【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「低炭素社会を実現する超低電圧デバイスプロジェクト」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に、基板面と垂直方向に磁化容易軸を有する第1の強磁性層、前記基板面と垂直方向に磁化容易軸を有する第2の強磁性層、および前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層にはさまれたトンネルバリア層を有する磁気抵抗素子を形成し、
前記基板上の前記第1の強磁性層の側に、前記第1の強磁性層と交換結合を生じない距離をおいて垂直磁化異方性を有する第1垂直材料層を配置し、
前記基板上の前記第2の強磁性層の側に、垂直磁化異方性を有し前記第2の強磁性層と静磁気結合する第2垂直材料層を配置し、
前記第1の強磁性層、前記第2の強磁性層、及び前記第2垂直材料層の磁化の向きが第1方向を向き、前記第1垂直材料層の磁化の向きが前記第1方向と反対の第2方向を向くように着磁し、
前記第1垂直材料層から前記第1の強磁性層にかかる磁界の強度と、前記第2の強磁性層及び前記第2垂直材料層から前記第1の強磁性層にかかる磁界の強度を、前記第1の強磁性層上で釣り合わせる
ことを特徴とする磁気記憶装置の製造方法。
前記着磁は、前記第1の強磁性層、前記第2の強磁性層、前記第1垂直材料層、及び前記第2垂直材料層の磁化の向きをいったん前記第2方向にそろえた後に行われることを特徴とする請求項7又は8に記載の磁気記憶装置の製造方法。
【背景技術】
【0002】
MRAM(Magnetic Random Access Memory)は、高速かつ低消費電力の大容量不揮発性メモリとして注目を集めている。MRAMは、MTJ(磁気トンネル接合:Magnetic Tunnel Junction)素子を記憶素子として用い、トンネルバリア層を挟む一対の磁性材料層の相対的な磁化方向で決まる磁気抵抗の高低を利用して情報を記憶する。
【0003】
書き込み方式として、電子のスピンによる磁気モーメントを利用して記録層(フリー層)の磁化方向を反転させるスピン注入磁化(STT:Spin Torque Transfer)方式が採用されてきている。スピン注入方式は従来の配線電流方式に比べてデバイスの微細化、低電流化に適している。
【0004】
また、磁化方向を磁性材料層の主面に対して垂直な方向とする垂直磁化MTJ素子の実用化が期待されている。垂直磁化MTJ素子は、記録密度の増大と書き込み電流の低減の観点で優れている。
【0005】
スピン注入方式の磁気抵抗素子を熱的に安定化し、低電流での磁化反転を実現するために、
図1(A)のようにピン層の上方にバイアス層を配置して磁場を相殺する。バイアス層の磁化方向はピン層と反平行である(たとえば、特許文献1参照)。
図1(B)では、フリー層を間に挟んでピン層と反対側に、反強磁性結合された磁性層を配置して磁場を相殺する(たとえば、特許文献2及び3参照)。反強磁性結合を用いて磁性層の保磁力を大きくしている。
【0006】
図1(A)の構成では、磁場相殺のためにバイアス層の磁化量をピン層の磁化量と同程度にするので、バイアス層の保磁力は小さくなり、ピン層の反転が起こりやすく不安定になる。
図1(B)の構成では、ピン層を固定するためのバイアス層が設けられていないため、ピン層の磁化の反転が起こりやすく素子の動作が不安定になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下で図面を参照して実施形態を説明する。
【0016】
図2は、磁気抵抗素子としてのMTJ素子10と、これを用いた垂直磁化型STT−MRAM(Spin Torque Tunneling Magnetic Random Access Memory)のメモリセルの概要を示す。MTJ素子10は、磁化方向が固定されているピン層13と、磁化方向がピン層の磁化方向に対して平行(P)又は反平行(AP)となるフリー層11と、ピン層13とフリー層11に挟まれたトンネルバリア層12を有する。図示の便宜上、その他の層を省略してある。
【0017】
選択トランジスタTrがONされることによって、セルが選択される。選択されたセルのMTJ素子10に上方から読み出し電流を流し、発生する磁場に反応するMTJの抵抗を読み取る。たとえば、フリー層11とピン層13の磁化方向が平行で磁気抵抗が低い状態をデータ「0」に対応させ、フリー層11とピン層13の磁化方向が反平行で磁気抵抗が高い状態をデータ「1」に対応させる。平行状態から反平行状態へスイッチングするには、ピン層13からフリー層11の方向へスイッチング電流(スピン偏極電流)を流してフリー層の磁化方向を反平行に変化させる。反平行状態から平行状態にスイッチングするには、フリー層11からピン層13の方向へスイッチング電流を流してフリー層の磁化方向を平行に変化させる。
【0018】
図3は垂直磁化方式のMTJ素子10に生じる漏れ磁場の問題を説明するための図である。垂直磁化型のMTJ素子では、
図3(A)で点線の矢印で示すように、ピン層13から発生する漏れ磁場がフリー層11に影響する。この結果、
図3(B)に示すように、MRループの中心がゼロ磁場からHshiftまでプラス方向にずれてしまう。Hshiftが保磁力Hcよりも大きい場合(Hshift>Hc)、電流によるスイッチングを行っても、MTJ素子10はゼロ磁場での状態(
図3(B)の例では平行状態)を維持するため、スイッチング素子として利用することができない。
【0019】
他方、MTJ素子10のサイズが小さくなるほど、素子端部からの漏れ磁界の発生が顕著になる。この場合、MRループの中心はゼロ磁場からマイナス方向にずれるため、このシフトも考慮しなければならない。実際の磁気メモリに適用するには、MRループの中心をゼロ磁界近傍に合わせる必要があるので、ループ中心のずれを抑制するには漏れ磁場自体を低減するのが有効である。
【0020】
図4は、実施形態のMTJ素子20Aの基本構成を示す。MTJ素子20Aは、フリー層11と、ピン層13と、これらに挟まれたトンネルバリア層12と、フリー層11の側にフリー層11から交換結合が生じない距離をおいて配置される第1の垂直磁気異方性材料層21(以下、単に「第1垂直材料層21」と称する)と、ピン層13の側に配置されてピン層13の磁化方向を固定する第2の垂直磁気異方性材料26(以下、単に「第2垂直材料層26」と称する)を有する。
【0021】
フリー層11は、下地層の表面に対して垂直方向に磁化容易軸を有し、ピン層13に対する磁化方向が平行と反平行の間を遷移可能である。ピン層13は、下地層の表面に対して垂直方向に磁化容易軸を有し、その磁化方向は固定である。フリー層11とピン層13は、CoFeBなどの強磁性材料で形成されている。トンネルバリア層12は絶縁性の薄膜であり、フリー層11とピン層13の相対的な磁化方向によって絶縁膜を流れるトンネル電流が変化する。トンネルバリア層12は、たとえば単結晶MgOなどである。
【0022】
第1垂直材料層21とフリー層11の間には第1非磁性層22が挿入され、ピン層13と第2垂直材料層26の間には第2非磁性層25が挿入されている。第1非磁性層22と第2非磁性層26は、たとえばRu,Taなどである。第1非磁性層22として、層の平坦性を向上し特性を良くするために、アモルファス膜を使用してもよい。
【0023】
第1垂直材料層21の磁化方向と、第2垂直材料層26の磁化方向は、反平行である。
図4の積層構造は、第1垂直材料層21からフリー層11にかかる磁界と、ピン層13及び第2の垂直材料層26からフリー層11にかかる磁界とが、フリー層11上で釣り合うように設計されている。これについて、
図5を参照してさらに説明する。
【0024】
図5は、
図4の構成をより具体的に示す図である。
図5(A)に示すように、バッファ層29上に形成されたMTJ素子20Bは、フリー層11と第1非磁性層22の界面に、厚さ0.2nm程度のTa膜23を有する。同様に、ピン層13と第2非磁性層25の界面に、厚さ0.2nm程度のTa膜24を有する。フリー層11とピン層13の厚さは1nm程度である。CoFeBフリー層11がMgOトンネルバリア層12とTa膜23に挟まれ、CoFeBピン層13がMgOトンネルバリア層12とTa膜24に挟まれることによって、フリー層11とピン層13は垂直磁気異方性を有する。
【0025】
図5(B)は、第1垂直材料層21(あるいは第2垂直材料層26)の構成を示す。垂直材料層21,26は、たとえばコバルト(Co)31と白金(Pt)32を繰り返し積層した構成である。最下層と最上層がCoとなるように、厚さ0.4nmのCoと、厚さ0.6nmのPtの積層を6回繰り返した場合、垂直材料層の厚さは6.4nmとなる。第1垂直材料層21、第2垂直材料層26は、Co/Ptに限定されず、Co/Pd、Co/Niの積層に置き換えてもよい。
【0026】
ここで、第1垂直材料層21の厚さをt1、第1垂直材料層21の飽和磁化をMs1、第2垂直材料層26の厚さをt2、第2垂直材料層26の飽和磁化をMs2、ピン層13の飽和磁化をMspとする。
【0027】
Ms1、Ms2、およびMspによりフリー層11にかかる合成磁界が、フリー層11上でゼロまたはその近傍になるように設計することで、フリー層に対する漏れ磁場の影響を低減することができる。
【0028】
第1垂直材料層21と第2垂直材料層26で同じ材料(たとえば
図5(B)の材料)が使用される場合は、第1垂直材料層21の厚さt1を、第2垂直材料層26の厚さt2よりも大きくして、保磁力に差をつける。
【0029】
第1垂直材料層21の飽和磁界Ms1と、第2垂直材料層26の飽和磁界Ms2が異なる場合は、
Ms1×t1>Ms2×t2 (1)
の条件を満たすように膜厚を設定する。
【0030】
さらに、フリー層11と第1垂直材料層21の間に挿入される第1非磁性層22の厚さをt3とすると、t3はフリー層11と第1垂直材料層21が交換結合を起こさない厚さに設定される。
図5(A)及び
図5(B)の構成例では、t3は3nmよりも大きく設定される(t3>3nm)。
【0031】
Ms1×t1のMs2×t2に対する比率は、1.5〜5の範囲である。比率が1.5よりも小さいと漏れ磁場をゼロに近づけることができない。また、Ms1×t1とMs2×t2が同程度だと、着磁のイニシャルマージンがとりにくくなる。比率が5を超えるとピン層13の垂直磁気異方性を確保できなくなる。
【0032】
図6は、漏れ磁場を低減するための積層設計を説明するための図である。
図6(A)に示すように、フリー層11への漏れ磁場量を低減するために、定量的にはMTJ素子20A,20B(以下、「MTJ素子20」と総称する)の面内を通過する磁界成分Hzの面内平均がゼロになるように、積層構造を設計する。
【0033】
フリー層11へ漏れる合成磁界の垂直成分HzをMTJの動径方向rに対して計算すると、Hzの面内平均値Hzaveは、式(2)で表わされる。
【0034】
【数1】
ここで、RはMTJの半径である。
【0035】
図6(B)は、直径50nmのMTJの場合の動径方向の漏洩磁界強度分布を示す図である。横軸はMTJ中心からの距離r[nm]、縦軸は漏洩磁界[Oe]である。
図6(B)からわかるように、Z方向への磁界Hzはフリー層11の動径方向で分布を有する。フリー層11のエッジ近傍で特に正の漏洩磁界が大きくなる。
【0036】
そこで、積層構造を設計する際に、Hzの面内平均値Hzaveがゼロになるように、第1垂直材料層21の飽和磁化Ms1と厚さt2、第2垂直材料層26の飽和磁化Ms2と厚さt2、及び第1非磁性層22の厚さt3の組み合わせを調整する。第1垂直材料層21の飽和磁化量Ms1と第2垂直材料層26の飽和磁化量Ms2は、ブランケット膜であらかじめ測定し、その値を用いて積層構造の設計を行う。
【0037】
図7は、漏れ磁場を低減するための着磁方法を説明するための図である。MTJ素子を形成後、メモリ動作を可能にするために磁化の方向を揃える着磁プロセスを実施する。このとき、
図7(A)に示すように、動作可能な状態として、第1垂直材料層21の磁化の向きだけがフリー層11、ピン層13、第2垂直材料層26の磁化の向きと反対方向を向くように着磁プロセスを行う。
図7(A)の状態は、
図7(B)の(6)の状態に対応する。これは、
図5を参照して説明したように、第1垂直材料層21が最も保磁力が大きく設計されていることと整合する。
【0038】
図7(B)は着磁プロセスの一例を示す図である。縦方向に並ぶ4つの矢印は、下から順に第1垂直材料層21、フリー層11、ピン層13、第2垂直材料層26の磁化の方向を示している。
【0039】
まず、磁場の印加のない(1)の状態で第1垂直材料層21、フリー層11、ピン層13、第2垂直材料層26の磁化の方向が揃っている(すべて上向き)。ここから徐々に磁場を印加すると、(2)の段階でフリー層11の磁化方向だけが反転し、高抵抗状態になる。さらに磁場を印加することによって、(3)のように、ピン層13と第2垂直材料層26の磁化方向も反転し、低抵抗状態になる。さらに強い磁場で、第1垂直材料層21の磁化方向も反転し、(4)の段階ですべての磁性層の磁化方向が揃う(下向き)。この状態が初磁化(リセット)状態である。その後磁場を掃引すると、(5)の段階でフリー層11の磁化方向だけが反転する。続いて、(6)の段階でピン層13と第2垂直材料層26の磁化も反転し、第1垂直材料層21だけが反対方向を向いている。この状態(6)が、マイナーループが描ける動作点である。
【0040】
図8(A)は、磁気ヒステリシス曲線のメジャーループを示す。この磁化特性は
図7(B)に対応する。初磁化前(3)の段階で高抵抗状態から低抵抗状態になり、(4)で初磁化される。その後、印加磁場を下げていくと、初磁化とは異なる特性を示しながら(6)の動作点に至る(着磁の終了)。着磁状態(6)では保磁力H(Oe)のマージン(保磁力差)を大きくとることができ、フリー層は安定して反転する。これらの理由で、
図7(A)に示すように、第2垂直材料層21の磁化方向だけが反対になるように着磁するのが有効である。
【0041】
図8(B)はマイナーループを示す。マイナーループの中心がゼロ磁場にあり、フリー層の反転が原点対称となる。このようなマイナーループ特性により、フリー層への漏れ磁場が抑制され、スイッチング動作が安定する。
【0042】
図9は、MTJ素子20Cを含む積層構造40Aの一例を示す。積層構造40Aは、基板21上に下部電極BEと、上部電極TEと、電極間に挟まれたMTJ素子20Cを有する。MTJ素子20Cの積層は
図5(A)のMTJ素子20Bと同様なので、同じ構成要素を同じ符号で示す。
【0043】
この積層構造の作製方法の一例を説明する。多層配線ウエハなどの基板41上に、下部電極BE、MTJ素子20C、上部電極TEを含むハードマスク49の各材料層を成膜する。下部電極BEは、厚さ5nmのTa層42、厚さ20nmのRu層43、厚さ10nmのTa層44を含む。その後、第1垂直膜29の下地として厚さ5nmのRu層29を形成し、第1垂直材料層21を形成する。第1垂直材料層21は、CoとPtの薄膜を交互に14層繰り返してトータルの厚さを14.4nmとする。
【0044】
その上に、バッファ層(第1非磁性層)として、厚さ4nmのRu層22及び厚さ1nmのTa層23を形成する。バッファ層(第1非磁性層)22及び23は、第1垂直材料層21とフリー層11との間の距離を確保して交換結合をさせないための層である。さらに、厚さ1nmのCoFeBフリー層11、厚さ0.8nmのMgOトンネルバリア層12、厚さ1.2nmのCoFeBピン層13をこの順で成膜する。CoFeBピン層13上に接着層として厚さ0.2nmのTa層24を成膜し、その上に第2垂直材料層26を形成する。第2垂直材料層26は、CoとPtの積層を6層繰り返して厚さ6.4nmとする。最後に、ハードマスク層49を形成する。ハードマスク層49は、厚さ5nmのRu層45と、厚さ100nmのTa層46と、絶縁膜47を含む。ハードマスク層49の一部であるRu層45とTa層46は上部電極TEとして用いられる。
【0045】
積層中、金属層の成膜は、たとえばArガス雰囲気中で各材料ターゲットを用いてスパッタ法で行う。成膜室の圧力はたとえば0.1Pa,パワーは500Wである。ハードマスク49の絶縁膜47は、たとえば厚さ50nmのSiO2膜であり、低温CVDで形成する。
【0046】
成膜後、磁化容易軸の方向に磁場を印加して250℃〜400℃でアニールを行い、結晶化と
図7(B)に示す磁場方向を揃える処理を行なう。この処理により、第1垂直材料層21の磁化方向が、フリー層11、ピン層13、第2垂直材料層26の磁化方向と反対方向になる。
【0047】
図10は、
図9の積層構造で、MTJ素子のサイズを変えたときの漏れ磁界強度の変化を示す図である。MTJ素子のサイズによって、漏れ磁界強度が変化するが、実施形態のMTJ素子20A〜20Cは反交換結合を含まないため、MTJ素子のサイズ(直径)の変化に対して漏れ磁界量の変化の傾きが非常に緩やかである。素子サイズを小さくしていっても漏れ磁界の影響が少ないので、微細化に適している。
【0048】
たとえば、MTJ素子のサイズを50nmに設計する場合、サイズ50nmでフリー層への漏れ磁場がゼロになるように、積層構造40Aを設計する。すなわち、式(2)でフリー層へ漏れる磁界の垂直成分の面内平均値Hzaveがゼロまたはその近傍になるように、積層パラメータ(特に、第1垂直材料層21の飽和磁化Ms1と膜厚t1、第2垂直材料層26の飽和磁化Ms2と膜厚t2、および第1非磁性層22の膜厚t2)を設定する。これによって、フリー層11にかかる磁場を相殺する。
【0049】
図11は、
図4の変形例であるMTJ素子20Dの概略構成図である。
図4のMTJ素子20Aはトップピン構造を採用していたが、
図11のMTJ素子20Dのように、ボトムピン構造としてもよい。この場合も、フリー層11の側に第1非磁性層22を介して第1垂直材料層21が配置され、ピン層13の側に第2非磁性層25を介して第2垂直材料層26が配置される。第1非磁性層22の厚さは、フリー層11と第1垂直材料層21が交換結合を起こさない厚さである。第2垂直材料層26はピン層13と静磁気結合してピン層13の磁化方向を上向きに固定する。第1垂直材料層21の磁化方向は、ピン層13の磁化方向と反平行であり、下向きになっている。
【0050】
この構成で、第1垂直材料層21からフリー層11にかかる磁界と、第2垂直材料層26及びピン層13からフリー層11にかかる磁界(漏れ磁界)とが釣り合って、フリー層11上で相殺される。
【0051】
図12はMTJ素子20Eを含む積層構造40Bの一例を示す。
図9及び
図11と同じ構成要素には同じ符号を付して、説明を省略する。ボトムピン型のMTJ素子20Eを積層する場合も、成膜の順序が入れ替わるだけで、
図9と同様のプロセスで形成することができる。
【0052】
図13は、MTJ素子20を用いたMRAM1の構成を示す。
図13(A)は概略断面図、
図13(B)は平面図である。
図13(A)の構成では下部電極53と上部電極55に挟まれたMTJ素子20が、上部電極55を介してビット線BLに接続されている。ワード線WLは、図示しないトランジスタ(
図1参照)のゲート電極として機能する。
【0053】
図13のように、コンタクトプラグ52に接続する下部電極53を幅広の形状にする場合は、
図9の積層構造40Aでハードマスク層49を形成した後、ハードマスク層49上に厚さ200nmのレジスト(不図示)を塗布してMTJパターンを露光する。MTJパターンは、たとえば50nm×50nmのドットパターンである。
【0054】
レジストマスクを用いてハードマスク49のSiO2層47を反応性イオンエッチングする。たとえば、流量100sccmのCF4ガスを使用し、圧力10Pa,RF電力800Wでエッチングする。その後、O2アッシングにてレジストマスクを除去し(100sccm、10Pa,RF−200W)する。その後、SiO2層47をマスクとして用い、Ta層46をCl2とBCl3の混合ガスでエッチングする。たとえば、Cl2の流量20sccm、BCl3の流量60sccm、圧力2Pa、RF電力500Wとする。Ta層46のエッチングはRu層45上でストップする。その後、O2アッシングする(100sccm、10Pa,RF−300W)。
【0055】
その後、MTJ素子20Cの部分をエッチングする。MTJ素子20Cの磁性層26,13、11、21は、たとえばCH3OH(100sccm)を用いて、2Pa、RF−800Wの条件で行う。MTJ素子20Cのエッチングは下部電極BEのTa層44でストップする。
【0056】
この状態で、CVD法にてSiC、SiN,SiCNなどの絶縁膜を全体に形成して、MTJカバー層(不図示)を形成し、カバー層上にレジストを塗布して、下部電極53の形状をパターン露光する。下部電極53のパターンはたとえば200nm×300nmの矩形パターンである。レジストマスクを用いて不要な部分のMTJカバー層をまずエッチング除去する。エッチングガスとしてCF4を流量100sccmで供給する(5Pa,RF−400W)。このエッチングは下部電極のTa層44(
図9)上でストップする。続いて、Cl2とBC13の混合ガス(それぞれ20sccmと60sccm)で下部電極BEをエッチングする(2Pa,RF−500W)。このエッチングは下地絶縁層でストップする。その後、O2アッシングにてレジストマクスを除去する。全面に層間絶縁膜を形成しCMP,エッチバックなどで平坦化して上部電極TEを露出した後、ビット線BLの配線パターンを形成する。
【0057】
MRAM1では、MTJ素子20のフリー層11にかかる垂直方向の磁場(漏れ磁場)の面内平均がゼロになるように積層構造が設計されているので、フリー層11に対する漏れ磁場の影響を低減できる。また、マイナーループの中心をゼロ磁場近傍に維持することができる。
【0058】
ピン層13は第2垂直材料層26との間の静磁力によって固定されているので、フリー層11が反転してもピン層13は安定して固定される。
【0059】
MRAM1では、初磁化後、動作点において第1垂直材料層21の磁化方向が、フリー層11、ピン層13、及び第2垂直材料層26の磁化方向と反対方向となるように着磁されている。したがって、保磁力差(初磁化マージン)が大きくマイナーループ特性が安定する。
【0060】
以上の説明に対して、以下の付記を提示する。
(付記1)
基板面と垂直な方向に磁化容易軸を有し磁化方向が可変の第1の強磁性層と、
前記基板面と垂直な方向に磁化容易軸を有し磁化方向が固定された第2の強磁性層と、
前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層に挟まれたトンネルバリア層と、
前記第1の強磁性層の側に前記第1の強磁性層と交換結合が生じない距離をおいて配置され、前記第2の強磁性層の磁化方向と反平行の垂直磁気異方性を有する第1垂直材料層と、
前記第2の強磁性層の側に配置され、前記第2の強磁性層の磁化方向と平行な垂直磁気異方性を有し、前記第2の強磁性層と静磁気結合する第2垂直材料層と、
を有することを特徴とする磁気抵抗素子。
(付記2)
前記第1垂直材料層から前記第1の強磁性層にかかる磁界の強度と、前記第2の強磁性層及び前記第2垂直材料層から前記第1の強磁性層にかかる磁界の強度が、前記第1の強磁性層上で釣り合っていることを特徴とする付記1に記載の磁気抵抗素子。
(付記3)
前記第1垂直材料層の磁化量の前記第2垂直材料層の磁化量に対する比率は、1.5〜5の範囲であることを特徴とする付記1または2に記載の磁気抵抗素子。
(付記4)
前記第1の強磁性層と前記第1垂直材料層の間に位置する第1非磁性層、
をさらに有し、前記第1非磁性層の厚さは、前記第1の
強磁性層と前記第1垂直
材料層の間に交換結合を生じさせない厚さであることを特徴とする付記1または2に記載の磁気抵抗素子。
(付記5)
前記第1非磁性層は、前記第1の強磁性層との界面に位置するTaを含むことを特徴とする付記4に記載の磁気抵抗素子。
(付記6)
前記第1非磁性層は、Ruを含むことを特徴とする付記4に記載の磁気抵抗素子。
(付記7)
前記第1非磁性層は、アモルファス膜であることを特徴とする付記4に記載の磁気抵抗素子。
(付記8)
前記第1垂直材料層と前記第2垂直材料層は同じ材料で形成され、
前記第1垂直材料層の厚さは前記第2垂直材料層の厚さよりも厚い
ことを特徴とする付記1または2に記載の磁気抵抗素子。
(付記9)
前記第1垂直材料層の飽和磁化と膜厚(t1)、前記第2垂直材料層の飽和磁化と膜厚(t2)、及び前記第1非磁性層の膜厚(t3)は、前記第1の強磁性層を通過する前記基板面と垂直方向の磁界の面内平均値をゼロ又はゼロ近傍にする値であることを特徴とする付記3に記載の磁気抵抗素子。
(付記10)
付記1〜9のいずれかに記載の磁気抵抗素子と、
前記磁気抵抗素子を挟む上部電極及び下部電極と、
前記磁気抵抗素子を選択する能動素子と、
を含む磁気記憶装置。
(付記11)
基板上に、基板面と垂直方向に磁化容易軸を有する第1の強磁性層、前記基板面と垂直方向に磁化容易軸を有する第2の強磁性層、および前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層にはさまれたトンネルバリア層を有する磁気抵抗素子を形成し、
前記基板上の前記第1の強磁性層の側に、前記第1の強磁性層と交換結合を生じない距離をおいて垂直磁化異方性を有する第1垂直材料層を配置し、
前記基板上の前記第2の強磁性層の側に、垂直磁化異方性を有し前記第2の強磁性層と静磁気結合する第2垂直材料層を配置し、
前記第1の強磁性層、前記第2の強磁性層、及び前記第2垂直材料層の磁化の向きが第1方向を向き、前記第1垂直材料層の磁化の向きが前記第1方向と反対の第2方向を向くように着磁する、
工程を含むことを特徴とする磁気記憶装置の製造方法。
(付記12)
前記着磁は、前記第1の強磁性層、前記第2の強磁性層、前記第1垂直材料層、及び前記第2垂直材料層の磁化の向きをいったん前記第2方向にそろえた後に行われることを特徴とする付記11に記載の磁気記憶装置の製造方法。
(付記13)
前記第1垂直材料層の飽和磁化と膜厚、及び前記第2垂直材料層の飽和磁化と膜厚を、前記第1垂直材料層の磁化量の前記第2垂直材料層の磁化量に対する比率が1.5〜5の範囲となるように決定する工程、
をさらに含むことを特徴とする付記11に記載の磁気記憶装置の製造方法。
(付記14)
前記第1垂直材料層の飽和磁化と膜厚、前記第2垂直材料層の飽和磁化と膜厚、および前記交換結合を生じさせない距離を、前記第1の強磁性層を通過する前記基板面と垂直方向の磁界成分の面内平均値がゼロになるように決定する工程、
をさらに含むことを特徴とする付記11に記載の磁気記憶装置の製造方法。