(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、工場など幅広い設備において、直動ロボットが利用されている。これら一般的な直動ロボットは、直線状または曲線状のレール部に沿って移動する可動部を備えている。可動部は、モータを有しており、モータの駆動力によってレール部に沿って移動する。このような従来の直動ロボットは、電源からモータへ電力が供給される。このモータへ供給される電力は、ケーブルベア(登録商標)に収容された電源ケーブルを経由して供給される。そのため、電源と可動部との間には、電源ケーブルを収容したケーブルベアが必要となる。ケーブルベアは、レール部に沿って移動する可動部に追従することが求められる。そのため、ケーブルベアは、可動部の移動領域に応じて設定する必要があり、移動領域の延長にともなって全長が大きくなる。また、ケーブルベアは、レール部に沿って往復移動する可動部の移動に対応するために、少なくとも一部がU字形状に折り返された状態で用いられる。
【0003】
このような従来の直動ロボットは、ケーブルベアが必須の構成となる。しかしながら、ケーブルベアを備える直動ロボットの場合、可動部は必然的にケーブルベアを引き連れながら移動する。そのため、可動部を駆動するモータは、可動部の重量、および、可動部で運搬される部材の重量だけでなく、ケーブルベアの重量も考慮した出力が要求される。その結果、モータの出力の増大にともなうモータの大型化を招くという問題がある。また、可動部とともにケーブルベアが移動するため、ケーブルベアと周囲の部材とは接触を繰り返す。ケーブルベアと周囲の部材との接触は、騒音を招く原因となるだけでなく、摩耗にともなう粉塵の発生を招く。特に、電子機器や半導体などの精密機器の製造設備では、粉塵は製品の品質低下を招く。従来の直動ロボットは、構造上、摩耗が避けられないケーブルベアを備えることから、これらの製造設備へより好適な適用をするためには改善が求められている。
【0004】
そこで、ケーブルベアに代えて無線による電力の供給が考えられている。しかし、電力の供給を無線で行なう場合、電力の伝達時におけるノイズの発生が避けられないという問題がある。直動ロボットが導入される設備では、ロボット以外に様々な機器が作動している。そのため、電力の供給にともなうノイズは、可能な限り低減することが求められる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、直動ロボットの実施形態を図面に基づいて説明する。
図1から
図3に示すように一実施形態による直動ロボット10は、送電コイルユニット11および受電コイルユニット12を備えている。送電コイルユニット11および受電コイルユニット12は、無線給電装置を構成している。直動ロボット10は、生産設備や流通設備などに設けられる。送電コイルユニット11は、図示しないラックが形成されたレール部13を有している。レール部13は、送電コイルユニット11の全長方向に沿って設けられている。
図1から
図3に示す一実施形態の場合、レール部13は、上端にラック14を有している。
【0012】
直動ロボット10は、可動部15を備えている。可動部15は、送電コイルユニット11のレール部13に案内されながら、レール部13に沿って移動する。可動部15は、
図3に示すようにモータ16および駆動力伝達部17を有している。可動部15は、受電コイルユニット12と一体に設けられている。モータ16は、可動部15に一体に設けられており、可動部15とともにレール部13に沿って移動する。モータ16は、駆動力伝達部17へ駆動力を供給する。駆動力伝達部17は、レール部13のラック14と噛み合う図示しないピニオンを有している。モータ16の駆動力は、駆動力伝達部17を経由してレール部13のラックに伝達される。これにより、ラックと噛み合っている駆動力伝達部17のピニオンはモータ16の駆動力によって回転し、可動部15はレール部13に対して相対的に移動する。なお、直動ロボット10は、モータ16の駆動力を駆動力伝達部17を経由してレール部13のラック14に伝達する構成に限らない。例えば、レール部13に環状のベルトを設け、このベルトとの摩擦力を利用して可動部15がレール部13に対して移動する構成としてもよい。また、可動部15は、レール部13との間にリニアモータを形成してもよい。
【0013】
送電コイルユニット11は、
図1から
図3に示すように基板21および送電コイル22を有している。基板21は、板厚方向の一方の端面である表面に送電コイル22を有している。送電コイル22は、基板21の表面に平面状に巻かれている。
図1に示す実施形態の場合、送電コイルユニット11は、複数巻きの送電コイル22を有している。送電コイルユニット11は、一巻きの送電コイル22を有していてもよい。送電コイル22は、
図4に示すように電力供給部23に接続している。これにより、送電コイル22は、電力供給部から電力が供給される。送電コイル22は、例えば所定の形状に打ち抜かれた銅板、基板に張り付けられた銅線あるいはプリント配線などによって形成されている。
【0014】
受電コイルユニット12は、
図1から
図3に示すように可動部15と一体に設けられ、モータ16および駆動力伝達部17とともに可動部15と一体にレール部13に沿って移動する。受電コイルユニット12は、
図2および
図3に示すように第一コイル31および第二コイル32を有している。第一コイル31は、第一基板33に設けられている。具体的には、第一コイル31は、第一基板33の送電コイルユニット11側の面に設けられている。これにより、第一コイル31は、送電コイルユニット11の基板21の表面、すなわち基板21に設けられている送電コイル22と対向する。また、第二コイル32は、第二基板34に設けられている。具体的には、第二コイル32は、第二基板34の送電コイルユニット11側の面に設けられている。これにより、第二コイル32は、送電コイルユニット11の基板21の裏面、すなわち基板21の送電コイル22が設けられていない面と対向する。上記の構成により、受電コイルユニット12は、送電コイルユニット11の基板21を挟んで、第一コイル31が基板21の表面と対向し、第二コイル32が基板21の裏面と対向する。その結果、送電コイルユニット11は、第一コイル31と第二コイル32との間に挟み込まれた状態となる。また、これら第一コイル31および第二コイル32は、送電コイル22と同様に銅板、銅線あるいはプリント配線などによって形成されている。
【0015】
これらの第一コイル31および第二コイル32は、いずれも平面コイルである。そして、第一コイル31および第二コイル32は、
図5に示すように送電コイル22が設けられている基板21を挟んで鏡像となる巻方向である。すなわち、第一コイル31と第二コイル32とは、互いに巻方向が逆となる。第一コイル31と送電コイル22が設けられている基板21の表面との間、および第二コイル32と基板21の裏面との間は、それぞれ数mmから数十mm程度の間隔を形成し、互いに非接触である。これら送電コイル22と第一コイル31および第二コイル32との間は、磁界共鳴を利用して互いに接触することなく電力が伝達される。すなわち、第一コイル31および第二コイル32は、送電コイル22と接触することなくモータ16などで消費される電力を送電コイル22から受け取る。可動部15は、第一コイル31および第二コイル32を経由して送電コイル22から非接触で電力を受け取る。そのため、レール部13の長さを任意に延長しても、可動部15に電力を供給するためのケーブルやケーブルベアは不要である。
【0016】
図4に示すように第一コイル31は、共振コンデンサ35とともにLC回路を構成している。第一コイル31は、共振コンデンサ35の反対側にダイオード36が直列に挿入されている。同様に、第二コイル32は、共振コンデンサ37とともにLC回路を構成している。第二コイル32は、共振コンデンサ37の反対側にダイオード38が直列に挿入されている。そして、これら第一コイル31および第二コイル32は、平滑コンデンサ41および平滑コイル42に接続されている。可動部15におけるモータ16などの負荷43は、平滑コンデンサ41と並列に接続されている。なお、可動部15側の回路では、平滑コンデンサ41および平滑コンデンサ41に限らず、他の整流回路を接続してもよい。一方、送電コイルユニット11の送電コイル22は、共振コンデンサ44とともにLC回路を構成し、電力供給部23に接続している。電力供給部23は、数MHzから数十MHzの高周波の交流を送電コイル22へ供給する。
【0017】
上記のような直動ロボット10は、可動部15に例えば図示しない昇降機構部などの各種の機能部が設けられる。昇降機構部は、例えばリニアモータなどの動力源から発生した駆動力を利用して図示しないステージ部を可動部15の移動方向と垂直に駆動する。この場合、機能部の作動に必要な電力は、可動部15のモータ16と同様に、送電コイル22と第一コイル31および第二コイル32との間における非接触による給電によって供給される。
【0018】
次に、上述の直動ロボット10における電力の供給について説明する。
送電コイル22に接続している電力供給部23は、磁界共鳴を成立させるために数MHzから数十MHzの高周波の交流を送電コイル22に供給する。この電力供給部23が供給する高周波は、例えば送電コイル22、ならびに受電コイルユニット12の第一コイル31および第二コイル32の特性などに応じて、磁界共鳴を成立させるために任意に決定される。電力供給部23は、電源がオンされると、送電コイル22に高周波を印加する。このように送電コイル22に高周波が印加されているとき、送電コイル22と受電コイルユニット12の第一コイル31および第二コイル32とが対向している部分では磁界共鳴が生じる。そのため、受電コイルユニット12は、磁界共鳴を利用して送電コイル22から電力を受け取る。一方、送電コイル22に高周波を印加していても、送電コイル22に受電コイルユニット12が対向していないとき、送電コイル22から不要な電界や磁界は放射されない。すなわち、送電コイル22に通電しているとき、送電コイル22と受電コイルユニット12とが対向している部分では磁界共鳴によって電力の受け渡しが生じる。これに対し、送電コイル22と受電コイルユニット12とが対向していない部分では、電力の受け渡しが生じないだけでなく、電界や磁界の放射がほとんど生じない。
【0019】
これは、次のような理由によるものである。すなわち、送電コイル22に受電コイルユニット12の第一コイル31および第二コイル32が対向していないとき、送電コイル22に高周波を印加しても、磁界共鳴による共振周波数における送電コイル22のインピーダンスは非常に大きくなる。そのため、送電コイル22と受電コイルユニット12の第一コイル31および第二コイル32とが対向しておらず磁界共鳴が生じない部分では、送電コイル22に高周波を印加しても、電流がほとんど流れず、電界や磁界の放射もほとんど生じない。これに対し、送電コイル22に受電コイルユニット12の第一コイル31および第二コイル32が対向すると、磁界共鳴による共振周波数における送電コイル22のインピーダンスは減少する。そのため、送電コイル22と受電コイルユニット12の第一コイル31および第二コイル32とが対向し互いに磁界共鳴が生じている部分では、電流が流れ、送電コイル22から受電コイルユニット12側へ電力が供給される。このように、磁界共鳴を利用して送電コイル22から受電コイルユニット12へ電力を供給することにより、不要な電界や磁界の放射およびこれにともなう電磁ノイズの放射は低減される。
【0020】
上記の構成による一実施形態による直動ロボットにおける作用について説明する。
図6は、受電コイルユニット12の構成とSWR(定在波比)との関係を示している。SWRは、
図6の式(1)によって求められる値である。SWR=1のとき、反射波が0であることを意味する。この反射波が0となるとき、送電コイル22から出力された電力はすべて受電コイルユニット12に伝達されたこととなる。したがって、SWR=1のとき、送電コイル22から受電コイルユニット12への伝達効率は100%となる。
【0021】
実施形態では、
図3および
図5に示すように受電コイルユニット12は、送電コイルユニット11を挟む第一コイル31および第二コイル32を備えている。比較例1では、
図7に示すように受電コイルユニット12は、送電コイル22と対向する第一コイル31のみを備えている。また、比較例2では、
図8に示すように受電コイルユニット12は、実施形態と同様に送電コイルユニット11を挟む二つのコイル51、52を備える。しかし、比較例2の受電コイルユニット12は、
図8に示すように二つのコイル51、52の巻方向が鏡像関係にない。
【0022】
図6によると、実施形態の受電コイルユニット12は、比較例1および比較例2に比較してSWRが1に近い、すなわち反射率が大きいことが分かる。具体的には、実施形態の受電コイルユニット12は、反射率が0.2%である。つまり、実施形態の受電コイルユニット12は、伝達効率が99.8%である。これに対し、比較例1は反射率が5.0%であり、比較例2は反射率が20%である。これらのことからも、本実施形態の構成による受電コイルユニット12は、伝達効率が向上していることが分かる。
【0023】
また、実施形態では、送電コイルユニット11の基板21の裏面側に受電コイルユニット12の第二コイル32が対向している。送電コイルユニット11と受電コイルユニット12との間の磁界共鳴による電力伝達の大部分は、送電コイル22と第一コイル31との間で行なわれる。このとき、送電コイル22と第一コイル31との間の磁界共鳴によって生じた磁束は、送電コイル22が設けられている基板21の裏面側にも漏れる。この漏れ出した磁束は、ノイズを招く原因となる。実施形態では、この基板21の裏面側に第二コイル32が対向している。そのため、基板21の裏面側に漏れ出した磁束は、第二コイル32によって遮蔽される。これとともに、この基板21の裏面側に漏れ出した磁束によって、送電コイル22と第二コイル32との間で磁界共鳴が生じる。これにより、送電コイル22から出力される電力は、第一コイル31だけでなく、第二コイル32にも伝達される。その結果、磁束の漏れにともなうノイズが低減されるとともに、送電コイルユニット11と受電コイルユニット12との間の伝達効率が向上する。
【0024】
さらに、送電コイルユニット11を第一コイル31と第二コイル32とで挟み込む場合、第一コイル31と第二コイル32との巻方向は伝達効率に影響を与える。上述の
図6に示すように、第一コイル31と第二コイル32との巻方向が鏡像関係となる実施形態は、比較例2よりも伝達効率が高いことが分かる。したがって、送電コイルユニット11を第一コイル31と第二コイル32とで挟み込む場合、第一コイル31と第二コイル32とは鏡像関係の巻方向にすることが好ましい。
【0025】
以上説明したように、一実施形態では、可動部15で必要となる電力は、送電コイルユニット11と受電コイルユニット12との間の磁界共鳴によって非接触で供給される。そのため、可動部15で駆動力を発生するために必要となる電力を供給するための電源ケーブルおよびこの電源ケーブルを収容するケーブルベアは不要となる。また、送電コイルユニット11と受電コイルユニット12との間は、非接触で電力が供給されるため、部材間の接触にともなう騒音および摩耗、ならびに摩耗にともなう粉塵の発生は大幅に減少する。さらに、可動部15が非接触で電力の供給を受けるため、可動部15とケーブルベアとの一体の移動も不要となる。そのため、可動部15で必要となる駆動力は減少する。可動部15で必要な駆動力の減少にともない、電力の制御に必要な回路や駆動力発生源および駆動力伝達機構などの機械的な構成も小型化される。したがって、ケーブルベアを廃止できるだけでなく、機器を小型化することができるとともに、騒音や粉塵の発生の低減にともなって適用可能な設備を拡大することができる。
【0026】
また、一実施形態では、送電コイルユニット11から受電コイルユニット12へ電力が供給されるとき、磁界共鳴の大部分は送電コイル22と第一コイル31との間で生じる。このとき、磁界共鳴のために送電コイル22と第一コイル31との間に生じる磁束は、基板21の裏面側にも漏れ出す。基板21の裏面側が第二コイル32と対向することにより、磁束の漏れは第二コイル32によって遮蔽されるとともに、送電コイル22と第二コイル32との間でも磁界共鳴が生じる。したがって、磁束の漏れによるノイズの発生が低減されるとともに、磁界共鳴による電力の伝達効率を高めることができる。
【0027】
さらに、一実施形態では、第一コイル31および第二コイル32は、平面コイルであり、基板21を挟んで鏡像関係の形状である。このように、第一コイル31および第二コイル32を鏡像関係に形成することにより、送電コイルユニット11と受電コイルユニット12との間の反射率が低下する。すなわち、送電コイルユニット11から受電コイルユニット12への電力の伝達効率は向上する。したがって、磁界共鳴による電力の伝達効率をより高めることができる。
【0028】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。