(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.離型フィルム
本発明の離型フィルムは、少なくとも一方の最表層に配置されたポリエステル樹脂層を含む。
【0014】
ポリエステル樹脂層について
ポリエステル樹脂層は、離型フィルムの少なくとも一方の最表層に配置され、離型層Aとして機能する。ポリエステル樹脂層は、結晶性や耐熱性が高いことから、ポリブチレンテレフタレートを含むことが好ましい。
【0015】
ポリブチレンテレフタレートの固有粘度は、ポリエステル樹脂層の機械的強度を一定以上とし、かつ溶融成形性を確保するためなどから、1.0〜1.5であることが好ましく、1.0〜1.2であることがより好ましい。上記固有粘度は、JIS K 7367−5に基づき25℃で測定されうる。
【0016】
ポリブチレンテレフタレートの融点は、一定以上の耐熱性と成形性を得る観点から、200〜245℃であることが好ましい。融点は、示差走査熱量分析装置(マックサイエンス社製、DSC3100S)を用いて、昇温速度20℃/分で昇温したときに検出される融解時の吸熱ピーク温度として測定されうる。融点の下限値は、210℃であることが好ましい。融点が200℃未満であると、十分な耐熱性が得られない可能性がある。
【0017】
ポリブチレンテレフタレートの市販品の例には、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ノバデュラン5020、5010CS、5510Sまたは5505S、ポリプラスチックス(株)製ジュラネックス、東レ(株)製トレコンなどが含まれる。
【0018】
ポリエステル樹脂層は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂や添加剤をさらに含んでもよい。他の樹脂の例には、ポリブチレンテレフタレート以外のポリエステル樹脂(例えば1,4−ブタンジオール以外の脂肪族ジオールとテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とを反応させて得られるポリエステル樹脂)やポリエステルエラストマー(例えばポリブチレンテレフタレートエラストマー)などが含まれ、好ましくはポリブチレンテレフタレートエラストマーやポリエチレンテレフタレートなどでありうる。
【0019】
添加剤の例には、耐熱安定剤、耐候安定剤、発錆防止剤、耐銅害安定剤、帯電防止剤、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、繊維、無機物、高級脂肪酸塩などが含まれる。
【0020】
ポリブチレンテレフタレートの含有量は、ポリエステル樹脂層に対して60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。ポリブチレンテレフタレートの含有量を一定以上とすることで、耐熱性を有しつつ、高い追従性と離型性とを有するポリエステル樹脂層が得られやすい。
【0021】
離型フィルムは、ポリエステル樹脂層からなる単層フィルムであってもよいし;ポリエステル樹脂層と他の層とを含む積層フィルムであってもよい。積層フィルムに含まれるポリエステル樹脂層は、離型フィルムの少なくとも一方の最表層;好ましくは離型フィルムの被成形物(例えば半導体素子)の封止体と接する側の最表層に配置される。積層フィルムに含まれる他の層は、基材層Cや接着層Bなどでありうる。
【0022】
基材層Cを構成する樹脂の例には、離型フィルムの機械的強度や耐熱性を高めるためなどから、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート以外の他のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂などが含まれる。なかでも、耐熱性または離型層Aとの接着性が良好な樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂やポリブチレンテレフタレート以外の他のポリエステル樹脂などが好ましい。
【0023】
基材層Cの120℃における貯蔵弾性率E’は、離型フィルムの機械的強度を十分に高めるためなどから、例えば15MPa以上1000MPa以下としうる。
【0024】
接着層Bは、接着樹脂で構成されうる。接着樹脂は、ポリエステル樹脂層(離型層A)および基材層Cの両方に対してなじみやすい樹脂を含むことが好ましい。接着樹脂の具体例としては、少なくとも一部が不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸の酸無水物によりグラフト変性された変性4−メチル−1−ペンテン系重合体、当該変性4−メチル−1−ペンテン系重合体とα−オレフィン系重合体を含む混合物、およびポリオレフィン系エラストマー等を挙げることができる。
【0025】
接着層の厚さは、ポリエステル樹脂層と基材層Cの接着性を向上させることができる厚さであればよく、特に制限はないが、通常は4〜6μm程度である。
【0026】
接着層Bおよび基材層Cも、ポリエステル樹脂層と同様に、主成分の他に前述の添加剤をさらに含んでもよい。
【0027】
本発明の離型フィルムがポリエステル樹脂層と他の層とを含む積層フィルムである場合の、積層構造の例には、以下のものが含まれる。以下において、Aは離型層Aを示し;Bは接着層Bを示し;Cは基材層Cを示し;A’は他の離型層A’を示す。離型層Aが、前述のポリエステル樹脂層に該当する。本発明の離型フィルムが積層フィルムである場合、中心層に対して対称な積層構造を有することが好ましい。対称な積層構造を有する離型フィルムは、金型内に固定されて加熱されたときに、熱膨張差や吸湿等による変形(反りなど)を生じにくいからである。他の離型層A’は、離型層Aと同じであっても異なってもよいが、変形の生じにくさや、金型形状の追従性の観点からは、他の離型層A’は、離型層Aと同じ材料であることが好ましい。特に、他の離型層A’の結晶化度が、離型層Aと同様に、15%以上25%以下であると、金型形状の追従性の観点から好ましい。
A/C
A/C/A’
A/B/C
A/B/C/B/A’
【0028】
なかでも、良好な金型追従性と離型性を有するだけでなく、良好な耐熱性も有し、製造工程を簡易化できることから、離型フィルムはポリエステル樹脂層からなる単層フィルムであることが好ましい。
【0029】
離型フィルムの厚みは、20〜100μmであることが好ましく、40〜60μmであることがより好ましい。離型フィルムの厚みを一定以上にすることで、フィルムの機械的強度を高めうる。一方、離型フィルムの厚みを一定以下とすることで、複雑な形状の金型に対しても良好な追従性が得られやすい。
【0030】
本発明の離型フィルムを、例えばLEDの樹脂封止に用いられるような複雑な形状の金型に対しても良好に追従させるためには、離型フィルムの最表層に配置されたポリエステル樹脂層の結晶化度を低くすることが好ましい。結晶化度が低いフィルムは、適度な柔軟性を有すると考えられる。適度な柔軟性を有すると、金型追従性が良くなる。従って、離型フィルムの最表層に設けられる層の結晶化度が、金型追従性に影響する。具体的には、本発明のポリエステル樹脂層の結晶化度は、15%以上25%以下であることが好ましく、18%以上23%以下であることがより好ましい。
【0031】
離型フィルムの結晶化度は、広角X線回折法(XRD)により、以下の条件で測定されうる。
(測定装置および測定条件)
装置:(株)リガク製RINT2500
出力: 50kV−300mA
ターゲット:Cu(CuKα)
光学系:平行ビーム法光学系
測定速度:2°/min
測角範囲:2θ=5〜35°
樹脂の非晶質部分と結晶質部分の両方の回折ピークが現れる、2θ=7〜35°の回折角度におけるピークの積分強度から、下記式(2)にて結晶化度(%)を算出する。
結晶化度(χc)=(結晶質部分(2θ=16°、17°、20°、23°、25°の付近のピーク)の積分強度/非晶質と結晶質を含む部分(2θ=7〜35°)の積分強度)×100(%)・・・式(2)
【0032】
離型フィルムが、ポリエステル樹脂層からなる単層フィルムである場合、当該離型フィルムをそのまま測定用サンプルとすればよい。一方、離型フィルムが、ポリエステル樹脂層と他の層とを含む積層フィルムである場合、ポリエステル樹脂層を剥離または切り出したものを測定用サンプルとすればよい。測定用サンプルを切り出す際は、ポリエステル樹脂層の厚み方向の全体を切り出す必要はなく、再現性が得られる程度の厚み方向の範囲を切り出せばよい。
【0033】
ポリエステル樹脂層の結晶化度は、主に製膜時のキャストロールの温度によって調整されうる。結晶化度を低くするためには、例えばキャストロールの温度を低くすることが好ましい。
【0034】
一方で、ポリエステル樹脂層の結晶化度を低くすると、フィルム表面の柔軟性も増すことから、離型性が低下しやすい。これに対して本発明者らは、離型フィルムのポリエステル樹脂層の表面をATR測定して得られるFT−IRスペクトル(ATR−IRスペクトル)において、2910cm
−1以上2930cm
−1以下の領域の吸収ピークの強度が一定以上となる場合に、離型性が高まることを見出した。
【0035】
2910cm
−1以上2930cm
−1以下の領域の吸収ピークは、ポリブチレンテレフタレートの主鎖を構成するメチレン鎖(アルキレン鎖)に由来する。そのため、2910cm
−1以上2930cm
−1以下の領域の吸収ピークの強度が一定以上であることは、ポリエステル樹脂層の表面にポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖(非極性部位)が露出している(配向している)ことを示すと考えられる。つまり、ポリエステル樹脂層の表面にポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖(非極性部位)を露出させる(配向させる)ことで、離型フィルムの離型性を高められることを見出した。
【0036】
具体的には、ポリエステル樹脂層の最表層をATR法により測定されるFT−IRスペクトル(ATR−IRスペクトル)において、2910cm
−1以上2930cm
−1以下の領域の吸収ピーク強度の最大値(最大吸収ピーク強度)をPa、2950cm
−1以上2970cm
−1以下の領域の吸収ピーク強度の最大値(最大吸収ピーク強度)をPbとしたとき、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
0.6≦Pa/Pb≦2.0・・・ 式(1)
【0037】
また、Pa/Pbは、0.7以上1.2以下の範囲であることがより好ましい。
【0038】
ATR−IRスペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光(株)製、FT−IR8300)を用いて、ATR結晶をGeとし、赤外光入射角θを60°として、ATR測定を行うことにより得ることができる。
【0039】
図1は、本発明の離型フィルムのATR-IRスペクトルの一例を示す図である。
図1に示されるように、2910cm
−1以上2930cm
−1以下の領域に吸収ピークaが確認され、2950cm
−1以上2970cm
−1以下の領域に吸収ピークbが確認される。各波長領域での吸収ピークの強度は、ベースラインに対する吸収ピークの高さの最大値を読み取って得ることができる。ベースラインは、3050cm
−1付近と2750cm
−1付近の平坦部とを結んだ線とする(
図1参照)。
【0040】
ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比Pa/Pb;即ち、ポリエステル樹脂層の表面に露出するポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖の割合は、主に製膜時の溶融物とキャストロールとの密着強度や密着時間により調整されうる。
【0041】
例えば、溶融物がキャストロールに密着しすぎると、急冷されすぎるため、溶融物の表面エネルギーが十分には緩和されにくい。その結果、溶融物に含まれるポリブチレンテレフタレートのC=Oなどの極性部位が表面に露出し、アルキレン鎖などの非極性部位が表面に露出しにくくなり、2910cm
−1以上2930cm
−1以下の領域の吸収ピークaが生じにくい。これらのことから、ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比Pa/Pbを一定以上にする;即ち、ポリエステル樹脂層の表面にポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖を露出させやすくするためには、溶融物をキャストロール上で急冷させすぎないことが好ましい。具体的には、溶融物とキャストロールの密着強度を低くしたり(例えば密着方式をフリー方式またはエアーチャンバ−方式としたり);密着時間を短くしたり(例えばラインスピードを高くしたり)することが好ましい。
【0042】
このように、ポリエステル樹脂層全体の結晶化度を低くしても、ATR−IRスペクトルの結果から示されるように、ポリエステル樹脂層の表面にポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖(非極性部位)を配向させることで、高い離型性を得ることができる。
【0043】
また、本発明者らは、離型フィルムのポリエステル樹脂層の最表層をGIWAXS(Grazing Incidence Wide Angle X-ray (Neutron) Scattering)測定して得られる面外方向(Out of plane)の回折プロファイルにおいて特定のピークが存在する場合にも、離型性が高まることを見出した。
【0044】
図2は、本発明の離型フィルムのポリエステル樹脂層の最表層をGIWAXS測定して得られるOut of plane(面外方向)の回折プロファイルの一例を示す図である。
図2に示されるように、本発明の離型フィルムは、GIWAXS測定して得られる面外方向の回折プロファイルにおいて、フィルム面に平行な結晶格子面(100)に由来するピーク(q=16.4nm
−1)を有する。
【0045】
前述の広角X線回折法(XRD)の測定では、ポリエステル樹脂層全体の結晶性を知ることができるのに対し;GIWAXSの測定では、X線の入射角度を変えることで、深さ方向(厚み方向)の結晶性を知ることができる。これらのことから、ポリエステル樹脂層の最表層をGIWAXS測定で得られるOut of plane(面外方向)の回折プロファイルにおいて、フィルム面に平行な結晶格子面(100)と(010)に由来するピークが存在することは、ポリエステル樹脂層の最表層が、非晶性ではなく結晶性を有することを意味する。
【0046】
GIWAXS測定は、大型放射光施設SPring−8(兵庫県)高分子専用ビームラインBL03XUを用いて、入射角θ=0.08°、波長λ=0.1nmの条件で行うことができる。そして、得られる二次元の回折プロファイルから、Out of plane(面外方向)の一次元の回折プロファイルを得て、フィルム面に平行な結晶格子面(100)に由来するピークの有無を確認する。
【0047】
フィルム面に平行な結晶格子面(100)に由来するピークを生じさせるためには、前述と同様に、溶融物とキャストロールとの密着強度を低くしたり;密着時間を短くしたりすることによって調整されうる。
【0048】
離型フィルムの金型の形状に対する追従性を高めるためには、金型温度での貯蔵弾性率E’を調整することが好ましい。金型温度の代表例は、120℃であるため、120℃での貯蔵弾性率E’を目安とすることが好ましい。即ち、本発明の離型フィルムの120℃における貯蔵弾性率E’は、好ましくは30MPa以上200MPa以下であり、より好ましくは65MPa以上150MPa以下である。
【0049】
離型フィルムの120℃における貯蔵弾性率E’が低すぎると、離型フィルムの機械的強度が十分でない可能性がある。一方、120℃における貯蔵弾性率E’が高すぎると、離型フィルムが硬すぎるため、金型の形状に沿って伸びきれず(追従しきれず)、皺が生じる可能性がある。
【0050】
離型フィルムの貯蔵弾性率E’は、以下の方法に準拠して測定されうる。
動的粘弾性装置RSA−II(TA Instruments社製)を用いて、引張モード:振動周波数1Hz、測定速度:−80℃からサンプルが融解して測定不能になる温度まで、3℃/分の速度で昇温しながら、離型フィルムの搬送方向(MD方向)の弾性率を測定し、120℃における貯蔵弾性率E’を算出する。
【0051】
離型フィルムの、ポリエステル樹脂層表面の十点平均粗さRzJISは、0μm以上1.5μm以下であることが好ましい。RzJISを上記範囲とすることで、特にLEDの樹脂封止を行う際に、表面の平滑性が高く、集光性の高い封止体が得られやすい。
【0052】
離型フィルムのポリエステル樹脂層の表面の十点平均粗さRzJISは、JIS−B0601に準拠した方法;具体的には、表面粗さ形測定機((株)東京精密社製、surfcom 130A)を用いて、測定長40mm、速度0.3mm/sにて測定されうる。
【0053】
離型フィルムのポリエステル樹脂層の表面の十点平均粗さRzJISは、例えば、後述するフィルムの製造工程における、キャストロールやタッチロールの表面粗さなどによって調整されうる。
【0054】
本発明の離型フィルムの最表層に配置されるポリエステル樹脂層は、広角X線回折法(XRD)で測定される結晶化度が一定以下に調整されている。そのような離型フィルムは、最表層が適度な柔軟性を有するため、複雑な金型形状に対しても良好な金型追従性を示す。また、本発明の離型フィルムのポリエステル樹脂層の最表層の、ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比Pa/Pbが一定以上に調整されている。そのようなポリエステル樹脂層の表面には、ポリブチレンテレフタレートの主鎖を構成するアルキレン鎖(非極性部位)が多く露出しているため、良好な離型性を示す。このように、本発明の離型フィルムは、良好な金型追従性と離型性とを両立しうる。
【0055】
2.離型フィルムの製造方法
本発明の離型フィルムは、任意の方法で製造することができ、例えば1)ポリエステル樹脂層を構成する樹脂組成物の溶融物と、必要に応じて他の層を構成する樹脂組成物の溶融物とを押し出す工程と、2)押し出された溶融物をキャストロール(冷却ロール)上で冷却固化する工程と、を経て得ることができる。
【0056】
以下、
図3を参照しながら、ポリエステル樹脂層単層で構成される離型フィルム29を製造する例を説明する。
【0057】
図3は、フィルムの製造装置の一部の例を示す模式図である。
図3に示されるように、フィルムの製造装置20は、主に、ダイス21と、ダイス21から押し出された溶融物を挟圧しながら冷却するキャストロール23およびタッチロール25とを有する。
【0058】
1)の工程では、ポリエステル樹脂層を構成する樹脂組成物を、溶融押出機で溶融混練して溶融物とする。そして、得られた溶融物をダイスからフィルム状に押し出す。積層フィルムを製造する場合は、フィードブロック方式、マルチホールドダイ方式、デュアルスロットダイ方式などを採用しうる。
【0059】
2)の工程では、押し出された溶融物を、キャストロール23とタッチロール25とで狭圧しながら固化して、離型フィルムを得る。
【0060】
キャストロール23は、金属ロールであることが好ましい。タッチロール25は、可とう性を有する薄肉金属外筒を有するフレキシブルロールなどでありうる。
【0061】
離型フィルムの結晶化度は、主にキャストロール23の温度によって調整されうる。キャストロール23の温度は、溶融物の成形温度(溶融温度)、キャストロール23と溶融物との密着強度、フィルム製造装置の種類などにもよるが、例えば15℃以上60℃未満とすることが好ましく、15℃以上40℃以下とすることがより好ましい。キャストロール23の温度が高すぎると冷却が不十分となりやすい。そのため、得られる離型フィルムの結晶化度が高くなり、金型追従性が低下するおそれがある。
【0062】
離型フィルムの最表層のATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比Pa/Pbは、主にキャストロール23の温度、キャストロール23とフィルム状の溶融物との密着強度や密着時間(ラインスピード)によって調整され;特にキャストロール23とフィルム状の溶融物との密着強度によって調整されうる。
【0063】
即ち、キャストロール23とフィルム状の溶融物とを密着させすぎると、溶融物がキャストロール23上で急冷されすぎて溶融物の表面エネルギーが十分には緩和されにくい。その結果、得られる離型フィルムの表面には、ポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖(非極性部位)が露出しにくく、ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比Pa/Pbが低くなりやすい。そのため、キャストロール23とフィルム状の溶融物との密着強度は、キャストロール23の温度にもよるが、低めにすることが好ましく、例えば強制的に密着させない方式(フリー方式)や;溶融物の表面にエアーを当てて密着させる方式(エアーチャンバー方式)などを採用することが好ましい。
【0064】
製膜時のラインスピードは、高めにすることが好ましく、10〜30m/分であることが好ましい。ラインスピードが低すぎると、生産効率が低いだけでなく、溶融物にキャストロールの温度が伝わりやすい(急冷されすぎる)。そのため、ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比Pa/Pbが低くなり;ポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖をフィルム表面に露出させにくくなる。
【0065】
キャストロール23の表面粗さは、得られる離型フィルムの表面(好ましくは被成形物と接する面)のRzJISが前述の範囲となるように調整されればよい。
【0066】
タッチロール25の温度は、キャストロール23の温度と同様としうる。タッチロール25の表面粗さは、得られる離型フィルムの他方の表面のRzJISが前述の範囲となるように調整されればよい。
【0067】
キャストロール23とタッチロール25とで挟圧しながら固化して得られたフィルムは、必要に応じて他のロール27などでさらに搬送してもよい。それにより、ポリエステル樹脂層単層で構成される離型フィルム29を得ることができる。
【0068】
3.離型フィルムを用いた金型成形方法
本発明の離型フィルムは、金型成形用の離型フィルムとして用いられ、なかでも半導体素子の封止体を製造するときの離型フィルムとして好ましく用いられる。
【0069】
即ち、本発明の半導体素子の封止体の製造方法は、離型フィルムを成形用の金型に配置する第一の工程と、金型内に半導体素子を実装した基板を配置する第二の工程と、金型内に封止樹脂を充填して型締めし、封止樹脂を硬化させて半導体素子の封止体を得る第三の工程と、得られた半導体素子の封止体を離型フィルムから剥離する第四の工程とを含む。
【0070】
半導体素子は、好ましくは発光素子または受光素子であり、より好ましくはLEDチップでありうる。
【0071】
図4A〜4Eは、LEDの封止体の製造工程の一例を示す模式図である。
図4Aに示されるように、上金型33a、および所定形状のキャビティ32が形成された下金型33bからなる成形用の金型33の下金型33bに、離型フィルム31を配置する。
【0072】
離型フィルム31が、ポリブチレンテレフタレートを含むポリエステル樹脂層(離型層A)を含む積層フィルムである場合、離型層Aとは反対側の面が、下金型33bの内面に接し;離型層Aが、後述の封止樹脂39と接するように配置する。そして、下金型33bに配置された離型フィルム31は、例えば吸引等の操作によって下金型33bの内面に密着させる。吸引時の金型温度は、例えば金型成形時と同様の温度としうる(第一の工程)。
【0073】
LEDの封止体を製造するためのキャビティ32は、直径0.5〜3mm程度の半球状あるいはそれに類似する形状である。即ち、従来の半導体素子の封止体を製造するための金型に比して、LEDの封止体を製造するための金型は、上金型33aと下金型33bとのパーティング面からキャビティ32の最深部までの段差(ギャップ)が大きい。
【0074】
なお、上金型33aには、複数のLED37を実装した基板35を配置する(第二の工程)。基板35は、セラミクス基板、シリコン基板、金属基板、ポリイミド樹脂などの樹脂基板でありうる。
【0075】
次に、
図4Bに示されるように、上金型33aと離型フィルム31を介した下金型33bとの間に、被成形材料として封止樹脂39を充填する。封止樹脂39は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂でありうる。なかでも、硬化物が透明である樹脂が好ましく、LEDの封止体の製造に好適であることなどから、好ましくはシリコーン樹脂である。シリコーン樹脂は、芳香族系シリコーン樹脂または脂肪族系シリコーン樹脂でありうる。
【0076】
その後、
図4Cに示されるように、金型33内に充填した封入樹脂39内に、LED37を配置して型締めする。型締め時の圧力は、特に限定されないが、1.0〜10.0MPa程度である。また、型締め時の温度も、特に限定されないが、110〜190℃程度とすればよい。
【0077】
そして、所定の条件で封止樹脂39を硬化させる。硬化時の金型温度は、封止樹脂39の種類に応じて調整されうる。例えば、封止樹脂39としてシリコーン樹脂を用いた場合は、通常、80〜160℃あり;エポキシ樹脂を用いた場合は、通常、150〜200℃である(第三の工程)。
【0078】
その後、
図4Dに示されるように、金型33を型開きする。離型フィルム31は、離型性に優れるため、金型33(上金型33a及び下金型33b)や封止樹脂39から容易に離型することができる。以上の操作により、
図4Eに示されるようなLEDの封止体40を得ることができる(第四の工程)。
【0079】
本発明の離型フィルムは、ポリブチレンテレフタレートを含むポリエステル樹脂層を含み、該ポリエステル樹脂層の広角X線回折法(XRD)により測定される結晶化度が一定以下に調整されている。そのため、前述の第一の工程で離型フィルムを金型の内面に固定する際や、第三の工程で金型成形を行う際(特に第三の工程で金型成形を行う際)に、離型フィルムが適度に柔軟であるため、破れや皺などを生じることなく、金型の複雑な形状に沿って良好に追従しうる。
【0080】
また、本発明の離型フィルムのポリエステル樹脂層の表面には、ポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖(非極性部位)が多く露出している(ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比が一定以上に調整されている)。そのため、本発明の離型フィルムは、柔軟性を有しつつも、フィルム表面の離型性が高められている。特に封止樹脂がシリコーン樹脂;好ましくは脂肪族シリコーン樹脂である場合においても、良好な離型性を有しうる。それにより、成形後に得られる封止体を、離型フィルムから容易に剥離することができる。
【0081】
本発明の離型フィルムを用いた金型成形方法を、LEDの封止体の製造方法の例で説明したが、これに限定されず、成形金型を用いた各種成形方法に好ましく使用できる。また、本発明の離型フィルムは、前述の成形方法に限らず、通常の半導体素子の封止に適用されるトランスファー成形などの成形方法にも用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0083】
1.離型フィルムの材料
ノバデュラン5020:ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、非強化HBグレード押出用、Tm:224℃)
ノバデュラン5010CS:ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、Tm:223℃)
【0084】
2.離型フィルムの作製
(実施例1)
ノバデュラン5020を、押出機にて270℃(成形温度)で溶融可塑化させた後、Tダイスからキャストロール上に押出成形して、厚み50μmの離型フィルム1を得た。キャストロールの温度は40℃とし、キャストロールの密着はフリーとした。
【0085】
(実施例2〜3、比較例1)
離型フィルムの材料、成形温度、キャストロールの温度を表1に示されるように変更し、かつ溶融物とキャストロールとの密着をエアーチャンバ−方式で行った以外は実施例1と同様にして離型フィルム2〜4を得た。エアーチャンバ−方式による溶融物とキャストロールとの密着は、溶融物の表面から風圧6.1×10
−2MPaのエアーを当てることにより行った。
【0086】
(比較例2〜4)
離型フィルムの材料、成形温度、キャストロールの温度を表1に示されるように変更し、かつ溶融物とキャストロールとの密着を静電気ピニング方式で行った以外は実施例1と同様にして離型フィルム5〜7を得た。静電気ピニング方式による溶融物とキャストロールとの密着は、溶融物に4〜5Vの静電気を印加することにより行った。
【0087】
(比較例5)
比較例4で製膜した離型フィルム7を、さらに90℃で30分間熱処理して離型フィルム7’を得た。
【0088】
(比較例6)
積水化学工業株式会社製FPC用離型フィルム RPフィルム(主成分:ポリブチレンテレフタレート、厚み:50μm)を離型フィルム8として準備した。
【0089】
得られた離型フィルムの、1)XRDによる結晶化度、および2)ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比を、以下の方法で測定した。
【0090】
(XRDによる結晶化度)
得られた離型フィルムを30mm×30mmに切断し、下記の装置および条件にて、広角X線回折法(XRD)による結晶化度を測定した。
装置:リガク製RINT2500
出力:50kV−300mA
ターゲット:Cu(CuKα)
光学系:平行ビーム法光学系
測定速度:2°/min
測角範囲:2θ=5〜35°
樹脂の非晶質部分と結晶質部分の両方の回折ピークが現れる、2θ=7〜35°の回折角度におけるピークの積分強度から、下記式(2)にて結晶化度(%)を算出した。
結晶化度(χc)=(結晶質部分(2θ=16°、17°、20°、23°、25°の付近のピーク)の積分強度/非晶質と結晶質を含む部分(2θ=7〜35°)の積分強度)×100(%)・・・式(2)
【0091】
(ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比)
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社(株)製、FT−IR8300)を使用して、ATR測定を行い、FT−IRスペクトル(ATR−IRスペクトル)を得た。ATR結晶はGeとし、赤外光入射角θは60°とした。ベースラインは、3050cm
−1付近と2750cm
−1付近の平坦部とを結んだ線とした(
図1参照)。そして、所定の波長におけるピークの、ベースラインからの高さを読み取って、ピーク強度を求めた。具体的には、2910cm
−1以上2930cm
−1以下の領域の最大吸収ピーク強度Pa、2950cm
−1以上2970cm
−1以下の領域の最大吸収ピーク強度Pbをそれぞれ読み取り、ピーク強度比(Pa/Pb)を算出した。
【0092】
さらに、得られた離型フィルムを用いて、以下の方法でLEDの封止体を製造したときの、離型フィルムの金型追従性と離型性を、以下の方法で評価した。
【0093】
(金型追従性)
図5A〜5Eに示すように、簡易レンズ評価金型にてレンズを成形した。まず、金型内面に、半径1.25mmの半球状の孔100個と、半径0.9mmの半球状の孔300個とがそれぞれ均等な間隔で配置された下金型64を準備した。次いで、離型フィルム67を、下金型64の内面に配置し、外枠65で固定した(
図5A参照)。次いで、金型側面部に加工されたスリット部(図示なし)から真空引きを行い、離型フィルム67を下金型64のレンズ形状に追従させた(
図5B参照)。真空引きの際の金型温度は120℃とした。
【0094】
一方、上金型61には、ポリイミドテープ(厚さ:50ミクロン)を貼付したステンレス板62(厚さ:1mm)を配置した。ステンレス板62の平面寸法は200×78mmであり;離型フィルム67の平面寸法は200×300mmであり;下金型64の平面寸法は46×88mmであった。
【0095】
次いで、離型フィルム67上に、シリンジにて封止樹脂63としてシリコーン樹脂(東レダウ・コーニング製OE6636(芳香族系シリコーン樹脂))を1.4mL測量注入した(
図5C参照)。
【0096】
次いで、20t油圧成形機(東邦マシナリー社製、図示なし)を使用して上下方向に圧縮した(
図5D参照)。圧縮条件は、温度:120℃、圧力:91kgf/cm
2(3MPa)、圧縮時間:5分間とした。この圧縮により、離型フィルム67が、下金型64の孔の形状に追従して延伸されるとともに、延伸されて形成された離型フィルム67の孔に、液状シリコーン樹脂が侵入し、加熱硬化反応によってシリコーン樹脂でできた半球形状のレンズ(封止体)が成形された。
【0097】
次いで、金型を解放して離型フィルムを剥離後、成形されたレンズ88を取り出した(
図5E参照)。そして、得られたレンズ88の表面状態(皺の有無)を、光学顕微鏡(キーエンスマイクロスコープVHX−1000/1100)を用いて倍率:100倍で観察し、金型追従性を以下の基準で評価した。
○:レンズ表面に、離型フィルムから転写された皺が観測されない
×:レンズ表面に、離型フィルムから転写された皺が観測される
【0098】
(離型性)
LEDの封止体を成形後、型開き時に離型フィルムの、封止体からの剥がれ易さを目視観察し、離型性を以下の基準で評価した。
◎:成形後、型開き時に離型フィルムが伸びずに離型する
○:成形後、型開き時にやや離型フィルムが伸びるが、離型する
×:離型フィルムが封止体(レンズ)がくっついて離型しない
【0099】
シリコーン樹脂である、東レダウ・コーニング製OE6636(芳香族系シリコーン樹脂)を、信越化学株式会社製LPS3412またはKER2500(いずれも脂肪族系シリコーン樹脂)にそれぞれ変更した以外は、前述と同様にして離型フィルムの金型追従性および離型性を評価した。ただし、信越化学株式会社製KER2500を用いるときの圧縮条件は、温度:120℃、圧縮時間:3分間とした。
【0100】
これらの評価結果を表1に示す。表中のCRは、キャストロールを示す。
【表1】
【0101】
実施例1〜3の離型フィルムは、良好な追従性と離型性を両立できることがわかる。特に離型性は、封止樹脂の種類によらず良好であることがわかる。これに対して、比較例1〜6の離型フィルムは、(特に封止樹脂として信越化学株式会社製LPS3412またはKER2500を用いた場合に)良好な追従性と離型性とを両立できないことがわかる。
【0102】
具体的には、比較例2と4の離型フィルムは、溶融物とキャストロールとが密着しすぎることから、ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比Pa/Pbが低く、離型性が低いことがわかる。これは、溶融物がキャストロール上で急冷されすぎて、フィルム表面に露出するポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖(非極性部位)の割合が減少したためと考えられる。また、比較例1と3の離型フィルムは、キャストロールの温度が比較的高いことから、結晶化度が高く、追従性が低いことがわかる。また、比較例3の離型フィルムは、溶融物とキャストロールとが密着しすぎることから、ATR−IRスペクトルにおけるピーク強度比Pa/Pbも低く、離型フィルムの表面にポリブチレンテレフタレートのアルキレン鎖(非極性部位)の露出が少ないことがわかる。
【0103】
比較例5の離型フィルムは、後熱処理によりフィルム全体の結晶化度が高くなるため、追従性が低いことがわかる。また、比較例5の離型フィルムは、フィルム全体の結晶化度は比較的高いものの、フィルム表面の結晶化度が選択的に高められてはいないため、十分な離型性が得られないことがわかる。