特許第6127453号(P6127453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6127453
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】円筒型タンクの構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 7/06 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
   E04H7/06 302
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-244690(P2012-244690)
(22)【出願日】2012年11月6日
(65)【公開番号】特開2014-92004(P2014-92004A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】塩見 洋志
(72)【発明者】
【氏名】勝山 範之
(72)【発明者】
【氏名】内山 尋雄
(72)【発明者】
【氏名】奈雲 悟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雅樹
【審査官】 多田 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−253196(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/137671(WO,A1)
【文献】 特開平04−370797(JP,A)
【文献】 特開昭61−233177(JP,A)
【文献】 特開2004−144223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/18、7/06
B65D 88/00−90/66
F17C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の内槽とコンクリート製の外槽とを有する円筒型タンクの構築方法であって、
前記外槽の底部の外周縁部で前記外槽の側壁を組み上げていく工程と、
前記外周縁部以外の前記外槽の底部上で前記外槽の屋根部を組み立てる工程と、
前記外槽の側壁の組み上げ途中で、前記外槽の底部上にある前記外槽の屋根部をジャッキアップ装置により上昇させ、前記外槽の側壁に保持させる工程と、
前記上昇により生じた前記外槽の屋根部の下方の空間で、前記ジャッキアップ装置による内槽側板の上昇と、前記上昇した内槽側板の下側への次の内槽側板の取り付けと、を交互に繰り返すことで、前記外槽の屋根部と独立して前記内槽を組み立てる工程と、を有し、
前記ジャッキアップ装置による前記外槽の屋根部の上昇と、前記内槽の組み立て時における前記ジャッキアップ装置による前記内槽側板の上昇とが、個々に繰り返し行われる、ことを特徴とする円筒型タンクの構築方法。
【請求項2】
前記外槽の屋根部を前記外槽の側壁に保持された状態で組み立てる工程を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の円筒型タンクの構築方法。
【請求項3】
前記外槽の側壁は、外槽側板を内側型枠としてコンクリートを打設することにより組み上げられ、
前記外槽側板に予め開口部を形成する工程と、
前記コンクリートに埋め込まれるアンカーが接続されたアンカー部を前記開口部に取り付ける工程と、
前記開口部に取り付けられた前記アンカー部を介してジャッキアップ装置を支持させる工程と、を有する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の円筒型タンクの構築方法。
【請求項4】
前記外槽の側壁の組み上げ後、前記外槽の側壁の頂部にジャッキアップ装置を設け、前記外槽の屋根部を上昇させる工程と、
前記外槽の側壁の内周面に突起部を設け、前記外槽の屋根部の上昇する高さを規制する工程と、
前記突起部により高さを規制された前記外槽の屋根部を前記外槽の側壁の内周面にカプラーを介して取り付ける工程と、を有する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の円筒型タンクの構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒型タンクの構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内槽と外槽とを有する構造の円筒型タンクは、LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)等の低温液体の貯蔵に用いられている。特許文献1には、金属製の内槽とPC(プレストレストコンクリート)製の外槽とを有する円筒型タンクの構築方法が開示されている。
【0003】
この円筒型タンクの構築方法では、先ずコンクリートにより形成された底部から、外槽となるPC側壁を立ち上げ、底部上において組み立てた屋根をエアレイジングし、外槽屋根をPC壁の頂部に据え付ける。その後、底部にアニュラー部を敷設し、アニュラー部上に内槽を立ち上げる。内槽は、PC壁の工事口から搬入した複数の内槽側板を環状に溶接し、それを最下段から最上段まで順々に溶接していくことにより組み立てる。そして、底部上に保冷材を敷設すると共に内外槽間に保冷材を充填することで、LNG等を保冷する機能を有する円筒型タンクを構築している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−353319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、このような円筒型タンクの工期の短縮化が求められている。上記従来技術では、外槽の側壁を立ち上げてから、エアレイジングにより外槽の側壁に外槽屋根を据え付け、その後、内槽を立ち上げていくため、各作業がクリティカルパスとなっており、円筒型タンクの工期の短縮化を十分に図ることができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、工期の短縮化を図ることのできる円筒型タンクの構築方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、金属製の内槽とコンクリート製の外槽とを有する円筒型タンクの構築方法であって、前記外槽の底部の外周縁部で前記外槽の側壁を組み上げていく工程と、前記外周縁部以外の前記外槽の底部上で前記外槽の屋根部を組み立てる工程と、前記外槽の側壁の組み上げ途中で、前記外槽の底部上にある前記外槽の屋根部をジャッキアップ装置により上昇させ、前記外槽の側壁に保持させる工程と、前記上昇により生じた前記外槽の屋根部の下方の空間で、前記外槽の屋根部と独立して前記内槽を組み立てる工程と、を有する、という手法を採用する。
この手法を採用することによって、本発明では、外槽の底部の外周縁部で外槽の側壁を組み上げつつ、それと並行して外周縁部以外の外槽の底部上で外槽の屋根部を組み立てる。そして、外槽の屋根部をある程度組み立てたら、ジャッキアップ装置により上昇させて組み上げ途中の外槽の側壁に保持させ、外槽の屋根部の下方に内槽を組み立てるための空間を確保する。これにより、本発明では、外槽の側壁の組み上げ、及び外槽の屋根部の組み立て、及び内槽の組み立ての同時並行作業が可能となるため、工期の大幅な短縮化が可能となる。
【0008】
また、本発明においては、前記外槽の屋根部を前記外槽の側壁に保持された状態で組み立てる工程を有する、という手法を採用する。
この手法を採用することによって、本発明では、外槽の屋根部を最終的に外槽の側壁の頂部に据え付ける前に、外槽の側壁の中段に保持された状態で外槽の屋根部を予め完成の手前(例えば屋根コンクリート打設のための鉄筋作業を含む)まで組み立てる。これにより、本発明では、外槽の側壁の組み上げが完成した後、その頂部へ外槽の屋根部を据え付けて、外槽を速やかに完成させることが可能となる。
【0009】
また、本発明においては、ジャッキアップ装置による内槽側板の上昇と、前記上昇した内槽側板の下側への次の内槽側板の取り付けと、を交互に繰り返すことで、前記内槽を組み立てる工程を有する、という手法を採用する。
この手法を採用することによって、本発明では、内槽側板をジャッキアップ装置により上昇させつつ、順次その下に内槽側板を継ぎ足していくことで、内槽側板の継ぎ足しが低位置となり、外槽の側壁の中段に保持されている外槽の屋根部との干渉を避けつつ、低所での安全な内槽の組み立て作業が可能となる。
【0010】
また、本発明においては、前記外槽の側壁は、外槽側板を内側型枠としてコンクリートを打設することにより組み上げられ、前記外槽側板に予め開口部を形成する工程と、前記コンクリートに埋め込まれるアンカーが接続されたアンカー部を前記開口部に取り付ける工程と、前記開口部に取り付けられた前記アンカー部を介してジャッキアップ装置を支持させる工程と、を有する、という手法を採用する。
この手法を採用することによって、本発明では、ジャッキアップ装置は外槽の屋根部を上昇させる際には該屋根部の重量を支え、また、内槽側板を上昇させる際には該内槽側板の重量を支える。このジャッキアップ装置にかかる荷重を外槽の側壁で受けさせるために、外槽側板に予め開口部を設けておき、該開口部にアンカー部を取り付けて、外槽側板と一体とする。これにより、外槽側板の板厚を厚くする等してジャッキアップ装置を支える強度を確保する必要がなく、外槽側板の板厚を必要最小限にしつつ、必要なアンカー点を確保することができる。
【0011】
また、本発明においては、前記外槽の側壁の組み上げ後、前記外槽の側壁の頂部にジャッキアップ装置を設け、前記外槽の屋根部を上昇させる工程と、前記外槽の側壁の内周面に突起部を設け、前記外槽の屋根部の上昇する高さを規制する工程と、前記突起部により高さを規制された前記外槽の屋根部を前記外槽の側壁の内周面にカプラーを介して取り付ける工程と、を有する、という手法を採用する。
この手法を採用することによって、本発明では、外槽の側壁の中段に保持されていた外槽の屋根部を引き上げるためにジャッキアップ装置を外槽の側壁の頂部に設けると、ジャッキアップ装置の場所には外槽の屋根部を据え付けることができないため、外槽の側壁の内周面に突起部を設けて外槽の屋根部の最終設置位置として高さを規制すると共に、外槽の側壁の内周面にカプラーを設けてカプラー取り合いにすることで外槽の屋根部を据え付ける。これにより、例えば外槽の側壁の中段に保持された状態で外槽の屋根部での鉄筋作業を開始し、外槽の側壁の組み上げが完成した後、カプラー取り合いにより外槽の屋根部を速やかに据え付けることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工期の短縮化を図ることのできる円筒型タンクの構築方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態における構築方法の第1工程を示す図である。
図2】本発明の実施形態における構築方法の第2工程を示す図である。
図3】本発明の実施形態における構築方法の第3工程を示す図である。
図4】本発明の実施形態における構築方法の第4工程を示す図である。
図5】本発明の実施形態におけるアンカープレートの構成を示す断面図である。
図6】本発明の実施形態における構築方法の第5工程を示す図である。
図7】本発明の実施形態における構築方法の第6工程を示す図である。
図8】本発明の実施形態における構築方法の第7工程を示す図である。
図9】本発明の実施形態における構築方法の第8工程を示す図である。
図10】本発明の実施形態における構築方法の第9工程を示す図である。
図11】本発明の実施形態におけるカプラー取り合い構造を示す断面図である。
図12】本発明の実施形態における構築方法の第10工程を示す図である。
図13】本発明の実施形態における構築方法の第11工程を示す図である。
図14】本発明の実施形態における構築方法の第12工程を示す図である。
図15】本発明の実施形態における構築方法の第13工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の円筒型タンクの構築方法の一実施例について図面を参照して説明する。
【0015】
先ず、図1に示すように、支持杭1を打ち込み、その上に基礎版(外槽の底部)2の一部を施工する。ここで施工する基礎版2の一部は、タンクの側壁が立設する部分であるリング状のアニュラー部分である。
【0016】
次に、図2に示すように、先行して施工した基礎版2のアニュラー部分にPC壁(外槽の側壁)3を立ち上げる。具体的には、基礎版2上に側ライナー(外槽側板)4を組み上げつつ、その外側にコンクリート5を打設していくことによりPC壁3を立ち上げる。側ライナー4は、鋼製ライナーであってコンクリート型枠を兼ねており、外部足場6を設置しつつ側ライナー4の組み上げに追従してコンクリート5を打設することにより、PC壁3を下から順に組み上げていく。
【0017】
また、これと並行して、基礎版2のアニュラー部よりも内側の中央部を施工し、基礎版2を完成させる。基礎版2が完成したら、その上に底部ライナー7を敷設する。その後、基礎版2上の中央部に屋根架台8を組み立てる。
【0018】
次に、図3に示すように、側ライナー4の基端部の内側に沿って脚付架台9を設置する。そして、屋根架台8上及び脚付架台9上で外槽屋根(外槽の屋根部)10を組み立てる。外槽屋根10は、基礎版2上に高所作業車等を乗り入れ、鉄骨を組みそれに屋根ブロックを搭載する等して組み立てられる。この外槽屋根10は、PC壁3が組み上げられる基礎版2の外周縁部以外の領域で組み立てられるため、両作業が干渉することがなく、PC壁3の組み上げと、外槽屋根10の組み立てとの同時並行作業が可能となる。
【0019】
外槽屋根10をある程度組み立てたら、次に、図4に示すように、組み上げ途中のPC壁3にジャッキアップ装置11を設置する。先ず、基礎版2よりも上方であって、外槽屋根10の外周縁部よりも上方のPC壁3に、吊側ジャッキ架台(吊り点)12をタンク周方向で複数設置する。吊側ジャッキ架台12は、所定高さのPC壁3からタンク内方に向けて略水平に凸設されるものである。吊側ジャッキ架台12は、図5に示すPC壁3に埋め込んだアンカープレート(アンカー部)13に強固且つ着脱可能に固定する。
【0020】
アンカープレート13は、コンクリート5に埋め込まれた複数のアンカー14が接続されており、側ライナー4よりも優れた強度を備えるものである。このアンカープレート13は、側ライナー4に予め開口部15を形成しておき、この開口部15にアンカープレート13を嵌め込み、隅肉溶接等により側ライナー4と一体物とすることで設置する。つまり、側ライナー4の適所を部分的にアンカープレート13で構成し、そのアンカープレート13に吊側ジャッキ架台12を固定することとなる。
【0021】
なお、吊側ジャッキ架台12をPC壁3に設けてジャッキアップ装置11を支持させるために、側ライナー4の全体の板厚を厚くする等してジャッキアップ装置11を支える強度を確保することも可能であるが、側ライナー4の最適設計による軽量化及びコストダウンを図ることができなくなる。このため、本実施形態では、側ライナー4の開口部15に取り付けられ部分的に支持強度が高くなったアンカープレート13を介して、吊側ジャッキ架台12を固定すると共にジャッキアップ装置11を支持させるようにしている。
【0022】
このようにアンカープレート13があることで、側ライナー4の全体の板厚を厚くする等してジャッキアップ装置11を支える強度を確保する必要がなくなり、側ライナー4の板厚を必要最小限にしつつ、必要なアンカー点を確保することができる。
図4に戻り、次に、外槽屋根10の外周縁部に、複数の吊側ジャッキ架台12に対応する複数の被吊側ジャッキ架台16を設置する。被吊側ジャッキ架台16は、外槽屋根10の外周縁部からタンク外方に向けて略水平に凸設されるものである。この被吊側ジャッキ架台16を外槽屋根10の外周縁部に着脱可能に固定する。
なお、この被吊側ジャッキ架台16は、図4に示すような外槽屋根10の側方でなく、外槽屋根10の上方に設置してもよい。
【0023】
そして、吊側ジャッキ架台12と被吊側ジャッキ架台16との間に渡って、ジャッキアップ装置11を設置する。ジャッキアップ装置11は、図4に示すように、センターホールジャッキとして構成され、被吊側ジャッキ架台16の下方に吊下される円筒状のジャッキ本体11aと、上下に延在してジャッキ本体11aにストローク可能に保持されると共に上端部を吊側ジャッキ架台12にイコライザ17aを介して係合させるジャッキアップロッド17と、を有する。
【0024】
上記構成のジャッキアップ装置11を、タンク周方向に所定間隔で複数設置する。なお、屋根架台8は、外槽屋根10の屋根鉄骨部が組み上がったら撤去することができ、また、上記のようにジャッキアップ装置11を設置したら脚付架台9の一部を撤去することができる。屋根架台8と脚付架台9の一部を撤去すると、外槽屋根10の重量が複数のジャッキアップ装置11によって支持された状態となる。
【0025】
次に、図6に示すように、ジャッキアップ装置11によって基礎版2上で組み立てていた外槽屋根10を上昇させる。具体的には、ジャッキ本体11aが正転駆動することで、このジャッキ本体11aが被吊側ジャッキ架台16と共にジャッキアップロッド17を伝うように上昇し、もって組み立て途中の外槽屋根10をジャッキアップさせる。外槽屋根10をジャッキアップすることで、外槽屋根10の下方に内槽側板20を搬入し、内槽を組み立てるための作業空間を確保することができる。
【0026】
このようにジャッキアップ装置11によって外槽屋根10を上昇させることにより、エアレイジング手法と比べて、容易に外槽屋根10を上昇させることができる。つまり、エアレイジング手法では、空気圧で外槽屋根10を上昇させるために、空気漏れがない程度にまで外槽屋根10を組み立てなければならず、本実施形態のように外槽屋根10を中途で上昇させることができない。また、エアレイジング手法では、空気を吹き込むブロアー等の設置が必要であり、またPC壁3や内槽側板20の先行組み立てが必要である。
【0027】
次に、図7に示すように、ジャッキアップ装置11によって上昇させた外槽屋根10をPC壁3に保持させる。具体的には、PC壁3の中段に保持架台21を設置して、保持架台21を介して外槽屋根10をPC壁3に保持させる。保持架台21は、所定高さのPC壁3からタンク内方に向けて略水平に凸設されるものである。この保持架台21を例えばPC壁3に予め埋め込んだ図5に示すようなアンカープレート13に強固かつ着脱可能に固定する。
【0028】
保持架台21を設置したら、被吊側ジャッキ架台16の外槽屋根10への固定を解除する。被吊側ジャッキ架台16の固定を解除すると、外槽屋根10の重量が保持架台21によって支持された状態となる。このように保持架台21を介して外槽屋根10をPC壁3に保持させたら、ジャッキ本体11aを逆転駆動させ、基礎版2近傍まで下げる。そして、外槽屋根10の下方の空間での内槽側板20の組み立て作業に使用できるようにする。なお、内槽側板20には被吊側ジャッキ架台16を別途取り付けるが、外槽屋根10の被吊側ジャッキ架台16を転用してもよい。
【0029】
内槽の組み立ては、図7に示すように、先ず、脚付架台9上に内槽側板(内槽の側壁でもある)20をタンク周方向に沿って複数立設し、これら各内槽側板20の隣り合うもの同士を横方向において一体的に溶接することで、これら各内槽側板20を環状に組み立てる。なお、ここで組み立てる内槽側板20は、最上段(本実施形態では8段目)に対応するものである。
【0030】
次に、環状に組み立てた内槽側板20に、複数の被吊側ジャッキ架台16に対応する複数の被吊側取付架台22を設置する。被吊側取付架台22は、環状に組み立てた内槽側板20の外周面からタンク外方に向けて略水平に凸設されるものである。この被吊側取付架台22にジャッキアップ装置11の被吊側ジャッキ架台16を着脱可能に固定する。これにより環状に組み立てた内槽側板20の重量の全部または一部がジャッキアップ装置11によって支持された状態となる。また、内槽側板20の変形防止のために、必要に応じて内槽側板20の内側及び外側の少なくともいずれか一方に適切な補助材を施すことが好ましい。
【0031】
次に、図8に示すように、ジャッキアップ装置11による内槽側板20の上昇と、上昇した内槽側板20の下側への次の内槽側板の取り付けと、を交互に繰り返すことで、内槽を組み立てる。具体的には、先ず、ジャッキアップ装置11のジャッキアップにより環状に組み立てた内槽側板20をその内槽側板20単体の上下幅に相当する分だけ上昇させる。次に、ジャッキアップにより内槽側板20の下部にできた空間に、次の内槽側板20をPC壁3に設けた不図示の工事口を介して搬入し、この内槽側板20を脚付架台9上に降ろし、ジャッキアップされた内槽側板20の下方に環状に配置する。
【0032】
そして、環状に配置した複数の内槽側板20同士を溶接し、かつ上下に並ぶ内槽側板20同士を溶接することで、これら内槽側板20を一体の円筒状に形成する。
なお、複数の内槽側板20同士をタンク外で予め横方向に連結し、これを取り込んで環状に形成した後、上下に並ぶ内槽側板20同士を溶接するようにしてもよい。このように複数の内槽側板20同士を作業空間の制限の少ないPC壁3の外側で行うことで、溶接作業が容易になり、効率よく内槽を組み立てることができる。
【0033】
また、このようにして、ジャッキアップ装置11による内槽側板20の上昇と、上昇した内槽側板20の下側への次の内槽側板20の取り付けとを、ジャッキアップ装置11による外槽屋根10の上昇と個々に繰り返し行い、内槽側板20の下側に次の内槽側板20を継ぎ足していくことで、内槽側板20の継ぎ足しが基礎版2近傍の低位置となり、PC壁3の中段に保持されている外槽屋根10との干渉を避けつつ、低所での安全な内槽の組み立て作業が可能となる。
【0034】
この工程中、PC壁3に保持された組み立て途中の外槽屋根10の組み立てを行う。具体的に、外槽屋根10を最終的にPC壁3の頂部に据え付ける前に、PC壁3の中段に保持された状態で外槽屋根10を屋根コンクリート打設のための鉄筋作業を含めて、完成の手前まで組み立てる。本実施形態では、外槽屋根10のPC壁3の頂部の据え付けを後述するカプラー取り合いにしているため、この鉄筋作業を外槽屋根10が中間地点にあるときに開始するようにする。これにより、本実施形態では、PC壁3の組み上げが完成した後、その頂部へ外槽屋根10を据え付けて、外槽を速やかに完成させることが可能となる。
【0035】
本手法では、このように基礎版2の外周縁部でPC壁3を組み上げつつ、それと並行して外周縁部以外の基礎版2上で外槽屋根10を組み立て、そして、外槽屋根10をある程度組み立てたら、ジャッキアップ装置11により上昇させて組み上げ途中のPC壁3に保持させ、外槽屋根10の下方に内槽を組み立てるための空間を確保し、外槽屋根10と独立して内槽を組み立てる。したがって、本手法によれば、PC壁3の組み上げ、及び外槽屋根10の組み立て、及び内槽の組み立ての同時並行作業が可能となっており、工期の大幅な短縮化を図ることができる。
【0036】
また同時に、本手法では、図8に示すように、内外槽間であるアニュラー部に、タンク内容物の漏洩防止用のサーマルコーナープロテクション40を設けることができる。サーマルコーナープロテクション40は、発泡ガラスやパーライトコンクリートブロック等を用いて脚付架台9の下側の空間を利用して施工する。なお、サーマルコーナープロテクション40は、コーナーをプロテクトするものであるが、コーナーだけでなく基礎版1上に沿ってその内側にも連続的に施工する。
【0037】
PC壁3の組み上げが完了したら、次に、図9に示すように、PC壁3の頂部にジャッキアップ装置11を設ける。具体的には、吊側ジャッキ架台12のPC壁3中段への固定を解除してPC壁3頂部に仮架台を介して固定すると共に、被吊側ジャッキ架台16の内槽側板20への固定を解除して外槽屋根10の外周縁部に固定する。そして、吊側ジャッキ架台12と被吊側ジャッキ架台16との間に渡って、ジャッキアップ装置11を設置する。このようにジャッキアップ装置11を設置したら、保持架台21は撤去することができるので、その後適切なタイミングで撤去する。
【0038】
次に、図10に示すように、ジャッキアップ装置11により外槽屋根10を上昇させ、PC壁3の頂部に据え付ける。PC壁3の中段に保持されていた外槽屋根10を引き上げるためにジャッキアップ装置11をPC壁3の側部に設けると、ジャッキアップ装置11の場所には外槽屋根10のコンクリート部を据え付けることができないため、本手法では図11に示すように、ジャッキアップ装置11をPC壁3の頂部に設け、PC壁3の内周面にカプラー30を設けてカプラー取り合いにすることで外槽屋根10のコンクリート部を据え付ける。なお、図11では打設したコンクリート5について不図示としている。
【0039】
図11(a)は、外槽屋根10の据え付け前の状態を示す。PC壁3の頂部近傍は、図11(a)に示すような構成となっており、側ライナー4の構造体の一部として事前に組み立てたものを搭載している。PC壁3の内周面には、アングル(突起部)31が設けられている。アングル31は。所定高さのPC壁3からタンク内方に向けて略水平に凸設されるものである。カプラー30は、アングル31の上方に複数設けられており、外槽屋根10の鉄筋32をPC壁3の内周面に接続させるものである。
【0040】
図11(b)は、外槽屋根10の据え付け後の状態を示す。外槽屋根10の据え付けは、先ず、PC壁3の内周面に設けたアングル31によって、外槽屋根10の上昇する高さを規制する。つまり、ジャッキアップされた外槽屋根10の外周縁部の構造の一部が、PC壁3からタンク内方に突出するアングル31と係止することによって、高さが規制される。その後、係止された位置に、溶接等で外槽屋根10を固定することで、外槽屋根10は所定の位置に据え付けられることとなる。そして、予め外槽屋根10が中間地点にあるときに開始して外槽屋根10上に敷設されている鉄筋32の残数をカプラー30に接続することで、外槽屋根10のコンクリート部の打設を行う準備が整う。
【0041】
すなわち、このようなカプラー取り合い構造とすることにより、図7及び図8に示すようなPC壁3の中段に保持された状態で外槽屋根10での鉄筋作業を開始し、PC壁3の組み上げが完成した後、外槽屋根10の鉄筋32をカプラー30で接続することにより外槽屋根10を速やかに据え付けることが可能となる。つまり、このカプラー取り合い構造により、外槽屋根10上の鉄筋の作業と縁切りをして、この鉄筋作業を、外槽屋根10が中間地点にある時に開始できるようにすることで後述する屋根上架構の開始時期が必然的に早められる。
【0042】
外槽屋根10をPC壁3に据え付けたら、次に、図12に示すように、PC壁3の中段にジャッキアップ装置11を設け、内槽を最後まで組み立てていく。つまり、上述したように、ジャッキアップ装置11による内槽側板20の上昇と、上昇した内槽側板20の下側への次の内槽側板20の取り付けとを、交互に繰り返し、内槽側板20を最上段のものから最下段のものへと順次組み立てていく(本実施形態では全8段)。
【0043】
図13に示すように、内槽を最後まで組み立てたら、内槽を基礎版2上の所定の位置に下ろす。
なお、被吊側ジャッキ架台16の内槽側板20に対する接続位置を下方に変更してもよい。すなわち、その後の工程で内槽を基礎版2上の所定の位置に精度よく下ろすためであり、また、下段側の内槽側板20はタンク完成後における内容液の比較的大きな液圧に対応して板厚を厚くしているが、上段側(特に最上段)の内槽側板20は内溶液の比較的小さな液圧に対応して板厚を薄くしているからである。
【0044】
次に、図14に示すように、脚付架台9を撤去すると共に、基礎版2上に保冷材41を敷設する保冷工事を行う。保冷材41は、例えば、基礎版2上に敷設した底部冷熱抵抗緩和材の上にあわガラスを設け、また、内槽が下ろされる部位には硬質の軽量気泡コンクリート、パーライトコンクリートブロックや構造用軽量コンクリートブロック等を設け、それらの上に内槽底板を敷設することにより形成される。基礎版2上の保冷工事が終了したら、ジャッキアップ装置11によって内槽を下ろす。内槽を下ろしたら、ジャッキアップ装置11を撤去する。また、PC壁3に沿って昇降階段50を設け、また、外槽屋根10に屋根上架構51やバレルノズル52等を設けると共に外槽屋根10にコンクリートを打設する。なお、このコンクリートの打設は、外槽屋根10上における架構工事を早く行うために、外槽屋根10上の鉄筋32をカプラー30に接続した後直ぐに行ってもよい。
【0045】
その後、PC壁3の緊張工事を行う。そして、ポンプバレル53の設置、不図示の内槽工事口の閉鎖の後、水張りをして耐圧・気密試験を実施する。なお、ポンプバレル53の設置は、不図示の内槽工事口の閉鎖前に通常行われるが、この設置時期は任意に設定することができる。
最後に、図15に示すように、内外槽間18に保冷材42(例えばパーライト)を充填して内外槽間保冷工事を行い、また、外槽屋根10の屋根裏に設けたサスペンションデッキ43に保冷材44(例えばグラスウール)を敷設して屋根裏保冷工事を行う。
その後、塗装工事、配管保冷工事等を経て、LNG101を収容する円筒型タンク100の構築が完了する。
【0046】
このように、上述の本実施形態によれば、金属製の内槽とコンクリート製の外槽とを有する円筒型タンク100の構築方法であって、基礎版2の外周縁部でPC壁3を組み上げていく工程と、基礎版2の外周縁部以外の基礎版2上で外槽屋根10を組み立てる工程と、PC壁3の組み上げ途中で、基礎版2上にある外槽屋根10をジャッキアップ装置11により上昇させ、PC壁3に保持させる工程と、上昇により生じた外槽屋根10の下方の空間で、外槽屋根10と独立して内槽を組み立てる工程と、を有する、という手法を採用することによって、PC壁3の組み上げ、及び外槽屋根10の組み立て、及び内槽の組み立ての同時並行作業が可能となり、工期の大幅な短縮化が可能となる。したがって、本実施形態によれば、工期の大幅な短縮化を図ることのできる円筒型タンク100の構築方法が得られる。
【0047】
また、本実施形態では、外槽屋根10をPC壁3に保持された状態で組み立てる工程を有する、という手法を採用することによって、PC壁3の組み上げが完成した後、その頂部へ外槽屋根10を据え付けて、外槽を速やかに完成させることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、ジャッキアップ装置11による内槽側板20の上昇と、上昇した内槽側板20の下側への次の内槽側板20の取り付けと、を交互に繰り返すことで、内槽を組み立てる工程を有する、という手法を採用することによって、内槽側板20の継ぎ足しが低位置となり、PC壁3の中段に保持されている外槽屋根10との干渉を避けつつ、低所での安全な内槽の組み立て作業が可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、PC壁3は、側ライナー4を内側型枠としてコンクリートを打設することにより組み上げられ、側ライナー4に予め開口部15を形成する工程と、コンクリートに埋め込まれるアンカー14が接続されたアンカープレート13を開口部15に取り付ける工程と、開口部15に取り付けられたアンカープレート13を介してジャッキアップ装置11を支持させる工程と、を有する、こという手法を採用することによって、側ライナー4の板厚を厚くする等してジャッキアップ装置11を支える強度を確保する必要がなく、側ライナー4の板厚を必要最小限にしつつ、必要なアンカー点を確保することができる。
【0050】
また、本実施形態では、PC壁3の組み上げ後、PC壁3の頂部にジャッキアップ装置11を設け、外槽屋根10を上昇させる工程と、PC壁3の内周面にアングル31を設け、外槽屋根10の上昇する高さを規制する工程と、アングル31により高さを規制された外槽屋根10をPC壁3の内周面にカプラー30を介して取り付ける工程と、を有する、という手法を採用することによって、PC壁3の中段に保持された状態で外槽屋根10での鉄筋作業を開始し、PC壁3の組み上げが完成した後、カプラー30取り合いにより外槽屋根10を速やかに据え付けることが可能となる。
【0051】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、PC壁3の組み上げ、及び外槽屋根10の組み立て、及び内槽の組み立ての同時並行作業を行うと説明したが、脚付架台9により基礎版2上の作業空間が確保できているため、さらに基礎版2上の底部の保冷作業を同時並行して行ってもよい。
【0053】
また、例えば、上記実施形態では、ジャッキアップ装置11で外槽屋根10を吊り上げる手法について説明したが、例えばジャッキアップ装置11のタイプを換えて外槽屋根10を押し上げるようにしてもよい。この構成によれば、外槽屋根10をPC壁3に据え付けるときに、上記実施形態のようにジャッキアップ装置11をPC壁3の頂部に設置しなくても良くなるため、カプラー取り合い構造にせずに従来構造を採用することができる。
【0054】
また、例えば、上記実施形態では、ジャッキアップ装置11で外槽屋根10を吊り上げる手法について説明したが、ジャッキアップ装置11のタイプはこの形態に限定されるものではなく、例えばジャッキ本体11aとイコライザ17aとの位置関係を上下逆にした形態であってもよい。
【0055】
また、例えば、上記実施形態では、ジャッキアップ装置11で内槽側板20を吊り上げる手法について説明したが、例えばジャッキアップ装置11のタイプを換えて内槽側板20を押し上げるようにしてもよい。この構成によれば、外槽屋根10を吊り上げるためのジャッキアップ装置11を、複数の円筒型タンク100を建設する際に、1セット分だけ用意したものを転用することで、必要なジャッキアップ装置11の数を減らすことが可能となる。
【0056】
また、例えば、上記実施形態では、組み立て途中の外槽屋根10をジャッキアップしてPC壁3の中段に保持させると説明したが、例えば、基礎版2上でサスペンションデッキ43や屋根上架構51やバレルノズル52等までほぼ完成まで組み立てた外槽屋根10をジャッキアップしてPC壁3の中段に保持させてもよい。この場合、外槽屋根10のコンクリート打設に係る外槽屋根10の鉄骨部の変形による屋根上架構51への影響を考慮に入れる必要がある。
【0057】
また、例えば、上記実施形態では、アンカープレート13を介してジャッキアップ装置11を設けて外槽屋根10等を支持させると説明したが、例えば、支持する荷重の大きさによっては、開口部15を設けずに、側ライナー4に追加のコンクリートスタッドを打ち、頬杖等を持つサポートに外槽屋根10等の荷重を預けることで、外槽屋根10等を支えるのに十分な反力をとることも可能である。
【0058】
また、例えば、上記実施形態では、外槽屋根10のジャッキアップ、内槽側板20のジャッキアップについて共通のジャッキアップ装置11を用いたが、それぞれ専用のジャッキアップ装置を用いてもよい。なお、専用のジャッキアップ装置を用いると、上記実施形態のようなジャッキアップ装置の設置位置の変更が殆ど不要となるが、装置数が増えてしまうので、構築する円筒型タンク100の規模に応じていずれか好適な方を選択することが好ましい。
【符号の説明】
【0059】
2…基礎版(外槽の底部)、3…PC壁(外槽の側壁)、4…側ライナー(外槽側板)、5…コンクリート、10…外槽屋根(外槽の屋根部)、11…ジャッキアップ装置、13…アンカープレート(アンカー部)、14…アンカー、15…開口部、20…内槽側板、30…カプラー、31…アングル(突起部)、100…円筒型タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15