(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6127473
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】磁気検知システム
(51)【国際特許分類】
G01V 3/08 20060101AFI20170508BHJP
G01R 33/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
G01V3/08 A
G01R33/00
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-259323(P2012-259323)
(22)【出願日】2012年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-106122(P2014-106122A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098671
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 俊文
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】上野 剛弘
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−304556(JP,A)
【文献】
特開平07−231244(JP,A)
【文献】
特開平09−138285(JP,A)
【文献】
特開2003−215259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00−99/00
G01R 33/00−33/26
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気センサと、
前記磁気センサにより計測された磁気データを記憶する計測磁気記憶手段と、
雑音レベルの時間的な変動に関与する未来の環境情報を記憶する環境情報記憶手段と、
前記環境情報記憶手段に記憶されている未来の環境情報を基に、磁性体による磁気信号検知のためのスレッショルドレベルを算出する算出手段と、
を備えることを特徴とする磁気検知システム。
【請求項2】
請求項1 に記載の磁気検知システムであって、
前記環境情報記憶手段に記憶されている未来の環境情報を基に、磁性体による磁気信号検知のためのスレッショルドレベル算出の周期を決定する決定手段をさらに備えることを特徴とする磁気検知システム。
【請求項3】
請求項1 または2 に記載の磁気検知システムであって、
前記未来の環境情報が、未来の潮汐情報、あるいは、未来の地磁気情報を含むことを特徴とする磁気検知システム。
【請求項4】
磁気センサと、
前記磁気センサにより計測された磁気データを記憶する計測磁気記憶手段と、
雑音レベルの時間的な変動に関与する未来の環境情報を予め記憶する環境情報記憶手段と、
前記環境情報記憶手段に記憶されている未来の環境情報を基に、磁性体による磁気信号検知のためのスレッショルドレベル算出の周期を決定する決定手段と、
を備えることを特徴とする磁気検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水中や陸上における移動体、固定物等の磁性体の磁気を検知する磁気検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中や陸上における移動体、固定物等の磁性体の磁気を検知するのに、
図5に示す磁気検知システムにより、磁気センサ21で磁気を検知し、その検知信号をデータ処理装置22に取込み、データ処理装置22で測定領域中に磁性体が存在するか否かのデータ処理を行うようにしている。この従来の磁気検知システムにおける具体的な磁気検知処理を以下に説明する。
【0003】
磁気センサ21において時間tにおいて計測される波形FD(t)は、
FD(t)=S(t)+Noise(t)・・・(1)
で表わせられる。ここで、S(t)は近傍を通過する磁性体に起因する信号、
Noise(t)は、地磁気変動などの環境雑音である。時間tの経過による(a)信号S(t)の波形、(b)環境雑音Noise(t)の波形、(c)計測波形FD(t)を
図6に例示している。
【0004】
データ処理装置22では、計測波形FD(t)から、リアルタイムで、磁性体に起因する波形を検知するためにFD(t)の波形のレベル(磁界強度、尤度比など)が大きくなった時に、その値が閾値(スレッショルド)以上となるかどうかで磁性体検知の判定を行っている。
【0005】
また、環境雑音Noise(t)のレベルは時間経過によって大きく変動する
ため、磁性体検知の判定を行うためには、常に計測データFD(t)をデータ処
理装置にバッファリング(記憶)し、次式にて、一定周期(T)で、スレッショ
ルドレベルを計算し、更新するようにしている。
【0006】
THnext=FDave+α・FDsd・・・(2)
ここで、THnextは、次の更新周期までの間適用されるスレッショルレベル、FDaveは、一定時間バッファリングされた計測データFD(t)の平均値、αは更新係数、FDsdは、一定時間バッファリングされたFD(t)値の標準偏差である。更新周期(T)及び更新係数αは、システムの特性によって、経験的に決定する定数である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の磁気検知システムでは、システムのデータ処理装置にバッファリングされている過去の計測データFD(t)の平均値を取るなどの方法により、直近のスレッショルドレベルTHnextを計算しているため、計算されたスレッショルドレベルが最適な値とは限らない場合がある。また、更新周期(T)も一定であるため、環境雑音Noise(t)、磁気信号S(t)の増加減少傾向などの状況に即してスレッショルドレベルを更新できず、結果として高精度の磁気検知が出来ないという不具合がある。
【0008】
この発明は、上記問題点に着目してなされたものであって、スレッショルドレベル算出時に未来の環境状況を加味した算出が行え、最適なスレッショルドレベルを算出でき、より高精度な磁気検知をなし得る磁気検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の磁気検知システムは、磁気センサと、前記磁気
センサにより計測された磁気データを記憶する計測磁気記憶手段と、雑音レベルの時間的
な変動に関与する未来の環境情報を記憶する環境情報記憶手段と、前記環境情報記憶手段に記憶されている未来の環境情報を基に、
磁性体による磁気信号検知のためのスレッショルドレベルを算出する算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の磁気検知システムにおいて、より具体的な構成として、前記環境情報記憶手段に記憶されている未来の環境情報を基に、信号検知のためのスレッショルドレベル算出の周期を決定する決定手段をさら備える、ようにしても良い。
【0011】
また、本発明の磁気検知システムにおいて、より具体的な構成として、前記未来の環境情報が、未来の潮汐情報、あるいは、未来の地磁気情報を含む、ようにしても良い。
【0012】
さらに、前記目的を達成するために、本発明の磁気検知システムは、磁気センサと、
前記磁気センサにより計測された磁気データを記憶する計測磁気記憶手段と、雑音レベ
ルの時間的な変動に関与する未来の環境情報を予め記憶する環境情報記憶手段と、
前記環境情報記憶手段に記憶されている未来の環境情報を基に、
磁性体による磁気信号検知のためのスレッショルドレベル算出の周期を決定する決定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、スレッショルドレベル算出時に、未来の環境状況を加味した算出を行えるので、より最適なスレッショルドレベルを算出できる。
【0014】
そのため、磁気検知判定において、磁性体に起因する波形を検知できない場合を少なくでき、さらにノイズ波形に対して誤検知となる確率を低減させることができ、より高精度の磁気検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態磁気検知システムの回路構成を示すブロック図である。
【
図2】同実施形態磁気検知システムの処理動作を説明するためのフロー図である。
【
図3】同実施形態磁気検知システムにおけるスレショルドレベル、及びその更新周期決定を説明するための計測磁気例を示す図である。
【
図4】同実施形態磁気検知システムにおける潮汐と雑音の関係を説明するための波形例を示す図である。
【
図5】従来の磁気検知システムのシステム構成を示す図概略図である。
【
図6】従来の磁気検知システムにおいて、検出磁気信号と、環境雑音と、計測磁気との波形例を示す図である。
【
図7】従来の磁気検知システムにおけるスレッショルドレベル、及びその更新周期を説明するための計測磁気波形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態により、本発明を更に詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態磁気検知システムの概略構成を示すブロック図である。
【0017】
この実施形態磁気検知システムは、磁気センサ1と、この磁気センサ1より検出信号を取り込み、データ処理を行うデータ処理装置2とから構成され、さらにデータ処理装置2は、磁気センサ1よりの検出信号を受けて信号処理する信号処理器(CPU)3と、この信号処理器3よりの計測磁気信号等を記憶する記憶部(メモリ)4とを備えるものである点で従来の磁気検知システムと変わるところはない。
本実施形態の最も特徴とするところは、記憶部4に、計測磁気情報記憶部5の他に、環境情報記憶部6を設け、雑音Noise(t)の時間的変動に関与する未来の環境情報(事象)を予め記憶(登録)し、又は、システムが計測動作中に時間的変動に関与する情報を取得できるようにして記憶しておき、未来の環境情報に基づいて、信号処理器3において、スレッショルドレベル算出時における、Noise(t)のレベル変動が増加傾向にあるのか、減少傾向にあるかを予測し、(必要に応じて従来のスレッショルドレベル算出の方法と組み合わせて、)より最適なスレッショルドレベル算出を可能にし、この算出したスレッショルドレベルを、スレッショルドレベル記憶部7に記憶し、記憶したスレッショルド値を用いて、磁性体による磁気信号の有無を判別するようにしたことである。
なお、未来の環境情報は、磁気検知システムの使用者によって手作業で入力されてもよく、インターネット等の任意の電気通信回線を解して磁気検知システムが自動的に外部のサーバから取得して記憶してもよい。
【0018】
未来の環境情報として、例えば、磁気センサ1が海底に設置される場合、雑音Noise(t)のレベルは、潮流の影響を受け、変動する。潮流の強弱は、磁気センサ1が設置された海域の潮汐に起因するので一般的に公開されている磁気センサ1の設置位置の潮汐表「例えば
図4の(a)潮汐波形」を環境情報記憶部6に登録記憶しておくことにより、例えば潮汐の影響が大きい時間帯の前半では、雑音Noise(t)のレベルの変動が増加傾向にあり、後半の時間帯では、雑音Noise(t)のレベルの変動は減少傾向にあると予測することができる。
この予測結果を更新係数αに適用し、スレッショルドレベル算出時の時刻をtとし、更新係数αを都度決定するようにすると、上記(2)式を次式のように考えて
THnext=FDave+α(t)・FDsd・・・(3)
この式(3)の演算を信号処理器3で行うことにより、次の更新周期(時期)までの間のスレショルドレベルTHnextを算出する。
【0019】
更に、太陽黒点の増減等による地磁気変動については、一般に公開されている宇宙天気予報の情報を基に、オペレータが地磁気変動が大きくなると予想される時間帯を、本実施形態磁気検知システムに入力することで、環境情報記憶部6に記憶させ、スレッショルドレベル算出時の更新係数決定に反映するようにしている。
【0020】
また、更新周期Tについても、次更新時期情報記憶部8を設け、環境雑音の変動が大きいと予想される時間帯は短くし、環境雑音の変動が小さいと予想される時間帯は、長くして次更新時期情報記憶部8に記憶しておくことにより、環境雑音の変動状況に応じて更新時期を変更してスレッショルドレベルを算出することができる。
【0021】
次に、本実施形態磁気検知システムにおける磁気検知処理動作を
図2に示すフロー図を参照して説明する。
【0022】
処理が開始されると、ステップST1において、磁気センサ1による磁気計測が開始される。計測開始された当初では、磁性体の到来が無く或いは遠距離にあり、検知信号は
図3の期間Aに示すように非常に小さい。磁気センサ1による磁気計測された計測磁気情報FD(t)は、計測磁気情報記憶部5にバッファリング記憶される。計測開始後は、期間Aにおける初期設定のスレッショルドレベルと磁気計測信号レベルが比較され磁気計測信号の方がスレッショルドレベルより高い場合には、磁性体による磁気信号検知を意味するデータが計測磁気データと共に記憶される。もっとも、計測開始当初の期間Aでは、磁性体が存在しないか遠方に有り、スレッショルドレベルの方が大であり、磁性体検知を意味する信号は記憶されない状態が続く。
【0023】
ステップST1における磁気計測サンプリングタイムが終了すると、ステップST2へ移行する。ステップST2においては、スレッショルドレベルTHnextの更新時期か否か判定する。計測開始当初は、
図3に例示するように最初の期間Aは、磁性体による磁気信号が検知されない程度の計測磁気信号レベルであり、この期間のスレッショルドレベルTHAは、比較的長く一定であり、次の期間Bまでには間があり、したがってステップST2における判定NOでステップST1に戻る。
【0024】
ステップST1において、さらに次のサンプリングタイムにおける磁気計測を終了し、再度ステップST2へ移行する。ステップST2においては、再度スレッショルドレベル更新時期か否か判定する。ステップST2において、まだスレッショルドレベル更新時期が到来していない場合は、判定NOでステップST1へ戻る。以上のようにして、スレショルドレベル更新時期が到来するまでは、ステップST1における磁気計測を継続する。
上記のように計測開始当初の期間Aでは、その間における磁気計測を繰り返す。動作開始から期間Aに相当する期間が経過すると、これにより最初のスレショルドレベル更新時期が到来したことになり、ステップST2におけるスレッショルドレベル更新時期か、の判定YESとなり、ステップST3へ移行する。ステップST3においては、予め環境情報記憶部6に記憶している測定開始から現在、さらに未来まで、予測記憶してある環境雑音Noise(t)などの環境情報を読み出し、ステップST4へ移行する。
【0025】
ステップST4においては、読み出した環境情報から更新係数αを決定する。次に、ステップST5へ移行する。ステップST5においては、計測磁気情報記憶部5に記憶しているバッファリング計測データFDを読み出し、ステップST6へ移行する。
【0026】
このように、本実施形態によれば、現在までと未来までも含めた環境状況を踏まえてスレショルドレベルを算出するので、より最適なスレショルドレベルを算出でき、結果として高精度の磁性体の検知を行うことができる。
【0027】
ステップST6において、バッファリング計測データの平均値FDaveと、時刻tにおける更新係数α(t)と、バッファリング計測データの標準偏差FDstを用い、上記(3)式により、次期スレッショルドレベルTHnextを算出更新する。続いてステップST7へ移行する。
【0028】
ステップST7において、環境情報記憶部6から、環境雑音を読み出し、次間tにおける環境雑音の変動が大きいと予想されるか、あるいは環境雑音の変動が小さいと予想されたかににより、変動が大きいと予想された場合は、次更新時期を短く(近く)、環境雑音の変動が小さいと予想される場合は、次更新時期を長く(遠く)するように決定する。例えば、
図3の期間Aから次の期間Bおける次更新時期は短く、逆に期間Dから次の期間Eにおける次更新時期は長くなるように設定している。
【0029】
ステップST7における次更新時期の決定を終了すると、ステップST8へ移行する。ステップST8においては、計測終了か否か判定し、なお計測を続行する場合は、判定NOで、ステップST1に戻り、計測処理を続行する。
図3における期間Iにおける場合のように、計測を終了する場合は、判定YESで磁気計測処理を終了する。
【0030】
図3に例示する期間Aの終了時点で、次期間BにおけるスレッショルドレベルTHBに更新した時点では、ステップST8において、計測終了か、の判定NOでステップST1へ戻り、その後期間Bおけるスレッショルド更新時期、つまり、期間Bの終了時点まで、磁気計測を行う。スレッショルドレベル更新時期が到来すると上記期間Aにおける終了時点と同様に、ステップST3〜ST7の処理を実行し、次期間におけるスレッショルドレベル及び次更新時期を決定する。
【0031】
さらに、
図3に例示する期間Bの終了時点から、続けて計測し、期間C、期間D、期間E、期間E、・・・と、順次移行する過程で、各期間で、それぞれ自期間における磁気計測をおこなうと共に、自期間終了で次期間におけるスレッショルドレベル及び次更新時期を決定する。
【0032】
このように、本実施形態によれば、環境情報の変動が大きいと予想される時間帯は更新周期を短くし、逆に環境情報の変動が小さいと予想される時間帯は更新周期を長くし、状況に応じてスレッショルドレベルを算出でき、結果として高精度の磁性体検知を行うことができる。
【符号の説明】
【0033】
1 磁気センサ
2 データ処理装置
3 信号処理器
4 記憶部
5 計測磁気情報記憶部
6 環境情報記憶部
7 スレッショルドレベル記憶部
8 次更新時期情報記憶部