【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様では、自由走行輪を担持するための回転ハブシェルを備える自由輪ハブが提供される。トルクは、トルク伝達部材を介して回転ハブシェルに伝搬される。トルク伝達部材は、ハブシェルに結合され、又はハブシェルの一部を形成する。自由輪ハブには、少なくとも1つの磁気弾性活性領域が設けられる。この領域は、トルク伝達部材の一部に直接的もしくは間接的に取り付けられ又はトルク伝達部材の一部を形成する。磁気弾性活性領域は、少なくとも1つの磁気分極領域を含み、この磁気弾性活性領域に、作用したトルクが伝達されるように構成される。磁気分極は、作用したトルクが増大するにつれて次第にらせん形状になる。さらに、自由輪ハブは、磁気弾性センサ手段を備える。磁気弾性センサ手段は、少なくとも1つの磁気弾性活性領域の近くに配置された少なくとも1つの磁場センサを有する。この少なくとも1つの磁場センサは、磁気分極領域から発生するトルク由来の磁束に対応する信号を出力するように構成され
ており、前記トルク伝達部材は、内部空間を有する中空軸であり、且つ前記磁気弾性センサ手段の前記少なくとも1つの磁場センサが前記中空軸の前記内部空間内に配置される。
【0009】
有利には、トルク測定は、自由輪ハブにおいて直接的に実施される。このことは、自転車、電動自転車又は電動アシスト自転車において実現される。本明細書の文脈では、電動自転車、電動アシスト自転車、高速電動アシスト自転車、および電気駆動装置、特に補助電気駆動装置を備えるすべての他の種類の自転車は、電動自転車と称される。
【0010】
トルク測定装置は自由輪ハブに組み込まれているため、活用可能なトルク値は、左のクランクペダル又は右のクランクペダル、すなわち単一のクランクペダルを介して作用したトルクに制限されない。ボトムブラケット軸に組み込まれたトルク測定装置とは対照的に、自由走行輪に作用したトルクの合計値を決定することができる。たとえば、自由輪は、自転車チェーンおよび歯付きスプロケットの対応する組み合わせによって駆動される。この場合、典型的には、大きい方の駆動スプロケットがボトムブラケット軸受軸に配置され、従動スプロケットは、自由輪ハブに結合される。自転車又は電動自転車において、合計トルクは、自転車チェーンを介して自由走行後輪に伝達される。これは、ボトムブラケット軸受がスリーブに組み込まれており、このスリーブに、しばしば電動自転車の補助駆動装置が組み込まれていたり、あるいは、配置されていたりすることが多いという事実によるものである。しかし、後輪ハブに組み入れられる補助電気駆動装置を有する電動自転車であっても、本発明の態様による自由輪ハブを適用することができる。このタイプの電動自転車の場合、トルクは、電気駆動装置によって生成される。このトルクは、トルク伝達
部材に、あるいはスプロケット支持部材であってこの構造にスプロケットを担持しないものに、さらには、回転ハブシェルに、直接的に伝搬することができる。たとえば、
中空軸は、適切な遊星ギアによって駆動することができる。遊星ギア又は遊星ギアのピニオンは、外歯又は内歯を有する軸である
中空軸と噛合することができる。
【0011】
自転車又は電動自転車の個々の設計に拘わらず、ユーザおよび/又は補助電気装置が及ぼした合計トルクの値を測定することができる。このことは、電動自転車に関して特に有利である。合計トルクの取得された値は、補助電気駆動装置の制御のためのパラメータとしての役割を果たすことができる。たとえば、電気駆動装置の出力する動力は、トルクがある一定又は臨界の閾値を超えたときに小さくすることができる。補助装置が作動停止しているとき、合計トルクは、ユーザが及ぼしたトルクと等しい。この状況では、ユーザの及ぼしたトルクが別の閾値に到達したときに電気駆動装置を作動することができる。このことは、電動自転車がユーザの関節が楽になるように電気駆動装置の制御が駆動装置を作動させることを可能にする。これに加えて、ユーザが及ぼしたトルクは、たとえば多目的自転車コンピュータで表示するための有益なパラメータとなり得る。このことはまた、有利には、補助駆動装置を有さない自転車にも適用される。本発明の態様による自由輪ハブがエルゴメータに適用された場合、ユーザの及ぼしたトルクは、患者の治療処置に有益なパラメータとなり得る。
【0012】
本発明の有利な実施形態によれば、回転ハブシェルは、非回転固定軸によって支持される。これは、自転車又は電動自転車のフレームに装着することができる。さらに、磁気弾性センサ手段を該車軸に固定することができる。特に、磁気弾性センサ手段は、固定位置を有するように配置される。換言すれば、センサ手段は、自由輪ハブの非回転部分である。用語「非回転」は、センサ手段が、たとえば自転車又は電動自転車のフレームに関して固定座標を有すると理解される。この非回転のセンサ構成は、必要な場合、その配線を容易にする。このことは、たとえば、センサ手段へのおよびセンサ手段からの動力供給および/又はデータ伝達のための配線に関係する。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、トルク伝達部材
としての中空軸は、回転ハブシェルの前部に結合される。自由輪装置又はオーバーランニングクラッチ装置は、
中空軸に結合することができる。特に、自由輪装置又はオーバーランニングクラッチ装置は、
中空軸とハブシェルとの間に配置することができる。
中空軸は、たとえば歯付きスプロケットによって駆動させることができる。歯付きスプロケットは、さらに、自転車チェーンによって駆動される。後者は通常、ボトムブラケット軸受に配置された、大きい方の駆動歯付きスプロケットと噛合する。電気駆動装置を備える電動自転車において、電気駆動装置は、ボトムブラケットに配置される。この電動自転車において、自転車チェーンを介して作用したトルクは、ユーザおよび電気駆動装置によって供給された合計トルクである。この合計トルクは、ユーザの及ぼしたトルク、又は電気駆動装置のトルクにユーザの及ぼしたトルクを加えたものの何れかである。このことは、補助電気駆動装置が作動しているか、あるいは作動停止しているか、によって決まる。電気駆動装置の作動状況を示す信号は、通常、駆動制御装置内で入手可能である。従って、この状況信号を考慮に入れることにより、ユーザの及ぼしたトルクおよび電気駆動装置のトルクを容易に区別することができる。
【0014】
特に、
磁気弾性センサ手段を
中空軸の内部空間に組み入れることによって、コンパクトで頑強な自由輪ハブを実現することができる。本発明のこの態様によれば、
中空軸は、この内部空間を含む中空軸である。センサ手段の磁場センサが、内部空間内に配置される。特に、磁場センサは、内部空間内に全体的に配置される。有利には、センサは、埃、雨、又は他の汚染物質などの環境影響から保護される。このことは、自由輪ハブを、厳しい作動条件下でも特に信頼性の高いものにする。有利には、自由輪ハブは、オフロード自転車又はマウンテンバイクに使用することができる。
【0015】
本発明のさらに別の有利な実施形態によれば、少なくとも1つの磁場センサは、感知方向を有する。感知方向は、軸芯に対して少なくとも実質的に平行である。このセンサ構成は、磁気分極領域から発生するトルク由来の磁束の軸方向成分を検出するのに適している。センサ手段は、さらに、少なくともふたつの磁場センサを備えることができる。これらふたつの磁場センサは、センサの感知方向が、互いに少なくとも実質的に180°反対になるように配置される。この「逆も同様の」構成は、有利には、トルク由来の磁束の差分測定(differential measurement)を可能にする。トルクの測定は、一方ではより感応性が高く、他方ではより信頼性が高いものである。
【0016】
本発明の有利な実施形態によれば、少なくとも1つの磁気弾性活性領域は、
中空軸の円周に沿って膨出する。少なくとも1つの領域は、全占有磁化領域が、最大でも
中空軸の円周方向のプラスマイナス45°の限界値内にあるような仕方で磁化される。有利には、円周方向の磁化は、たとえば永久磁石又は電流磁石を用いて、軸材料を適切に磁化することによりもたらすことができる。このことは、残留する円周方向磁化を有する軸領域を作り出すためのものである。軸領域は、磁気弾性センサ手段と相互作用する活性領域の一部を形成する。しかしながら、
中空軸にはまた、適切に磁化された材料を含む別部材のスリーブを設けることもできる。さらに、このタイプの磁気弾性トルク測定に関するさらなる技術的詳細は、以下の参照文献に説明され、表わされている。すなわち、米国特許第6,553,847B2号明細書、およびGarshelisの米国特許第5,520,059号明細書であり、その開示は、参照によって全体的に本明細書に組み込まれる。米国特許’847号の参照文献では、軸の材料は、それ自体が円周方向に磁気分極されている。したがって、このセンサは、磁気材料を含む別部材のスリーブ又はリングを有さずにすむ。別部材のスリーブを備えるトルク測定装置は、米国特許’059号の参照文献に開示される。
【0017】
本発明のさらに別の有利な実施形態によれば、
中空軸は、第1の磁気弾性活性領域および第2の磁気弾性活性領域を含む。第1および第2の領域は、軸方向に離間され、
中空軸の一部に直接的もしくは間接的に取り付けられ又は
中空軸の一部を形成する。磁気弾性活性領域は、トルクが活性領域に伝達されるように構成される。各々の活性領域は磁気分極領域を含む。この場合第1の活性領域の磁気分極と第2の活性領域の磁気分極とは、互いにほぼ反対である。本発明のこの実施形態による自由輪ハブの磁気
弾性センサ手段は、第1の磁気弾性活性領域の近くに配置された第1および第2の磁場センサを有する第1の対のセンサを備える。これらのセンサは、第1の磁気分極領域から発生するトルク由来の磁束に対応する第1の信号を出力する。さらに、磁気
弾性センサ手段には、第2の対のセンサが設けられる。この第2の対のセンサは、別の第1および第2の磁場センサを備える。この第2の対のセンサは、第2の磁気弾性活性領域の近くに配置される。第2の対のセンサは、第2の磁気分極領域から発生するトルク由来の磁束に対応する第2の信号を出力する。これに加えて、本発明のこの実施形態による自由輪ハブは、作用したトルクを決定するように構成された制御ユニットを備える。制御ユニットは、第1の対のセンサの信号および第2の対のセンサの信号の差分評価を実施する。第1および第2の磁気分極領域を用いるトルクの差分測定はエラーが起こりにくく、特に外部磁場の存在下であってもエラーが起こりにくい。
【0018】
本発明のさらに別の有利な実施形態によれば、磁気
弾性センサ手段は、複数の一次磁場センサを備える。複数の一次磁場センサは、第1の磁気弾性活性領域の近くに配置される。一次磁場センサは、第1の信号を出力する。第1の信号は、第1の活性領域から発生するトルク依存磁束に対応する。さらに、磁気
弾性センサ手段は、少なくとも1つの二次磁場センサを備える。少なくとも1つの二次磁場センサは、複数の一次磁場センサから所定の第1の
距離だけ第1の方向に軸方向に離間される。また、この少なくとも1つの二次磁場センサは、第2の磁気弾性活性領域の近くに配置される。少なくとも1つの二次磁場センサは、トルク依存磁束に対応する第2の信号を出力する。第2の信号は、上記第2の活性領域から発生する。少なくとも1つの二次磁場センサはまた、近磁場の磁場源(near field magnetic field source)から発生する周囲磁束を測定するように構成される。
【0019】
本発明のこの実施形態による自由輪ハブは、少なくとも1つの別の二次磁場センサを備える。この別のセンサは、第1の方向に対して実質的に反対である第2の方向に軸方向に離間される。別の二次センサは、所定の第2の距離だけ複数の一次磁場センサから離される。この少なくとも1つの別の二次磁場センサは、第3の磁気弾性活性領域の近くに配置され、第3の活性領域から発生するトルク依存磁束に対応する第3の信号を出力するように構成される。これに加えて、別の二次磁場センサは、二次磁場センサと同様に、近接磁場源から発生する周囲磁束を検出する。
【0020】
第1から第3の磁気弾性活性領域は、互いに軸方向に離間され、又は近接して配置される。これらは、
中空軸の一部に直接的もしくは間接的に取り付けられ又は
中空軸の一部を形成することができる。磁気弾性活性領域の構成は、トルクが活性領域に伝達されるように構成される。各々の活性領域は、磁気分極領域を含む。この場合、第1および第3の活性領域の磁気分極と第2の活性領域の磁気分極とは、互いに実質的に反対である。
【0021】
これに加えて、本実施形態による自由輪ハブは、第2および第3の信号を用いて第1の信号を調整するための手段、特に制御ユニットを備え、それによって近接磁場源の効果を解消する。
【0022】
有利には、本発明のこの実施形態による自由輪ハブは、近接磁場源からの磁場を解消することができる。このことは、補助電気駆動装置が自由輪ハブの近くに配置される場合、又はその中に組み入れられる場合に特に有利である。電気駆動装置は、浮遊磁場を発生させることが多い。しかし、この磁場は、トルク測定の精度に影響を与えない。磁気
弾性センサ手段は、3つのグループの磁場センサを用いてこの近接磁場の影響を解消することができる。補助電気駆動装置を有するコンパクトな自由輪ハブは、トルク測定の確実性が低いというリスクを負うことなく提供することができる。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態によれば、少なくとも1つの磁場センサは、ベクトルセンサである。特に、ベクトルセンサは、ホール効果、磁気抵抗、磁気トランジスタ、磁気ダイオード、又はMAGFETセンサのうちの1つである。特に、磁場センサは、フラックスゲート磁気計である。これらの磁場センサは、自由輪ハブに適用するのに特に適することが見出された。
【0024】
本発明の別の実施形態では、
中空軸は、磁気弾性効果をもたらすのに適した強磁性物質から少なくとも部分的に形成される。この強磁性物質は、特にニッケル(Ni)を含む。たとえばX20Cr13とする工業鋼又は類似の材料を適用することができる。このタイプの
中空軸においては、円周方向の磁化が軸材料に内在することができる。従って、本発明のこの態様によるハブは、トルク依存磁束を発生させるトルクに露出される磁気材料を含む追加のスリーブ又はリング部材を有さずにすますことができる。
【0025】
本発明の別の有利な態様によれば、本発明の態様による自由輪ハブを備える自転車、電動アシスト自転車(ペダル式電気サイクル)、高速電動アシスト自転車、又は電動自転車が、提供される。この自転車、電動アシスト自転車又は電動自転車においては、自由輪ハブを介して自由走行輪に作用した合計トルクの測定を実施することができる。人が誘発し
たトルクおよび補助電気駆動装置のトルクの何れか、又は双方を決定することができる。このことは、補助電気駆動装置の作動および制御に有利である。特に駆動装置の作動、作動停止、および/又はトルク制御を確立することができる。
【0026】
本発明の別の実施形態によれば、自転車、電動アシスト自転車、高速電動アシスト自転車、又は電動自転車にはさらに、電池式電気駆動装置を設けることができる。この電池式電気駆動装置は、
中空軸にトルクをかける。特に、この駆動装置は、トルクを、本発明の態様による自由輪ハブの
中空軸に結合する。電気駆動装置は、たとえば、12V作動電圧で作動する電気DCモータであることができる。
【0027】
本発明のさらなる態様および特性は、本発明の好ましい実施形態の以下の説明で明らかにされる。添付の図を参照して: