特許第6127191号(P6127191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6127191-試料ホルダー 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6127191
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】試料ホルダー
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20170424BHJP
【FI】
   H01J37/20 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-195475(P2016-195475)
(22)【出願日】2016年10月3日
【審査請求日】2016年11月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512024336
【氏名又は名称】株式会社メルビル
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 裕也
【審査官】 杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/002700(WO,A1)
【文献】 実開昭48−042449(JP,U)
【文献】 特開平02−312147(JP,A)
【文献】 特開2015−153710(JP,A)
【文献】 特表2012−518898(JP,A)
【文献】 特開2001−234346(JP,A)
【文献】 特開2004−053571(JP,A)
【文献】 特開2009−021592(JP,A)
【文献】 特開2004−363085(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/083270(WO,A1)
【文献】 特開2016−100119(JP,A)
【文献】 実開昭53−024247(JP,U)
【文献】 実開昭60−131951(JP,U)
【文献】 特表昭59−500688(JP,A)
【文献】 特開2005−158288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J12/00−13/24
15/16−15/32
15/324−15/3296
15/46−15/53
G01N23/00−23/227
H01J27/00−27/26
37/00−37/21
37/24−49/48
H01L21/64−21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料及び/又は試料メッシュ設置部を有する試料ホルダー軸部と、前記試料ホルダー軸部を格納可能な外筒部と、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部を大気遮断する第一のシール部を有する試料ホルダーであって、前記第一のシール部は、前記外筒部の一部に設けられた段差部に設けられており、かつ、前記第一のシール部は、試料ホルダーの取っ手方向側に開口した溝を有し、当該溝内に弾性部材を有し、前記第一のシール部は、前記外筒部の内壁面の一部及び前記試料ホルダー軸の外壁面の一部を押圧するように構成されていることを特徴とする試料ホルダー。
【請求項2】
さらに、試料ホルダー先端部であって、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部よりも電子顕微鏡軸中心方向に存在する第二のシール部を有する請求項1記載の試料ホルダー。
【請求項3】
前記第一のシール部の封止力は、前記第二のシール部の封止力より大きいことを特徴とする請求項2記載の試料ホルダー。
【請求項4】
前記シール部は、ポリテトラフルオロエチレン製である請求項1〜3のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項5】
前記弾性部材は、板バネ、弾性ゴム、コイルばね、キックスプリングで選択される少なくとも1種である請求項1〜のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項6】
前記第一のシール部と前記段差部との間に、さらに熱絶縁部を設ける請求項1記載の試料ホルダー先端部。
【請求項7】
さらに、前記第一のシール部のずれ防止用ストッパー部を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ホルダーに関し、特に、より過酷な条件においても良好なシール性を有する試料ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、材料解析分野において、TEMなどの電子顕微鏡用試料切片(以降、試料切片と称す)が大気に曝されることによる影響(大気による酸化、あるいは大気中に微量に存在する物質の吸着など)が議論され、試料切片を大気に触れさせずにTEMなどの電子顕微鏡まで試料を移送し、TEM観察等をおこなう重要性が認識され始めている。
【0003】
例えば、TEM用ホルダーの中でも、特に、大気遮断輸送ホルダー(以降、トランスファーホルダーともいう。)は、試料切片を固定した台座部をホルダー外筒部内に格納して試料を外気環境から隔離するホルダーである。通常、Oリングは、試料ホルダーを支持する支持部の内面と接して、当該支持部と試料ホルダーとの間を気密に封止する目的で使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-153566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のものも含め、従来の試料ホルダーにおいては、ホルダー軸を前後に駆動すると、通常の配置において設置されたO-ringはねじれるため、軸上でリークが生じる可能性がある。ホルダー軸上からのリークは装置(TEM)の真空を悪化させる。一般的なO-ringは摺動や回転にはあまり向いていないが、特殊な摺動に強いゴム製O-ringは、軸径の細いTEMホルダーに用いることは、とても困難で、一般的な丸いO-ringが用いられるが、O-ringの線形も当然細くなり、摺動する際に捩れる問題がある。
【0006】
最悪の場合、装置の故障の原因となる。また、軸上のリークは、チャンバー内の試料切片に影響を及ぼす可能性がある。軸上のリークは、前述以外にも、原因は何であれO-ringのシールの当たりが弱い、あるいは、弱くなった場合にも生じる。また、試料ダメージ軽減を行うため、冷却しながらの観察が重要視されており、冷却中での大気遮断輸送が近年必要とされてきた。
【0007】
しかしながら、通常のO-Ringを用いると液体窒素冷却によりO-Ringが氷つきシール能力がなくなる。また、同時に金属も冷却により収縮するため、冷却時は全くシールすることが出来なかった。
【0008】
よって、冷却しながら大気遮断輸送するには、別チャンバーに格納する必要があった。
(O-Ringのシールが効かないため)可能ではあるが、構造上ホルダーの最後部(電子顕微鏡に入らない箇所)に真空ゲートを設ける必要があった。そこまで、ホルダーを格納するため、ホルダーの長さが通常の長さの倍以上となり、一般的に雰囲気遮断輸送時に試料をセットするグローボックス内で作業が出来ず、使い勝手が非常に悪かった。また、ホルダー軸一本部引き込むためガイド軸が歪んだりするトラブルがあった。したがって、冷却でかつ雰囲気遮断輸送するのに、重要なのは、先端部だけ格納し、かつ確実に雰囲気遮断する方法が求められている。
【0009】
そこで、上記問題点を解決すべく、本発明は、環境によらずシール面を保持できる構造を有する試料ホルダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明者は、シール部材について、鋭意検討を行った結果、本発明を見出すに至った。
【0011】
すなわち、本発明の試料ホルダーは、試料及び/又は試料メッシュ設置部を有する試料ホルダー軸部と、前記試料ホルダー軸部を格納可能な外筒部と、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部を大気遮断する第一のシール部を有する試料ホルダーであって、前記第一のシール部は、前記外筒部の一部に設けられた段差部に設けられており、かつ、前記第一のシール部は、試料ホルダーの取っ手方向側に開口した溝を有し、当該溝内に弾性部材を有し、前記第一のシール部は、前記外筒部の内壁面の一部及び前記試料ホルダー軸の外壁面の一部を押圧するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記段差に設けられたシール部を、第一のシール部として、さらに、試料ホルダー先端部であって、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部よりも電子顕微鏡軸中心方向に存在する第二のシール部を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第一のシール部の封止力は、前記第二のシール部の封止力より大きいことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記シール部は、ポリテトラフルオロエチレン製であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記弾性部材は、板バネ、弾性ゴム、コイルばね、キックスプリングで選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第一のシール部と前記段差部との間に、さらに熱絶縁部を設けることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、さらに、前記シール部のずれ防止用ストッパー部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の試料ホルダーによれば、試料ホルダー軸が前後運動、回転運動しても軸上リークを抑制することができるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す図である。図1(a)は、試料設置部は外筒部から取っ手部により押し出されている状態を示し(試料を観察する場合)、図1(b)は、試料設置部は外筒部に格納されている状態を示し、図1(c)は、段差部の拡大図を示し、図1(d)は、別の態様による段差部の拡大図を示す。
図2図2は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す図である。この態様は、試料を低温下でも観察可能にするために、冷却手段を用いた場合の一例である。図2(a)は、試料設置部は外筒部から取っ手部により押し出されている状態を示し(試料を観察する場合)、図2(b)は、試料設置部は外筒部に格納されている状態を示す。
図3図3は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す。この態様は、冷却手段を備えており、かつ、二軸傾斜可能な試料ホルダーの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の試料ホルダーは、試料及び/又は試料メッシュ設置部を有する試料ホルダー軸部と、前記試料ホルダー軸部を格納可能な外筒部と、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部を大気遮断するシール部を有する試料ホルダーであって、前記シール部は、前記外筒部の一部に設けられた段差部に設けられていることを特徴とする。外筒部の一部であって、外筒部の内側に設けられた段差部にシール部を設けることで、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部の大気遮断を環境変化に左右されることなくシールすることができる。シール部の部材は、外筒部の内壁及び試料ホルダー軸の外壁を押圧可能なシール材を用いることができ、押圧可能であれば、シール部の部材の形状は特に限定されないが、例えば、コの字型、V字型、L字型等とすることができる。また、好ましい態様において、シール部は、弾性部材を有し、当該弾性部材は、外筒部の内側及び試料ホルダー軸の外側を、押圧可能である。このように押圧可能とすることで、環境変化に左右されることなく、よりシール可能となる。なお、当該シール部は、試料ホルダーの軸受けとしての機能も有する。
【0023】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記段差に設けられたシール部を、第一のシール部として、さらに、試料ホルダー先端部であって、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部よりも電子顕微鏡軸中心方向に存在する第二のシール部を有することを特徴とする。前記段差部に設置された第一のシール部に加えて、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部よりも電子顕微鏡軸中心方向に存在する第二のシール部の存在により、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部を大気遮断することが可能であり、トランスファーホルダーとしての機能も発揮することが可能となる。第二のシール部は特に限定されず、既存のOリングであってもよい。第二のシール部は、上述のように、弾性部材を有し、当該弾性部材は、外筒部の内側及び試料ホルダー軸の外側を、押圧可能としてもよい。なお、第二のシール部は、試料等を大気遮断することが可能であれば、試料ホルダー軸に設置してもよいし、外筒部へ設置してもよい。
【0024】
なお、第二のシール部は、必須ではないが、第二のシール部があると以下の様な利点を有する。第二のシールはあくまで、TEMに運び込むまでのシール機能を有すれば十分ということができる。例えば、FIB、NsnoMillなどの試料作成装置からの搬送または、グローブボックス内(大気に触れない状態で作業を行うボックス)で試料取り付け後非暴露でTEMに運びいれる。真空状態またはアルゴンガス空間で封しすることができるため、一般に駆動による真空シール性能は不要でまた、冷却は観察時に行う手法のため、第二のシール材料は冷却時には無意味の存在となるため、通常のO-ringで十分とすることができる。
【0025】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記シール部は、内部に弾性部材を有し、前記弾性部材は、前記外筒部の内壁面の一部及び試料ホルダー軸の外壁面の一部を押圧することを特徴とする。前記弾性部材は、前記外筒部の内壁面の一部及び試料ホルダー軸の外壁面の一部を押圧することによって、環境に左右されず、例えば、極低温下であっても、弾性部材が、外筒部の内壁及び試料ホルダー軸の外壁を押圧し続けるので、より確実にシールすることが可能となる。外筒部の内壁及び試料ホルダー軸の外壁の両方を押圧できるシール部材はこれまで存在しない。
【0026】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第一のシール部の封止力は、前記第二のシール部の封止力より大きいことを特徴とする。これは特に第二のシール部は無くてもよいが、ある場合であっても、最終的に、第一のシール部において、大気遮断をすることができるからである。この態様においては、第二のシール部に既存のシール材をセットする場合を想定しており、より確実にシールする場合には、第一及び第二のシール部の封止力を同じとしてもよい。第二のシール部の封止力を大きくしてもよいが、試料ホルダーの先端にあたり、より細かい部材を必要とし、そのためより細かい作業が必要となりコスト面から問題があるが、このような態様も本発明の一例として包含することができる。
【0027】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記シール部は、ポリテトラフルオロエチレン製であることを特徴とする。ポリテトラフルオロエチレン製は、非常に高い耐冷却性を有する上、高い熱絶縁性を有する。従って、シール部を、耐冷却性を有する部材とすれば、冷却下における観察も、確実にシールした条件下で行うことが可能である。
【0028】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記シール部は、試料ホルダーの取っ手方向側に溝を有し、当該溝内に前記弾性部材を有することを特徴とする。このように溝内に、弾性部材をセットすることにより、前記外筒部の内壁面の一部及び試料ホルダー軸の外壁面の一部を押圧することができ、より確実にシールすることができる。特に、耐冷却性を有するシール部材と、前記外筒部の内壁面の一部及び試料ホルダー軸の外壁面の一部を押圧することが可能な弾性部材の併用は、様々な環境下においても、安定してシールすることができ、大気との遮断をより確実にすることができる。
【0029】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記弾性部材は、両端をつねに一定の力で張らせる部材であれば特に限定されず、板バネ、弾性ゴム、コイルばね、キックスプリングで選択される少なくとも1種であることを特徴とする。また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第一のシール部と前記段差部との間に、さらに熱絶縁部を設けることを特徴とする。当該熱絶縁部は以下の役割を有する。すなわち、段差部のシールを受ける壁は、シール部を固定するものとすることができるが、当該壁が金属であると、熱を伝えてしまうため、例えば冷却能力を低下させてしまう。
【0030】
したがって、より確実なシールという観点から、シール部に用いる材料は、熱絶縁性を有するものとすることができる。さらに、前記段差部のシールを受ける壁は、接触面積が大きいので、熱を若干伝える虞がある。よって、当該段差部の壁に熱絶縁性部材を用いることで、熱の伝わりを遅らせることができ、冷却時に有利に働くことができる。なお、当該壁に用いる熱絶縁性部材としては、熱絶縁性が高い材料であれば特に限定されず、例えば、ジルコニア製、ポリテトラフルオロエチレン製のほか、PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)、ポリイミド樹脂、超耐熱性プラスチック(全芳香族ポリイミド樹脂)(べスペル(登録商標))などの樹脂系材料の少なくとも1種を挙げることができる。高い熱絶縁性のほか、それプラス、接触面も熱絶縁が高ければより効果的となる。樹脂系は水分が含んでしぼむ虞もあるので、より好ましくは、当該壁に用いる熱絶縁性部材としては、ジルコニア製、ポリテトラフルオロエチレン製を挙げることができる。
【0031】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、さらに、前記シール部のずれ防止用ストッパー部を有することを特徴とする。これはシール部を固定して、より安定にシールを行う場合に好適である。
【実施例】
【0032】
ここで、本発明の試料ホルダーの一実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0033】
図面を参照して、本発明の試料ホルダーの一実施態様を説明すれば以下の通りである。
【0034】
図1は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す図である。図1(a)は、試料設置部は外筒部から取っ手部により押し出されている状態を示し(試料を観察する場合)、図1(b)は、試料設置部は外筒部に格納されている状態を示し、図1(c)は、段差部の拡大図を示し、図1(d)は、別の態様による段差部の拡大図を示す。図1において、1は取っ手部、2は試料ホルダーの外筒部、3は段差部、4は第一のシール部、5は試料ホルダー軸、6は第二のシール部、7は試料設置部、8は弾性部材、9は熱絶縁部、10はシール部のずれ防止用ストッパ―部、11は第二の段差部、をそれぞれ示す。
【0035】
図1(a)は、試料設置部は外筒部から取っ手部により押し出されている状態を示し(試料を観察する場合)、第二のシール部6が図示されているが、なくてもよい。第二のシール部6は、従来のOリングであるが、第一のシール部4のように、外筒部の内壁及び試料ホルダー軸の外壁を押圧可能なシール材でもよい。図では先端部にO-ringを配しているが、試料ホルダー外筒部前方内側にO-ringを埋め込む(配しても)良い。第二のシール部6が図示されているが、例えば、トランスファーを用いない試料ホルダーなどであれば第二のシールはなくてもよい。また、図では、コの字型として、外筒部の内壁および試料ホルダー軸の外壁を押圧して、シールしている。溝には、弾性部材を配置させて、よりシールを確実にしてもよい。要するに、シール部は、外筒部の内壁および試料ホルダー軸の外壁を押圧することが可能であれば、コの字型、V字型、L字型等いずれの形状も用いることができる。このような構造に、弾性部材を加えれば、シールがより確実となる。1(b)は、試料設置部は外筒部に格納されている状態を示す。この態様においては、試料設置部7を完全に大気から隔離できるので、トランスファーホルダーとしての機能を有することになる。図1(a)及び図1(b)ともに、試料設置部7の両端を完全にシールした構造においては、試料は大気から遮断された状態を維持することが可能となる。なお、図示しないが、試料ホルダー軸をスムーズに挿入できように、押圧の効果を妨げない範囲で部材を追加してもよい。例えば、図示しないが、TEMホルダーでは振動をもっとも嫌うため、観察状態(先端を押し出した状態)のとき、先端部の振動を抑制する部材、軸受けリング、3点支持部材など有してもよい。また、試料ホルダー軸部の出し入れの際、スムーズに挿入出来るように、摺動で接する軸受けスリーブやO-ring、スラスト用の硬球などを配してもよい。
【0036】
図1(c)は、段差部の拡大図を示し、外筒部の内壁および試料ホルダー軸の外壁を押圧することが可能であれば、コの字型、V字型、L字型等いずれかの形状を有するシール部を使用可能であるが、この図は当該シール部に、さらに、弾性部材として、板バネ8を配した場合の一例を示している。板バネ8のおかげで、より強く外筒部の内壁および試料ホルダー軸の外壁を押圧することができ、ひいては、より強い封止力を付与することができる。図1(d)は、別の態様による段差部の拡大図を示し、熱絶縁部9や、ストッパー部10をさらに設けた態様である。熱絶縁部により、シール部から外筒部への熱の伝達を極力抑えることが可能となる。図では段差部のみに設けているが、外筒部側に設けてもよい。なお、外筒部側については、実際には、シール部と外筒部と接触している個所は、1点となるので、熱絶縁をそれほど気にする必要はない。ストッパー部10は、ネジを切って固定することができる。なと、ネジの閉め具合で、シールの保持程度を調整します。段差11を利用して、ネジを回しすぎてシールを潰さない様に配慮した構造とすることができる。ストッパー部10により、シール部の固定をより強固とすることができる。なお、図では分かりにくいが、シール部4は、リング状となっている。同様にシール部6もリング状となっている。
【0037】
図2は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す図である。この態様は、試料を低温下でも観察可能にするために、冷却手段を用いた場合の一例である。図2(a)は、試料設置部は外筒部から取っ手部により押し出されている状態を示し(試料を観察する場合)、図2(b)は、試料設置部は外筒部に格納されている状態を示す。図2において、1は取っ手部、2は試料ホルダーの外筒部、3は段差部、4は第一のシール部、5は試料ホルダー軸、6は第二のシール部、7は試料設置部、10はシール部のずれ防止用ストッパ―部、20は冷却手段、21はシール部、22は熱伝導コレット、をそれぞれ示す。この態様においては、外筒部の内壁および試料ホルダー軸の外壁を押圧することが可能なシール部材として、コの字形状のものを使用した。またストッパー部10も図示するが、なくてもよい。なお、図では分かりにくいが、シール部4は、リング状となっている。同様にシール部6、21もリング状となっている。
【0038】
冷却手段20で、冷却された冷媒を利用することができる。例えば、液体窒素を用いる場合には、通常のOリングを通常に方法で用いると、Oリングは液体窒素温度で固まってしまい、また、温度が下がれば金属は収縮してしまうため、液体窒素温度を用いる試料ホルダーでは、真空シール(外的シール)が不可能となる。
【0039】
しかし、ポリテトラフルオロエチレン製などの、耐冷却性を有する材料をシール材として用いると、ポリテトラフルオロエチレン製のシール材は、−200℃以下まで耐久性があるため、液体窒素下でもシール性能は優れることになる。また、内部に弾性部材、例えば板バネを配置すれば、シール軸が収縮しても常にスプリングで押圧するため、液体窒素温度でも真空シールが可能となり、ひいては、軸部の前後及び回転も首尾よく真空シール下で行うことが可能となる。板バネやスプリングを用いる場合、均一に試料ホルダー軸を押し当てることができるため、軸受けとしての機能も果たすことができる。また、軸の出し入れ時の微小リークを抑えることができるため、第一のシール部のみで、より精度が高い雰囲気遮断(トランファー)が可能となる。また、軸の出し入れ時の微小リークを抑えることができるため、第一のシール方法を用いればより精度が高い雰囲気遮断(トランファー)及び、β傾斜時の真空保持が可能となる。
【0040】
このような外筒部の内壁および試料ホルダー軸の外壁を押圧することが可能なシール部材の使用は、透過型等の電子顕微鏡ホルダーに適用することにより、冷却試料ホルダーで雰囲気遮断(トランスファー)を行うことや、次に述べるような2軸傾斜を行うには非常に有効に働くことができる。
【0041】
図3は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す。この態様は、冷却手段を備えており、かつ、二軸傾斜可能な試料ホルダーの一例である。図3において、1は取っ手部、2は試料ホルダーの外筒部、3は段差部、4は第一のシール部、5は試料ホルダー軸、6は第二のシール部、7は試料設置部、10はシール部のずれ防止用ストッパ―部、20は冷却手段、21はシール部、22は熱伝達コレット、23はY軸傾斜、24は冷却中の軸回転、をそれぞれ示す。この図において、図示しないが、試料ホルダー軸先端部において、シール部を設置してもよい。また、2軸傾斜の態様においても、外筒部へ試料設置部7を格納することが可能である。
【0042】
このように、電子顕微鏡用試料ホルダーに図のようなコの字型シールなど、外筒部の内壁および試料ホルダー軸の外壁を押圧することが可能なシール部材を用いることにより、ホルダー軸上からのリークを抑制することができる。さらに、シール部材に板バネなどの弾性部材を用いることによって、さらに軸上からのリークを抑制できる。これにより、常に、板ばねが配してあるため、捻じれや、加工精度が悪い場合での軸ずれによるリークも総て板ばねが常にシール面を押し付けるため、微小リークすることは無い。
【0043】
また、冷却試料ホルダーにおいては、本発明の構造を用いることで以下の効果を奏することが判明した。すなわち、従来においては、冷却によってホルダー軸の径および、O-ringが収縮することで、隙間が発生し、軸上からのリークが発生していたが、外筒部の内壁および試料ホルダー軸の外壁を押圧することが可能なシール部材の使用により、当該リークを防止することが可能となった。また、従来においては、冷却によって試料ホルダー軸の径および、O-ringが収縮することで、軸受けが利かなくなる問題を有していたが、本発明の構成により当該問題を解決することができることが判明した。また、前述の軸受けが冷却中に可能になることで、ホルダー先端部の振動を止めることができるという有利な効果を奏する。
【0044】
また、二軸ホルダーにおいては、この構造を用いることで以下の効果を奏することが判明した。すなわち、試料ホルダー軸上に設置されたO-ringのねじれの問題が生じないため、試料ホルダー軸上からのリークが抑制される効果を有する。また、冷却トランスファーについて、従来においては、必然的に、トランスファーホルダーと冷却ホルダーを組み合わせる需要も高まってきているが、冷却ホルダーにおいては極低温まで冷却されるため、試料ホルダー軸部が低温になることで、軸および、O-ringが収縮し、または弾性が失われ、軸部の真空シールを保持できないため、格納チャンバーが必要であったが、本発明の構造を用いれば、冷却中であっても、図のように、試料切片の格納のためのストロークを短くする効果がある。すなわち、コンパクトな格納構造とすることができるというかなり画期的な効果を得られることが判明した。したがって、本発明を用いることで、冷却機能を配したトランスホルダーが容易に実現可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
このような本発明の試料ホルダーは、環境変化に左右されることなく、より確実にシールすることができるため、広範な範囲での分野において有益であることが期待できる。
【符号の説明】
【0046】
1 取っ手部
2 試料ホルダーの外筒部
3 段差部
4 第一のシール部
5 試料ホルダー軸
6 第二のシール部
7 試料設置部
8 弾性部材
9 熱絶縁部
10 シール部のずれ防止用ストッパ―部
11 第二の段差部
20 冷却手段
21 シール部
22 熱伝達コレット
23 Y軸傾斜を示す。
24 冷却中の軸回転を示す。
【要約】
【課題】
そこで、上記問題点を解決すべく、本発明は、環境によらずシール面を保持できる構造を有する試料ホルダーを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の試料ホルダーは、試料及び/又は試料メッシュ設置部を有する試料ホルダー軸部と、前記試料ホルダー軸部を格納可能な外筒部と、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部を大気遮断するシール部を有する試料ホルダーであって、前記シール部は、前記外筒部に設けられた段差部に設けられていることを特徴とする。また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記段差に設けられたシール部を、第一のシール部として、さらに、試料ホルダー先端部であって、前記試料及び/又は試料メッシュ設置部よりも電子顕微鏡軸中心方向に存在する第二のシール部を有することを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3