料のフィーダを有するように、精緻化および発展される。構造化対象の表面から別々に除去可能な少なくとも2つのステンシル材料をステンシル層の複数の部分領域に同時に、または順次、印刷する1つ以上のドットマトリクスプリンタヘッドの使用により、エッチングによって表面構造を形成するための所望のステンシルの簡単なコンピュータ資源支援製作が可能になる。
【0017】
最後に、本発明の第4の教示によると、エッチングによって表面構造を形成する公知の方法は、1回目のエッチング処理の後にステンシル層の部分領域が除去され、構造化対象の表面が少なくとも2回目のエッチング処理にかけられるように、精緻化および発展される。この実施形態に対応付けられた利点に関しては、本発明の第1の教示に関連して説明した利点を参照されたい。
【0018】
エッチングによって表面構造を形成するための本発明の第4の教示により精緻化された方法は、エッチング処理の後、紫外線硬化型インクを備えたステンシル層の部分領域が苛性ソーダを用いて除去されるように、更に精緻化される。苛性ソーダは、硬化した紫外線硬化型インクの除去に適した溶媒系である。
【0019】
本発明の第4の教示の第2の実施形態によると、エッチング処理の後、ペースト状インクを備えたステンシル層の部分領域が酢酸エチルを用いて除去される。苛性ソーダは紫外線硬化型インクを除去するが、苛性ソーダはペースト状インクを侵食しない。2段階のエッチング処理の場合、ペースト状インクは、その後に酢酸エチルによって除去される。
【0020】
エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルと、エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作する方法と、エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作するための印刷機と、エッチングによって表面構造を形成する方法とを改良するための本発明による各教示の実施形態および可能性が多数存在する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1a】本発明により構成されたステンシルを用いたエッチングによる表面構造の形成を一例として示す。
【
図1b】本発明により構成されたステンシルを用いたエッチングによる表面構造の形成を一例として示す。
【
図1c】本発明により構成されたステンシルを用いたエッチングによる表面構造の形成を一例として示す。
【
図1d】本発明により構成されたステンシルを用いたエッチングによる表面構造の形成を一例として示す。
【
図1e】本発明により構成されたステンシルを用いたエッチングによる表面構造の形成を一例として示す。
【
図1f】本発明により構成されたステンシルを用いたエッチングによる表面構造の形成を一例として示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1aは、構造化対象の表面2を有する未処理のワーク1を示す。
図1bに示されているように、本発明によると、複数の部分領域、すなわち第1部分領域4および第2部分領域5、を有するステンシル層3が構造化対象の表面に付着される。
【0023】
次のステップにおいて、構造化対象の表面2はエッチング処理にかけられる。これにより、表面2は、
図1cから分かるように、ステンシル層3で覆われていない領域が剥離、すなわち構造化、される。ステンシル層3の第1部分領域4ならびに第2部分領域5は耐エッチング性であるので、これら領域はエッチング処理によって除去されない。
【0024】
図示の例示的実施形態においては、次のステップにおいて、少なくともステンシル層3が苛性ソーダによる処理にかけられる。図示の例示的実施形態においては、第2部分領域5が紫外線硬化型インクでほぼ構成されているので、この第2部分領域5は苛性ソーダ処理によって除去される。この結果が
図1dに示されている。
【0025】
ステンシル層の第1部分領域4のみが表面2に残っている、2回目のエッチング処理の後のワーク1の表面2の構造が
図1eに示されている。
【0026】
最後に、ステンシル層3の第1部分領域4の除去後の構造化された表面2を有する最終ワーク1が
図1fに示されている。本明細書に記載の例示的実施形態において、ステンシル層3の第1部分領域4はペースト状インクでほぼ構成され、最終ステップにおいて酢酸エチルで除去されている。
【0027】
本発明により精緻化されたステンシルを用いると、2つの部分領域4、5を備えたステンシル層3の1回の転写のみで複雑な表面構造をワーク2の表面にエッチング処理によって作成できることが部分画像、
図1fから分かる。この目的のために、本発明によると、ワーク1の構造化対象の表面2にステンシル層3を1回付着させるだけで済む。1回目のエッチング処理の後、ステンシル層の第2部分領域5が除去され、別のエッチング処理が実施される。この別のエッチング処理は、ステンシル層3の第2部分領域5によって覆われていた表面2の領域にも作用する。最後に、ステンシル層3の第1部分領域4もワーク1から除去される。
【0028】
本発明によるステンシル層は、2つ以上の部分領域を備えることができる。本発明により構成された複数のステンシルを用いると、構造化が特に複雑な表面を2回以上処理することも可能である。
【要約】
本発明は、エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルと、エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作する方法と、エッチングによって表面構造を形成するためのステンシルを製作するための印刷機と、エッチングによって表面構造を形成する方法とに関する。エッチングによって表面構造を形成するための公知のステンシルは、耐エッチング性ステンシル層(3)を備え、ステンシル層(3)は構造化対象の表面(2)に転写可能であり、エッチング処理の後にステンシル層(3)は構造化対象の表面(2)から少なくとも部分的に除去可能である。本発明によると、この公知のステンシルは、ステンシル層(3)が少なくとも2つの部分領域(4、5)を備え、少なくとも2つの部分領域(4、5)が構造化対象の表面から別々に除去可能であるように、精緻化および発展される。
【選択図】
図1b