(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
石英ガラスロッドの表面をプラズマ火炎でエッチング処理した後、該エッチング処理面に石英ガラス微粒子を堆積させて光ファイバ用石英多孔質母材とし、該光ファイバ用石英多孔質母材を透明ガラス化する工程を有する、光ファイバ用ガラス母材の製造方法であって、
前記エッチング処理とは別途、プラズマ火炎で予熱処理することにより、熱を帯びた状態とした前記石英ガラスロッドのエッチング処理面に、前記石英ガラス微粒子を堆積させることを特徴とする光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
前記予熱処理により、前記石英ガラス微粒子の堆積を開始するときの、前記石英ガラスロッドのエッチング処理面の温度を50〜400℃とすることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
前記予熱処理時のプラズマ火炎が、アルゴンガス、窒素ガス又は酸素ガスを用いて生成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
前記エッチング処理面への前記石英ガラス微粒子の堆積は、前記石英ガラスロッドに対して、その長手方向に沿って、前記微粒子を生成する石英ガラスバーナを相対移動させることで行い、
石英ガラス微粒子の堆積の開始から終了までの間における石英ガラスバーナの前記相対移動速度の絶対値をvCとしたとき、vA<vB≦vCとすることを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、石英ガラスロッドの表面をプラズマ火炎でエッチング処理した後、該エッチング処理面に石英ガラス微粒子を堆積させて光ファイバ用石英多孔質母材とし、該光ファイバ用石英多孔質母材を透明ガラス化する工程を有する、光ファイバ用ガラス母材の製造方法であって、前記エッチング処理とは別途、プラズマ火炎で予熱処理することにより、熱を帯びた状態とした前記石英ガラスロッドのエッチング処理面に、前記石英ガラス微粒子を堆積させることを特徴とする。
かかる製造方法によれば、予熱処理によって、石英ガラス微粒子を堆積させるときの石英ガラスロッドのエッチング処理面が、熱を帯びた状態(保温された状態)にあることで、たとえサイズが大型であっても、石英ガラスロッドと外付け層との間で剥離及びずれの発生が抑制される。また、スート層(外付け層)の割れが生じることもない。そして、得られた光ファイバ用ガラス母材は、石英ガラスロッドと外付け層との界面における水酸基の量が低減されているので、これから作製された光ファイバは、例えば、前記界面がコアに近く、コアを伝播する光が前記界面にかかる場合であっても、OH損失が低減されたものとなる。
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る光ファイバ用ガラス母材の製造方法を説明するための模式図である。
【0019】
本発明においては、まず、石英ガラスロッドの表面をプラズマ火炎でエッチング処理する。エッチング処理により、石英ガラスロッドの表面に予め存在している、水をはじめとする各種異物が除去される。
そして、プラズマ火炎は、酸水素火炎とは異なり生成時に水素ガスを用いる必要がないため、エッチング処理時に水が発生せず、石英ガラスロッドのエッチング処理面における水酸基の残存が抑制される。
【0020】
エッチング処理は、対象となる石英ガラス微粒子の堆積箇所に対して、一回行うだけでもよいし、二回以上(複数回)繰り返して行ってもよい。
【0021】
石英ガラスロッドは、最終的に光ファイバ用ガラス母材及び光ファイバにおいて、コア及び一部のクラッドを構成するものでもよいし、コア、一部のクラッド、及びトレンチ層を構成するものでもよく、コアのみを構成するものでもよく、目的に応じて、任意に選択できる。
石英ガラスロッドの大きさは特に限定されず、小型のものでもよいが、例えば、外径が20〜50mm、長さが1000〜1600mm等の大型のものでも好適である。
石英ガラスロッドは、VAD法等、公知の方法で作製できる。
【0022】
エッチング処理は、例えば、プラズマトーチ(プラズマ火炎生成手段)を用いて生成されたプラズマ火炎で行うことができる。
【0023】
プラズマ火炎の生成方法は、取扱性、安全性、熱源の種類等を考慮して適宜選択すればよいが、プラズマ源となるガスに電圧を加えて、スパークさせることでプラズマ火炎を発生させる方法が好ましい。
プラズマ源となるガスとしては、アルゴン(Ar)ガスが例示できる。
プラズマ火炎の生成時に加える電圧は、高周波電圧であることが好ましく、電圧の周波数は2MHz〜2.45GHzであることが好ましい。
【0024】
プラズマ火炎に添加するエッチングガスは、フッ素含有ガスであることが好ましい。
前記フッ素含有ガスは、化学構造中にフッ素原子を含有するガスであればよく、エッチング能力及びコストの面から好ましいものとしては、六フッ化硫黄(SF
6)、六フッ化エタン(C
2F
6)、四フッ化ケイ素(SiF
4)、四フッ化メタン(CF
4)が例示できる。
フッ素含有ガスは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0025】
プラズマ火炎には、エッチングガスの種類に応じて、さらに支燃性ガスとして酸素(O
2)ガスを添加することにより、エッチングガスの分解を促進してもよい。例えば、エッチングガスとしてC
2F
6ガスを用いる場合には、酸素ガスを併用することが好ましい。
【0026】
本発明においては、アルゴンガスを用いて生成されたプラズマ火炎に、フッ素含有ガスを添加して、エッチング処理を行うことが好ましく、プラズマ火炎に、さらに必要に応じて酸素ガスを添加して、エッチング処理を行うことがより好ましい。
【0027】
エッチング処理は、石英ガラスロッドに対して、その長手方向に沿ってプラズマトーチを相対移動させることで行うのが好ましい。ここで、「石英ガラスロッドに対してプラズマトーチを相対移動させる」とは、(I)石英ガラスロッドを固定してプラズマトーチを移動させる、(II)プラズマトーチを固定して石英ガラスロッドを移動させる、(III)石英ガラスロッド及びプラズマトーチを共に移動させる(ただし、移動速度の絶対値と移動方向が共に同じである場合を除く)、のいずれかを意味する。
【0028】
石英ガラスロッド及びプラズマトーチは、いずれも石英ガラスロッドの長手方向(中心軸方向)に沿って移動させる。このときの移動方向は二方向あるが、いずれの方向であってもよい。例えば、前記(III)の場合、石英ガラスロッド及びプラズマトーチは、同一方向に移動させてもよいし、反対方向に移動させてもよい。そして、エッチング処理を複数回繰り返して行う場合に、前記移動方向は、すべての回で同一方向であってもよいし、すべての回で異なる方向であっても(一方向ずつ二回行っても)よく、一部の回のみ異なる方向であってもよい。
【0029】
エッチング処理の開始から終了までの間において、プラズマトーチの前記相対移動の速度の絶対値は、一定としてもよいし、変動させてもよいが、一定とすることが好ましい。一定とすることで、石英ガラスロッドの長手方向におけるエッチング量の変動を抑制する効果が高くなる。
【0030】
エッチング処理における、プラズマトーチの前記相対移動の速度の絶対値は、他の工程の影響を受けることなく、所望のエッチング量となるように任意に設定できる。したがって、プラズマ火炎を用いた場合、酸水素火炎を用いた場合よりもエッチング速度が遅い(単位時間当たりのエッチング量が小さい)が、十分に時間をかけてエッチング処理できる。
【0031】
酸水素火炎を用いて従来法によりエッチング処理した場合、典型的には、石英ガラスロッドの表面から0.2mmの深さの領域まで水酸基が残存することを、本発明者は確認している。一方で、プラズマ火炎を用いた場合には、上記のようにエッチング処理において水は発生しない。これらのことから、本発明においては、石英ガラスロッドの大きさにもよるが、エッチング処理によるエッチング量(石英ガラスロッドの表面からのエッチング距離)を好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上とする(すなわち、エッチング処理により、石英ガラスロッドの外径を好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.6mm以上小さくする)ことにより、より高度に水酸基の残存量を低減できる。前記エッチング量の上限値は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、製造コストの低減も考慮すると、1.0mmであることが好ましい。
【0032】
図1(a)は、エッチング処理の上記の好ましい実施形態を例示するものである。
石英ガラスロッド10は、両端部にダミー母材9が同軸状に接続され、これらダミー母材9は、一対の回転チャック8,8で把持されている。すなわち、石英ガラスロッド10は、矢印Aで示すように軸回りに回転可能とされ、反応容器7内に設置されている。
反応容器7の片側は排気ダクト(図示略)に接続されており、排気ダクト内は通常、20〜300Pa程度の陰圧とされ、反応容器7の外部からクリーンエアを供給することで、反応容器7が置かれたブース(図示略)内が、3〜30Pa程度の陽圧となるように調整される。
ここでは、石英ガラスロッド10を矢印A方向に回転させ、石英ガラスロッド10をその長手方向においては固定し、その長手方向に沿って、プラズマトーチ6を矢印B方向(左側)に移動させることで、エッチング処理を行う場合を例示している。符号4はプラズマ火炎である。石英ガラスロッド10は、同じ軸回りに矢印A方向に対して反対方向に回転させてもよく、プラズマトーチ6は、矢印B方向に対して反対方向(右側)に移動させてもよい。石英ガラスロッド10の前記回転の回転数は、例えば、15〜40rpmとすることが好ましい。
【0033】
本発明においては、前記エッチング処理の前後において、前記石英ガラスロッドの外径を測定することが好ましい。そして、エッチング処理前後の石英ガラスロッドの外径から、エッチング処理に伴うエッチング量を算出することが好ましい。エッチング量を算出することで、その値を目的値と比較して、目的とする程度にまでエッチングされているか否か、すなわち、エッチング処理の追加の有無をその都度判断でき、エッチング量が目的値に到達していない場合には、さらに追加でエッチング処理を行えばよい。一回のエッチング処理によるエッチング量が予め判明していても、用いる石英ガラスロッドの大きさ、石英ガラスの粘度、設備トラブルの有無等によっては、一回のエッチング処理によるエッチング量が予想値とは異なることがあり、その場合には、追加でエッチング処理を行うように制御するとよい。このようにすることで、石英ガラスロッドに対して、目的とする程度にまでエッチング処理を確実に行うことができる。
石英ガラスロッドの外径は、例えば、レーザ外径測定機等を用いる公知の方法で測定できる。
【0034】
エッチング処理後は、これ(エッチング処理)とは別途にプラズマ火炎を用いて、石英ガラスロッドのエッチング処理面を予熱処理する。予熱処理においても、プラズマ火炎を用いることで、石英ガラスロッドのエッチング処理面における水酸基の残存が抑制される。
さらに、プラズマ火炎は、熱容量が小さく、赤外線波長域の光を含まないため、酸水素火炎よりも輻射熱の発生が非常に少ない。したがって、プラズマ火炎で石英ガラスロッドを加熱しても、表面が広範囲に渡って、高温で長時間熱を帯びた(予熱された)状態とはならないので、エッチング処理面は、水が結合(反応)する前に十分に冷却される。通常は、エッチング処理面の温度が高いほど、水はエッチング処理面と結合(反応)し易くなる。このような効果も相まって、プラズマ火炎を用いて予熱処理することにより、石英ガラスロッドのエッチング処理面における水酸基の残存は、高度に抑制される。
【0035】
一方、酸水素火炎を用いた場合には、石英ガラス微粒子を堆積させるときのエッチング処理面の温度を1000℃以下に抑制することで、エッチング処理面における水酸基の残存をある程度低減できることを、本発明者は確認している。しかし、冷却の過程で、エッチング処理面が水と結合(反応)することがあるため、水酸基の残存を十分には低減できない。
【0036】
予熱処理は、対象となる石英ガラス微粒子の堆積箇所(エッチング箇所)に対して、一回行うだけでもよいし、二回以上(複数回)繰り返して行ってもよい。ただし、通常は、一回行うだけでも十分な効果が得られる。
【0037】
予熱処理時のプラズマ火炎は、エッチング処理時のものと同様の方法で生成されたものでよく、アルゴンガス、窒素(N
2)ガス又は酸素ガスを用いて生成されたものが好ましい。このようなプラズマ火炎を用いることで、予熱処理をより効果的に行うことができる。
【0038】
予熱処理は、石英ガラスロッド(エッチング面が形成された石英ガラスロッド)に対して、その長手方向に沿ってプラズマトーチ(プラズマ火炎生成手段)を相対移動させることで行うのが好ましく、例えば、用いるガスの種類が異なる点以外は、上記のエッチング処理の場合と同様の方法で行うことができる。
【0039】
予熱処理時におけるプラズマトーチの移動方向は、石英ガラスロッドの長手方向(中心軸方向)に沿って二方向あるが、いずれの方向でもよく、エッチング処理時におけるプラズマトーチの移動方向と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0040】
予熱処理の開始から終了までの間において、プラズマトーチの前記相対移動の速度の絶対値は、一定としてもよいし、変動させてもよいが、一定とすることが好ましい。一定とすることで、後述する光ファイバ用ガラス母材において、石英ガラスロッドと外付け層との間で剥離及びずれを抑制する効果がより高くなる。
【0041】
本発明においては、エッチング処理の開始から終了までの間におけるプラズマトーチ(エッチング用プラズマトーチ)の前記相対移動速度の絶対値をv
A、予熱処理の特定時期におけるプラズマトーチ(予熱用プラズマトーチ)の前記相対移動速度の絶対値をv
B’としたとき、予熱処理時間(予熱処理の開始から終了までの時間)の70%以上でv
A<v
B’とすることが好ましく、予熱処理時間の80%以上でv
A<v
B’とすることがより好ましく、予熱処理時間の90%以上でv
A<v
B’とすることがさらに好ましく、予熱処理の開始から終了まで、v
A<v
B’とすることが特に好ましい。すなわち、予熱処理の開始から終了までの間におけるプラズマトーチの前記相対移動速度の絶対値をv
Bとしたとき、v
A<v
Bとすることが特に好ましい。このようにすることで、工程の時間を短縮できると共に、光ファイバ用ガラス母材において、石英ガラスロッドと外付け層との間で剥離及びずれを抑制する効果がより高くなる。v
Aを一定とせずに変動させる場合にはその最大値が、v
Bを一定とせずに変動させる場合にはその最小値が、それぞれ上記関係を満たすようにすればよい。
【0042】
予熱処理では、前記石英ガラス微粒子の堆積を開始するときの、前記石英ガラスロッドのエッチング処理面の温度を、50℃以上とすることが好ましく、60℃以上とすることがより好ましく、70℃以上とすることが特に好ましい。このようにすることで、光ファイバ用ガラス母材において、石英ガラスロッドと外付け層との間で剥離及びずれを抑制する効果がより高くなる。
【0043】
また、予熱処理では、前記石英ガラス微粒子の堆積を開始するときの、前記石英ガラスロッドのエッチング処理面の温度を、400℃以下とすることが好ましく、350℃以下とすることがより好ましく、300℃以下とすることが特に好ましい。このようにすることで、光ファイバ用ガラス母材について、その特性に影響を与えることなく、水酸基の量を低減する効果がより高くなる。通常は、エッチング処理面の温度が低いほど、水はエッチング処理面と結合(反応)し難くなり、容易に脱離可能となるので、光ファイバ用石英多孔質母材の脱水及び焼結処理時における脱水効果が高くなる。
【0044】
エッチング処理面の温度は、例えば、サーモトレーサや非接触式のレーザ放射温度計を用いる公知の方法により、簡便に測定できる。
なお、エッチング処理面の前記温度は、石英ガラスロッドの大きさや、この後で堆積させる石英ガラス微粒子の量等を考慮して、調節してもよい。
【0045】
予熱処理は、エッチング処理がすべて終了してから行ってもよいし、エッチング処理がすべて終了する前に、エッチング処理済みの部位から行うことで、エッチング処理と並行して行ってもよい。
【0046】
予熱処理後は、予熱処理により熱を帯びた状態とした、石英ガラスロッドのエッチング処理面に、石英ガラス微粒子を堆積させて、光ファイバ用石英多孔質母材とする。石英ガラス微粒子の堆積開始時におけるエッチング処理面の温度は、上記の通りである。
【0047】
石英ガラス微粒子の堆積は、一回行うだけでもよいし、二回以上(複数回)繰り返して行ってもよいが、通常は、複数回繰り返して行うことにより、十分な量の石英ガラス微粒子を堆積させることが好ましい。このときの繰り返し数は、目的とする光ファイバ用ガラス母材の大きさに応じて適宜調節すればよく、例えば、数百回程度等、千回以下とすることがある。
【0048】
堆積させる石英ガラス微粒子は、石英ガラス原料ガス、水素(H
2)ガス、酸素ガス及び不活性ガスを用いて、酸水素火炎中で生成させることが好ましい。
前記石英ガラス原料ガスとしては、四塩化ケイ素(SiCl
4)ガス、四塩化ゲルマニウム(GeC1
4)ガス等が例示できる。
前記不活性ガスとしては、アルゴンガス、窒素ガスが例示できる。
【0049】
石英ガラス微粒子の堆積温度(デポジション温度)は、500〜1100℃であることが好ましく、650〜1050℃であることがより好ましい。
【0050】
石英ガラス微粒子の堆積は、石英ガラスロッド(エッチング面が予熱処理された石英ガラスロッド)に対して、その長手方向に沿って、石英ガラス微粒子を生成する石英ガラスバーナを相対移動させることで行うのが好ましい。ここで、「石英ガラスロッドに対して石英ガラスバーナを相対移動させる」とは、上記のプラズマトーチの場合と同様であり、(i)石英ガラスロッドを固定して石英ガラスバーナを移動させる、(ii)石英ガラスバーナを固定して石英ガラスロッドを移動させる、(iii)石英ガラスロッド及び石英ガラスバーナを共に移動させる(ただし、移動速度の絶対値と移動方向が共に同じである場合を除く)、のいずれかを意味する。
【0051】
石英ガラスロッド及び石英ガラスバーナは、いずれも石英ガラスロッドの長手方向(中心軸方向)に沿って移動させる。このときの移動方向は二方向あるが、いずれの方向であってもよい。例えば、前記(iii)の場合、石英ガラスロッド及び石英ガラスバーナは、同一方向に移動させてもよいし、反対方向に移動させてもよい。
そして、石英ガラス微粒子の堆積を複数回繰り返して行う場合に、前記移動方向は、すべての回で同一方向であってもよいし、すべての回で異なる方向であっても(一方向ずつ二回行っても)よく、一部の回のみ異なる方向であってもよい。
【0052】
石英ガラス微粒子の堆積の開始から終了までの間において、石英ガラスバーナの前記相対移動の速度の絶対値は、一定としてもよいし、変動させてもよいが、一定とすることが好ましい。一定とすることで、石英ガラス微粒子の堆積層(スート堆積層)の厚さが、石英ガラスロッドの長手方向においてより均一となる。
【0053】
本発明においては、石英ガラス微粒子の堆積の特定時期における石英ガラスバーナの前記相対移動速度の絶対値をv
C’としたとき、堆積時間(堆積の開始から終了までの時間)の70%以上でv
B≦v
C’とすることが好ましく、堆積時間の80%以上でv
B≦v
C’とすることがより好ましく、堆積時間の90%以上でv
B≦v
C’とすることがさらに好ましく、石英ガラス微粒子の堆積の開始から終了まで、v
B≦v
C’とすることが特に好ましい。すなわち、石英ガラス微粒子の堆積の開始から終了までの間における石英ガラスバーナの前記相対移動速度の絶対値をv
Cとしたとき、v
B≦v
Cとすることが特に好ましい。このようにすることで、スート層の割れを抑制する効果がより高くなる。v
Bを一定とせずに変動させる場合にはその最大値が、v
Cを一定とせずに変動させる場合にはその最小値が、それぞれ上記関係を満たすようにすればよい。
【0054】
このように、本発明においては、石英ガラス微粒子の堆積の開始から終了まで、v
A<v
B≦v
Cとすることが、特に好ましい。
【0055】
石英ガラスバーナの前記相対移動速度の絶対値v
C’(v
C)は、例えば、エッチング処理時におけるプラズマトーチの前記相対移動速度の絶対値と同程度であるなど、極端に小さい場合には、光ファイバ用石英多孔質母材を得るのに長時間を要する。また、石英ガラス微粒子の堆積を複数回繰り返して行う場合、一回目を上記のようにプラズマトーチの相対移動速度の絶対値と同程度に小さくし、二回目以降を工程時間の短縮のために大きくするなど、一部の回で大きく変化させた場合には、形成された石英ガラス微粒子の各堆積層の間で、大きな厚さの差が生じたことに起因して、かさ密度の差が生じ、最終的に形成されたスート層にかさ密度のむらが生じて、スート層に割れが生じ易くなることがある。通常、相対移動速度の絶対値を小さくすると、石英ガラス微粒子の堆積層は厚くなり、相対移動速度の絶対値を大きくすると、石英ガラス微粒子の堆積層は薄くなる。そこで例えば、石英ガラスロッドの大きさや、堆積させる石英ガラス微粒子の量等にもよるが、v
C’(v
C)を好ましくは100mm/分以上、より好ましくは150mm/分以上とするなど、石英ガラスバーナを迅速に相対移動させるとよい。このようにすることで、光ファイバ用石英多孔質母材を短時間でより効率的に作製できる。また、石英ガラス微粒子の堆積を複数回行う場合にも、最終的に形成されたスート層においてかさ密度のむらの発生が抑制される。v
C’(v
C)の上限値は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。
【0056】
石英ガラス微粒子の堆積は、予熱処理がすべて終了してから行ってもよいし、予熱処理がすべて終了する前に、予熱処理済みの部位から行うことで、予熱処理と並行して行ってもよい。そして、光ファイバ用ガラス母材において、石英ガラスロッドと外付け層との間で剥離及びずれを抑制する効果がより高くなることから、予熱処理と並行して行うことが好ましい。このようにすることにより、予熱処理後の放熱(温度の低下)度が低い状態のエッチング処理面に、石英ガラス微粒子を堆積させることができる。
【0057】
石英ガラス微粒子は、予熱処理により熱を帯びた状態の、石英ガラスロッドのエッチング処理面に堆積されるので、該処理面との密着度が向上し、石英ガラスロッドと外付け層との間で剥離及びずれの発生が抑制される。また、石英ガラス微粒子の堆積を複数回行う場合には、従来法と同様に、石英ガラス微粒子の堆積に温度が高い火炎を用いることもあり、二回目以降に堆積される石英ガラス微粒子は、その堆積される表面(石英ガラス微粒子の堆積層表面)の温度が十分に高いので、該表面との密着度が高い。
【0058】
図1(b)は、予熱処理及び石英ガラス微粒子の堆積について、上記の好ましい実施形態を例示するものである。
ここでは、石英ガラスロッド10をその長手方向においては固定し、その長手方向に沿って、プラズマトーチ6及び石英ガラスバーナ5を同一方向、すなわち矢印B方向(左側)に移動させることで、予熱処理及び石英ガラス微粒子の堆積を行う場合を例示している。このとき、石英ガラスロッド10は矢印A方向に回転させる。石英ガラスバーナ5は、プラズマトーチ6を追いかけるように移動させる。プラズマ火炎4にエッチングガスは添加しないが、プラズマトーチ6は、ここでの予熱処理だけでなく、前記エッチング処理も行うものであってよい。
排気ダクト内と、反応容器7が置かれたブース内の圧力は、
図1(a)の場合と同様である。
石英ガラス微粒子の堆積を複数回行う場合には、二回目以降においては、石英ガラスバーナ5のみを移動させることで、堆積させることができる。
また、石英ガラスロッド10は、同じ軸回りに矢印A方向に対して反対方向に回転させてもよく、プラズマトーチ6及び石英ガラスバーナ5は、矢印B方向に対して反対方向(右側)に移動させてもよい。石英ガラスロッド10の前記回転の回転数は、
図1(a)の場合と同様である。
なお、ここでは石英ガラスバーナ5が、石英ガラスロッド10の長手方向に沿って2個直列に配置された例を示しているが、石英ガラスバーナ5の数及び配置形態は、これに限定されず、適宜調節できる。
【0059】
石英ガラスロッドのエッチング処理面に石英ガラス微粒子を堆積させた後は、得られた光ファイバ用石英多孔質母材を透明ガラス化する。
透明ガラス化は公知の方法で行えばよく、光ファイバ用石英多孔質母材を脱水及び焼結処理することで行うことができるが、かかる母材は水酸基の量が十分に低減されているので、脱水処理は省略してもよい。
【0060】
前記脱水処理は、塩素含有ガスの存在下で行うことが好ましい。
前記焼結処理は、ヘリウムガス等の不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。
また、脱水及び焼結処理をフッ素含有ガスの存在下で行うことにより、フッ素添加を行い、透明ガラス化した層(外付け層)の屈折率を低下させることができる。このときのフッ素含有ガスとしては、前記エッチング処理においてエッチングガスとして用いるフッ素含有ガスと同じものが例示でき、かかるフッ素含有ガスは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0061】
透明ガラス化した後は、得られたものを光ファイバ用ガラス母材としてもよいし、形成した透明ガラス化層(外付け層)の外側に、さらに外付け層を追加形成して光ファイバ用ガラス母材としてもよい。
追加形成する外付け層は、公知の方法で形成してもよいし、上記の透明ガラス化で得られたものを、あらたに石英ガラスロッドとして用い、上記の本発明の製造方法を適用して形成してもよい。
追加形成する外付け層の数及び種類は、目的とする光ファイバ用ガラス母材の構造に応じて、任意に設定できる。
【0062】
図2は、本発明により得られた光ファイバ用ガラス母材と、該母材を構成する各層の屈折率の関係と、を例示する概略断面図である。
図2(a)は、コア11、内側クラッド12及び外側クラッド13がこの順に設けられた光ファイバ用ガラス母材1を示し、
図2(b)は、コア11、内側クラッド12、トレンチ層14及び外側クラッド13がこの順に設けられた光ファイバ用ガラス母材2を示す。
図2中、Dは外側クラッドの外径を、d
1は内側クラッドの外径を、d
2はトレンチ層の外径を、それぞれ示す。
なお、ここに示す光ファイバ用ガラス母材は、本発明により得られるものの一例を示すに過ぎず、本発明により得られる光ファイバ用ガラス母材は、これに限定されるものではない。
【0063】
光ファイバ用ガラス母材1は、例えば、石英ガラスロッドとしてコア11及び内側クラッド12を構成するものを用い、外側クラッド13の形成時に本発明を適用することで製造できる。
また、光ファイバ用ガラス母材2は、例えば、石英ガラスロッドとしてコア11及び内側クラッド12を構成するものを用い、トレンチ層14の形成時に本発明を適用することで製造できる。そして、D/d
2の値が4未満の場合には、トレンチ層14と外側クラッド13との界面に水酸基が残存していても、光ファイバ用ガラス母材2はその影響を受けないため、外側クラッド13の形成時にトレンチ層14の表面はエッチング処理が不要であり、本発明を適用する必要はなく、外側クラッド13は従来の外付け法で形成できる。一方、D/d
2の値が4以上の場合には、トレンチ層14と外側クラッド13との界面に水酸基が残存していると、光ファイバ用ガラス母材2はその影響を受けるため、外側クラッド13の形成時にも本発明を適用する。
【0064】
図3に、本発明に係る光ファイバ用ガラス母材の製造方法の一実施形態を説明するためのフロー図を例示する。ここに示すもののうち、点線枠で囲った工程は、状況によって省略することも可能である。
【0065】
本発明により得られた光ファイバ用ガラス母材は、水酸基の量が十分に低減されている。したがって、かかる母材から製造された光ファイバは、OH損失が高度に低減されたものとなり、OH損失が好ましくは0.31dB/km以下の光ファイバを得ることが可能である。
また、本発明により得られた光ファイバ用ガラス母材は、小型であるか、大型であるかによらず、剥離、ずれ及び割れが抑制されたものとなる。
【実施例】
【0066】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
<光ファイバ用ガラス母材の製造>
図1を参照して説明した方法により、表1に示す条件で、
図2(b)に示す構造の光ファイバ用ガラス母材を製造した。具体的には、以下の通りである。
VAD法で作製した石英ガラスロッドの両端部にダミー母材を同軸状に接続し、反応容器内でこれを一対の回転チャックで把持した後、石英ガラスロッドを軸回りに回転数25rpmで回転させた。石英ガラスロッドとしては、コア及び内側クラッドを構成するものを用いた。また、反応容器には外部からクリーンエアを供給し、反応容器が置かれたブース内の圧力を、3〜30Paの範囲内に収まるように調整した。
【0068】
次いで、石英ガラスロッドをその長手方向においては固定し、その長手方向に沿って、プラズマトーチを移動させることで、石英ガラスロッドの表面をプラズマ火炎でエッチング処理した。このとき、アルゴンガスを30SLMの流量でプラズマトーチに供給し、高周波電源を用いて13.56MHz、6KWの条件で電圧を加えることで、高周波プラズマ火炎を生成させた。そして、生成されたプラズマ火炎に、SF
6ガスを2.5SLMの流量で添加することで、エッチング処理を行った。エッチング処理は、ガラスロッドの一端から他端に向けてプラズマトーチを一方向に一回のみ移動させることで、一回のみ行った。なお、エッチング処理の前後において、レーザ外径測定機(キーエンス社製LS−3000シリーズ)を用いて、石英ガラスロッドの外径を測定し、エッチング量を算出した。
【0069】
次いで、エッチング処理がすべて終了した後、石英ガラスロッドをその長手方向においては固定し、その長手方向に沿って、プラズマトーチ及び石英ガラスバーナを同一方向に移動させる(プラズマトーチを追いかけるように石英ガラスバーナを移動させる)ことで、予熱処理及び石英ガラス微粒子の堆積を並行して一回行った。予熱処理は、SF
6ガスを添加しなかったこと以外は、エッチング処理の場合と同様に高周波プラズマ火炎を生成させ、これを用いて行った。また、石英ガラス微粒子は、石英ガラス原料ガス、水素ガス及び酸素ガスを用い、さらに不活性ガスとしてアルゴンガス及び窒素ガスを用いて、酸水素火炎中で生成させることで堆積させた。予熱処理及び石英ガラス微粒子の堆積は、ガラスロッドの一端から他端に向けてプラズマトーチ及び石英ガラスバーナを一方向に一回移動させることで行った。
次いで、石英ガラスバーナの移動を妨げない位置にプラズマトーチを退避させた後、一回目と同方向に石英ガラスバーナのみを複数回繰り返して移動させることにより、石英ガラス微粒子の堆積を複数回行った。
ここまでの工程で、光ファイバ用石英多孔質母材を作製した。
【0070】
次いで、得られた光ファイバ用石英多孔質母材を焼結炉に入れて、塩素含有ガス雰囲気下で脱水処理した後、SiF
4とヘリウムの混合ガス中で焼結処理とフッ素添加を同時に行った。
ここまでの工程で、
図2(b)に示す構造の光ファイバ用ガラス母材のうち、コア〜トレンチ層の部分を作製した。
【0071】
次いで、塩素含有ガス雰囲気下での脱水処理を含む、従来の外付け法で、外側クラッドを形成した。
ここまでの工程で、
図2(b)に示す構造の光ファイバ用ガラス母材を製造した。D/d
2の値は4未満であった。
【0072】
<光ファイバの製造>
得られた光ファイバ用ガラス母材を、従来法により素線化して、外側クラッドの外径が125μmの光ファイバを製造した。そして、得られた光ファイバのOH損失を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例2]
表1に示すように、石英ガラス微粒子堆積開始時のエッチング処理面の温度を70℃に代えて90℃とし、石英ガラス微粒子の一回目の堆積温度を800℃に代えて950℃としたこと以外は、実施例1と同様に、光ファイバ用ガラス母材を製造し、さらに光ファイバを製造した。
得られた光ファイバのOH損失の測定結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
表1に示すように、v
Aを20mm/分に代えて25mm/分とし、石英ガラス微粒子堆積開始時のエッチング処理面の温度を70℃に代えて80℃とし、石英ガラス微粒子の一回目の堆積温度を800℃に代えて1000℃としたこと以外は、実施例1と同様に、光ファイバ用ガラス母材を製造し、さらに光ファイバを製造した。
得られた光ファイバのOH損失の測定結果を表1に示す。
【0075】
[比較例1]
表2に示すように、石英ガラスロッドのエッチング処理面を予熱処理しなかったこと以外は、実施例1と同様に、光ファイバ用ガラス母材を製造し、さらに光ファイバの製造を試みた。
【0076】
[比較例2]
表2に示すように、石英ガラスロッドのエッチング処理面を予熱処理せず、v
Cを220mm/分に代えて20mm/分として、エッチング処理と石英ガラス微粒子の一回目の堆積とを並行して行い、石英ガラス微粒子の一回目の堆積温度を800℃に代えて850℃としたこと以外は、実施例1と同様に、光ファイバ用ガラス母材を製造し、さらに光ファイバの製造を試みた。
【0077】
[比較例3]
表2に示すように、プラズマ火炎に代えて酸水素火炎を用いて、石英ガラスロッドのエッチング処理面を予熱処理し、石英ガラス微粒子の一回目の堆積温度を800℃に代えて1000℃としたこと以外は、実施例1と同様に、光ファイバ用ガラス母材を製造した。酸水素火炎を生成させるときは、石英ガラス微粒子堆積開始時のエッチング処理面の温度が800℃となるように、酸水素ガスの流量を調節した。さらに、実施例1と同様に、光ファイバを製造した。
得られた光ファイバのOH損失の測定結果を表2に示す。
【0078】
[比較例4]
表2に示すように、石英ガラスロッドのエッチング処理面を予熱処理せず、石英ガラス微粒子の一回目の堆積温度を800℃に代えて1200℃としたこと以外は、実施例1と同様に、光ファイバ用ガラス母材を製造し、さらに光ファイバを製造した。
得られた光ファイバのOH損失の測定結果を表2に示す。
【0079】
なお、表1及び2において、「エッチング量」とは、石英ガラスロッドの表面からのエッチング距離を意味し、エッチング処理前後における石英ガラスロッドの外径差は、この「エッチング量」の2倍の値となる。これは、以降の表においても同様である。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表1及び2に示すように、実施例1〜3の光ファイバ用ガラス母材は、大型であっても、石英ガラスロッド(コア及び内側クラッド)と外付け層(トレンチ層)との間で剥離及びずれの発生が認められず、また、スート層の割れも認められなかった。そして、実施例1〜3の光ファイバは、いずれもOH損失が低かった。
【0083】
これに対し、比較例1では、エッチング処理がすべて終了するのに1時間以上要したのに対し、石英ガラスロッドのエッチング処理面を予熱処理しなかったことにより、石英ガラス微粒子の堆積開始時におけるエッチング処理面は、熱を帯びた状態(保温された状態)ではなかった。その結果、得られた光ファイバ用ガラス母材は、石英ガラスロッドと外付け層との間でずれが発生しており、光ファイバを製造できなかった。
また、比較例2では、v
Cを小さくし、エッチング処理後に直ちに、石英ガラス微粒子の一回目の堆積を行ったことで、この堆積開始時におけるエッチング処理面は、熱を帯びた状態であった。しかし、石英ガラス微粒子の一層目の堆積層が極端に厚くなり、最終的に形成されたスート層にかさ密度のむらが生じたと推測され、得られた光ファイバ用ガラス母材は、スート層に端部から割れが生じた。そして、光ファイバを製造できなかった。
【0084】
一方、比較例3では、予熱処理を行うことによって、石英ガラス微粒子の堆積開始時におけるエッチング処理面は、温度が高く、得られた光ファイバ用ガラス母材は、石英ガラスロッドと外付け層との間で剥離及びずれの発生が認められなかった。また、スート層の割れも認められなかった。しかし、酸水素火炎を用いたことにより、石英ガラスロッドと外付け層との界面に水酸基が多く残存したと推測され、得られた光ファイバは、OH損失が高かった。
また、比較例4では、予熱処理を行わなかったものの、石英ガラス微粒子の一回目の堆積温度を高くすることにより、得られた光ファイバ用ガラス母材は、石英ガラスロッドと外付け層との間で剥離及びずれの発生が認められなかった。また、スート層の割れも認められなかった。しかし、石英ガラス微粒子の一層目の堆積層のかさ密度が大きかったために、脱水処理で水酸基の量を十分に低減できなかったと推測され、得られた光ファイバは、OH損失が高かった。
【0085】
[実施例4]
表3に示すように、プラズマトーチ及び石英ガラスバーナを同一方向に移動させるときの、これらの相対移動速度の絶対値(v
B、v
C)を、それぞれ220mm/分に代えて110mm/分とし、石英ガラス微粒子の一回目の堆積温度を800℃に代えて900℃としたこと以外は、実施例1と同様に、光ファイバ用ガラス母材を製造し、さらに光ファイバを製造した。
得られた光ファイバのOH損失の測定結果を表3に示す。
【0086】
[実施例5]
プラズマトーチにアルゴンガスを30SLMの流量で供給するのに加えて、さらに酸素ガスを4SLMの流量で供給(アルゴンガス及び酸素ガスを共に供給)し、生成されたプラズマ火炎に、SF
6ガスを2.5SLMの流量で添加するのに代えて、C
2F
6ガスを2.5SLMの流量で添加することで、エッチング処理を行い、さらに、石英ガラス微粒子の一回目の堆積温度を800℃に代えて850℃としたこと以外は、実施例1と同様に、光ファイバ用ガラス母材を製造し、さらに光ファイバを製造した。
得られた光ファイバのOH損失の測定結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3に示すように、実施例4〜5の光ファイバ用ガラス母材は、大型であっても、石英ガラスロッド(コア及び内側クラッド)と外付け層(トレンチ層)との間で剥離及びずれの発生が認められず、また、スート層の割れも認められなかった。そして、実施例4〜5の光ファイバは、いずれもOH損失が低かった。
【0089】
実施例5では、v
Bを小さくしたことにより、石英ガラス微粒子堆積開始時のエッチング処理面の温度が高くなり、光ファイバ用石英多孔質母材の脱水及び焼結処理後に、石英ガラスロッドと外付け層との間での剥離やずれが、より高度に抑制されていると推測される。また、光ファイバのOH損失が低かったことから、このようなエッチング処理面の温度(400℃)は決して高過ぎることはなく、水はエッチング処理面と結合し難く、光ファイバ用石英多孔質母材の脱水及び焼結処理時に、石英ガラスロッドと外付け層との界面における水酸基の量が十分に低減されたと推測される。
【0090】
実施例6でも、エッチング処理の条件を変更したことで、石英ガラス微粒子堆積開始時のエッチング処理面の温度が高くなり、実施例5と同様に、光ファイバ用石英多孔質母材の脱水及び焼結処理後に、石英ガラスロッドと外付け層との間での剥離やずれが、より高度に抑制されていると推測される。また、光ファイバのOH損失が低かったことから、実施例5と同様に、光ファイバ用石英多孔質母材の脱水及び焼結処理時に、石英ガラスロッドと外付け層との界面における水酸基の量が十分に低減されたと推測される。
【0091】
以上のように、本発明は顕著に優れた効果を奏することが確認できた。