特許第6127198号(P6127198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6127198金属表面処理液、表面処理金属材料の製造方法、表面処理金属材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6127198
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】金属表面処理液、表面処理金属材料の製造方法、表面処理金属材料
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20170424BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170424BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20170424BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20170424BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   C09D175/04
   C09D7/12
   B05D7/14 Z
   B05D7/24 302T
   C23C26/00 A
【請求項の数】13
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-501908(P2016-501908)
(86)(22)【出願日】2015年12月10日
(86)【国際出願番号】JP2015084703
(87)【国際公開番号】WO2016093323
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2016年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-251070(P2014-251070)
(32)【優先日】2014年12月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】猪古 智洋
(72)【発明者】
【氏名】大浦 一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳留 亨
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 圭一
【審査官】 岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−231347(JP,A)
【文献】 特開2004−292502(JP,A)
【文献】 特開2009−155409(JP,A)
【文献】 特開2010−280778(JP,A)
【文献】 特開2011−256232(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/096559(WO,A1)
【文献】 特開2013−023704(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093283(WO,A1)
【文献】 特開2007−162098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
C23C 26/00−26/02
B05D 1/00−7/26
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基を有し、さらに、イソシアヌレート構造およびポリアルキレンオキシ鎖を有するブロックイソシアネート(A)と、
ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、および、カルボキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する有機樹脂(B)と、
無機リン酸、無機リン酸塩、有機リン酸、有機リン酸塩、有機ホスホン酸、および、有機ホスホン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン含有化合物(D)と、を含み、
前記ブロックイソシアネート(A)と前記リン含有化合物(D)の質量比(A/D)が、0.1〜50である、金属表面処理液。
【請求項2】
前記ブロックイソシアネート(A)が、式(1)で表される構造単位、および、式(2)で表される構造単位を有する、請求項1に記載の金属表面処理液。
【化1】
(式(1)中、Xは、それぞれ独立に、2価の炭化水素基を表す。Rは、前記ブロック剤の残基を表す。*は、結合位置を表す。)
式(2) −(L−O)
(式(2)中、Lは、アルキレン基を表す。nは、2〜1000を表す。)
【請求項3】
前記リン含有化合物(D)が、無機リン酸のアンモニウム塩、および、有機ホスホン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の金属表面処理液。
【請求項4】
さらに、ジルコニウム、チタン、バナジウム、セリウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、マグネシウム、カルシウム、セリウム、亜鉛、ニオブ、イットリウム、アルミニウム、タングステン、クロム、および、バリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属化合物(C)を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項5】
前記金属化合物(C)が、ジルコニウム元素を含む、請求項に記載の金属表面処理液。
【請求項6】
前記金属化合物(C)が、炭酸ジルコニウムアンモニウム、または、ジルコニウムフッ化水素酸若しくはその塩である、請求項またはに記載の金属表面処理液。
【請求項7】
前記ブロックイソシアネート(A)に含まれる有効イソシアネート基の濃度a(g/L)と、前記有機樹脂(B)に含まれる前記官能基の濃度b(g/L)との比{a/b}が0.001〜30.0である、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項8】
前記ブロックイソシアネート(A)に含まれる有効イソシアネート基の濃度が0.01〜20g/Lであり、前記有機樹脂(B)の濃度が5〜100g/Lである、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項9】
前記ブロックイソシアネート(A)の重量平均分子量が400〜15000である、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項10】
さらに、珪素化合物(E)を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項11】
さらに、リチウム、ナトリウム、および、カリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む無機化合物(F)を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属表面処理液を金属材料表面に接触させ、加熱乾燥して前記金属材料上に皮膜を形成する工程、を備える表面処理金属材料の製造方法。
【請求項13】
金属材料と、前記金属材料上に請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属表面処理液を接触させて加熱乾燥して形成される皮膜とを備える、表面処理金属材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面処理液、表面処理金属材料の製造方法、および、表面処理金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭電化製品、自動車、建築材料等の各分野において、耐食性や塗膜密着性の付与を目的として、鋼板などの金属材料にクロメート処理を施す技術が一般に使用されている。しかし、通常、クロメート処理皮膜は環境負荷性の高い6価のクロムを含有することから、近年、皮膜の6価クロムフリー化に対する要望が高まっており、種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1においては、金属材料上にポリウレタン樹脂を主成分とするウレタン系樹脂皮膜を有する塗装金属材料が開示されており、耐食性や耐加工性が優れる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−075777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年、各種製品の高機能化に伴い、使用される金属材料に対する要求性能もより高まっている。
例えば、特許文献1で求められる特性でもある耐食性および耐加工性のより一層の向上が求められる他に、金属材料表面上に配置される塗膜の密着性(塗膜密着性)、塗膜が設けられた後の耐食性(塗装後耐食性)、並びに、酸やアルカリなどに対する耐薬品性などが優れることも求められる。
本発明者らは、特許文献1に記載されるようなウレタン樹脂を用いて金属材料の表面処理を行い、得られた表面処理金属材料に関して各種特性を評価したところ、すべての項目を昨今の要求レベルで満たすものはなく、さらなる改良が必要であることを知見した。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、耐食性、耐加工性、耐薬品性、塗膜密着性および塗装後耐食性に優れた表面処理金属材料を得ることができる、金属表面処理液を提供することを目的とする。
また、本発明は、金属表面処理液を用いた表面処理金属材料の製造方法、および、表面処理金属材料を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行ったところ、所定の構造を含むブロックイソシアネートおよび所定の官能基を有する有機樹脂を含む金属表面処理液を使用することにより、所望の効果が得られることを知見した。
より具体的には、以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
【0007】
(1) ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基を有し、さらに、イソシアヌレート構造およびポリアルキレンオキシ鎖を有するブロックイソシアネート(A)と、
ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、および、カルボキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する有機樹脂(B)と、を含む金属表面処理液。
(2) ブロックイソシアネート(A)が、後述する式(1)で表される構造単位、および、後述する式(2)で表される構造単位を有する、(1)に記載の金属表面処理液。
(3) さらに、無機リン酸、無機リン酸塩、有機リン酸、有機リン酸塩、有機ホスホン酸、および、有機ホスホン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン含有化合物(D)を含む、上記(1)または(2)に記載の金属表面処理液。
(4) リン含有化合物(D)が、無機リン酸のアンモニウム塩、および、有機ホスホン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記(3)に記載の金属表面処理液。
(5) ブロックイソシアネート(A)とリン含有化合物(D)の質量比(A/D)が、0.1〜50である、上記(3)または(4)に記載の金属表面処理液。
(6) さらに、ジルコニウム、チタン、バナジウム、セリウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、マグネシウム、カルシウム、セリウム、亜鉛、ニオブ、イットリウム、アルミニウム、タングステン、クロム、および、バリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属化合物(C)を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属表面処理液。
(7) 金属化合物(C)が、ジルコニウム元素を含む、上記(6)に記載の金属表面処理液。
(8) 金属化合物(C)が、炭酸ジルコニウムアンモニウム、または、ジルコニウムフッ化水素酸若しくはその塩である、上記(6)または(7)に記載の金属表面処理液。
(9) ブロックイソシアネート(A)に含まれる有効イソシアネート基の濃度a(g/L)と、有機樹脂(B)に含まれる官能基の濃度b(g/L)との比{a/b}が0.001〜30.0である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の金属表面処理液。
(10) ブロックイソシアネート(A)に含まれる有効イソシアネート基の濃度が0.01〜20g/Lであり、有機樹脂(B)の濃度が5〜100g/Lである、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の金属表面処理液。
(11) ブロックイソシアネート(A)の重量平均分子量が400〜15000である、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の金属表面処理液。
(12) さらに、珪素化合物(E)を含む、上記(1)〜(11)のいずれかに記載の金属表面処理液。
(13) さらに、リチウム、ナトリウム、および、カリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む無機化合物(F)を含む、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の金属表面処理液。
(14) 上記(1)〜(13)のいずれかに記載の金属表面処理液を金属材料表面に接触させ、加熱乾燥して金属材料上に皮膜を形成する工程、を備える表面処理金属材料の製造方法。
(15) 金属材料と、金属材料上に上記(1)〜(13)のいずれかに記載の金属表面処理液を接触させて加熱乾燥して形成される皮膜とを備える、表面処理金属材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐食性、耐加工性、耐薬品性、塗膜密着性および塗装後耐食性に優れた表面処理金属材料を得ることができる、金属表面処理液を提供することができる。
また、本発明によれば、金属表面処理液を用いた表面処理金属材料の製造方法、および、表面処理金属材料を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の金属表面処理液、表面処理金属材料およびその製造方法について詳述する。本発明の金属表面処理液を使用することにより所望の効果が得られる理由は、以下のように推測される。
ブロックイソシアネート(A)は、酸素原子や窒素原子を含むイソシアヌレート構造や、酸素原子を含むポリアルキレンオキシ鎖など分子内に多くの極性基を持つ。これら極性基は、金属材料上の水酸基と水素結合を形成したり、加熱乾燥によって共有結合を形成したりし、結果として皮膜が金属材料により強固に接着する。この特性は、腐食環境にて皮膜下で起こる、溶存酸素の還元反応を経たpH上昇による金属材料と皮膜の結合切断を抑制する作用を有する。また、皮膜と金属材料との界面での接着点が増えることにより、皮膜の剥離や皮膜の破壊を抑制する作用も有する。そのため、耐食性等の腐食抑制に有効に作用する。
また、金属表面処理液に含まれるブロックイソシアネート(A)中のブロック剤によりブロックされたイソシアネート基(ブロック化イソシアネート基)の大部分は、加熱乾燥によって解離するが、一部残存すると考えられる。これら未反応のブロック化イソシアネート基は、腐食環境においてアルカリ加水分解を起こしうる反面、アルカリ触媒として作用し、共存する反応体との反応によって相互作用および新たな結合を形成しうる。それは、一種の修復機能として作用する。従って、傷部や端面部等のめっきの露出した箇所への腐食抑制能として作用する。
さらに、本発明の金属表面処理液から形成された皮膜は、極性基を多く含有するために皮膜上に配置される塗膜と優れた密着性を発揮する。この場合、塗膜に含有される官能基と皮膜に含有される官能基との水素結合および/または共有結合の形成によって優れた塗膜密着性を発揮する。
さらに、本発明の金属表面処理液から形成される皮膜は、耐薬品性(耐溶剤性や撥水性)にも効果的に作用する。これらは、ブロックイソシアネート(A)と共存する有機樹脂(B)との硬化反応によって達成される。これは、硬化反応によって皮膜全体の分子量が増大し、皮膜中に形成される緻密な構造によって腐食因子の浸入抑制が達成されるためである。
【0010】
金属表面処理液には、ブロックイソシアネート(A)と、有機樹脂(B)とが少なくとも含まれる。
以下、金属表面処理液に含まれる各種成分について詳述し、その後、表面処理金属材料およびその製造方法について詳述する。
【0011】
<ブロックイソシアネート(A)>
金属表面処理液には、ブロック剤によりブロックされたイソシアネート基(ブロック化イソシアネート基)を有し、さらに、イソシアヌレート構造およびポリアルキレンオキシ鎖を有するブロックイソシアネート(A)が含まれる。
ブロックイソシアネートとは、イソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤と反応させたものであって、加熱することにより保護基(ブロック剤の残基)が解離してイソシアネート基を再生するものである。解離温度の低いブロックイソシアネートほど比較的低温にてイソシアネート基を再生する。なお、再生したイソシアネート基は、後述する、所定の官能基を有する有機樹脂(B)と架橋反応し、結合を形成する。
【0012】
イソシアネート基をブロック(保護)するために使用されるブロック剤の種類は特に制限されず、通常、活性水素を分子内に1個有する化合物が好適に用いられる。
例えば、フェノール系ブロック剤(例えば、フェノール、クレゾール)、ラクタム系ブロック剤(例えば、カプロラクタム、バレロラクタム)、オキシム系ブロック剤(例えば、ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、メチルエチルケトオキシム)、活性メチレン系ブロック剤(例えば、マロン酸ジエチル、マロン酸ジメチル)、アルコール系ブロック剤(例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル)、ピラゾール系ブロック剤(例えば、3,5−ジメチルピラゾール)、メルカプタン系ブロック剤(例えば、ブチルメルカプタン)、酸アミド系ブロック剤(例えば、アセトアニリド、酢酸アミド)、イミダゾール系ブロック剤(例えば、イミダゾール)、アミン系ブロック剤(例えば、ジフェニルアミン、アニリン)、イミン系ブロック剤(例えば、エチレンイミン)、尿素系ブロック剤(例えば、尿素、チオ尿素)が挙げられ、オキシム系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、および、ピラゾール系ブロック剤が好ましく挙げられる。
なかでも、1,3−ジカルボニル化合物または含窒素環状化合物がより好ましい。
ブロック剤としては、マロネート類やピラゾール類等の電子吸引性基を有するブロック剤が適しており、解離温度を低下させる効果を有する。
1つのブロック剤によってすべてのイソシアネート基をブロックしてもよく、2種以上のブロック剤を併用してもよい。
【0013】
ブロックイソシアネート(A)の解離温度(ブロック化イソシアネート基が解離する温度)は特に制限されないが、60〜180℃の場合が多く、取り扱い性の点および耐アルカリ性、塗膜密着性がより優れる点から、80〜120℃が好ましい。
【0014】
ブロックイソシアネート(A)中におけるブロック剤によりブロックされたイソシアネート基の含有量は特に制限されないが、ブロックイソシアネート(A)中における有効イソシアネート基の含有量は、耐食性、耐加工性、耐薬品性、塗膜密着性および塗装後耐食性の少なくとも1つがより優れる点(以後、単に「本発明の効果がより優れる点」とも称する)で、ブロックイソシアネート(A)全質量中、0.5〜10質量%が好ましく、1〜7質量%がより好ましい。
なお、有効イソシアネート基の含有量とは、ブロックイソシアネート(A)において、ブロック化イソシアネート基からイソシアネート基をブロックするブロック基を解離させた後のイソシアネート基の含有量を示す。
有効イソシアネート基の含有量(濃度)はイソシアネート当量にて規定されており、JIS K1603−1に規定された方法に則って測定する。イソシアネート当量は、1g当量のイソシアネート基を含むブロックイソシアネート(A)のg重量数である。イソシアネート当量は150〜5000であることが好ましく、300〜4500であることがより好ましく、400〜4000であることがさらに好ましい。
【0015】
ブロックイソシアネート(A)は、イソシアヌレート構造(イソシアヌレート環構造)を有する。イソシアヌレート構造とは、以下式(X)で表される構造である。*は、結合位置を表す。
【0016】
【化1】
【0017】
上記イソシアヌレート構造は、各種のジイソシアネートまたはトリイソシアネートのイソシアネート基同士を環化三量化して得られる。
ジイソシアネートとしては、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、エチル(2,6−ジイソシアネート)ヘキサノエート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;1,3−または1,4−ビス(イソシアネートメチルシクロヘキサン)、1,3−または1,4−ジイソシアネートシクロヘキサン、3−イソシアネート−メチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,5−または2,6−ジイソシアネートメチルノルボルナンなどの脂環族ジイソシアネート;m−またはp−フェニレンジイソシアネート、トリレン−2,4−または2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ビス(2−イソシアネート2−プロピル)ベンゼン、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート3,3’−ジメチルジフェニル、3−メチル−ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなどが挙げられる。
また、トリイソシアネートとしては、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート4−イソシアネートメチルオクタン、2−イソシアネートエチル(2,6−ジイソシアネート)ヘキサノエートなどの脂肪族トリイソシアネート;2,5−または2,6−ジイソシアネートメチル−2−イソシアネートプロピルノルボルナンなどの脂環族トリイソシアネート;トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートなどの芳香族トリイソシアネートが挙げられる。
ブロックイソシアネート(A)中に含まれるイソシアヌレート構造の数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜10個が好ましく、1〜4個がより好ましい。
【0018】
ブロックイソシアネート(A)は、ポリアルキレンオキシ鎖(例えば、ポリエチレンオキシ鎖、ポリプロピレンオキシ鎖)を有する。
ポリアルキレンオキシ鎖とは、式(2)で表される構造単位(繰り返し単位)を有する鎖である。
式(2) −(L−O)
上記式(2)中、Lはアルキレン基を表す。アルキレン基中に含まれる炭素原子数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、2〜10が好ましく、2〜4がより好ましい。
nで表される構造単位(繰り返し単位)の数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、2〜1000が好ましく(2〜1000の整数が好ましく)、5〜400がより好ましく、10〜200がさらに好ましい。
ポリアルキレンオキシ鎖の分子量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、100〜10000が好ましく、200〜5000がより好ましい。
ブロックイソシアネート(A)中におけるポリアルキレンオキシ鎖の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、ブロックイソシアネート(A)全質量中、10〜70質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましい。
【0019】
ブロックイソシアネート(A)の重量平均分子量は特に制限されないが、300〜20000の場合が多く、取り扱い性に優れ、本発明の効果がより優れる点で、400〜15000が好ましく、1000〜7000がより好ましい。
なお、ブロックイソシアネート(A)の重量平均分子量は、形成される皮膜の物性に影響を与える。特に、ブロックイソシアネート(A)の重量平均分子量は、皮膜に優れた弾性や強度を付与する点で、高分子量(好ましくは、重量平均分子量400〜15000)であることが好ましい。優れた弾性や硬度は、皮膜に耐加工性、より具体的には耐疵つき性、耐摩耗性等の機械的耐性を付与するだけでなく、耐薬品性等の化学的耐性を付与することにも有効である。こうして得られた皮膜は、ブロックイソシアネート(A)自体の持つ高い極性によって金属材料との密着性に効果的に作用する。
【0020】
ブロックイソシアネート(A)は、自己乳化型のブロックイソシアネートであることが好ましい。自己乳化型ブロックイソシアネートとは、化合物自身が水との親和性を持ち、水中で乳化分散できることを意図する。
後述する金属表面処理液中においてブロックイソシアネート(A)が自己乳化している場合、本発明の効果がより優れる点で、金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)の粒子の粒子径は0.01〜1.0μmが好ましく、0.05〜0.5μmがより好ましい。
【0021】
(好適態様)
ブロックイソシアネート(A)の好適態様としては、本発明の効果がより優れる点で、式(1)で表される構造単位、および、上記式(2)で表される構造単位を有する態様が挙げられる。*は、結合位置を表す。
【0022】
【化2】
【0023】
式(1)中、Xは、それぞれ独立に、2価の炭化水素基を表す。
2価の炭化水素基に含まれる炭素原子数は特に制限されず、本発明の効果がより優れる点で、1〜20が好ましく、2〜20がより好ましく、4〜12がさらに好ましい。
2価の炭化水素基としては、2価の脂肪族炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、または、これらの組み合わせが挙げられる。2価の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状、または環状のいずれであってもよい。環状としては単環式および多環式のいずれでもよく、単環式の脂肪族炭化水素基としてはシクロヘキサンジイルが挙げられ、多環式の脂肪族炭化水素基としてはアダマンタンジイル基、ノルボルナンジイル基などが挙げられる。
なかでも、2価の炭化水素基としては、炭素原子数1〜6のアルキレン基、アルキル基が置換されていてもよい脂肪族六員環基、または、アルキル基が置換されていてもよいキシリレン基などが好ましく挙げられる。
【0024】
は、ブロック剤の残基を表す。ブロック剤の残基とは、イソシアネート基と反応可能なブロック剤から水素原子を除いた残基を意図する。ブロック剤の種類は、上述した通りである。
なかでも、炭素原子数3〜8のアルキルアミノ基、炭素原子数2〜8の1,3−ジカルボニル基、または、炭素原子数2〜8のピラゾール基などが好ましく挙げられる。
【0025】
ブロックイソシアネート(A)中における式(1)で表される構造単位の数は特に制限されないが、上述したイソシアヌレート構造の数と同義である。
【0026】
ブロックイソシアネート(A)の製造方法は特に制限されず公知の方法が採用されるが、例えば、ジイソシアネートなどのポリイソシアネートを反応させて、イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートを製造して、その後、ブロック剤を添加してイソシアネート基の一部を保護して、さらに、ポリアルキレンオキシ化合物を添加する方法が挙げられる。なお、ポリアルキレンオキシ化合物は、上述した式(2)で表される構造単位(繰り返し単位)を有し、末端(好ましくは、両末端)にヒドロキシ基などのイソシアネート基と反応可能な基を有する化合物である。
【0027】
イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートを合成する際には、必要に応じて、触媒(例えば、塩基性触媒)を用いてもよい。触媒としては、例えば、テトラアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドや、アルキルカルボン酸の例えば錫、亜鉛、鉛等のアルキル金属塩や、ナトリウム、カリウム等の金属アルコラートや、ヘキサメチルジシラザンなどのアミノシリル基含有化合物や、マンニッヒ塩基類や、第3級アミン類とエポキシ化合物との併用や、トリブチルホスフィンなどの燐系化合物等が挙げられる。これらは1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
なお、触媒として塩基性触媒を使用した場合は、必要に応じて、酸性化合物で中和することが好ましい。酸性化合物は、1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
<有機樹脂(B)>
金属表面処理液には、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、および、カルボキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する有機樹脂(B)が含まれる。
有機樹脂(B)には、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、および、カルボキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基が含まれ、本発明の効果がより優れる点で、アミノ基またはカルボキシ基が好ましい。
有機樹脂(B)の樹脂(樹脂構造)の種類は特に制限されず、上記官能基を有していればよいが、例えば、上記官能基を有する、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、アクリル−エチレン共重合体、アクリル−スチレン共重合体、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを用いることができる。なかでも、水媒体中でも分散可能な水性有機樹脂であることが好ましい。
【0029】
有機樹脂(B)の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等の芳香族型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル変性物、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル変性物等の脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。これらエポキシ樹脂は、アミノ基の導入によるカチオン化、カルボキシ基の導入によるアニオン化、エチレンオキサイド等のノニオン基の導入によるノニオン化などがされていてもよく、水系化の形態は問わない。
カチオン性ウレタン樹脂も同様に樹脂中にアミノ基、カルボキシ基およびエチレンオキサイド基の少なくとも1種の基の導入によってカチオン化、アニオン化、ノニオン化されていることが好ましい。
ウレタン樹脂を構成するモノマーとしては、黄変型イソシアネート、無黄変型イソシアネートともに使用することができる。ポリオール種においても、芳香族構造、脂肪族構造ともに有してもよい。
ポリエステル樹脂においても同様にアミノ基、カルボキシ基およびエチレンオキサイド基の少なくとも1種の基の導入によってカチオン化、アニオン化、ノニオン化されていることが好ましい。なお、樹脂を構成するモノマーに制限はない。
フェノール樹脂はノボラック型フェノール、レゾール型フェノール、ポリビニルフェノール等の主構造を有する樹脂が挙げられる。水系化においてアミノ基、カルボキシ基およびエチレンオキサイド基の少なくとも1種の基の導入によってカチオン化、アニオン化、ノニオン化することができる。
アクリル樹脂も同様にアミノ基、カルボキシ基およびエチレンオキサイド基の少なくとも1種の導入によって、カチオン化、アニオン化、ノニオン化され、水系化することができる。なお、樹脂を構成するモノマーに制限はない。
有機樹脂(B)は、自己乳化法によって水系化されていることが好ましいが、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤や反応性乳化剤を用いて水系化されたものでも構わない。いずれもこれら1種のみを使用してよいし、2種以上を併用してもよい。
また、各種有機樹脂(B)はグラフト変性されても構わない。有機樹脂(B)の水酸基価としては、1〜1000mgKOH/gであることが好ましい。また、有機樹脂(B)のアミン価としては、1〜800mgKOH/gであることが好ましい。また、有機樹脂(B)の酸価としては、1〜100mgKOH/gであることが好ましい。
【0030】
<その他任意成分>
金属表面処理液には、上記ブロックイソシアネート(A)および有機樹脂(B)以外の他の成分が含まれていてよい。以下、任意成分について詳述する。
【0031】
(金属化合物(C))
金属表面処理液には、ジルコニウム、チタン、バナジウム、セリウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、マグネシウム、カルシウム、セリウム、亜鉛、ニオブ、イットリウム、アルミニウム、タングステン、クロム、および、バリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属化合物(C)が含まれていてもよい。これら化合物は表面処理金属材料の耐食性向上に有効であり、ブロック化イソシアネート基の解離触媒、さらにはイソシアネート基との反応助触媒として作用し、表面処理金属材料中の皮膜の性質に影響する。
【0032】
ジルコニウム化合物(ジルコニウム元素を含む化合物)としては、例えば、ジルコニウムの炭酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、ジルコニウム酸化物およびジルコニウムの有機酸塩、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジイソプロポキシジルコニウムジアセチルアセトナト、ジイソプロポキシジルコニウムジトリエタノールアミネートなどのジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウム原子を含むキレート錯体などの有機ジルコニウム化合物を使用できる。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、炭酸ジルコニウムアンモニウム、または、ジルコニウムフッ化水素酸若しくはその塩が好ましい。
【0033】
チタン化合物(チタン元素を含む化合物)としては、例えば、チタンアルコキシド、チタン原子を含むキレート錯体、チタンの無機塩、有機酸塩および有機チタン化合物が好ましい。
【0034】
バナジウム化合物(バナジウム元素を含む化合物)としては、例えば、バナジウムアルコキシド、バナジウムを含むキレート錯体、バナジウムの無機塩、有機塩および酸化物が好ましく、具体的には、バナジウムオキシアセチルアセトネート、メタバナジン酸、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム、バナジウムビスアセチルアセトナト、バナジルジアセチルアセトナト、五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、フッ化バナジウム、リン酸バナジウム、硫酸バナジウム、シュウ酸バナジウム、バナジウムオキシトリイソプロポキシド、バナジウムオキシトリブトキシド、バナジウムオキシトリイソブトキシド、バナジウムオキシトリエタノールアミネートなどが挙げられる。
【0035】
セリウム化合物(セリウム元素を含む化合物)としては、例えば、セリウムアルコキシド、セリウムを含むキレート錯体、セリウムの無機塩、有機塩および酸化物が好ましい。
【0036】
モリブデン化合物(モリブデン元素を含む化合物)としては、例えば、モリブデンアルコキシド、モリブデンを含むキレート錯体、モリブデンの無機塩、有機塩および酸化物が好ましい。
【0037】
コバルト化合物(コバルト元素を含む化合物)としては、例えば、コバルトアルコキシド、コバルトを含むキレート錯体、コバルトの無機塩、有機塩および酸化物が好ましい。
【0038】
ニッケル化合物(ニッケル元素を含む化合物)としては、例えば、ニッケルアルコキシド、ニッケルを含むキレート錯体、ニッケルの無機塩、有機塩および酸化物が好ましい。
【0039】
マグネシウム化合物(マグネシウム元素を含む化合物)としては、例えば、マグネシウムアルコキシド、マグネシウムを含むキレート錯体、マグネシウムの無機塩、有機塩および酸化物が好ましい。
【0040】
カルシウム化合物(カルシウム元素を含む化合物)としては、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。
【0041】
セリウム化合物(セリウム元素を含む化合物)としては、例えば、酸化セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム(III)または(IV)、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸セリウム、塩化セリウムなどが挙げられる。
【0042】
亜鉛化合物(亜鉛元素を含む化合物)としては、例えば、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、フッ化亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛、ジンクテトラエチラート、ジンクテトラプロピレート、ジンクテトラブチレート、ジンクテトラアセチルアセトネート、ジンクモノアセチルアセトネート、ジンクラウレートなどが挙げられる。
【0043】
ニオブ化合物(ニオブ元素を含む化合物)としては、例えば、ニオブアルコキシド、ニオブを含むキレート錯体、ニオブの無機塩、有機塩および酸化物が好ましく、具体的には、酸化ニオブ、水酸化ニオブ、硝酸ニオブ、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カルシウム、ニオブ酸マグネシウム、ニオブ酸、フッ化ニオブ、塩化ニオブ、メタニオブ酸ナトリウム、酸化ニオブマグネシウム、ニオブペンタエチラート、ニオブペンタブチラートなどが挙げられる。
【0044】
イットリウム化合物(イットリウム元素を含む化合物)としては、例えば、イットリウムアルコキシド、イットリウムを含むキレート錯体、イットリウムの無機塩、有機塩および酸化物が好ましい。
【0045】
アルミニウム化合物(アルミニウム元素を含む化合物)としては、例えば、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムを含むキレート錯体、アルミニウムの無機塩、有機塩および酸化物が好ましい。
【0046】
タングステン化合物(タングステン元素を含む化合物)としては、例えば、バナジウムアルコキシド、タングステンを含むキレート錯体、タングステンの無機塩、有機塩および酸化物が好ましい。
【0047】
クロム化合物(クロム元素を含む化合物)としては、例えば、クロム酸、重クロム酸、炭酸クロム、塩化クロム、リン酸クロム、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、クロムアセチルアセトナート、クロム酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0048】
バリウム化合物(バリウム元素を含む化合物)としては、例えば、硝酸バリウム、炭酸バリウム、酸化バリウムなどが挙げられる。
【0049】
(リン含有化合物(D))
金属表面処理液には、無機リン酸、無機リン酸塩、有機リン酸、有機リン酸塩、有機ホスホン酸、および、有機ホスホン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン含有化合物(D)が含まれていてもよい。これら化合物は多価イオンを形成しやすく、共存する極性基と相互作用(例えば、イオン結合)しうる。すなわち、リン含有化合物(D)は皮膜中において擬似的な架橋点として作用する結果、金属表面処理液より形成される皮膜の性質に影響する。なお、上述した金属化合物(C)は、リン含有化合物(D)には含まれない。
無機リン酸およびその塩としては、リン酸(オルトリン酸)、亜リン酸、三リン酸、次亜リン酸、次リン酸などのモノリン酸類、モノリン酸の誘導体および塩類、メタリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサリン酸などの縮合リン酸類、縮合リン酸類の誘導体および塩類等が挙げられる。
有機リン酸およびその塩としては、アルキルリン酸、リン酸モノエステル(例えば、リン酸モノドデシル二水素、リン酸モノトリデシル二水素など)およびその塩、リン酸ジエステル(例えば、リン酸ジドデシル水素、リン酸ジトリデシル水素など)およびその塩などが挙げられる。有機リン酸の具体例としては、例えば、R10O−P(=O)(OR11)(OR12)によって表される化合物が挙げられる。なお、R10は有機基を表し、R11およびR12はそれぞれ独立に水素原子または有機基を表す。有機基としては、例えば、炭化水素基(例えば、アルキル基、アリール基、または、これらを組み合わせた基)が挙げられる。
有機ホスホン酸およびその塩としては、例えば、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミン−N,N,N´,N´−テトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミン−N,N,N´,N´−テトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン−N,N,N´,N´´,N´´−ペンタ(メチレンホスホン酸)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、および、これらの塩が挙げられる。有機ホスホン酸の具体例としては、例えば、R10−P(=O)(OR11)(OR12)によって表される化合物が挙げられる。なお、R10は有機基を表し、R11およびR12はそれぞれ独立に水素原子または有機基を表す。有機基としては、例えば、炭化水素基(例えば、アルキル基、アリール基、または、これらを組み合わせた基)が挙げられる。
なお、無機リン酸塩(無機リン酸の塩)、有機リン酸塩(有機リン酸の塩)、有機ホスホン酸塩(有機ホスホン酸の塩)などの塩類としては特に制限されないが、例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩を挙げることができる。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンを挙げることができる。また、アミン塩を構成するアミンとしては、特に制限されないが、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン;ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−プロパノールアミンなどのアルカノールアルキルアミン;化学式:R1NH2(式中、R1は炭素数8以上、20以下の炭化水素基を示す)で表わされるモノアルキル1級アミン;化学式:R2NH(CH23NH2(式中、R2は炭素数5以上、17以下の炭化水素基を示す)で表わされるアルキルジアミノプロパンなどが挙げられる。
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、無機リン酸、無機リン酸塩、有機ホスホン酸、または、有機ホスホン酸塩が好ましく、無機リン酸塩(例えば、無機リン酸のアンモニウム塩、無機リン酸のアルカリ金属塩、無機リン酸のアミン塩)、または、有機ホスホン酸がより好ましく、無機リン酸(好ましくは、リン酸)のアンモニウム塩、または、有機ホスホン酸が特に好ましい。
【0050】
(珪素化合物(E))
金属表面処理液には、珪素化合物(E)が含まれていてもよい。
珪素化合物(E)としては、例えば、アルカリ金属ケイ酸塩、コロイダルシリカ等の無機珪素化合物、または、シランカップリング剤等の有機珪素化合物の少なくとも1種であることが好ましい。
無機珪素化合物としては、例えば、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、コロイダルシリカが挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシシラン)、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラまたはトリメトキシシラン(テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン等)などが挙げられる。また、テトラ若しくはトリメトキシシランとグリシドールとの脱メタノール反応により得られるグリシジル基含有部分縮合物も使用可能である。
【0051】
(無機化合物(F))
金属表面処理液には、リチウム、ナトリウム、および、カリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む無機化合物(F)が含まれていてもよい。なお、無機化合物(F)には、上述した金属化合物(C)、リン含有化合物(D)および珪素化合物(E)は含まれない。
無機化合物(F)として具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、硝酸リチウム等の硝酸塩、フッ化ナトリウム等のフッ化物、硫酸ナトリウム等の硫酸塩などが挙げられる。
【0052】
(ジカルボン酸ジエステル(G))
金属表面処理液には、ジカルボン酸ジエステル(G)が含まれていてもよい。これらは、均一な膜を形成するための造膜助剤として作用する。
ジカルボン酸ジエステル(G)として具体的には、コハク酸ジエトキシエチル、コハク酸ジオクチル等のコハク酸ジエステル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジエトキシエチル等のアジピン酸ジエステル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジオクチル等のセバシン酸ジエステルが挙げられる。
【0053】
(溶媒)
金属表面処理液には、溶媒として水が含まれていてもよい。また、後述するように、有機溶媒が含まれていてもよい。
【0054】
(その他成分)
金属表面処理液には、ブロックイソシアネート(A)の解離、または、ブロック剤の解離したイソシアネート基と有機樹脂(B)中の官能基との反応を促進するため、上記成分以外の、酸性触媒(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸)、塩基性触媒(例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン)、または、金属触媒を加えることができる。
金属表面処理液には、造膜性の向上や皮膜の乾燥性を改善する有機溶媒、濡れ性を向上させる界面活性剤、皮膜量調整のための増粘剤、発泡を抑える消泡剤、溶接性向上のための導電性物質、意匠性向上のため着色顔料などを、金属表面処理液の液安定性や本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0055】
<金属表面処理液>
金属表面処理液には、上述した各種成分が含まれる。
金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)の有効イソシアネート基の濃度が0.01〜20g/Lであることが好ましく、0.01〜15g/Lであることがより好ましく、0.05〜10g/Lであることがさらに好ましい。
金属表面処理液中における有機樹脂(B)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、5〜100g/Lであることが好ましく、10〜100g/Lであることがより好ましく、15〜90g/Lであることがさらに好ましい。
金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)と有機樹脂(B)との質量含有比は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、ブロックイソシアネート(A)中の有効イソシアネート基の濃度a(g/L)と有機樹脂(B)中の上述したヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、および、カルボキシ基からなる群から選択される官能基の濃度b(g/L)との比(有効イソシアネート基の濃度a/官能基の濃度b)が、0.001〜30.0であることが好ましく、0.01〜30であることがより好ましく、0.5〜30であることがさらに好ましく、1.0〜15であることが特に好ましく、2.5〜10であることが最も好ましい。
なお、上記有効イソシアネート基の濃度(g/L)は金属表面処理液(1L)中における有効イソシアネート基の量(g)を表し、上記官能基の濃度(g/L)は金属表面処理液(1L)中における官能基の量(g)を表す。
【0056】
金属表面処理液に金属化合物(C)が含まれる場合、金属表面処理液中における金属化合物(C)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜50g/Lであることが好ましく、0.3〜10g/Lであることがより好ましい。
金属表面処理液にリン含有化合物(D)が含まれる場合、金属表面処理液中におけるリン含有化合物(D)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜50g/Lであることが好ましく、0.2〜30g/Lであることがより好ましく、0.3〜10g/Lであることがさらに好ましい。
金属表面処理液に珪素化合物(E)が含まれる場合、金属表面処理液中における珪素化合物(E)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜50g/Lであることが好ましく、0.2〜30g/Lであることがより好ましく、0.3〜10g/Lであることがさらに好ましい。
金属表面処理液に無機化合物(F)が含まれる場合、金属表面処理液中における無機化合物(F)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜50g/Lであることが好ましく、0.5〜50g/Lであることがより好ましい。
金属表面処理液にジカルボン酸ジエステル(G)が含まれる場合、金属表面処理液中におけるジカルボン酸ジエステル(G)の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.01〜50g/Lであることが好ましく、0.05〜10g/Lであることがより好ましい。
【0057】
金属表面処理液に金属化合物(C)が含まれる場合、金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)と金属化合物(C)の質量比(A/C)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜50が好ましく、0.1〜25がより好ましく、0.1〜10がさらに好ましい。
金属表面処理液にリン含有化合物(D)が含まれる場合、金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)とリン含有化合物(D)の質量比(A/D)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜50が好ましく、0.2〜30がより好ましく、0.3〜10がさらに好ましく、0.5〜10が特に好ましい。
金属表面処理液に珪素化合物(E)が含まれる場合、金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)と珪素化合物(E)の質量比(A/E)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜50が好ましく、0.2〜30がより好ましい。
金属表面処理液に無機化合物(F)が含まれる場合、金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)と無機化合物(F)の質量比(A/F)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜50が好ましく、0.5〜50がより好ましい。
金属表面処理液にジカルボン酸ジエステル(G)が含まれる場合、金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)とジカルボン酸ジエステル(G)の質量比(A/G)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、5〜100が好ましい。
【0058】
金属表面処理液のpHは、本発明の効果を達成し得る限り特に制限はないが、本発明の効果がより優れる点で、pH3〜11の範囲であることが好ましい。
金属表面処理液の固形分濃度については、本発明の効果が達成し得る限り特に制限はないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0059】
<表面処理金属材料の製造方法>
上述した金属表面処理液を用いて、表面処理金属材料を製造する方法は特に制限されないが、通常、上述した金属表面処理液を金属材料表面に接触させ、加熱乾燥して金属材料上に皮膜を形成する工程を有する。
以下では、まず、被処理物である金属材料について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0060】
(金属材料)
金属材料の種類は特に制限されず、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム含有亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、亜鉛ニッケルめっき鋼板、合金鋼板およびめっき鋼板;アルミニウム板、銅板、チタン板、マグネシウム板等の鋼板以外の金属板などの一般に公知の金属材料を用いることができる。特に好適な金属材料は、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム含有亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、亜鉛ニッケルめっき鋼板、蒸着亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板である。
【0061】
金属表面処理液による処理に先立って、必須ではないが通常、被処理物である金属材料に付着した油分、汚れを取り除くために、脱脂剤によるアルカリ洗浄、湯洗、酸洗、溶剤洗浄などを適宜組み合わせて行う。
また、通常不要であるが、金属表面処理液による処理を行なう前に、金属材料の耐食性および皮膜と金属材料との密着性をさらに向上させる目的で、下地処理を施すことができる。下地処理の方法は特に制限されないが、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mn、Zr、Ti、またはVなどの金属を付着させる表面調整処理や、化成処理などが挙げられる。
上記何れの処理の場合も、金属材料表面に処理液が残留しないように水洗することが好ましい。
【0062】
(手順)
金属材料への金属表面処理液の接触方法は特に制限されず、例えば、ロールコーター法、浸漬法、スプレー法、バーコート法など塗布方法が挙げられる。
また、接触時の処理液温度については、特に制限はないが、10〜60℃が好ましく、15〜40℃がより好ましい。
さらに、金属材料を金属表面処理液と接触させた後、金属材料に加熱乾燥処理を施す。加熱乾燥方法としては特に制限はなく、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等が挙げられる。ブロックイソシアネート(A)および有機樹脂(B)の硬化および架橋の促進による被覆効果を高めるためには、熱風炉、誘導加熱炉、電気炉などによる加熱乾燥が好ましい。加熱乾燥温度は、特に制限はないが、乾燥時の到達金属材料温度が50〜250℃であることが好ましく、70〜220℃であることがより好ましい。
【0063】
上記処理を施すことにより、金属材料とその表面に配置された皮膜とを有する表面処理金属材料が得られる。
皮膜の付着量(皮膜質量)は特に制限されず、本発明の効果がより優れる点で、0.05〜10.0g/m2が好ましく、0.1〜8.0g/m2がより好ましく、0.1〜5.0g/m2がさらに好ましい。
【0064】
皮膜の基本物性はDMA(動的粘弾性装置)によって通常測定され、貯蔵弾性率と損失弾性率として得られる。貯蔵弾性率は、バネのように与えられた応力に対して瞬発的に反応する弾性成分を表し、一方、損失弾性率は与えられた応力に対して遅れて反応する粘性成分を表す。つまり、貯蔵弾性率は皮膜の強度に直接影響する成分であり、高い貯蔵弾性率を持つ皮膜ほど硬い皮膜といえる。損失弾性率は軟らかさを表す成分であり、損失弾性率の高い皮膜はより柔らかい皮膜といえる。損失弾性率が極大値を迎える温度を最大損失正接Tanδで示し、この温度が高すぎる場合、皮膜は脆く、一方低すぎる場合、皮膜は軟質となる。
皮膜の常温における貯蔵弾性率は、本発明の効果がより優れる点で、0.1〜5GPaであるのが好ましく、0.2〜4GPaであるのがより好ましく、0.5〜2GPaであることがさらに好ましい。
また、皮膜の最大損失正接Tanδを示す温度(Tanδmax)は、本発明の効果がより優れる点で、25〜80℃であることが好ましく、30〜75℃であることがより好ましく、30〜70℃であることがさらに好ましい。
【0065】
上述した表面処理金属材料の表面上(皮膜上)には、必要に応じて塗膜を形成してもよい。得られた塗膜は、密着性や耐食性に優れる。
塗料は、水性塗料であっても溶剤系塗料であっても構わない。硬化形式も特に制限されず、熱硬化であっても電子線硬化であっても構わない。また、本発明の表面処理金属材料の表面上(皮膜上)には、一般塗料だけでなく、ラミネート等のフィルムコートを実施してもよい。
【0066】
上述した表面処理金属材料は、各種用途に使用することができ、例えば、家電や建材用途の部材などが挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下に本発明の実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
<1.ブロックイソシアネート(A)の合成>
1.1 ポリイソシアネートの調製
攪拌機のついた反応装置(1Lセパラブルフラスコ)に表1の「イソシアネート種」欄に示す各イソシアネート300gを加えて、60℃での攪拌下、触媒としてトリメチルベンジルアンモニウム・ハイドロオキサイド0.1gを加えた。4時間後、反応液の転化率が38%になった時点でリン酸0.2gを添加して反応を停止した。
【0069】
2.2 ブロックイソシアネートの調製
以下に、ブロックイソシアネートの調製方法を述べる。なお、各合成例に使用した「ポリイソシアネート」は、表1に記載の各合成例の「イソシアネート種」欄に記載のイソシアネートを用いて、上記手順にして作製したポリイソシアネートを用いた。
ただし、後述する合成例A10においては、単量体である1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートを使用した。
なお、以下各合成例で合成したブロックイソシアネートは、いわゆる自己乳化型のブロックイソシアネートであった。
【0070】
(合成例A1)
ポリイソシアネート(100g)、ジエチルマロネート(63.5g)およびナトリウムメトキサイド(1.0g)を反応器に装入し、65〜70℃で加熱した。次いで、ポリエチレングリコール(188.4g)(繰り返し単位の数(n):22)を反応液に添加し、反応液温度を70℃にし、5時間保持した。その後、反応液を攪拌しながら水(430g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0071】
(合成例A2、A6)
ポリイソシアネート(100g)、3,5−ジメチルピラゾール(28.8g)およびナトリウムメトキサイド(1.0g)を反応器に装入し、65〜70℃で加熱した。次いで、ポリエチレングリコール(188.4g)を反応液に添加し、反応液温度を70℃にし、5時間保持した。その後、反応液を攪拌しながら水(430g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
なお、A2、およびA6の各製造の際に、上記ポリエチレングリコールの種類を変更して、表1に示すように重量平均分子量が得られるようにした。具体的には、A2の合成の際にはポリエチレングリコール(繰り返し単位の数(n):22)を、A6の合成の際にはポリエチレングリコール(繰り返し単位の数(n):180)を用いた。
【0072】
(合成例A3)
ポリエチレングリコールをポリプロピレングリコール(繰り返し単位の数(n):17)に変更した以外は、合成例A2と同様の手順に従って、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0073】
(合成例4)
ポリイソシアネート(100g)、3,5−ジメチルピラゾール(31.6g)およびナトリウムメトキサイド(1.0g)を反応器に装入し、65〜70℃で加熱した。次いで、ポリエチレングリコール(640g)(繰り返し単位の数(n):91)を反応液に添加し、反応液温度を70℃に昇温し、5時間保持した。その後、反応液を攪拌しながら水(1100g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0074】
(合成例A5)
ポリイソシアネート(100g)、3,5−ジメチルピラゾール(26.2g)およびナトリウムメトキサイド(1.0g)を反応器に装入し、65〜70℃で加熱した。次いで、ポリエチレングリコール(136.6g)(繰り返し単位の数(n):68)を反応液に添加し、反応液温度を70℃にし、5時間保持した。その後、反応液を攪拌しながら水(350g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0075】
(合成例A7、A8)
3,5−ジメチルピラゾールをメチルエチルケトオキシムまたはエチレングリコールモノブチルエーテルに変更した以外は、合成例A2と同様に手順に従って、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0076】
(合成例A9)
ポリイソシアネート(100g)、3,5−ジメチルピラゾール(26.2g)およびナトリウムメトキサイド(1.0g)を反応器に装入し、65〜70℃で加熱した。次いで、ポリエチレングリコール(3571g)(繰り返し単位の数(n):409)を反応液に添加し、反応液温度を70℃にし、5時間保持した。その後、反応液を攪拌しながら水(5600g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0077】
(合成例A10)
イソシアネート(100g)、ジエチルマロネート(190.5g)およびナトリウムメトキサイド(1.0g)を反応器に装入し、反応液を65〜70℃で加熱した。その後、反応液を攪拌しながら水(530g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0078】
(合成例A11)
ポリイソシアネート(100g)、ジエチルマロネート(95.2g)およびナトリウムメトキサイド(1.0g)を反応器に装入し、反応液を65〜70℃で加熱した。その後、反応液を攪拌しながら水(290g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0079】
(合成例A12)
ポリイソシアネート(100g)、ジメチルピラゾール(75.7g)およびナトリウムメトキサイド(1.0g)を反応器に装入し、反応液を65〜70℃で加熱した。その後、反応液を攪拌しながら水(260g)を反応液に添加し、ブロックイソシアネート乳化液を調製した。
【0080】
得られたブロックイソシアネートの重量平均分子量は、ブロックイソシアネートの相対分子量分布をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により求め、ポリエチレングリコール換算重量平均分子量として求めた。GPCの測定条件は次の通りである。
【0081】
測定機種:東ソー(株)製SC−8010システム
カラム:Shodex Ohpak SB−G+Ohpak SB−806MHQ×2本
溶解液:DMF/0.06M LiBr/0.04M H3 PO3
温度:カラム恒温槽40℃
流速:0.05ml/分
濃度:0.1wt/Vol%
注入量:50μl
溶解性:完全溶解
前処理:0.45μmフィルター
検出器:示差屈折計
【0082】
上記で合成されたA1〜A9にはイソシアヌレート構造(式(1)で表される構造単位)と、ポリアルキレンオキシ鎖(式(2)で表される構造単位)とが含まれていた。
A10にはイソシアヌレート構造およびポリアルキレンオキシ鎖が含まれておらず、A11およびA12にはポリアルキレンオキシ鎖が含まれていなかった。
以下の表1中、「重合形態」欄において、「三量体」はイソシアヌレート構造が含まれることを意図し、「単量体」はイソシアネートが単量体状態であることを意図する。
「解離温度」は、ブロック化イソシアネート基の解離温度を表す。
「粒子径」は、各ブロックイソシアネート乳化液中におけるブロックイソシアネートの粒子径を表す。
「アルキレンオキシ数」は、アルキレンオキシユニットの数(式(2)中のn)を表す。
「有効NCO%」は、各ブロックイソシアネート中における有効イソシアネート基の含有量(質量%)を意図する。
【0083】
【表1】
【0084】
なお、上記表中の各記号は以下を表す。
HDI:1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート,IPDI:3−イソシアネート−メチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート,TMXDI:1,3−ビス(2−イソシアネート2−プロピル)ベンゼン,TDI:トリレン−2,6−ジイソシアネート,PEG:ポリエチレングリコール,PPG:ポリプロピレングリコール,DEM:ジエチルマロネート,DMP:3,5−ジメチルピラゾール,MEKO:メチルエチルケトオキシム、EGB:エチレングリコールモノブチルエーテル
【0085】
<2.金属表面処理液の調製>
表1に示すブロックイソシアネート(A)を用いて、表2〜4に示す組合せおよび割合にて、ブロックイソシアネート(A)、有機樹脂(B)、金属化合物(C)、リン含有化合物(D)、珪素化合物(E)、無機化合物(F)、ジカルボン酸ジエステル(G)をこの順序で混合し、脱イオン水により濃度を調整することにより、実施例および比較例に用いた金属表面処理液を調製した。
【0086】
B1:エポキシ樹脂(ウォーターゾールEFD−5560、DIC)(含有官能基の種類:ヒドロキシ基)
B2:ウレタン樹脂(ハイドランCOR−70、DIC)(含有官能基の種類:アミノ基)
B3:アクリル樹脂(ウォーターゾールS−701、DIC)(含有官能基の種類:カルボキシ基)
【0087】
C1:炭酸ジルコニウムアンモニウム
C2:ジルコニウムフッ化水素酸
【0088】
D1:リン酸アンモニウム
D2:ヒドロキシエチリデンジホスホン酸
D3:リン酸トリエタノールアミン
【0089】
E1:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0090】
F1:水酸化リチウム
【0091】
G1:アジピン酸ジイソブチル
【0092】
<3.表面処理>
以下、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板または冷延鋼板を供試材とした場合について、表面処理方法、評価方法、および評価結果の順に説明する。なお、評価結果は、表2〜4にまとめて示す。
[1.素材]
GI:溶融亜鉛メッキ鋼板(板厚:0.8mm、目付量:60g/m2
EG:電気亜鉛メッキ鋼板(板厚:0.8mm、目付量:20g/m2
CRS:冷延鋼板(板厚:0.8mm)
【0093】
[2.表面処理方法]
(1)脱脂
日本パーカライジング(株)製アルカリ脱脂剤ファインクリーナーE6406(20g/L建浴、60℃、10秒スプレー、スプレー圧0.5kg/cm)で各素材を脱脂した後、スプレー水洗を10秒間行った。
【0094】
(2)塗布および乾燥
上記(1)で脱脂した各素材に各金属表面処理液を皮膜質量が1g/m2になるようにバーコート塗布し、150℃(PMT)で乾燥し、各処理板試料を作製した。
【0095】
[3.評価項目]
(1)耐食性
(1−1)GIおよびEGに関して
実施例および比較例において作製したGIおよびEG処理板試料については、以下の平面部および端面部の耐食性試験を行った。評価方法は次の通りである。
(平面部)
塩水噴霧試験法JIS−Z−2371に基づき塩水噴霧240時間後の白錆発生面積率(平面部全面積に対する白錆の発生面積の割合)を求め、以下の基準に従って評価した。平面部耐食性については、◎〜□を合格とした。
[評価基準]
◎:白錆発生面積率 10%未満
○:白錆発生面積率 10%以上20%未満
□:白錆発生面積率 20%以上30%未満
△:白錆発生面積率 30%以上60%未満
×:白錆発生面積率 60%以上
【0096】
(端面部)
JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を48時間実施し、端面からの錆幅を目視評価し、以下の基準に従って評価した。端面部耐食性については、◎〜□を合格とした。
[評価基準]
◎:錆幅5mm未満
○:錆幅5mm以上7mm未満
□:錆幅7mm以上8.5mm未満
△:錆幅8.5mm以上10mm未満
×:錆幅10mm以上
【0097】
(1−2)CRSに関して
実施例および比較例において作製したCRS処理板試料については、以下の耐食性試験を行った。評価方法は次の通りである。
(平面部)
塩水噴霧試験法JIS−Z−2371に基づき塩水噴霧72時間後の白錆発生面積率(平面部全面積に対する白錆の発生面積の割合)を求め、以下の基準に従って評価した。耐食性については、◎〜□を合格とした。
[評価基準]
◎:白錆発生面積率 10%未満
○:白錆発生面積率 10%以上20%未満
□:白錆発生面積率 20%以上30%未満
△:白錆発生面積率 30%以上60%未満
×:白錆発生面積率 60%以上
【0098】
(2)耐加工性
処理板試料の両面を20mm×50mmの平面圧子を用いて10kNの荷重を与えながら100mm/minの速度で引き抜き加工を施し、肉眼で試験片(処理板試料)の外観を評価し、変色面積の割合(引き抜き加工部の面積に対する変色面積の割合)を求め、以下の基準に従って評価した。耐加工性については、◎〜□を合格とした。
[評価基準]
◎:全く変化無し
○:変色面積の割合が0%超10%以下
□:変色面積の割合が10%超30%以下
△:変色面積の割合が30%超50%以下
×:変色面積の割合が50%超
【0099】
(3)耐薬品性
(3−1)耐アルカリ性
処理板試料に、上記脱脂で使用した脱脂剤を65℃に調整し2分間スプレーした。その後、肉眼で試験片(処理板試料)の外観を観察し、以下の基準に従って評価した。耐アルカリ性については、◎〜□を合格とした。
[評価基準]
◎:全く変化無し
○:変色面積の割合が0%超10%以下
□:変色面積の割合が10%超30%以下
△:変色面積の割合が30%超50%以下
×:変色面積の割合が50%超
(3−2)耐酸性
処理板試料を、1%硫酸水溶液に5時間浸漬した。その後、肉眼で試験片(処理板試料)の外観を観察し、以下の基準に従って評価した。耐酸性については、◎〜□を合格とした。
[評価基準]
◎:全く変化無し
○:変色面積の割合が0%超10%以下
□:変色面積の割合が10%超30%以下
△:変色面積の割合が30%超50%以下
×:変色面積の割合が50%超
【0100】
(4)塗膜密着性
メラミンアルキッド系塗料(大日本塗料株式会社製デリコン#700)を用いて、各処理板試料を塗装処理した。塗装はバーコート塗布で行い、塗装後、140℃で20分間焼付けを行い、乾燥後膜厚で25μmの塗膜(表面処理物)を形成した。
原板と同じ厚さの板を2枚用いて、塗膜(表面処理物)を挟み180度折り曲げ加工を行い、折り曲げ部のテープ剥離を行い、以下の基準に従って評価した。塗膜密着性については、◎〜□を合格とした。
[評価基準]
◎:剥離なし
○:剥離面積が0%超10%以下
□:剥離面積が10%超30%以下
△:剥離面積が30%超50%以下
×:剥離面積が50%超
【0101】
(5)塗装後耐食性
(5−1)GIおよびEGに関して
上記(4)で得られた塗膜にNTカッター(エヌティー株式会社製 A300型)でクロスカットを施し、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を480時間実施し、クロスカットからの錆幅を目視評価し、以下の基準に従って評価した。塗装後耐食性については、◎〜□を合格とした。
[評価基準]
◎:錆幅5mm未満
○:錆幅5mm以上7mm未満
□:錆幅7mm以上8.5mm未満
△:錆幅8.5mm以上10mm未満
×:錆幅10mm以上
【0102】
(5−2)CSRに関して
上記(4)で得られた塗膜にNTカッター(エヌティー株式会社製 A300型)でクロスカットを施し、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を120時間実施し、クロスカットからの錆幅を目視評価し、以下の基準に従って評価した。塗装後耐食性については、◎〜□を合格とした。
[評価基準]
◎:錆幅3mm未満
○:錆幅3mm以上6mm未満
□:錆幅6mm以上7.5mm未満
△:錆幅7.5mm以上10mm未満
×:錆幅10mm以上
【0103】
以下の表2は供試材として溶融亜鉛メッキ鋼板(GI)を使用した結果を、表3は供試材として電気亜鉛メッキ鋼板(EG)を使用した結果を、表4は供試材として冷延鋼板(CRS)を使用した結果を表す。
また、表2〜4中のブロックイソシアネート(A)の濃度欄は、金属表面処理液中におけるブロックイソシアネート(A)に含まれる有効イソシアネート基の濃度(g/L)を表す。また、表2〜4中の有機樹脂(B)の濃度欄は、金属表面処理液中における有機樹脂(B)の濃度(g/L)を表す。
表2〜4中、「a/b」は、金属表面処理液中における、ブロックイソシアネート(A)に含まれる有効イソシアネート基の濃度a(g/L)と、有機樹脂(B)に含まれる官能基(ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、および、カルボキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基)の濃度b(g/L)との比{a/b}を表す。
また、表2〜4中の「A/C」はブロックイソシアネート(A)の質量と金属化合物(C)の質量との比を、「A/D」はブロックイソシアネート(A)の質量とリン含有化合物(D)の質量との比を、「A/E」はブロックイソシアネート(A)の質量と珪素化合物(E)の質量との比を、「A/F」はブロックイソシアネート(A)の質量と無機化合物(F)の質量との比を、「A/G」はブロックイソシアネート(A)の質量とジカルボン酸ジエステル(G)の質量との比をそれぞれ表す。
表2中の「貯蔵弾性率」「Tanδmax」は、各実施例および各比較例にて製造される皮膜の常温における貯蔵弾性率および最大損失正接Tanδを示す温度を表す。なお、「貯蔵弾性率」「Tanδmax」は、RSA−G2(TAインスツルメント)によって測定した。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】
【0108】
【表6】
【0109】
表2〜表4からわかるように本発明の金属表面処理液を塗工して得られた表面処理金属材料は、各種優れた特性を示すことが確認された。
なかでも、実施例A1〜A14の比較より、有効イソシアネート基の濃度(g/L)/有機樹脂(B)中の官能基の濃度(g/L)の比(a/b)が0.01〜30(好ましくは0.5〜30、より好ましくは1.0〜15)の場合、より優れた効果が得られることが確認された。
また、実施例A15〜A19の比較より、ブロックイソシアネートの解離温度が120℃以下の場合、より優れた効果が得られることが確認された。
また、実施例A20と実施例A17との比較より、ブロックイソシアネートの重量平均分子量が400〜15000の範囲において、より優れた効果が得られることが確認された。
また、実施例A21〜A26の比較より、ブロックイソシアネート(A)とリン含有化合物(D)との含有量(A/D)が0.5〜50(好ましくは0.2〜30、より好ましくは0.3〜10)の場合、より優れた効果が得られることが確認された。
また、実施例A24、A28とA30との比較より、リン含有化合物(D)が無機リン酸のアンモニウム塩または有機ホスホン酸の場合、より優れた効果が得られることが確認された。
一方、所定の要件の満たさない比較例に記載の金属表面処理液を用いた場合、所望の効果が得られないことが確認された。