特許第6126937号(P6126937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6126937有機ヘテロ高分子及びそれを用いた半導体デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126937
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】有機ヘテロ高分子及びそれを用いた半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20170424BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20170424BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20170424BHJP
   H01L 51/42 20060101ALI20170424BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170424BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   C08G61/12
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 250G
   H01L31/04 D
   H05B33/14 B
   H05B33/10
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-165967(P2013-165967)
(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公開番号】特開2015-34239(P2015-34239A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 一郎
(72)【発明者】
【氏名】福井 和寿
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/007648(WO,A1)
【文献】 特開平11−255779(JP,A)
【文献】 特開昭62−169820(JP,A)
【文献】 西独国特許第02260801(DE,B)
【文献】 特開2014−172969(JP,A)
【文献】 特開2013−185009(JP,A)
【文献】 特許第5863479(JP,B2)
【文献】 S.V.Mello et al,Langmuir and Langmuir-Blodegett films from the N-hexyl-pyrrole-thiophene (AB) semi-amphiphilic copolymer,Colloids and Surfaces A:Physicochemical and Engineering Aspects,2002年,p45-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00−61/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1
【化1】
(式中、Mは、スズ原子(Sn)を示し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を示し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又は周期表16族元素及び周期表11族元素から選択された一価又は二価のヘテロ原子又は配位子と錯体を形成した金属原子を示し、
【化2】
は単結合又は二重結合を示し、
m1及びm2はそれぞれ0又は1を示し、m1とm2との合計は1又は2であり
6a及びR6bは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、直鎖状又は分岐鎖状アルキルチオ基を示し、R6a及びR6bは互いに結合して環を形成してもよい。)
で表される繰り返し単位を有する有機ヘテロ高分子。
【請求項2】
下記式(1c
【化3】
(式中、Mスズ原子(Sn)を示し
1b、同一又は異なって、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を示し
2bは、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基、周期表11族元素から選択された金属原子又は配位子と錯体を形成した金属原子を示し
6a及びR6bは、同一又は異なって、水素原子、直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルコキシ基、又は直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキルチオ基を示し、R6a及びR6bの少なくとも一方は水素原子ではなく、R6a及びR6bは、互いに結合して、シクロアルカン環、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有するヘテロ環を形成してもよい)
で表される繰り返し単位を有する請求項1記載の有機ヘテロ高分子。
【請求項3】
6a及びR6bが、同一又は異なって、水素原子、直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルキル基又は直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルコキシ基、直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルキルチオ基を示し、R6a及びR6bの少なくとも一方は水素原子ではなく、R6a及びR6bは、互いに結合して、シクロアルカン環、酸素原子、及び硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有する5員乃至8員ヘテロ環を形成してもよい請求項1又は2記載の有機ヘテロ高分子。
【請求項4】
6a及びR6bの少なくとも一方が、直鎖状又は分岐鎖状C4−14アルキル基であるか、若しくはR6a及びR6bは互いに結合してアルキレンジオキシ基を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の有機ヘテロ高分子。
【請求項5】
有機半導体を形成するための組成物であって、請求項1〜4のいずれかに記載の有機ヘテロ高分子と、有機溶媒とを含み、有機半導体を形成するための組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の有機ヘテロ高分子で形成された有機半導体。
【請求項7】
基材の少なくとも一方の面に請求項5記載の組成物を塗布して乾燥し、有機半導体を形成する有機半導体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の有機ヘテロ高分子で形成された有機半導体を含む電子デバイス。
【請求項9】
光電変換素子、スイッチング素子及び整流素子から選択された一種である請求項8記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子、光電変換素子などとして有機半導体を形成するのに有用な有機ヘテロ高分子(又は有機金属高分子)、この高分子で形成された有機半導体およびそれを用いたデバイス(半導体デバイス)に関する。
【背景技術】
【0002】
金属フタロシアニンに代表される有機金属化合物は、その有機分子−金属間の結合により、特異な電子状態や非常に安定な分子構造を形成するものが多い。これらの特徴により、古くから有機顔料などとして用いられてきた。
【0003】
近年では、熱・光や電場など外部エネルギーに対する応答性から、電子写真方式のプリンターの感光材、CD−Rなどの記録媒体などのエレクトロニクス分野への利用が広まっている。特に、最近では、有機半導体としての機能が注目され、有機トランジスタや有機薄膜太陽電池への利用が検討されている。有機半導体を用いた電子デバイスは、印刷により作製できるため、無機系デバイスに比べて、より安価に大量生産できると期待されている。
【0004】
しかし、従来の有機金属化合物は溶剤に不溶又は難溶であるものが多く、その成膜は主に真空蒸着法で行っているため、作製した電子デバイスは高価である。
【0005】
このような課題を改善するため、特開2011−162575号公報(特許文献1)には、例えば、4−置換アミドフタロニトリル(4−アセトアミドフタロニトリル、4−ピリジルアミドフタロニトリルなど)と4−アルキルフタロニトリル(4−t−ブチルフタロニトリルなど)とを金属塩(Ni,Zn、Cuなどの金属塩)の存在下で反応させ、金属トリスアルキル−4−置換アミド−フタロシアニンを製造することが記載され、このフタロシアニン化合物を加水分解してアミノ基を有する可溶性の置換フタロシアニンを製造することも記載されている。このようなフタロシアニン誘導体は、フタロシアニンにt−ブチル基などの立体障害の大きな官能基が導入され、フタロシアニン間のスタッキングを防止でき、溶媒に可溶である。
【0006】
しかし、スタッキングを阻害する官能基を導入すると、分子間の電子移動が困難となるため、光電特性、有機半導体としての機能は低下する。
【0007】
また、ポルフィリン構造を導入した高分子も知られている。J. Polym. Sci. Part A, 43 (2005) 2997(非特許文献1)には、5−[4−(2−メタクリロイルオキシエトキシカルボニル)フェニル]−10,15,20−トリフェニルポルフィナト 白金(II)をイソブチルメタクリレート及び2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートと共重合し、側鎖にポルフィリン構造を導入した高分子を調製し、この高分子を、酸素透過性高分子中に埋設した発光分子からなる感圧素子用に用いることが記載されている。
【0008】
しかし、このような高分子は、側鎖間距離を十分に離した構造により側鎖の錯体同士のスタッキング形成を防ぐため、やはり電気特性、光電特性、有機半導体としての機能は十分でなく、より高い電子移動度を必要とする。例えば、エネルギーバンドギャップが広く、有機半導体としての特性に劣り、有機トランジスタや有機太陽電池用途には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−162575号公報(特許請求の範囲、実施例)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Polym. Sci. Part A; Polym. Chem, 43 (2005) 2997(ABSTRACT)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、分子量が高いにも拘わらず導電性(キャリア移動度)が高く、高分子有機半導体を形成するのに有用な有機ヘテロ高分子(又は有機金属高分子)、この高分子を含む組成物(又はコーティング組成物)、この組成物で形成された有機半導体、及びこの有機半導体を含むデバイス(半導体デバイス)を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、有機溶媒に対する溶解性が高く、高い導電性を有する有機ヘテロ高分子、この高分子を含む組成物(又はコーティング組成物)、この組成物で形成された有機半導体、及びこの有機半導体を含むデバイスを提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、コーティングなどの簡便な方法により成膜可能な有機半導体用組成物(コーティング組成物)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、主鎖にチオフェン単位とヘテロ元素核(ヘテロ金属原子など)を含む5員環単位又はジエン単位を有する高分子(共役系高分子)が、導電性が高く半導体を形成するのに有用であること、アルキル基を有するチオフェン単位を導入することにより溶解性を改善できることを見いだし、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の有機ヘテロ高分子(有機金属高分子)は、下記式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有する。
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、Mは、周期表14族(又は4B族)元素、15族(又は5B族)元素、及び16族(又は6B族)元素から選択され、かつ原子価が3〜6価であるヘテロ原子を示し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を示し、
は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又は周期表16族(又は6B族)元素及び周期表11族(又は1B族)元素から選択された一価又は二価のヘテロ原子、又は配位子と錯体を形成した金属原子を示し、
【0018】
【化2】
は単結合又は二重結合を示し、
m1及びm2はそれぞれ0又は1を示し、m1とm2との合計は1又は2であり、
及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は式−Z−R
(Zは周期表14族(又は4B族)元素、15族(又は5B族)元素又は16族(又は6B族)元素を示し、Rはアリール基又はヘテロアリール基を示す)を示し、
6a及びR6bは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、直鎖状又は分岐鎖状アルキルチオ基を示し、R6a及びR6bは互いに結合して環を形成してもよい。
【0019】
ただし、式(1)において、Rがフェニル基、m1が1、m2が0であるとき、Mはリン原子ではない)
有機ヘテロ高分子は有機半導体を形成するために有用であり、有機半導体用有機ヘテロ高分子(有機金属高分子)ともいうことができる。前記ヘテロ高分子の繰り返し単位は、例えば、下記式(1a)〜(1c)及び(2a)で表すこともできる。
【0020】
【化3】
【0021】
(式中、Mは周期表15族(又は5B族)元素又は16族(又は6B族)元素を示し、
は周期表14族(又は4B族)元素、15族(又は5B族)元素又は16族(又は6B族)元素を示し、
1a、R1b及びR1cは、同一又は異なって、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を示し、
2aは周期表16族(又は6B族)元素を示し、
2bは、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基、周期表11族(又は1B族)元素から選択された金属原子又は配位子と錯体を形成した金属原子を示し、
環Arはアレーン環又はヘテロアレーン環を示し、
はそれぞれ直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、直鎖状又は分岐鎖状アルキルチオ基を示し、
及びZは同一又は異なって周期表16族(又は6B族)元素を示し、
qは0又は1〜3の整数を示し、
6a及びR6bは、同一又は異なって、水素原子、直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルコキシ基、又は直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキルチオ基を示し、R6a及びR6bの少なくとも一方は水素原子ではなく、R6a及びR6bは、互いに結合して、シクロアルカン環、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有するヘテロ環を形成してもよい)
なお、R6a及びR6bは、同一又は異なって、水素原子、直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルキル基又は直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルコキシ基、直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルキルチオ基を示し、R6a及びR6bの少なくとも一方は水素原子ではなく、R6a及びR6bは、互いに結合して、シクロアルカン環、酸素原子、及び硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有する5員乃至8員ヘテロ環を形成してもよい。さらに、R6a及びR6bの少なくとも一方は、直鎖状又は分岐鎖状C4−14アルキル基であるか、若しくはR6a及びR6bは互いに結合してアルキレンジオキシ基を形成してもよい。
【0022】
前記有機ヘテロ高分子の数平均分子量は、例えば、1×10〜1×10程度であってもよい。また、有機ヘテロ高分子は、半導体特性を有していればよい。
【0023】
前記有機ヘテロ高分子は、有機溶媒に可溶であるという特色がある。そのため、本発明は、有機半導体を形成するための組成物であって、前記有機ヘテロ高分子と、有機溶媒とを含む組成物も包含し、この組成物は有機半導体を形成するために有用である。本発明は、基材の少なくとも一方の面に前記組成物を塗布して乾燥し、有機半導体を形成する有機半導体の製造方法も包含する。
【0024】
さらに、本発明は、前記有機ヘテロ高分子で形成された有機半導体;及びこの有機半導体を含む電子デバイスも包含する。電子デバイスは、例えば、光電変換素子、スイッチング素子及び整流素子から選択された一種であってもよい。
【0025】
なお、本明細書中、「有機ヘテロ高分子」とは、硫黄、窒素、酸素、リンなどのヘテロ原子だけでなく、ヘテロ金属原子を含む高分子を意味する。そのため、「有機ヘテロ高分子」を有機金属高分子という場合もある。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、有機へテロ高分子がチオフェン環とヘテロ原子を含む5員芳香族性環又はジエン単位とが共役結合(π−電子共役結合)した構造を有し、半導体特性を有するため、分子量が大きいにも拘わらず導電性(キャリア移動度)が高く、高分子有機半導体を形成するのに有用である。また、側鎖に長鎖アルキル鎖を導入すると、有機溶媒に対する溶解性が高く、しかも高い導電性を有する。そのため、有機ヘテロ高分子をコーティング組成物とし、コーティングなどの簡便な方法により有機半導体を成膜可能である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[有機ヘテロ高分子]
前記式(1)又は(2)で表される繰り返し単位において、Mは、周期表14族(又は4B族)元素(例えば、Si、Ge、Sn、Pb)、15族(又は5B族)元素(例えば、N、P、As、Sb、Bi)、16族(又は6B族)元素(例えば、S、Se、Te)から選択された元素(ヘテロ原子)を示す。これらの元素Mのうち、周期表14族元素では、例えば、Si、Ge、Snなど、特にSnが好ましく、15族元素では、例えば、P、As、Sb、Biなどが好ましく、16族元素では、例えば、S、Se、Teなど、特にSe、Teが好ましい。特に、周期表14族元素(Ge、Sn)及び16族元素(Se、Te)が好ましい。これらの元素(ヘテロ原子)の原子価は、通常、元素(ヘテロ原子)の種類に応じて、3〜6価、好ましくは3〜5価である。周期表14族元素(例えば、Sn)は4価である場合が多く、15族元素(例えば、P)は3〜5価である場合が多く、周期表16族元素(例えば、S、Se、Te)は3〜5価である場合が多い。
【0028】
及びRで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基などが例示できる。好ましいアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基(例えば、C1−2アルキル基)である。
【0029】
及びRで表されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などのC3−10シクロアルキル基などが例示できる。好ましいシクロアルキル基は、C5−8シクロアルキル基である。
【0030】
及びRで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC1−4アルキル基が置換していてもよいC6−12アリール基などが例示できる。好ましいアリール基は、フェニル基などのC6−10アリール基である。
【0031】
及びRで表されるヘテロアリール基としては、例えば、硫黄原子、窒素原子及び酸素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含む5員複素環基(チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、フリル基など)、硫黄原子、窒素原子及び酸素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含む6員複素環基(ピリジル基、ピラジル基など)などが例示できる。
【0032】
は、一価又は二価のヘテロ原子(ヘテロ金属原子)、例えば、周期表16族(又は6B族)元素(例えば、O、S、Se、Te)、周期表11族(又は1B族)元素(例えば、Cu、Ag、Au)から選択されたヘテロ原子(ヘテロ金属原子)であってもよい。Rで表されるヘテロ原子(ヘテロ金属原子)のうち、周期表16族元素(例えば、S、Se、Teなど、特にS、Se)、周期表11族元素(例えば、Ag、Auなど、特にAu)が好ましい。これらのヘテロ原子(ヘテロ金属原子)のうち、周期表16族元素は、元素(ヘテロ原子)Mと二重結合を形成して結合し、周期表11族元素は、元素(ヘテロ原子)Mと単結合を形成して結合している。また、ヘテロ原子(ヘテロ金属原子)(例えば、周期表11族元素)は、錯体(酸素原子、塩素、臭素などハロゲン原子、OH(ヒドロキソ)、H2O(アコ)、CO、CN、メトキシ基などのアルコキシ基、アセチル基、メトキシカルボニル(アセタト)基、アセチルアセトナト基、シクロペンタジエニル基、ピリジン、ホスフィンなどの配位子との錯体)を形成してもよく、ハロゲン化物(塩素、臭素などハロゲン化物)を形成してもよい。
【0033】
は、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基(例えば、C1−2アルキル基)、フェニル基などのC6−10アリール基である場合が多く、Rは、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基(例えば、C1−2アルキル基)、フェニル基などのC6−10アリール基、一価のヘテロ原子(ヘテロ金属原子)又はその錯体(例えば、−AuX(Xはハロゲン原子を示す)など)、二価のヘテロ原子(ヘテロ金属原子)(例えば、=S、=Se、=Teなど)である場合が多い。
【0034】
m1及びm2はそれぞれ0又は1を示す。ただし、m1とm2との合計は1又は2である。すなわち、元素(ヘテロ原子)Mの価数に応じて、m1=1及びm2=0、m1=0及びm2=1、m1=1及びm2=1であってもよい。
【0035】
前記式(2)において、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子)であってもよく、基−Z−Rであってもよい。好ましいR及びRは基−Z−Rである。
【0036】
前記Zは、前記例示の周期表14族(又は4B族)元素(例えば、Si、Ge、Sn、Pb、特に、Ge、Snなど)、15族(又は5B族)元素(例えば、N、P、As、Sb、Bi、特に、P、As、Sb、Biなど)及び16族(又は6B族)元素(例えば、O、S、Se、Te)から選択されたヘテロ原子(ヘテロ金属原子)であってもよい。ヘテロ原子(ヘテロ金属原子)は、周期表16族(又は6B族)元素、例えば、S、Se、Te(例えば、S、Se)である場合が多い。Rで表されるアリール基及びヘテロアリール基としては、前記R及びRと同様のアリール基及びヘテロアリール基が例示できる。Rはアリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)である場合が多い。
【0037】
6a及びR6bは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、直鎖状又は分岐鎖状アルキルチオ基を示す。アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基は溶媒可溶性を付与するのに有用である。R及びR6bで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基などの直鎖状又は分岐鎖状アルキル基(C1−16アルキル基など)などが例示できる。アルキル基は、通常、直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C6−14アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C6−12アルキル基である。
【0038】
6a及びR6bで表されるアルコキシ基は、前記アルキル基に対応する直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基(C1−16アルコキシ基など)、例えば、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルコキシ基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C6−14アルコキシ基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C6−12アルコキシ基である。
【0039】
6a及びR6bで表されるアルキルチオ基は、前記アルキル基に対応する直鎖状又は分岐鎖状アルキルチオ基(C1−16アルキルチオ基など)、例えば、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基などの直鎖状又は分岐鎖状C4−16アルキルチオ基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C6−14アルキルチオ基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C6−12アルキルチオ基である。
【0040】
6a及びR6bはアルキル基又はアルコキシ基である場合が多い。
【0041】
チオフェン環に対するR6a及びR6bの置換位置は、例えば、3−位又は4−位、3,4−位であってもよい。
【0042】
おな、チオフェン環に2つのR6a及びR6bが置換している場合、R6a及びR6bは、直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキル基(例えば、C2−14アルキル基、好ましくはC3−12アルキル基、さらに好ましくはC4−10アルキル基)、直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルコキシ基(例えば、C2−14アルコキシ基、好ましくはC3−12アルコキシ基、さらに好ましくはC4−10アルコキシ基)、直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキルチオ基(例えば、C2−14アルキルチオ基、好ましくはC3−12アルキルチオ基、さらに好ましくはC4−10アルキルチオ基)であってもよい。
【0043】
6a及びR6bは互いに結合して環を形成してもよい。R6a及びR6bにより形成される環は、シクロアルカン環(シクロペンタン環、シクロヘキサン環などのC3−10シクロアルカン環)、シクロアルケン環(シクロヘキセン環などのC4−10シクロアルケン環)、シクロアルカジエン環(シクロヘキサジエン環などのC4−10シクロアルカジエン環)、アレーン環(ベンゼン環などのC6−12アレーン環)、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有するヘテロ環(5員乃至8員の芳香族又は非芳香族ヘテロ環)であってもよい。環は、シクロアルカン環、ヘテロ環である場合が多く、ヘテロ環は脂肪族(非芳香族)ヘテロ環であってもよい。ヘテロ環のヘテロ原子は、酸素原子又は硫黄原子である場合が多く、ヘテロ環は、複数のヘテロ原子を有するヘテロ環、例えば、アルキレンジオキシ基(例えば、エチレンジオキシ基などのC1−6アルキレンジオキシ基、好ましくはC1−4アルキレンジオキシ基、特にC2−3アルキレンジオキシ基など)などであってもよい。アルキレンジオキシ基は、例えば、式−O(CHO−(nは1〜6の整数)で表すことができる。
【0044】
好ましいR6a及びR6bは少なくとも一方は水素原子ではない(すなわち、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基から選択された置換基を少なくとも有してする)か、若しくはR6a及びR6bは、互いに結合して、シクロアルカン環、酸素原子、及び硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有する5員乃至8員ヘテロ環を形成している。特に、R6a及びR6bの少なくとも一方は、直鎖状又は分岐鎖状C4−14アルキル基であるか、若しくはR6a及びR6bは互いに結合してアルキレンジオキシ基を形成してもよい。
【0045】
なお、式(1)において、Rがフェニル基、m1が1、m2が0であるとき、Mはリン原子ではない。さらに、式(1)において、Rがアリール基又はヘテロアリール基であり、m1が1、m2が0であるとき、Mは、周期表15族元素ではなく、周期表14族元素又は16族元素である場合が多い。
【0046】
このような繰り返し単位を有する有機ヘテロ高分子の代表的な例は、例えば、下記式(1a)〜(1c)及び(2a)で表すことができる。
【0047】
【化4】
【0048】
(式中、Mは周期表15族元素又は16族元素、Mは周期表14族元素、15族元素又は16族元素を示し、R1a、R1b及びR1cは、同一又は異なって、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を示し、R2aは周期表16族元素、R2bは、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基、周期表11族元素から選択された金属原子又は配位子と錯体を形成した金属原子を示し、環Arは同一又は異なってアレーン環又はヘテロアレーン環を示し、Rは鎖状又は分岐鎖状アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、直鎖状又は分岐鎖状アルキルチオ基、Z及びZは同一又は異なって周期表16族元素を示し、qは0又は1〜3の整数を示し、R6a及びR6bは、同一又は異なって、水素原子、直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルコキシ基、又は直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキルチオ基を示し、R6a及びR6bの少なくとも一方は水素原子ではなく、R6a及びR6bは、互いに結合して、シクロアルカン環、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を有するヘテロ環を形成してもよい。
【0049】
式(1a)及び(1b)で表される繰り返し単位において、Mは周期表15族(又は5B族)元素又は16族(又は6B族)元素である。周期表15族(又は5B族)元素Mとしては、例えば、N、P、As、Sb、Biなどが例示でき、周期表16族(又は6B族)元素Mとしては、例えば、S、Se、Teなどが例示できる。好ましい元素Mは、P、As、Sb、Bi(例えば、P)である。
【0050】
式(1c)で表される繰り返し単位において、Mは周期表14族(又は4B族)元素、15族(又は5B族)元素又は16族(又は6B族)元素である。周期表14族(又は4B族)元素としては、例えば、Si、Ge、Sn、Pbなどが例示でき、好ましい元素MはSi、Ge、Sn(例えば、Sn)である。周期表15族(又は5B族)元素としては、例えば、N、P、As、Sb、Biなどが例示でき、好ましい元素Mは、P、As、Sb、Bi(例えば、P)である。周期表16族(又は6B族)元素としては、例えば、S、Se、Teなどが例示できる。Mは、通常、周期表14族(又は4B族)元素又は15族(又は5B族)元素である。
【0051】
式(1a)〜式(1c)において、R1a、R1b及びR1cで表されるアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基としては、前記Rと同様のアルキル基(直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基など)、アリール基(C6−12アリール基など)及びヘテロアリール基(硫黄原子、窒素原子及び酸素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含む5員又は6員複素環基など)が例示できる。R1aはアリール基(C6−12アリール基など)である場合が多く、R1bはアリール基(C6−12アリール基など)又はアルキル基(直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基など)である場合が多い。
【0052】
式(1b)において、R2aで表される周期表16族(又は6B族)元素としては、O、S、Se、Teなどが例示でき、例えば、O、S、Seが好ましい。
【0053】
式(1c)において、R2bで表されるアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基としては、前記Rと同様のアルキル基(直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基など)、アリール基(C6−12アリール基など)及びヘテロアリール基(硫黄原子、窒素原子及び酸素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含む五員又は6員複素環基など)が例示できる。R2bで表される周期表11族(又は1B族)元素としては、Cu、Ag、Auなどが例示でき、Auなどが好ましい。この周期表11族(又は1B族)元素(金属原子)は、前記のように、錯体を形成してもよい。R2bは、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基(例えば、C1−2アルキル基)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基など)、アリール基(フェニル基など)、一価のヘテロ金属原子又はその錯体(例えば、−AuX(Xはハロゲン原子を示す)など)である場合が多い。
【0054】
式(1a)〜式(1c)において、R6a及びR6bは前記と同様である。
【0055】
また、式(2a)において、Z及びZは同一又は異なって周期表16族(又は6B族)元素、例えば、O、S、Se、Teなどを示す。好ましい元素Z及びZは、S、Se、Te(例えば、S、Se)である。
【0056】
環Arはアレーン環又はヘテロアレーン環(硫黄原子、窒素原子及び酸素原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含む五員又は6員複素環)を示す。環Arとしては、前記と同様のアリール基及びヘテロアリール基に対応する芳香族環、フルオレン環、ビフェニル環、ビナフチル環などのビスアレーン環、ビピリジン環などのビスヘテロアレーン環などが例示できる。代表的な芳香族性環Arは、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6−12アレーン環(特に、C6−10アレーン環)、チオフェン環、ピリジン環などの5員又は6員ヘテロアレーン環、フルオレン環、ビフェニル環、ビナフチル環などのビスアレーン環である。芳香族性環Arは、ベンゼン環である場合が多い。好ましい環Arはアレーン環(例えば、C6−10アレーン環)である。
【0057】
また、Rで表されるアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基としては、Rと同様の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基(C1−12アルキル基など)、直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基(C1−12アルコキシ基など)、直鎖状又は分岐鎖状アルキルチオ基(C1−12アルキルチオ基など)が例示できる。qは0又は1〜3の整数を示し、0又は1であってもよい。
【0058】
好ましい有機ヘテロ高分子は、前記式(1a)〜(1c)及び(2a)のうち、前記式(1c)で表される繰り返し単位を有している。
【0059】
本発明の有機ヘテロ高分子は比較的分子量が大きいという特色がある。有機ヘテロ高分子の分子量は特に制限されないが、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したとき、ポリスチレン換算で、数平均分子量が1×10〜1×10、好ましくは2.5×10〜5×10、さらに好ましくは3×10〜1×10(例えば、3×10〜7×10)程度であってもよい。
【0060】
なお、有機ヘテロ高分子は直鎖状である場合が多いものの、必要であれば分岐構造を有していてもよい。
【0061】
本発明の有機へテロ高分子は、ヘテロ元素核(典型金属や遷移金属元素などの元素核)を含む5員環構造又はジエン構造とチオフェン環とを主鎖に含み、共役系(π−共役系高分子)を形成している。また、主鎖骨格にヘテロ原子(ヘテロ金属原子)を含む5員環構造を形成しているため、自己凝集性を弱めると共に、主鎖全体に有機−ヘテロ原子(ヘテロ金属原子)結合による特異な電子状態が維持されるためか、優れた半導体特性を有している。また、アルキル基などの側鎖を有するチオフェン環を導入できるため、溶解性を高めることもでき、溶媒可溶性を併せ持っている。そのため、塗布(コーティング)により容易に成膜できる。
【0062】
なお、成膜後、主鎖間でスタッキングするためか、分子間の電子移動も容易な構造膜が得られる。また、高分子中にアルキル鎖があったとしても、スタッキング方向(縦方向)に対してアルキル鎖が並行に並ぶためか、スタッキングを阻害することがない。そのためか、得られた膜は有機半導体として有効に機能する。
【0063】
[有機ヘテロ高分子の製造方法]
このような有機ヘテロ高分子は、Synthetic Metals, 159 (2009), 949-951又は有機合成化学協会誌Vol66 No5 2008に記載の方法に準じて合成できる。すなわち、有機ヘテロ高分子は、以下の反応工程式により調製できる。
【0064】
【化5】
【0065】
(式中、Rはアルキル基、Xはハロゲン原子、Lは脱離基を示し、M、M、R1a、R1b、R2b、R2a、R6a及びR6b、環Ar、R、Z及びZ、qは前記に同じ)
で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基が例示できる。アルキル基Rとしては、分岐アルキル基、例えば、イソプロピル基などである場合が多い。Xで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などが例示できる。
【0066】
前記式(5)で表されるジエチニルチオフェン化合物と、低原子価チタン錯体(6)とを反応させ、式(7)で表されるチタナシクロペンタジエン骨格を有する高分子を生成できる。なお、低原子価チタン錯体(6)は、テトラアルコキシチタン(テトライソプロポキシチタン(Ti(OPr)など)とアルキルマグネシウムハライド(イソプロピルマグネシウムクロリド(PrMgCl)など)とを反応させることにより生成できる。そのため、高分子(7)は式(5)で表されるジエチニルチオフェン化合物とテトラアルコキシチタンとアルキルマグネシウムハライドとを反応させることにより生成させてもよい。なお、アルキルマグネシウムハライドの使用量は、テトラアルコキシチタンに対して、1.5〜2.5当量程度である。反応は、通常、不活性溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)中、不活性雰囲気(アルゴン気流など)下、−100℃〜−20℃(例えば、−80℃〜−40℃)程度の温度で行うことができる。
【0067】
なお、代表的なジエチニルチオフェン化合物(5)としては、例えば、2,5−ジエチニル−3,4−ジヘキシルチオフェン、2,5−ジエチニル−3,4−ジオクチルチオフェン、2,5−ジエチニル−3,4−ジ(2−エチルヘキシル)チオフェンなどのジエチニルジアルキルチオフェン;2,5−ジエチニル−3−オクチルチオフェン、2,5−ジエチニル−3−デカニルチオフェン、2,5−ジエチニル−3−ドデカニルチオフェンなどのジエチニルアルキルチオフェン;2,5−ジエチニル−3,4−エチレンジオキシチオフェンなどのジエチニルアルキレンジオキシチオフェンなどが例示できる。
【0068】
高分子(7)と、式(8)又は(9)で表されるジハロゲン化物(Xはハロゲン原子を示す。M、R1a、、R1b、R2bは前記に同じ)との反応により、式(1a)又は(1c-1)で表される繰り返し単位を有する高分子を得ることができる。式(8)で表されるジハロゲン化物としては、M及びR1aを有するジハロゲン化合物、例えば、アルキルジクロロホスフィン、アリールジクロロホスフィンなどのジクロロヘテロ化合物、アルキルジクロロテルル、アルキルジクロロセレンなどのジアルキル金属ジクロライド、ジアリール金属ジクロライドなどが例示でき、式(9)で表されるジハロゲン化物としては、M、R1b、及びR2bを有するジハロゲン化合物、例えば、ジアルキル金属ジクロライド、ジアリール金属ジクロライドなどが例示できる。なお、式(8)で表されるジハロゲン化物として、オクチルジクロロホスフィンなどのアルキルジクロロホスフィン(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C4−12アルキルジクロロホスフィン)を用いると、前記式(1b)において、R1aがアルキル基、R2cが酸素原子である化合物を得ることもできる。
【0069】
高分子(7)と式(10)で表されるハロゲン化物との反応により式(2a)で表される繰り返し単位を有する高分子を得ることができる。なお、式(10)で表されるハロゲン化物に代えて、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、プロトン酸(塩酸などの無機酸、酢酸などのカルボン酸など)を用いると、前記式(2)において、R,Rが、それぞれ、ハロゲン原子、又は水素原子である高分子を得ることができる。
【0070】
これらの反応において、式(8)〜(10)で表されるハロゲン化物の使用量は、高分子(7)のチタン原子Tiに対して1〜2当量(例えば、1.1〜1.5当量)程度であってもよい。反応は、通常、不活性溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)中、不活性雰囲気(アルゴン気流など)下、−80℃〜30℃(例えば、−60℃〜室温)程度の温度で行うことができる。
【0071】
さらに、式(1a)で表される繰り返し単位を有する高分子と、式(11)で表される化合物との反応により、式(1c-2)で表される繰り返し単位を有する高分子を得ることができ、式(12)で表される化合物との反応により、式(1b)で表される繰り返し単位を有する高分子を得ることができる。式(11)で表される化合物としては、例えば、塩化金錯体などの配位子と錯体を形成した金属化合物などが例示でき、式(11)で表される化合物において、脱離基Lは金属に配位した配位子(例えば、テトラヒドロチオフェン)などであってもよい。式(12)で表される化合物としては、例えば、R2cに対応する元素単体(セレン、硫黄などの単体)などが例示できる。
【0072】
式(1a)で表される繰り返し単位を有する高分子と、式(11)又は(12)で表される化合物との反応は、前記(7)で表される高分子と式(8)〜(10)で表されるハロゲン化物と同様にして行うことができる。
【0073】
反応終了後、慣用の分離精製方法、例えば、濃縮、デカント、再沈殿、クロマトグラフィなどにより所定の有機ヘテロ高分子を得ることができる。
【0074】
なお、前記(5)で表されるジエチニルチオフェン化合物は、公知の方法、例えば、By Baier Moritz C et al JACS. 131(40),14267,(2009)に記載の方法で調製できる。この方法では、下記反応式で表されるように、相応するジブロモ化合物(13)と、トリメチルエチニルシランとを反応させ、生成したジ(トリメチルシリルエチニル)チオフェン化合物(14)とテトラブチルアンモニウムフルオライド(3水和物)とを反応させて脱シリル化することによりジエチニルチオフェン化合物(5)を調製できる。
【0075】
【化6】
【0076】
(式中、Meはメチル基、nBuはn−ブチル基を示し、R6a及びR6bは前記に同じ)
【0077】
[有機ヘテロ高分子の用途]
有機ヘテロ高分子は、チオフェン環と、ヘテロ原子を含む5員環又はジエン単位とで共役系(π−共役系)を形成しており、極めて電子移動度が高く、半導体特性を有している。しかも、アルキル鎖などを導入した有機へテロ高分子は、有機溶媒に対して可溶であり、かつ高い半導体特性を示すという特色がある。そのため、本発明は有機へテロ高分子と有機溶媒とを含む組成物も包含し、この組成物は、有機半導体、特にコーティング(塗布)などにより有機半導体の薄膜を形成するのに有用である。
【0078】
有機溶媒としては、例えば、炭化水素類(例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエタンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルなど)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)、ピロリドン類(例えば、2−ピロリドン、3−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなど)などが例示できる。これらの有機溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。
【0079】
溶媒の使用量は、塗布性及び成膜性を損なわない範囲から選択でき、例えば、有機へテロ高分子の濃度は、0.01〜30重量%、好ましくは0.05〜20重量%(例えば、0.1〜10重量%)程度であってもよい。
【0080】
本発明の組成物は、慣用の方法、例えば、有機へテロ高分子と有機溶媒とを混合して有機へテロ高分子を溶解し、必要によりろ過して調製してもよい。
【0081】
有機半導体は、基材又は基板(ガラス板、シリコンウエハー、耐熱プラスチックフィルムなど)に前記組成物を塗布する工程と、塗膜を乾燥して溶媒を除去する工程とを経て製造してもよい。なお、塗布方法としては、慣用の塗布方法、例えば、エアーナイフコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ブレードコート法、ディップコート法、スプレー法、スピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などが例示できる。
【0082】
有機半導体の厚みは、用途に応じて適宜選択され、例えば、1〜5000nm、好ましくは30〜1000nm、さらに好ましくは50〜500nm程度であってもよい。
【0083】
本発明の有機半導体はn型半導体、p型半導体であってもよく、真性半導体であってもよい。本発明の有機半導体は、光電変換能を有し、例えば、光吸収により発生した電子及びホールの移動度を高め、光電変換率を向上できる。そのため、本発明の有機半導体は、光電変換デバイス又は光電変換素子(太陽電池素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子など)、整流素子(ダイオード)、スイッチング素子又はトランジスタ[トップゲート型、ボトムゲート型(トップコンタクト型、ボトムコンタクト型)など]などの用途に適する。
【0084】
代表的なデバイスとして、太陽電池は、pn接合型半導体に表面電極が積層された構造を有している。例えば、p型シリコン半導体に有機半導体膜を積層して、この有機半導体膜に透明電極(ITO電極など)を積層することにより、太陽電池を形成できる。このような太陽電池では、高い開放電圧及び短絡電流を得ることができる。
【0085】
また、有機ELは、透明電極(ITO電極など)に、有機ヘテロ高分子(発光性高分子)に必要に応じて電子輸送性材料、ホール輸送性材料を分散させた発光層を形成し、この発光層に電極(金属電極など)を積層した構造が例示できる。
【0086】
さらに、有機薄膜トランジスタは、ゲート電極層と、ゲート絶縁層と、ソース/ドレイン電極層と、有機半導体層とで構成されている。これらの層の積層構造によって、有機薄膜トランジスタは、トップゲート型、ボトムゲート型(トップコンタクト型、ボトムコンタクト型)に分類できる。例えば、ゲート電極(酸化膜が形成されたp型シリコンウエハーなど)に有機半導体膜を形成して、この有機半導体膜上にソース・ドレイン電極(金電極)を形成することにより、トップコンタクト型電界効果トランジスタを製造できる。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0088】
なお、実施例において、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン(THF)はナトリウムで乾燥後、窒素雰囲気又は気流下で蒸留して用いた。塩化メチレンは五酸化ニリンで乾燥後、窒素雰囲気又は気流下で蒸留して用いた。テトライソプロポキシチタン(Ti(OPr)及びフェニルジクロロホスフィンは減圧蒸留により精製した。
【0089】
[λmax及びλonset]
実施例のポリマーの塩化メチレン溶液(濃度:1mg/ml)を用いて、紫外−可視吸収スペクトル測定を行い、λmax及びλonsetを測定した。なお、λmaxは最大吸収波長(nm)、λonsetは長波長側の吸収端(nm)を意味する。バンドギャップ(BG,eV)は、紫外−可視吸収スペクトルのλonsetから以下の式を用いて算出した。
【0090】
E=hc/eλ
(式中、Eは電子ボルト(eV)、hはプランク定数(J・s)、cは光の速度(m/s)、eは素電荷(C)、λはλonset波長(nm)を示す)
【0091】
実施例1
【0092】
【化7】
【0093】
上記式(1c-1)で表される繰り返し単位を有する高分子は、有機合成化学協会誌Vol 166 No5 2008に記載の方法に準じて合成した有機チタン高分子(前駆体)を経て調製した。すなわち、アルゴン雰囲気下、2,5−ジエチニル−3−ドデシルチオフェン(0.21g、0.5mmol)及びテトライソプロポキシチタン(Ti(OiPr))(0.198g,0.7mmol)をジエチルエーテル(20mL)に溶解し、この溶液を−78℃で攪拌しつつ、イソプロピルマグネシウムクロリド(iPrMgCl)のジエチルエーテル溶液(1.0N、1.25mL,1.25mmol)を添加した。
【0094】
その後、−50℃まで昇温し、12時間攪拌し、この温度でジフェニルスズジクロリド(PhSnCl)(0.206g,0.6mmol)を加え、室温までゆっくり昇温し、さらに3時間攪拌した。溶媒を留去後、塩化メチレンに溶解し、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)水溶液(1.0N、50mL)を加えて、2時間攪拌し、チタンを取り除いた。その後、有機相を回収し硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を蒸留去後、少量の塩化メチレンに溶解し、ヘキサンへ注入して再沈殿し、赤紫色の高分子(1c-1)を収率55%で得た。
【0095】
また、高分子(1c-1)の所定濃度(10mg/10ml)のテトラヒドロフラン溶液の最大吸光波長λmaxは470nm、λonsetは748nmであった。また、エネルギー準位は、バンドギャップ(BG)=1.66(eV)であった。
【0096】
実施例2
【0097】
【化8】
【0098】
実施例1の2,5−ジエチニル−3−ドデシルチオフェンに代えて、2,5−ジエチニル−3,4−ジヘキシルチオフェンを用いる以外は実施例2と同様の方法で上記式(1c-2)の高分子を得た。
【0099】
高分子(1c-2)の所定濃度(10mg/10ml)のテトラヒドロフラン溶液の最大吸光波長λmaxは474nm、λonsetは828nmであった。また、エネルギー準位は、バンドギャップ(BG)=1.5(eV)であった。
【0100】
実施例3
【0101】
【化9】
【0102】
実施例1の2,5−ジエチニル−3−ドデシルチオフェンに代えて、2,5−ジエチニル−3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いる以外は実施例2と同様の方法で上記式(1c-3)の高分子を得た。
【0103】
高分子(1c-3)の所定濃度(10mg/10ml)のテトラヒドロフラン溶液の最大吸光波長λmaxは524nm、λonsetは868nmであった。また、エネルギー準位は、バンドギャップ(BG)=1.43(eV)であった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の有機へテロ高分子は、π−電子共役系高分子であり、低抵抗で導電性の高い有機半導体(高分子型有機半導体)を形成するのに有用である。有機半導体は様々なデバイス、例えば、整流素子(ダイオード)、スイッチング素子又はトランジスタ[接合型トランジスタ(バイポーラトランジスタ)、電界効果型トランジスタ(ユニポーラトランジスタ)など]、光電変換素子(太陽電池素子、有機EL素子など)などに利用できる。