(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のアンダーカットドリル装置では、切刃を有するアームをコーン部の外周面でガイドする構造となっているため、コーン部を筒体で支持せざるを得ず、構造が極めて複雑になる問題があった。また、シャフトの外側にアーム、コーン部および筒体を配置する構造となるため、全体が太径となり、比較的細径の下穴に使用することができない問題があった。
【0005】
本発明は、単純な構造で、細径の下穴にも対応可能な拡径用ドリルビットを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の拡径用ドリルビットは、躯体に穿孔した下穴に挿入して用いられ、下穴の一部を研削により拡径するための拡径用ドリルビットであって、下穴に挿入され、シャンク部の先端部に切刃部を設けた複数の個別ビット部を有すると共に、複数の個別ビット部を環状に配置したビット部と、基端側で動力源側の回転軸に着脱自在に装着され、先端側で複数の個別ビット部の先端側が径方向外側に拡開可能となるように、ビット部を基部において同軸上に保持するホルダーシャフト部と、同軸上において基端側がホルダーシャフト部にスライド自在に保持されると共に、先端側が複数の個別ビット部の内側に係合し、ホルダーシャフト部に対する相対的な
後退に伴って、複数の個別ビット部を径方向外側に拡開させる作動ロッド部と、を備
え、複数の前記個別ビット部は、全体が断面円状の輪郭を為すようにそれぞれ円弧状断面に形成され、且つホルダーシャフト部に保持される係合基部が幅狭であって外側の円弧状段部を存して厚肉に形成され、ホルダーシャフト部は、各係合基部に外側から接触するアウターホルダおよび内側から接触するインナーホルダを有し、アウターホルダの内周面には、各円弧状段部が抜止め状態に掛け止めされる環状掛止め部が形成され、インナーホルダの外周面には、環状掛止め部に対峙し、各個別ビット部の拡開中心となる環状突起部が形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、ビット部を下穴に挿入した状態で、動力源を回転駆動させると、ホルダーシャフト部およびビット部が一体回転する。この状態で、ホルダーシャフト部に対し作動ロッド部を相対的に後退させると、作動ロッド部が、複数の個別ビット部を径方向外側に拡開させる。すなわち、作動ロッド部を相対的に後退させると、回転する複数の個別ビット部が径方向外側に拡開して、各個別ビット部の切刃部が下穴の一部を研削し拡径させる。この場合、複数の個別ビット部は基部でホルダーシャフト部に保持され、先端側が複数の個別ビット部の内側に係合する作動ロッド部により拡開される構成であるため、作動ロッド部を直接ホルダーシャフト部に保持する構造とすることができ、構造を単純化することができる。また、下穴に挿入される複数の個別ビット部(ビット部)と作動ロッド部とは、径方向に集約して配置することができると共に、従来技術のような外筒を必要としない。したがって、細径の下穴にも対応(拡径)させることができる。
また、各個別ビット部は、その円弧状段部がアウターホルダの環状掛止め部に掛け止めされるようにして、抜止め状態を維持する。また、拡開する各個別ビット部は、インナーホルダの環状突起部に接触する部分を中心に回動する。個別ビット部の係合基部は、インナーホルダの環状突起部により浮き上がった状態で保持され、この浮き上がり代が、各個別ビット部の回動のための空間となる。このように、複数の個別ビット部をその基部側を中心に円滑に拡開させることができる。また、各切刃部は円弧状を為すため、拡開が進むに従って、各切刃部の研削部位が円弧状の周面全体から中間部分に移行する。すなわち、研削が進むに従って切刃部の摩擦抵抗が小さくなるため、研削を円滑に進めることができる。
【0007】
この場合、インナーホルダの外周面には、各個別ビット部の拡開に際し、各係合基部の側面をガイドする複数のガイド突起部が形成されていることが好ましい。
この構成によれば、複数のガイド突起部により、拡開(回動)する各個別ビット部を、回転反力(ねじれ)に抗して外側に拡開させることができる。
【0008】
この場合、作動ロッド部の先端部は、ビット部の先端から突出しており、作動ロッド部の先端が下穴の穴底に当接した状態で、回転軸を介してホルダーシャフト部が押し込まれることにより、作動ロッド部のホルダーシャフト部に対する相対的な後退が為されることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、通常の穿孔作業の要領で、回転駆動する動力源を押し込むことで、ホルダーシャフト部に対し作動ロッド部を相対的に後退させることができ、拡径作業を簡単且つ迅速に行うことができる。この場合、ビット部は、前進しながら拡開することで、下穴を拡径することになる。したがって、各個別ビット部における切刃部は、外周面のみならず先端面にも形成されている。なお、複数の個別ビット部が所望の拡開寸法(拡径寸法)となったところで、複数の個別ビット部の先端が下穴の穴底に突き当たるようにすること、或いは作動ロッド部のスライド端がホルダーシャフト部により位置規制されること好ましい。このようにすれば、作業者をして拡径作業の完了を容易に認識することができる。
【0010】
一方、作動ロッド部の先端部に着脱自在に取り付けられ、ビット部の下穴への挿入深さを調整可能な複数の調整アタッチメントを、更に備え、複数の調整アタッチメントは、相互に長さが異なることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、複数の調整アタッチメントにより、ビット部の下穴への挿入深さを段階的に調整することができ、下穴の任意の深さ位置に対し拡径を行うことができる。
【0012】
同様に、ビット部の先端から突出する先端部の、長さが異なる複数の作動ロッド部を備えていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、複数の作動ロッド部により、ビット部の下穴への挿入深さを段階的に調整することができ、下穴の任意の深さ位置に対し拡径を行うことができる。
【0014】
また、作動ロッド部は、複数の個別ビット部の内側に係合する先太りのテーパー部を有し、テーパー部に係合する各個別ビット部の内側は、平面形状に形成されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、作動ロッド部のテーパー部で、複数の個別ビット部を均一に且つ簡単に拡開させることができる。また、テーパー部と各個別ビット部の内側とが点接触となるため、拡開の際の摺動抵抗を軽減することができる。なお、テーパー部は、各個別ビット部の先端部内側に係合することが好ましい。
【0016】
さらに、ビット部の先端部に冷却剤を供給するために、ホルダーシャフト部は、軸心部にシャフト内流路を有し、作動ロッド部は、軸心部にシャフト内流路に連通するロッド内流路を有していることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、ホルダーシャフト部および作動ロッド部を介して、動力源側からビット部(複数の個別ビット部)の先端部(切刃部)に冷却剤を供給することができる。このため、下穴の拡径を円滑に且つ効率良く行うことができる。なお、冷却剤として、冷却液、圧縮エアー、冷却ガス等を用いることが好ましい。
【0022】
そして、作動ロッド部は、複数の個別ビット部の内側に係合する先細りのテーパー部を有し、テーパー部に係合する各個別ビット部の内側は、平面形状に形成されていることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、作動ロッド部のテーパー部で、複数の個別ビット部を均一に且つ簡単に拡開させることができる。また、テーパー部と各個別ビット部の内側とが点接触となるため、拡開の際の摺動抵抗を軽減することができる。なお、テーパー部は、各個別ビット部の先端部内側に係合することが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係る拡径用ドリルビットについて説明する。この拡径用ドリルビットは、主として、アンカーを打ち込むためにコンクリートや石材等の躯体に形成した下穴に対し、その最深部を拡径するものであり、打ち込んだアンカーの引抜き強度を高め得るものである。ダイヤモンドコアドリル等で穿孔したストレート形状の下孔は、微小な軸ブレにより開口部側が広く奥側が狭く穿孔され、実質上、微小なテーパー形状となる。このため、打ち込んだアンカーに、地震等による大きな力が繰り返し加わると、経時的に引抜き強度が低下する。拡径用ドリルビットは、このようなアンカーの経時的な引抜き強度の低下を防止すべく、下穴と同様の作業要領で下穴の一部を拡径するものである。
【0032】
図1は、拡径用ドリルビットを穿孔装置に装着した状態の外観図である。同図に示すように、穿孔装置1は、手持ちの電動ドリル2と、電動ドリル2に装着した冷却液アタッチメント3とを有し、この冷却液アタッチメント3に拡径用ドリルビット10が装着される。すなわち、拡径用ドリルビット10は、動力源を構成する穿孔装置1(電動ドリル2)の冷却液アタッチメント3における回転軸3aに着脱自在に装着して用いられる。
【0033】
この回転軸3aには、冷却液の流路が形成される一方、冷却液アタッチメント3は、図外の冷却液供給装置が接続されており、冷却液は、この冷却液供給装置から冷却液アタッチメント3を介して拡径用ドリルビット10の先端部に供給される。実施形態の穿孔装置1では、冷却液アタッチメント3に穿孔用ドリルビット(例えば、ダイアモンドコアビット)を装着して下穴Hを穿孔した後、穿孔用ドリルビットに代えて拡径用ドリルビット10を装着し、下穴Hの最奥部Ha(穴底部)を拡径するようにしている。
【0034】
図2は、第1実施形態に係る拡径用ドリルビットの構造図である。同図に示すように、拡径用ドリルビット10は、先端部で下穴Hの拡径を行うビット部11と、基端側で穿孔装置1の回転軸3a(冷却液アタッチメント3)に着脱自在に装着され、先端側でビット部11を基部において同軸上に保持するホルダーシャフト部12と、基端側でホルダーシャフト部12の軸心にスライド自在に保持されると共にビット部11に挿通する作動ロッド部13と、を備えている。ビット部11を下穴Hに挿入した状態で、穿孔装置1により拡径用ドリルビット10を回転させながら押し込むことで、作動ロッド部13が相対的に後退しビット部11を拡開させる(
図4参照)。
【0035】
ホルダーシャフト部12は、穿孔装置1(冷却液アタッチメント3)に着脱自在に装着されるシャフト本体21と、同軸上においてシャフト本体21の先端から延びるホルダ取付部22と、同軸上においてホルダ取付部22の先端から延びるインナーホルダ23と、インナーホルダ23を囲繞した状態でホルダ取付部22に取り付けられたアウターホルダ24と、を有している。そして、インナーホルダ23とアウターホルダ24との間隙には、上記のビット部11がその基部において保持されている。
【0036】
シャフト本体21は、その小口に窪入形成した雌ねじ部31を有し、この雌ねじ部31が、冷却液アタッチメント3の回転軸3aの雄ねじ部(
図1参照)に螺合される。図示しないが、シャフト本体21にはスパナ用の工具掛け部が形成されており、ホルダーシャフト部12は、雌ねじ部31の部分で冷却液アタッチメント3、すなわち穿孔装置1に着脱自在に装着される。
【0037】
シャフト本体21、ホルダ取付部22およびインナーホルダ23は、一体に形成されており、これらの軸心部には、作動ロッド部13をスライド自在に保持するスライド孔32が形成されている。スライド孔32には、コイルばね34が設けられており、後退位置にスライドした作動ロッド部13を前進位置(ホーム位置)に戻し得るようになっている。
【0038】
また、スライド孔32は、シャフト本体21等の軸心部にあって、冷却液アタッチメント3に連通する冷却液用のシャフト内流路35を兼ねている。このため、スライド孔32は、基端側において上記の雌ねじ部31と連通し、先端側において作動ロッド部13と連通している(詳細は後述する)。ホルダーシャフト部12を冷却液アタッチメント3の回転軸3aに装着すると、このシャフト内流路35と冷却液アタッチメント3とが連通し、冷却液アタッチメント3からの冷却液の通液が可能となる。なお、作動ロッド部13の基部にはOリング36が設けられており、シャフト内流路35の液密性が担保されると共に、作動ロッド部13の無用な脱落が防止される。
【0039】
ホルダ取付部22は、シャフト本体21より細径に形成され、且つシャフト本体21の先端からに先方に延在するように形成されている。ホルダ取付部22の外周面には雄ねじが形成され、この部分にアウターホルダ24が螺合している。
【0040】
図2および
図3に示すように、インナーホルダ23は、ホルダ取付部22より細径に形成され、且つホルダ取付部22から先方に延在するように形成されている。また、インナーホルダ23は、円筒状のインナー本体41と、インナー本体41の先端部外周面に突設した断面楔状の環状突起部42と、インナー本体41の外周面に突設した4つのガイド突起部43と、を有している。各ガイド突起部43は、軸方向に長い長円形に形成されており、4つのガイド突起部43は、周方向に均等に配置されている。詳細は後述するが、個別ビット部51の係合基部57は、その内面が環状突起部42に接触し、且つ隣接する2つのガイド突起部43に挟まれるように配設されている。
【0041】
アウターホルダ24は、円筒状のアウター本体45と、アウター本体45の先端部内周面に突設した環状掛止め部46と、を有している。アウター本体45の基部側内周面には、雌ねじが形成されており、アウターホルダ24は、この部分でホルダ取付部22に着脱自在に螺合している。なお、図示しないが、アウター本体45の外周面には、アウターホルダ24を螺合するための工具掛け部が形成されている。
【0042】
環状掛止め部46は、断面楔状に形成されており、アウター本体45の先端部において内側に突出している。詳細は後述するが、個別ビット部51の係合基部57に連なる円弧状段部58が、この環状掛止め部46に係合し、各個別ビット部51(ビット部11)の抜け止めが為されるようになっている。そして、ホルダ取付部22に装着したアウターホルダ24の環状掛止め部46は、インナーホルダ23の環状突起部42に対峙するように、軸方向において近傍に配設されている。
【0043】
図2および
図3に示すように、ビット部11は、複数(図示のものは、4つ)の個別ビット部51を環状に配置して構成されている。具体的には、ビット部11は、円筒状のシャンクの先端部に円筒状の切刃を設けたビットを、周方向に4分割した形態を有している。各個別ビット部51は、ホルダーシャフト部12に保持される1/4円弧断面のシャンク部52と、シャンク部52の先端部に設けた(溶着した)1/4円弧断面の切刃部53と、を有している(
図3(b)参照)。すなわち、複数の個別ビット部51は、全体が断面円状の輪郭を為すようにそれぞれ円弧状断面に形成されている。
【0044】
図3に示すように、各シャンク部52は、軸方向に長く延在するシャンク部本体55と、シャンク部本体55の先端部内側に設けた係合突起56と、シャンク部本体55の基端側に連なる係合基部57とで構成されている。係合突起56は、扇状に形成され、その先端面56aは平坦面(平面形状)に形成されている。そして、係合突起56の先端面56aに、後述する作動ロッド部13のテーパー部62が係合するようになっている。なお、係合突起56の先端面56aは、テーパー部62の角度に倣った傾斜面とすることが好ましい。また、係合突起56は、各シャンク部52の中間部等に設ける構成であってもよい。
【0045】
係合基部57は、ホルダーシャフト部12に保持される部位であり、シャンク部本体55に対し幅狭に形成されている。これにより、4つの係合基部57が、アウターホルダ24に挿入可能となっている。また、係合基部57は、シャンク部本体55に対し、外側に形成した円弧状段部58を存して厚肉に形成されている。この場合、複数の個別ビット部51が閉じた状態(非拡開状態)で、各シャンク部52の係合基部57がアウターホルダ24(アウター本体45)の内周面に接触し、拡開状態および非拡開状態を問わず、円弧状段部58がアウターホルダ24の環状掛止め部46に掛け止めされている。
【0046】
一方、各係合基部57は、先端側内周面(ほぼ円弧状段部58の位置)において、インナーホルダ23の環状突起部42に接触すると共に、両側面がインナーホルダ23の2つのガイド突起部43に挟まれるように接触している。なお、係合基部57は、幅狭に形成したシャンク部本体55の基部に、円弧状段部58を構成する円弧状の部材を重ね、溶着して構成してもよい。
【0047】
非拡開状態の複数の個別ビット部51は、各シャンク部52において、アウターホルダ24に抜止め状態で掛け止めされ、且つインナーホルダ23の先端部に接触している。また、インナー本体41と係合基部57との間には、環状突起部42の突出寸法分の間隙が生じている。この状態から拡開状態に移行すると、各シャンク部52は、環状突起部42を中心に且つガイド突起部43にガイドされて回動する。これにより、アウター本体45に接触していた係合基部57の基端側がインナー本体41側に移動し、シャンク部52(各個別ビット部51)の回動が許容される。
【0048】
各切刃部53は、断面円弧状のダイヤモンドの切刃で構成されており、研削用のダイヤモンドは外周面および先端面に設けられている。これにより、下穴Hの最奥部Ha内周面が切刃部53の前進に伴って研削され、所定の寸法に拡径される。なお、実施形態における下穴Hの拡径は、アンカーの抜け止めを目的とするものであるため、拡径寸法は微小であってもよい。したがって、切刃部53の移動を0.1〜2mm程度とすることが好ましい。
【0049】
また、各切刃部53は円弧状を為すため、拡開が進むに従って、その研削部位が円弧状の周面全体から中間部分に移行する(
図4参照)。すなわち、研削が進むに従って切刃部53の摩擦抵抗が小さくなるため、研削を円滑に進めることができる。また、研削初期における研削抵抗を小さくすべく、切刃部53の周方向の先端側(回転方向の先端側)は、面取り形状とすることが好ましい。なお、周方向において、4つの切刃部53が相互に接触している状態(初期状態)のこの部分の径は、下穴Hの径より0.5〜1.0mm程度細径に形成されており、ビット部11の下穴Hへの挿入が円滑に行えるようになっている。
【0050】
作動ロッド部13は、基部側でホルダーシャフト部12にスライド自在に保持された軸部61と、軸部61に連なると共に複数の個別ビット部51の拡開時に上記の係合突起56に係合する先太りのテーパー部62と、テーパー部62に連なると共に下穴Hの孔底に突き立てられるニードル部63と、で一体に形成されている。複数の個別ビット部51(切刃部53)が閉じている初期状態では、作動ロッド部13はホーム位置に有り、ニードル部63は、切刃部53から外部に突出している。
【0051】
また、作動ロッド部13の軸心部には、冷却液用の上記のシャフト内流路25に連通するロッド内流路64が形成されている。そして、ロッド内流路64の流路端は、テーパー部62の先端部に形成した横断貫通孔65により外部に開放されている。複数の個別ビット部51(切刃部53)が閉じている初期状態では、作動ロッド部13の軸部61先端が係合突起56に係合しており、上記のコイルばね34に抗して作動ロッド部13が後退してゆくと、テーパー部62が係合突起56に係合し、4つの個別ビット部51は外側に拡開する。なお、冷却液に代えて、圧縮エアーや冷却ガスを用いることも可能である(詳細は、後述する)。
【0052】
次に、
図1および
図4を参照して、拡径用ドリルビット10による下穴Hの拡径作業について説明する。この拡径作業では、予め対象となるコンクリート躯体A等に下穴Hが形成されているものとする。なお、この場合のコンクリート躯体Aには、コンクリート製の外壁、内壁、スラブの他、基礎や梁等が含まれる。下穴Hは、例えば上記の穿孔装置1にダイアモンドコアビットを装着した穿孔作業により形成される。
【0053】
拡径作業では、先ず穿孔装置1に拡径用ドリルビット10を装着し、そのビット部11を下穴Hに挿入する(
図4(a)参照)。作動ロッド部13(ニードル部63)を下穴Hの穴底に突き当てるように挿入したら、電動ドリル2を駆動して拡径用ドリルビット10を回転させる。また同時に或いは相前後して、シャフト内流路23およびロッド内流路64を介して、切刃部53に冷却液を供給する。ここで、穿孔時と同様に、回転を継続しつつ、ハンドリングした電動ドリル2を押し込むようにする。
【0054】
電動ドリル2が押し込まれると、ホルダーシャフト部12のスライド孔32と作動ロッド部13との相互のスライド係合により、穴底に突き当った作動ロッド部13に対し、ホルダーシャフト部12およびビット部11が前進する。すなわち、コイルばね34に抗して、ビット部11に対し作動ロッド部13が相対的に後退する。作動ロッド部13が相対的に後退してゆくと、作動ロッド部13のテーパー部62が個別ビット部51の係合突起56に係合し、4つの個別ビット部51を外側に拡開してゆく。これにより、回転する各個別ビット部51の切刃部53が、前進しながら下穴Hの内面を研削し、下穴Hの最奥部Haが拡径されてゆく(
図4(b)参照)。最奥部Haが所定の寸法に拡径されると、作動ロッド部13の基端がスライド孔32の穴端(実際には、圧縮したコイルばね34)に相対的に突き当たり、拡径が完了したことが認識される。
【0055】
ここで作業者は、電動ドリル2を停止させ、下穴Hからビット部11を引き抜く動作に移行する。初期の引抜き動作では、コイルばね34により作動ロッド部13を残して、ビット部11およびホルダーシャフト部12が引き抜かれてゆく。すなわち、ビット部11に対し作動ロッド部13が相対的に前進してゆく。作動ロッド部13が相対的に前進すると、作動ロッド部13のテーパー部62が係合突起56から外れ、4つの個別ビット部51は、引き抜かれながら閉じるように初期状態に戻る。ここで、コイルばね34が伸び切り、ビット部11と共に作動ロッド部13も引き抜かれる。
【0056】
このように、第1本実施形態では、ビット部11を下穴Hに挿入して回転させながら、電動ドリル2を押し込むだけで、下穴Hの最奥部Haを簡単且つ短時間で拡径することができる。また、複数の個別ビット部51をその内側に配設した作動ロッド部13により拡開される構成であるため、装置構成を単純化することができる。さらに、複数の個別ビット部51と作動ロッド部13とは、径方向に集約して配置することができるため、細径の下穴Hに対しても適切な拡径を行うことができる。
【0057】
図5は、第1実施形態の変形例に係るビット部11Aを表している。同図に示すように、このビット部11Aでは、4つの個別ビット部51が、相互のシャンク部52において噛み合うように構成されている。すなわち、各シャンク部52の両側面52aが凹凸形状に形成され、隣接するシャンク部52同士が側面52aにおいて相互に噛み合っている。
このような構成では、シャンク部52同士が噛み合うことにより、回転する4つの個別ビット部51に生ずる捻り変形が抑制され、回転に対するビット部11Aの強度アップを図ることができる。
【0058】
次に、
図6を参照して、第2実施形態に係る拡径用ドリルビット10Aにつき、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。この拡径用ドリルビット10Aは、下穴Hの最奥部Haを拡径する第1実施形態の拡径用ドリルビット10と異なり、下穴Hの任意の深さ位置を拡径することを意図している。このため、第2実施形態の拡径用ドリルビット10Aでは、作動ロッド部13のニードル部63が付け替え可能に構成され、且つ長さの異なる複数のニードル部63が用意されている。
【0059】
作動ロッド部13におけるテーパー部62の先端部には、雄ねじが形成され、各ニードル部63の基端部には、雌ねじが形成されている。すなわち、長さの異なる複数のニードル部63は、テーパー部62の先端部に螺合することのより、付け替え可能に構成されている。
これにより、下穴Hの穴底にニードル部63が突き当たった状態で、下穴H内のおける切刃部53の位置が区々となり、下穴Hの任意の深さ位置に拡径部を形成することができる。なお、テーパー部62側を雌ねじとし、ニードル部63側を雄ねじとしてもよい。
【0060】
図7は、第2実施形態の変形例に係る拡径用ドリルビット10Bであり、この拡径用ドリルビット10Bでは、長さの異なる複数の作動ロッド13が用意されている。複数の作動ロッド13は、その軸部61およびテーパー部62が同一の寸法に形成され、ニードル部63の長さが異なる形態を有している。
このような構成でも、下穴Hの穴底にニードル部63が突き当たった状態で、下穴H内のおける切刃部53の位置が区々となり、下穴Hの任意の深さ位置に拡径部を形成することができる。
【0061】
次に、
図8を参照して、第3実施形態に係る拡径用ドリルビット10Cにつき、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。この拡径用ドリルビット10Cでは、作動ロッド部13Aに先細りのテーパー部73が形成されると共に、作動ロッド部13Aが、スライド孔32に導入した冷却液により前進するようになっている。
【0062】
この場合、作動ロッド部13Aは、基端側のピストン部71と、ピストン部71の先端から延びる軸部72と、軸部72に連なると共に複数の個別ビット部51の拡開時に上記の係合突起56に係合する先細りのテーパー部73と、テーパー部73に連なると共に係合突起56に初期状態で係合する初期係合部74と、で一体に形成されている。
【0063】
一方、スライド孔32は、シャフト本体21の部分に設けられ、ピストン部71をスライド自在に保持する太径スライド孔32aと、ホルダ取付部22およびインナーホルダ23の部分に設けられ、軸部72をスライド自在に保持する細径スライド孔32bとで構成されている。そして、太径スライド孔32aは、雌ねじ部31側に装着した押えリング81との間にシリンダ室を構成している。また、太径スライド孔32aと細径スライド孔32bとの間の段部と、ピストン部71との間には、軸部72に巻回するように戻しばね82が介設されている。
【0064】
電動ドリル2を駆動して拡径用ドリルビット10Cを回転させると共に、冷却液アタッチメント3からシャフト内流路35を兼ねるスライド孔32(太径スライド孔32a)に冷却液を供給すると、冷却液の液圧により作動ロッド部13Aが前進する。すなわち、太径スライド孔32a(シャフト内流路35)の断面積と、ロッド内流路64の断面積との差により、ピストン部71が液圧を受けて前進してゆく。作動ロッド部13Aが前進してゆくと、初期係合部74に続きテーパー部73が係合突起56に係合し、4つの個別ビット部51は外側に拡開する。一方、この状態から冷却液の供給を停止すると、作動ロッド部13Aは、戻しばね82により後退し元の位置に戻る。
【0065】
このように、本実施形態では、ビット部11を下穴Hに挿入して回転させながら、冷却液を導入するだけで、4つの個別ビット部51は外側に拡開し、下穴Hの最奥部Haを簡単且つ短時間で拡径することができる。なお、冷却液に代えて、圧縮エアーや冷却ガスを導入するようにしてもよい(詳細は、後述する)。
【0066】
図9は、第3実施形態の変形例に係る拡径用ドリルビット10Dであり、この拡径用ドリルビット10Dは、ビット部11の下穴Hへの挿入深さを調整可能な調整アタッチメント90を、更に備えている。
調整アタッチメント90は、ホルダーシャフト部12に螺合する円筒状のアタッチメント本体91と、アタッチメント本体91に隣接してホルダーシャフト部12に螺合する止めねじ部92と、アタッチメント本体91の先端部に設けた円環状の回転受容部93と、を有している。
【0067】
シャフト本体21の外周面には、雄ねじが形成されており、これに対応してアタッチメント本体91の内周面および止めねじ部92の内周面には、雌ねじが形成されている。シャフト本体21に対し、止めねじ部92を深く螺合した後、アタッチメント本体91を螺合してビット部11の下穴Hへの挿入深さを調整する。調整が完了したら、アタッチメント本体91が緩まないように、止めねじ部92を戻してアタッチメント本体91に接するように締め付ける。なお、シャフト本体21の外周面には、挿入深さを指標する目盛を形成しておくことが好ましい。
【0068】
回転受容部93は、例えばスラスト軸受で構成されており、下穴Hの開口縁部に当接するようになっている。アタッチメント本体91および止めねじ部92は、シャフト本体21と共に回転するが、回転受容部93によりこの回転を縁切りし、下穴Hの開口縁部に回転動力が伝達しないように構成されている。
【0069】
このような構成では、アタッチメント本体91のねじ込み深さにより、ビット部11の下穴Hへの挿入深さを調整することができる。すなわち、下穴Hの任意の深さ位置に拡径部分を形成することができる。
【0070】
次に、
図10を参照して、第4実施形態に係る拡径用ドリルビット10Eにつき、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。同図に示すように、この拡径用ドリルビット10Eでは、そのビット部11Bが、円筒状のシャンクの先端部に円筒状の切刃を設けたビットを、軸方向の複数の切込みにより、基部を残して周方向に複数分割した形態を有している。すなわち、ビット部11Bは、円筒状基部101と、円筒状基部101から延び、割りスリット102を存して環状に配置した4つのシャンク部52と、シャンク部52の先端部に形成した4つの切刃部53と、を有している。また、円筒状基部101の外側には、ビット部11Bをホルダーシャフト部12に取り付けるための雄ねじ部材103が溶着されている。さらに、各シャンク部52は、拡開可能となるようにばね性を有している。
【0071】
一方、この場合のホルダーシャフト部12は、インナーホルダ23およびアウターホルダ24が無く、シャフト本体21と、これに連なると共に内周面に雌ねじを形成したビット取付部105と、を有している。そして、ビット部11Bは、その基部に設けた雄ねじ部材103により、ホルダーシャフト部12のビット取付部105に着脱自在に螺合されるようになっている。
【0072】
このような構成では、作動ロッド部13の前進に伴い、各シャンク部52が撓んで4つの個別ビット部51が拡開される。この状態から逆に、作動ロッド部13の後退に伴い、4つの個別ビット部51が自身のばね性により閉じる。この場合には、円筒状基部101により、複数の個別ビット部51の一体性が維持され、複数の個別ビット部51を円滑に開閉させることができる。もっとも、シャンク部52を別体とし、雄ねじ部材103によりこれを一体化するようにしてもよい。
【0073】
なお、本実施形態では、個別ビット部51の個数を4つとしたが、2つ、3つ、5つ等であってもよい。また、各シャンク部52を円弧状断面としたが、矩形断面等であってもよい。さらに、冷却液に代えて、圧縮エアーや冷却ガスを用いる場合には、冷却液アタッチメント3に冷却液供給装置に代えて圧縮エアー供給装置(コンプレッサー等)を接続するか、或いは冷却液アタッチメント3に代えて、液化ガス等のガスボンベを搭載可能な冷却ガスアタッチメントを用いるようにする。