(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両や産業用ロボット等において、電線やチューブなどの線材を束ねて配策することがある。このような場合、その配策設計等のために、線材を束ねたときの束ね径を求める必要がある。なお、束ね径とは、複数本の線材を束ねたときに、断面視で、束ねた複数本の線材に外接する仮想的な外接円の直径をいう。
【0003】
従来の線材の束ね径計算方法として、特許文献1がある。
【0004】
特許文献1では、径の異なる線材の束ね径を求める際に、断面積が等しくなる同径の線材のみを束ねたときの束ね径を、構成線材の径ごとに求め、求めた構成線材の径ごとの束ね径を、各径の構成線材の断面積比で加重平均し、さらにその加重平均した値に整列補正係数を乗じることで、束ね径を求める方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1では、換言すれば、異径円充填問題を構成円それぞれの径において同断面積となる構成円数の同径円充填問題として置き換え、その加重平均の結果を正規充填ができない異径円充填問題の解としていることになる。しかしながら、なぜこのようなことが成り立つのか根拠が明確でなく、論理の飛躍がある。
【0007】
また、特許文献1では、実験により求められる整列補正係数という恣意的な補正係数を乗じており、線材の本数や径などの条件が大きく異なる場合に、正確な束ね径が求められるか不明である。
【0008】
さらにまた、特に径の異なる多数の線材を束ねる場合に、線材を常に同じ配列で束ねることは困難であり、実際の束ね径はある確率分布をもつ。しかしながら、特許文献1では、このような確率分布(つまり、束ね径の確率密度分布)を求めることはできない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、線材束の束ね径の確率密度分布を精度良く求めることが可能な線材束の束ね径計算方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、複数本の線材を束ねた線材束の束ね径を求める線材束の束ね径計算方法であって、前記複数本の線材の断面形状を模した複数の円をランダムに配置し、当該複数の円を集束させたときの外接円の径から束ね径を求めることを繰り返し、束ね径の確率密度分布を求める線材束の束ね径計算方法である。
【0011】
前記線材束を構成する前記複数本の線材として、径が異なるものを用いていてもよい。
【0012】
束ね円内に前記複数の円をランダムに配置した後、前記束ね円の径を単位長さ小さくし、前記束ね円を含む全ての円について干渉判定を行い、干渉している円を干渉が無くなる方向に移動させることを繰り返し、干渉判定にて干渉があると判定した回数が予め設定した規定回数に達したときの前記束ね円の径から、前記外接円の径を求め、束ね径を求めてもよい。
【0013】
また、本発明は、複数本の線材を束ねた線材束の束ね径を求める線材束の束ね径計算装置であって、前記複数本の線材の断面形状を模した複数の円をランダムに配置し、当該複数の円を集束させたときの当該複数の円の外接円の径から束ね径を求める束ね径シミュレート部と、該束ね径シミュレート部により束ね径を求めることを繰り返し、束ね径の確率密度分布を求める束ね径確率密度分布演算部と、を備えた線材束の束ね径計算装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、線材束の束ね径の確率密度分布を精度良く求めることが可能な線材束の束ね径計算方法および装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0017】
本実施の形態に係る線材束の束ね径計算方法は、径の異なる複数本の線材を束ねた線材束の束ね径を求める方法である。ここで、束ね径とは、複数本の線材を束ねたときに、断面視で、束ねた複数本の線材に外接する仮想的な外接円の直径をいう。また、本明細書において径という語句は直径を表している。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る線材束の束ね径計算方法のフロー図である。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係る線材束の束ね径計算方法では、まず、干渉回数mと繰り返し数nに初期値0を代入した後(ステップS1)、束ね円を定義し(ステップS2)、束ね円内に、線材束を構成する複数本の線材の断面形状を模した複数の円をランダムに配置する(ステップS3)。
【0020】
図2に示すように、束ね円21は、線材の断面形状を模した円22を有限回の操作でランダムに配置できる程度の径に予め設定される。円22は、対応する線材の径と同じ径に設定される。本実施の形態では、線材束を構成する複数本の線材として、径が異なるものを用いる場合を説明する。この場合、異なる径の円22が束ね円21内にランダムに配置されることになる。
【0021】
その後、束ね円21の径を単位長さ(例えば1mm)小さくする(ステップS4)。ここでいう「単位長さ」は、要求される精度に応じて任意に設定可能である。「単位長さ」を小さくするほど、束ね径を精度良く求めることができるが、演算にかかる時間は長くなる。
【0022】
ステップS4で束ね円21の径を単位長さ小さくした後、束ね円21と円22、および円22同士の距離を算出し(ステップS5)、算出した距離が0以下であるかを判定する(ステップS6)。つまり、束ね円21を含む全ての円21,22について干渉判定(接触判定)を行う。
【0023】
ステップS6でNOと判定された場合、すなわち円21,22の干渉が存在しない場合は、ステップS4に戻る。ステップS6でYESと判定された場合、すなわち円21,22の干渉が存在する場合は、ステップS7に進み、干渉している円21,22を干渉が無くなる方向に移動させる。本実施の形態では、干渉している2つの円21,22の両方の中心を通る直線に沿った方向に円21,22を移動させるようにした。
【0024】
より具体的には、例えば、
図3(a)に示すように、束ね円21と円22が干渉した場合には、円21,22の両方を通る直線Aに沿って、円22を束ね円21の内側に、束ね円21をその逆方向に移動させる。つまり、束ね円21と円22が干渉した場合には、両円21,22の中心同士が近づく方向に円21,22を移動させる。両円21,22を移動させる距離は、適宜設定可能であるが、例えば、ステップS4における単位長さの1/4の長さに設定することができる。両円21,22を移動させる距離をステップS4における単位長さの1/4の長さとした場合、束ね円21と円22間の距離は、束ね円21の径を単位長さ小さくする前と同じ距離に戻り、かつ、束ね円21の内側に円22が移動した状態になる。
【0025】
他方、円22同士が干渉した場合には、
図3(b)に示すように、両円22,22の両方の中心を通る直線Bに沿って、両円22,22の中心同士が遠ざかる方向に円22,22を移動させる。両円22,22を移動させる距離は、適宜設定可能であるが、例えば、束ね円21と円22が干渉した場合と同様に、ステップS4における単位長さの1/4の長さに設定することができる。
【0026】
その後、ステップS8にて、干渉回数mが規定回数以上であるか判定する。ステップS8でNOと判定された場合、ステップS9で干渉回数mをインクリメントした後、ステップS5に戻る。
【0027】
つまり、円21,22の干渉がなくなるまでステップS5〜S8を繰り返し、全ての円21,22で干渉がなくなったら束ね円21の径を小さくする(ステップS6からステップS4に戻る)、ということを、干渉回数mが規定回数に達するまで繰り返す。その結果、束ね円21の径は徐々に小さくなり、円22が徐々に集束されていくことになる。
【0028】
干渉回数mは、ステップS6でYESと判定された回数、すなわち、干渉があると判定した回数(円21,22を移動させた回数)であり、本実施の形態では、この干渉回数mが予め設定した規定回数に達したときに、束ね円21が円22と干渉しない最小の径となり、円22が集束したと判定する。ステップS8における規定回数は、ステップS4における単位長さを考慮し、円22が十分に収束できる程度の回数に適宜設定すればよい。干渉回数mが規定回数に達すると、ステップS8にてYESと判定され、ステップS10に進む。このとき、束ね円21は集束した円22の外接円となっており、この束ね円21の径が線材を束ねた線材束の外接円の径、すなわち束ね径となる。
【0029】
ステップS10では、ステップS8でYESと判定された時点の束ね円21の径を束ね径として保存(記憶)し、ステップS11に進む。
【0030】
ステップS11では、繰り返し数nが規定回数以上かを判定する。ステップS11でNOと判定された場合、ステップS12にて繰り返し数nをインクリメントし干渉回数mを0に初期化した後、ステップS3に戻り、再度束ね径の演算を開始する。つまり、複数本の線材の断面形状を模した複数の円22をランダムに配置し、当該複数の円22を集束させたときの外接円(束ね円21)の径から束ね径を求めることを、繰り返し数nが規定回数に達するまで繰り返す。
【0031】
ステップS11における規定回数は、束ね径を何回演算するかを意味し、束ね径の標本数となるので、標本数が統計的に有意な数となるように、適宜設定するとよい。繰り返し数nが規定回数に達すると、ステップS11にてYESと判定され、ステップS13に進む。
【0032】
ステップS13では、ステップS10で記憶した束ね径のデータを用いて束ね径の確率密度分布を求め、計算結果を確率密度分布としてモニタなどの表示器に表示する。その後、処理を終了する。
【0033】
次に、本実施の形態に係る線材束の束ね径計算方法を実施する線材束の束ね径計算装置について説明する。
【0034】
図4に示すように、線材束の束ね径計算装置41は、複数本の線材の断面形状を模した複数の円22をランダムに配置し、当該複数の円22を集束させたときの外接円の径から束ね径を求める束ね径シミュレート部42と、束ね径シミュレート部42により束ね径を求めることを繰り返し、束ね径の確率密度分布を求める束ね径確率密度分布演算部43と、モニタなどの表示器49と、を備えている。束ね径シミュレート部42や束ね径確率密度分布演算部43は、パーソナルコンピュータ等の演算装置に搭載され、CPU、ソフトウェア、インターフェイス、メモリ等を適宜組み合わせて実現される。
【0035】
束ね径シミュレート部42は、線材束を構成する線材の本数や各線材の径を入力する入力部44と、束ね円21内に各線材の断面形状を模した複数の円22をランダムに配置した後、束ね円21の径を単位長さ小さくし、束ね円21を含む全ての円21,22について干渉判定を行い、干渉している円21,22を干渉が無くなる方向に移動させることを繰り返し、干渉判定にて干渉があると判定した回数が予め設定した規定回数に達したときの束ね円21の径から束ね径を求める(つまり上述のステップS2〜S10を実行する)束ね径演算部45と、束ね径演算部45で求めた束ね径を記憶する記憶部46と、を備えている。
【0036】
束ね径確率密度分布演算部43は、束ね径シミュレート部42の束ね径演算部45を制御して、予め設定された繰り返し数nの規定回数束ね径の演算を行わせると共に、記憶部46に記憶された束ね径の演算結果から、束ね径の確率密度分布を演算する確率密度分布演算部47と、確率密度分布演算部47で演算した束ね径の確率密度分布を表示器49に出力する出力部48と、を備えている。
【0037】
なお、ここでは干渉回数mの規定回数や繰り返し数nの規定回数として、予め設定した値を用いているが、例えば、両規定回数として入力値を用いるよう構成することも勿論可能である。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態に係る線材束の束ね径計算方法では、複数本の線材の断面形状を模した複数の円22をランダムに配置し、当該複数の円22を集束させたときの外接円の径から束ね径を求めることを繰り返し、束ね径の確率密度分布を求めている。
【0039】
実際に線材を束ねる操作を模擬したシミュレーションを統計的に有意な標本数となるまで繰り返すことにより、近似的な確率密度分布を得ることができる。つまり、本発明によれば、線材束の束ね径の確率密度分布を精度良く求めることが可能になる。
【0040】
また、束ね径の確率密度分布を得ることで、線材束の最小径、最大径を予測することが可能になり、線材束の配策設計において有益なデータを得ることが可能になる。
【0041】
ここで、本発明により実際に求めた線材束の最小径と、従来技術(特許文献1の技術)により求めた束ね径を比較した結果を
図5に示す。なお、
図5における横軸は物理量ではなく、束ねる線材の本数や径などが異なるケースを並べて表示している。
【0042】
図5に示すように、従来技術により求めた束ね径は、本発明により求めた線材束の最小径よりもさらに小さい値となっている。本発明では実際に線材を束ねる操作を模擬しており信頼性が高いといえるが、従来技術により求めた束ね径は本発明で求めた最小径よりもさらに小さい値となっており、無視できない誤差が存在していると言える。線材束の配策設計時に実際よりも小さい径で設計を行ってしまうと、実際に配策を行う際に配策できない場合も考えられることから、本発明では、従来と比較してより安全側の配策設計が可能になっているといえる。
【0043】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。