(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6127768
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】液中電位測定用電極装置
(51)【国際特許分類】
G01R 29/12 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
G01R29/12 F
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-131122(P2013-131122)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-4625(P2015-4625A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】末竹 哲也
(72)【発明者】
【氏名】三品 尚登
【審査官】
續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−285863(JP,A)
【文献】
特開2003−026088(JP,A)
【文献】
特開2009−236422(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/063737(WO,A1)
【文献】
特開2010−019815(JP,A)
【文献】
特開2012−157852(JP,A)
【文献】
特開2009−011905(JP,A)
【文献】
特開昭57−179737(JP,A)
【文献】
特開2003−270196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中に配置され液中の電位を測定するべく使用されるものであって、
内外を連通する開口が形成されるとともにその内に電極を収容する構造体と、
前記構造体の開口を遮蔽する孔の開いたフィルタと、
前記フィルタの外側面またはその近傍に設けられ、前記フィルタの孔と比較して大きな貫通孔が穿たれており、表面、フィルタに対面する裏面または貫通孔の内周面に前記電極の素材と同じイオン化成分を含有する抗微生物材が塗布されている基体と
を具備する液中電位測定用電極装置。
【請求項2】
前記電極の素材に銀が用いられ、前記抗微生物材がイオン化成分として銀を含有している請求項1記載の液中電位測定用電極装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中の電位を測定するために使用される液中電位測定用電極装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海中その他の液中での二点間の電位差を知得する目的で、二個の電極装置を液中に投入し、各電極装置により二点の微少電位を計測して、その時系列データを収集することがある。
【0003】
通常、電極装置は、内外を連通する開口が形成された構造体の内部に電極を収容し、その開口にフィルタを設置して構成されている(例えば、下記特許文献を参照)。フィルタは、構造体の内部に砂や泥、ごみ等が侵入することを防ぐ働きをする。フィルタには、絶縁性の多孔質ガラスや不織布等が用いられる。
【0004】
電極装置を長い時間に亘り液中に浸していると、フィルタに藻類等の微生物が付着、堆積してゆく。最終的には、フィルタを詰まらせてしまうおそれもある。このようなフィルタの汚損は、電極を介してセンシングされる電圧信号のS/N比の低下を招くことにつながるため、決して好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−019815号公報
【特許文献2】特開2007−285864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、液中電位測定用の電極装置のフィルタに藻類等の微生物が堆積することを抑止せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するべく、本発明では、液中に配置され液中の電位を測定するべく使用されるものであって、内外を連通する開口が形成されるとともにその内に電極を収容する構造体と、前記構造体の開口を遮蔽する
孔の開いたフィルタと、
前記フィルタの外側面またはその近傍に設けられ、前記フィルタの孔と比較して大きな貫通孔が穿たれており、表面、フィルタに対面する裏面または貫通孔の内周面に前記電極の素材と同じイオン化成分を含有する抗微生物材
が塗布されている基体とを具備する液中電位測定用電極装置を構成した。
【0008】
前記電極の素材に銀が用いられる場合、前記抗微生物
材はイオン化成分として銀を含有するものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液中電位測定用の電極装置のフィルタに藻類等の微生物が堆積することを抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態の液中電位測定用電極装置の側断面図。
【
図2】同実施形態の電極装置の使用方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態の液中電位測定用電極装置1の構造を示す。本電極装置1は、内外を連通する開口211が形成された構造体2と、構造体2の内部に収容される電極3と、構造体2の開口211を遮蔽するフィルタ4と、フィルタ4の外側面の近傍に設けられる抗微生物材5とを具備してなる。
【0012】
構造体2は、一端側が大きく開口した筒状をなすケース体21と、ケース体21の一端側に取り付けられる蓋体22とを要素とする。ケース体21の内部空間に配置される電極3は、支持体23を介してケース体21の内壁面に支持される。電極3に接続したリード線7は、ケース体21の他端側の底壁に穿たれた挿通孔212からケース体21の外部へと導かれる。
【0013】
ケース体21の内部空間における電極3の周囲の領域は、本電極装置1の外側を取り巻く液体と同等の液体で満たされる液室となる。本電極装置1を海中に投入して使用する場合には、人工海水や濃度3.5%のNaCl水溶液等が予め当該液室に注入される。
【0014】
蓋体22は、フィルタ4及び抗微生物材5をケース体21に固定するための部材であり、ケース体21の一端側に螺着または嵌着される。蓋体22には、ケース体21の開口211と同程度の大きさの流出入口221が開設されている。
【0015】
電極3は、液中の微少電位を計測することが可能であるよう、導電性の高い金属材料、特に銀を用いて構成される。本実施形態では、電極3の素材としてAgClを採用することを想定している。
【0016】
フィルタ4は、ケース体21の一端側の開口211を閉塞し、ケース体21の内部に砂や泥、ごみ等が侵入することを防ぐ。フィルタ4は、絶縁性を有し、かつケース体21の内部と外部との間で液体の流出入を許容する(但し、その流速が所定以上には高くならない、即ちケース体21の内外で顕著な液体の流れを発生させない)ような微細な孔の開いた部材とする。フィルタ4は、例えば、多孔質ガラスや不織布等を用いて構成される。
【0017】
抗微生物材5は、フィルタ4の外側面に微生物が付着、堆積してフィルタ4を汚損することを抑止する役割を担う。抗微生物材5は、電極3の素材と同じイオン化成分を含有し、そのイオンによって微生物の繁殖を抑える。電極3が銀を用いたものであるならば、抗微生物材5もまた銀を含有するものとして、銀イオンの殺菌作用をフィルタ4の特性の維持に利用する。電極3と抗微生物材5とでイオン化成分を等しくするのは、両者のイオン化傾向の差をできる限り小さくし、電極3にノイズとなる電流が流れることを抑制する意図である。
【0018】
本電極装置1においては、抗微生物材5たる銀が塗布(または、メッキ)された基体6が、フィルタ4の外側面に当接または近接した状態で配置される。基体6には、フィルタ4の孔と比較して顕著に大きな貫通孔61が複数穿たれている。本電極装置1の外側を取り巻く液体は、この貫通孔61を介して基体6の表裏間を自由に行き来できる。従って、フィルタ4の外側面側に基体6が設置されることによる電極3の感度特性の変化は殆どない。銀は、基体6の表面、裏面及び貫通孔61の内周面に塗布される。但し、フィルタ4に対面する基体6の裏面にのみ銀が塗布されていてもよいし、貫通孔61の内周面にのみ銀が塗布されていてもよい。
【0019】
フィルタ4、及び抗微生物材5を支持する基体6は、ケース体21の一端側の頂壁と蓋体22との間に挟持される。蓋体22と基体6との間、基体6とフィルタ4との間、及び/または、フィルタ4とケース体21の頂壁との間に、Oリングやガスケット等の部材8を介在させてもよい。
【0020】
図2に、本電極装置1の使用例を示している。液中の二点間の電位差を測定する場合、二個の電極装置1を各点にそれぞれ配置し、各電極装置1によりセンシングされる微少電位を船舶等に搭載したデータ処理装置(電子計算機)9において収集、処理する。
【0021】
本実施形態では、液中に配置され液中の電位を測定するべく使用されるものであって、内外を連通する開口211が形成されるとともにその内に電極3を収容する構造体2と、前記構造体2の開口211を遮蔽するフィルタ4と、前記電極3の素材と同じイオン化成分を含有し前記フィルタ4の外側面またはその近傍に設けられる抗微生物材5とを具備する液中電位測定用電極装置1を構成した。
【0022】
本実施形態によれば、フィルタ4に藻類等の微生物が付着して堆積することを抑制でき、電極3を介してセンシングされる電圧信号のS/N比の低下を長期間に亘って防止することができる。
【0023】
さらに、前記電極3の素材に銀が用いられ、前記抗微生物
材がイオン化成分として銀を含有しているならば、電極3の電気抵抗を十分に小さくできる上、銀イオンによる殺菌作用を有効利用してフィルタ4の汚損を防ぐことができる。
【0024】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、電極3の素材及び抗微生物材5の含有成分は、銀には限定されない。電極3を銅を用いて構成する場合、抗微生物材5はイオン化成分として銅を含有するものとする。
【0025】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、液中の電位を測定するための電極装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…電極装置
2…構造体
3…電極
4…フィルタ
5…抗微生物材