(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6127309
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】回転電機用コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20170508BHJP
H02K 3/34 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
H02K15/04 F
H02K3/34 D
H02K15/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-166385(P2015-166385)
(22)【出願日】2015年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-46436(P2017-46436A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2016年9月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】白須 達也
【審査官】
服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−236523(JP,A)
【文献】
特開2013−138594(JP,A)
【文献】
特開昭56−150811(JP,A)
【文献】
特開平10−295063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機用コイルを製造する方法であって、
複数の素線からなる回転電機用コイルのコイルエンド部のうち少なくともナックル部に対応する箇所の外周部に熱収縮テープを巻き、加熱処理を行った後に、前記コイルエンド部を所定の形状に成形した
ことを特徴とする回転電機用コイルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された回転電機用コイルの製造方法であって、
成形後の前記回転電機用コイルから前記熱収縮テープを剥がす
ことを特徴とする回転電機用コイルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された回転電機用コイルの製造方法であって、
前記熱収縮テープとして、ポリエステル製テープを用いる
ことを特徴とする回転電機用コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用コイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機(回転電機)の固定子において、回転電機用コイルの形状は多種多様であり、その成形にはフォーミングマシンと呼ばれる機械(成形機)が用いられ、拡げや曲げ、ねじりといった加工が施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−154265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した回転電機用コイルの成形の際、コイル形状によって差異はあるものの、回転電機用コイルのコイルエンド部には相当な負荷がかかり、素線崩れが発生してしまうことがある。素線崩れは見栄えが悪くなるだけでなく、テーピングする際に空隙を作ってしまう原因となりうる。空隙が生じることによりレジンが抜け落ちて放熱性能が悪化し、冷却能力の低下を招いてしまう可能性があった。また、あまりに加工が厳しすぎるとテープの破断に至ってしまうことがある。
【0005】
そのため、現行の製造方法とほとんど変わらないにも関わらず、素線崩れの発生を効果的に抑制することが望まれていた。
【0006】
以上のことから、本発明は、前述した問題に鑑み提案されたもので、現行の製造方法とほとんど変わらないにも関わらず、素線崩れの発生を効果的に抑制することができる回転電機用コイルの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決する第1の発明に係る回転電機用コイルの製造方法は、
回転電機用コイルを製造する方法であって、
複数の素線からなる回転電機用コイルのコイルエンド部の
うち少なくともナックル部に対応する箇所の外周部に熱収縮テープを巻き、加熱処理を行った後に、前記コイルエンド部を所定の形状に成形した
ことを特徴とする。
【0008】
前述した課題を解決する第2の発明に係る回転電機用コイルの製造方法は、第1の発明に係る回転電機用コイルの製造方法であって、
成形後の前記回転電機用コイルから前記熱収縮テープを剥がす
ことを特徴とする。
【0009】
前述した課題を解決する第3の発明に係る回転電機用コイルの製造方法は、第1または第2の発明に係る回転電機用コイルの製造方法であって、
前記熱収縮テープとして、ポリエステル製テープを用いる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナックル部に対応する箇所の外周部が熱収縮テープで巻かれ、この熱収縮テープが加熱処理で収縮して複数の素線が固くまとめられることから、所定の形状に成形するときに、複数の素線がばらけることが防止される。よって、現行の製造方法とほとんど変わらないにも関わらず、素線崩れの発生を効果的に抑制することができ、作業効率が向上する。また、絶縁層内の空隙の発生を防止することができる。これにより、熱伝導性能が向上し、巻線の温度低下が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の主な実施形態に係る回転電機用コイルの製造方法で得られた回転電機用コイルをステータに取り付けた状態を示す図である。
【
図2A】前記回転電機用コイルを模擬した積層体に熱収縮テープを巻いた状態の斜視図である。
【
図2B】前記積層体を加熱処理し成形した状態の斜視図である。
【
図2C】前記熱収縮テープを剥がしてなる試験体の斜視図である。
【
図3】前記回転電機用コイルの製造方法による作用効果を示すグラフである。
【
図4】前記積層体に前記熱収縮テープを巻かずに成形してなる比較体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の主な実施形態に係る回転電機用コイルの製造方法について、以下に説明するが、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0013】
[主な実施形態]
本発明の主な実施形態に係る回転電機用コイルの製造方法について、
図1に基づいて説明する。
【0014】
本実施形態に係る回転電機用コイルの製造方法であるコイルエンド部の成形方法では、複数の素線からなる回転電機用コイルのコイルエンド部を成形機(フォーミングマシン)で成形する前に、このコイルエンド部のU字状角部をなすナックル部に対応する箇所の外周部に熱収縮テープを巻き、これに対し加熱処理を実施する。これにより、コイルエンド部のナックル部に対応する箇所にあっては、複数の素線が熱収縮テープで固くまとめられることになる。
【0015】
前記熱収縮テープとして、例えば、加熱条件で収縮するが回転電機用コイルなどとの反応性が無く、加熱処理後であっても容易に剥がすことが可能な素材のテープであって、ポリエステル製テープを用いることが好ましい。
【0016】
加熱処理条件として、熱収縮テープが収縮する温度に保持可能な恒温槽内に前記回転電機用コイルを所定時間(例えば1時間)保持することが好ましい。
【0017】
続いて、成形機により、拡げや曲げ、ねじりといった加工が前記回転電機用コイルに施されて所定の形状に成形される。回転電機用コイルは、所定の形状をなすコイルサイド部およびコイルエンド部を有する。回転電機用コイル10のコイルエンド部10aは、例えば、
図1に示すように、ナックル部10aaと、一端側がナックル部10aaと接続し他端側がコイルサイド部10bと接続する斜辺部(傾斜部)10abとを有する。ナックル部10aaは、U字状角部をなしている。なお、コイルサイド部10bは、直線状に延在する形状をなしている。
【0018】
続いて、成形後の前記回転電機用コイル10から前記熱収縮テープが剥がされる。
【0019】
上述した手順で所定の形状に成形された回転電機用コイルは、
図1に示すように、ステータ14のスロットに回転電機用コイル10のコイルサイド部10bが挿入された状態で固定される。すなわち、ステータ14から回転電機用コイル10のコイルエンド部10aが突出した状態で固定される。なお、符号12は、ステータ14に取り付ける前であって、成形機による成形時に、回転電機用コイル10のコイルエンド部10aのナックル部10aaに対応する箇所の外周部10aaaを覆い、加熱処理で収縮する熱収縮テープを示している。
【0020】
したがって、本実施形態によれば、ナックル部10aaに対応する箇所の外周部10aaaに熱収縮テープ12を巻き、この熱収縮テープ12が加熱処理で収縮して回転電機用コイルを構成する複数の素線が固くまとめられることから、回転電機用コイル10を所定の形状に成形するときに、複数の素線がばらけることが防止される。よって、現行の製造方法とほとんど変わらないにも関わらず、素線崩れの発生を効果的に抑制することができ、作業効率が向上する。また、コイルエンド部10aを成形した後に加熱処理された熱収縮テープ12を容易に剥がせることから、次工程であるワニスの含浸や、マイカテープの巻回をコイルエンド部10aの全体に対して確実に行うことができる。また、絶縁層内の空隙の発生を防止すること
ができる。これにより、熱伝導性能が向上し、巻線の温度低下が可能となる。
【実施例】
【0021】
本実施例に係る回転電機用コイルの製造方法の作用効果を確認するための確認試験について、
図2〜
図4を用いて以下に説明するが、本発明は以下に説明する確認試験のみに限定されるものではない。
【0022】
<試験体>
図2Aに示すように、直方体形状をなす素線(金属板)21を複数積層して積層体20(回転電機用コイルの模擬品)とし、回転電機用コイルのコイルエンド部におけるナックル部に対応する箇所として積層体20の中央部20aの外周部(上面部20aaおよび側面部20abおよび下面部20ac)を熱収縮テープ22で覆い、150℃の恒温槽内に1時間保持する条件で加熱処理を実施する。これにより、熱収縮テープ22が収縮して、複数の素線21からなる積層体20の中央部20a(回転電機用コイルのコイルエンド部におけるナックル部に対応する箇所)が固くまとめられることになる。
【0023】
なお、前記熱収縮テープ22として、Dunstone社製の収縮率20%のものを使用した。
【0024】
続いて、
図2Bに示すように、中央部20aが支点となるように一方の端部20b側から略中央部20aに亘って成形機(図示せず)で固定し、拡げや曲げ、ねじりといった加工を施して中央部20aを略V字状に成形する。
【0025】
続いて、
図2Cに示すように、成形後の積層体20から熱収縮テープ22を剥がして得られたものを試験体20Aとする。
【0026】
<比較体>
比較体の製造方法においては、熱収縮テープで積層体の中央部を覆う工程と、加熱処理を施す工程と、熱収縮テープを剥がす工程とを省き、これらの工程以外は、試験体20Aとほぼ同様な手順で、
図4に示すように、試験体20Aとほぼ同じV字状に成形し、得られたものを比較体20Bとした。すなわち、直方体形状をなす素線21を複数積層してなる積層体20を成形機で試験体20Aと同様に、拡げや曲げ、ねじりといった加工を施しV字状に成形し、得られたものを比較体20Bとする。
【0027】
<試験方法>
上述の試験体20Aに対し、応力が集中し易く寸法誤差が最も大きくなる箇所であって、中央部に対応するA−A´線に沿う断面にて、高さ方向の大きさおよび幅方向の大きさをそれぞれ計測し、計測結果と設計時の寸法(成形前の寸法)とから寸法誤差を算出した。比較体20Bに対しても、試験体20Aと同様、応力が集中し易く寸法誤差が最も大きくなる箇所であって、中央部に対応するB−B´線に沿う断面にて、高さ方向の大きさおよび幅方向の大きさをそれぞれ計測し、計測結果と設計時の寸法(成形前の寸法)とから寸法誤差を算出した。
【0028】
試験体20Aの寸法誤差は、
図3に示すように、比較体20Bの寸法誤差と比べて、幅(幅方向)および高さ(高さ方向)の何れも小さいことが確認された。すなわち、応力が集中する回転電機用コイルのコイルエンド部のナックル部に対応する箇所を熱収縮テープで覆い、加熱処理した後に、所定の形状に成形し、熱収縮テープを剥がすだけで、現行の製造方法とほとんど変わらないにも関わらず、素線崩れの発生を効果的に抑制することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る回転電機用コイルの製造方法は、現行の製造方法とほとんど変わらないにも関わらず、素線崩れの発生を効果的に抑制することができるので、発電機の固定子絶縁技術のうち、固定子鉄心外部絶縁の空隙を防止する手法、特に、固定子コイルの成形前の空隙防止方法において、産業上、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 回転電機用コイル
10a コイルエンド部
10aa ナックル部
10aaa 外周部
10ab 斜辺部(傾斜部)
10b コイルサイド部
12 熱収縮テープ
14 ステータ
20 積層体
20A 試験体
20B 比較体
20a 中央部
20aa 上面部(外周部)
20ab 側面部(外周部)
20ac 下面部(外周部)
20b 側端部
21 素線(金属板)
22 熱収縮テープ