特許第6126988号(P6126988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6126988-PCVバルブ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6126988
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】PCVバルブ
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20170424BHJP
【FI】
   F01M13/00 J
   F01M13/00 L
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-267298(P2013-267298)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-124611(P2015-124611A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】高井 基治
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−115734(JP,A)
【文献】 実開平05−042620(JP,U)
【文献】 特開2002−129928(JP,A)
【文献】 特開2000−161040(JP,A)
【文献】 実開昭60−098709(JP,U)
【文献】 特開2009−156250(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02546482(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブローバイガスの流路を形成するハウジングと、
前記流路内に配置され、前記ハウジングに設けられた弁座と協働する弁体と、
前記弁体を前記弁座に向けて付勢するばねと、
前記弁体を外囲する放熱部を有する伝熱体と、
前記流路に対して気密に隔離され、前記伝熱体を加熱する発熱体を有する加熱手段とを備え
前記ハウジングには、前記伝熱体の一端側を形成する受熱部を受容するように前記流路に向けて開口した受容孔が形成されており、
前記加熱手段は、前記受容孔の少なくとも一部を画成する隔壁を介して前記伝熱体の前記受熱部を加熱し、
前記伝熱体の前記放熱部における前記弁体に近接する部分は、前記流路に露出していることを特徴とするPCVバルブ。
【請求項2】
ブローバイガスの流路を形成するハウジングと、
前記流路内に配置され、前記ハウジングに設けられた弁座と協働する弁体と、
前記弁体を前記弁座に向けて付勢するばねと、
前記弁体を外囲する放熱部を有する伝熱体と、
前記流路に対して気密に隔離され、前記伝熱体を加熱する発熱体を有する加熱手段とを備え、
前記発熱体は、PTCヒータからなることを特徴とするPCVバルブ。
【請求項3】
前記ハウジングには、前記伝熱体の一端側を形成する受熱部を受容するように前記流路に向けて開口した受容孔が形成されており、
前記加熱手段は、前記受容孔の少なくとも一部を画成する隔壁を介して前記伝熱体の前記受熱部を加熱し、
前記伝熱体の前記放熱部における前記弁体に近接する部分は、前記流路に露出していることを特徴とする請求項に記載のPCVバルブ。

【請求項4】
前記伝熱体の前記受熱部の先端側、前記隔壁及び前記発熱体は、各々平板状を呈し、積層されることを特徴とする請求項1又は請求項に記載のPCVバルブ。
【請求項5】
前記ハウジングには、前記加熱手段を収容するチャンバがさらに形成されており、
前記加熱手段は、前記隔壁及び前記発熱体間に挟持される第1電極と、一端側が前記発熱体を押圧する導電性圧縮コイルばねと、前記隔壁に対向する前記チャンバの内面に取り付けられて、前記圧縮コイルばねの他端側に押圧される第2電極とを有することを特徴とする請求項1、請求項3及び請求項4のいずれかに記載のPCVバルブ。
【請求項6】
前記ハウジングは、前記流路の上流側を形成する第1ハウジングと、前記流路の下流側を形成する第2ハウジングとを有し、
前記流路が貫通し、全周にわたって前記第1ハウジング及び前記第2ハウジングの双方に当接して、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの接合部をシールする環状部材をさらに備えることを特徴とする請求項1請求項5のいずれかに記載のPCVバルブ。
【請求項7】
前記ハウジングは、樹脂を素材として前記流路の上流側を形成する第1ハウジングと、樹脂を素材として前記流路の下流側を形成する第2ハウジングとを有し、
前記流路を外囲する前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの接合部は、溶着によってシールされることを特徴とする請求項1請求項5のいずれかに記載のPCVバルブ。
【請求項8】
前記伝熱体は板状の金属からなり、前記放熱部には前記弁体を挿通させる貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載のPCVバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のブローバイガス還元装置において、ブローバイガスの流量を調整するPCVバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン等において燃焼室からピストンとシリンダとの隙間を通りクランクケースに漏れ出たガスであるブローバイガスには、未燃焼の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)等が含まれる。これらは大気汚染の原因物質であるため、ブローバイガスを大気中に放出するのではなく、これを吸気系に戻して混合気と共に再燃焼させるPCV(ポジティブクランクケースベンチレーション)システムが普及している。しかし、吸気系に戻すブローバイガスの量を増加させると、エンジン性能を低下させることになる。そのため、ブローバイガスの流量を調整するPCVバルブが設けられている。
【0003】
バルブの上流側と下流側との圧力差によってバルブの開度が調整される差圧駆動式の流量調整弁であるPCVバルブでは、エンジンの停止時に圧力差がなくなるためにPCVバルブが全閉状態となる。この時、気温が低いと、吸入空気中に含まれていた水分がPCVバルブ内で凍結することがある。すると、エンジンを始動させてPCVバルブの前後に圧力差が生じても、弁体が動かず、PCVバルブが全閉状態のままとなる。このように、PCVバルブ内で水分が凍結してブローバイガスの流路が閉塞すると、クランクケースの圧力が上昇し、エンジンからオイルが漏れたり、駆動部の焼きつきが生じたりするおそれがある。そのため、PCVバルブの凍結を防止する手段が提案されている。
【0004】
PCVバルブの凍結を防止する手段を大きく分けると、エンジン等で発生する熱を利用する手段と、PCVバルブを加熱するための装置を新たに設ける手段とがある。特許文献1で提案されているのは、後者の手段に相当し、電気ヒータで弁体を加熱する構造である。電気ヒータは、内周面が弁箱の内面の一部となるボビンと、ボビンの外周に配置されたコイルとから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−115734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジン等で発生する熱を利用してPCVバルブの凍結を解凍する場合には、PCVバルブ全体を熱伝導率の高い金属で製造する必要がある。そのため、重量が増加するという問題や、金属材料の切削加工が必要なためコストが増加するという問題があった。また、エンジンが暖まらないとPCVバルブも暖まらないため、より即効性の高い解凍手段が求められていた。
【0007】
また、特許文献1に提案されている電気ヒータを備えたPCVバルブでは、発熱体であるコイル及びその電気的接続手段とブローバイガスとの間のシール性を十分に確保できないおそれがあった。ブローバイガスは、pH2程度の強い酸性を示すため、コイルや電極に接触するとこれらを腐食させる。これらの腐食を防止するためにチタン処理等の防食処理を施すと、コストが増加するという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、凍結の防止の即効性が高く、ブローバイガスに対する発熱体のシール性が良好なPCVバルブを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るPCVバルブ(2)のある側面は、ブローバイガスの流路(4)を形成するハウジング(6)と、前記流路内に配置され、前記ハウジングに設けられた弁座(18)と協働する弁体(30)と、前記弁体を前記弁座に向けて付勢するばね(38)と、前記弁体を外囲する放熱部(42)を有する伝熱体(40)と、前記流路に対して気密に隔離され、前記伝熱体を加熱する発熱体(66)を有する加熱手段(52)とを備えることを特徴とする。
【0010】
本構成によれば、PCVバルブ内で凍結した水分を溶かすために、エンジンの熱を利用する必要がないため、ハウジングや弁体の素材を熱伝導性は良いが重い金属ではなく、熱伝導性は悪くとも軽く製造コストの低い樹脂等にすることができ、軽量のPCVバルブを低コストで製造できる。また、加熱手段は、流路から気密に隔離されているため、ブローバイガスによって腐食されるおそれがなく、防食処理を施す必要がなくなり、コストが削減できる。
【0011】
本発明のある側面は、上記構成に加えて、前記ハウジングには、前記伝熱体の一端側を形成する受熱部(44)を受容するように前記流路に向けて開口した受容孔(50)が形成されており、前記加熱手段は、前記受容孔の少なくとも一部を画成する隔壁(58)を介して前記伝熱体の前記受熱部を加熱し、前記伝熱体の前記放熱部における前記弁体に近接する部分は、前記流路に露出していることを特徴とする。
【0012】
本構成によれば、簡易な構成で、加熱手段を流路から気密に隔離できる。
【0013】
本発明のある側面は、上記構成に加えて、前記ハウジングは、前記流路の上流側を形成する第1ハウジング(8)と、前記流路の下流側を形成する第2ハウジング(10)とを有し、前記流路が貫通し、全周にわたって前記第1ハウジング及び前記第2ハウジングの双方に当接して、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの接合部をシールする環状部材(72)をさらに備えることを特徴とする。または、環状部材に代えて、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの接合部は、溶着によってシールされる。
【0014】
本構成によれば、簡易なシール手段を用いることができるため、製造コストを抑えることができる。
【0015】
本発明のある側面は、上記構成に加えて、前記伝熱体の前記受熱部の先端側、前記隔壁及び前記発熱体は、各々平板状を呈し、積層されることを特徴とする。
【0016】
本構成によれば、発熱体から伝熱体の受熱部への熱伝達を効率的に行うことができる。
【0017】
本発明のある側面は、上記構成に加えて、前記発熱体は、PTCヒータからなることを特徴とする。
【0018】
本構成によれば、温度センサを使用せずに発熱体の温度を一定に保てるため、発熱体を備えたPCVバルブを小型化できる。
【0019】
本発明のある側面は、上記構成に加えて、前記ハウジングには、前記加熱手段を収容するチャンバ(54)がさらに形成されており、前記加熱手段は、前記隔壁及び前記発熱体間に挟持される第1電極(60)と、一端側が前記発熱体を押圧する導電性圧縮コイルばね(68)と、前記隔壁に対向する前記チャンバの内面に取り付けられて、前記圧縮コイルばねの他端側に押圧される第2電極(62)とを有することを特徴とする。
【0020】
本構成によれば、加熱手段の電導性及び伝熱性を高めることができるとともに、加熱手段のPCVバルブへの取り付けが容易となる。
【0021】
本発明のある側面は、上記構成に加えて、前記伝熱体は板状の金属からなり、前記放熱部には前記弁体を挿通させる貫通孔(46)が形成されていることを特徴とする。
【0022】
本構成によれば、部材構成が簡素化され、PCVバルブを小型化でき、コストを削減できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、加熱手段を備えたPCVバルブを軽量化できるとともに、加熱手段がブローバイガスによって腐食されないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係るPCVバルブの斜視図。
図2】本発明の実施形態に係るPCVバルブの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。説明に当たり、方向を示す用語は、図面に示す方向に従う。
【0026】
図1は、PCVバルブ2の斜視図であり、図2は、図1におけるII−II断面の断面図である。PCVバルブ2は、その内部にブローバイガスの流路4が形成されており、流路4の下端側(上流側)がクランクケースのヘッドカバー(図示せず)に取り付けられ、流路4の上端側(下流側)がブローバイガスホース(図示せず)を介して吸気系に接続されて、流路4を介してクランクケースと吸気系とを連通させている。
【0027】
PCVバルブ2のハウジング6は、上流側流路4aを形成する第1ハウジング8と下流側流路4bを形成する第2ハウジング10とによって構成される。
【0028】
第1ハウジング8は、樹脂を素材とし、射出成形によって成形される。第1ハウジング8は、上流側流路4aが上下方向に延在するように形成された第1円筒部12を有する。第1円筒部12の下端には、内径が縮径された流入孔14が形成されており、流入孔14を形成する下端壁16の円環状の上面が弁座18となっている。下端壁16より上側の第1円筒部12の内径は略一定である。第1ハウジング8は、第1円筒部12の上端側の外周面から外側に延出して第2ハウジング10に接合されて平面視で円環状を呈する第1接合部20と、第1接合部20の平面視で半円状を呈する側面全体から一側方に突出した蓋部22とを有する。第1接合部20の下面と蓋部22の下面とは、1つの平面を構成する。
【0029】
第2ハウジング10は、樹脂を素材とし、射出成形によって成形される。第2ハウジング10は、下流側流路4bが上下方向に延在するように形成された第2円筒部24を有する。第2円筒部24の内径は、略一定であり、第1円筒部12の内径より小さい。第2円筒部24の外径は、第1円筒部12の外形よりも小さい。第2ハウジング10を第1ハウジング8と組み合わせたとき、下流側流路4bは上流側流路4aと同軸になる。第2円筒部24の上端側の外周面は、ブローバイガスホースが固定されるように外側に凸になっている。第2ハウジング10は、第2円筒部24の下端側の外周面から外側に延出して、第1ハウジング8の第1接合部20に接合される平面視で円環状を呈する第2接合部26と、第2接合部26の平面視で半円状を呈する側面の下側の全体から第1ハウジング8の蓋部22と同方向に突出した突出部28とを有する。突出部28は、第2接合部26の側面から一側方に延出する基部28aと、基部28aから上方に延出した後、一側方に延出してL字状を呈するL形部28bとを有する。第1接合部20及び蓋部22の組み合わさった外周面と第2接合部26及び基部28aの組み合わさった外周面とが整合しており、互いが溶着にされて取り付けられる。突出部28の詳細な構造は、関連する部材の説明と共に後述する。
【0030】
ハウジング6の流路4内には、弁体30が弁座18に着座可能に配置される。弁体30は、樹脂もしくは金属を素材とする。弁体30は、概ね円柱形状を呈する本体部32と、本体部32の下端に形成された円環状のフランジ34とを有する。本体部32の上端面と側周面との間には切欠面36が形成されている。本体部32の外径は、上側が下側よりもわずかに小さくなっているとともに、弁体30が流路4内を上下に移動できるように、上流側流路4aの径よりも小さく、下流側流路4bの径よりもわずかに小さい。フランジ34の外径は、フランジ34の下面が弁座18に着座可能になるように、流入孔14の内径よりも大きい。
【0031】
第1圧縮コイルばね38は、弁体30の本体部32を取り囲むように配置される。第1圧縮コイルばね38の下端は、フランジ34の上面に接している。
【0032】
弁体30に熱を伝える伝熱体40は、一端側が第1ハウジング8及び第2ハウジング10に挟持されるようにハウジング6内に配置される。伝熱体40は、平板を約90°屈曲させた形状を呈し、第1ハウジング8及び第2ハウジング10に挟持された一端側の放熱部42が上下方向に直交するように配置されており、他端側の受熱部44が上方に向けて屈曲されて上下方向に平行に配置される。伝熱体40は、金属又はセラミック等の熱伝導率の高い物質であって、ブローバイガスによって腐食しないように耐食性のある物質又は防食処理された物質を素材とする。
【0033】
放熱部42には、上下に貫通する円形の貫通孔46が流路4と同軸に形成されており、上流側流路4aと下流側流路4bとを連通させている。貫通孔46の内径は、第1円筒部12の内径より小さく、第2円筒部24の内径と略等しい。よって、貫通孔46の内周面及び放熱部42の下面の貫通孔46の周縁部48は、流路4に露出している。弁体30が弁座18に着座した状態では、第1圧縮コイルばね38の上端は周縁部48からわずかに離間しているが、PCVバルブ2の開度が所定の開度以上になると、第1圧縮コイルばね38の上端は周縁部48に接触し、第1圧縮コイルばね38は弁体30を弁座18に向けて付勢する。なお、弁体30が弁座18に着座した状態で、第1圧縮コイルばね38の上端が周縁部48に接し、第1圧縮コイルばね38が常に弁体30を弁座18に向けて付勢するようにしても良い。貫通孔46は、弁体30を挿通させており、弁体30が弁座18に着座した状態で、放熱部42の上面と弁体30の上端とが略同じ高さに位置する。また、弁体30の切欠面36の上下方向の長さは、放熱部42の上下方向の厚さより小さい。弁体30の本体部32の外径は貫通孔46の内径よりもわずかに小さいため、ブローバイガスが流れる弁体30と貫通孔46の内周面との間隙は、非常に狭くなっている。
【0034】
伝熱体40は、インサート成形によって第2ハウジング10に取り付けられるため、第2ハウジング10の第2接合部26から突出部28にかけては、受熱部44を埋設するように受容する受容孔50が形成されている。よって、受容孔50は、流路4に向かって開口した有底の孔となる。また、伝熱体40の放熱部42の外縁も第2ハウジング10に埋設されるように取り付けられ、貫通孔46の内周面と第2円筒部24の内周面とが滑らかに連続するように放熱部42の上面側は全体が第2ハウジング10に当接しており、貫通孔46の周辺の放熱部42の下面側は第2ハウジング10に当接していない。
【0035】
受熱部44を加熱する加熱手段52は、流路4に対して受熱部44よりも外側に配置される。第2ハウジング10の突出部28には、下方に開口したチャンバ54が形成されており、加熱手段52はチャンバ54内に配置される。チャンバ54の下方の開口は、第1ハウジング8の蓋部22に覆われる。チャンバ54の下方の開口の周縁部分と蓋部22周縁との接触領域は、超音波溶着により接合される。また、蓋部22には、チャンバ54内に突入して加熱手段52の落下を防止する凸部56が設けられている。加熱手段52は、受容孔50とチャンバ54とを隔てる隔壁58を介して、受熱部44を加熱する。隔壁58は、熱を伝えるため薄いほうが望ましく、また、薄くしたとしても、PCVバルブ2の外壁を構成していないため、PCVバルブ2の強度に大きな影響は与えない。
【0036】
加熱手段52を構成する第1電極60が、隔壁58のチャンバ54側に取り付けられている。第1電極60は、金属を素材とする薄板を断面視で90°に屈曲させて、伝熱体40の受熱部44の形状に対応するような形状を呈し、隔壁58に密着している。従って、第1電極60の上側は、上下方向に平行な平板状を呈し、下側は上下方向に直交する平板状を呈する。チャンバ54内で第1電極60の上側部分の取り付け面と対向する面には、第2電極62が取り付けられている。第2電極62は、金属を素材とし、概ね平板状を呈する。第2電極62の中央には、第1電極60から遠ざかるように窪んだ凹部64が形成されている。第1電極60及び第2電極62は、インサート成形によって第2ハウジング10に取り付けられる。
【0037】
第1電極60と第2電極62との間には、発熱体66と、第2圧縮コイルばね68とが配置されている。発熱体66は、第1電極60の平板状を呈する上側部分の表面の面積に略対応する表面の面積を有する平板形状を呈し、一方の表面が、第1電極60の上側部分に整合するように密接し、かつ電気的に接続するように取り付けられている。第2圧縮コイルばね68は、導電性を有し、一端が第2電極62の凹部64に取り付けられ、他端が発熱体66の他方の表面に取り付けられる。よって、第2圧縮コイルばね68は、第2電極62と発熱体66とを電気的に接続すると共に、発熱体66を第1電極60に向けて付勢して発熱体66の落下を防止する。発熱体66は、電流が流れることによって発熱する。発熱体66は、PTCヒータとすることが望ましい。PTCヒータとは、PTC(Positive Temperature Coefficient)特性を有するヒータである。PTC特性とは、温度が上がるにつれて電気抵抗が大きくなる特性である。従って、PTCヒータは、電圧が一定の場合、温度が上がるに従ってヒータを流れる電流が低くなるため、発熱量も下がり、所定の温度で安定するという性質を有する。このような性質をもたないヒータを発熱体66として使用する場合は、温度センサと、温度センサに検出された温度に応じて電流のオン・オフを切り替えるスイッチを付けることが望ましい。
【0038】
加熱手段52は、発熱体66を第2圧縮コイルばね68で第1電極60に押し付ける構造をとっているため、発熱体66と第1電極60との電導性及び伝熱性を良好に保つことができる。チャンバ54を設けたことにより、このような加熱手段52の構造がコンパクトにまとまり、発熱体66及び第2圧縮コイルばね68を容易に取り付けることが出来る。また、第1電極60は、熱伝導性が良く、PTCヒータからなる発熱体66よりも加工が容易な金属板からなるため、隔壁58のチャンバ側の面を覆うように加工及び配置され、発熱体66で発生した熱が伝熱体40に伝わりやすくなっている。
【0039】
第1ハウジング8の第1接合部20と第2ハウジング10の第2接合部26とが組み合わさって、上面が開口した環状の周溝70が流路4を取り囲むように形成される。隔壁58の遊端は、第2ハウジング側でこの周溝70の一部を画成している。周溝70には、Oリング72がシール部材として嵌め込まれ、周溝70の上面の開口は、伝熱体40によって蓋をされる。すなわち、図2に示すように、伝熱体40は、流路4に露出した部分以外は、第1ハウジング8の第1接合部20、並びに第2ハウジング10の受容孔50及び第2接合部26に取り囲まれ、第1接合部20と第2接合部26との境界は、Oリング72でシールされるため、流路4を通るブローバイガスは、PCVバルブ2の外部や、チャンバ54に漏洩しない。換言すると、流路4とチャンバ54とが気密に隔離されているため、伝熱体40の一部が流路4に露出していても、チャンバ54に収容された加熱手段52はブローバイガスに接触しない。Oリング72に代えて、第1接合部20と第2接合部26とを流路4を取り囲むように溶着して、シール手段としても良い。
【0040】
第2ハウジング10の突出部28のL形部28bの遊端側には、加熱手段52を外部電源と電気的に接続するためのソケット部74が設けられている。ソケット部74は、流路4の反対側に向かって開口しており、ソケット部74内に設けられた2つの端子76は、それぞれ第1電極60及び第2電極62と電気的に接続されており、インサート成形によって第2ハウジング10に取り付けられている。
【0041】
次に、PCVバルブ2の作用及び効果について説明する。
【0042】
エンジンが停止しているときは、上流側のクランクケースと下流側の吸気系との間に差圧がないため、弁体30は、重力により弁座18に着座している。気温が低い場合、流路4を形成するハウジング6の内周面や弁体30に付着した水分が凍結する。このような凍結水分は、弁体30の上下方向への移動を阻害する要因となる。本実施形態に係るPCVバルブ2では、加熱手段52に通電すると、発熱体66が発熱し、その熱が、隔壁58、伝熱体40の受熱部44、伝熱体40の放熱部42へと順に伝わる。すると、放熱部42の熱が弁体30と伝熱体40との間で凍結した水分を溶かし、弁体30が移動可能となる。弁体30の側面で凍結した水分は、弁体30の上昇と共に放熱部42に接触又は近接することによって溶けるため、弁体30の上下動を阻害しない。また、放熱部42の熱は、弁体30自体、第1円筒部12、第2円筒部24及び流路4内の空気を介して、また、第1圧縮コイルばね38の上端が伝熱体40に接触した後は第1圧縮コイルばね38をも伝わるため、弁体30の下側や、第1円筒部12及び第2円筒部24の内周面に付着した凍結水分を溶かす。
【0043】
車両のアクセサリー系統の電源やエンジンの始動に連動させて、加熱手段52に通電するとPCVバルブ2内の凍結水分を素早く溶かすことができ、常時あるいは気温に応じて加熱手段52に通電すると凍結を予防することができる。
【0044】
このように、PCVバルブ2内の水分の凍結が防止された場合は、エンジンを始動させると、クランクケースと吸気系との間に差圧が生じ、差圧に基づく浮揚力が弁体30の重力よりも大きくなって、弁体30が上昇して弁座18から離間して弁体30の上端側が第2円筒部24内に進入し、PCVバルブ2が開状態になり、ブローバイガスが、弁体30と第1円筒部12、伝熱体40及び第2円筒部24との間を流れ、吸気系に供給される。第1圧縮コイルばね38の上端が伝熱体40に接触した後は、弁体30は、差圧に基づく浮揚力が弁体30の重力と第1圧縮コイルばね38の付勢力との合力に均衡する位置まで上昇してブローバイバスの流量を調整する。
【0045】
ところで、ブローバイガスあるいはブローバイガスの成分を含んだ水分は、伝熱体40と第1ハウジング8又は第2ハウジング10とが接触する界面に侵入する。これらの界面からの出口は、流路4またはOリング72が嵌め込まれた周溝70のいずれかである。流路4に戻ったブローバイガスあるいはブローバイガスの成分を含んだ水分は、吸気系に吸引される。周溝70に至ったブローバイガスあるいはブローバイガスの成分を含んだ水分は、第1接合部20と第2接合部26との間がOリング72でシールされているため、周溝70の下方の第1ハウジング8と第2ハウジング10とが接触する界面に侵入することができない。よって、チャンバ54に配置された加熱手段52は、流路4から気密に隔離され、ブローバイガス又はブローバイガスの成分を含んだ水分に曝されるおそれがない。そのため、加熱手段52に防食処理を施す必要がなく、コストを削減できる。
【0046】
PCVバルブ2は、加熱手段52を備えるため、エンジンで発生する熱を利用する場合のようにバルブ全体を金属にする必要がない。そのため、ハウジング6や弁体30の素材を樹脂とすることができ、PCVバルブ2が軽量になっている。
【0047】
また、伝熱体40が、板状部材であり、受熱部44が放熱部42に対して上方に向けて約90度折り曲げられた形状を呈することにより、チャンバ54の大部分及びソケット部74が、L字状を呈する突出部28に収まっている。そのため、PCVバルブ2の形状は、PCVバルブ2のヘッドカバーへの組付けを阻害せず、外部電源のソケット部74への取り付けも容易となっている。
【0048】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、伝熱体を屈曲させず、平板状を呈する部材としても良い。また、ハウジングを分割せず一体として成形し、インサート成形により取り付けられてブローバイガスの流路に露出する流路伝熱体をハウジングの外部から加熱手段によって加熱してもよい。
【符号の説明】
【0049】
2…PCVバルブ、4…流路、6…ハウジング、8…第1ハウジング、10…第2ハウジング、12…第1円筒部、14…流入孔、18…弁座、24…第2円筒部、28…突出部、30…弁体、32…本体部、34…フランジ、38…第1圧縮コイルばね、40…伝熱体、42…放熱部、44…受熱部、46…貫通孔、50…受容孔、52…加熱手段、54…チャンバ、58…隔壁、60…第1電極、62…第2電極、66…発熱体、68…第2圧縮コイルばね、70…周溝、72…Oリング、74…ソケット部
図1
図2