(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、二つの対向する電極間に有機EL材料を有する有機発光層が形成された構造をもつ発光素子であり、電圧の印加により発光するものである。効率の良い発光を得るためには、有機発光層の膜厚が重要な要素であり、数nmから数十nm程度で膜厚をコントロールする必要がある。有機発光層に用いられる有機EL材料は、低分子系材料と高分子系材料に区分されており、有機発光層の形成方法は材料の種類によって異なる。
【0003】
一般に低分子系材料は、基板に抵抗加熱蒸着法(真空蒸着法)等によって薄膜形成される。この方法は、均一な薄膜形成には優れた方法であるが、基板が大型になるとパターン精度を保ち難くなるという問題がある。
一方、高分子系材料では、有機発光材料を溶剤に溶解あるいは分散させてインキ化し、ウェットコーティング法によって薄膜を形成する。ウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法等があるが、パターニングや色の塗り分けに用いることは困難であり、高精細なパターニング等を行うには、インキジェット法や印刷法等によるパターン印刷を用いることが必要となる。
【0004】
例えば、(特許文献1)に開示されているようなインキジェット法によるパターン形成方法では、インキジェットノズルから溶剤に溶かした有機発光材料を基板上に噴出させ、基板上で乾燥させることでパターンを形成する。しかしながら、ノズルから噴出されたインキ液滴は球状をしているため、基板上に着弾する際にインキが円形状に広がり、形成されたパターンの形状が直線性に欠けたり、あるいは着弾精度が悪くなってパターンの直線性が得られなかったりするという問題点がある。
【0005】
また、印刷法によるパターン形成方法には様々な種類があるが、基板としてガラス基板を用いることが多い有機EL素子については、ゴム製の印刷用ブランケットを用いたオフセット印刷法や、ゴムやその他の樹脂を主成分とした感光性樹脂版を用いる凸版印刷法(フレキソ印刷法)等が適正な印刷法と考えられる。実際に、オフセット印刷によるパターン印刷方法(特許文献2)、凸版印刷によるパターン印刷方法(特許文献3)などが提唱されている。中でも、特に凸版印刷による方法はパターン形成精度や膜厚均一性などに優れ、印刷による有機EL素子の製造方法として最も適している。
【0006】
凸版印刷法による有機EL素子の有機発光層を形成する工程の一例としては、まず有機EL材料を溶剤に溶解あるいは分散させてインキ化し、微細な孔を有するアニロックスロールのロール表面に塗布する。次に、アニロックスロール表面の余分なインキをドクターブレードで掻き取るによって、アニロックスロールの単位面積あたりのインキの塗布量を均一にする。そして、有機EL素子の画素の形状に対応して設けられている画像形成部を有する印刷版の、該画像形成部にアニロックスロール上のインキを転移させ、最後にこの印刷版の画像形成部上のインキ薄膜を転移させることで基板上に有機EL素子の有機発光層を形成する。
【0007】
図1は、従来例に係る凸版印刷装置100の構成例を示す説明図である。この凸版印刷装置100を用いた印刷工程では、有機EL材料などを溶媒に溶解あるいは分散させてなるインキ5が、アニロックスロール6、印刷用凸版8の画像形成部、ステージ1上の基板2の順に転移させられ、その上の発光部の形成個所に所望の発光部が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、有機EL素子において発光特性と膜厚、膜形状には強い相関があり、高い精度でコントロールする必要がある。そのため、凸版印刷法では印刷前に予備印刷を複数回実施することで印刷用凸版から被印刷基板への転写安定性を向上させる必要がある。
被印刷基板については、ガラス基板や隔壁基板を用いることが多いがランニングコスト面でデメリットが大きいため、洗浄機能を有したプライミングユニットを設置し代替する方法が検討されている。
【0010】
プライミングロールを具備した印刷装置では、インキを、アニロックスロール、印刷用凸版、画像形成部に転移させた後、ステージ上の基板もしくはプライミングロールに選択的に転移させる。通常は、プライミングロールへの予備印刷、基板への印刷である本印刷の順に印刷を行う。予備印刷では、印刷と同時、もしくは印刷と印刷の間に、プライミングロールに洗浄液を供給して、プライミングロールの表面からインキを流れ落とす。
洗浄液としては、例えばトルエンやキシレンなどの有機EL材料が溶解する有機溶媒で且つ乾燥が速い(沸点の低い)溶媒が用いられることが多い。しかしながら、有機溶媒を用いた洗浄方法は、有機溶媒のコストやタクト、有機溶媒の管理問題(環境負荷や消防法による制限)や洗浄後溶媒からのインキ回収が面倒といった問題がある。
【0011】
タクトについて、洗浄方法として最も簡略な形式として洗浄液への漬け込みによる洗浄を用いた場合、プライミングロール上のインキが洗浄液と接触している時間が長いほど洗浄性が良い。そのため、インキの固形分や用いたインキ溶媒、洗浄溶媒にもよるが印刷工程タクトよりも洗浄工程タクトの方が、時間がかかりやすくなる。洗浄液ノズルからの洗浄液供給を二流体にして打力を加えるなどの工夫によって洗浄性を向上させ、タクト短縮も可能であるが、装置の複雑化を招くことや、前述のようにインキの状態等によって洗浄性が左右されることがあり不安定な部分である。
【0012】
有機溶媒系洗浄液はインキを洗浄液中に溶解させることで洗浄を行っており、洗浄後の洗浄液はとても低濃度ではあるがインキと同じ状態のようになっていると考えられる。そのため、そのまま洗浄を繰り返した場合、洗浄液からインキがプライミングロールへ再付着してしまう。そこで洗浄を行う場合には、常に洗浄液をフレッシュな状態に保つため新品を供給し続けるか、洗浄工程に加えてリンス工程を行うことで最付着したインキを除去する必要がある。そのため、使用する洗浄液の量は、その他工程で用いる有機溶媒と比較するととても多くなってしまいコスト面や、様々な面で問題となる。
【0013】
洗浄液からのインキ回収について、現在は有機EL材料の価格は高く、ランニングコスト面で大きな負荷となっているため、できる限り回収、再利用できることが望ましい。しかしながら、洗浄液中に溶解している材料量はわずかであり回収するためには洗浄液の濃縮や乾燥等の回収工程をはさむ必要がある。そのため、費用対効果を考えた場合、より簡略な工程によって回収、再利用できることが望ましい。
本発明は、上述のような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、発光ムラの少ない有機EL素子を製造するための凸版印刷装置及び有機EL素子の製造方
法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述のような課題を解決するために検討を行った結果、次のような手段が有効であることを見出した。
本発明の一態様に係る凸版印刷装置は、印刷用凸版を表面に設置する回転式の版胴と、前記印刷用凸版にインキを供給するインキ供給装置と、前記印刷用凸版による印刷が行われる被印刷基板を載置するステージと、前記印刷用凸版による予備転写が行われるプライミングロールと該プライミングロールを洗浄する洗浄装置とを有するプライミングユニットと、を備え、前記プライミングロールの表面と前記洗浄装置において使用する洗浄液との接触角が、前記プライミングロールの表面とインキとの接触角よりも小さ
く、前記インキが疎水性であり、前記プライミングロールの表面が親水性であり、前記洗浄液が水またはアルコールであることを特徴とする。
【0015】
また、上記の凸版印刷装置において
、前記プライミングロールの表面が親水性
クロムメッキであることを特徴としてもよい。
また、上記の凸版印刷装置において、前記プライミングロールの表面と前記洗浄液との接触角が10°以下であることを特徴としてもよい
。
【0016】
また、上記の凸版印刷装置において、前記インキは有機EL材料を含有しており、前記インキを前記洗浄液に滴下した場合、前記有機EL材料が固化、沈殿することを特徴としてもよい。
また、上記の凸版印刷装置において、前記洗浄装置より前記洗浄液を排出する回収機構、をさらに有し、前記回収機構が有するフィルターによって、前記洗浄液中の固形物を回収することを特徴としてもよい。
【0017】
本発明の別の態様に係る有機EL素子の製造方法は、上記の凸版印刷装置を用いて有機EL素子を製造する有機EL素子の製造方法であって、前記印刷用凸版による前記プライミングロールへの予備転写と該プライミングロールの洗浄とを行った後で、前記印刷用凸版による前記被印刷基板への印刷を行うことで、前記被印刷基板に有機EL層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プライミングロールの洗浄性の向上及び使用液量の少量化、材料回収効率と作業性の向上を達成し、さらに発光ムラの少ない有機EL素子を印刷法によって製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれに限るものではない。
本発明は、有機材料からなる発光層と発光補助層からなる有機EL層のうち少なくとも1層を、有機EL材料を溶媒に溶解、または分散させたインキを用い、基材上に樹脂からなる凸部パターンを有する樹脂凸版を印刷版とした凸版印刷法により形成する際に適用することができる。発光補助層としては、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層等を積層させて用いる。以降、本発明において、有機EL材料を溶媒に溶解、または分散させた有機EL材料インキを用いた場合について示す。
【0022】
<構成>
図2は、本発明の実施の形態に係る凸版印刷装置200の構成例(本印刷時)を示す図である。
図2に示すように、ステージ1には被印刷基板2が固定されており、本発明によってパターン形成された印刷用凸版8は版胴7に固定され、印刷用凸版8はインキ供給体であるアニロックスロール6と接しており、アニロックスロール6はインキ補充装置3とドクター4を備えている。
【0023】
まず、インキ補充装置3からアニロックスロール6へインキ5を補充し、アニロックスロール6に供給されたインキ5のうち余分なインキは、ドクター4により除去される。アニロックスロール6へのインキ補充が適切に行われるのであれば、インキ補充装置3はどのようなものを選択してもよい。また、余分なインキの除去が適切に行われるのであれば、ドクター4にはドクターロール等どのようなものを選択してもよい。
【0024】
印刷用凸版8へのインキ供給体であるアニロックスロール6表面にドクター4によって均一に保持されたインキ5は、版胴7に取り付けられた印刷用凸版8の凸パターンに転移、供給される。そして、版胴7の回転に合わせて印刷用凸版8の凸パターンと被印刷基板2は接しながら相対的に移動し、インキはステージ1上にある被印刷基板2の所定位置に転移し被印刷基板2に転写パターン9を形成する。パターン形成後は、必要に応じてオーブンなどによる乾燥工程を設けることができる。
なお、
図2に示す凸版印刷装置200は、1枚毎に被印刷基板2にインキパターンを形成する枚葉式の凸版印刷装置であるが、被印刷基板2が対応する場合には、ロール・トゥー・ロール方式の凸版印刷装置でもよい。また、印刷用凸版8は版胴7に巻きつける形ではなく、平板凸版で用いてもかまわない。
【0025】
図2に示すように、凸版印刷装置200は、プライミングユニット41を備えている。印刷用凸版8の凸パターンからの転写について、被転写体をステージ1上の被印刷基板2とプライミングロール35の表面とを選択することが可能である。プライミングロール35は、予備印刷で通常ガラス基板などに行われる被印刷体の置き換えとすることが可能である。プライミングロール35の表面にインキ等の汚れがあると、予備転写の際に版パターン上にムラが発生する。そのため、プライミングロール35を用いた予備印刷の前または後には、プライミングユニット41に具備された洗浄装置を用いてプライミングロール35を洗浄する必要がある。
【0026】
図3は、プライミングユニット41の構成例を示す図である。被印刷体としてプライミングロール35、他に洗浄液ノズル36と洗浄液槽37、洗浄液排出管38等からなる洗浄装置、乾燥ノズル39等からなる乾燥装置が設置されている。被印刷体の形状は、特に制限はないが洗浄工程等を考えた場合、ロール形状が最も利便性が高いと思われる。洗浄方法によっては、洗浄装置は図の形である必要はなく、また乾燥工程が必要ない場合は、乾燥装置を設置しなくても良い。
【0027】
凸版印刷装置200では、インキ5を、アニロックスロール6、印刷用凸版8、画像形成部に転移させた後、ステージ1上の被印刷基板2もしくは、プライミングロール35に選択的に転移させる。
図4は、凸版印刷装置200の構成例(予備印刷への移行時)を示す図である。インキ5をプライミングロール35に転移させる(即ち、予備印刷する)場合は、
図4に示すように、版胴7等をプライミングユニット41の側へ相対的に移動させて、表面の印刷用凸版8をプライミングロール35の表面に接触させる。
【0028】
通常は、プライミングロール35への予備印刷、被印刷基板2への印刷である本印刷の順に印刷を行う。予備印刷では、印刷と同時、もしくは印刷と印刷の間に、洗浄液ノズルから洗浄液40を供給させ洗浄液槽に溜め、その中をプライミングロール35が通過させることでインキを流れ落とす。その後、乾燥ノズルからエアーを吹き付けることでプライミングロール35を乾燥させる。
【0029】
洗浄では、付着後乾燥した状態の有機EL材料をブラシなどで物理的剥ぎ取り除去する方法やプライミングロール35に付着した有機EL材料をトルエンやキシレンといった有機溶媒に再溶解させて除去する方法がある。
しかしながら、物理的に剥ぎ取る場合はブラシ起因異物等が、逆にプライミングロール35に付着する可能性があるなどの問題がある。一方で、有機溶媒に再溶解させる場合は異物の再付着は防ぐことができるが、材料の再付着がありうるため再溶解洗浄と同時にリンス洗浄を行う必要があり有機溶媒を多量に使用する、またインキの乾燥状態によって再溶解に時間がかかる場合があるなどといった問題点が存在する。
【0030】
そこで本発明では、プライミングロール35の表面と洗浄液40との接触角が、プライミングロール35の表面とインキとの接触角よりも小さくなるように、プライミングロール35、インキ5または洗浄液40の各材料を選択して用いることで、洗浄性向上を行った。特に、プライミングロール35の表面を親水性にし、洗浄液40として水等を用いることによって洗浄性を向上させた。
【0031】
一般的に使用する有機EL材料は、有機系溶媒には可溶であるが、水系溶媒には不溶である。そのため、大量の水系溶媒に少量のインキを滴下すると、有機EL材料は固化して析出する。
プライミングロール35の表面のインキもしくは半渇きの材料に洗浄液40として水系溶媒を吹き付けると、材料が有機溶媒と分離して固化する。また、プライミングロール35は表面の濡れが水系溶媒にとても良いものを使用しているため、プライミングロール35と固化した材料との界面に水系溶媒が潜り込み、プライミングロール35の表面と材料とが剥離しやすくなる。さらに水系溶媒をある程度の打力を加えて吹き付けることで材料を完全に除去することが可能である。
【0032】
このとき、ある程度の剥離性を確保するために、プライミングロール35の表面は洗浄液40に対して接触角が10°以下であることが望ましい。一方で、プライミングロール35と材料、洗浄液40の組み合わせで剥離性、洗浄性が確保できる場合はこの限りではない。
洗浄液槽37に取り付けられた洗浄液排出管38の配管中にフィルターを設置する。洗浄後の液は、フィルターを通り排出され、その際固化している材料はフィルターによって分離されるため、回収することができる。
【0033】
図5は、印刷用凸版8の構成例を示す図である。版基材16上に樹脂層により形成される凸パターン15が形成されている。印刷用凸版8は、必要に応じて凸パターン15と版基材16との間に可視光線反射防止効果など機能性を付与するための層を加えて積層体としても良い。
凸パターン15が形成される版基材16としては、印刷に対する機械的強度を有すれば良く、合成樹脂、金属、またはそれらの積層体を用いることができ、中でも寸法安定性を保持するものが望ましい。
【0034】
凸パターン15を形成する樹脂の一成分となるポリマーは、合成樹脂やそれらの共重合体、セルロースなどの天然高分子などから一種類以上を選択することができるが、有機発光材料などといった塗工液を塗布する場合、有機溶剤に対する耐溶剤性の観点から、フッ素系樹脂が望ましい。また、少なくとも、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリウレタン、酢酸セルロースコハク酸エステル、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、カチオン型ピペラジン含有ポリアミドやこれらの誘導体といった水溶性溶剤に可溶なものを一種類以上含有することによっても耐溶剤性を付与することが可能となるため、これらの内から一つ以上を選択し用いることも望ましい。
【0035】
樹脂層による凸パターン15は、フォトリソグラフィー法、印刷法等の種々のパターン成型法を用いることができるが、パターンの高精細さの観点から、感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法が望ましい。感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法を凸パターン15の形成方法として適用する場合、基材層、感光性樹脂層が順次積層されている板状感光性樹脂積層体から凸パターン15を形成することが最も望ましい。感光性樹脂層の成型方法は、公知の方法を用いることができる。
【0036】
板状感光性樹脂積層体の成型方法を示す。基材上に反射防止層等を形成する場合には、ウェットコーティング法もしくはドライコーティング法により成膜し、積層体とする。次に積層体または基材に感光性樹脂層を公知の方法で成膜し、板状感光性樹脂積層体とする。
形成された板状感光性樹脂積層体に対してフォトリソグラフィー法を用い、公知の露光、現像の工程を経て、目的とする凸パターン15を形成する。
【0037】
図6は、ディスプレイなどのカラー表示用デバイスに用いられる隔壁基板を示す図である。隔壁基板は、被印刷基板2上に隔壁14を設けて各色の発光領域として画素領域が画定されている。通常は、赤色発光用画素領域10と、緑色発光用画素領域11と、青色発光用画素領域12の一組を画素13としてマトリックス状に配置される。画素領域の短辺方向に各色の画素領域が並び、長辺方向に同色発光用の画素領域が並んだ配列をとる。
図7は、凸版印刷装置200による印刷の様子を模式的に示した図である。隔壁基板で有機EL素子を作製する場合、複数の線状パターンから構成されるストライプパターンを用いて、画素領域の長辺方向に有機EL材料を転写することで、同色発光画素領域列に有機EL膜の形成を行う。
【0038】
<製造方法>
次に、隔壁基板を用いた有機EL素子の製造工程の一例を説明する。
図8は、本発明の実施の形態に係る有機EL素子の構成例を示す断面図である。
図9は、隔壁基板の構成例を示す断面図である。なお、本発明による製造工程はこれに限るものではない。
基板上に薄型トランジスタ(TFT)34を形成することで、アクティブマトリックス方式の有機EL素子用の基板とすることが可能である。本発明の駆動方式はアクティブマトリックスに限るものではない。
【0039】
TFT34や、その上層は支持体25で支持される。支持体25としては機械的強度や、寸法安定性に優れていることが好ましい。支持体25としては、絶縁性を有する基板であればいかなる基板も使用することができる。この支持体25側から光を取り出すボトムエミッション方式の有機EL素子とする場合には、支持体25として透明なものを使用する必要がある。
【0040】
例えば、ガラス基板や石英基板が支持体25として使用できる。また、フレキシブル性を求める場合などにはプラスチックフィルムやシートを用いても良い。これらに水分等の侵入を防ぐことを目的として、金属酸化物薄膜や高分子樹脂膜等を積層してもよい。
支持体25上に設けるTFT34は、公知の薄膜トランジスタを用いることができる。具体的には、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層26、ゲート絶縁膜27及びゲート電極28から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。薄膜トランジスタの構造としては、特に限定されるものではない。
【0041】
本発明の有機EL素子用の隔壁基板としては、TFT34に平坦化層31が形成してあるとともに、平坦化層31上に有機EL素子の下部電極(第一電極17)が設けられており、かつ、TFT34と第一電極17とが平坦化層31に設けたコンタクトホール32を介して電気接続してあることが好ましい。このように構成することにより、TFT34と、有機EL素子との間で、優れた電気絶縁性を得ることができる。
活性層26は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン等の無機半導体材料やチオフェンオリゴマー等の有機半導体材料により形成することができる。
【0042】
ゲート絶縁膜27としては、通常、ゲート絶縁膜として使用されているものを用いることができ、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO
2、ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO
2等を用いることができる。ゲート電極28としては、通常、ゲート電極として使用されているものを用いることができ、例えば、アルミ、銅、チタン、タンタル、タングステン、ポリシリコン、シリサイド、ポリサイド等が挙げられる。
表示装置は薄膜トランジスタ(TFT34)が有機EL素子のスイッチング素子として機能するように接続されている必要があり、トランジスタのドレイン電極30と有機EL素子の画素電極(第一電極17)が電気的に接続されている。
【0043】
TFT34とドレイン電極30と有機EL素子の画素電極(第一電極17)との接続は、平坦化層31を貫通するコンタクトホール内に形成された接続配線を介して行われる。
平坦化層31の材料についてはSiO
2、スピンオンガラス、SiN(Si
3N
4)、TaO(Ta
2O
5)等の無機材料、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、フォトレジスト材料、ブラックマトリックス材料等の有機材料等を用いることができる。形成方法については、材料に合わせて選択する。
【0044】
基板上には第一電極17が設けられる。第一電極17を陽極とした場合、その材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)等の金属複合酸化物や金、クロムなどの金属材料を単層または積層したものを何れも使用できる。第一電極17の形成方法は、材料に応じて選択される。
低抵抗であること、溶剤耐性があること、また、ボトムミッション方式としたときには透明性が高いことなどからITOが好ましく使用できる。ITOはスパッタ法によりガラス基板上に形成され、フォトリソ法によりパターニングされて第一電極17となる。
【0045】
第一電極17を形成後、第一電極17の縁部を覆うようにして隔壁14が形成される。
隔壁14は絶縁性を有する必要があり、感光性材料等を用いることができる。感光性材料としては、ポジ型であってもネガ型であってもよく、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、及びシアノエチルプルラン等を用いることができる。また、隔壁形成材料として、SiO
2、TiO
2等を用いることもできる。
【0046】
隔壁形成材料が感光性材料の場合、形成材料溶液をスリットコート法やスピンコート法により全面コーティングした後、露光、現像といったフォトリソ法によりパターニングが行われる。感光性材料を用いてフォトリソ法により隔壁を形成する場合、その形状は露光、現像条件により制御可能である。
また、隔壁形成材料がSiO
2、TiO
2の場合、スパッタリング法、CVD法といった乾式成膜法で形成可能である。この場合、隔壁のパターニングはマスクやフォトリソ法により行うことができる。
【0047】
次に、発光層及び発光補助層からなる有機EL層を形成する。この有機EL層の形成は、例えば
図7に示したように、凸版印刷装置200を用いた凸版印刷で行う。電極間に挟まれる有機EL層としては、発光層単独から構成されたものでもよいし、発光層に正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、電荷発生層といった発光補助層を加えた積層構造としてもよい。なお、発光補助層の有無は、必要に応じて適宜選択される。それぞれ用いられる材料は、特性に応じて選択ができる。
有機EL材料とそれを溶解または分散する溶媒は、それぞれインキ化が可能な組み合わせであればどれを用いてもよく、特性に応じて単独または混合して用いる。また、溶媒には必要に応じて界面活性剤、粘度調整剤等を添加してもよい。
【0048】
次に、第二電極22を形成する。第二電極22を陰極とした場合、その材料としては電子注入効率の高い物質を用いる。形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることができる。また、第二電極22をパターンとする必要がある場合には、マスク等によりパターニングすることができる。なお、本発明では第一の電極を陰極、第二の電極を陽極とすることも可能である。
【0049】
有機EL素子としては電極間に発光層を挟み、電流を流すことで発光させることが可能であるが、有機EL材料や電極形成材料の一部は大気中の水分や酸素によって容易に劣化してしまうため通常は外部と遮断するための封止体を設ける。封止体は、例えば第一電極17、発光層、発光補助層、第二電極22が形成された基板に対して、凹部を有するガラスキャップ、金属キャップを用いて、第一電極17、有機EL層、第二電極22上空に凹部があたるようにして、その周辺部についてキャップと基板とを接着剤23を介して接着させることにより封止が行われる。パッシベーション膜として、CVD法等を用いて、窒化珪素膜等を成膜することで、無機薄膜による封止体とすることも可能であり、またこれらを組み合わせることも可能である。
この実施の形態では、インキ補充装置3が本発明のインキ供給装置に対応している。また、洗浄液排出管38が本発明の回収機構に対応している。
【0050】
<実施の形態の効果>
本発明の実施の形態によれば、プライミングロール35の表面と洗浄液40との接触角が、プライミングロール35の表面とインキ5との接触角よりも小さくなるように、プライミングロール35、洗浄液40またはインキ5の各材料を選択して用いる。これにより、プライミングロール35の洗浄性の向上及び使用液量の少量化、材料回収効率と作業性の向上を達成し、さらに発光ムラの少ない有機EL素子を印刷法によって製造することができる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例及び比較例を示すが、本発明はこれに限られるものではない。
<実施例1>
(プライミングユニットの準備)
プライミングロール、洗浄液槽、洗浄液ノズル、乾燥ノズル、洗浄液の洗浄液排出管を備えたプライミングユニットを設置した。プライミングロールは、表面を親水性クロムでめっきし、水との接触角が10°以下であるものを用いた。洗浄液ノズルは二流体ノズルを用いた。乾燥ノズルからはクリーンエアーが吹き出るように設置した。洗浄液の洗浄液排出管の途中に、0.45μmフィルターを設置した。
【0052】
(被印刷基板の作製)
被印刷基板として、アクティブマトリックス基板を用いた。アクティブマトリックス基板は、支持体上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタと、その情報に形成された平坦化層と、平坦化層上にコンタクトホールによって前記薄膜トランジスタと導通が図られている画素電極を備えている。
アクティブマトリックス基板には、50×150μmのサブピクセルが3つ並んだ、150μm角サイズの画素が設計されている。
【0053】
このアクティブマトリクス基板の上に設けられている画素電極の端部を被覆し画素を区画するような形状で隔壁を形成した。この隔壁の形成は、日本ゼオン社製ポジレジストZWD6216−6をスピンコータにてアクティブマトリクス基板の全面に乾燥厚みが2μmであるように塗布した後、フォトリソグラフィーによって各隣接するサブピクセルの短辺方向に線幅25μm、長辺方向に線幅75μmの隔壁を形成した。
画素電極の上にスピンコート法により正孔輸送層として、ポリ−(3,4)−エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)1.5wt%水溶液が100nmの膜厚で成膜した。さらに、この成膜されたPEDOT/PSS薄膜は、減圧下100℃で1時間乾燥することで、被印刷基板を作製した。
【0054】
(感光性樹脂凸版104の作製)
厚さ250μmの42ニッケル材を印刷用凸版の版基材として、この基材の上に黒色顔料を混錬したアクリルバインダー樹脂溶液を乾燥膜厚が10μmになるように塗布して乾燥し、反射防止層を形成した。
水溶性ポリアミドを主成分とし、ラジカル重合性モノマーとしてとしてジペンタエリスリトールヘキサキスアクリレート、光重合開始剤として2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を混錬した感光性樹脂組成物が、基材の表面に版材の総厚が310μmとなるように溶融塗工したものを感光性樹脂層とし、ポリビニルアルコール溶液を乾燥膜厚1μmになるように塗布したポリエチレンテレフタレートフィルム(フィルム厚み125μm:帝人デュポンフィルム社製)をラミネートした。
【0055】
合成石英基材のクロムマスクを樹脂凸版パターンの原版とし、このマスクをプロキシミティ露光装置にセットしたものを用いて樹脂凸版を露光し、ストライプパターン形状の印刷用凸版を作製した。作製したストライプパターンは、短辺方向幅が25μm、短辺方向に25μm間隔で並ぶように形成した。
【0056】
(有機発光層形成用のインキの作製)
赤色、緑色、青色(R、G、B)の3色からなる以下の有機発光インキは、キシレンに溶解し調整した。赤色発光インキ(R)は、ポリフルオレン系誘導体のトルエン溶液(住友化学社製赤色発光材料、商品名Red1100)である。緑色発光インキ(G)は、ポリフルオレン系誘導体のトルエン溶液(住友化学社製緑色発光材料、商品名Green1300)である。青色発光インキ(B)は、ポリフルオレン系誘導体のトルエン溶液(住友化学社製青色発光材料、商品名Blue1100)である。それぞれのインキ溶液の濃度は、粘度がおおよそ40mPa・sで、画素における膜厚が50nmになるように調整してある。
【0057】
(印刷工程)
印刷用凸版を枚葉式の凸版印刷機の版胴に固定した。次に、上記の有機発光インキを突版印刷機のインキタンクに供給し、インキ吐出部からアニロックスロールに塗工し、ドクターでかき取られた後、凸版の凸部をインキングし、さらにプライミングロールに凸版の凸部からインキを転写した。
【0058】
(洗浄工程)
まず、洗浄液ノズルから純水を吐出し、洗浄液槽に純水を溜めた。その後、プライミングロールを印刷速度と同じ速度で回転させながら、洗浄液ノズルから純水を吹きつけ、そのまま乾燥ノズルからエアーを吹き付ける工程を、プライミングロール上にインキが完全に除去されるまで行った。
【0059】
<実施例2>
実施例2として、洗浄液をメタノールとしたこと以外は、実施例1と同様に素子を作製した。
<比較例1>
比較例1として、洗浄液をトルエンとしたこと以外は、実施例1と同様に素子を作製した。
【0060】
<実施例3>
実施例1のプライミングロールへの印刷工程と洗浄工程を10回繰り返した後、隔壁基板への印刷工程を行った。このときの洗浄工程におけるプライミングロールの洗浄回転数は1回である。また、プライミングロールと版のパターン位置は、毎回同じ位置が接触するように調整してある。
隔壁基板への印刷工程は、赤色有機発光層、緑色有機発光層、青色有機発光層それぞれに繰り返し、その後オーブン内にて130℃で1時間乾燥を行った。印刷により形成した有機発光層の上にカルシウムを10nm成膜し、さらにその上に銀を300nm真空蒸着し、最後にガラスキャップを用い封止を行い有機エレクトロルミネッセンス表示素子を作製した。
【0061】
<比較例2>
比較例2として、洗浄液をトルエンとしたこと以外は、実施例3と同様に素子を作製した。
<比較例3>
比較例3として、洗浄液をトルエンとしたことと、洗浄回転数を3回にしたこと以外は、実施例3と同様に素子を作製した。
実施例1、2と比較例1について、洗浄が完了するまでのプライミングロールの回転回数について計測を行った結果と、洗浄後のフィルターの観察結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
表1によると、洗浄液として純水やメタノールを使用した場合の方が、洗浄回転数が少なくてすむこと、フィルターによる材料の回収が可能であることがわかる。
実施例3と比較例2、3について、作製した素子を5×5区画で区切った25点での膜厚の平均値と、点灯表示結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
実施例3と比較例2との比較から、プライミングロール洗浄が不十分である場合、膜厚の平均値に極端に影響を及ぼすことはないが、素子の発光外観でムラを引き起こすことがわかる。
また、実施例3と比較例3との比較から、洗浄液は純水とトルエンの何れであってもプライミングロール上のインキ除去が十分であれば素子の点灯表示では問題がないことがわかる。