【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る密封装置を備えた車輪用軸受の一実施形態を示す縦断面図、
図2は、
図1の密封装置を示す要部拡大図、
図3は、
図2の密封装置の変形例を示す要部拡大図、
図4は、
図3の密封装置の変形例を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(
図1の左側)、中央寄り側をインナー側(
図1の右側)という。
【0026】
図1に示す車輪用軸受1は第1世代と呼称され、内周に複列の外側転走面2a、2aが一体に形成された外輪(外方部材)2と、外周にこれら複列の外側転走面2a、2aに対向する内側転走面3aが形成された一対の内輪3、3と、両転走面間に保持器4を介して転動自在に収容された複列の転動体(ボール)5、5とを備えている。そして、一対の内輪3、3の小端面(小径側端面)3bが突き合された状態でセットされ、背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成している。
【0027】
外輪2と内輪3および転動体5はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、外輪2と一対の内輪3、3との間に形成される環状空間の開口部には密封装置6、7が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0028】
なお、ここでは、車輪用軸受1として転動体5にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成されたものを例示したが、これに限らず転動体5に円錐ころを使用した複列円錐ころ玉軸受で構成されていても良い。また、軸受構造は例示した第1世代に限らず、例えば、外輪にフランジを有する第2世代構造でも良いし、内方部材を構成するハブ輪の外周に直接内側転走面が形成され、このハブ輪に内輪が固定された第3世代構造、あるいは、内方部材を構成するハブ輪と等速自在継手の外側継手部材の外周にそれぞれ内側転走面が直接形成された第4世代構造であっても良い。
【0029】
アウター側の密封装置6は、外輪2の端部内周に圧入された芯金8と、この芯金8に加硫接着によって一体に接合されたシール部材9とからなる一体型シールで構成されている。芯金8は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)や冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。一方、シール部材9はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、内輪3の外径に摺接する二股状のラジアルリップを有している。そして、芯金8の外表面を覆うように、シール部材9が回り込んで接合され、所謂ハーフメタル構造をなしている。これにより、気密性を高めて軸受内部を保護することができる。
【0030】
なお、シール部材9の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0031】
インナー側の密封装置7は、
図2に拡大して示すように、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板10とスリンガ11とからなる、所謂パックシールを構成している。シール板10は、図示しない外輪に圧入される芯金12と、この芯金12に一体に加硫接着されたシール部材13とからなる。
【0032】
芯金12は、オーステナイト系ステンレス鋼板または冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、外輪の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部12aと、この嵌合部12aの一端部から径方向内方に延び、途中、軸受外方側(スリンガ11側)に所定の傾斜角θoで屈曲し、さらに内径側に延びる内径部12bを備えている。そして、芯金12の嵌合部12aの先端部が薄肉に形成されると共に、この先端部を覆うようにシール部材13が回り込んで接合されてハーフメタル構造をなしている。
【0033】
シール部材13はNBR等の合成ゴムからなり、芯金12の嵌合部12aの内周面を覆う基部13aと、この基部13aから径方向外方に傾斜して形成されたサイドリップ13bと、このサイドリップ13bの内径側に軸受内方側に傾斜して形成されたグリースリップ13cを備えている。シール部材13の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR、EPDM、ACM、FKM、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0034】
スリンガ11は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて形成され、図示しない内輪の外径に圧入される円筒部11aと、この円筒部11aから径方向外方に延びる立板部11bと、この立板部11bから軸受内方側(シール板10側)に屈曲して形成された遮蔽部14とを備えている。そして、シール部材13のサイドリップ13bが立板部11bに所定の軸方向シメシロを介して摺接されると共に、グリースリップ13cが円筒部11aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。
【0035】
ここで、スリンガ11の遮蔽部14は、立板部11bの先端部から軸受内方側に延びる第1の円筒部14aと、この第1の円筒部14aから径方向外方に延びる円板部14bと、この円板部14bから軸受外方側に延びる第2の円筒部14cを備え、断面が略コの字型に形成されている。
【0036】
ここで、遮蔽部14の第1の円筒部14aと円板部14bの角部がシール板10に僅かなすきまを介して対向し、第1のラビリンスシール15が構成されると共に、第2の円筒部14cがシール板10に僅かな径方向すきまを介して対向し、第2のラビリンスシール16が構成されている。そして、遮蔽部14(第1の円筒部14a)の幅寸法Aがサイドリップ13bの先端部の厚さBよりも大きく設定されている(A≧B)。このように、本実施形態では、スリンガ11の遮蔽部14が断面略コの字型に形成され、対向するシール板10との間に第1および第2のラビリンスシール15、16が構成されているので、外部から泥水等が浸入しても、サイドリップ13bの先端部までの浸入経路が屈曲されてその距離が長くなり、摺接部に泥水が直接入り込むのを抑制し、摺接面に介在する異物によってその表面が削り取られる、所謂アブレッシブ摩耗を防止することができる。
【0037】
さらに、遮蔽部14の第1の円筒部14aがサイドリップ13bの先端部の遮蔽壁となっているので、サイドリップ13bの先端部からの泥水等の浸入を遅れせることができ、パックシールの2リップ構造による低フリクション化を図りつつ、泥水性能を高めて耐久性の向上を図った車輪用軸受1の密封装置7を提供することができる。
【0038】
図3に、前述した密封装置7(
図2)の変形例を示す。なお、この実施形態は、前述した実施形態と基本的にはスリンガの構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0039】
この密封装置17は、互いに対向配置された環状のシール板10とスリンガ18とからなるパックシールを構成している。シール板10は、芯金12と、この芯金12に一体に加硫接着されたシール部材13とからなる。
【0040】
一方、スリンガ18は、フェライト系ステンレス鋼板やオーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて形成され、図示しない内輪の外径に圧入される円筒部18aと、この円筒部18aから径方向外方に延びる立板部18bを備えている。そして、この立板部18bの側面に磁気エンコーダ19が加硫接着等で一体に接合されている。この磁気エンコーダ19は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入され、周方向に交互に磁極N、Sが着磁されて車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。
【0041】
ここで、磁気エンコーダ19は、立板部18bの先端部に回り込んで接合され、軸受内方側(シール板10側)に突出して形成された遮蔽部20を備えている。この遮蔽部20の端部がシール板10に僅かなすきまを介して対向し、第1のラビリンスシール15が構成されると共に、遮蔽部20の外径がシール板10に僅かな径方向すきまを介して対向し、第2のラビリンスシール16が構成されている。
【0042】
これにより、本実施形態では、前述した実施形態と同様、外部から泥水等が浸入しても、サイドリップ13bの先端部までの浸入経路が屈曲されてその距離が長くなるので、摺接部に泥水が直接入り込むのを抑制し、アブレッシブ摩耗を防止することができると共に、磁気エンコーダ19の遮蔽部20の幅寸法Aがサイドリップ13bの先端部の厚さBよりも大きく設定され(A≧B)、遮蔽部20がサイドリップ13bの先端部の遮蔽壁となっているので、サイドリップ13bの先端部からの泥水等の浸入を遅れせることができ、低フリクション化を図りつつ、泥水性能を高めて耐久性の向上を図ることができる。
【0043】
図4に、前述した密封装置17(
図3)の変形例を示す。なお、この実施形態は、前述した実施形態と基本的には遮蔽部の形状が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
この密封装置21は、互いに対向配置された環状のシール板10とスリンガ22とからなるパックシールを構成している。スリンガ22は、フェライト系ステンレス鋼板やオーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて形成され、図示しない内輪の外径に圧入される円筒部18aと、この円筒部18aから径方向外方に延びる立板部18bを備えている。そして、この立板部18bの側面に磁気エンコーダ23が加硫接着等で一体に接合されている。この磁気エンコーダ23は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入され、周方向に交互に磁極N、Sが着磁されている。
【0045】
ここで、磁気エンコーダ23は、立板部18bの先端部に回り込んで接合され、軸受内方側(シール板10側)に突出して形成された遮蔽部24を備えている。この遮蔽部24は、端部内周に所定の傾斜角θからなるテーパ面24aが形成されている。このテーパ面24aの傾斜角θは、シール板10を構成する芯金12の内径部の傾斜角θoと略同一に設定され(θ=θo)、テーパ面24aがシール板10に僅かなすきまを介して対向し、第1のラビリンスシール15が構成されると共に、遮蔽部24の外径がシール板10に僅かな径方向すきまを介して対向し、第2のラビリンスシール16が構成されている。
【0046】
これにより、本実施形態では、前述した実施形態と同様、外部から泥水等が浸入しても、サイドリップ13bの先端部までの浸入経路が屈曲されてその距離が長くなるので、摺接部に泥水が直接入り込むのを抑制し、アブレッシブ摩耗を防止することができると共に、浸入した泥水がサイドリップ13bの周辺に滞留することなくこのテーパ面24aに沿って飛散し易くなり、一層泥水性能を高めて耐久性の向上を図ることができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。