特許第6126324号(P6126324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6126324
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】複合膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/12 20060101AFI20170424BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20170424BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20170424BHJP
   B32B 3/18 20060101ALI20170424BHJP
   C08J 9/42 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   B01D69/12
   B01D69/10
   B01D71/26
   B32B3/18
   C08J9/42CES
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-506940(P2017-506940)
(86)(22)【出願日】2016年11月10日
(86)【国際出願番号】JP2016083421
【審査請求日】2017年2月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-233612(P2015-233612)
(32)【優先日】2015年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高容量リチウムイオン電池用革新的セパレーターの実用化開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】本元 博行
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−023602(JP,A)
【文献】 特開昭63−023703(JP,A)
【文献】 特開平10−171288(JP,A)
【文献】 特開2002−040858(JP,A)
【文献】 特開平06−285343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B01D53/22
B01D61/00−71/82
C02F 1/44
C08J 9/00− 9/42
DB等 JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に、樹脂及び該樹脂を溶解又は分散する溶媒を含む塗工液を塗工して形成された多孔質層と、を備えた複合膜を製造する方法であって、
(1)前記溶媒と相溶する液体を、前記多孔質基材の片面又は両面に塗布する工程であって、多孔質構造を有する外周層を備えたロール状回転部材を用いて、前記ロール状回転部材の内部から外周面にしみ出る前記液体を前記多孔質基材に塗布する工程と、
(2)前記塗工液を、前記液体が塗布された前記多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工液層を形成する工程と、
(3)前記塗工液層に含まれる前記樹脂を凝固させて、前記多孔質基材の片面又は両面に前記樹脂を含有する多孔質層を備えた複合膜を得る工程と、
(4)前記複合膜から前記溶媒及び前記液体を除去する工程と、
を有する、複合膜の製造方法。
【請求項2】
前記ロール状回転部材の前記外周層が、セラミックスの多孔質層である、請求項1に記載の複合膜の製造方法。
【請求項3】
前記ロール状回転部材の前記外周層が、平均孔径2μm以上20μm以下の多孔質層である、請求項1又は請求項2に記載の複合膜の製造方法。
【請求項4】
前記(2)の工程が、前記多孔質基材の搬送方向において離間して配置された、一方の面を塗工する第一の塗工手段と、他方の面を塗工する第二の塗工手段とを用いて、前記塗工液を前記多孔質基材の両面に片面ずつ順次塗工する工程である、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の複合膜の製造方法。
【請求項5】
前記(2)の工程が、前記多孔質基材を塗工手段に押圧する押圧手段が配置されていない塗工手段を用いて前記塗工液を塗工する工程である、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の複合膜の製造方法。
【請求項6】
前記(2)の工程において、前記多孔質基材の搬送速度が20m/分以上である、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の複合膜の製造方法。
【請求項7】
前記(1)の工程が、前記液体を前記多孔質基材に1g/m以上30g/m以下塗布する工程である、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の複合膜の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質基材がポリオレフィン微多孔膜である、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の複合膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池セパレータ、ガスフィルタ、液体フィルタ等として、多孔質基材上に多孔質層を有する複合膜が知られている。この複合膜の製造方法として、樹脂及び溶媒を含む塗工液を多孔質基材上に塗工して塗工液層を形成した後、塗工液層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を形成する製造方法が知られている。
【0003】
上記の製造方法では、多孔質基材上に塗工した塗工液の一部が多孔質基材内に浸み込んだり、塗工液の溶媒が多孔質基材内に浸み込んだりすることがある。この現象に起因して、塗工液層中の樹脂の一部が意図しない時期に凝固し、塗工液層の面方向の均一性が低下し、その結果、複合膜の各種物性が面方向において不均一になることがある。
【0004】
上記の課題を解決する手段として、例えば特許文献1及び2に開示されているように、液体を含浸させた多孔質基材上に塗工液を塗工する製造方法が知られている。この製造方法であれば、多孔質基材の内部に塗工液及び塗工液の溶媒が浸み込みにくいため、多孔質層が面方向において均一に形成されやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−23602号公報
【特許文献2】特表2013−533370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合膜の生産効率の観点からは、長尺の多孔質基材であって幅の広い多孔質基材を高速で搬送して塗工液を塗工することが望ましい。しかし、多孔質基材の幅が広くなるほど、また、多孔質基材の搬送速度が速くなるほど、多孔質基材上に形成される多孔質層は面方向において不均一になりやすい。幅の広い多孔質基材を高速で搬送した場合においても、面方向の均一性に優れた複合膜を製造できる製造方法が求められている。
【0007】
本開示の実施形態は、上記状況のもとになされた。
本開示の実施形態は、幅の広い多孔質基材を高速で搬送した場合においても、面方向の均一性に優れた複合膜を製造できる、複合膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0009】
[1] 多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に、樹脂及び該樹脂を溶解又は分散する溶媒を含む塗工液を塗工して形成された多孔質層と、を備えた複合膜を製造する方法であって、
(1)前記溶媒と相溶する液体を、前記多孔質基材の片面又は両面に塗布する工程であって、多孔質構造を有する外周層を備えたロール状回転部材を用いて、前記ロール状回転部材の内部から外周面にしみ出る前記液体を前記多孔質基材に塗布する工程と、
(2)前記塗工液を、前記液体が塗布された前記多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工液層を形成する工程と、
(3)前記塗工液層に含まれる前記樹脂を凝固させて、前記多孔質基材の片面又は両面に前記樹脂を含有する多孔質層を備えた複合膜を得る工程と、
(4)前記複合膜から前記溶媒及び前記液体を除去する工程と、
を有する、複合膜の製造方法。
[2] 前記ロール状回転部材の前記外周層が、セラミックスの多孔質層である、[1]に記載の複合膜の製造方法。
[3] 前記ロール状回転部材の前記外周層が、平均孔径2μm以上20μm以下の多孔質層である、[1]又は[2]に記載の複合膜の製造方法。
[4] 前記(2)の工程が、前記多孔質基材の搬送方向において離間して配置された、一方の面を塗工する第一の塗工手段と、他方の面を塗工する第二の塗工手段とを用いて、前記塗工液を前記多孔質基材の両面に片面ずつ順次塗工する工程である、[1]〜[3]のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
[5] 前記(2)の工程が、前記多孔質基材を塗工手段に押圧する押圧手段が配置されていない塗工手段を用いて前記塗工液を塗工する工程である、[1]〜[4]のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
[6] 前記(2)の工程において、前記多孔質基材の搬送速度が20m/分以上である、[1]〜[5]のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
[7] 前記(1)の工程が、前記液体を前記多孔質基材に1g/m以上30g/m以下塗布する工程である、[1]〜[6]のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
[8] 前記多孔質基材がポリオレフィン微多孔膜である、[1]〜[7]のいずれかに記載の複合膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、幅の広い多孔質基材を高速で搬送した場合においても、面方向の均一性に優れた複合膜を製造できる、複合膜の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の製造方法の一実施形態を示す概念図である。
図2】本開示の製造方法の一実施形態を示す概念図である。
図3】ロール状回転部材の一実施形態を示す概略図である。
図4A】シャフト14の概略図である。
図4B】シャフト14の概略図である。
図5A】塗工工程の一実施形態を示す概略図である。
図5B】塗工工程の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0013】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0014】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
本明細書において、「機械方向」とは、長尺状に製造される多孔質基材及び複合膜において長尺方向を意味し、「幅方向」とは、「機械方向」に直交する方向を意味する。「機械方向」を「MD方向」ともいい、「幅方向」を「TD方向」ともいう。
【0016】
本開示において、液体について「相溶」とは、互いに溶け合い均一な溶液となり得ることを意味する。
【0017】
<複合膜の製造方法>
本開示の製造方法は、多孔質基材と、該多孔質基材の片面又は両面に設けられた多孔質層と、を備えた複合膜を製造する方法である。本開示の製造方法は、樹脂及び該樹脂を溶解又は分散する溶媒を含む塗工液を塗工して多孔質層を形成することを含み、具体的には、下記の工程(1)〜(4)を実施して、多孔質基材の片面又は両面に多孔質層を設ける製造方法である。
【0018】
工程(1):塗工液の溶媒と相溶する液体(「前処理液」ともいう。)を、多孔質基材の片面又は両面に塗布する工程であって、多孔質構造を有する外周層を備えたロール状回転部材を用いて、該ロール状回転部材の内部から外周面にしみ出る前処理液を多孔質基材に塗布する工程(「前処理工程」ともいう。)。
工程(2):塗工液を、前処理液が塗布された多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工液層を形成する工程(「塗工工程」ともいう。)。
工程(3):塗工液層に含まれる樹脂を凝固させて、多孔質基材の片面又は両面に該樹脂を含有する多孔質層を備えた複合膜を得る工程(「凝固工程」ともいう。)。
工程(4):複合膜から、塗工液の溶媒及び前処理液を除去する工程(「溶媒除去工程」ともいう。)。
【0019】
工程(3)は、湿式工程でもよく乾式工程でもよい。湿式工程及び乾式工程についての詳細は後述する。
【0020】
工程(4)としては、例えば、複合膜を水洗する工程、及び/又は、複合膜を乾燥させる工程が挙げられる。
【0021】
本開示の製造方法は、さらに、工程(2)で用いる塗工液を調製する塗工液調製工程を有してもよい。
【0022】
図1は、本開示の製造方法の一実施形態を示す概念図である。図1では、図内の左側に、複合膜の製造に供する多孔質基材のロール(長尺状の多孔質基材を巻き取ったロール)が置かれ、図内の右側に、複合膜を巻き取ったロールが置かれている。図1に示す実施形態は、塗工液調製工程、前処理工程、塗工工程、凝固工程、水洗工程、及び乾燥工程を有する。本実施形態は、凝固工程を湿式で行い、水洗工程が溶媒除去工程に相当する(なお、乾燥工程も溶媒除去工程に相当する場合がある)。本実施形態は、前処理工程、塗工工程、凝固工程、水洗工程、及び乾燥工程を連続的に順次行い、塗工工程の実施時期に合わせて塗工液調製工程を行う。各工程の詳細は後述する。
【0023】
図2は、本開示の製造方法の別の一実施形態を示す概念図である。図2では、図内の左側に、複合膜の製造に供する多孔質基材のロール(長尺状の多孔質基材を巻き取ったロール)が置かれ、図内の右側に、複合膜を巻き取ったロールが置かれている。図2に示す実施形態は、塗工液調製工程、前処理工程、塗工工程、及び凝固工程を有する。本実施形態は、凝固工程を乾式で行い、凝固工程が溶媒除去工程でもある。本実施形態は、前処理工程、塗工工程、及び凝固工程(溶媒除去工程でもある。)を連続的に順次行い、塗工工程の実施時期に合わせて塗工液調製工程を行う。各工程の詳細は後述する。
【0024】
本開示の製造方法において前処理工程は、多孔質基材に塗工する塗工液の溶媒と相溶する液体(前処理液)を、塗工工程の前に、多孔質基材の片面又は両面に塗布する工程である。前処理液は、塗工液の溶媒と相溶する液体であるので、塗工液が多孔質基材の表面になじむことを妨げず、したがって、多孔質基材と多孔質層との接着を妨げない。そして、前処理工程を行うことにより、液体を含む多孔質基材に塗工液を塗工することになるので、多孔質基材の内部に塗工液及び塗工液の溶媒が浸み込むことが抑制され、塗工液層中の樹脂の一部が凝固工程の前に凝固することが抑制される。これにより、多孔質層が面方向に均一に形成されやすく、結果、面方向の均一性に優れた複合膜を製造することができる。
【0025】
本開示の製造方法において前処理工程は、多孔質構造を有する外周層を備えたロール状回転部材を用いて、該ロール状回転部材の内部から外周面にしみ出る前処理液を多孔質基材に塗布する工程である。前記ロール状回転部材を用いることにより、幅の広い多孔質基材を高速で搬送した場合においても、前処理液を多孔質基材に均一性高く塗布することができ、結果、面方向の均一性に優れた複合膜を大面積かつ高速で製造することができる。したがって、本開示の製造方法は、複合膜の生産性に優れる。また、前記ロール状回転部材は、前処理液を塗布する際において前処理液の飛散が少ない観点からも有利である。
【0026】
複合膜が面方向の均一性に優れることは、例えば、複合膜の膜厚、及び/又は、多孔質層を多孔質基材から剥がすときの力(剥離強度)が、面方向(特に幅方向)において、ばらつきが少ないことを意味する。
【0027】
以下、本開示の製造方法の各工程を詳しく説明する。
【0028】
[塗工液調製工程]
本開示の製造方法は、塗工工程に供する塗工液を調製する塗工液調製工程を有してもよい。本開示の製造方法は、塗工液調製工程を有さずともよく、塗工工程には、既に製造され保管されていた塗工液を供してもよい。
【0029】
塗工液調製工程は、樹脂及びその溶媒を含有する塗工液を調製する工程である。塗工液は、樹脂を溶媒に溶解又は分散させて調製する。塗工液は、樹脂及び溶媒以外の成分、例えばフィラーを含有していてもよい。塗工液の調製に用いる樹脂やフィラー、即ち、多孔質層に含まれる樹脂やフィラーについては、後述する[多孔質層]の項において詳細に説明する。
【0030】
塗工液の調製に用いる、樹脂を溶解する溶媒(「良溶媒」ともいう。)としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が挙げられる。良好な多孔構造を有する多孔質層を形成する観点から、相分離を誘発させる相分離剤を良溶媒に混合することが好ましい。相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。相分離剤は、塗工に適切な塗工液の粘度が確保できる範囲の量比で良溶媒と混合することが好ましい。
【0031】
塗工液の調製に用いる溶媒としては、良好な多孔構造を形成する観点から、良溶媒を50質量%以上(より好ましくは60質量%以上)含み、相分離剤を10質量%〜50質量%(より好ましくは10質量%〜40質量%)含む混合溶媒が好ましい。塗工液は、良好な多孔構造を形成する観点から、樹脂が3質量%〜10質量%の濃度で含まれており、フィラーが10質量%〜90質量%の濃度で含まれていることが好ましい。
【0032】
塗工液の調製には、樹脂及びフィラーの溶媒への溶解性及び分散性を高めるために、ホモジナイザー、グラスビーズミル、セラミックビーズミル等を用いることができる。さらに分散効率を高めるために、樹脂又はフィラーを溶媒に混合する前に、分散剤へのプレ分散を行ってもよい。
【0033】
塗工液の粘度は、多孔質基材への塗工適性の観点から、0.1Pa・s〜5.0Pa・sが好ましい。塗工液の粘度は、溶媒、樹脂及びフィラーの組成比によって制御可能である。
【0034】
[前処理工程]
前処理工程は、塗工液の溶媒と相溶する液体(前処理液)を、多孔質基材の片面又は両面に塗布する工程である。そして、前処理工程は、多孔質構造を有する外周層を備えたロール状回転部材を用いて、該ロール状回転部材の内部から外周面にしみ出る前処理液を多孔質基材に塗布する工程である。
【0035】
−前処理液−
前処理液は、多孔質基材の内部に塗工液及び塗工液の溶媒が浸み込むことを抑制する目的で、塗工工程の前に多孔質基材に塗布される液体である。
【0036】
前処理液としては、例えば、下記の(i)〜(iv)が挙げられる。
(i)塗工液に含まれる良溶媒と同一種類の液体。
(ii)塗工液に含まれる相分離剤と同一種類の液体。
(iii)塗工液に含まれる良溶媒と別種類の良溶媒であって、塗工液に含まれる良溶媒と相溶する液体。
(iv)(i)〜(iii)から選ばれる少なくとも2つを混合した液体。
【0037】
前記(i)及び前記(iii)としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が挙げられる。前記(ii)としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0038】
前処理液としては、前処理液と塗工液との界面において樹脂が凝固工程の前に凝固することを抑制する観点から、少なくとも前記(i)又は前記(iii)を含有する液体が好ましく、少なくとも前記(i)を含有する液体がより好ましく、塗工液の溶媒と同じ組成の液体が特に好ましい。具体的には、前記(i)を50質量%以上(より好ましくは60質量%以上)含み、前記(ii)を10質量%〜50質量%(より好ましくは10質量%〜40質量%)含む混合溶媒が好ましい。
【0039】
多孔質基材への前処理液の塗布量は、1g/m〜30g/mが好ましい。前処理液の塗布量が1g/m以上であると、多孔質基材の内部に塗工液及び塗工液の溶媒が浸み込むことを十分に抑制できる。上記観点から、前処理液の塗布量は、より好ましくは3g/m以上であり、更に好ましくは5g/m以上である。一方、前処理液の塗布量が30g/m以下であると、塗工液の塗工ムラが発生しにくい。上記観点から、前処理液の塗布量は、より好ましくは20g/m以下であり、更に好ましくは15g/m以下である。
【0040】
多孔質基材に塗布される際の前処理液の温度は、例えば10℃〜50℃である。
【0041】
塗工液の塗工が多孔質基材の片面のみに実施される場合、前処理工程においては、その面のみに前処理液の塗布を行ってもよく、反対側の面のみに前処理液の塗布を行ってもよく、両面に前処理液の塗布を行ってもよい。
【0042】
塗工液の塗工が多孔質基材の両面に実施される場合、前処理工程においては、多孔質基材の片面のみに前処理液の塗布を行ってもよく、多孔質基材の両面に前処理液の塗布を行ってもよい。
【0043】
−ロール状回転部材−
本開示の製造方法において、前処理液の塗布に用いられるロール状回転部材は、多孔質構造を有する外周層を備え、該多孔質構造を通って内部から外周面に前処理液がしみ出る部材である。
【0044】
ロール状回転部材の外周層の材料としては、セラミックス、金属、ガラス等の無機材料;合成樹脂(例えば、ウレタン、ポリプロピレン、ポリエステル、フッ素系樹脂、ナイロン)、セルロース等の有機材料;が挙げられる。ロール状回転部材の外周層の材料は、前処理液に対して耐久性のある材料が好ましい。例えば、合成樹脂やセルロース等の有機材料はN−メチルピロリドンやジメチルアセトアミド等の有機溶媒に溶解する場合があるので、前処理液として有機溶媒を用いる場合は、ロール状回転部材の外周層に有機材料を適用すると該外周層が溶解又は破損することがある。一方で、合成樹脂やセルロース等の有機材料は水系溶媒に対しては溶解しにくいので、前処理液として水系溶媒を用いる場合は、ロール状回転部材の外周層に有機材料を適用できる。つまり、ロール状回転部材の外周層の材料は、前処理液に対する耐溶解性を考慮して選定する必要がある。
【0045】
ロール状回転部材の外周層としては、具体的には、多孔質セラミックス、発泡ウレタン、樹脂繊維の不織布、ガラス繊維の不織布、金属繊維の不織布、紙、天然繊維の織布、天然繊維の不織布、多孔質合成ゴム等が挙げられる。
【0046】
ロール状回転部材の外周層は、多孔質セラミックスであることが好ましい。多孔質セラミックスは、有機溶媒に対しても水系溶媒に対しても耐溶解性が高く、多孔質構造が前処理液により破損しにくい。したがって、多孔質セラミックスをロール状回転部材の外周層に適用すると、前処理液として使用できる溶剤の種類を広げることができ、様々な種類の塗工層が形成できる。また、多孔質セラミックスは、表面の平滑性が高いので多孔質基材を傷つけにくい。また、多孔質セラミックスは、曲路率の高い多孔質構造である故に前処理液が外周面にゆっくりとしみ出し外周面に薄く載るので、前処理液の塗布量を制御しやすい。
【0047】
ロール状回転部材の外周層は、平均孔径2μm〜20μmの多孔質層であることが好ましい。外周層の平均孔径が上記範囲であると、外周面にしみ出す前処理液の量を制御しやすい。上記観点から、外周層の平均孔径は、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。ロール状回転部材の外周層の平均孔径は、水銀圧入法に基づきパームポロメーターを用いて測定される値である。
【0048】
ロール状回転部材の外周層は、単層の多孔質層でもよく、同種材料又は異種材料を積層した多層の多孔質層でもよい。ロール状回転部材の外周層が多層の場合、少なくとも最外周層が多孔質セラミックスであることが好ましい。
【0049】
ロール状回転部材の外周層は、層厚が例えば5mm〜10mmである。ロール状回転部材の外周層の軸方向長さは、多孔質基材の幅以上であれば特に制限されず、例えば、多孔質基材の幅に対して+0cm〜+50cmの長さである。ロール状回転部材の外径は、例えば50mm〜200mmである。
【0050】
ロール状回転部材は、モーターによって回転する駆動ロールでもよく、多孔質基材の搬送に従って回転する従動ロールでもよい。
【0051】
以下にロール状回転部材の実施形態例を、図面を参照しながら説明するが、本開示の製造方法がこれらの例に限定されるものでないことは勿論である。
【0052】
図3は、ロール状回転部材の一例を示す概略図である。図3に示すロール状回転部材10は、外周層12とシャフト14とを備える。
【0053】
外周層12は、多孔質構造を有する層である。外周層12は、シャフト14の外周面に配置されており、ロール状回転部材10の外周面を構成している。外周層12は、例えば多孔質セラミックスである。前処理液は、外周層12の内周面側から多孔質構造を通って外周面にしみ出る。
【0054】
シャフト14は、例えば金属(ステンレス鋼、アルミニウム、鉄、真鍮、銅等)の中空状の部材である。シャフト14の軸方向両端は、シャフト14が回転自在となるように軸受け(図示せず)に保持されている。前処理液は、シャフト14の中空部を流れる。
【0055】
シャフト14は、その外周面の、外周層12が配置されている領域に、貫通孔を有する。図4A及び図4Bは、ロール状回転部材10から外周層12を取り除いた状態のシャフト14の概略図であり、シャフト14が外周面に有する貫通孔の一例を示す。図4Aに示す貫通孔16aは、開口部の形状が円形であり、複数個が周期的に並んで設けられている。図4Bに示す貫通孔16bは、シャフト14の軸方向に直交するスリットであり、複数個が所定の間隔で並んで設けられている。前処理液は、シャフト14の中空部から貫通孔16a(又は貫通孔16b)を通って外周層12へ移行する。
【0056】
シャフト14の一実施形態は、軸方向両端が開いた中空状部材である。この実施形態において、前処理液は、シャフト14の中空部を軸方向に一方向に流れ、その間に前処理液の一部は貫通孔16a(又は貫通孔16b)を通って外周層12へと移行する。そして、前処理液は、外周層12の多孔質構造を通って外周面にしみ出る。外周層12に移行せずにシャフト14から流出した前処理液は、シャフト14の中空部へと循環されることが好ましい。
【0057】
シャフト14の別の一実施形態は、一方の端が開口端であり、もう一方の端が閉口端であり、中空部が仕切り部材によって軸方向に長い2室に分かれており、2室が閉口端側でつながった中空状部材である。この実施形態において、前処理液は、シャフト14の開口端から一方の室へ流入し、閉口端側でもう一方の室へと流れる。前処理液の一部は2室を流れる間に貫通孔16a(又は貫通孔16b)を通って外周層12へと移行する。そして、前処理液は、外周層12の多孔質構造を通って外周面にしみ出る。外周層12に移行せずにシャフト14から流出した前処理液は、シャフト14の中空部へと循環されることが好ましい。
【0058】
[塗工工程]
塗工工程は、多孔質基材の片面又は両面に、樹脂及びその溶媒を含有する塗工液を塗工して塗工液層を形成する工程である。
【0059】
塗工工程は、前処理工程の後、前処理液が乾燥により多孔質基材から失われてしまう前に行う。多孔質基材に前処理液が塗布されてから塗工液が塗工されるまでの時間は、例えば5分間以内であることが好ましい。
【0060】
多孔質基材への塗工液の塗工方式としては、ダイコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、バーコーティング、ナイフコーティング等が挙げられる。
【0061】
塗工工程の一実施形態は、多孔質基材を塗工手段に押圧する押圧手段が配置されていない塗工手段を用いて塗工液を塗工する工程である。本実施形態は、塗工手段が多孔質基材に面接触せず、塗工手段が多孔質基材に幅方向に線状に接触して塗工液を塗工する工程である。本実施形態は、多孔質基材の搬送速度を高速化できる観点から好ましいが、多孔質基材の搬送速度が高速になるほど多孔質層の不均一性が顕在化しやすい。本開示の製造方法によれば、塗工工程が本実施形態を採用して多孔質基材の搬送速度を高速化した場合においても、面方向の均一性に優れた複合膜を製造することができる。本実施形態を採用する塗工方式としては、ダイコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング等が挙げられる。
【0062】
塗工工程の一実施形態は、多孔質基材を介して対向して配置された、一方の面を塗工する第一の塗工手段と、他方の面を塗工する第二の塗工手段とを用いて、塗工液を多孔質基材の両面に同時に塗工する工程である。
【0063】
塗工工程の一実施形態は、多孔質基材の搬送方向において離間して配置された、一方の面を塗工する第一の塗工手段と、他方の面を塗工する第二の塗工手段とを用いて、塗工液を多孔質基材の両面に片面ずつ順次塗工する工程である。本実施形態を、図5A及び図5Bを参照しながら説明する。図5A及び図5Bはそれぞれ、塗工工程の一実施形態を示す概略図である。
【0064】
図5Aに示す実施形態は、塗工方式がダイコーティングであり、多孔質基材71の搬送方向の上流側から、支持ロール51、ダイコーター21(第一の塗工手段)、ダイコーター22(第二の塗工手段)、支持ロール52が順に並んでいる。ダイコーター21とダイコーター22とは、多孔質基材71の搬送方向において離間して配置されている。図5Aに示す実施形態においては、ダイコーター21及びダイコーター22には、バックアップロール(多孔質基材を塗工手段に押圧する押圧手段)が配置されていないため、ダイコーター21及びダイコーター22は、多孔質基材71に面接触せず、多孔質基材71に幅方向に線状に接触する。ダイコーター21及びダイコーター22には、バックアップロールが配置されていてもよいが、多孔質基材の搬送速度を高速化できる観点から、バックアップロールが配置されていないことが好ましい。
【0065】
図5Aに示す実施形態は、まずダイコーター21により多孔質基材71の一方の面に塗工液を塗工し、続いてダイコーター22により多孔質基材71のもう一方の面に塗工液を塗工する。
【0066】
図5Bに示す実施形態は、塗工方式がグラビアコーティングであり、多孔質基材71の搬送方向の上流側から、支持ロール51、グラビアコーター41(第一の塗工手段)、グラビアコーター42(第二の塗工手段)、支持ロール52が順に並んでいる。グラビアコーター41とグラビアコーター42とは、多孔質基材71の搬送方向において離間して配置されている。グラビアコーター41及びグラビアコーター42には、バックアップロール(多孔質基材を塗工手段に押圧する押圧手段)が配置されていないため、グラビアコーター41及びグラビアコーター42は、多孔質基材71に面接触せず、多孔質基材71に幅方向に線状に接触する。グラビアコーター41及びグラビアコーター42には、バックアップロールが配置されていてもよいが、多孔質基材の搬送速度を高速化できる観点から、バックアップロールが配置されていないことが好ましい。
【0067】
図5Bに示す実施形態は、まずグラビアコーター41により多孔質基材71の一方の面に塗工液を塗工し、続いてグラビアコーター42により多孔質基材71のもう一方の面に塗工液を塗工する。
【0068】
図5A及び図5Bに示すように2つの塗工手段が多孔質基材の搬送方向において離間して配置され片面ずつ塗工を行う実施形態は、2つの塗工手段が多孔質基材を介して対向して配置され両面に同時に塗工を行う実施形態に比べて、多孔質基材に傷がつきにくく、塗工液層の層厚を面ごとに制御しやすく、また、多孔質基材の搬送速度を高速化できる。本開示の製造方法によれば、上記の片面ずつ塗工を行う実施形態を採用して多孔質基材の搬送速度を高速化した場合でも、面方向の均一性に優れた複合膜を製造することができる。
【0069】
塗工工程における多孔質基材の搬送速度は、生産効率の観点から、20m/分以上が好ましく、30m/分以上がより好ましく、40m/分以上が更に好ましい。本開示の製造方法によれば、幅の広い多孔質基材を高速(例えば20m/分以上)で搬送した場合においても、面方向の均一性に優れた複合膜を製造することができる。前記搬送速度は、面方向の均一性により優れた複合膜を製造する観点からも、ある程度速い方が好ましく、上記の範囲が好ましい。前記搬送速度の上限は、塗工ムラの発生を抑制する観点から、150m/分以下が好ましく、100m/分以下がより好ましい。
【0070】
塗工液の塗工量は、両面の合計で、例えば10g/m〜60g/mである。
【0071】
[凝固工程]
凝固工程は、塗工液層を凝固液に接触させて塗工液層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を得る湿式工程;塗工液層に含まれる溶媒を除去して塗工液層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を得る乾式工程;のいずれでもよい。乾式工程は湿式工程に比べて多孔質層が緻密になりやすいので、良好な多孔構造を得られる観点から湿式工程が好ましい。
【0072】
湿式工程は、塗工液層を有する多孔質基材を凝固液に浸漬させることが好ましく、具体的には、凝固液の入った槽(凝固槽)を通過させることが好ましい。
【0073】
湿式工程において用いる凝固液は、塗工液の調製に用いた良溶媒及び相分離剤と、水との混合溶液が一般的である。良溶媒と相分離剤の混合比は、塗工液の調製に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。水の濃度は、凝固液の総量に対して40質量%〜80質量%であることが、多孔構造の形成及び生産性の観点から適切である。凝固液の温度は例えば20℃〜50℃である。
【0074】
凝固工程が乾式工程である場合の凝固工程は、溶媒除去工程でもある。本工程により、複合膜に含まれている液体成分(多孔質基材に塗布された前処理液、塗工液の溶媒)が除去される。複合膜から液体成分を除去する方法は、限定はなく、例えば、複合膜を発熱部材に接触させる方法;温度及び湿度を調整したチャンバー内に複合膜を搬送する方法;複合膜に熱風をあてる方法;などが挙げられる。複合膜に熱を付与する場合、その温度は例えば、50℃以上、多孔質基材の融点以下である。
【0075】
[水洗工程]
本開示の製造方法の一実施形態は、凝固工程に湿式工程を採用し、凝固工程の後、複合膜を水洗する水洗工程を有する。水洗工程は、複合膜に含まれている水以外の液体成分(多孔質基材に塗布された前処理液、塗工液の溶媒、及び凝固液の溶媒)を除去する目的で行われる工程である。凝固工程が湿式工程である場合、水洗工程が溶媒除去工程に相当する。水洗工程は、具体的には、複合膜を水浴の中を搬送することによって行うことが好ましい。水洗用の水の温度は、例えば0℃〜70℃である。
【0076】
[乾燥工程]
本開示の製造方法の一実施形態は、水洗工程の後、複合膜から水を除去する乾燥工程を有する。乾燥工程も溶媒除去工程に相当する場合がある。複合膜から水を除去する方法は、限定はなく、例えば、複合膜を発熱部材に接触させる方法;温度及び湿度を調整したチャンバー内に複合膜を搬送する方法;複合膜に熱風をあてる方法;などが挙げられる。複合膜に熱を付与する場合、その温度は例えば、50℃以上、多孔質基材の融点以下である。
【0077】
本開示の製造方法は、塗工品質あるいは生産性向上の観点から、下記の実施形態を採用してもよい。
・塗工液調製工程の一部として、塗工液の調製用溶媒から異物を除去する目的で、該溶媒を樹脂との混合前にフィルタを通過させる処理を行う。この処理に使用するフィルタの保留粒子径は、例えば0.1μm〜100μmである。
・塗工液調製工程を実施するタンクに攪拌機を設置し、攪拌機で常に塗工液を攪拌し、塗工液中の固形成分(例えばフィラー)の沈降を抑制する。
・塗工液調製工程から塗工工程に塗工液を輸送する配管を循環式にし、配管内を塗工液を循環させて塗工液中の固形成分の凝集を抑制する。この場合、配管内の塗工液の温度を一定に制御することが好ましい。配管の長さは例えば20mである。
・塗工液調製工程から塗工工程に塗工液を輸送する配管の途中にフィルタを設置し、塗工液中の凝集物及び/又は異物を除去する。
・塗工液調製工程から塗工工程に塗工液を供給するポンプとして、例えば無脈動定量ポンプを設置する。
・前処理工程の上流及び/又は前処理工程と塗工工程の間に、静電気除去装置を配置し、多孔質基材表面を除電する。
・塗工手段の周囲にハウジングを設け、塗工工程の環境を清浄に保ち、また、塗工工程の雰囲気の温度及び湿度を制御する。
・塗工手段の下流に塗工量を検知するセンサーを配置し、塗工工程における塗工量を補正する。
【0078】
以下、複合膜の多孔質基材及び多孔質層を詳細に説明する。
【0079】
[多孔質基材]
本開示において多孔質基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜;繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シート;これら微多孔膜や多孔性シートに他の多孔性の層を1層以上積層した複合多孔質シート;などが挙げられる。本開示においては、複合膜の薄膜化及び強度の観点から、微多孔膜が好ましい。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。
【0080】
多孔質基材の材料としては、電気絶縁性を有する材料が好ましく、有機材料及び無機材料のいずれでもよい。
【0081】
多孔質基材の材料としては、多孔質基材にシャットダウン機能を付与する観点からは、熱可塑性樹脂が好ましい。シャットダウン機能とは、複合膜が電池セパレータに適用された場合において電池温度が高まった際に、構成材料が溶解して多孔質基材の孔を閉塞することによりイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が適当であり、特にポリオレフィンが好ましい。
【0082】
多孔質基材としては、ポリオレフィンを含む微多孔膜(「ポリオレフィン微多孔膜」という。)が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、従来の電池セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜が挙げられ、この中から十分な力学特性と物質透過性を有するものを選択することが好ましい。
【0083】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能を発現する観点から、ポリエチレンを含むことが好ましく、ポリエチレンの含有量は、ポリオレフィン微多孔膜の全質量に対して、95質量%以上が好ましい。
【0084】
ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝されたときに容易に破膜しない程度の耐熱性を有する観点から、ポリエチレンとポリプロピレンとを含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。このようなポリオレフィン微多孔膜としては、ポリエチレンとポリプロピレンが1つの層において混在している微多孔膜が挙げられる。このような微多孔膜においては、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点から、95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むことが好ましい。また、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点からは、ポリオレフィン微多孔膜が2層以上の積層構造を備えており、少なくとも1層はポリエチレンを含み、少なくとも1層はポリプロピレンを含む構造のポリオレフィン微多孔膜も好ましい。
【0085】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、重量平均分子量が10万〜500万のポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンの重量平均分子量が10万以上であると、十分な力学特性を確保できる。一方、ポリオレフィンの重量平均分子量が500万以下であると、シャットダウン特性が良好であるし、膜の成形がしやすい。
【0086】
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後延伸し、次いで熱処理をして微多孔膜とする方法:流動パラフィンなどの可塑剤と一緒に溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出し熱処理をして微多孔膜とする方法;などが挙げられる。
【0087】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等の耐熱性樹脂;セルロース;などの繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シートが挙げられる。耐熱性樹脂とは、融点が200℃以上の樹脂、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂を指す。
【0088】
複合多孔質シートとしては、微多孔膜や繊維状物からなる多孔性シートに、機能層を積層したシートが挙げられる。このような複合多孔質シートは、機能層によってさらなる機能付加が可能となる観点から好ましい。機能層としては、例えば耐熱性を付与するという観点から、耐熱性樹脂からなる多孔性の層や、耐熱性樹脂及び無機フィラーからなる多孔性の層が挙げられる。耐熱性樹脂としては、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミドから選ばれる1種又は2種以上の耐熱性樹脂が挙げられる。無機フィラーとしては、アルミナ等の金属酸化物;水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;などが挙げられる。複合化の手法としては、微多孔膜や多孔性シートに機能層を塗工する方法;微多孔膜や多孔性シートと機能層とを接着剤で接合する方法;微多孔膜や多孔性シートと機能層とを熱圧着する方法;等が挙げられる。
【0089】
多孔質基材の幅は、本開示の製造方法への適合性の観点から、0.3m〜3.0mが好ましい。本開示の製造方法によれば、幅の広い多孔質基材(例えば、幅0.5m以上)を高速で搬送した場合においても、面方向の均一性に優れた複合膜を製造することができる。
【0090】
多孔質基材の長さは、本開示の製造方法への適合性の観点から、50m以上が好ましい。
【0091】
多孔質基材の厚さは、機械強度の観点から、5μm〜50μmが好ましい。
【0092】
多孔質基材の破断伸度は、機械強度の観点から、MD方向に10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、TD方向に5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。多孔質基材の破断伸度は、温度20℃の雰囲気中で、引張試験機を用いて、引張速度100mm/minで引張試験を行って求める。
【0093】
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117:2009)は、機械強度と物質透過性の観点から、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましい。
【0094】
多孔質基材の空孔率は、機械強度、ハンドリング性、及び物質透過性の観点から、20%〜60%が好ましい。
【0095】
多孔質基材の平均孔径は、物質透過性の観点から、20nm〜100nmが好ましい。多孔質基材の平均孔径は、ASTM E1294−89に準拠しパームポロメーターを用いて測定される値である。
【0096】
[多孔質層]
本開示において多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層である。
【0097】
多孔質層は、複合膜が電池セパレータに適用される場合、電極と接着し得る接着性多孔質層であることが好ましい。接着性多孔質層は、多孔質基材の片面のみにあるよりも両面にある方が好ましい。
【0098】
多孔質層の厚さは、機械強度の観点から、多孔質基材の片面において0.5μm〜5μmが好ましい。
【0099】
多孔質層の空孔率は、機械強度、ハンドリング性、及び物質透過性の観点から、30%〜80%が好ましい。
【0100】
多孔質層の平均孔径は、物質透過性の観点から、20nm〜100nmが好ましい。多孔質層の平均孔径は、ASTM E1294−89に準拠しパームポロメーターを用いて測定される値である。
【0101】
多孔質層は、少なくとも樹脂及びその溶媒を含有する塗工液を塗工して形成される。したがって、多孔質層は、少なくとも樹脂を含有する。多孔質層は、さらにフィラー等を含んでいてもよい。以下、塗工液及び多孔質層に含有される樹脂などの成分について説明する。
【0102】
[樹脂]
多孔質層に含まれる樹脂は、種類の限定はない。多孔質層に含まれる樹脂としては、フィラーを固定化する機能を有するもの(所謂、バインダ樹脂)が好ましい。多孔質層に含まれる樹脂は、複合膜を湿式工程で製造する場合は製造適合性の観点から、疎水性樹脂が好ましい。多孔質層に含まれる樹脂は、複合膜が電池セパレータに適用される場合、電解液に安定であり、電気化学的に安定であり、無機粒子を固定化する機能を有し、電極と接着し得るものが好ましい。多孔質層は、樹脂を1種含んでもよく2種以上含んでもよい。
【0103】
樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のビニルニトリル類の単独重合体又は共重合体、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル類が好ましい。中でも、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン共重合体(これらを「ポリフッ化ビニリデン系樹脂」という。)が特に好ましい。
【0104】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(ポリフッ化ビニリデン共重合体);これらの混合物;が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル等が挙げられ、1種類又は2種類以上を用いることができる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、乳化重合又は懸濁重合により製造し得る。
【0105】
多孔質層に含まれる樹脂は、耐熱性の観点からは、耐熱性樹脂(融点が200℃以上の樹脂、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂)が好ましい。耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド(ナイロン)、全芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、セルロース、及びこれらの混合物が挙げられる。中でも、多孔構造の形成のしやすさ、無機粒子との結着性、耐酸化性などの観点から、全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドの中でも、成形が容易という観点から、メタ型全芳香族ポリアミドが好ましく、特にポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましい。
【0106】
本開示においては、樹脂として粒子状樹脂又は水溶性樹脂を用いてもよい。粒子状樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の樹脂を含む粒子が挙げられる。粒子状樹脂は、水等の分散媒に分散させて塗工液の作製に使用できる。水溶性樹脂としては、例えば、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール等が挙げられる。水溶性樹脂は、例えば水に溶解させて塗工液の作製に使用できる。粒子状樹脂及び水溶性樹脂は、凝固工程を乾式にて実施する場合に好適である。
【0107】
[フィラー]
フィラーは、無機フィラー及び有機フィラーのいずれでもよい。フィラーは、一次粒子の体積平均粒径が、0.01μm〜10μmであることが好ましく、0.1μm〜10μmであることがより好ましく、0.1μm〜3.0μmであることが更に好ましい。
【0108】
多孔質層はフィラーとして無機粒子を含むことが好ましい。多孔質層に含まれる無機粒子は、電解液に安定であり、且つ、電気化学的に安定なものが好ましい。多孔質層は、無機粒子を1種含んでもよく2種以上含んでもよい。
【0109】
無機粒子としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化セリウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物;シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;ケイ酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物;などが挙げられる。中でも、難燃性付与や除電効果の観点から、金属水酸化物及び金属酸化物が好ましい。無機粒子は、シランカップリング剤等により表面修飾されたものでもよい。
【0110】
無機粒子の粒子形状は任意であり、球形、楕円形、板状、針状、不定形のいずれでもよい。無機粒子の一次粒子の体積平均粒径は、多孔質層の成形性、複合膜の物質透過性、及び複合膜のすべり性の観点から、0.01μm〜10μmが好ましく、0.1μm〜10μmがより好ましく、0.1μm〜3.0μmが更に好ましい。
【0111】
多孔質層が無機粒子を含有する場合、樹脂と無機粒子の合計量に占める無機粒子の割合は、例えば30体積%〜90体積%である。
【0112】
多孔質層は、フィラーとして有機フィラーを含有していてもよい。有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、架橋ポリシリコーン、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物等の架橋高分子からなる粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド等の耐熱性樹脂からなる粒子;などが挙げられる。
【0113】
[複合膜の特性]
複合膜の厚さは、例えば5μm〜100μmであり、電池セパレータ用の場合、例えば5μm〜50μmである。
【0114】
複合膜のガーレ値(JIS P8117:2009)は、機械強度と物質透過性の観点から、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましい。
【0115】
複合膜の空孔率は、機械強度、ハンドリング性、及び物質透過性の観点から、30%〜60%が好ましい。
【0116】
本開示において複合膜の空孔率は、下記の式により求める。多孔質基材の空孔率及び多孔質層の空孔率も同様である。
【0117】
空孔率(%)={1−(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
【0118】
Wa、Wb、Wc、…、Wnは、構成材料a、b、c、…、nの質量(g/cm)であり、da、db、dc、…、dnは、構成材料a、b、c、…、nの真密度(g/cm)であり、tは膜厚(cm)である。
【0119】
[複合膜の用途]
複合膜の用途としては、例えば、電池セパレータ、コンデンサー用フィルム、ガスフィルタ、液体フィルタ等が挙げられ、特に好適な用途として、非水系二次電池用セパレータが挙げられる。
【実施例】
【0120】
以下に実施例を挙げて、本開示の製造方法をさらに具体的に説明する。ただし、本開示の製造方法は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0121】
<複合膜の品質評価方法>
下記の実施例及び比較例で製造した複合膜を、以下の品質評価方法によって評価した。
【0122】
[膜厚の均一性]
複合膜の膜厚(μm)を、接触式の厚み計(ミツトヨ社LITEMATIC、測定端子:直径5mmの円柱状端子、印加した荷重:7g)にて、幅方向に4cm間隔で20点測定し、20点の平均を算出し、下記のとおり分類した。
【0123】
A:平均膜厚に対する各測定点の膜厚差が0.2μm未満である。
B:平均膜厚に対して膜厚差が0.2μm以上0.5μm未満の測定点が1箇所あり、その他の測定点は平均膜厚に対して膜厚差が0.2μm未満である。
C:平均膜厚に対して膜厚差が0.2μm以上0.5μm未満の測定点が2箇所〜4箇所あり、その他の測定点は平均膜厚に対して膜厚差が0.2μm未満である。
D:平均膜厚に対して膜厚差が0.2μm以上0.5μm未満の測定点が5箇所以上あり、その他の測定点は平均膜厚に対して膜厚差が0.2μm未満である。
E:平均膜厚に対して膜厚差が0.2μm以上0.5μm未満の測定点が5箇所以上あり、平均膜厚に対して膜厚差が0.5μm以上の測定点が1箇所以上ある。
【0124】
[剥離強度の均一性]
複合膜を、幅方向の中央、一方の端から1cm内側及び20cm内側、もう一方の端から1cm内側及び20cm内側の合計5箇所から、TD方向1cm、MD方向10cmに切り出し、片面に3M社のメンディングテープを張り付け試験片とした。試験片の長さ方向(即ち複合膜のMD方向)の一端から、メンディングテープを直下の多孔質層と共に少し剥がし、2つに分離した端部をテンシロン(オリエンテック社のRTC−1210A)に把持させてT字剥離試験を行った。T字剥離試験の引張速度は20mm/分とし、多孔質基材から多孔質層が剥離する際の荷重(N)を測定し、測定開始後10mmから40mmまでの荷重を0.4mm間隔で採取しその平均を算出した。さらに試験片5枚の測定値の平均を算出し、下記のとおり分類した。
【0125】
A:試験片5枚の平均強度に対し各試験片の強度差が0.02N未満である。
B:試験片5枚の平均強度に対して強度差が0.02N以上0.04N未満の試験片がある。
C:試験片5枚の平均強度に対して強度差が0.04N以上0.06N未満の試験片がある。
D:試験片5枚の平均強度に対して強度差が0.06N以上0.08N未満の試験片がある。
E:試験片5枚の平均強度に対して強度差が0.08N以上の試験片がある。
【0126】
<複合膜の製造>
[実施例1]
−塗工液調製工程−
ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)の混合溶媒(質量比1:1)に、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(PMIA)を溶解し、さらに水酸化アルミニウム粒子(Al(OH)、一次粒子の体積平均粒径0.8μm)を分散させて塗工液を調製した。塗工液の組成(質量比)は、PMIA:Al(OH):DMAc:TPG=4:16:40:40とした。
【0127】
−前処理工程−
多孔質基材として長尺状の幅0.8mのポリエチレン微多孔膜(膜厚10μm)を用意した。DMAcとTPGとを質量比1:1で混合し、前処理液とした。前処理液の塗布手段として、図3に示す形状のセラミックスロール(図4Aに示す形状のステンレス鋼製の中空状シャフトと、多孔質セラミックスの外周層とを有するロール。外径12cm、外周層の軸方向長さ1.2m、外周層の層厚5mm、外周層の平均孔径10μm)を用意した。
【0128】
中空状シャフトに前処理液が循環供給されているセラミックスロールの外周面を、搬送中の多孔質基材に接触させて、多孔質基材の片面に前処理液を塗布した。
【0129】
−塗工工程−
図5Aに示すように多孔質基材の搬送方向に離間して配置された2つのダイコーターにより、前処理液が塗布された多孔質基材に塗工液を片面ずつ両面に塗工した。2つのダイコーターにはバックアップロールが配置されておらず、ダイコーターを多孔質基材に幅方向に線状に接触させて塗工液を塗工した。
【0130】
−凝固工程−
塗工液を両面に塗工した後の多孔質基材を凝固槽に搬送して凝固液(水:DMAc:TPG=43:40:17[質量比]、液温30℃)に浸漬して塗工液層に含まれる樹脂を凝固させて、複合膜を得た。
【0131】
−水洗工程、乾燥工程−
複合膜を、水温30℃に制御された水浴に搬送して水洗し、水洗後の複合膜を、加熱ロールを備えた乾燥装置を通過させて乾燥させた。
【0132】
上記の各工程を連続的に実施し、ポリエチレン微多孔膜の両面に多孔質層を備えた複合膜を製造した。
【0133】
[実施例2〜3]
塗工工程における多孔質基材の搬送速度を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0134】
[実施例4〜5]
前処理液の塗布量を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0135】
[実施例6]
ポリメタフェニレンイソフタルアミドをポリフッ化ビニリデン(PVDF)に変更し、水酸化アルミニウム粒子をアルミナ粒子(Al、一次粒子の体積平均粒径0.1μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0136】
[実施例7]
ポリメタフェニレンイソフタルアミドをポリフッ化ビニリデン(PVDF)に変更し、水酸化アルミニウム粒子を用いない以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0137】
[比較例1]
前処理工程を実施しない以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0138】
[比較例2]
前処理液の塗布手段を、搬送中の多孔質基材に接触する高さにつるしたタオル生地(幅1.3m)に変更した。タオル生地に前処理液を供給しつつ、タオル生地に接触させながら多孔質基材を搬送し、多孔質基材の片面に前処理液を塗布した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0139】
[比較例3]
前処理液の塗布手段をスロットダイコーターに変更した以外は、実施例1と同様にして複合膜を製造した。
【0140】
実施例1〜7及び比較例1〜3の各複合膜の品質評価の結果を表1に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
2015年11月30日に出願された日本国出願番号第2015−233612号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0143】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0144】
10 ロール状回転部材
12 多孔質層
14 シャフト
16a 貫通孔
16b 貫通孔
21、22 ダイコーター
41、42 グラビアコーター
51、52 支持ロール
71 多孔質基材
【要約】
多孔質基材と、多孔質基材の片面又は両面に、樹脂及び溶媒を含む塗工液を塗工して形成された多孔質層と、を備えた複合膜を製造する方法であって、(1)塗工液の溶媒と相溶する液体を、多孔質基材の片面又は両面に塗布する工程であって、多孔質構造を有する外周層を備えたロール状回転部材を用いて、ロール状回転部材の内部から外周面にしみ出る液体を多孔質基材に塗布する工程と、(2)塗工液を、液体が塗布された多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工液層を形成する工程と、(3)塗工液層に含まれる樹脂を凝固させて、多孔質基材の片面又は両面に樹脂を含有する多孔質層を備えた複合膜を得る工程と、(4)複合膜から溶媒及び液体を除去する工程と、を有する複合膜の製造方法。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B