(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る車椅子1について説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその部材についての説明は繰り返さない。以下、図中の矢印Fは、車椅子1の前方向を示す。図中の矢印Uは、車椅子1の上方向を示す。図中の矢印Rは車椅子1の右方向を示す。図中の矢印Lは車椅子1の左方向を示す。
【0034】
〈車椅子の全体構成〉
図1は、本発明に係る車椅子1の全体左側面図である。なお、以下の説明において前後左右と方向を示す場合、車椅子1のシートに着座した乗員から見た前後左右の方向を意味するものとする。車幅方向中央とは、正面視において、水平方向における車体の幅の中央を意味している。車幅方向外側とは、車幅方向中央から右側に向かう方向又は左側に向かう方向を意味している。車幅方向内側とは、車体の右側又は左側から車幅方向中央に向かう方向を意味している。
【0035】
車椅子1は、左右1対の車体フレーム2、左右1対の車輪3、バッテリ4および左右1対の前輪5を備えている。
図1は側面図であるため、一方の車体フレーム2、一方の車輪3及び一方の前輪5が表れている。車体フレーム2は、ハンドル21、ハンドル支持フレーム22、シート支持フレーム23、フットボード支持フレーム24および前輪支持フレーム25を備えている。ハンドル21は、乗員以外の人が、車椅子1を操作する際に握持する。ハンドル21は、車輪3の上方に位置している。ハンドル支持フレーム22の一部は、上下方向に延びている。シート支持フレーム23は、乗員が着座するシートを支持する。シート支持フレーム23は、前方から後方に向かって下方に傾斜している。シート支持フレーム23の一端は、ハンドル支持フレーム22に固定されている。シート支持フレーム23の他端には、フットボード支持フレーム24が設けられている。フットボード支持フレーム24は、前輪5の前方に配置されている。なお、
図2においては、シート支持フレーム23は、シート支持フレーム23の構成要素であるシートレイルで代表して示されている。フットボード支持フレーム24には、図示しないフットボードが取り付けられる。前輪支持フレーム25は、前輪の上方に位置している。前輪支持フレーム25は、前輪5を回転自在に支持する。
【0036】
車輪3は、車体フレーム2に支持される。車輪3は、ハンドル支持フレーム22に支持されている。バッテリ4は、車輪3の動力源に電力を供給する。バッテリ4の一部は、車体フレーム2よりも後方に配置されている。バッテリ4の一部は、車輪3の上端よりも上方に位置している。前輪5は、車輪3よりも径が小さい。
【0037】
図2は、車椅子1の背面全体図である。車椅子1は、シート26および背もたれ27を備えている。シート26および背もたれ27は、左右1対の車体フレーム2の間に配置されている。シート26は、左右1対のシート支持フレーム23の間に配置されている。背もたれ27は、左右1対のハンドル支持フレーム22の間に配置されている。背もたれ27は、車椅子1のシート26に着座した乗員の背中を支持する。左側の車輪3とバッテリ4の間には、バッテリ4から左側の車輪3の動力源に電力を供給するためのケーブルと左右輪の情報を伝達する信号線を含むケーブル28が配置されている。車輪3は、一体的に取り付けられ、操作力を検出可能なハンドリム31を備えている。ハンドリム31は、乗員が車椅子1を進行させる際に操作する。ハンドリム31が乗員によって操作されると、車輪3はハンドリム31と一体的に回転する。ハンドリム31は、車輪3の車幅方向外側に配置されている。
【0038】
図3は、左側の車輪3を示す左側面図である。以下の説明において、径方向内側とは、側面視において、車輪の外周から中心に向かう方向を意味している。径方向外側とは、車輪の中心から車輪の外周に向かう方向を意味している。周方向とは、車軸を中心とする円周に沿った方向を意味している。
【0039】
車輪3は、ハブ33、スポーク34、リム35、タイヤ36、ハンドリム31および接続パイプ37を備えている。ハブ33は、側面視において、車輪3の中心に配置されている。スポーク34は、ワイヤー状の部材である。複数のスポーク34が、リム35とハブ33の間に配置されている。リム35は、側面視において、スポーク34の径方向外側に配置されている。リム35は、側面視において、環状である。タイヤ36は、径方向において、リム35の外側に配置されている。タイヤ36は、リム35に取り付けられている。タイヤ36は、側面視において、環状である。ハンドリム31は、側面視において、ハブ33の径方向外側に配置されている。ハンドリム31は、タイヤ36よりも径方向内側に配置されている。ハンドリム31は、側面視において、環状である。ハンドリム31とハブ33の間には、接続パイプ37が配置されている。3つの接続パイプ37が、周方向において、等間隔に配置されている。
【0040】
図4は、
図3におけるA−A断面図である。
図4は、左側の車輪3の車軸32を通る位置における正面断面図である。以下の説明において、軸方向とは、車軸32の延びる方向を意味している。説明の便宜上、以下の説明では、車体フレーム2によって支持されている側を車輪3の軸方向内側とし、軸方向において車体フレーム2から離れる方向を車輪3の軸方向外側として説明する。
【0041】
車輪3は、車軸32を備えている。車軸32の一端は、ハンドル支持フレーム22に固定されている。車軸32は、正面視において、左右方向に延びている。ハブ33は、車軸32に相対回転自在に取り付けられている。スポーク34は、ハブ33の外周面に取り付けられている。径方向において、スポーク34の外側の一端には、リム35が配置されている。ハンドリム31は、リム35と略並行に、軸方向でリム35の外側に配置されている。
【0042】
図5は、ハブ33およびパワーユニット38の正面拡大断面図である。ホイールハブ383の内側には、パワーユニット38が配置されている。ハブ33は、ホイールハブ383およびハンドリムベース部39を含んでいる。パワーユニット38は、モータ381および減速機構382を含んでいる。
【0043】
モータ381は、パワーユニット38内に取り付けられている。モータ381は、軸方向において、車軸32の略中央に配置されている。モータ381の軸方向外側には、減速機構382が配置されている。減速機構382は、モータ381から出力された動力をホイールハブ383に伝達する。減速機構382には、ギア列384が含まれている。
【0044】
減速機構382の軸方向外側には、ホイールハブ383が配置されている。ホイールハブ383は、車軸32にベアリング383aを介して取り付けられている。ホイールハブ383は、車軸32に対して相対回転可能である。ホイールハブ383の外周には、スポーク34が固定されている。
【0045】
図6は、パワーユニット38の部分拡大断面図である。パワーユニット38は、ハウジング331を含んでいる。ハウジング331は、第1ハウジング332、第2ハウジング333および第3ハウジング334を含んでいる。第1ハウジング332は、第2ハウジング333との間に空間Bを形成している。空間Bには、モータ381が収納されている。第3ハウジング334は、第1ハウジング332との間に空間Cを形成している。空間Cには、制御基板336および減速機構382が配置される。第1ハウジング332は、軸方向において、第3ハウジング334の内側に配置されている。第3ハウジング334は、第1ハウジング332にボルト335によって固定されている。第1ハウジング332には、第2ハウジング333が固定されている。非図示のモータ回転反力を受けるトルク止め部材でパワーユニット38は、フレームに固定されている。第2ハウジング333と支持プレート500で、車軸32を挟み込む構造によって、パワーユニット38に車軸32が固定されている。
【0046】
軸方向におけるモータ381の幅Xは、径方向におけるモータ381の外径Y(モータ381の直径)よりも小さい。軸方向におけるモータ381の幅Xは、径方向におけるモータ381の半径Vよりも小さい。モータ381は、ロータ381aおよびステータ381bを含んでいる。ロータ381aは、車軸32に対して相対回転可能である。ロータ381aは、モータ軸381c、バックヨーク381dおよび磁石381eを含んでいる。モータ軸381cは、車軸32に回転可能に支持されている。モータ軸381cは、車軸32の一部の外周を囲んでいる。バックヨーク381dは、モータ軸381cの軸方向内側の端に固定されている。バックヨーク381dは、第2ハウジング333の近傍に配置されている。磁石381eは、バックヨーク381dに固定されている。磁石381eは、軸方向において、ステータ381bと所定の隙間を空けて配置されている。ステータ381bは、第1ハウジング332に固定されている。ステータ381bは、車軸32に対して相対回転不能である。モータ381は、磁気モータであるため、軸方向幅を小さくし、径方向幅を大きくしたとしても、大きなトルクを出力することができる。
【0047】
減速機構382は、第1ギア382a、第2ギア382b、第3ギア382c、第4ギア382hおよび伝達ギア383gを含んでいる。第1ギア382aは、モータ軸381cの外周に固定されている。第2ギア382bは、径方向において、第1ギア382aよりも外側に配置されている。第2ギア382bは、第1ギア382aと噛み合っている。第2ギア382bは、ベアリング382eを介して軸382dに回転可能に取り付けられている。軸382dは、第1ハウジング332および支持プレート500に固定されている。第3ギア382cは、径方向において第2ギア382bよりも外側に配置されている。第3ギア382cの軸382fは、ベアリング382gを介して第1ハウジング332および支持プレート500に回転可能に支持されている。第3ギア382cは、軸382fと一体として回転する。第3ギア382cは、第2ギア382bと噛み合っている。第3ギア382cは、第2ギア382bよりも径が大きい。第4ギア382hは、軸382fに固定されている。伝達ギア383gは、第4ギア382hと噛み合っている。
【0048】
また、
図6に示すように、モータ381は、ロータ381aおよびステータ381bを含んでおり、ロータ381aは、車軸32を中心とする円板状のバックヨーク381d(円板)を含んでいる。環状のステータ381bは、車軸32の軸方向においてロータ381aから所定の間隔を持って配置され、車椅子1の側面視において車軸32を中心とする。また、ロータ381aは、車軸32の側面の一部を囲む円筒381gを備えている。
【0049】
図7は、ロータ381aの部品図である。ロータ381aのバックヨーク381dは、モータ回転軸を中心とした円板状の部材である。バックヨーク381dには、径方向において、モータ軸381cと磁石381eとの間に3つの孔381jが形成されている。磁石381eは、環状の部材である。磁石381eは、周方向に並べて配置された磁極が配置されている。磁石381eでは、周方向にN極とS極が交互に磁化されている。
【0050】
図8は、ステータ381bの部品図である。ステータ381bは、ステータコア381fを含んでいる。ステータ381bには、複数のティース381hが形成されている。複数のティース381hは、周方向に等間隔に並べて配置されている。ティース381hには、図示しないコイルが巻き付けられている。
【0051】
図9は、ボルト335(
図6参照)を取り外し、第3ハウジング334と支持プレート500を第1ハウジング332から取り外した状態におけるパワーユニット38の左側面図である。減速機構382に含まれる第1ギア382a、第2ギア382bおよび第3ギア382cは、直線上に並んで配置されている。第1ギア382a、第2ギア382bおよび第3ギア382cは、径方向内側から外側に向かって配置されている。
【0052】
図10は、ハンドリムベース部39の周囲の構成を示すハブ33の部分拡大図である。ハンドリムベース部39は、ホイールハブ383を介して車軸32に取り付けられている。第3ハウジング334の軸方向外側には、ホイールハブ383が配置されている。ホイールハブ383の軸方向外側にハンドリムベース部39が配置されている。ホイールハブ383は、ベアリング383aを介して車軸32に回転可能に取り付けられている。ベアリング383aの軸方向外側には、ナット383bが設けられている。ナット383bによってホイールハブ383の軸方向における位置が固定されている。ナット383bの軸方向外側には、カバー383cが設けられており、ナット383bがハブ33の外側から視認できないようになっている。ホイールハブ383は、車軸32に対して相対回転可能である。ホイールハブ383の外周端は、軸方向内側に向かって屈曲し、円筒部383eを形成している。円筒383eは、軸方向に延びている。円筒383eには、スポーク34が固定されている。ホイールハブ383には、スプリング保持面383fが形成されている。スプリング保持面383fには、コイルスプリング40が配置される。スプリング保持面383fは、コイルスプリング40の形状に沿った円柱状の面である。ホイールハブ383には、スプリングカバー383jが固定されている。スプリングカバー383jはホイールハブ383にネジ383kによって固定されている。スプリングカバー383jは、車軸32の軸方向に関して、軸方向外側からコイルスプリング40を覆っている。スプリングカバー383jには、コイルスプリング40の一部の形状に沿った円柱状の支持面383pが形成されている。コイルスプリング40は、大スプリング401および小スプリング402を含んでいる。大スプリング401の内側に小スプリング402が配置されている。ホイールハブ383は、伝達ギア383gを含んでいる。減速機構382の第3ギア382cの軸382fには、第4ギア382hが形成されている。伝達ギア383gは、第4ギア382hと噛み合っている。伝達ギア383gは、径方向において、第4ギア382hの内側に位置している。
【0053】
ハンドリムベース部39は、ホイールハブ383に対して搖動可能にベアリング391を介して取り付けられている。ハンドリムベース部39には、接続パイプ37の径方向内側の一端が固定されている。このため、ハンドリム31(
図2参照)を回転させると、ハンドリムベース部39が変位する。ハンドリムベース部39にはスプリング支持部392が形成されている。スプリング支持部392は、車軸32の軸方向において、スプリングカバー383jとスプリング保持部383fの間に配置されている。スプリング支持部392には、コイルスプリング40が配置されている。ハンドリムベース部39の軸方向外側には、ホイールカバー393が取り付けられている。
【0054】
図11は、ホイールカバー393およびカバー383cを取り外した状態のハブ33を示すハブ33の全体左側面図である。
図11では、接続パイプ37およびハンドリム31等の構成は説明の便宜上省略している。
【0055】
ホイールハブ383のスプリング保持面383fとハンドリムベース部39のスプリング支持部392とは、周方向および径方向において、同じ位置に位置している。スプリング保持面383fとスプリング支持部392は、周方向に等間隔で3つ並べて配置されている。ホイールハブ383のスプリング保持面383fの径方向内側には、円弧状の貫通孔383mおよび円弧状の溝383qが設けられている。貫通孔383mは、溝383qに形成されている。溝383qは、周方向に沿って延びている。径方向において、ハンドリムベース部39のスプリング支持部392よりも内側には、環状溝39aが形成されている。環状溝39aは、径方向において、貫通孔383mおよび溝383qに重なり合う位置に配置されている。環状溝39aには、環状プレート50が配置されている。環状プレート50は、ハンドリムベース部39にボルト51によって固定されている。ボルト51は溝383qの内側のボス部51aに配置されている。溝383qおよび貫通孔383mの内側に、ピン394が配置されている。
【0056】
図12は、
図11の部分拡大図である。
図12は、コイルスプリング40の周囲を拡大した図である。コイルスプリング40の両端には、1対のスライダー403が配置されている。スライダー403は、一端に円板上の底403aを有する円筒状の部材である。対向して配置される2つのスライダー403の内周側に大コイルスプリング401および小コイルスプリング402が配置されている。スプリング保持面383fおよびスプリングカバー383jの支持面383pは、上記のように円柱状に形成されている。このため、スプリング保持面383fおよびスプリングカバー383jの支持面383pによって略円柱状の空間が形成されている。円柱状の空間内をスライダー403はスライド可能である。支持面383pには、円柱の底に相当する端面383sが含まれている。スプリング保持面383fは、円柱の底に相当する端面383hが含まれている。スプリング支持部392は、スライダー403に接触可能な支持端392aを含んでいる。スライダー403の底403aの一部は、スプリング保持面383fの端面383hと接触している。スライダー403の底403aの別の部分は、支持面383pの端面383sと接触している。スライダー403の底403aのさらに別の部分は、スプリング支持部392の支持端392aと接触している。このため、コイルスプリング40は、スプリング支持部392の支持端392a、支持面383pの端面383sおよびスプリング保持面383fの端面383hによって、周方向における前後方向回転位置がその中立点に決められている。
【0057】
ボルト51の周囲には、ボス部51aが形成されている。ピン394を挟んでボス部51aと対称の位置にボス部51bが配置されている。ボス部51a及びボス部51bは、ハンドリムベース部39に一体に形成されている。
【0058】
図13は、
図12のJ−J断面図である。
図13では、説明の便宜のため、ホイールハブ383、ハンドリムベース部39、コイルスプリング40およびスプリングカバー383jについて詳細な構成については省略している。スライダー403の底403aは、車軸32の軸方向内側から外側に向かって順に、ホイールハブ383、ハンドリムベース部39およびスプリングカバー383jと接触している。車軸32の軸方向における、スライダー403の外側の面は、スプリングカバー383jの支持面383pと接触可能である。車軸の軸方向における、スライダー403の内側の面は、ホイールハブ383のスプリング保持面383fと接触可能である。このため、コイルスプリング40は、スプリングカバー383jの支持面383pおよびホイールハブ383のスプリング保持面383fによって、軸方向における位置が決められている。
【0059】
図14は、ハンドリムベース部39がホイールハブ383に対して回転変位した場合のコイルスプリング40の周囲の状態を示す部分拡大側面図である。
図14では、ハンドリムベース部39が矢印Pの方向に回転している。
図14は、ボルト51の周囲のボス部51aが円弧状の溝383qの縁と接触する地点までハンドリムベース部39がホイールハブ383に対して回転している状態を示している。この状態においては、ピン394と貫通孔383mの縁との間にはわずかな空間が設けられており、ピン394は、貫通孔383mの縁とは接触していない。ハンドリムベース部39が矢印Pの方向に所定量回転すると、ボス部51aが溝383qの縁と接触する。このため、ハンドリムベース部39は、
図14の状態から矢印Pの方向に回転することができない。ハンドリムベース部39を矢印Pの逆方向に回転させた場合についても同様に、ボス部51bが溝383qの縁に接触する地点を超えてハンドリムベース部39は回転することができない。このように、ハンドリムベース部39とホイールハブ383の相対回転は、溝383qと、ボス部51aおよびボス部51bとによって、所定の範囲に制限されている。
図12の状態からハンドリムベース部39がホイールハブ383に対して後方(矢印Pの方向)に回転すると、スプリング支持部392の支持端392aと、スプリング保持面383fの端面383hおよび支持面383pの端面383sとの間の距離が縮まる。このようにして、コイルスプリング40は、スプリング支持部392の支持端392a、スプリング保持面383fの端面383hおよび支持面383pの端面383sによって圧縮させられる。
【0060】
支持プレート500、ホイールハブ383およびハンドリムベース部39には、ハンドリムベース部39のホイールハブ383に対する回転変位を検出する回転変位検出機構41が設けられている。以下に、回転変位検出機構41の構成について、
図15を参照して説明する。
【0061】
図15は、回転変位検出機構41の周囲を示すハブ33の部分拡大正面図である。回転変位検出機構41の磁気電気変換部に含まれる部材は、軸方向における幅Zの間に配置されている。回転変位検出機構41の軸方向における幅Z(本願発明の回転変位検出機構の軸方向幅に相当)は、モータ381の軸方向における幅X(
図6参照)よりも小さい。回転変位検出機構41は、環状磁石42、環状プレート43および検出素子44を含んでいる。環状磁石42は、ネジ421によってホイールハブ383に取り付けられている。環状磁石42は、径方向において、伝達ギア383gよりも内側に配置されている。環状プレート43の内径は、径方向において、環状磁石42よりも内側に位置している(
図15の上側参照)。環状プレート43の一部は、径方向において、環状磁石42と重なる位置に配置されている(
図15の下側参照)。環状プレート43は、ハンドリムベース部39にボルト51で固定されたプレート50に嵌合したピン394に一体である。このため、環状プレート43は、ハンドリムベース部39と共にパワーユニット38に対して回転する。ピン394は、ホイールハブ383を軸方向に貫通している。検出素子44は、いわゆるホール素子である。検出素子44は、磁気を検出可能である。検出素子44は、検出した磁気を電気信号に変換して制御部に出力する。検出素子44は、支持プレート500に固定されている。検出素子44は、軸方向において、環状プレート43の内側に位置している。検出素子44は、径方向において、環状磁石42および環状プレート43よりも内側に位置している。検出素子44の軸方向外側には、金属プレート441が配置されている。金属プレート441は、径方向において環状プレート43の一部と重なっている。このため、検出素子44は、環状磁石42からの磁気を直接検出することはなく、環状プレート43および金属プレート441を介して磁気を検出する。検出素子44が検出した磁気は、電気信号として制御部に出力される。
【0062】
図16は、環状磁石42の部品図である。環状磁石42には、周方向にS極422とN極423が交互に配置されている。環状磁石42には、9つのS極422およびN極423が設けられている。環状磁石42は、固定板424を含んでいる。固定板424は、環状磁石42をホイールハブ383に固定するための部分である。固定板424には、孔425(取付孔とノック孔)が形成されている。ホイールハブ383に環状磁石42を取り付ける際には、ノック孔にノックピンを入れ、ネジ421で固定される。
【0063】
図17は、環状プレート43の部品図である。環状プレート43は、基部431および9つの突部432を含んでいる。基部431は、環状である。基部431は、径方向において、金属プレート441と重なる位置に配置されている(
図15参照)。径方向において、基部431の幅は、突部432の幅よりも狭い。突部432は、基部431から径方向外側に向かって延びている。突部432は、周方向に等間隔に並べて配置されている。突部432は、40°の間隔で周方向に9つ並べて配置されている。突部432は、径方向において、環状磁石42と重なる位置に配置されている。
【0064】
図18は、パワーユニット38から第3ハウジング334を取り外した状態における、パワーユニット38の側面全体図である。
図18における2点鎖線Dは、減速機構382のギアが配列される第1方向を示している。2点鎖線Gは、車輪3が配置された平面内において、車輪3の中心を通り、2点鎖線Dと直交する方向に延びる線を示している。車軸32の周囲には、2つの検出素子44が固定されている。減衰機構382の延びる方向を第1方向(2点鎖線D)とする。1対の検出素子44は、前後方向において、2点鎖線Dを挟んでほぼ対称な位置に配置されている。
【0065】
図19は、
図18の部分拡大図である。
図19は、1対の検出素子44の周囲を示している。一方の検出素子44aと車軸32の中心とを通る線を線Kとする。他方の検出素子44bと車軸32の中心とを通る線を線Lとする。線Kと第1方向Dとがなす角度Eと、線Lと第1方向Dとがなす角度Fとの合計が140°(=E+F)となっている。
【0066】
1対の検出素子44は、140°の間隔で配置されているため、例えば、一方の検出素子44aの軸方向外側に環状磁石42のN極423が位置している場合には、他方の検出素子44bの軸方向外側には環状磁石42のS極422が配置される(
図16参照)。各検出素子44a、44bから出力された電気信号の電圧は、制御部において加算される。例えば、一方の検出素子44aの軸方向外側に突部432が位置している状態では、軸方向外側から見ると、他方の検出素子44bは隣り合う突部432の中間に位置する(
図17の位置Q参照)。
【0067】
また、
図19に示すように、検出素子44a(第1素子)および検出素子44b(第2素子)は、車軸32の側面に設けられた円筒381gよりも径方向外側に配置されている。こうして、検出素子44a、44bを円筒381gの周囲に配置しているため、検出素子44a、44bを軸方向において円筒381gと重ねることができる。したがって、検出素子44a、44bが軸方向において円筒381gと重なっていない構成に比べて車輪全体の厚みを薄くすることができる。
【0068】
図20は、環状プレート43が環状磁石42に対して回転していない状態(ハンドリム31が操作されていない状態)における環状磁石42と環状プレート43の位置関係を示す概略図である。
図20に示すように、乗員によってハンドリム31が操作されていない状態では、突部432の軸方向外側(
図20の紙面の奥側)は、N極423とS極422の間に位置している。この状態では、N極423の磁気は、突部432を通ってS極422に移動する。このとき、磁気は、基部431を通らないため、検出素子44では、磁気が検出されない。ハンドリム31が乗員によって操作されると、ハンドリムベース部39がホイールハブ383に対して相対回転変位する。ハンドリムベース部39の回転変位に伴ってピン394(
図15参照)が回転変位する。ピン394の回転変位により環状プレート43が環状磁石42に対して相対回転変位する。ハンドリム31の操作力が大きくなり、ボルト51のボス部51aが溝383q(
図14参照)の縁と接触している状態では、環状磁石42と環状プレート43の位置関係が
図21に示す状態へと変化する。
図21は、環状プレート43が環状磁石42に対して
図21における時計回り方向に約5度回転した状態を示している。このとき、突部432は、S極422よりもN極423に近い位置に位置している。このため、N極423の磁気の一部は、基部431を通り、検出素子44で検出される。
【0069】
車椅子1では、制御部において、2つの検出素子44のそれぞれで検出した検出結果が加算される。制御部は、2つの検出結果を加算した算出結果に基づいて、モータ381の出力を決定する。
【0070】
〈動作〉
図22は、ハンドリム31に外部から力が加えられていない状態において、ホイールカバー393およびカバー383cが取り外されたハブ33を示している。
図22において、スポーク34やタイヤ36等は省略している。
図22の状態から乗員がハンドリム31を後方(
図22において時計回り方向)に回転させた場合には、ハンドリム31の回転に伴って、ハンドリムベース部39が車軸32を中心として
図22において時計回りに回転変位する(
図23参照)。ハンドリムベース部39は、矢印Hの方向に回転変位する。このとき、
図23に示すように、スプリング支持部392の支持端392aとスプリング保持面383fの端面383hとによってコイルスプリング40は圧縮させられる。すなわち、
図12の状態から
図14の状態へと変化する。この状態では、ハンドリム31の操作力に応じた角度変位(回転変位)が生じている。ここで、ハンドリムベース部39に固定されたピン394が、ホイールハブ383に設けられた円弧状の貫通孔383mの縁に接触するまで、ハンドリムベース部39はホイールハブ383に対して回転可能である。コイルスプリング40が圧縮している状態では、ハンドリム31を操作した乗員の力の一部は、ハンドリム31から接続パイプ37、ハンドリムベース部39およびコイルスプリング40を介してホイールハブ383に伝達される。
【0071】
次に、ハンドリムベース部39のホイールハブ383に対する相対回転変位を検出する動作について説明する。乗員によってハンドリム31が回転方向に押されたとき、ハンドリムベース部39は、ボルト51のボス部51aが溝383qの縁に接触するまでホイールハブ383に対して回転する。操作力に応じた角度の分だけ、ハンドリムベース部39は、ホイールハブ383に対して回転する。このとき、環状プレート43(
図15および
図17参照)が車軸32を中心として回転し、環状磁石42に対して相対回転変位する。環状プレート43が環状磁石42に対して相対回転すると、突部432が環状磁石42の軸方向内側を周方向に移動する。突部432の移動に伴って、検出素子44の検出する磁気が変化する。検出素子44が検出する磁気の変化に基づいて、ハンドリムベース部39のホイールハブ383に対する相対回転変位を検出する。このとき、検出素子44は、環状磁石42および環状プレート43の回転変位による磁気の変化を検出する。検出素子44で検出された磁気は、電気信号に変換された後、制御部に出力される。
【0072】
検出素子44の検出結果は制御部に出力される。制御部では、ハンドリムベース部39のホイールハブ383に対する相対回転量に基づいて、モータ381の出力が決定される。モータ381の出力が決定されるとバッテリ4から電力がステータ381bのコイルに供給される。ステータ381bのコイルに電力が供給されると、ステータ381bに対してロータ381aが回転する。ロータ381aが回転すると、モータ軸381cが回転する。モータ軸381cの回転によって、第1ギア382aが回転する。第1ギア382aが回転すると、第2ギア382b、第3ギア382c、第4ギア382hおよび伝達ギア383gを介してホイールハブ383に動力が伝達される。このようにして、モータ381からの動力と乗員のハンドリム31を操作する力の合力によって車椅子1が移動する。
【0073】
ハンドリム31から乗員が手を放すと、コイルスプリング40がハンドリムベース部39を矢印Hの逆方向に回転させてハブ33は
図22の状態に戻る。この状態では、モータ381からの動力および乗員のハンドリム31を操作することに基づく動力による車輪3の回転が続いている。このとき、環状磁石42と環状プレート43は、
図20の状態となっている。しかしながら、ハンドリムベース部39や、ホイールハブ383等の各部材には取り付け公差が存在する。このため、ハンドリムバース部39およびホイールハブ383が一体に回転する場合であっても、環状プレート43は環状磁石42に対して微小に変位するため、検出素子44は、磁気を検出する。検出素子44において検出される磁気を磁気ノイズと呼ぶ。
【0074】
あるいは、環状プレート43の各突部432の丈にばらつきがある場合がある。このような場合には、検出素子44の位置と対向するハンドリムベース部39と一体回転するピン394(コア部材)との位置関係が、車輪3が回転することによって変化する。そのため、環状プレート43の径方向において丈の短い突部432と検出素子44とが合うときと、環状プレート43の径方向において丈の長い突部432と検出素子44とが合うときとで、出力の大きさが微妙に変化する。この変化量が磁気ノイズとなる場合もある。
【0075】
例えば、ハンドリムベース部39とホイールハブ383が一体としてパワーユニット38に対して回転している状態で、環状磁石42と環状プレート43が
図20の位置関係でともに回転している。この状態で、各検出素子44a、44bにおいて磁気ノイズが検出される。
図24は、磁気ノイズが検出された場合における、検出素子44の検出結果を電気信号へと変換した際の電圧の一例を示す。縦軸は、電圧を示す。横軸は時間を示す。
図24(a)は、一方の検出素子44aの検出結果に基づく電気信号の電圧を示す。
図24(b)は、他方の検出素子44bの検出結果に基づく電気信号の電圧を示す。
図24(a)および
図24(b)に示すように、検出素子44の一方の検出結果に基づく電気信号と、検出素子44の他方の検出結果に基づく電気信号とは、位相が反転している。したがって両者を足し合わせると波形は完全に打ち消された状態となる。このため、検出素子44で磁気ノイズが検出された場合であっても、検出精度が低下するのを防止できる。このように、一方の検出素子44aが本発明の「第1素子」として機能し、他方の検出素子44bが本発明の「第2素子」として機能している。
【0076】
なお、ハンドリム31が操作されている状態においても、車椅子の振動等によって磁気ノイズが検出される場合があるが、上記のように、磁気ノイズは検出素子44の結果を加算することで打ち消すことができる。
図24は、一例であって、必ず
図24と同じ検出結果が得られるとは限らない。
【0077】
〈本実施形態の特徴〉
上記の実施形態に記載の車椅子1の車輪3に取り付けられたモータ381は、アキシャルギャップモータで薄型モータとなっているため、さまざまな形状のフレームに取り付けることができる。
【0078】
上記の実施形態に記載の車椅子1に取り付けられた車輪3では、車体フレーム2の車輪取り付け面より外側にモータ381が配置され、電気的な回転変位検出機構41は、車軸32を中心とした環状プレート43および環状磁石42を含んでいる。回転変位検出機構41は、径方向および周方向において、環状磁石42および環状プレート43と重なる位置に配置された1対の検出素子44を含む磁気を用いた検出機構のため、パワーユニット38側へハンドリムベース部39とホイールハブ383との相対回転変位を検出する機構が、他方式、例えば回転トランスおよびポテンショメータを用いた構成である場合と比較して、パワーユニット38の軸方向幅を小さくすることができる。このため、車椅子1の車幅を小さくすることができる。
【0079】
上記の実施形態に記載の車椅子1における回転変位検出機構41は、パワーユニット38に取り付けられた部材とホイールハブ383に取り付けられた部材とが接触することなく、ハンドリムベース部39とホイールハブ383の相対回転変位を検出する。このため、回転変位検出機構41に含まれる部材が摩耗することがない。したがって、パワーユニット38側へホイールハブ383とハンドリムベース部39との相対回転変位を検出する精度が低下するのを防止できる。
【0080】
ギアドモータのモータ軸と回転変位検出機構541のセンサ部が同軸構造であるため、周方向において、車軸32の周囲に回転変位検出機構41の検出素子44を配置可能なスペースを形成することができる。したがって、軸方向において、検出素子44を減速機構382と並べて配置している構成に比べて、軸方向の幅を小さくすることができる。
【0081】
上記の実施形態の車椅子1では、2つの検出素子44を用いてパワーユニット38側へホイールハブ383に対するハンドリムベース部39の回転を検出している。2つの検出素子44では、それぞれの検出素子44の検出結果に基づく電気信号の位相が反転している。このため、検出素子44で磁気ノイズが検出された場合であっても、各検出素子44の検出結果を足し合わせた際に、磁気ノイズをキャンセルすることができる。上記の車椅子1では、2つの検出素子44を用いているため、例えば、一方の検出素子44が断線した場合には、電気信号の変動等がキャンセルされない。このため、車椅子1では、一方の検出素子44の断線を容易に検出することができる。上記の車椅子1では、
図9に示すように、減速機構382の延びる方向を第1方向(2点鎖線D)とすると、一方の検出素子44aと他方の検出素子44bは、第1方向を挟んで配置される。このため、ハブ33が上下方向に撓んだ場合には、お互いの検出素子44の検出結果への影響を互いに打ち消す。したがって、車椅子1では、ハブ33が上下方向に撓んだ場合にでも、電気信号を精度よく検出できる。
【0082】
[他の実施形態]
(1)上記の実施形態の車椅子1では、モータとしてアキシャルギャップ式のモータを用いたが、本発明は、これに限らない。例えば、モータとしてラジアルギャップ式のモータを用いてもよい。
【0083】
(2)上記の実施形態の車椅子1では、ホイールハブ383とハンドリムベース部39の相対回転変位を検出する回転変位検出機構41は、一例であってこれに限られない。環状に配置可能な構成であればよい。
【0084】
(3)さらに、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したものに対して種々の変形例を加えることが可能である。そこで、例えば次に示すような動力補助機構10を装備した車輪3(電動アシスト用車輪)を構成することもできる。
図25は、実施形態の変形例にかかる車輪が備える動力補助機構の周囲の構成を拡大して示す正面断面図であり、
図26は、動力補助機構が備える回転変位検出機構の周囲を拡大して示す正面断面図である。これらの図および以下の図面では、車軸32が延びる左右方向に軸方向Daを適宜付する。実施形態の変形例が上記の実施形態と異なるのは、主として押圧リング395によりコア部材394を押圧する構成を具備する点にある。以下では、上記実施形態との共通部分について説明した後に、上記実施形態との差異部分について説明する。
【0085】
上記実施形態で詳述したとおり、車体フレーム2の左右両側には車軸32が取り付けられており、各車軸32に対して車輪3およびハンドリム31がそれぞれ回転自在に取り付けられている。具体的には、車軸32を中心とする円環状の車輪3の内周側に配置された円形のホイールハブ383が、各車軸32に対して回転自在に取り付けられており、ホイールハブ383の周縁部から外周側に延びる複数のスポーク34が車輪30のタイヤ36に接続されている。これによって、車輪3は、ホイールハブ383を伴って車軸32の周りを回転自在となっている。さらに、車軸32を中心とする円環状のハンドリム31の内周側であってホイールハブ383の外側に配置されたハンドリムベース部39が、各車軸32に対して回転自在に取り付けられており、ハンドリムベース部39の周縁部から外周側へ放射状に延びる3本の接続パイプ37がハンドリム31に接続されている。これによって、ハンドリム31は、ハンドリムベース部39と一体的に車軸32の周りを回転自在となっている。なお、ハンドリムベース部39はホイールハブ383から独立して回転自在に設けられており、ハンドリム31は、車軸32の周りで車輪3とは個別に回転できる。
【0086】
各ハンドリム31は、弾性部材(後述するスプリング)を介して隣接する車輪3に当接しており、乗員がハンドリム31に加えたトルクは、弾性部材を介して車輪3に伝達されて、車輪3を回転させる。この際、乗員からのトルクを受けて弾性部材が変形する量に応じた分だけ、ハンドリム31が車輪3に対して変位する。そして、車椅子1が備える動力補助機構10は、車輪3に対するハンドリム31の変位量を測定した結果に基づいてハンドリム31に加えられたトルクを検出するとともに、検出されたトルクに応じた補助動力を車輪3に与える。この動力補助機構10の詳細は次のとおりである。
【0087】
つまり、動力補助機構10は、車輪3に補助動力を与えるパワーユニット38を、ホイールハブ383の軸方向Daの内側に備える。パワーユニット38は、モータ381が発生する駆動力を、
図6を用いて詳述した複数のギアの配列で構成される減速機構382(動力伝達系)を介してホイールハブ383へ与えて、車輪3を回転させる。
【0088】
モータ381は、ベアリング911を介して車軸32に回転自在に取り付けられたモータ軸381cと、モータ軸381cに取り付けられたロータ381aと、軸方向Daの外側からロータ381aに対向するステータ381bとを有する。ロータ381aは、モータ軸381cに取り付けられて車軸32を中心とする円環状のバックヨーク381dと、バックヨーク381dの軸方向Da外側に取り付けられて車軸32を中心とする円環状の磁石381eとで構成されている。そして、ロータ381aの磁石381eがステータ381bに対向する。
図7、
図8を用いて上述した通り、ステータ381bは、車軸32を中心とする円環状に複数のコイルを配列した構成を具備しており、車軸32に固定されている。したがって、ステータ381bの各コイルに電流が印加されることで、ロータ381aがモータ軸381cを伴って車軸32の周りで回転する。そして、モータ軸381cのトルクが、減速機構382のギア382aなどを介して、ホイールハブ383へ伝わる。こうして、モータ381が生成した動力(補助動力)を受けて、ホイールハブ383と共に車輪3が回転する。
【0089】
ホイールハブ383は、ボールベアリング383aを介して車軸32に対して取り付けられている。ホイールハブ383の周縁部は軸方向Da内側に屈曲されてスポーク34が取り付けられている一方、ホイールハブ383の中央部は軸方向Daに肉厚に形成されている。ホイールハブ383の中央部の外側面は、軸方向Daの外側に突出して、リムベース取付部390を構成する。ホイールハブ383のリムベース取付部390には、ベアリング391を介してハンドリムベース部39が取り付けられている。このように、ハンドリムベース部39は、ホイールハブ383のリムベース取付部390を介して車軸32に取り付けられており、ホイールハブ383から独立して車軸32の周りを回転することができる。また、ホイールハブ383およびハンドリムベース部39の外側面は、円形カバーJ1と、当該円形カバーJ1を囲む環状カバーJ2とで覆われている。
【0090】
ハンドリムベース部39からホイールハブ383へは、動力補助機構10が有するスプリング401、402(コイルスプリング)を介して、トルクを伝達できるように構成されている。つまり、ホイールハブ383において、スポーク34が取り付けられた周縁部とリムベース取付部390が設けられた中央部の間に設けられたスプリング保持面383fには、円筒形状のスプリングカバー383jが取り付けられており、スプリングカバー383j内にスプリング401、402(圧縮バネ)が概ねホイールハブ383の周方向に配置されている。スプリング401の径はスプリング402の径よりも大きく、スプリング401の中にスプリング402が挿入されている。また、スプリング401、402の少なくとも一方は、予め縮んだ状態(つまり、与圧された状態)でスプリングカバー383jに収容されている。
【0091】
再び
図13、
図14および
図22を用いて動力補助機構10について詳述する。なお、
図22に示すように、3個のスプリングカバー383jが周方向に等ピッチで設けられているが、各スプリングカバー383jに関する構成はいずれも同一であるので、ここでは、1個のスプリングカバー383jに対して設けられた構成を中心に説明を行う。
【0092】
ホイールハブ383に取り付けられたスプリングカバー383j内には、一対のスライダー403がスプリング401、402の伸縮方向(概ねホイールハブ383の周方向)に互いに対向した状態で収容されている。各スライダー403は、一方面が開口して他方面が閉塞した中空の円筒形状を有しており、各スライダー403の開口が向き合っている。そして、これらスライダー403の間にスプリング401、402が挿入されており、各スライダー403は、スプリング401、402によって相互に離間する方向に付勢されつつ、スプリング401、402の伸縮方向へ移動自在となっている。その結果、トルクが無印加の場合に対応する
図22に示す状態では、各スライダー403がスプリング401、402の付勢力で外側に押し遣られて、スプリングカバー383jの各端に当接している。
【0093】
一方、ハンドリムベース部39は、一対のスライダー403をスプリング401、402の伸縮方向から挟むように配置された一対のスプリング支持部392を有する。
図5に示すように、スプリング401、402の伸縮方向から見て、ホイールハブ383およびスプリングカバー383jはスライダー403の中心部から両端に外れており、各スライダー403の中心部は、隣接するハンドリムベース部39(スプリング支持部392)に対して露出している。また、
図22に示すように、両スプリング支持部392の間の距離は、スプリングカバー383jの各端の間の距離に等しい。その結果、
図22に示す状態では、各スプリング支持部392は、スプリングカバー383jの各端に当接する各スライダー403に、当該スライダー403の中心部で接している。このような構成では、前進方向Dfあるいは後進方向Db(方向Df、Dbは互いに逆向き)に向かうトルクがハンドリム31に印加されると、ハンドリムベース部39は、スプリング401、402の弾性力に抗しつつ、ホイールハブ383に対してトルクの印加方向へ変位する。
【0094】
つまり、
図14に示すように、後進方向Db(
図14の略右方向)に向かうトルクがハンドリム31に印加されると、ハンドリムベース部39において対を成すスプリング支持部392のうち、前進方向Df(
図14の略左方向)側のスプリング支持部392は、それが接するスライダー403に対して後進方向Dbへ向かうトルクを与える。そして、前進方向Df側のスプリング支持部392からスライダー403へ与えられたトルクが、スプリング401、402の与圧を超えると、前進方向Df側のスプリング支持部392は、スプリング401、402の弾性力に抗してスライダー403を後進方向Dbへ押し遣り、その結果、ハンドリム31は車輪3に対して後進方向Dbに回転する。そして、ハンドリム31に与えられたトルクによってスライダー403に働く力と、スプリング401、402の弾性力との合力がゼロとなるまで、ハンドリム31は車輪3に対して変位する。この際、車輪3に対するハンドリム31の後進方向Dbへの変位量は、乗員がハンドリム31に与えるトルクの大きさに応じた(比例した)ものとなる。
【0095】
なお、ここでは、後進方向Dbに向かうトルクがハンドリム31に与えられた場合を例示したが、前進方向Dfに向かうトルクがハンドリム31に与えられた場合についても、車輪3に対するハンドリム31の変位方向が逆である点を除き、同様の動作が実行される。つまり、乗員がハンドリム31に与えるトルクの大きさに応じた(比例した)変位量だけ、ハンドリム31は、車輪3に対して前進方向Dfへ変位する。
【0096】
また、
図5、
図25および
図14に特に示されるように、車輪3に対するハンドリム31の変位を制限する構成が設けられている。具体的には、ハンドリムベース部39に形成された環状溝39aには環状プレート50が嵌入されており、当該環状プレート50は1本のボルト51によってハンドリムベース部39にネジ止めされている(なお、
図14において破線で示されたボス部51bは、環状プレート50を止めるボルトとしては機能しない)。したがって、これらのボルト51はハンドリム31に伴って、車輪3に対して回転方向Df、Dbに変位する。一方、ホイールハブ383に対しては円弧状の溝383qが形成されており、ハンドリムベース部39にネジ止めされた各ボルト51のボス部51aは、当該溝383qの内側を移動する。したがって、車輪3に対するハンドリム31の前進方向Dfへの変位は、前進方向Dfのボルト51のボス部51aが溝383qの前進方向Df端部に当接するまでの範囲に制限される。同様に、車輪3に対するハンドリム31の後進方向Dbへの変位は、後進方向Dbのボルト51のボス部51bが溝383qの後進方向Db端部に当接するまでの範囲に制限される。
【0097】
ちなみに、ホイールハブ383には、溝383qの内側に設けられた円弧状の貫通孔383mが形成されている。そして、貫通孔383mには、コア部材394の爪部394aが嵌入している。これら貫通孔383mやコア部材394の爪部394aの役割については、改めて詳述する。
【0098】
上述したように、ハンドリム31は、乗員が与えたトルクに応じた量だけ、車輪3に対して変位する。そこで、動力補助機構10は、車輪3に対するハンドリム31の変位量を測定し、その結果に基づいてハンドリム31に加えられたトルクを検出する。そして、この実施形態においても上記実施形態と同様に、磁気センサを用いて変位量を測定する。
【0099】
図26に加えて
図20を再び用いて、この点について詳述する。回転変位検出機構41では、車軸32を中心とする円環状に構成された環状磁石42が、ホイールハブ383の内側に固定板424を介して取り付けられている。環状磁石42は、S極422とN極423とを交互に所定の配列ピッチで環状に配列した構成を具備する(
図20の例では、18個の磁極422、423が20度の配列ピッチで配列されている)。そして、環状磁石42は、ホイールハブ383に伴って車軸32の周りを回転する。
【0100】
さらに、回転変位検出機構41では、車軸32を中心とする円環状に構成された環状プレート43が設けられている。環状プレート43(被磁化部)は磁性体(例えば、強磁性体である鉄)であり、軸方向Daにおいて、内側から環状磁石42に隣接する。環状プレート43は、径方向の外側に突出して軸方向Daから環状磁石42に対向する複数の突部432を所定の配列ピッチで環状に配列した構成を具備する(
図8の例では、9個の突部432が40度の配列ピッチで配列されている)。この際、環状プレート43における突部432の配列ピッチ(=40度)は、環状磁石42における各磁極422、423の配列ピッチ(=20度)の偶数倍(
図20では2倍)に設定されており、磁極422、423に対する突部432の位置関係が、各突部432について同一となるように構成されている。その結果、各突部432は、環状磁石42が作り出す磁界の影響を同様に受けて、同程度に磁化する。なお、周方向に隣接する各突部432の間の各基部431では、環状プレート43は、環状磁石42から外れている。
【0101】
図26に示すように、回転変位検出機構41は、本体394a、394bによって突部432の間の基部431で環状プレート43を保持した概略構成を具備するコア部材394(上記実施形態におけるピン394に相当)を有する。コア部材394は、非磁性部材(例えば、樹脂)からなる本体394a、394bに環状プレート43を鋳込んで構成されており、軸方向Daに延設された爪部394aと、爪部394aの軸方向Daの内側端部から車輪30の径方向の中心側へ向かって延設された保持部394bとを有する。爪部394aは、ホイールハブ383に設けられた円弧状の貫通孔383mから軸方向Daの外側へ突出して、環状プレート50に設けられた係合孔50aに係合する。環状プレート50の係合孔50aは、コア部材394の爪部394aに対して同径あるいは若干大径に構成されている。上述のとおり、環状プレート50はハンドリム31のハンドリムベース部39に固定されているため、ハンドリム31が回転すると、環状プレート50の係合孔50aは係合するコア部材394を伴って回転し、その結果、コア部材394の本体394a、394bに保持される環状プレート43も回転する。ちなみに、コア部材394の爪部394aが嵌入するホイールハブ383の貫通孔383mは、周方向に長さを有する円弧状に形成されているため、コア部材394は、貫通孔383mに妨げられることなく、環状プレート43を伴って回転できる。このように、コア部材394の爪部394aの機能によって、環状プレート43は、ハンドリム31に伴って車輪3に対して変位する。
【0102】
コア部材394の保持部394bは、軸方向Daの内側で環状磁石42を車輪3の径方向に跨ぐように設けられており、この保持部394bに環状プレート43が鋳込まれている。こうして、環状プレート43は、コア部材394の保持部394bの機能によって、環状磁石42の軸方向Daの内側で、環状磁石42に対して所定のクリアランスを空けて保持される。
【0103】
さらに、回転変位検出機構41は、軸方向Daにおいて環状プレート43を挟んで環状磁石42の反対側(換言すれば、環状プレート43の軸方向Daの内側)に配置された磁気ヘッド440を有する。磁気ヘッド440は車軸32に固定されており、回転しない。磁気ヘッド440は、環状プレート43に対向する金属プレート441(例えば、鉄製)と、軸方向Daの内側から金属プレート441に対向する検出素子44と、軸方向Daの内側から検出素子44に対向するバックアップ部材443とを有する。このように磁気ヘッド440は、軸方向Daにおいて金属プレート441とバックアップ部材443とで検出素子44を挟んだ構成を具備する。金属プレート441は、環状磁石42によって磁化された環状プレート43が発生する磁界を集める集磁部材として機能する。一方、バックアップ部材443は、金属(例えば、鉄)で構成され、金属プレート441との間で磁界の経路を形成する機能を果たす。検出素子44は、例えばホール素子などの磁気センサにより構成され、金属プレート441からバックアップ部材443へ到る磁界を検出して電気信号(電圧信号)を出力する。
【0104】
上述したような構成を具備する回転変位検出機構41では、ハンドリム31に印加されたトルクに応じた大きさの電気信号が、検出素子44から出力される。つまり、回転変位検出機構41では、トルクの印加によってハンドリム31が車輪3に対して変位すると、ハンドリム31に取り付けられた環状プレート43が、車輪3に取り付けられた環状磁石42に対して変位する。その結果、環状磁石42による環状プレート43の磁化の程度がハンドリム31の変位量に応じて変化し、検出素子44が出力する電気信号が変化する。この点について、
図20に加えて
図21を再び用いて詳述する。
【0105】
図20に示すように、ハンドリム31にトルクが印加されていない状態では、環状プレート43の各突部432は、N極423とS極422の境界に位置するため、両磁極422、423よる各突部432の磁化が相殺して、環状プレート43は磁化しない。したがって、検出素子44は、基準電圧に等しい電圧の電気信号を出力する。これに対して、例えば
図21に示すように、ハンドリム31に後進方向Dbへ向かうトルクが印加された状態では、環状プレートの各突部432は、N極423とS極422の境界よりもN極423側(後進方向Db側)にずれるため、環状プレート43は、S極422よりもN極423の影響を強く受けて、N極に磁化する。したがって、検出素子44は、基準電圧より大きい電圧の電気信号を出力する。具体的には、電気信号は、N極423とS極422の境界に対する各突部432の変位量に応じた大きさを有する。そして、かかる変位量は、上で詳述した理由からハンドリム31に印加されたトルクの大きさに応じたものとなる。その結果、検出素子44は、後進方向Dbに加えられたトルクに応じた大きさの電気信号を出力する。
【0106】
なお、ここでは、後進方向Dbに向かうトルクがハンドリム31に与えられた場合を例示したが、前進方向Dfに向かうトルクがハンドリム31に与えられた場合についても、検出素子44からの電気信号の極性が逆(基準電圧より小さい電圧)である点を除き、同様の動作が実行される。つまり、検出素子44は、前進方向Dbに加えられたトルクに応じた大きさの電気信号を出力する。
【0107】
このように、本変形例においても、上記実施形態と同様に、回転変位検出機構41は、環状プレート43(第1プレート)と環状磁石42(磁石)とをモータ381の車軸32を中心として相対的に回転させることで、ホイールハブ383に対するハンドリムベース部39の回転変位を検出している。こうして、回転変位検出機構の回転中心(換言すれば、環状プレート43と環状磁石42とが相対的に回転する中心)がモータ381の車軸32中心に一致しており、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0108】
ところで、上記のような回転変位検出機構41を用いた場合、車輪3に対するハンドリム31の変位に時間的変化が無い場合は、回転変位検出機構41は、車輪3に対するハンドリム31の変位量に応じた一定の大きさの電気信号を出力し続ける。しかしながら、環状プレート43の複数の突部432それぞれの長さが、製造誤差などに起因してばらつくことで、車輪3に対するハンドリム31の変位に時間的変化が無いにも関わらず、回転変位検出機構41が出力する電気信号の大きさが時間的に揺らぐことがある。
【0109】
つまり、車輪3に対するハンドリム31の変位に時間的変化が無い状態で車椅子1が走行している場合は、車輪3とハンドリム31とは一定の変位量を維持しながら、車軸32の周りを回転する。その結果、車輪3側の環状磁石42とハンドリム31の環状プレート43とは、一定の位相差を維持しながら磁気ヘッド440の前を通過する。この際、環状磁石42と環状プレート43の位相差が一定であることから、環状プレート43は、当該位相差に応じた一定量だけ磁化する。しかしながら、環状プレート43において周方向に並ぶ複数の突部432の長さがばらついていると、環状プレートの磁化の程度が周方向の位置によって変動してしまい、磁気ヘッド440が出力する電気信号が、これに応じて揺らいでしまう(磁気ノイズ)。
【0110】
そこで、例えば
図19を用いて説明したように、車椅子1では、複数(具体的には2個)の回転変位検出機構41が各車輪3に対して設けられている。上述した通り、
図19では、車軸32の中心を通り鉛直方向に延びる仮想直線Dと、車軸32の中心を通り水平方向に延びる仮想直線Gとが併記されている。さらに、仮想直線D、Gの交点を中心として、各回転変位検出機構41の検出素子44(素子)から仮想直線Dに到る角度E、Fが併記されている。角度E、Fはいずれも70度に設定されており、両検出素子44(第1素子、第2素子)の間の角度(=E+F)は140度となっている。このように回転変位検出機構41を配置した構成では、環状プレート43での突部432の配列ピッチPpが40度であるため、突部432が一方の検出素子44に径方向から対向するタイミングでは、隣接する突部432の間の基部431が他方の検出素子44に径方向から対向する。したがって、検出素子44へ径方向から対向する位置を突部432が順に通過する周期をT432としたとき、径方向から対向する突部432による磁界を検出するタイミングは、両検出素子44の間で半周期(=T432/2)だけずれる。その結果、両検出素子44の間で、磁気ノイズの位相が概ね反転する。よって、制御基板336は、両検出素子44の電気信号を加算することで、磁気ノイズの影響が抑制された検出信号Spを生成することができる。そして、制御基板336は、検出信号Spに応じた駆動信号Sdをモータ381に与えて、車輪3に補助動力を与える。
【0111】
このように車椅子1では、ハンドリム31にトルクTが印加されると、ハンドリム31が車輪3に対して変位する。そして、制御基板336は、車輪3に対するハンドリム31の変位量Xに応じた大きさの検出信号Spを生成し、さらに検出信号Spの大きさに応じた駆動信号Sdを生成する。つまり、ハンドリム31に印加されたトルクTに基づいて、変位量X、検出信号Sp、駆動信号Sdが順に生成される。続いては、こうして実行される信号生成の詳細について説明する。
【0112】
図27は、ハンドリムに印加されたトルクから各信号を生成する様子を模式的に示す図である。同図において、関数f1は、ハンドリム31に印加されたトルクTとハンドリム31の変位量Xとの関係を例示し、関数f2は、ハンドリム31の変位量Xと検出信号Spの関係を例示し、関数f3は、検出信号Spと駆動信号Sdとの関係を例示する。
【0113】
関数f1に示すように、車輪3に対するハンドリム31の変位量Xは、ハンドリム31に印加されるトルクTの増大に応じて増大する。つまり、前進方向Df(横軸右方向)へのトルクTが印加されると、トルクTの大きさに応じた変位量Xが前進方向Df(縦軸上方向)に発生し、後進方向DbへのトルクTが印加されると、トルクTの大きさに応じた変位量Xが後進方向Db(縦軸下方向)に発生する。ただし、上述のとおり、ハンドリム31から車輪3へトルクを伝達するスプリング401、402は与圧されている。そのため、トルクTがスプリング401、402の与圧を超えない与圧領域ΔT0にトルクTがある間は、ハンドリムTの変位量Xは生じず、トルクTが与圧領域ΔT0から外れると、トルクTの増大に比例してハンドリムTの変位量が増大する。なお、車輪3に対するハンドリム31の変位は、上述したボス部51aと溝383qによって、前進方向Dfおよび後進方向Dbの両方向において制限されている。そのため、トルクTが値Tlfに達すると変位量Xは値Xlfで一定となりそれ以上変化しない。同様に、トルクTが値Tlbに達すると変位量Xは値Xlbで一定となりそれ以上変化しない。
【0114】
関数f2に示すように、検出信号Spは、ハンドリム31に印加されるトルクTに比例して変化する。つまり、変位量Xが無い間は、基準電圧Vrと等しい電圧の検出信号Spが出力され、前進方向Df(縦軸上方向)への変位量Xが生じると、前進方向Dfに対応して基準電圧Vrより高い(横軸右方向)電圧の検出信号Spが発生し、後進方向Db(縦軸下方向)への変位量Xが生じると、後進方向Dbに対応して基準電圧Vrより低い(横軸左方向)電圧の検出信号Spが発生する。この際、検出信号Spの電圧値Vと基準電圧Vrとの差の絶対値(=|V−Vr|)で与えられる検出信号Spの大きさは、変位量Xの大きさに比例する。なお、関数f2を示すグラフでは、変位量Xが前進方向Dfの最大値Xlfであるときの検出信号Spの電圧が値Vlfと示され、変位量Xが後進方向Dbの最大値Xlfであるときの検出信号Spの電圧が値Vlbと示されている。
【0115】
関数f3に示すように、駆動信号Sdは、検出信号Spの増大に応じて増大する。つまり、前進方向Df(横軸右方向)に対応する検出信号Spが発生すると、検出信号Spの大きさに応じた駆動信号Sd(縦軸上側の極性を有する)が発生して、前進方向Dfへ向かう補助動力が車輪3に与えられる。また、後進方向Db(横軸左方向)に対応する検出信号Spが発生すると、検出信号Spの大きさに応じた駆動信号Sd(縦軸下側の極性を有する)が発生して、後進方向Dbへ向かう補助動力が車輪3に与えられる。ただし、検出信号Spを駆動信号Sdに変換する関数f3(入出力特性)には不感帯Z3が設けられている。この不感帯Z3は、電圧値Vzbから電圧値Vzfに渡って設けられており、基準電圧Vrを含むように設定されている。そのため、検出信号Spの電圧値が不感帯Z3にある間は、駆動信号Sdは生じず、モータ381は補助動力を生成しない。これに対して、検出信号Spの電圧値が不感帯Z3から外れると、検出信号Spの大きさの増大に応じて、駆動信号Sdの大きさが増大し、モータ381は検出信号Spの大きさに応じた補助動力を生成する。
【0116】
このように、検出信号Spに対する駆動信号Sdの出力に不感帯Z3を設けることは、変位量Xに対する駆動信号Sdの出力、あるいはトルクTに対する駆動信号Sdの出力に不感帯Z2、Z1を設けることと実質的に同じである。つまり、関数f2、f3を合成した変換特性(以後、f3・f2と表記)によれば、変位量Xzbから変位量Xzfに渡る不感帯Z2に変位量Xがある間は、駆動信号Sdは生じず、モータ381は補助動力を生成しない。これに対して、変位量Xが不感帯Z2から外れると、変位量Xの大きさの増大に応じて、駆動信号Sdの大きさが増大し、モータ381は変位量Xの大きさに応じた補助動力を生成する。ここで、変位量Xzbは、検出信号Spの電圧値がVzbとなるときの変位量Xであり、変位量Xzfは、検出信号Spの電圧値がVzfとなるときの変位量Xである。また、関数f1、f2、f3を合成した変換特性によれば、トルクTzbからトルクTzfに渡る不感帯Z1にトルクTがある間は、駆動信号Sdは生じず、モータ381は補助動力を生成しない。これに対して、トルクTが不感帯Z3から外れると、トルクTの大きさの増大に応じて、駆動信号Sdの大きさが増大し、モータ381はトルクTの大きさに応じた補助動力を生成する。ここで、トルクTzbは、検出信号Spの値がVzbとなるときのトルクTであり、トルクTzfは、検出信号Spの電圧値がVzfとなるときのトルクTである。ちなみに、同図に示すように、不感帯Z1は与圧領域ΔT0を含む。
【0117】
このような車椅子1では、乗員がハンドリム31を操作してハンドリム31にトルクTを印加すると、車輪3に対してハンドリム31が操作方向へ変位して、車輪3を操作方向へ駆動する補助動力が生じる。また、乗員がハンドリム31へのトルクTの印加を止めると、ハンドリム31がスプリング401、402の弾性力によって中立点にまで戻るため、車輪3へ与えられていた補助動力は消失する。
【0118】
ところで、上述で触れたとおり、実施形態の変形例では、押圧リング395によりコア部材394を押圧する構成を具備する。続いては、
図25、
図26に、
図28、
図29を加えて、かかる構成について詳述する。ここで、
図28は、円形カバーおよび環状カバーを外した際の動力補助機構の周囲の構成を示す側面図である。また、
図29は、
図25、
図26の紙面に垂直に軸方向に沿った断面において押圧リングの周辺構成を部分的に示した上面図である。
図29においては、環状磁石42のうちコア部材394に隠れた一部が破線で示されるとともに、コア部材394に隠れた環状プレート43(被磁化部)が破線で示されている。
【0119】
図25および
図26に示したように、動力補助機構10では、被磁化部43(すなわち、環状プレート43)を本体395a、394bで保持した構成を具備するコア部材394が具備されている。そして、コア部材394の保持部394aと爪部394aとで成す角部に対して、環状磁石42が設けられている。より詳しくは、コア部材394の保持部394bは、車軸32の軸方向Daの内側から環状磁石42に対向しつつ、車輪3の径方向(軸方向Daに垂直な方向)に環状磁石42を跨ぐように配置されている。そして、保持部394bは、車輪3の径方向の内端で被磁化部43を保持する。一方、コア部材394の爪部材394aは、車輪3の径方向における保持部394bの外端から軸方向Daの外側に向けて環状磁石42を跨いで延設されている。そして、軸方向Daにおける爪部材394aの外端が環状プレート50の係合孔50aに係合する。その結果、押圧リング395が外された状態では、
図11に示したのと同様に、環状プレート50(の係合孔50a)からコア部材394が覗き見える。
【0120】
コア部材394と環状磁石42をこのように配置した場合、コア部材394の被磁化部43と環状磁石42とが軸方向Daに隣接するため、被磁化部43と環状磁石42との間に磁気による引力が発生し、コア部材394には軸方向Daの外側に向かう力が働く。したがって、押圧リング395が外された状態では、コア部材394の爪部394aの軸方向Daの外端は、環状プレート50の係合孔50aから軸方向Daの外側へ突出する。ただし、本変形例では、軸方向Daの外側から環状プレート50に対して押圧リング395が重ねて配置されている。したがって、爪部394aの軸方向Daの外端は、押圧リング395によって軸方向Daの内側へ向けて押圧される。そのため、コア部材394の保持部394bと環状磁石42の間には、軸方向DaにクリアランスCLが設けられる。
【0121】
なお、押圧リング395は、固定ネジ396によってハンドリムベース部39に固定されている。つまり、押圧リング395および環状プレート50それぞれには、固定ネジ396の頭より小径の挿通孔が設けられており、押圧リング395および環状プレート50の挿通孔に挿通された固定ネジ396がハンドリムベース部39に設けられたネジ孔に締結されている。
図28に示すように、押圧リング395は、周方向に等ピッチに設けられた3箇所で固定ネジ396により固定されている。これによって、被磁化部43と環状磁石42との間に生じる引力(磁力)に抗して、押圧リング395によってコア部材394を軸方向Daへしっかりと押し遣って、コア部材394の保持部394bと環状磁石42の間のクリアランスCLを確実に確保することが可能となっている。
【0122】
以上に説明したように本変形例では、被磁化部43を保持部394bで保持するコア部材394と環状磁石42とが車軸32を中心とする回転方向に相対的に変位自在となっており、相互の変位量Xに応じた強さで磁化される被磁化部43より発せられる磁気が検出素子44により検出される。また、環状磁石42がホイールハブ383に取り付けられるとともに、コア部材394がハンドリムベース部39に取り付けられている。したがって、ホイールハブ383とハンドリムベース部39が相対的に変位するのに伴って、コア部材394と環状磁石42とも相対的に変位する。よって、ホイールハブ383とハンドリムベース部39との相互間の変位量Xを、検出素子44によって検出することができる。
【0123】
なお、上述した通り、コア部材394の被磁化部43と環状磁石42の間には磁気による引力が生じる。この際、環状磁石42に対向するコア部材394の保持部394bと環状磁石42とがこの引力によって相互に押さえ付けられると、コア部材394と環状磁石42の間に生じる摩擦力が大きくなって、ホイールハブ383とハンドリムベース部39とが相互に変位するにあたって影響が出る場合も考えられる。これに対して、被磁化部43と環状磁石42との間に磁気によって生じる引力に抗してコア部材394と環状磁石42とを車軸32の軸方向Daへ離間させる離間手段(押圧リング395、固定ネジ396)が設けられている。したがって、コア部材394と環状磁石42の間に生じる摩擦力を小さく抑えて、ホイールハブ383とハンドリムベース部39とが相互に円滑に変位することが可能となっている。
【0124】
また、本変形例では、コア部材394は、保持部394bから環状磁石32を超えて車軸32の軸方向Daに延びる爪部394aを有する。そして、軸方向Daにおいて保持部394bの反対側から爪部394aに当接する押圧リング395(押圧部材)と、ハンドリムベース部39に押圧リング395を固定する固定ネジ396(固定部材)とで、離間手段が構成されている。そして、磁気による引力に抗して、保持部394bが環状磁石42から離間する方向へ押圧リング395が爪部394aを押圧して、コア部材394と環状磁石42とを離間させている。かかる構成によれば、コア部材394と環状磁石42の間に生じる摩擦力を小さく抑えて、ホイールハブ383とハンドリムベース部39とが相互に円滑に変位することが可能となる。
【0125】
また、本変形例では、コア部材394の保持部394bは、非磁性体である。かかる構成は、コア部材394の保持部394bが被磁化部43などに磁気的な影響を及ぼすことがなく、好適である。
【0126】
ちなみに、本変形例では、押圧リング395と固定ネジ396によって「離間手段」が構成されていた。しかしながら、「離間手段」の具体的構成はこれに限られない。そこで、次に例示するように「離間手段」を構成することもできる。
【0127】
図30は、
図29と同様の断面において「離間手段」の変形例を部分的に示した上面図である。
図30に示す例では、押圧リング395が排される代わりに、爪部394aの軸方向Daの外端に段付き部394cが形成されている。そして、爪部394aの段付き部394cが環状プレート50の内面に当接し、その先の円形部が環状プレート50の孔部に嵌合している。環状プレート50がネジ396によりハンドリムベース部39に固定されると、コア部材394はハンドリムベース部39と同期して変位するとともに、軸方向Da内側に押圧される。これによって、被磁化部43と環状磁石42との間に磁気によって生じる引力に抗して、環状プレート50がコア部材394を軸方向Daへしっかりと押し遣って、コア部材394の保持部394bと環状磁石42の間のクリアランスCLを確実に確保することが可能となっている。
【0128】
図31は、
図29と同様の断面において「離間手段」の変形例を部分的に示した上面図である。
図30に示す例では、押圧リング395が排される代わりに、セットスクリュウ397がコア部材394に設けられている。つまり、コア部材394にネジ止めされたセットスクリュウ397がコア部材394から軸方向Daの外側に突出して、環状磁石42に当接する。これによって、被磁化部43と環状磁石42との間に磁気によって生じる引力に抗して、セットスクリュウ397がコア部材394を軸方向Daへしっかりと押し遣って、コア部材394の保持部394bと環状磁石42の間のクリアランスCLを確実に確保することが可能となっている。
【0129】
また、上で例示した変形例の他にも、種々の変形を行うことができる。例えば、上記の例では、コア部材394がハンドリムベース部39に取り付けられ、環状磁石42がホイールハブ383に取り付けられていた。しかしながら、コア部材394がホイールハブ383に取り付けられ、環状磁石42がハンドリムベース部39に取り付けられても良い。かかる構成においても、ホイールハブ383とハンドリムベース部39が相対的に変位すると、コア部材394と環状磁石42も相対的に変位するため、車輪3とハンドリム31との相対的な変位量を検出することができる。
【0130】
また、車椅子1を構成する各部の材質、サイズ、形状なども適宜変更することが可能であり、例えばコア部材394の爪部394aや保持部394bの材質は、上述のものに限られない。