特許第6126444号(P6126444)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6126444熱源システムの運転計画決定方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126444
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】熱源システムの運転計画決定方法および装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/02 20060101AFI20170424BHJP
【FI】
   F24F11/02 Z
   F24F11/02 102L
   F24F11/02 102B
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-90132(P2013-90132)
(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公開番号】特開2014-214900(P2014-214900A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】西口 純也
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】中山 弘隆
(72)【発明者】
【氏名】北山 哲士
(72)【発明者】
【氏名】荒川 雅生
(72)【発明者】
【氏名】尹 禮分
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−317049(JP,A)
【文献】 特開平7−225038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷温熱を生成する熱源機器と、前記熱源機器によって生成された冷温熱を蓄える蓄熱機器とを備え、冷温熱を需要する需要家に前記熱源機器および前記蓄熱機器から冷温熱を供給する熱源システムの運転計画の決定方法において、
将来の所定の期間における前記需要家での所定時間毎の冷温熱の需要量の上限値を熱負荷需要上限値として予測する熱負荷需要上限値予測ステップと、
前記所定時間毎の熱負荷需要上限値に満たない範囲内で想定される前記所定の期間における前記需要家での冷温熱の需要量を事前計画分熱量とし、前記熱源システムの運転計画によってこの事前計画分熱量を生成するためのコストを事前計画分コストして表す第1の目的関数を生成する第1の目的関数生成ステップと、
前記運転計画に基づいて前記熱源システムを運転することによって前記需要家に供給できる前記所定の期間における冷温熱の前記所定時間毎の熱負荷需要上限値に対する不足分を事後補正分熱量とし、この事後補正分熱量を供給するために前記熱源機器をリアルタイムに運転するためのコストを事後補正分コストとして表す第2の目的関数を生成する第2の目的関数生成ステップと、
前記熱源機器の機器特性、前記蓄熱機器の機器特性、前記熱源システムと前記需要家との間の熱需給バランスを含む制約条件と、前記事前計画分コストと前記事後補正分コストとのトレードオフとを考慮して、前記第1の目的関数と前記第2の目的関数から前記熱源システムの運転計画を決定する運転計画決定ステップと
を備えることを特徴とする熱源システムの運転計画決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載された熱源システムの運転計画決定方法において、
前記運転計画決定ステップは、
前記事前計画分コストと前記事後補正分コストとのトレードオフ比が等しくなる運転計画のうち前記事前計画分コストを最小とする運転計画を前記熱源システムの運転計画として決定する
ことを特徴とする熱源システムの運転計画決定方法。
【請求項3】
冷温熱を生成する熱源機器と、前記熱源機器によって生成された冷温熱を蓄える蓄熱機器とを備え、冷温熱を需要する需要家に前記熱源機器および前記蓄熱機器から冷温熱を供給する熱源システムの運転計画の決定装置において、
将来の所定の期間における前記需要家での所定時間毎の冷温熱の需要量の上限値を熱負荷需要上限値として予測する熱負荷需要上限値予測手段と、
前記所定時間毎の熱負荷需要上限値に満たない範囲内で想定される前記所定の期間における前記需要家での冷温熱の需要量を事前計画分熱量とし、前記熱源システムの運転計画によってこの事前計画分熱量を生成するためのコストを事前計画分コストして表す第1の目的関数を生成する第1の目的関数生成手段と、
前記運転計画に基づいて前記熱源システムを運転することによって前記需要家に供給できる前記所定の期間における冷温熱の前記所定時間毎の熱負荷需要上限値に対する不足分を事後補正分熱量とし、この事後補正分熱量を供給するために前記熱源機器をリアルタイムに運転するためのコストを事後補正分コストとして表す第2の目的関数を生成する第2の目的関数生成手段と、
前記熱源機器の機器特性、前記蓄熱機器の機器特性、前記熱源システムと前記需要家との間の熱需給バランスを含む制約条件と、前記事前計画分コストと前記事後補正分コストとのトレードオフとを考慮して、前記第1の目的関数と前記第2の目的関数から前記熱源システムの運転計画を決定する運転計画決定手段と
を備えることを特徴とする熱源システムの運転計画決定装置。
【請求項4】
請求項3に記載された熱源システムの運転計画決定装置において、
前記運転計画決定手段は、
前記事前計画分コストと前記事後補正分コストとのトレードオフ比が等しくなる運転計画のうち前記事前計画分コストを最小とする運転計画を前記熱源システムの運転計画として決定する
ことを特徴とする熱源システムの運転計画決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷温熱を需要する需要家に熱源機器および蓄熱機器から冷温熱を供給する熱源システムの運転計画決定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷温熱を生成する熱源機器と、熱源機器によって生成された冷温熱を蓄える蓄熱機器とを備えた熱源システムでは、エネルギーコストが安い夜間の時間帯に蓄熱機器に冷温熱を蓄熱し、この蓄熱機器に蓄熱されている冷温熱をエネルギーコストが高い昼間の時間帯に需要家に供給する。また、昼間、蓄熱機器に蓄熱されている冷温熱では賄えない冷温熱は、熱源機器をリアルタイムに運転して需要家に供給する。
【0003】
このような熱源システムでは、使用するエネルギーコストを最小とするために、需要家における翌日の熱負荷を予測し、この予測された熱負荷(熱負荷需要予測値)に基づいて、熱源システムの運転計画を立てるようにしている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0004】
例えば、熱源システムとして、冷凍機やボイラのような熱源機器、蓄熱槽や貯湯槽のような蓄熱機器が備わっている一般的な建物の空調熱源システムを考える。この熱源システムでは、電力やガスなどのエネルギーはエネルギー供給会社から購入し、熱源機器で熱に変換された後、空調用途の需要を満たすために消費される。
【0005】
このような熱源システムにおいて、時間帯ごとに異なる電力単価を仮定すると、熱源システムの運転に必要な運転コストの最適値は、時刻t=1,2,…, Tまでの多期間での運転計画問題により求められる。
【0006】
〔熱源機器特性〕
熱源機器iに関する特性は次式で表せる。
【0007】
【数1】
【0008】
〔蓄熱機器特性〕
蓄熱機器j周りのエネルギーバランスは、自己放熱量が残蓄熱量に比例すると仮定すると、次式で表せる。
【0009】
【数2】
【0010】
〔熱需給バランス〕
熱源システム全体で生成する熱量と空調で消費される熱負荷需要はつりあう必要があるため、次式が成立する。
【0011】
【数3】
【0012】
〔目的関数〕
目的関数は時刻t=1,2,…,Tでの熱源システムの総運転コストの最小化として次式で表せる。
【0013】
【数4】
【0014】
この熱源システムの運転計画問題は整数変数を含み、制約条件式((1),(2),(3),(4),(5)式)と目的関数((6)式)が全て線形で表せるため、混合整数計画法として整理することができ、汎用の数理計画法パッケージで容易に解を求めることができる。
【0015】
しかしながら、この熱負荷需要予測値を用いた熱源システムの運転計画法では、居住者の不規則な活動や気象の急激な変動により実際の熱負荷需要が予測値から大きく外れると、著しく運転コストが悪化することがある。
【0016】
例えば、安価な夜間電力による蓄熱量に十分な余裕がない場合に、熱負荷需要が増加すると、電力単価の高い昼間に熱源機器を計画以上に運転させる必要がでてきて、電力料金が大幅に増加してしまう。
【0017】
これに対して、熱源システムの運転計画モデルに対し熱負荷需要予測の不確実性を考慮するには、次のような2つの代表的な手法がある。
【0018】
〔(1)ワーストケース最適化法〕
従来から現場で経験的に実施されている方法で、熱負荷需要予測に対してワーストケースを仮定することで余裕を持たせる方法であり、ワーストケース最適化法と呼ばれる。このワーストケース最適化法において、定式化は、熱源システムと需要家との間の熱需給バランスの式((5)式)での熱負荷需要予測値を、下記(7)式で示されるように、想定されるワーストケースである最悪値(上限値)に変更すればよい。
【0019】
【数5】
【0020】
〔(2)確率計画方法〕
本質的に不確実性を持つ熱負荷需要予測を扱うには、確率変数をパラメータとする最適化問題である確率計画法が適しており、償還(リコース)コストを考慮した方法が代表的である(例えば、非特許文献3,4参照)。
【0021】
この方法では、熱源システムと需要家との間の熱需給バランスの式((5)式)において、下記(8)式に示すように、熱負荷需要予測値とともに不足分熱量を確率変数として考える。
【0022】
【数6】
【0023】
この不足分熱量を用いた償還コストの期待値が、下記(9)式に示すように、目的関数の第2項に追加される。
【0024】
【数7】
【0025】
その結果、目的関数の第1項は想定される熱量を運転計画により生成するための運転コストで、第2項は実際に必要な熱量に対する不足分熱量を補償するためのコストとみなすことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】植木和夫ら: 原動力設備の運用最適化パッケージの開発, azbil Technical Review, 2009-12, pp.20-27, 2009.
【非特許文献2】横山良平, 伊東弘一: 蓄熱槽を有するコージェネレーション・システムの最適運用計画法, 機械学会論文集C, Vol.59, No.562, pp.1817-1823, 1993.
【非特許文献3】田中洋一、福島雅夫: 確率計画法によるコージェネレーションシステムの運用最適化, 電気学会論文集B, Vol.129, No.6, pp.765-775, 2009.
【非特許文献4】高須啓介, 田中洋一, 福島雅夫: 相補性制約をもつ非線形2次錘計画問題に対する平滑化法とスマートハウス運転計画問題への適用, システム制御情報学会論文誌, Vol.26, No.1, pp.34-44, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
上述したワーストケース最適化法では、熱源システムと需要家との間の熱需給バランスの式((5)式)をそのまま利用することができるため、混合整数計画問題として容易に解くことができる。また、実際に熱負荷需要上限値が得られた場合には、運転コストは最小になる。しかしながら、この方法では、過剰なマージンを確保することで、常に余分な熱量を生成しておくような保守的な解が得られ、熱源機器の運転コストが大幅に悪化する虞がある、という問題がある。
【0028】
上述した確率計画法では、確率分布が既知である場合には、厳密な解が得られるというメリットがある。しかし、実際には多期間にわたる熱負荷需要の確率変数に対し多変量の確率分布を同定するには、確率モデルの簡略化をしてもなお膨大な過去データを必要とし、煩雑な計算を必要とする、という問題がある。また、確率変数の期待値は通常非線形で表されるため、大域的最適化が困難になる。
【0029】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、確率分布の推定や煩雑な計算を必要とすることなく、ワーストケースでの運転コストの大幅な悪化を抑えることが可能な熱源システムの運転計画方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
このような目的を達成するために本発明は、冷温熱を生成する熱源機器と、熱源機器によって生成された冷温熱を蓄える蓄熱機器とを備え、冷温熱を需要する需要家に熱源機器および蓄熱機器から冷温熱を供給する熱源システムの運転計画の決定方法において、将来の所定の期間における需要家での所定時間毎の冷温熱の需要量の上限値を熱負荷需要上限値として予測する熱負荷需要上限値予測ステップと、所定時間毎の熱負荷需要上限値に満たない範囲内で想定される所定の期間における需要家での冷温熱の需要量を事前計画分熱量とし、熱源システムの運転計画によってこの事前計画分熱量を生成するためのコストを事前計画分コストして表す第1の目的関数を生成する第1の目的関数生成ステップと、運転計画に基づいて熱源システムを運転することによって需要家に供給できる所定の期間における冷温熱の所定時間毎の熱負荷需要上限値に対する不足分を事後補正分熱量とし、この事後補正分熱量を供給するために熱源機器をリアルタイムに運転するためのコストを事後補正分コストとして表す第2の目的関数を生成する第2の目的関数生成ステップと、熱源機器の機器特性、蓄熱機器の機器特性、熱源システムと需要家との間の熱需給バランスを含む制約条件と、事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフとを考慮して、第1の目的関数と第2の目的関数から熱源システムの運転計画を決定する運転計画決定ステップとを備えることを特徴とする。
【0031】
この発明によれば、例えば、将来の所定の期間を翌日とした場合、翌日の需要家での所定時間毎の冷温熱の需要量の上限値が熱負荷需要上限値として予測され、この予測された所定時間毎の熱負荷需要上限値に満たない範囲内で想定される翌日の需要家での冷温熱の需要量が事前計画分熱量とされ、熱源システムの運転計画によってこの事前計画分熱量を生成するためのコストを事前計画分コストとして表す第1の目的関数が生成される。また、運転計画に基づいて熱源システムを運転することによって需要家に供給できる翌日の冷温熱の所定時間毎の熱負荷需要上限値に対する不足分が事後補正分熱量とされ、この事後補正分熱量を供給するために熱源機器をリアルタイムに運転するためのコストを事後補正分コストとして表す第2の目的関数が生成される。そして、熱源機器の機器特性、蓄熱機器の機器特性、熱源システムと需要家との間の熱需給バランスを含む制約条件と、事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフとを考慮して、第1の目的関数と第2の目的関数から熱源システムの運転計画が決定される。
【0032】
本発明では、熱源機器の機器特性、蓄熱機器の機器特性、熱源システムと需要家との間の熱需給バランスを含む制約条件と、事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフとを考慮して、第1の目的関数と第2の目的関数から熱源システムの運転計画を決定するが、事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフ比が等しくなる運転計画のうち、事前計画分コストを最小とする運転計画を熱源システムの運転計画として決定するようにすることが望ましい。
【0033】
本発明では、ワーストケースである熱負荷需要上限値を事前計画分熱量と事後補正分熱量とに分解し、事前計画分熱量の生成に必要な運転コストを事前計画分コストとし、事後補正分熱量の生成に必要な運転コストを事後補正分コストとし、この事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフを考慮する。事前計画分熱量を増やせば、熱負荷需要実績値が多くても運転コストは急増しないものの、使いきれない無駄な熱量が多くなる可能性もある。一方、事後補正分熱量を増やせば、熱負荷需要実績値が少ない場合には運転コストが抑えられるが、熱負荷需要実績値が多いと運転コストが大幅に増加する。
【0034】
そこで、本発明では、事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフを考慮することにより、熱負荷需要予測の不確実性を定量化し、この定量化した熱負荷需要予測の不確実性に応じてリスク度合いを調整できるようにして、熱源システムの運転計画を決定する。この場合、事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフ比が等しくなる運転計画のうち、事前計画分コストを最小とする運転計画を熱源システムの運転計画として決定するようにすると、最適な解(ロバスト解)が得られるものとなる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、将来の所定の期間における需要家での所定時間毎の冷温熱の需要量の上限値を熱負荷需要上限値として予測し、所定時間毎の熱負荷需要上限値に満たない範囲内で想定される所定の期間における需要家での冷温熱の需要量を事前計画分熱量とし、熱源システムの運転計画によってこの事前計画分熱量を生成するためのコストを事前計画分コストとして表す第1の目的関数を生成し、運転計画に基づいて熱源システムを運転することによって需要家に供給できる所定の期間における冷温熱の所定時間毎の熱負荷需要上限値に対する不足分を事後補正分熱量とし、この事後補正分熱量を供給するために熱源機器をリアルタイムに運転するためのコストを事後補正分コストとして表す第2の目的関数を生成し、熱源機器の機器特性、蓄熱機器の機器特性、熱源システムと前記需要家との間の熱需給バランスを含む制約条件と、事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフとを考慮して、第1の目的関数と第2の目的関数から熱源システムの運転計画を決定するようにしたので、熱負荷需要予測の不確実性を定量化し、この定量化した熱負荷需要予測の不確実性に応じてリスク度合いを調整できるようにして、確率分布の推定や煩雑な計算を必要とすることなく、ワーストケースでの運転コストの大幅な悪化を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明に係る熱源システムの運転計画決定方法を適用したシステムの一例を示す図である。
図2】事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフ比から得られるロバスト解を示す図である。
図3図1における熱源システムの運転計画装置が有する機能を説明するためのフローチャートである。
図4】熱負荷需要上限値(Qmax)、事前計画分熱量(S1)および事後補正分熱量(S2)を示す図である。
図5図1における熱源システムの運転計画装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る熱源システムの運転計画決定方法を適用したシステムの一例を示す図である。
【0038】
図1において、1は冷凍機やボイラなどの熱源機器、2は蓄熱槽や貯湯槽などの蓄熱機器、3は冷温熱を需要する需要家であり、熱源機器1と蓄熱機器2とで需要家3に冷温熱を供給する熱源システム100が構成されている。この熱源システム100は、需要家3を建物とする空調熱源システムであり、熱源機器1や蓄熱機器2は複数存在する。
【0039】
この熱源システム100では、エネルギーコストが安い夜間の時間帯に熱源機器1を運転し、この熱源機器1によって生成された冷温熱を蓄熱機器2に蓄え、この蓄熱機器2に蓄熱されている冷温熱をエネルギーコストが高い昼間の時間帯に需要家3に供給する。また、昼間、蓄熱機器2に蓄熱されている冷温熱では賄えない冷温熱は、熱源機器1をリアルタイムに運転して、需要家3に供給する。
【0040】
この熱源システム100に対して、本実施の形態特有の装置として、熱源システムの運転計画装置4が設けられている。この熱源システムの運転計画装置4では、使用するエネルギーコストを最小とするべく、熱源システム100の運転計画を行うが、すなわち熱源機器1および蓄熱機器2の運転計画(熱源機器1の発停、蓄熱機器2への蓄熱、蓄熱機器2からの放熱など)を行うが、この熱源システムの運転計画装置4での熱源システム100の運転計画は、確率計画法の熱需給バランスの式((8)式)においてワーストケースのみを対象とする。
【0041】
このため、この熱源システムの運転計画装置4では、予測の結果求まる熱負荷需要上限値と、確定的変数である不足分熱量を用いて、(8)式を下記(10)式のように置き換え、この(10)式を熱源システム100と需要家3との間の熱需給バランスの式とする。
【0042】
【数8】
【0043】
また、この熱源システムの運転計画装置4では、熱源システム100の運転計画によって後述する事前計画分熱量を生成するためのコストを事前計画分コストとし、後述する事後補正分熱量を供給するために熱源機器1をリアルタイムに運転するためのコストを事後補正分コストとし、(9)式を、事前計画分コストを表す第1の目的関数(下記に示す(11)式)と、事後補正分コストを表す第2の目的関数(下記に示す(12)式)とに分割する。
【0044】
【数9】
【0045】
この問題は、熱源機器1の機器特性((1)式)、蓄熱機器2の機器特性((2),(3),(4)式)、熱源システム100と需要家3との間の熱需給バランス((10式))を制約条件とする多目的関数整数計画問題である。
【0046】
また、上記(2)式を満たすためには、熱源生成熱量が変わると蓄熱機器放熱量も増減させる必要があるため、運転計画には、蓄熱機器2への蓄熱量の計画だけではなく、蓄熱機器2からの放熱量の計画も含まれるものとなる。
【0047】
この多目的関数整数計画問題では、図2に示すようにパレート解が区分線形関数上に存在するため、両目的関数のトレードオフ比∂J2/∂J1が、すなわち事前計画コストと事後補正分コストとのトレードオフ比∂J2/∂J1が、同一の領域が存在することになる。ここでは、事後補正分の熱負荷需要よりも、事前計画分の熱負荷需要を最小化することに重きを置くものとし、事前計画分コストを小さい方を採用する。
【0048】
具体的な例で示すと、例えばB−Cは同じトレードオフ比の領域であるが、この場合B点をロバスト解として採用する。すなわち、事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフ比が等しくなる運転計画のうち事前計画分コストを最小とする運転計画を熱源システム100の運転計画として決定する。
【0049】
これにより、過剰な蓄熱と、ワーストケースでの運転コストの増加を共に回避できる。この場合、第1の目的関数(式(11))と第2の目的関数(式(12))を線形結合することにより単一目的の混合整数計画問題で整理できるため、汎用の数理計画法パッケージで容易に解を求めることができる。
【0050】
この熱源システムの運転計画装置4は、プロセッサや記憶装置からなるハードウェアと、これらのハードウェアと協働して各種機能を実現させるプログラムとによって実現される。具体的には、コンピュータにプログラムがインストールされ、このインストールされたプログラムに従うCPU4Aの処理動作として実現される。以下、図3に示すフローチャートに従って、熱源システムの運転計画装置4が有する機能について説明する。
【0051】
熱源システムの運転計画装置4のCPU4Aは、将来の所定の期間を翌日とし、翌日の需要家3での所定時間毎の冷温熱の需要量の上限値を熱負荷需要上限値Qmax(図4参照)として予測する(ステップS101)。
【0052】
次に、CPU4Aは、その予測した所定時間毎の熱負荷需要上限値Qmaxに満たない範囲内で想定される翌日の需要家3での冷温熱の需要量を事前計画分熱量S1(図4中の斜線で示す熱量)とし、熱源システム100の運転計画によってこの事前計画分熱量S1を生成するためのコストを事前計画分コストとして表す第1の目的関数((11)式)を生成する(ステップS102)。
【0053】
また、CPU4Aは、運転計画に基づいて熱源システム100を運転することによって需要家3に供給できる翌日の冷温熱の所定時間毎の熱負荷需要上限値S1に対する不足分を事後補正分熱量S2(図4中の網線で示す熱量)とし、この事後補正分熱量S2を供給するために熱源機器1をリアルタイムに運転するためのコストを事後補正分コストとして表す第2の目的関数((12式))を生成する(ステップS103)。
【0054】
そして、CPU4Aは、熱源機器1の機器特性((1)式)、蓄熱機器2の機器特性((2),(3),(4)式)、熱源システム100と需要家3との間の熱需給バランス((10)式)を制約条件とし、この制約条件と事前計画コストと事後補正分コストとのトレードオフとを考慮して、第1の目的関数と第2の目的関数から熱源システム100の運転計画を決定する(ステップS104)。具体的には、事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフ比が等しくなる運転計画のうち事前計画分コストを最小とする運転計画を熱源システム100の運転計画として決定する。
【0055】
このようにして、本実施の形態の熱源システムの運転計画装置4では、ワーストケースである熱負荷需要上限値を事前計画分熱量と事後補正分熱量とに分解し、事前計画分熱量の生成に必要な運転コストを事前計画分コストとし、事後補正分熱量の生成に必要な運転コストを事後補正分コストとし、この事前計画分コストと事後補正分コストとのトレードオフを考慮することで、熱負荷需要予測の不確実性を定量化し、この定量化した熱負荷需要予測の不確実性に応じてリスク度合いを調整できるようにして、熱源システム100の運転計画を決定する。これにより、確率分布の推定や煩雑な計算を必要とすることなく、ワーストケースでの運転コストの大幅な悪化を抑えることができるものとなる。
【0056】
図5にこの熱源システムの運転計画装置4の機能ブロック図を示す。熱源システムの運転計画装置4は、将来の所定の期間を翌日とし、翌日の需要家3での所定時間毎の冷温熱の需要量の上限値を熱負荷需要上限値Qmaxとして予測する熱負荷需要上限値予測部4−1と、所定時間毎の熱負荷需要上限値Qmaxに満たない範囲内で想定される翌日の需要家3での冷温熱の需要量を事前計画分熱量S1とし、熱源システム100の運転計画によってこの事前計画分熱量S1を生成するためのコストを事前計画分コストJ1として表す第1の目的関数を生成する第1の目的関数生成部4−2と、運転計画に基づいて熱源システム100を運転することによって需要家3に供給できる翌日の冷温熱の所定時間毎の熱負荷需要上限値Qmaxに対する不足分を事後補正分熱量S2とし、この事後補正分熱量S2を供給するために熱源機器1をリアルタイムに運転するためのコストを事後補正分コストJ2として表す第2の目的関数を生成する第2の目的関数生成部4−3と、熱源機器1の機器特性((1)式)、蓄熱機器2の機器特性((2),(3),(4)式)、熱源システム100と需要家3との間の熱需給バランス((10式))を制約条件とし、この制約条件と事前計画分コストJ1と事後補正分コストJ2とのトレードオフとを考慮して、第1の目的関数と第2の目的関数から熱源システム100の運転計画を決定する運転計画決定部4−4とを備えている。
【0057】
なお、上述した実施の形態では、将来の所定の期間を翌日としたが、必ずしも翌日でないことは言うまでもない。すなわち、所定の期間は、1日でなくても構わない。
【0058】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0059】
1…熱源機器、2…蓄熱機器、3…需要家、4…熱源システムの運転計画装置、4A…CPU、4−1…熱負荷需要上限値予測部、4−2…第1の目的関数生成部、4−3…第2の目的関数生成部、4−4…運転計画決定部。
図1
図2
図3
図4
図5