(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、被測定媒体の圧力の変化を静電容量の変化として検出する隔膜式の圧力センサは広く知られている。この圧力センサの一例として、真空チャンバと隔膜真空計との連通孔にフィルタを被せることにより、未反応生成物や副反応生成物及びパーティクル等が真空チャンバから真空計内に入るのを防止し、これらの生成物やパーティクル等の堆積成分がダイアフラムに付着して堆積することを防ぐようにした静電容量型圧力センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された静電容量型圧力センサにおいては、被測定媒体に含まれる直進性の高い堆積成分のダイアフラムへの付着を低減することは可能である。しかしながら、被測定媒体の圧力をダイアフラムに導く必要上、フィルタによって堆積成分を完全に排除することは不可能である。
【0004】
被測定媒体中の堆積成分の一部がダイアフラムに付着して堆積すると、ダイアフラムを一方向に撓ませることとなり、零点シフト(零点移動)が発生する。即ち、ダイアフラムに付着した堆積物は、その成分に応じて圧縮応力又は引っ張り応力等の内部応力を発生する。この応力の発生に伴い、被測定媒体と接触する側のダイアフラムの面が引っ張られたり圧縮されたりして、ダイアフラムの厚さ方向での力のバランスが崩れる。これにより、ダイアフラムは、被測定媒体側が凸状若しくは被測定媒体と反対側が凸状となるように撓むことになる。
【0005】
被測定媒体ごとに異なる堆積物とダイアフラムの材料とを常に一致させることは不可能であり、かつ堆積物とダイアフラムの原子の配列が、ミクロ的に完全に一致することは稀有であるため、ダイアフラムに付着した堆積物は、上述したように収縮若しくは伸長を生じることとなる。そして、ダイアフラムの撓みは、ダイアフラムに付着する堆積物が多くなる程大きくなる。
【0006】
静電容量型圧力センサは、ダイアフラムの撓みによって変化する静電容量に基づいて圧力差を検出している。ダイアフラムへの堆積物の付着によってダイアフラムが撓んでしまうと、ダイアフラムの両側で圧力差がない状態でも、「圧力差がある」という信号を検出することとなり、いわゆる零点シフトと呼ばれる零点誤差を生じるようになり、圧力測定に誤差が生じる。この圧力測定の誤差を避けるためには、静電容量型圧力センサを頻繁に交換する必要があり、費用が嵩むという問題も発生する。
【0007】
そこで、ダイアフラムの中央部の厚みを周縁部よりも薄くして、中央部の剛性を周縁部の剛性よりも低くすることで、堆積物の内部応力に起因するダイアフラムの撓みを抑制するようにした静電容量型圧力センサが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2に示された静電容量型圧力センサでは、ダイアフラムの圧力導入室側の面の周縁部と中央部との間に段部を設け、この段部を境界として中央部側の領域と周縁部側の領域とに分け、中央部側の領域の厚みを周縁部側の領域の厚みより薄くしている。これにより、センサダイアフラムの被測定媒体と接触する面に被測定媒体中の堆積成分が付着して堆積した場合、センサダイアフラムの周縁部側の領域が圧力導入室側に向かって僅かに撓み、中央部側の領域が基準真空室側に僅かに撓み(引用文献4の
図4参照)、あるいはセンサダイアフラムの周縁部側の領域が基準真空室側に向かって僅かに撓み、中央部側の領域が圧力導入室側に僅かに撓み(引用文献4の
図5参照)、堆積物の内部応力に起因するダイアフラムの撓みが抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に開示された静電容量型圧力センサは、ダイアフラム上に堆積物による均質な膜が形成されることを前提としている。しかしながら、実際にはダイアフラム上への膜の堆積が避けられない上に、実際にはプロセス材料、プロセス条件、真空計の構造、真空計の位置などによりその膜厚や膜の内部応力(膜応力)の分布に偏りが出る成膜プロセスもあり、その場合上記の前提が成り立たない。以下にALD(Atomic Layer Deposition)を具体例として、ALDの原理と膜厚や膜応力の分布に偏りが出る理由についての推察を示す。
【0011】
静電容量型圧力センサは、例えば半導体製造プロセスで使用されるチャンバー内に設置され、真空計として利用される。この半導体製造プロセスの中で、主として絶縁膜の成膜に用いられるALD(Atomic Layer Deposition)は、成膜対象の基板表面におけ化学反応を前提とした成膜方法であり、成膜する膜の元素を含むプリカーサガスと呼ばれる材料ガスと反応ガス(多くの場合、酸化材ガス)とを交互に表面反応させることにより膜を形成する。例えばAlOを成膜する場合、プリカーサガスはトリメチルアルミニウムであり、反応ガス(酸化材ガス)はH
2O、O
3などである。
【0012】
ALDは、具体的には、下記の(A)〜(D)のようなサイクルを繰り返す。
(A)チャンバー内にプリカーサガスを導入してウエハ表面に化学吸着させる。
(B)チャンバー内を真空に引くか若しくはチャンバー内に不活性ガスを導入することにより、ウエハ表面の化学反応した一原子層以外の余分なプリカーサガスをパージ(除去)する。
(C)チャンバー内に反応ガスを導入してプリカーサガスと反応させる。
(D)チャンバー内を真空に引くか若しくはチャンバー内に不活性ガスを導入することにより、反応生成物及び余分の反応ガスをパージする。
【0013】
このようにALDは、ウエハ表面への材料ガスの吸着と、その吸着した材料ガスと反応ガスとの化学反応により原子レベルで成膜が一層づつなされるのでウエハ上のアスペクト比が大きいビアホールや複雑な三次元構造をもつ箇所に均一に成膜出来ることが特徴である。ところがその反面、ウエハ上だけでなく、真空計を含めたプロセスチャンバーのあらゆる箇所に成膜がなされ、前述のような問題を引き起こすことが多い。
【0014】
次に、原理的に均一な膜が成膜されるALDで、部分的に不均一な膜が成膜される理由についての推察を説明する。ALDのプロセスウエハ上の成膜では、十分にパージがなされないとウエハ表面と直接反応した一層以外の、ウエハとは化学的に結合していない余分のプリカーサガスが滞留したまま次の反応ガスと化学反応を起こしてしまう。このようにして出来た反応生成物は当然基板との結合が弱いのでその部位の膜応力は十分にパージがなされた場合に比べて相対的に小さくなり、さらに基板との結合が弱いことからなんらかのタイミングで容易に基板から離脱する。離脱した場合、その部分は正規の一層づつの表面反応の邪魔になっていただけであるから膜厚は相対的に薄くなってしまうことが考えられる。また、同様にパージが十分でない場合、チャンバー内でプリカーサガスと反応ガスが混合して表面反応ではなく気相反応が起こる可能性があり、その場合に望ましくない反応生成物の粒子が気相中に生じて基板に堆積し、良好に成膜できないことも考えられる。このように十分にパージがなされない場合、その部分では膜内の結合が弱かったり異物が膜中存在したりするので膜質は悪くなり発生する膜応力が小さくなる。さらに膜質が良い部分に比べると膜が離脱し易いので上記のように膜厚が薄くなることが推察される。
【0015】
真空計は、通常、処理対象のウエハが配置されるチャンバー内部のうちウエハの配置箇所ではない周辺部に設置され、多くの場合に配管を介してチャンバー内のガスをダイアフラムに導くようになっている。このため、ダイアフラム付近のガス置換性は、ウエハ上に比べて悪いと想像される。さらに、ダイアフラム付近の構造により、ガスのコンダクタンス(通り易さ)が悪い領域がダイアフラム上に部分的に存在すれば、その領域ではガスの置換性が悪いので良好に成膜できず、コンダクタンスが良い領域に比べてダイアフラム上に堆積する膜が薄くなったり、発生する応力が小さくなると予想される。
【0016】
以上のように、ALDでは原理的にダイアフラム上への膜の堆積が避けられない上に、プロセス材料、プロセス条件、真空計の構造、真空計の位置などによりダイアフラム上の膜厚分布や膜応力分布に偏りが出る場合が十分考えられる。
【0017】
特許文献2に開示された静電容量型圧力センサでは、ダイアフラム上に堆積する膜が均質であることを前提としているので、ダイアフラム上の膜厚及び膜応力分布に偏りがあると、曲げモーメントのバランスが崩れ、ダイアフラムの撓みを抑えることができなくなり、零点シフトを抑えることが不可能になる。
【0018】
特に、特許文献2に開示された静電容量型圧力センサでは、圧力導入室に被測定媒体を導入する圧力導入孔の開口がダイアフラムの中心部に面しており、圧力検出のための電極が配置されるダイアフラム中心部のガスのコンダクタンスが良く、ダイアフラム外周部のガスのコンダクタンスが悪く、ダイアフラム中心部に堆積する膜が相対的に厚くなるか、膜応力が大きくなり、膜応力による大きなモーメントが発生するので、大きな零点シフトが発生することとなる。
【0019】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ダイアフラム上に堆積する膜が均質である場合に限らず、ダイアフラム上の膜質分布に偏りが出る場合でも、零点シフトを抑制することができる静電容量型圧力センサを提供することにある。この場合の均質とは膜厚および発生する膜応力が均一であることを意味している。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような目的を達成するために本発明は、中央部が被測定媒体の圧力に応じて変位するダイアフラムと、このダイアフラムの周縁部を固定し、ダイアフラムと共に基準真空室を形成するセンサ台座と、このセンサ台座と反対側のダイアフラムの周縁部に接合され、ダイアフラムと共に圧力導入室を形成するカバープレートと、基準真空室側のセンサ台座の面に形成された固定電極と、この固定電極と対向するように、基準真空室側のダイアフラムの面に形成された可動電極とを備え、ダイアフラムは、圧力導入室側の面の周縁部と中央部との間に段部を有し、この段部を境界として中央部側の領域と周縁部側の領域とに分けられ、中央部側の領域の厚みが周縁部側の領域の厚みより薄くされており、カバープレートは、ダイアフラムの面と交差する方向から圧力導入室に被測定媒体を導入する複数の圧力導入孔を有し、複数の圧力導入孔は、
圧力導入室に面する開口の中心がダイアフラムの面と平行な方向においてダイアフラムの段部に対してダイアフラムの半径の±15%の範囲あるいは±5%の範囲に位置するように配置されていることを特徴とするものである。
【0021】
全体的に均質に膜が形成されるケース(以下、「均質膜系」と称する)では、特許文献2に示されたような段差が効果を奏する。それに対してガスのコンダクタンス(通り易さ)に起因してダイアフラム上に不均一に膜が形成されるケース(以下、「非均質膜系」と称する)では、ダイアフラム上のどの部分の膜が厚くなる(もしくは膜応力が大きくなる)かはその部分の相対的なコンダクタンスで決まり、段差の位置とは無関係である。膜応力による曲げモーメントは一般に膜厚が基板に対して十分小さいとき、膜厚と膜応力に比例するからこの部分には薄い部分に比べて相対的に大きな曲げモーメントが生じることとなる。ところが、特許文献2の段差構造は膜がダイアフラム上で均質であることを前提条件としてダイアフラムにかかる膜応力による曲げモーメントを調整し、ダイアフラムの変位を小さくしているので上記のように局所的に曲げモーメントが大きくなると全体のバランスが崩れて効果を奏しなくなる。本願の発明者は、上記のように非均質膜系における問題点発生のメカニズムを解明した。そして、均質にならないケースを想定するのであれば、圧力導入室に被測定媒体を導入する圧力導入孔の開口の位置を中心位置から段差の上近傍にシフトして、段差部分に意図的に堆積物による厚い(もしくは応力が大きい)膜を成膜させるようにすることにより、段差の効果を活用できることに想到した。これにより、均質膜系も非均質膜系もカバーできることになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、カバープレートに複数の圧力導入孔を設け、この複数の圧力導入孔の圧力導入室に面する開口をダイアフラムの面と平行な方向においてダイアフラムの段部の近傍(
ダイアフラムの段部に対してダイアフラムの半径の±15%の範囲あるいは±5%の範囲)に位置させるようにしたので、意図的に段差部分に堆積物による厚い(もしくは応力が大きい)膜を成膜させるようにして、被測定媒体のコンダクタンス(通り易さ)のバランスの悪さに起因して増大する膜応力によるモーメントを緩和することができ、ダイアフラム上に堆積する膜の厚さ及び膜応力が均一である場合に限らず、ダイアフラム上の膜厚分布に偏りが出る場合でも、零点シフトを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る静電容量型圧力センサの一実施の形態の構成を示す断面図である。
【0025】
この静電容量型圧力センサ100は、酸化アルミニウムの単結晶体であるサファイアからなるカバープレート1と、カバープレート1に接合された圧力センサチップ2とから構成されている。圧力センサチップ2は、サファイアからなるセンサ台座20と、センサ台座20に接合されたサファイアからなるダイアフラム21と、ダイアフラム21に接合されたサファイアからなるスペーサ22ととから構成されている。
【0026】
圧力センサチップ2において、センサ台座20には、白金等の導体からなる感圧側固定電極23および参照側固定電極24が形成されており、ダイアフラム21には、感圧側固定電極23および参照側固定電極24と対向するように、白金等の導体からなる感圧側可動電極25および参照側可動電極26が形成されている。
【0027】
また、カバープレート1とダイアフラム21との間に、平面視略円形の貫通孔22aが形成されたスペーサ22を設けることによって、平面視略円形の空間が圧力導入室27として形成されている。また、ダイアフラム21のセンサ台座20側の面に平面視略円形の凹部21aを設けることによって、センサ台座20とダイアフラム21との間に平面視略円形の真空の空間が基準真空室28として形成されている。
【0028】
センサ台座20とダイアフラム21とは、接合後にサファイアに変化する酸化アルミニウムベースの接合材を介して接合されている。同様に、ダイアフラム21とスペーサ22とは、酸化アルミニウムベースの接合材を介して接合されている。このような接合方法については、特許文献3に詳しく記載されているので、ここでの詳細な説明は省略する。なお、カバープレート1の下部にスペーサ状の突起を形成することで、スペーサ22を無くしてもよい。
【0029】
図2はセンサ台座20に形成された感圧側固定電極23および参照側固定電極24の配置を示す平面図である。平面視略円形の感圧側固定電極23は、その中心がダイアフラム21の中心とほぼ一致するように、基準真空室28側のセンサ台座20の面に形成されている。平面視略円弧状の参照側固定電極24は、感圧側固定電極23の外側に略同心円状に配置されるように、基準真空室28側のセンサ台座20の面に形成されている。感圧側固定電極23は、センサ台座20に形成された配線29を介してセンサ外部の信号処理装置(不図示)と電気的に接続される。同様に、参照側固定電極24は、センサ台座20に形成された配線30を介して信号処理装置と電気的に接続される。
【0030】
ダイアフラム21側の可動電極の構成も固定電極と同様である。すなわち、平面視略円形の感圧側可動電極25は、感圧側固定電極23と対向するように、基準真空室28側のダイアフラム21の面に形成されている。感圧側可動電極25の中心は、ダイアフラム21の中心とほぼ一致している。平面視略円弧状の参照側可動電極26は、参照側固定電極24と対向するように、基準真空室28側のダイアフラム21の面に形成されている。参照側可動電極26は、感圧側可動電極25の外側に略同心円状に配置される。感圧側可動電極25は、ダイアフラム21に形成された配線(不図示)を介してセンサ外部の信号処理装置と電気的に接続される。同様に、参照側可動電極26は、ダイアフラム21に形成された配線(不図示)を介して信号処理装置と電気的に接続される。
【0031】
感圧側固定電極23と感圧側可動電極25とは、圧力に対して高感度であって、圧力測定を行う役目を果たす。参照側固定電極24と参照側可動電極26とは、圧力に対して低感度であって電極間の誘電率を補正する役目を果たす。
【0032】
ダイアフラム21の圧力導入室27側の面(被測定媒体との接触面)には円形の凹部(段差面)21bが形成されている。すなわち、ダイアフラム21は、圧力導入室27側の面の周縁部と中央部との間に段部21cを有し、この段部21cを境界として中央部側の領域と周縁部側の領域とに分けられ、中央部側の領域が段差面21bとされ、段差面21bの厚みが周縁部側の厚みより薄くされている。
図2には、段差面21bの位置が分かるように、段部21cを一点鎖線で示している。
【0033】
図1において、凹部21aと貫通孔22aとが平面視略円形であることから明らかなように、圧力導入室27と基準真空室28に露出するダイアフラム21は平面視略円形である。ダイアフラム21における段部21cの位置は、ダイアフラム21の中心からスペーサ22の内壁までの距離をダイアフラムの半径Rとし、このダイアフラムの半径Rを100%とした場合、ダイアフラム21の中心からダイアフラム21の面方向(
図2の紙面に対して平行な方向)に沿って49.3%の位置とされている。
【0034】
カバープレート1と圧力センサチップ2のスペーサ22とは、接合後にサファイアに変化する酸化アルミニウムベースの接合材を介して接合されている。カバープレート1には、圧力導入室27に被測定媒体を導入する圧力導入孔10が設けられている。圧力導入孔10はダイアフラム21の面と垂直な方向への貫通孔とされている。
【0035】
本実施の形態において、圧力導入孔10は4個とされており、その開口10aがダイアフラム21の面と平行な方向においてダイアフラム21の段部21cの近傍に位置している。また、圧力導入孔10は、ダイアフラム21の中心を囲む円周上(ダイアフラム21の中心と一致する点を中心とする円の周上)に周方向に等間隔に配置されている。
図2には、圧力導入孔10の位置が分かるように、その開口10aを点線で示している。圧力導入孔10の径など具体的な寸法については後述する。
【0036】
次に、この静電容量型圧力センサ100の動作について説明する。
図3は静電容量型圧力センサ100の動作を説明する図である。ダイアフラム21の面と交差する方向(この例では、ダイアフラム21の面と垂直な方向)から被測定媒体が圧力導入孔10を介して圧力導入室27に導入されると、
図3に示すように被測定媒体の圧力に応じてダイアフラム21が変形する。静電容量型圧力センサ100を半導体製造プロセスの真空計として利用する場合、被測定媒体は、チャンバー内部のガスである。
【0037】
ダイアフラム21が変形すると、センサ台座20とダイアフラム21の距離(基準真空室28の高さ)が変化し、感圧側固定電極23と感圧側可動電極25との間の容量、および参照側固定電極24と参照側可動電極26との間の容量が変化する。感圧側固定電極23と感圧側可動電極25との間の容量をCx、参照側固定電極24と参照側可動電極26との間の容量をCrとすると、センサ出力Kは次式のように算出される。
K=(Cx−Cr)/Cx ・・・(1)
【0038】
図示しない信号処理装置は、式(1)によりセンサ出力Kを算出し、このセンサ出力K(容量値)を圧力値に換算することで、被測定媒体の圧力を測定することができる。
【0039】
次に、カバープレート1の圧力導入孔10について説明する。本実施の形態では、圧力導入室27内の被測定媒体のコンダクタンスを制御するために、開口10aをダイアフラム21の面と平行な方向においてダイアフラム21の段部21cの近傍に位置させて、ダイアフラム21の中心を囲む円周上の位置に4個の圧力導入孔10を配置することで、ダイアフラム21に付着する堆積物の膜厚分布を制御し、段差部分(段差21cの近傍)に意図的に堆積物による厚い膜を成膜させるようにしている。
【0040】
図4に段差部分(段差21cの近傍)に堆積物による厚い膜が成膜されている状態を示す。
図4において、21dはダイアフラム21の圧力導入室27側の面に形成された堆積物による膜であり、ダイアフラム21の段差部分(段差21cの近傍)には圧力導入孔10を通して導かれる被測定媒体によって厚い膜21d1が形成されている。
【0041】
図5は圧力導入孔10の位置を変化させた場合の膜厚比とセンサ出力のシフト量との関係を示す図であり、ダイアフラム21の半径Rを100%としたときにダイアフラム21の中心からダイアフラム21の面方向に沿って40.0%〜60.0%の範囲で圧力導入孔10の位置を変化させたときのセンサ出力のシフト量を数値解析シミュレーションで求めたものである。
【0042】
図5において、特性Iは圧力導入孔10の位置を40.0%とした時、特性IIは圧力導入孔10の位置を46.7%とした時、特性IIIは圧力導入孔10の位置を53.3%とした時、特性IVは圧力導入孔10の位置を60.0%とした時の膜厚比とセンサ出力のシフト量との関係を示す。
【0043】
ここでは、圧力導入孔10の径φ1を0.5mm、段差面21bの深さh1を0.5μm、段差面21bの径φ2を3.7mm、スペーサ22の内径φ3を7.5mm、ダイアフラム21の厚みt1を50μm、スペーサ22の厚みt2を90μmとし、ダイアフラム21の中心を囲む円周上に4個の圧力導入孔10を設けた場合について、センサ出力のシフト量を計算している。なお、段差面21bの深さh1を32μm、ダイアフラム21の厚みt1を240μmとする例もあるが、この場合も同様の結果が得られる。なお、ここで示した圧力導入孔10の径φ1などの数値は、あくまでも一例であり、設計によって異なることは言うまでもない。
【0044】
図5において、横軸は、ダイアフラム21に付着した堆積物が最も厚い部位の膜厚Tmaxと薄い部位の膜厚Tとの比T/Tmaxを示したものである。すなわち、ダイアフラム21の圧力導入室27側の面に形成される厚い膜21d1の膜厚Tmaxとその周辺の薄い膜21d0の膜厚Tとの膜厚比を示したものである。
【0045】
図5において、縦軸は、センサ出力のシフト量であり、従来の静電容量型圧力センサのセンサ出力に対する本実施の形態の静電容量型圧力センサ100のセンサ出力のシフト量を%値で示している。ここで、比較のために用いた従来の静電容量型圧力センサの構成を
図6に示す。
【0046】
図6において、
図1と同様の構成には同一の符号を付してある。
図6に示すように、従来の静電容量型圧力センサ200では、ダイアフラム21の中心の位置に圧力導入孔11が形成されており、ダイアフラム21には段差面21bは設けられていない。圧力導入孔11の面積と、4個の圧力導入孔10の総面積とは同一である。従来の静電容量型圧力センサ200では、圧力導入孔11の直下のダイアフラム21の中心付近で堆積物が最も厚くなるのに対し、本実施の形態の静電容量型圧力センサ100では、ダイアフラム21の中心よりも外側の圧力導入孔10の直下の段差部分(段差21cの近傍)で堆積物が最も厚くなる。
【0047】
ダイアフラム21に圧力を掛けていないときの従来の静電容量型圧力センサ200のセンサ出力をK0、同様にダイアフラム21に圧力を掛けていないときの本実施の形態の静電容量型圧力センサ100のセンサ出力をK1とすると、センサ出力のシフト量SRは次式のように算出される。
SR=(K1−K0)/K0×100 ・・・(2)
【0048】
なお、本実施の形態の静電容量型圧力センサ100のダイアフラム21に均一な膜21が成膜された場合(膜厚比が1の場合)、センサ出力のシフト量SRは0%になる。
【0049】
図4に示した特性I〜IVを比較して分かるように、圧力導入孔10の位置を53.3%としたとき(特性III)、すなわち段差21cの「真上」に最も近い設計において、膜厚比に対するセンサ出力のシフト量の変動が小さく、またセンサ出力のシフト量が0.0%に近く、最も良好にモーメントが緩和されていることが分かる。
【0050】
また、圧力導入孔10の位置を46.7%としても(特性II)、また圧力導入孔10の位置を53.3%(特性IV)としても、膜厚比に対するセンサ出力のシフト量の変動がやや大きくなるが、センサ出力のシフト量は−2.0〜2.0%の範囲内にあり、良好な結果が得られる。
【0051】
圧力導入孔10の位置を60.0%としても(特性I)、本発明による改善効果は得られるが、膜厚比が小さくなると、センサのシフト量が2.0%を超えてしまう。また、膜厚比によっては、段差面21bを設ける場合よりも設けない場合の方がセンサ出力のシフト量が少ないケースも出てくる。段差面21bを設ける場合を「段付き」とし、段差面21bを設けない場合を「フラット」とし、
図5に示した「段付き」の場合の特性I〜IVと対応して、
図7に「フラット」の場合の特性I’〜IV’を示す。
【0052】
発明者らの計算および実験により、圧力導入孔10は、その圧力導入室27に面する開口10aの中心O1がダイアフラム21の面と平行な方向において、ダイアフラム21の段部21cに対してダイアフラム21の半径Rの±5%の範囲に位置していることが好ましいということが分かった。なお、圧力導入孔10の開口10aの中心O1は、ダイアフラム21の段部21cに対してダイアフラム21の半径Rの±15%の範囲にあれば、±5%ほどの効果はなくとも、何もしないよりは効果があることが計算および実験の結果判明している。
【0053】
以上のように、本実施の形態では、カバープレート1に複数の圧力導入孔10を設け、この複数の圧力導入孔10の圧力導入室27に面する開口10aをダイアフラム21の面と平行な方向においてダイアフラム21の段部21cの近傍に位置させるようにすることで、意図的に段差部分(段部21cの近傍)に堆積物による厚い膜21d1を成膜させるようにして、被測定媒体のコンダクタンス(通り易さ)のバランスの悪さに起因して増大する膜応力によるモーメントを緩和することができるようになり、ダイアフラム21上に堆積する膜21dの厚さが均一である場合に限らず、ダイアフラム21上の膜厚分布に偏りが出る場合でも、零点シフトを抑制することができるようになる。
【0054】
なお、上述した実施の形態では、圧力導入孔10の数を4個としたが、圧力導入孔10の数は4個に限られるものでないことは言うまでもない。
また、上述した実施の形態では、段差21cの位置をダイアフラム21の中心からダイアフラム21の面方向に沿って49.3%の位置としたが、49.3%の位置に限られるものではない。発明者らの計算および実験の結果として、段差21cの位置は、ダイアフラム21の中心からダイアフラム21の面方向に沿って25〜75%の範囲内の位置にすることが好ましいことが分かっている。
【0055】
また、上述した実施の形態では、圧力導入孔10をダイアフラム21の面と垂直な方向に設けるようにしているが、圧力導入孔10をダイアフラム21の面に対して斜めに設けるようにし、斜め方向から被測定媒体を圧力導入室27に導くなどしてもよい。
【0056】
また、上述した実施の形態において、段部21cは必ずしも垂直な段部でなくてもよく、傾斜した段部であっても構わない。
【0057】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。また、上記の実施の形態ではダイアフラム21に付着した堆積物が最も厚い部位の膜厚Tmaxと薄い部位の膜厚Tとの比T/Tmaxを振り、膜応力は一定として数値シミュレーションを実施したが、これを応力の強い部分σmaxと弱い部分σとの比σ/σmaxと置き換えても、膜厚がダイアフラム厚に比して十分薄いならばダイアフラムに発生する膜応力による曲げモーメントは応力と膜厚の積に比例することから同様の効果が得られる。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。