【実施例】
【0011】
本実施例では、空気調和装置の室外機1について説明する。なお、図示はしていないが、本実施例の空気調和装置は室外機1と室内機とが冷媒配管により接続されて冷凍サイクルを構成し、空気調和を行うものである。
【0012】
図1は、本実施例の室外機1の構成図の例である。この室外機1は図示しない室外側熱交換器に送風するプロペラファン2と、プロペラファン2を回転駆動するファンモータ3と、を備え、さらにファンモータ3を所望の回転数となるように回転自在に駆動する制御部を備えている。制御部はさらにファンモータ3からの出力電流を検出する電流検出部4と、ファンモータ3の磁極位置を検出する位相検出部5と、電流検出部4により検出した出力電流と、位相検出部5により検出した機械角位相を用いてトルク脈動成分を抽出する脈動成分抽出部6と、プロペラファン2の異常を検知する異常判定部7を備える。
【0013】
上記した特許文献1には「空気調和装置に発生する故障部位のうち、室外機の送風機の停止による異常を検知できるシステムを得て、効率的なサービスを行えるように図る。」と示されている。しかし、特許文献1においては、運転中にプロペラファンに異常が生じ停止した場合、これの検知は可能であるが、運転開始前、運転中にプロペラファンに破損が生じた状態で運転を続けた場合に、これを検知することは出来ない。すると、破損したプロペラファンは回転軸に対し重量のバランスが異なるため、重心が回転軸から大きくずれファンモータの固定部に応力がかかり、振動する。これにより、その他の部品と接触する可能性が考えられ、部品の破損を招き信頼性を損なう虞が生じる。
【0014】
そこで、以下の実施例では、運転開始前にプロペラファンの破損が生じた状態で運転開始した場合に、これを異常として検知できる空気調和装置について説明する。
【0015】
本実施例の空気調和装置において異常判定部7は運転開始後に脈動成分抽出部6より抽出したトルク脈動成分が予め設定したしきい値を超えた場合にプロペラファン2の異常を検出したとしてファンモータ3を停止し、室外機1全体の破損を避ける。
【0016】
図2は、本実施例の脈動成分抽出部6の構成図の例である。
脈動成分抽出部6の入力値となる、q軸電流フィードバック値はファンモータからの三相の出力電流(Iu、Iv、Iw)を検出し、αβ変換、dq変換の順に変換した結果を1次遅れフィルタ処理することで算出することができる。αβ変換、dq変換は次式により算出できる。
【0017】
なお、モータ電流(Iu、Iv、Iw)の検出方法には、モータ電流の出力部に抵抗値の小さい抵抗を接続し、その抵抗にかかる電圧からの検出や、電流センサによる検出等様々な方法がある。本実施例では電流検出部4は
図1下図に示すようにインバータの直流部分に流れる電流をシャント抵抗の両端に発生する電圧から測定し、制御部内の図示しない電流演算部によって、モータ電流(Iu、Iv、Iw)を導出するものである。
dq変換時のθ
dcはd軸位相であり、ファンモータの磁極位置を示す。脈動成分抽出部6の二つ目の入力値である機械角位相θ
rはθ
dcをから算出する。次式に示す。
Δθ
r=Δθ
dc/極対数
θ
rはΔθ
rを積算し算出する。上記の2つの入力q軸電流フィードバック値、機械角位相θ
rから脈動成分を抽出する。機械角位相θ
rからsin、cos演算8によりsinθ
r、cosθ
rを算出し、q軸電流フィードバック値とかけ合わせ、1次遅れフィルタ処理9を行うことで、高周波成分を除去する。ここで、実施する1次遅れフィルタ処理の時定数の設定値の設定には、実機による試験を基に、トルク脈動の周期を抽出出来る様にシミュレーションにより設定する。すなわち、フィルタ時定数の設定には脈動成分を抽出するためにフィルタ時定数を脈動周期より大きくする必要があるため、トルク脈動が発生するプロペラファンの回転周期に対しそれよりも大きい時定数を設定する。1次遅れフィルタ処理9後、再度sinθ
r、cosθ
rをかけ、足し合わせ、調整ゲインKにより脈動成分の調整を行うことで、機械角位相θ
rの周期で脈動する成分のみを抽出することが出来る。サンプリング周期、フィルタ時定数の設定値の一例を
図2に示す。
【0018】
ここで本実施例の異常判定部7は、脈動成分抽出部6より抽出したトルク脈動成分が予め設定したしきい値を超えた場合にプロペラファン2の異常を検知したとしてファンモータ3を停止するものである。この場合、瞬時停電によりモータ電流の波形が乱れる等の一時的な状態に対しプロペラファン2の異常であると誤検知する虞がある。そこで本実施例では、設定するしきい値は、実機による試験を基に、脈動する成分の振幅から設定値を決める。この設定値については、正常に動作している場合の電流値の最大値、最小値の測定からトルク脈動成分を算出し、正常動作時のトルク脈動成分の最大値より十分に大きくプロペラファン破損時トルク脈動成分の最大値より小さい値に設定することで誤検知を抑制しつつ、プロペラファン2の異常を検知することが可能となる。
【0019】
誤検知を避けるために、
図3は脈動成分抽出部6にて抽出した成分波形を基に異常判定部7の検知条件の例を示す。横軸を時間、縦軸をトルク脈動の抽出成分とする。
図3に示す異常判定10は、異常判定部7において脈動成分抽出部6により抽出したトルク脈動成分が予め設定したしきい値を所定時間内に所定回数を超えた場合にプロペラファン2の異常を検出したとしてファンモータ3を停止する。この場合、
図3に示すように一定期間t
n-1〜t
nの間にトルク脈動の抽出成分がしきい値を所定回数超えた場合に、異常な状態が継続的に続いていると判定する。
【0020】
以上に説明した方法により、破損したプロペラファン2が回転軸に対し重量のバランスが異なる状態で運転することで重心が回転軸から大きくずれ、ファンモータ3の固定部に応力がかかって振動する場合でも他の部品に接触する虞を避けることができ、信頼性を向上することが可能となる。
【0021】
また、誤検知を避けるための別の方法として、異常判定11があり、この場合、異常判定部7において、脈動成分抽出部6より抽出したトルク脈動成分が予め設定したしきい値を所定サンプリング回数の内に、所定回数を超えた場合にプロペラファン2の異常を検出したとして前記ファンモータ3を停止する。この場合、サンプリング回数mに対し、所定回数を超えた場合に、異常な状態が継続的に続いていると判定する。
【0022】
なお、トルク脈動の周期は破損したプロペラファン2の回転周期となるため、トルク脈動の周期が定周期となり、その1周期で1サンプリングする。異常判定部7は、脈動成分抽出部6より抽出したトルク脈動成分が設定しきい値を所定のサンプリング回数mの内に、所定回数を超えた場合にプロペラファン2の異常を検出したとしてファンモータ3を停止する。
【0023】
また、ファンモータ3の出力電流以外に、ファンモータ3の軸誤差の脈動成分の抽出による異常検出も可能である。脈動成分抽出方法と異常判定条件はファンモータ3の出力電流による異常検出と同様となる。