特許第6127319号(P6127319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6127319
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】ガラス合紙
(51)【国際特許分類】
   B65D 57/00 20060101AFI20170508BHJP
   B65D 85/86 20060101ALI20170508BHJP
   B65D 85/48 20060101ALI20170508BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   B65D57/00 B
   B65D85/38 R
   B65D85/48
   D21H27/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-507848(P2016-507848)
(86)(22)【出願日】2015年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2015057491
(87)【国際公開番号】WO2015137488
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-50853(P2014-50853)
(32)【優先日】2014年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507369811
【氏名又は名称】特種東海製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 慎一
(72)【発明者】
【氏名】平澤 智樹
(72)【発明者】
【氏名】友竹 義明
(72)【発明者】
【氏名】浅井 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 孝之
【審査官】 浅野 弘一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−297661(JP,A)
【文献】 特開2007−131965(JP,A)
【文献】 特開平11−133889(JP,A)
【文献】 特開2001−113464(JP,A)
【文献】 特開2008−143542(JP,A)
【文献】 特開2009−184704(JP,A)
【文献】 特開2009−179379(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136108(WO,A1)
【文献】 特開2013−212939(JP,A)
【文献】 特開2005−256218(JP,A)
【文献】 特開2006−144133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 57/00
B65D 85/30−85/48
B65D 85/86
D21H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材パルプを原料とする、ディスプレイ用のガラス板に使用されるガラス合紙であって、
前記ガラス合紙の表面に存在するモース硬度4以上の異物が1mあたり0.010個未満であるガラス合紙。
【請求項2】
前記異物が金属酸化物又は無機ケイ素酸化物を含む、請求項1に記載のガラス合紙。
【請求項3】
前記無機ケイ素酸化物が二酸化ケイ素である、請求項2に記載のガラス合紙。
【請求項4】
前記異物が、酸化鉄、銅、石英、溶融石英、ガラス片、水晶片、酸化マグネシウム、酸化チタン及び砂からなる群から選択される一つ以上である、請求項1記載のガラス合紙。
【請求項5】
前記異物の体積が2×10−5mm未満である、請求項1乃至4のいずれかに記載のガラス合紙。
【請求項6】
坪量が20〜100g/mである、請求項1乃至5のいずれかに記載のガラス合紙。
【請求項7】
厚みが0.030〜0.130mmである、請求項1乃至6のいずれかに記載のガラス合紙。
【請求項8】
含有水分が2〜10質量%である、請求項1乃至7のいずれかに記載のガラス合紙。
【請求項9】
前記ディスプレイがTFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである請求項1乃至8のいずれかに記載のガラス合紙。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれかに記載のガラス合紙及びガラス板からなる積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の運搬や保管をする過程において、ガラス板を包装する紙、および、ガラス板の間に挟み込む紙(合紙)に関するものである。特に、本発明は、液晶パネルディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ等のフラットパネル・ディスプレイ用のガラス合紙として好適に用いることができる紙に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス板を複数枚積層して保管する過程、トラック等で運搬する流通過程等において、ガラス板同士が衝撃を受けて接触してガラス板の表面に傷又は割れが発生するおそれがある。
【0003】
特にフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板は、一般の建築用窓ガラス板、車両用窓ガラス等に比べて、高精細ディスプレイ用に使用されることから、ガラス表面は傷又は割れが無くクリーンな表面を保持していること、また、高速応答性や視野角拡大のために平坦度に優れていること、が求められる。例えば、ガラス板の表面の傷又は割れが微小なものであっても、当該箇所では素子が形成されない、配線が切断される、等の問題がある。そのため、ガラス表面の傷又は割れを防止する目的でガラス板の間に合紙(ガラス合紙)を挟み込む方法がある。
【0004】
このような用途で使用されるガラス合紙として、ガラス板の割れ又は表面の傷つきを防止できる合紙、また、ガラス表面を汚染しない合紙がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、合紙の表面にフッ素コーティング皮膜を形成する手法が開示されている。また、特許文献2にはポリエチレン系樹脂製発泡シートとポリエチレン系樹脂製フィルムが貼合された合紙が、特許文献3にはさらしケミカルパルプ50質量%以上を含有するパルプからなる紙であって、特定のアルキレンオキサイド付加物や水可溶性ポリエーテル変性シリコーンを含有するガラス用合紙が、特許文献4には、紙中の樹脂分の量を規定し、ガラス表面の汚染対策に考慮した原料を使用したガラス合紙がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−188785号公報
【特許文献2】特開2010−242057号公報
【特許文献3】特開2008−208478号公報
【特許文献4】特開2006−44674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ガラス板の傷、割れ等を防止する目的で合紙を使用しても、これらを完全に防ぐことができるわけではなく、場合によっては、何らかの原因によるガラス板表面の傷、割れ等のため、ガラス板の欠陥率が上昇することがあるのが実状である。
【0007】
特にフラットパネル・ディスプレイ用に使用されるガラス板は、その表面に微少な傷や割れが存在すると断線や短絡が生じる可能性が高まるため、従来のガラス合紙よりもガラス板に与える傷や割れが少ない合紙が求められている。また、ガラス板表面が画像表示面となるため、綺麗さや美麗さも求められ、この点からも傷、割れ等が少ないことが必要となる。そして、これら傷、割れ等によって不良率が上がると採算性の観点からも問題となるため、フラットパネル・ディスプレイ用に使用されるガラス板表面の傷、割れ等をいかに防止するか、いかに高い歩留まりを実現するか、が大きな課題となっている。
【0008】
そこで本発明は、高い傷品位が要求されるフラットパネル・ディスプレイ用の基板材料として用いられるガラス板について、ガラス表面の割れ又は傷を格段に防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例えばTFT液晶ディスプレイの製造工程の一つであるアレイ工程のカラーフィルター基板作製時に、ガラス板表面に割れ、傷等がある場合、断線等の問題が生じるおそれがある。カラーフィルター基板は、ガラス板に半導体膜、ITO膜(透明導電膜)、絶縁膜、アルミ金属膜等の薄膜をスパッタリングや真空蒸着法等で形成して作製されるが、ガラス板表面に割れ、傷等が存在すると薄膜から形成した回路パターンに断線が生じたり、絶縁膜の欠陥による短絡が生じる可能性が高まるからである。また、カラーフィルター基板の作製において、ガラス板にフォトリソグラフィによるパターンを形成するが、この工程でレジスト塗布時のガラス板面に割れ、傷等が存在すると、露光や現像後のレジスト膜にピンホールや部分的な欠陥が生じ、その結果断線や短絡が生じるおそれがある。このようなガラス板の割れ又は傷の原因は特定が困難であったが、ガラス合紙表面に存在する異物のモース硬度とガラス板表面に発生する割れ又は傷に相関があることが本発明者らの検証によって初めて判明した。そして、この異物が微小なものであってもガラス板表面を傷つけ、ガラス板や合紙が動いたりする際に引っ掻き傷となって微細な傷が長く傷跡として残ることが見出された。
【0010】
すなわち、本発明は、木材パルプを原料とするガラス合紙であって、その表面に存在するモース硬度4以上の異物が1mあたり0.010個未満であるガラス合紙に関する。
【0011】
前記異物は金属酸化物又はケイ素酸化物を含むことが好ましい。前記ケイ素酸化物は二酸化ケイ素であることが好ましい。
【0012】
前記異物は、酸化鉄、銅、石英、溶融石英、酸化チタン、ガラス片、水晶片、酸化マグネシウム及び砂からなる群から選択される一つ以上であることがより好ましい。
【0013】
前記異物の体積は2×10−5mm未満であることが好ましい。
【0014】
本発明のガラス合紙の坪量は20〜100g/mであることが好ましい。
【0015】
本発明のガラス合紙の厚みは0.030〜0.130mmであることが好ましい。
【0016】
本発明のガラス合紙の含有水分は2〜10質量%であることが好ましい。
前記ガラスはディスプレイ用であることが好ましい。
【0017】
前記ディスプレイは、TFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイであることが好ましい。
【0018】
本発明は前記ガラス合紙と前記ガラス板との積層物にも関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の合紙をガラス板に用いると、合紙がガラス板表面に接触してもガラス板表面の傷の発生を防止できるため、特にフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板の生産歩留まりを向上させることができる。そして、本発明のガラス合紙はガラス板の傷又は割れの発生を極力抑えることができる。これにより、例えばTFT液晶の製造工程においてカラーフィルム等の回路断線を防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のガラス合紙は、木材パルプを原料とするガラス合紙であって、その表面に存在するモース硬度4以上の異物の存在割合が1mあたり0.010個未満である。ガラス板へ合紙が使用される際に、合紙表面の異物がガラス板に接触して傷をつける傾向があり、特に異物が表面1mあたり0.010個以上存在する合紙をガラス板に使用すると、ガラス板表面に発生する微少な傷又は割れが著しく増加し、その結果、パネル形成時の問題を引き起こすことが今回明らかとなった。なお、「1mあたり0.010個未満」とは、例えばガラス合紙表面500mに存在する異物を検査し、異物の数を単位面積(1m)あたりの個数に換算した数値が0.010個未満、という意味である。
【0021】
本発明のガラス合紙の表面に存在するモース硬度4以上の異物が1mあたり0.010個未満であるとは、本発明のガラス合紙が単独で存在する、すなわち、本発明のガラス合紙がガラス板と積層されていない状態での当該合紙の表面に存在する前記異物の存在割合が1mあたり0.010個未満であるという意味である。但し、本発明のガラス合紙がガラス板と接触又はガラス板に押圧されている状態、すなわち、本発明のガラス合紙がガラス板と積層されている状態で、当該合紙の表面に存在する前記異物の存在割合が1mあたり0.010個未満であることが好ましい。
【0022】
ガラス合紙表面に存在するモース硬度4以上の異物が1mあたり0.010個未満とするためには、原料となるパルプ、製紙用薬品、填料等の製紙用原材料の吟味と管理、および抄造時における原料の調製工程から仕上げ工程まで全般を含む一連の工程管理が重要となるが、特に、合紙の原料となる木材パルプが異物を多く含まないことが重要である。異物の少ない木材パルプを原料として使用することによって、本発明のガラス合紙を製造することができる。
【0023】
一般に、木材パルプ中には種々の異物が含有されている。例えば、木材パルプの原料となる木材由来の異物、パルプ製造時の蒸解薬品に由来する異物や未晒洗浄工程で用いられる薬品に由来する異物、古紙原料由来の金属異物、あるいは各工程で使用される水由来の異物などが原因として挙げられる。そのため、本発明では、ガラス合紙の原料となるパルプの洗浄および精選が重要となり、異物を高レベルで除去する必要がある。
【0024】
一般にパルプ製造の工程では、木材チップを蒸解して得られたパルプを脱リグニン処理した後、パルプを洗浄し、更に漂白する。そこで、まずは木材チップの段階でチップの異物除去および洗浄しておく。例えばチップウォッシャー等の公知の異物除去システムで金属や砂などの異物を除去しておくことが好ましい。また、パルプ製造工程中において、蒸解後の洗浄の目的はパルプ液に残存する蒸解薬液やリグニン分解物や有色成分の除去であるが、同時に異物を除去することも可能である。例えば真空式フィルタ洗浄機、加圧ドラム式フィルタ洗浄機、プレス型洗浄機及びディフューザー洗浄機等の各種洗浄装置を用いた向流洗浄方式等の公知の方法が採用できる。特に、異物を除去しパルプの清浄度を向上させるために、使用する洗浄水の量を増加させたり、2段以上のすすぎ洗浄段数を有する多段洗浄方式とすることが好ましい。なお、洗浄時に用いる界面活性剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、キレート剤、消泡剤等の薬品として、異物の原因となる物質を使用しないことがより好ましい。例えば、消泡剤として用いられる鉱物油系消泡剤はガラス合紙の鉱物系の異物の原因となりうるので、鉱物油系消泡剤の使用量を抑えたり、他の消泡剤で代用することが好ましい。
【0025】
上記洗浄工程の後に漂白工程があり、ここでも異物を極力除去することが好ましい。例えば、漂白段ごとに洗浄装置を設置することが挙げられる。ここでも公知の洗浄機が使用でき、例えばプレッシャーディフューザー、ディフュージョンウォッシャ、加圧型ドラムウォッシャ、水平長網型ウォッシャ、プレス洗浄機等が使用できる。特にこれらを複数使用することで各種の異物を高度に除去することができる。なお、洗浄水にはアルカリ、酸、キレート剤、界面活性剤、消泡剤等の薬品を添加することもできるが、異物の原因となるものは使用しない方が好ましい。また、各工程間においても異物の混入を防止する策を講じることが好ましい。また、後述する鉄分の除去方法を組み合わせることが更により好ましい。
【0026】
本発明において古紙パルプを原料として使用する場合は、古紙パルプ製造工程において、パルパーやスクリーンやクリーナー等で金属等の異物を高レベルで除去することが好ましい。
【0027】
次に、合紙に異物が混入する原因としては抄紙工程での混入がある。例えば、製紙用薬品に混入する場合や各種装置の素材が脱落して紙に混入する場合等が挙げられる。このような抄紙工程の異物の除去方法として、クリーナーやスクリーン装置等の除塵装置やその他洗浄装置を用いるとよい。本発明において、これらの除去方法には公知の装置が使用でき、例えば、遠心クリーナー、特重量クリーナー、中濃度クリーナー、軽量クリーナー、ホールスクリーン、スリットスクリーン、ヤンソンスクリーン、フラットスクリーン、その他洗浄機等が使用できる。また、紙料や白水の配管内からも異物が混入する可能性があるので、配管等を常に清浄に保つとよい。
【0028】
なお、異物の原因の一つである鉄分は、パルプ製造装置や抄紙機の配管等から摩擦や腐食によって鉄粉や鉄錆が混入し酸化することによってモース硬度が高い酸化鉄となるので、鉄分を選択的に除去することが好ましい。例えば、各設備を鉄以外の素材からなるものを採用したり、系内に磁石等の高磁性体を設置して選択的に鉄分を除去したり、鉄を選択的に吸着する吸着材を前記各設備の出口側に配することが好ましい。高磁性体設置による選択的な除去方法は、鉄だけでなくその他磁性体の除去も可能となる。
【0029】
なお、本発明において使用可能な木材パルプは、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプを単独あるいは混合したものを用いる。原料の木材は、特に異物を多く含まないような産地や樹種を選定することが好ましい。これら木材パルプを主体とし、必要に応じてこれに麻、竹、藁、ケナフ、楮、三椏や木綿等の非木材パルプ、カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル等の合成繊維や化学繊維、またはミクロフィブリル化パルプを単独で、あるいは混合して併用することができる。ただし、パルプ中に樹脂分が多く含まれると、当該樹脂分がガラス板表面を汚す等の悪影響を及ぼす可能性があるので、できるだけ樹脂分の少ない化学パルプ、例えば針葉樹晒クラフトパルプを単独で使用することが好ましい。また、砕木パルプのような高収率パルプは、樹脂分が多く含まれるので好ましくない。なお、合成繊維や化学繊維を混合させると削刀性が向上し、合紙を平版にする際の作業性が向上するが、廃棄物処理の面においてリサイクル性が悪くなるので注意が必要である。
【0030】
また、本発明の性能を損なわない範囲で、上記した木材パルプを主体とした製紙用繊維に対して、必要に応じて接着剤、防黴剤、各種の製紙用填料、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、サイズ剤、着色剤、定着剤、歩留まり向上剤、スライムコントロール剤等を添加することができる。この製紙用繊維等を公知・既存の長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、長網と円網のコンビネーション抄紙機等で抄造して本発明のガラス合紙を得ることができる。ただし、本発明は異物によるガラスの傷又は割れを防ぐ必要があるため、可能な限り前記の薬品や填料を添加しないことが好ましい。例えば、酸化チタン等の製紙用填料はモース硬度が高く、適さない。
【0031】
本発明のガラス合紙を製造する際に、木材パルプの叩解を進めると紙層間強度が増す効果が期待できる。しかしながら、叩解を進めることによって木材パルプ中の微細繊維が増加すると、合紙として使用中に紙粉が発生する恐れがあるので、必要以上に叩解度を進めることは好ましくない。よって本発明において好ましい叩解度は300〜650mlc.s.f.である。
【0032】
本発明においては、さらに、ガラス合紙の表面に存在するモース硬度4以上の異物の量が、1mあたり0.005個未満であることが好ましく、1mあたり0.003個未満がより好ましく、1mあたり0.001個未満が更により好ましい。1mあたり0.005個以上の量の異物が存在する場合、携帯端末など非常に高精細なディスプレイを必要とする場面において、ガラス表面に発生した傷又は割れが要因で発生するカラーフィルムの断線箇所が高精彩であるが故に目立ち、品質不良と判断されるおそれがあるからである。
【0033】
本発明のガラス合紙は、抄造の途中および/または製造後でカレンダー処理、スーパーカレンダー処理、ソフトニップカレンダー処理、エンボス等の加工を行っても構わない。加工処理により、表面性や厚さを調整することができる。
【0034】
本発明におけるモース硬度4以上の異物としては、無機系又は有機系のいずれの物質からなる粒子であってよく、無機系粒子が好ましい。前記異物としては、例えば、モース硬度4以上の金属酸化物又は無機ケイ素酸化物が挙げられる。金属酸化物を構成する金属は、その酸化物のモース硬度が4以上であれば特に限定されるものではなく、例えば、マグネシウム等の第2族元素の元素、チタン等の第4族元素、鉄等の第8族元素が挙げられる。無機ケイ素酸化物としては、二酸化ケイ素が好ましい。前記モース硬度4以上の異物としては、例えば、酸化鉱物が挙げられる。前記モース硬度4以上の異物としては、特に、酸化鉄、銅、石英、溶融石英(石英ガラス)、酸化チタン、ガラス片、水晶片、酸化マグネシウム、砂等が挙げられる。砂は、主に、モース硬度5.5の角閃石、モース硬度6の長石及びモース硬度7の石英からなる。したがって、砂のモース硬度は4以上であり、典型的には7である。モース硬度とは、硬さの指標を10段階で表したものであり、それぞれに対応する標準物質と測定する物質とを擦り、傷がつくかどうかで標準物質に対する硬さの大小を相対的に評価した値である。標準物質は、柔らかいもの(モース硬度1)から硬いもの(モース硬度10)の順に、1:滑石、2:石膏、3:方解石、4:蛍石、5:燐灰石、6:長石、7:石英、8:トパーズ、9:コランダム、10:ダイヤモンドである。モース硬度の測定方法は、表面の平滑なモース硬度既知の板2枚を用意し、測定したい異物を2枚の板の間に挟み、両方の板をこすり合わせて板表面の傷の発生有無を調べる。
【0035】
当該異物としてガラス合紙に含まれやすく、そのうちガラス板表面に傷を付ける可能性のあるものとしては、原材料に由来するものが多く、特にモース硬度7の石英、溶融石英、砂および水晶片、モース硬度6の酸化マグネシウム、酸化チタンおよび酸化鉄、モース硬度5〜8の銅、モース硬度4〜7のガラス片である場合が多い。
【0036】
本発明では、異物の体積は0.00002mm未満に制御することが好ましく、0.00001mm未満がより好ましい。異物は汚れとは異なり、立体物として合紙の表面や内部に存在して問題を引き起こす。特に、異物の大きさが0.00002mm以上になると、当該ガラス合紙を使用した際に異物がガラス板表面と接触して傷又は割れを残す可能性が高くなる傾向にある。例えば、ガラス合紙とガラス板を積層した際に、ガラス板の重量によって合紙表面に存在する異物が押圧される場合があるが、異物の大きさが小さければ押圧されても合紙の紙中に異物が埋没するのでガラス板表面に傷をつける可能性が下がる。なお、異物は上記したように立体物であるので、特にその投影面積が小さくても高さのある場合には、ガラスやガラス合紙が動く際に発生するひっかき傷として目視できるような傷を残すおそれがある。逆に、その高さが低くても投影面積が大きい場合は、ガラス板の表面に傷をつけるおそれがあるのでやはり好ましくない。
【0037】
前記異物は、球体積相当径の平均粒径が30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更により好ましく、5μm以下であることが更により好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。球体積相当径とは、異物の粒子を同体積の球に換算した場合の当該球の直径であり、レーザー回折法等によって測定することができる。
【0038】
本発明のガラス合紙はガラス板の間に挿入または包装されて使用される。例えば、本発明のガラス板合紙は複数のガラス板の間に、典型的には、1枚ずつ挿入され、全体として、積層体とされ、当該積層体が保管、運搬の対象となる。
【0039】
ガラス板としては特に限定されるものではないが、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイパネル(特にTFT液晶ディスプレイパネル)、有機ELディスプレイパネル等のフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板であることが好ましい。フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板の表面には微細な電極、隔壁等が形成されるが、本発明のガラス合紙を使用することにより、ガラス板の表面の傷又は割れが抑制乃至回避されるので、ガラス板の表面に微細な電極、隔壁等が形成されても、傷又は割れによる不都合を抑制乃至回避することができ、結果的に、ディスプレイの欠陥を抑制乃至回避することができる。
【0040】
特に、ディスプレイの大型化に伴い、フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板のサイズ及び重量は増大しているが、本発明のガラス合紙はそのような大型乃至大重量のガラス板の表面を良好に保護することができる。特に、本発明のガラス合紙の表面には硬度の高い異物が極めて少ないので、大重量のガラス板によって押圧されても異物がガラス板表面に傷をつけることが抑制乃至回避される。したがって、本発明のガラス合紙は、表面の傷品位や清浄性が特に求められるフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板に好適に使用することができる。
【0041】
以上の構成において提供される本発明のガラス合紙は、特にフラットパネル・ディスプレイ基板用ガラス板に使用すれば非常に好適である。
【0042】
すなわち、フラットパネル・ディスプレイ基板用ガラス板は、その表面上に配向膜等の所望の膜が形成されるため、傷の防止が大きく要求されると共に、そのガラス表面が画像表示面となるため、綺麗さや美麗さも要求され、更には外国市場に輸出されることがあるため、長期輸送や長期保管に耐え得ることも要求される。これについて、本発明を使用した場合、長期に亘ってガラス合紙とガラス板とが接触していても、ガラス板表面の傷が生じず、さらにはガラス板とのブロッキングも生じないため、上記の各要求に的確に応じることができるのである。
【0043】
本発明のガラス合紙は、坪量が20〜100g/mであることが好ましく、30〜90g/mがより好ましく、40〜80g/mが更により好ましい。20g/m未満であると、最低限の透気抵抗度(5秒以上)が保ちにくくなり、ガラス板に使用後にガラス合紙のみを吸引除去する際にガラス板本体まで吸引してしまうおそれが生じる。さらには、20g/m未満であるとガラス合紙自体の腰が弱くなり、ハンドリング性も悪くなるので好ましくない。また坪量が100g/mを超えると、ガラス合紙としてのしなやかさが損なわれハンドリング性が悪くなる。また、ガラス合紙は使用されるガラス板の運搬、保管中の保護や傷、汚れ防止を目的として使用されているので、必要以上に坪量を大きくすることはコスト面で不利となり、作業性も低下する。
【0044】
本発明のガラス合紙の厚さは0.030〜0.130mmであることが好ましく、0.040〜0.120mmがより好ましく、0.050〜0.110mmが更により好ましい。0.030mm未満であると使用されるガラス板の運搬、保管中の保護効果が減少するので好ましくない。特に、合紙としての緩衝機能を充分に発揮することが困難となり、また厚みが薄すぎることに起因して、破れやすくなるおそれもある。また0.130mmを超えると、ガラス板とガラス合紙との積層物の厚さが増すために、保管スペースや運搬上の問題等の発生が予測される。
【0045】
本発明のガラス合紙の含有水分は2〜10質量%であることが好ましく、3〜9質量%がより好ましく、4〜8質量%が更により好ましい。含有水分が2質量%未満であるとガラス合紙自体が静電気を帯びやすくなり、ガラス板との間で静電気によるブロッキング現象が発生するため好ましくない。また、含有水分が10質量%を超えると、水分過多によるガラス板とのブロッキング現象や、使用時の水分減少により寸法安定性が悪くなるおそれがある。
【0046】
本発明のガラス合紙の表面電気抵抗値(JIS K 6911 1995年に準拠)は、当該合紙を温度が23℃、相対湿度が50%の条件で24時間以上調湿したあとに、同条件下で測定したとき、1×10〜1×1013Ωの範囲内であることが好ましく、5×10〜5×1012Ωの範囲内がより好ましく、1×10〜1×1012Ωの範囲内が更により好ましい。表面電気抵抗値が1×10Ω未満では、ガラス板と合紙の密着性が低下するため、ハンドリング性が悪くなるおそれがある。更に、表面電気抵抗値が1×10Ω未満ということは、必要以上に水分や導電性物質(例えば界面活性剤)が添加されたことを意味する。過剰の水分はガラス合紙の寸法安定性に悪影響を及ぼす可能性があり、また、導電性物質の多くは有機性の物質であるため接触するガラス板表面にこれらの物質が移行して汚れ等の問題を引き起こす恐れがある。一方、ガラス合紙の表面電気抵抗値が1×1013Ωを越えるような高抵抗値になると、静電気を帯びやすくなり、接触するガラス板表面に合紙が密着してハンドリング性を著しく阻害するおそれがある。表面電気抵抗値を所望の範囲に調節する方法としては、例えば、乾燥等による水分調整が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0048】
(1)ガラス表面に発生する傷の評価
サイズ1500mm×1800mm×0.7mmの液晶ディスプレイ用ガラス基板とガラス合紙を交互に100枚ずつ積層した。この積層体上下に同サイズで厚さ1mmのアクリル板を挟み、積層体全体をゴム紐で縛り固定し、これを振とう機に供し、300rpmで24時間振とうした。その後、ゴム紐を解いてガラスの側面から光を当て、100枚のガラス板の表裏面において傷が存在するか顕微鏡を用いて確認した。
【0049】
(2)ガラス合紙の異物調査
前記「(1)ガラス表面に発生する傷の評価」において傷の確認がなされたガラス板に貼付されていたガラス合紙を抜き取り、ガラス表面の傷発生の原因となった異物を100倍の実体顕微鏡にて探し、さらにX線解析顕微鏡を使用して当該異物の材質を特定した。異物の大きさを測定して体積を計算し、次にX線解析顕微鏡を使用して当該異物の材質を特定した。
【0050】
[木材パルプの製造]
蒸解工程と、洗浄工程と、酸素脱リグニン反応工程と、二酸化塩素及び過酸化水素による多段晒漂白工程とからなる針葉樹晒クラフトパルプの製造装置において、多段晒漂白工程後のパルプ移送ラインに、10000ガウスのマグネットバーを複数配列した金属除去装置を設け、パルプスラリー中に存在する鉄分等の金属異物を除去した。以上の工程により針葉樹晒クラフトパルプAを得た。
【0051】
また、前記のマグネットバーを配したインラインボックスを不使用とした以外は前記と同様に製造した針葉樹晒クラフトパルプBを得た。
【0052】
[実施例1]
木材パルプとして針葉樹晒クラフトパルプAを100質量部用意し、これを離解して叩解度を520mlc.s.f.に調製したスラリーに紙力増強剤としてポリアクリルアミド(商品名:ポリストロン1250、荒川化学工業社製)を全パルプ質量に対して0.4質量部添加し、0.4%濃度のパルプスラリーを調成した。これを、長網抄紙機を使用して、坪量50g/mのガラス合紙を得た。
【0053】
[比較例1]
針葉樹晒クラフトパルプBを100質量部使用した以外は実施例1と同様の手法、坪量50g/mのガラス合紙を得た。
【0054】
[比較例2]
針葉樹晒クラフトパルプAを50質量部と針葉樹晒クラフトパルプBを50質量部とした以外は実施例1と同様の手法、坪量50g/mのガラス合紙を得た。
【0055】
[実施例2]
針葉樹晒クラフトパルプAを90質量部と古紙パルプ10質量部とした以外は実施例1と同様の手法、坪量50g/mのガラス合紙を得た。
【0056】
[実施例3]
針葉樹晒クラフトパルプAを80質量部と針葉樹晒クラフトパルプBを20質量部とした以外は実施例1と同様の手法、坪量50g/mのガラス合紙を得た。
【0057】
[比較例3]
針葉樹晒クラフトパルプAを50質量部と砕木パルプを50質量部とした以外は実施例1と同様の手法、坪量50g/mのガラス合紙を得た。
【0058】
[比較例4]
針葉樹晒クラフトパルプAを30質量部と古紙パルプを70質量部とした以外は実施例1と同様の手法、坪量50g/mのガラス合紙を得た。
【0059】
実施例及び比較例で得たガラス合紙の異物について表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例及び比較例で得たガラス合紙を輸送テストにて確認したところ、実施例1および実施例2のガラス合紙を用いたガラス板の表面に傷又は割れが全く観察されなかった。実施例3は微少な傷が僅かに確認された。実施例1〜3で使用したガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際に、いずれもカラーフィルムの断線が認められなかった。一方、比較例1〜4の合紙を用いたガラス板の表面には、それぞれ微少な傷が複数確認された。これら比較例1〜4で使用したガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際には、いずれもカラーフィルムの断線が認められた。
【0062】
以上の結果から、本発明のガラス合紙は、モース硬度4以上の異物が1mあたり0.010個未満であるので、該合紙をガラス板に使用してもガラス板表面の問題となる傷又は割れを発生させることなく好適に合紙としての機能を果たすことができ、その結果、液晶パネルのアレイ形成を好適に行うガラス板を製造することが可能となる。