【実施例】
【0036】
[実施例1(ZSM−5タイプのフレームワークを有する多孔質体により構成された抗シンタリング触媒)]
<抗シンタリング触媒Aの作製>
ZSM−5タイプのフレームワークを有する多孔質体により構成された抗シンタリング触媒、すなわち、多孔質体が基本的にZSM−5タイプのフレームワークを有するゼオライト構造を有し、この多孔質体に自動車の排気ガス中のNOxに対する触媒活性を付与する金属原子として鉄が、前記多孔質体内に分散して存在し、かつ、前記の鉄が前記多孔質体に酸素原子を介して結合している抗シンタリング触媒を作製した。
【0037】
すなわち、ケイ素源としてオルトケイ酸テトラエチルを105g、アルミニウム源としてアルミニウムブトキシドを2g、テンプレート剤としてはテトラプロピルアンモニウムブロマイドを15g、触媒活性を付与する金属原子源として硝酸鉄(III)3g、さらに、0.14mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液400gをオートクレーブに仕込み、170℃に保ち、72時間反応させた。得られた粉末を濾別し、水で洗浄した後に十分乾燥させて、抗シンタリング触媒A(実施例1)105gを得た。
【0038】
上記で得られた抗シンタリング触媒Aの個数平均粒径は2μm(顕微鏡写真を撮影し、各粒子(約100個)の該当円直径を測定し、平均した値)であった。
【0039】
さらに、上記の抗シンタリング触媒Aについて、多孔質体の性状、触媒活性を付与する金属である鉄の化学結合状態を解析した。
【0040】
抗シンタリング触媒Aの多孔質体の性状について、X線回折分析を行って調べた。その結果を
図1(a)に、また、国際ゼオライト学会によるZSM−5のX線解析パターン(Database of Zeolite structures Zeolite Powder Diffraction Patterns MFI)を
図1(b)に、それぞれ示す。これらデータより、抗シンタリング触媒Aにおける多孔質がZSM−5のフレームワークを有するものであることが確認された。
【0041】
また、抗シンタリング触媒A中の鉄の含有量について、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX−720 島津製作所社製)で分析したところ、ケイ素(抗シンタリング触媒A中ケイ素量は30質量%)に対しての存在量(重量比)は5%であることが判った。
【0042】
また、触媒活性を付与する金属である鉄の化学結合状態をXPS(アルバック・ファイ社製PHI5000 Versa Probe)により調べた。同時に比較のために水酸化鉄(III)(試薬。特級)、及び、鉄橄欖石(化学組成Fe
2SiO
4)についてもそれらの鉄の化学結合状態を調べた、これら結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1のデータにより、抗シンタリング触媒Aにおいては、鉄原子は、Fe−O−Si状に、酸素原子を介して多孔質体を構成するケイ素原子に結合していることが確認された。
【0045】
また、電子線マイクロアナライザ(EPMA)日本電子社製JXA−8200によって、上記抗シンタリング触媒Aの粒子の断面を観察したところ、鉄が触媒粒子内に均一に分散していることが確認された。
【0046】
<抗シンタリング触媒Aの評価>
《排気ガス浄化性能評価方法》
次のようにして、抗シンタリング触媒Aの排気ガス浄化性能を評価した。評価では、
図2にモデル的に示す評価装置を用いた。図中、円筒状の電気炉1の中空部に石英製の反応管2(内径:21mm)が挿入されている。反応管2内部には、反応管2を通過するガスが評価対象の抗シンタリング触媒Aに接触するように抗シンタリング触媒Aを空間密度が200g/Lとなるよう、直径21mm、長さ20mmの(嵩体積:7mL)金属製の、一辺が25.4mmの正方形中に300セルが形成されるセル密度(300cpsi)の円筒形ハニカム形状体の壁面に均一に添着させて作製されたサンプル3が設置されている。この評価装置ではサンプル3付近の温度が、熱電対4により測定可能となっている。
【0047】
反応管3には、上方から水蒸気供給ラインと、2つ標準ガス供給ラインとが接続されている。水蒸気供給ラインには、水用ポンプ7と水蒸発器8とを介して水供給ラインが接続されており、必要に応じて反応管3に水蒸気を供給することができるようになっている。一方、2つの標準ガス供給ライン(排気ガス浄化性能評価用ガスライン5、及び、後述する抗シンタリング性評価用ガスライン)はそれぞれマスフローコントローラー5及び6を介して、各種標準ガスをそれぞれ所定の流量で反応管3に供給することができるようになっている。
【0048】
サンプル3を通過したガスは、クーラ9で冷却されベント(排気)されるが、その一部がサンプリングされ、分析計10で必要な項目について分析される。
【0049】
評価は次のようにして行った。
【0050】
上記サンプル3を200℃前後の温度から毎分10℃の昇温速度で550℃付近まで昇温させながら、窒素(N
2)をベースとして体積比で、一酸化窒素(NO)を250ppm、二酸化炭素(CO
2)を6.5%、酸素(O
2)を10%、アンモニア(NH
3)を225ppm(アンモニアの一酸化窒素に対するモル比は0.9である)、及び、水蒸気(H
2O)を10%、それぞれ含有する、自動車のガソリンエンジンの排気ガスを想定したガスを、上記の反応管2に、0.174m
3/h(標準状態、すなわち1気圧、0℃換算)(サンプルに対するSV:25000h
-1)の流速で供給した。このとき、反応管出口ガスの一酸化窒素濃度を測定し、反応管入り口側のその一酸化窒素の濃度(100%とする)と比較し、一酸化窒素濃度の減少率をNOx分解率として調べた。
【0051】
《抗シンタリング性の評価方法》
抗シンタリング性については、
図2に示した装置を用い、次のようにして評価した。すなわち、サンプルの温度を650℃に保ちながら50時間、窒素ガスをベースとし、体積比で、酸素10%、及び、水蒸気10%を含む、空気を想定したガスを、標準状態、すなわち1気圧、0℃換算でサンプルに対するSVが3000h
-1となる流速でサンプルに供給し、エージングを行った。
【0052】
このようにエージングを行ったサンプルについても上記同様に排気ガス浄化性能を調べた。
【0053】
[比較例 従来技術に係る排気浄化触媒Z]
従来技術に係る、すなわち、抗シンタリング性のない排気浄化触媒Zとして、硝酸鉄(III)の添加を行わない以外は、上記抗シンタリング性触媒A同様にして、多孔質体を合成し、洗浄及び乾燥後(収量は105g、個数平均粒径は3.5μm。X線回折分析よりZSM−5とおなじフレームワークを有するものであることを確認)、硝酸鉄(III)水溶液(0.03mol/L)400mL中に入れ、攪拌をしながら180分間浸漬した後、乾燥させて、従来技術に係る触媒Zを作製した。
【0054】
この触媒Zにおける鉄含有量を上記同様に蛍光X線により分析したところ、ケイ素(抗シンタリング触媒A中ケイ素量は30質量%)に対する鉄の存在量(重量比)は5%であることが判った。
【0055】
この従来技術に係る触媒ZについてXPS分析を行った。結果を表1に併せて示す。この結果より従来技術に係る触媒Zでは、鉄原子は、多孔質体を構成するケイ素原子に結合していないことが確認された。
【0056】
上記の従来技術に係る触媒Zを用いて、上記排気浄化触媒Aと同様にして抗シンタリング性を評価した。
【0057】
これら結果を
図3に併せて示す。
【0058】
図3より、耐久試験後の実施例1の排気浄化触媒Aは、低温域(200℃程度)から中温域(350℃)にかけては耐久試験後の比較例(従来技術)の触媒Zと同等のNOx分解率しか得られないものの、350℃から500℃超の高音域では高くなり、500℃付近では、耐久試験前の性能の80%以上の性能を有していることが判る。この結果により、本発明に係る抗シンタリング触媒の優れた抗シンタリング性が確認された。
【0059】
また、実施例1及び比較例の触媒におけるシンタリング処理前後での400℃での分解率、すなわち、触媒活性の保持率(シンタリング処理前の触媒での分解率を100%とする)を
図6(a)に示した。このグラフにより実施例1の抗シンタリング触媒が触媒活性に重要な温度(低中温域)において高い抗シンタリング性を有することが判る。
【0060】
[実施例2(ZSM−5タイプの抗シンタリング触媒(その2))]
<抗シンタリング触媒Bの作製>
抗シンタリング触媒Aと同様にして、但し、硝酸鉄(III)を3gではなく、9g用いて、抗シンタリング触媒Bを得た。この抗シンタリング触媒Bの多孔質体はX線回折分析(結果を
図4に示す)により抗シンタリング触媒Bにおける多孔質はZSM−5のフレームワークを有することが確認された。
【0061】
この触媒Bにおける鉄含有量を上記同様に蛍光X線により分析したところ、ケイ素(抗シンタリング触媒B中ケイ素量は30質量%)に対する鉄の存在量(重量比)は15%であることが判った。
【0062】
また、触媒活性を付与する金属である鉄の化学結合状態をXPSにより調べた。結果を上記表1に併せて示す。
【0063】
表1のデータにより、抗シンタリング触媒Bにおいても、抗シンタリング触媒A同様に、鉄原子が、Fe−O−Si状に、酸素原子を介して多孔質体を構成するケイ素原子に結合していることが確認された。
【0064】
また、電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって、上記抗シンタリング触媒Bの粒子の断面を観察したところ、鉄が触媒内に均一に分散していることが確認された。
【0065】
この抗シンタリング触媒B(実施例2)について抗シンタリング性を上記同様に調べた。結果を
図5に示す。
【0066】
図5より、本発明に係る抗シンタリング触媒Bでは、実際の自動車の排気ガスのNOx転換性能において重要な、低音域での高いNOx転換性能が維持されており、本発明の抗シンタリング触媒Bの優れた抗シンタリング性が確認された。
【0067】
また、実施例2及び比較例の触媒におけるシンタリング処理前後での300℃での分解率、すなわち、触媒活性の保持率(シンタリング処理前の触媒での分解率を100%とする)を
図6(b)に示した。このグラフにより実施例2の抗シンタリング触媒が触媒活性に重要な温度(低中温域)において高い抗シンタリング性を有することが判る。