(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記押出機が、前記供給口上部、及び前記シリンダーにおける前記オープンベント(1)よりも上流端部側の位置の少なくとも一方に、更に前段オープンベントを有する請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ポリアミドオリゴマーを重縮合して、ポリアミドオリゴマーよりも高分子量のポリアミド樹脂を製造するポリアミドの製造方法である。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<ポリアミドオリゴマー>
本発明において原料となるポリアミドオリゴマーは、ジアミン単位と、ジカルボン酸単位を含有するものである。
ジアミン単位とジカルボン酸単位との含有量の割合は、重合反応の観点から、ほぼ同量であることが好ましく、ジカルボン酸単位の含有量がジアミン単位の含有量の±2モル%であることがより好ましい。ジカルボン酸単位の含有量がジアミン単位の含有量の±2モル%の範囲となると、ポリアミド樹脂の重合度が上がりやすく、重合が比較的短時間で済み、熱劣化が生じにくい。
ポリアミドオリゴマーは、本発明の効果を損なわない範囲で、ジアミン単位及びジカルボン酸単位以外の構成単位を更に含んでいてもよい。
【0012】
[ジアミン単位]
ポリアミドオリゴマー中のジアミン単位は、下記一般式(I−1)で表される芳香族ジアミン単位、及び下記一般式(I−2)で表される脂環族ジアミン単位から選ばれるジアミン単位を、ジアミン単位中に合計で70モル%以上含む。当該含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上であり、その上限値は100モル%である。
【0014】
一般式(I−1)で表される芳香族ジアミン単位を構成しうる化合物としては、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、及びパラキシリレンジアミンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
一般式(I−2)で表される脂環族ジアミン単位を構成しうる化合物としては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等のビス(アミノメチル)シクロヘキサン類が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類は、構造異性体を持つが、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの場合、cis体比率を高くすることで、ポリアミド樹脂は、結晶性が高くなり、成形性も良好となる。一方、cis体比率を低くすれば、結晶性が低い、透明なポリアミド樹脂が得られる。したがって、結晶性を高くしたい場合は、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンにおけるcis体含有比率を70モル%以上とすることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上とする。一方、結晶性を低くしたい場合は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン類におけるtrans体含有比率を50モル%以上とすることが好ましく、より好ましくは60モル%以上、最も好ましくは70モル%以上とする。
また、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの場合、trans体比率を高くすることで、ポリアミド樹脂は、結晶性が高くなり、成形性も良好となる。一方、trans体比率を低くすれば、結晶性が低い、透明なポリアミド樹脂が得られる。したがって、結晶性を高くしたい場合は、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンにおけるtrans体含有比率を70モル%以上とすることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上とする。一方、結晶性を低くしたい場合は、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおけるcis体含有比率を50モル%以上とすることが好ましく、より好ましくは60モル%以上、最も好ましくは70モル%以上とする。
【0016】
本発明では、ポリアミドオリゴマー中のジアミン単位として、一般式(I−1)で表される芳香族ジアミン単位、及び一般式(I−2)で表される脂環族ジアミン単位の少なくとも一方を含むことで、得られるポリアミド樹脂に優れたガスバリア性を付与するとともに、透明性や色調を向上させ、成形性も良好にすることができる。また、酸素吸収性能やポリアミド樹脂の性状を良好にできる観点からは、一般式(I−1)で表される芳香族ジアミン単位を含むことが好ましい。
【0017】
ポリアミドオリゴマー中のジアミン単位は、ポリアミド樹脂に優れたガスバリア性を発現させることに加え、汎用的な熱可塑性樹脂の成形性を容易にする観点から、メタキシリレンジアミン単位を50モル%以上含むことが好ましく、当該含有量は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、その上限値は100モル%である。
【0018】
式(I−1)及び(I−2)のいずれかで表されるジアミン単位以外のジアミン単位を構成しうる化合物としては、エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の炭素数2〜18、好ましくは炭素数2〜12の直鎖脂肪族ジアミン;パラフェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン等の脂環族ジアミン;N−メチルエチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等の直鎖脂肪族ジアミン以外の脂肪族ジアミン;ハンツマン社製のジェファーミンやエラスタミン(いずれも商品名)に代表されるエーテル結合を有するポリエーテル系ジアミン等を例示できるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
[ジカルボン酸単位]
ポリアミドオリゴマー中のジカルボン酸単位は、重合時の反応性、並びにポリアミド樹脂の結晶性及び成形性の観点から、下記一般式(II−1)で表される直鎖脂肪族ジカルボン酸単位、及び下記一般式(II−2)で表される芳香族ジカルボン酸単位から選ばれるジカルボン酸単位を、ジカルボン酸単位中に合計で50モル%以上含む。当該含有量は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、その上限値は100モル%である。
【0020】
【化3】
[前記一般式(II−1)中、nは2〜18の整数を表す。前記一般式(II−2)中、Arはアリーレン基を表す。]
【0021】
一般式(II−1)で表される直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、本製造方法により得られるポリアミド樹脂に適度なガラス転移温度や結晶性を付与することに加え、例えば包装材料や包装容器として必要な柔軟性を付与できる点で好ましい。
一般式(II−1)中、nは2〜18の整数を表し、好ましくは3〜16、より好ましくは4〜12、更に好ましくは4〜8である。
一般式(II−1)で表される直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸等を例示できるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
一般式(II−1)で表される直鎖脂肪族ジカルボン酸単位の種類は用途に応じて適宜決定される。直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、ポリアミド樹脂に優れたガスバリア性を付与することに加え、包装材料や包装容器の加熱殺菌後の耐熱性を保持する観点から、アジピン酸単位、セバシン酸単位、及び1,12−ドデカンジカルボン酸単位からなる群から選ばれる少なくとも1つを、直鎖脂肪族ジカルボン酸単位中に合計で50モル%以上含むことが好ましく、当該含有量は、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、また、上限値は100モル%である。
【0023】
ポリアミドオリゴマー中の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、ポリアミド樹脂のガスバリア性及び適切なガラス転移温度や融点等の熱的性質の観点からは、アジピン酸単位を直鎖脂肪族ジカルボン酸単位中に50モル%以上含むことが好ましい。また、ポリアミドオリゴマー中の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位は、ポリアミド樹脂に適度なガスバリア性及び成形加工適性を付与する観点からは、セバシン酸単位を直鎖脂肪族ジカルボン酸単位中に50モル%以上含むことが好ましい。また、ポリアミド樹脂が低吸水性、耐候性、耐熱性を要求される用途に用いられる場合は、1,12−ドデカンジカルボン酸単位を直鎖脂肪族ジカルボン酸単位中に50モル%以上含むことが好ましい。
【0024】
一般式(II−2)で表される芳香族ジカルボン酸単位は、ポリアミド樹脂に更なるガスバリア性を付与することに加え、包装材料や包装容器の成形加工性を容易にすることができる点で好ましい。
一般式(II−2)中、Arはアリーレン基を表す。アリーレン基は、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜15のアリーレン基であり、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
一般式(II−2)で表される芳香族ジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等を例示できるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
一般式(II−2)で表される芳香族ジカルボン酸単位の種類は用途に応じて適宜決定される。ポリアミドオリゴマー中の芳香族ジカルボン酸単位は、イソフタル酸単位、テレフタル酸単位、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸単位からなる群から選ばれる少なくとも1つを、芳香族ジカルボン酸単位中に合計で50モル%以上含むことが好ましく、当該含有量は、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、また、上限値は100モル%である。また、これらの中でもイソフタル酸及びテレフタル酸の少なくとも一方を芳香族ジカルボン酸単位中に含むことが好ましい。イソフタル酸単位とテレフタル酸単位との含有比(イソフタル酸単位/テレフタル酸単位)は、特に制限はなく、用途に応じて適宜決定される。例えば、適度なガラス転移温度や結晶性を下げる観点からは、両単位の合計を100としたとき、モル比で好ましくは0/100〜100/0、より好ましくは0/100〜60/40、更に好ましくは0/100〜40/60、最も好ましくは0/100〜30/70である。
【0026】
ポリアミドオリゴマー中のジカルボン酸単位において、上記した直鎖脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位との含有比(直鎖脂肪族ジカルボン酸単位/芳香族ジカルボン酸単位)は、特に制限はなく、用途に応じて適宜決定される。例えば、ポリアミド樹脂のガラス転移温度を上げて、ポリアミド樹脂の結晶性を低下させることを目的とした場合、直鎖脂肪族ジカルボン酸単位/芳香族ジカルボン酸単位は、両単位の合計を100としたとき、モル比で好ましくは0/100〜60/40、より好ましくは0/100〜40/60、更に好ましくは0/100〜30/70である。
また、ポリアミド樹脂のガラス転移温度を下げてポリアミド樹脂に柔軟性を付与することを目的とした場合、直鎖脂肪族ジカルボン酸単位/芳香族ジカルボン酸単位は、両単位の合計を100としたとき、モル比で好ましくは40/60〜100/0、より好ましくは60/40〜100/0、更に好ましくは70/30〜100/0である。
【0027】
一般式(II−1)又は(II−2)で表されるジカルボン酸単位以外のジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、マレイン酸、1,3−ベンゼン二酢酸、1,4−ベンゼン二酢酸等のジカルボン酸を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
[ポリアミドオリゴマーの水分率]
本発明において原料となるポリアミドオリゴマーは、その水分率が3質量%以下となるものである。本発明では、水分率が上記範囲内になることで、後述する製造方法により工程上の不具合を生じさせることなく、ポリアミドオリゴマーを高分子化して、ポリアミド樹脂を製造することができる。
一方で、水分率が3質量%より高くなると、ポリアミド樹脂の製造過程で、押出機のオープンベントから大量の水が噴出したり、供給部側に水蒸気が逆流したりし、さらにはオリゴマーがシリンダー内で固化して押出ができなくなる等の不具合が生じる。
本発明において、原料となるポリアミドオリゴマーの水分率は、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下である。
【0029】
また、ポリアミドオリゴマーの加熱及び混練により発生する水蒸気を、後述するように、シリンダーにおける供給口の位置よりも下流でかつ降圧エレメントの位置よりも上流側に設けられるオープンベント(1)から排出するが、ポリアミドオリゴマーの水分率が高い場合、そのオープンベント(1)からの水蒸気の発生量が多くなり、オープンベント(1)を加圧状態に維持し易くなる。また、水分率を高くすると、オリゴマーの乾燥を短時間にできる等、工程の効率化を達成しやすくなる。これらの観点から上記水分率は、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。
【0030】
[ポリアミドオリゴマーの相対粘度]
ポリアミドオリゴマーや後述するポリアミド樹脂の分子量を表す指標としては、相対粘度がある。本発明において、原料となるポリアミドオリゴマーの相対粘度は1.1〜1.3となることが好ましい。相対粘度を1.1以上とすることで、シリンダーの前段部分において重縮合反応が急速に進むことが防止でき、それにより、シリンダーの上流部分で多量の水分が発生するのを防止できる。また、相対粘度を1.3以下とすることで、原料となるオリゴマーを簡便な方法で製造することができる。
【0031】
[ポリアミドオリゴマーの黄色度]
本発明の原料であるポリアミドオリゴマーの黄色度は、好ましくは10以下、より好ましくは7以下である。原料ポリアミドオリゴマーの黄色度を低くすることで、製造されるポリアミド樹脂の黄色度も良好なものとすることができる。
【0032】
[ポリアミドオリゴマーの製造方法]
本発明におけるポリアミドオリゴマーは、ポリアミド樹脂のジアミン単位に対応するジアミン成分と、ジカルボン単位に対応するジカルボン酸成分とを、重縮合反応することにより得られるものである。
重縮合反応は例えば溶融重縮合法により行われる。具体的には、ジカルボン酸成分と、ジアミン成分とからなるナイロン塩を、水の存在下、加圧下で加熱して重縮合反応を行う方法が挙げられる。このとき、必要に応じて縮合水を脱水しつつ反応を行ってもよい。また、得られたポリアミドオリゴマーは、最終的に、フラッシュ等により水から分離して、粉状のポリアミドオリゴマーを得ることが可能である。
また、溶融重縮合法としては、ジアミン成分を溶融状態のジカルボン酸成分に直接加えて、重縮合する方法を挙げることもできる。この場合、反応系を均一な液状状態に保つために、ジアミン成分をジカルボン酸成分に連続的に加え、その間、反応温度が生成するポリアミドオリゴマーの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ重縮合が進められる。また、ジアミン成分を滴下する間、反応系を加圧してもよい。
また、ポリアミドオリゴマーは、重縮合反応の後に適宜乾燥等されて、上記した水分率となるように調整されてもよい。
【0033】
[リン原子含有化合物、アルカリ金属化合物]
原料となるポリアミドオリゴマーは、ジカルボン酸成分と、ジアミン成分が、リン原子含有化合物存在下、重縮合して得られたものであることが好ましい。このように、ポリアミドオリゴマー製造前にリン原子含有化合物が配合されると、ポリアミドオリゴマー及びポリアミド樹脂を製造する際の重合性を良好にできるとともに、ポリアミドオリゴマー及びポリアミド樹脂の着色を防止することができる。
リン原子含有化合物としては、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸等のホスフィン酸化合物;次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸エチル等のジ亜リン酸化合物;ホスホン酸、ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸リチウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸マグネシウム、ホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム等のホスホン酸化合物;亜ホスホン酸、亜ホスホン酸ナトリウム、亜ホスホン酸リチウム、亜ホスホン酸カリウム、亜ホスホン酸マグネシウム、亜ホスホン酸カルシウム、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム、フェニル亜ホスホン酸エチル等の亜ホスホン酸化合物;亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等が挙げられる。
これらの中でも特に次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム等の次亜リン酸金属塩が、重縮合反応を促進する効果が高くかつ着色防止効果にも優れるため好ましく用いられ、特に次亜リン酸ナトリウムが好ましい。なお、本発明で使用できるリン原子含有化合物はこれらの化合物に限定されない。
【0034】
リン原子含有化合物の配合量は、ポリアミドオリゴマー中のリン原子濃度換算で10〜500ppmであることが好ましく、より好ましくは20〜300ppmである。10ppm以上であれば、適切な速度で重縮合反応が進むとともに、重縮合反応中に着色が生じにくい。500ppm以下であれば、ポリアミドオリゴマーやポリアミド樹脂がゲル化しにくく、また、リン原子含有化合物に起因すると考えられるフィッシュアイの成形品中への混入も低減でき、成形品の外観が良好となる。
【0035】
原料となるポリアミドオリゴマーは、リン原子含有化合物に加えてアルカリ金属化合物存在下で、重縮合して得られたものであってもよい。
ポリアミド樹脂及びポリアミドオリゴマーの着色を防止するためには、十分な量のリン原子含有化合物を存在させる必要があるが、リン原子含有化合物があると、場合によってはポリアミドオリゴマーやポリアミド樹脂のゲル化を招くおそれがある。そのため、リン原子含有化合物に加えてアルカリ金属化合物を配合することで、アミド化反応速度を調整し、ゲル化を防ぐことができる。
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属アルコキシド等が好ましい。本発明で用いることのできるアルカリ金属化合物の具体例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、炭酸ナトリウム等が挙げられるが、これらの化合物に限定されることなく用いることができる。なお、ポリアミドオリゴマーにおけるリン原子含有化合物とアルカリ金属化合物の比率(モル比)は、重合速度制御の観点や、黄色度を低減する観点から、リン原子含有化合物/アルカリ金属化合物=1.0/0.05〜1.0/1.5の範囲が好ましく、より好ましくは、1.0/0.1〜1.0/1.2、更に好ましくは、1.0/0.2〜1.0/1.1である。
【0036】
<ポリアミド樹脂>
本発明の製造方法において得られるポリアミド樹脂は、ポリアミドオリゴマーと同様のジアミン単位と、ジカルボン酸単位とを有する。また、ポリアミドオリゴマーと同様に、任意でジアミン単位及びジカルボン酸単位以外の単位も含んでいてもよい。
【0037】
[ポリアミド樹脂の分子量]
本発明の後述する製造方法によれば、ポリアミド樹脂は、十分に高分子化でき、その相対粘度を高めることができる。本発明の製造方法で得たポリアミド樹脂の相対粘度は、好ましくは1.8〜4.0であり、より好ましくは2.0〜3.5である。相対粘度が1.8以上であれば、成形加工時の溶融粘度不足に起因する成形性の問題を生じさせることなく、本発明で得たポリアミド樹脂を利用できる。また、相対粘度が4.0以下であれば、成形加工時の溶融粘度が高すぎることによる成形性の問題を生じさせることなく、本発明で得たポリアミド樹脂を利用できる。
【0038】
[ポリアミド樹脂の分散度]
ポリアミド樹脂の分散度を示す指標としては分子量分布(Mw/Mn)がある。本発明で得られるポリアミド樹脂は、その分散度が比較的低くなるものである。具体的には、Mw/Mnは、好ましくは1.8〜2.5となるものであり、より好ましくは1.8〜2.3である。分子量分布が1.8以上であれば、成形性に特に問題がなく、分子量分布が2.5以下であれば、低分子量成分等が少なく、高温下での成形時の色の変化や、成形体の高温加工における色の変化が少ないと共に耐熱性や耐衝撃性に優れる。
【0039】
[ポリアミド樹脂の水分率]
本発明で得られるポリアミド樹脂は、後述するように、脱水が十分に進み水分率が低くなる。水分率は、具体的には、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。また、水分率は、効率的にポリアミド樹脂を製造するために、例えば0.01質量%以上となるものである。ここで言う水分率は空冷による冷却を行った場合(空冷式)において測定した値である。
なお、後述する押出機から押し出して得られたストランド状の樹脂の冷却方法には、空冷式と水浴により冷却する水冷式などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。水冷式の場合、急冷することが可能であるが、乾燥工程が必要になる場合がある。空冷式の場合、乾燥工程を省くことが可能であるが、冷却距離が必要となる。
【0040】
[ポリアミド樹脂の黄色度]
本発明で得られるポリアミド樹脂は、加熱による熱履歴が少なく、その黄色度を低い値に抑えることができる。具体的には、黄色度は30以下が好ましく、25以下がより好ましい。
【0041】
[ポリアミド樹脂の融点]
本発明では、後述する製造方法により、融点が高いポリアミド樹脂であっても製造可能となる。ポリアミド樹脂の融点は、例えば220℃以上であるが、本発明では、融点が300℃以上のポリアミド樹脂を製造することもできる。ポリアミド樹脂の融点は、通常、380℃以下、好ましくは360℃以下である。なお、本明細書でいう融点とは、ポリアミド樹脂が2つの融点ピークを有する場合、特に言及のない限り、高温側のピークの温度をいう。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂は、例えば、各種液体飲料、各種液体系食品、液状の医薬品、液状の日用品等の各種製品を収納し保存する包装容器;各種食料品、各種医薬品、各種日用品、各種電子材料、ガソリン、各種農薬、各種有機溶媒等、種々の製品を包装する包装材料、繊維、CFRP等の工業材料;自動車等の燃料タンク、燃料チューブ、コネクター、摺動部品、ラジエータタンク、エンジンマウント、コネクター部品等や液晶ディスプレイ用のバックライト光源、半導体基板部品、携帯電話・パソコン等の筺体、金属代替部品等の工業用部品等の物品に成形可能である。
【0043】
<ポリアミド樹脂の製造方法>
本発明では、押出機を用いて上記のポリアミドオリゴマーを重縮合して、ポリアミド樹脂を得るものである。本発明で使用される押出機は、シリンダー内に同方向回転かみ合い型二軸スクリューを備える押出機であって、ポリアミドオリゴマーを、供給口からシリンダー内に供給して、該シリンダー内で溶融混練することにより、重縮合してポリアミド樹脂を製造するものである。
本発明で使用される押出機は、オープンベント(1)及び真空ベントを有し、真空ベントの位置よりも上流側に降圧エレメントが設けられるとともに、オープンベント(1)がシリンダーにおける供給口よりも下流でかつ降圧エレメントの位置よりも上流側に設けられるものである。
更に、押出機は、降圧エレメントの下流側において真空ベントにより負圧にされることで全スクリュー長さの50%以下の範囲を300torr以下の真空領域とするものである。
また、本発明は、かかる押出機を用い、上記したオープンベント(1)の下に位置するポリアミド樹脂の相対粘度η1と、押出機から押し出されるポリアミド樹脂(すなわち、本製造方法により得られるポリアミド樹脂)の相対粘度η2との相対粘度差を0.9以下として、ポリアミド樹脂を製造するものである。なお、本発明では、相対粘度η2が相対粘度η1よりも大きくなるので、相対粘度差は、(η2−η1)で表される。
【0044】
以下、本発明の製造方法を、図面を参照しつつより詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態で使用される押出機の一例を示す。
図2は、押出機の他の一例を示す。なお、これら図面においては互いに対応する部材には同じ符号を付す。
図1、2に示すように、本発明の一実施形態で使用する押出機は、シリンダーの上流側の位置に配置され、供給口A2を備える供給部Aと、内部に同方向回転かみ合い型二軸スクリューを備えるシリンダーSとを有する。該シリンダーSは、供給口A2よりも下流側に配置され、樹脂を混練ないし混合するための複数の混練部B1〜B4と、最も下流側の位置に配置されるダイDとを有する。また、シリンダーSは、供給口A2と混練部B1の間、各混練部B1〜B4の間、及び混練部B4とダイDとの間に、樹脂を搬送するための搬送部E1〜E5を有する。なお、
図1、2の例では、混練部B1〜B4を4つ示すがこれに限定されるわけではなく、1つ以上であればいくつあってもよい。
ただし、後述する真空領域VAより上流側に、1つ以上の混練部があることが好ましく、2つ以上の混練部があることがより好ましい。また、真空領域VAにも、1つ以上の混練部があることが好ましい。
【0045】
一般的に同方向回転かみ合い型二軸スクリューを備える押出機は、シリンダー内において、二本のスクリューが同方向に回転し、かみ合い比が1.2〜1.7で、セルフクリーニング性を有する押出機である。
また、スクリューの回転数は、装置の特性によって設定され特に限定されないが、50〜400rpm程度が好ましく、より好ましくは80〜350rpm程度である。本発明では、例えば、スクリュー回転数を高くすることで、押出機の上流部分における反応を進行させやすくなり、相対粘度η1の値を高くしやすくなる。
【0046】
本発明では、原料となるポリアミドオリゴマーが、供給口A2よりシリンダーS内部に供給され、加熱されつつ搬送部E1〜E5、混練部B1〜B4を通ってダイDまで送られる。ここで、ポリアミドオリゴマーは、搬送部E1〜E5、混練部B1〜B4において加熱されて溶融され、かつ混練部B1〜B4で混練されることにより重縮合して、重合度が高められ、ポリアミド樹脂としてダイDから押し出される。
本発明では、特に限定されないが、原料となるポリアミドオリゴマーは、粉状、粒子状、あるいは、ペレット状で供給部Aに投入される。
【0047】
シリンダー内にて、ポリアミド樹脂ないしオリゴマーが溶融、混練され、適切に押出ができるようにするために、押出機の内部は、少なくとも一部が、製造されるポリアミド樹脂の融点よりも高い温度に設定され、ダイDから押し出される樹脂温度が、製造されるポリアミド樹脂の融点より高くされる。
シリンダーの内部温度は、全て一定に設定されていてもよいが、相対的に低い温度の領域と、相対的に高い温度の領域を有してもよい。例えば、重合反応が進むとともに、ポリアミドの軟化温度が上昇し、耐熱性も向上するため、最も上流側の領域が相対的に低い温度に設定されるとともに、その他の領域が相対的に高い温度に設定されてもよい。また、上流側でポリアミドオリゴマーを素早く軟化させ、スクリュー内に充満させる必要がある場合は、上流側の温度をやや高めにし、中間部の温度を低くし、下流側を上流側より高く設定されてもよい。さらに、できる限りポリアミドへの熱による劣化を防ぐ必要がある場合は、下流側の温度をポリアミドの問題ない軟化温度付近まで温度を下げることで、樹脂圧を安定化させ、ストランドでの抜出性を安定させてもよい。
なお、いずれの場合でも、シリンダーSにおいて、最上流側の混練部B1が設けられた領域から、最下流側の混練部B4が設けられた領域までの温度は、得られるポリアミド樹脂の融点以上に設定したほうがよい。また、その温度の上限値は、特に限定されないが、上記融点より50℃以上高くしないほうが良く、融点より35℃以上高くしないほうがより好ましい。
【0048】
前記スクリューにおいて、各混練部B1、B2に対応する部位は、混練エレメントXからなる。また、混練部B3、B4に対応する部位は、混練エレメントXと、その混練エレメントXの下流にある降圧エレメントYからなる。混練エレメントXは、後述するように、ニーディングディスク、ローター、ミキシングエレメント、又はミキシングギア等から適宜選択される。ただし、混練エレメントXは、これらのエレメントのうちの2つ以上を組み合わせて、1つの混練エレメントXとすることもできる。
降圧エレメントYは、降圧能力を有し、各混練部B3、B4において、混練エレメントXにおける樹脂ないしオリゴマーの充満率を大きくするものであり、逆ネジ型フルフライト、シーリングディスク等で構成される。各混練部において、降圧エレメントYが、混練エレメントXに対応する部分の樹脂ないしオリゴマーの充満率を高めることにより、混練エレメントXが、樹脂ないしオリゴマーを適切に混合・分散できるようになる。さらに、降圧エレメントYは、ねじ型フルフライトにより、溶融樹脂の流れを逆流させ、あるいは、シーリングディスク等により溶融樹脂の流れを堰き止めるものである。したがって、降圧エレメントYは、後述するように、その下流にある真空ベントとともに、降圧エレメントYよりも下流側の領域を負圧にして真空領域とすることができる。また、後述するように、混練部B3の降圧エレメントYは、真空領域VAと、前段領域OAとの間をシールするものである。
ただし、混練部B1、B2は、混練エレメントXのみからなる必要はなく、混練部B3,B4と同様に、混練エレメントXの下流側に降圧エレメントYが設けられてもよい。
また、前記スクリューにおいて、搬送部E1〜E5に対応する部位は、例えばフルフライトスクリューエレメント等の送りスクリューからなる。そのスクリュー形状は一条ネジであっても二条ネジ、又は三条ネジであっても良いが、二条ネジが最も汎用的である。
【0049】
押出機には、オープンベントOV1(オープンベント(1))及び真空ベントVV1、VV2がシリンダーに設けられ、本発明では、シリンダーにおいてはオープンベントOV1が上流側に、真空ベントVV1,VV2が、下流側(ダイD側)に配置される。
また、後述するように、供給口の上部、又はシリンダーにおいて、上記オープンベントOV1よりも上流端部側にさらにオープンベントOV0(前段オープンベント)が設けられることが好ましい。なお、上流端部とは、シリンダーにおいてダイが設けられる端部(ダイ側端部)とは反対側の端部をいう。
【0050】
真空ベントVV1,VV2は、真空ポンプ等により吸引されており、押出機内部を負圧とするものである。より具体的には、真空ベントVV1は、混練部B3、B4の間の搬送部E4に、真空ベントVV2は、混練部B4とダイDの間の搬送部E5に配置される。これにより、押出機では、混練部B3の降圧エレメントYよりも下流側の領域であって、搬送部E4からダイD側の端部までの領域が、真空ベントVV1、VV2によって真空領域VAとされる。
なお、
図1、2における真空ベントの数及び配置位置は一例であって、1つ以上あれば限定されるわけではなく、真空領域VAを所定の長さと所定の真空度にできるような数と配置位置であればよい。
ただし、下流側の領域の真空度を確保するとともに、ポリアミド樹脂の分子量を上げるために、真空ベントは、少なくとも1つが押出機のダイD側の端部から全スクリュー長さの25%以下の範囲内に設けられることが好ましい。
一方、オープンベントOV1は、供給口A2よりも下流側であって、混練部B3の降圧エレメントY(すなわち、真空領域VA)よりも上流側の領域(前段領域OAとする)に配置される。また、シリンダーにおいて、オーブンベントOV1と、混練部B3との間にはオープンベントが設けられず、オープンベントOV1は、前段領域OAにおいて最も下流側に配置されたオープンベントとなる。
【0051】
また、本発明において、供給部Aは、例えば、
図1に示すように、ホッパー等のオリゴマーが投入される投入部A1と、投入部A1から投入されたオリゴマーを横方向に送り出す送り出し部A3と、シリンダーとの接続部分であり、シリンダー内にオリゴマーを供給するための供給口A2とを備える。供給部Aは、送り出し部A3を備えることで、投入部A1に投入されたオリゴマーの量を制御しつつシリンダー内にオリゴマーを供給することができる。また、
図1に示した供給部Aは、供給口A2上部の位置にオープンベントOV0(前段オープンベント)が設けられている。
このような形式の粉体フィーダーは、安定的な粉体供給が可能で、かつ、水蒸気を効率良く外部に排気できる。フィーダーの計量方法は、定量式でも重量式でも構わない。
供給部Aは、2軸スクリュー式の粉体フィーダーであることが好ましく、その場合、送り出し部A3の内部には、2軸スクリューが設けられる。具体的な2軸スクリュー式の粉体フィーダーとしては、株式会社クボタ製の2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダー、K-トロン社製2軸スクリュー式フィーダーが挙げられる。
【0052】
ただし、供給部Aは、
図2に示すように、送り出し部A3が省略されるものであってもよい。この場合、投入部A1は例えば供給口A2の上方に設けられるとともに、オープンベントOV0(前段オープンベント)は、いわゆるリアベント等で構成され、具体的には、シリンダーにおける供給口A2の位置よりも上流端部側の位置に接続される。
なお、供給部Aが送り出し部A3を有する場合であっても、オープンベントOV0は、いわゆるリアベント等で構成され、シリンダーにおける供給口A2の位置よりも上流端部側の位置に接続されてもよい。
このように、本発明では、オープンベントOV0が、供給口A2に近い位置に設けられることにより、シリンダー内の供給口A2付近で発生した水蒸気を速やかにシリンダー外に排出することができ、反応を早期に進行させることができる。
【0053】
また、押出機に投入するオリゴマーとして、例えば水分率が1質量%以上あるポリアミドオリゴマーを用いる場合、シリンダー内でオリゴマーが加熱され混練されることにより発生する水蒸気の量が多くなる。そのため、供給口A3付近にオープンベントOV0がないと、オープンベントOV1からの水蒸気の排出が間に合わず、水蒸気が供給部Aに逆流することがあるが、オープンベントOV0があることでそのような逆流が防げる。そのため、逆流した水蒸気により、シリンダーに供給すべきオリゴマーが湿り、例えばオリゴマー同士がダマになることが防止され、それにより、シリンダーに供給されるオリゴマーの量が制御しやすくなる。また、シリンダー内に供給された後にオリゴマーが溶融しにくくなる等のフィード不良も防止でき、さらには、供給部付近で樹脂が詰まったりすること等も防止できる。
【0054】
また、オープンベントOV0(前段オープンベント)は、シリンダーSにおける供給口A2よりも上流端部の位置、又は供給部上部の位置に配置される構成に限定されるものでもなく、例えば、シリンダーSにおいて、オープンベントOV1と、供給口A2の間に配置されてもよい。
【0055】
さらに、シリンダーSの上流部分で水分除去や重縮合反応が十分に進まない場合には、オープンベントOV0(前段オープンベント)を2つ設けてもよい。すなわち、シリンダーSにおいてオープンベントOV1よりも上流端部側の任意の位置、及び供給口上部の位置から選択される2箇所それぞれに、オープンベントOV0(前段オープンベント)を設けてもよい。この場合、例えば、供給口上部の位置に一方の前段オープンベントを設けるとともに、シリンダーSにおいて供給口A2よりも上流端部側の位置に他方の前段オープンベント(リアベント)を設けるとよい。
また、オープンベントOV0(前段オープンベント)は、適宜、ベントスタッファー、ロングベント、ショートベント等にしてもよい。
【0056】
本発明におけるポリアミドオリゴマーは、分子量が低く、シリンダーの上流部分では比較的反応が速く進み、大量の水が発生する。大量に発生した水は、供給口A2の近くに設けたオープンベントOV0、及びオープンベントOV1から抜き出される。そのため、シリンダー内の脱水が適切に進み、シリンダーの上流側で適切に重縮合反応を進行するため、オープンベントOA1の下に位置するポリアミド樹脂の相対粘度η1を後述するように比較的高いものとすることでき、押出機から押し出されるポリアミド樹脂との相対粘度差を小さくしやすくなる。
また、ポリアミド樹脂は、押出機の下流部分では、含水率が低く、かつ分子量も高くなるが、押出機の下流部分が真空領域VAであるので、その負圧下において含水率が適切に下げられ、反応が進行する。
【0057】
本発明では、オープンベントOV1は加圧状態にあることが好ましい。オープンベントOV1が「加圧状態である」とは、シリンダー内の圧力が相対的に高くシリンダー外の圧力が相対的に低く、オープンベントOV1から水蒸気が排出されている状態をいう。オープンベントOV1から水蒸気が排出されていることは、目視により水蒸気を観察することにより確認することができる。また、客観的には、ベント口の上方1mの高さにて、風速計(カノマックス社製アネモマスターライト Model6006)で、0.1m/s以上の風量が測定されれば、オープンベントOV1が加圧状態であると判断することができる。また、オープンベントOV1は、外部からの空気がシリンダー内部に入ることを有効に防止するためには、その風量は、0.5m/s以上であることが好ましい。また、風量の上限は特に限定されないが、シリンダー内の溶融樹脂を巻き込んでベントアップすることを防止するために、5m/s以下であることが好ましい。
また、オープンベントOV1は、ショートベント、ロングベントのいずれでもよいが、例えば風量が高くなりすぎるおそれがある場合等には、ロングベントを使用すればよい。
【0058】
本発明では、オープンベントOV1を加圧状態にすることで、シリンダー内の水分を確実に抜き出すことができる。また、オープンベントOV1を加圧状態にすることで、オープンベントOV1を通じて真空ベントVV1側に外部から空気を巻き込まれにくくし、その空気(酸素)の影響によって樹脂の黄色度が増加することを防止する。さらには、モル比のズレによって、得られるポリアミド樹脂の分子量が増加しにくくなることを防止できる。加えて、真空領域VAの真空度を確保しやすくなる。
また、本発明では、オープンベントOV0(前段オープンベント)も、加圧状態であることが好ましく、それにより、シリンダー内の水分をより確実に抜き出すことができ、重縮合反応を適切に進行させることができる。
【0059】
また、本発明では、オリゴマー中の水分及び重縮合反応により生じる水分を、シリンダーSからより確実に抜き出すために、オープンベントOV1が常に加圧状態となるよう、真空ベントVV1前で確実にシリンダー内をシールしたほうがよい。
本発明では、オープンベントOV0,OV1において水分を除去しつつ、前段領域OAで、樹脂を十分に混練させかつ反応させることで、溶融樹脂の粘度を十分に上げ、それにより、混練部B3の降圧エレメントYにおけるシール性を十分に高めることができる。粘度の高い溶融樹脂は、シリンダー内壁と、降圧エレメントYとの間隙をすり抜けにくいため、シリンダー内を十分にシールすることができるからである。
【0060】
また、ポリアミドオリゴマーは、少なくともオープンベントOV1の位置に到達するまでに完全に溶融していることが好ましい。
このように、ポリアミドオリゴマーは、オープンベントOV1の位置に到達する前に溶融することで、オープンベントOV1を粉状オリゴマーで閉塞させることなく、オープンベントOV1から積極的に水を抜くことができる。
【0061】
また、オープンベントOV1は、
図1及び
図2に示すように、混練部B1、B2の間に設けることが好ましい。ポリアミドオリゴマーは、混練部B1を通過することで十分に溶融されるため、オープンベントOV1が混練部B1の下流にあると、粉体状のオリゴマーがオープンベント口を閉塞することを防止できる。
また、オープンベントOV1を混練部B2よりも上流側に配置することで、オープンベントOV1を加圧状態に維持しやすくなる。また、ポリアミドオリゴマーは、オープンベントOV1通過後、混練部B2でも十分に反応が進むため、後述するように、相対粘度差を0.9以下とすることと相俟って、真空領域VAで粘度が急上昇することが防止され、サージングをより適切に防止することができる。
さらに、オープンベントは、混練部B3に隣接する搬送部E3には設けられないほうが良い。搬送部E3にオープンベントがあると、オープンベントが加圧状態に維持されにくく、また、オープンベントから真空ベントVV1側に空気が巻き込まれやすいからである。
また、オープンベントOV1から真空領域VAの最上流側までの長さは、全スクリュー長さの30〜50%であることが好ましく、34〜47%であることがより好ましい。このような範囲となることで、オープンベントOV1通過後、真空領域VAに到達するまでに適宜反応が進み、後述するように、相対粘度差を0.9以下とすることと相俟って、真空領域VAで粘度が急上昇することが防止され、サージングをより適切に防止することができる。
ただし、オープンベントOV1は、前段領域OAに配置されれば、その配置位置は特に限定されない。
【0062】
本発明では、上記真空領域VAは、全スクリュー長さの50%以下の範囲となるものである。真空領域VAの範囲が、50%より大きくなると、ポリアミド樹脂が溶融や脱水されていない状態で、真空領域VAに送られ、真空ベントが目詰まり等を起こし、適切な真空状態を保持できなくなることがある。また、相対粘度差を0.9以下とすることが難しくなる。これら観点から、真空領域VAの長さは、全スクリュー長さの40%以下であることがより好ましい。
また、真空領域VAの長さは、全スクリュー長さの10%以上であることが好ましい。真空領域VAの長さを10%以上とすることで、脱水を十分に行うことが可能になり、得られるポリアミド樹脂の含水率を低くできる。また、重縮合反応を十分に進行させて、得られるポリアミド樹脂の分子量を十分に大きくすることも可能になる。このような観点から、上記真空領域VAの長さは、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
【0063】
本発明では、真空領域VAの真空度は、300torr以下に保たれる。真空領域VAの真空度が300torrより大きくなると、オリゴマーは十分に脱水されずに、得られるポリアミド樹脂の含水率を十分に低下させることができない。また、ポリアミド樹脂の重縮合反応を適切に進行させることができず、分子量を十分に大きくできないおそれがある。また、ポリアミド樹脂の黄色度(YI)が高くなるおそれもある。
真空領域VAの真空度は、200torr以下にすることが好ましく、180torr以下がより好ましい。真空度をこれら上限値以下とすることで、ポリアミド樹脂の含水率を更に低くすることができ、重縮合反応もより進行させやすくなる。
なお、真空度の下限値は、特に限定されないが、装置の特性等により、通常1torr以上となる。
なお、本発明では、押出機内部において、真空領域VAよりも上流側の前段領域OAは、好ましくは、実質的に負圧にされない常圧、又は常圧よりわずかに圧力が高い領域となる。なお、この領域には、通常、供給部Aから窒素等の不活性ガスが流されている。
【0064】
本発明において、真空度の測定は、各真空ベントにて行われる。例えば、
図1及び
図2の例では、真空ベントVV1は、供給部E4及び混練部B4を負圧とするものであり、真空ベントVV1で測定された真空度は、これら供給部E4及び混練部B4の真空度とされる。同様に、真空ベントVV2は、供給部E5及びダイD内部を負圧とするものであり、真空ベントVV2で測定された真空度は、これら供給部E5及びダイD内部の真空度とされる。
【0065】
本発明では、オープンベントOV1の下に位置するポリアミド樹脂の相対粘度η1と、ダイD先端から得られたポリアミド樹脂(すなわち、本発明で製造されるポリアミド樹脂)の相対粘度η2の相対粘度差(η2−η1)が0.9以下となるものである。
本発明では、相対粘度差(η2−η1)が0.9よりも大きいと、真空領域VAと、前段領域OA間の粘度差が大きくなり、前段領域OAにあるオリゴマー又は樹脂が、真空領域VAにあるポリアミド樹脂を下流側に十分に送ることができず、サージングの原因となる。真空領域VAでサージングが起こると、ダイDからポリアミド樹脂を連続して安定的に押し出すことができなくなる。ポリアミド樹脂の押し出しをより安定させるためには、上記相対粘度差は好ましくは0.5以下である。
また、相対粘度差(η2−η1)の下限は、特に限定されないが、特に真空領域VAで適切に反応を進行させるために、好ましくは、0.1以上、より好ましくは0.2以上である。
【0066】
また、オープンベントOV1の下に位置するポリアミド樹脂の相対粘度η1は、1.6以上であることが好ましく、より好ましくは1.8以上である。相対粘度η1が1.6以上であると、前段領域OAにあるポリアミドオリゴマーもしくはポリアミド樹脂が、真空領域VAにあるポリアミド樹脂を下流側に送りやすくなり、サージングが発生しにくくなる。また、相対粘度が1.6以上とすることで、相対粘度差を容易に0.9以下にすることができる。また、相対粘度η1は、特に限定されないが、例えば、2.5以下となるものである。
【0067】
次に、
図3〜7を用いて混練部の混練エレメントについてさらに詳細に説明する。
一般的に、物質の混合は、分散混合と分配混合に分けられる。分散混合は粒子サイズの減少すなわち粒子の破砕を伴う混合を意味し、分配混合は粒子間の位置交換による混合を意味する。本発明においても、分散混合性が強いとは、ポリアミドオリゴマーや樹脂の破砕を伴う混合様式が支配的な混合を意味し、分配混合性が強いとは、ポリアミドオリゴマーや樹脂の位置交換による混合様式が支配的な混合を意味するが、分散混合が起こるとき分配混合が起こらない、又は、分配混合が起こるとき分散混合が起こらないというものではない。
【0068】
分散混合性の強いエレメントとしては、上記で列挙した混練エレメントのうち、ディスク幅の広いニーディングディスク(
図3参照)や、ローター(
図4参照)等が挙げられるが、これらに限られるものではない。なお、ニーディングディスクとは、複数枚のディスクを組み合わせてなるものであって、ディスク幅の広いニーディングディスクとは、ディスク幅Wとスクリュー径Dの比W/Dが0.15以上1.5以下となるものである。
【0069】
また、分配混合性の強いエレメントとしては、ディスク幅Wとスクリュー径Dの比W/Dが0.02以上0.15未満となる、ディスク幅の狭いニーディングディスク、
図4に示すローター、
図5に示すミキシングエレメント、
図6に示すミキシングギア等が挙げられるが、これらに限られるものではない。なお、ミキシングエレメントは、
図5に示すように、正ねじのフルフライトディスクに切り欠きを設けたSMEミキシングエレメントでもよいが、
図7に示す逆ねじのフルフライトディスクに切り欠きを設けたZMEミキシングエレメントであってもよい。また、ミキシングギアはセルフクリーニング性を有していてもいなくても良い。さらに、ミキシングエレメントとしては、例えば、株式会社神戸製鋼所製のロータセグメント、VCMTロータセグメントで代表されるように、螺旋状の混練翼が周方向に2又は3つ配置されたもの等も挙げられる。
【0070】
また、ローターは、ニーディングディスクと比較し、材料に与えられる最大剪断応力は小さいものの、材料に一様の剪断応力を与えることができるという特徴を有する。そのため、上記したように、分配混合性、分散混合性のいずれも比較的強いものとなる。なお、ローターは、
図4(a)に示すように、断面が滑らかに連続するように形成された連続型であっても、
図4(b)に示すように、断面が不連続に形成された不連続型であってもよい。
【0071】
本発明では、真空領域VAより上流にある(すなわち、前段領域OAにある)、混練部(
図1〜
図2では、混練部B1〜B3)における混練エレメントXは、上記した分散混合性の強いエレメントから選択されることが好ましく、ディスク幅の広いニーディングディスクであることがより好ましい。ここで、真空領域VAより上流にある混練部は、1つ以上の混練部がディスク幅の広いニーディングディスクで構成されてもよいが、全ての混練部がディスク幅の広いニーディングディスクで構成されることが好ましい。
なお、前段領域OAにある混練エレメントXで使用されるディスク幅の広いニーディングディスクは、比W/Dが、好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上である。このように、比W/Dを大きくすることで、より分散混合性を強くすることができる。
本発明では、前段領域OAにある混練エレメントXを分散混合性の強いスクリューとすることで、剪断力が高くなり、粉状等である原料のポリアミドコポリマーを、比較的上流側の位置で均一な混合状態とすることができる。
【0072】
また、真空領域VAにある混練部(
図1〜
図2では混練部B4)の混練エレメントXは、上記した分配混合性の強いエレメントであることが好ましく、ミキシングエレメントであることがより好ましい。このように真空領域VAにある混練部を、分配混合性の強いスクリューとすることで、ポリアミド樹脂に、過剰な剪断力が加わることで過剰に発熱することを防止し、それにより、YIの上昇等を抑えることができる。また、重合反応中の水分を除去しやすく、分子量を上昇しやすくすることができる。また、ゲル化等を防いで、分子量が低下することも防止する。
【0073】
上記押出機のダイD先端側から全スクリュー長さの25%以下の範囲内には、分配混合性の強いエレメントで構成される混練部が1つ以上設けられることが好ましく、その混練部は、真空領域VAにあり、例えば
図1〜
図2の例では、混練部B4である。このように、本発明では、分配混合性の強いエレメントが、下流側の所定の位置に設けられることで、分散混合と分配混合のバランスが良好となる。したがって、上記したように、樹脂に過剰な剪断力が加わることが防止され、分子量が高く、水分率の低く、分子量分布が適度に狭く、黄色度が小さく、品質のよいポリアミド樹脂を安定して製造することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、
ポリ1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンアジパミドを「N−1,3−BAC6」、
ポリ1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサンアジパミドを「N−1,4−BAC6」、
ポリ1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサンセバカミドを「N−1,4−BAC10」、
ポリ1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンテレフタラミドを「N−1,3−BACT」
ポリメタキシリレンアジパミドを「N−MXD6」、及び
ポリパラキシリレンセバカミドを「N−PXD10」という。
【0075】
ポリアミドオリゴマー及びポリアミド樹脂の(1)相対粘度、(2)水分率、(3)黄色度、(4)分子量分布(Mw/Mn)及び(5)ガラス転移温度及び融点は、以下のように測定した。
(1)相対粘度
ポリアミドオリゴマー又はポリアミド樹脂0.2gを精秤し、96%硫酸20mlに20〜30℃で撹拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計に溶液5mlを取り、25℃の恒温漕中で10分間放置後、落下時間(t)を測定した。また、96%硫酸そのものの落下時間(t
0)も同様に測定した。t及びt
0から次式により相対粘度を算出した。
相対粘度=t/t
0
なお、オープンベントの下に位置するポリアミド樹脂の相対粘度η1は、ポリアミド樹脂押出中に、一旦、押出機の回転を停止し、オープンベントOV1から棒を入れて、サンプリングしたものについて測定した。
(2)水分率
平沼産業株式会社製微量水分測定装置AQ−2000を用いて、窒素雰囲気下、230℃30分の条件で測定を行った。
(3)黄色度(YI)
日本電色工業株式会社製Z−Σ80色差計を用いてASTM D1003に準じて透過法で測定した。
(4)分子量分布(Mw/Mn)
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。具体的には、装置として東ソー株式会社製「HLC−8320GPC」、カラムとして、東ソー株式会社製「TSK gel Super HM−H」2本を使用した。また、溶離液としてトリフルオロ酢酸ナトリウム濃度が10mmol/Lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を使用し、樹脂またはオリゴマー濃度0.02質量%、カラム温度40℃、流速0.3ml/分、屈折率検出器(RI)の条件で分子量分布を測定した。なお、樹脂およびオリゴマーの分子量は標準ポリメチルメタクリレート換算の値として求めた。
(5)ガラス転移温度及び融点
示差走査熱量計〔(株)島津製作所製、商品名:DSC−60〕を用い、昇温速度10℃/分で窒素気流下にDSC測定(示差走査熱量測定)を行い、ガラス転移温度(Tg)及び融点(Tm)を求めた。
(6)押出性評価
各実施例、比較例のダイから押し出される樹脂の押出性を以下の基準で評価した。
A:ダイから安定的かつ連続的にポリアミド樹脂を押し出すことができた。
B:ストランド直径が変動したものの、連続的にポリアミド樹脂を押し出すことができた。
C:押出しが断続的になり、ポリアミド樹脂をダイから安定して押し出すことができなかった。
【0076】
ポリアミド樹脂の原料となるポリアミドオリゴマーは、以下の製造例1〜7の方法で製造した。
【0077】
製造例1(ポリアミドオリゴマー1の製造)
撹拌機、分縮器、全縮器、圧力調整器、温度計、滴下槽及びポンプ、アスピレーター、窒素導入管、底排弁、及びオリゴマーをフラッシュさせるための受け釜を備えた内容積50Lの耐圧反応容器に、精秤したアジピン酸(旭化成ケミカルズ(株)製)9000g(61.58mol)、trans比率62mol%の1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン(広栄化学工業(株)製)8759.8g(61.58mol)、次亜リン酸カルシウム12.7g(0.0746mol)、酢酸ナトリウム4.90g(0.0597mol)、蒸留水6241gを入れ、十分に窒素置換した後、反応容器内を密閉し、撹拌下220℃まで昇温した。このときの内圧は2.3MPaであった。220℃で内圧を2.3MPaで保持した状態で2時間撹拌を続けた。その後、撹拌を停止した後、底排弁のボールバルブを90秒で常圧に開放して、スラリー状のオリゴマーをフラッシュさせて受け釜に取り出した。その後、真空乾燥機にて、150℃、5時間乾燥して18kgの粉状N−1,4−BAC6オリゴマーを得た(ポリアミドオリゴマー1)。ポリアミドオリゴマー1におけるリン原子含有化合物濃度はリン原子濃度換算で300ppmであった。
【0078】
製造例2(ポリアミドオリゴマー2の製造)
ジカルボン酸成分としてセバシン酸(伊藤製油(株)製)、ジアミン成分としてtrans比率80mol%の1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン(広栄化学工業(株)製)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、粉状N−1,4−BAC10オリゴマーを得た(ポリアミドオリゴマー2)。ポリアミドオリゴマー2におけるリン原子含有化合物濃度はリン原子濃度換算で300ppmであった。
【0079】
製造例3(ポリアミドオリゴマー3の製造)
ジアミン成分としてcis比率70mol%の1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製)を用い、次亜リン酸カルシウムの代わりに次亜リン酸ナトリウムを用い,次亜リン酸ナトリウム15.8g(0.149mol)、酢酸ナトリウムを9.76g(0.119mol)としたこと以外は、製造例1と同様にして、粉状N−1,3−BAC6オリゴマーを得た(ポリアミドオリゴマー3)。ポリアミドオリゴマー3におけるリン原子含有化合物濃度はリン原子濃度換算で300ppmであった。
【0080】
製造例4(ポリアミドオリゴマー4の製造)
ジアミン成分としてパラキシリレンジアミン(昭和電工(株)製)、ジカルボン酸成分としてセバシン酸(伊藤製油(株)製)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、粉状N−PXD10オリゴマーを得た(ポリアミドオリゴマー4)。ポリアミドオリゴマー4におけるリン原子含有化合物濃度はリン原子濃度換算で300ppmであった。
【0081】
製造例5(ポリアミドオリゴマー5の製造)
ジアミン成分としてcis比率70mol%の1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製)を用い、ジカルボン酸成分として高純度テレフタル酸(水島アロマ(株)製)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、粉状N−1,3−BACTオリゴマーを得た(ポリアミドオリゴマー5)。ポリアミドオリゴマー5におけるリン原子含有化合物濃度はリン原子濃度換算で300ppmであった。
【0082】
製造例6(ポリアミドオリゴマー6の製造)
ジアミン成分としてメタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)、ジカルボン酸成分としてアジピン酸(旭化成(株)製)を用い、次亜リン酸カルシウムの代わりに次亜リン酸ナトリウムを用い、次亜リン酸ナトリウム0.0735mol、酢酸ナトリウムを0.0588molとしたこと以外は製造例1と同様にして、粉状N−MXD6オリゴマーを得た(ポリアミドオリゴマー6)。ポリアミドオリゴマー6におけるリン原子含有化合物濃度はリン原子濃度換算で150ppmであった。
【0083】
製造例7(ポリアミドオリゴマー7の製造)
真空乾燥機での乾燥条件が150℃2時間としたこと以外は、製造例1と同様にして粉状N−1,4−BAC6オリゴマーを得た(ポリアミドオリゴマー7)。
【0084】
表1に、ポリアミドオリゴマー1〜7の相対粘度、水分率、及び黄色度の測定結果を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
次に実施例1〜6、並びに、比較例1及び2にて、押出機を用いて、上記ポリアミドオリゴマー1〜7を、溶融混練により重縮合してポリアミド樹脂を得た。なお、各実施例及び比較例では、複数のバレルを組み立てて1つの押出機とする東芝機械株式会社製のTEM−26SSを使用した。この押出機は、同方向回転かみ合い型二軸スクリューからなるものであり、L/D(L:スクリュー長、D:スクリュー径)が64.6、シリンダーを正面から見たときのシリンダーの鉛直方向における径φが26mmであった。
【0087】
実施例1
図8に、実施例1で用いた押出機の概略図を示した。
図8に示すように、実施例1で用いた押出機は、ホッパーからなる投入部、2軸スクリューを有する送り出し部及び供給口を備え、供給口の上部にオープンベントOV0が設けられた供給部Aを備えるバレルを1個目のバレルとして、17個(ダイDを含む)のバレルを接続してなるものであって、それらバレルのうち、供給部A側から5個目のバレルにオープンベントOV1を設け、12、15個目のバレルそれぞれに真空ベントVV1、VV2を設け、17個目のバレルをダイDとした。また、3〜4及び8〜9個目のバレルは、それぞれスクリューにディスク幅の広いニーディングディスクのエレメントを設け、混練部B1、B2とした。また、11個目のバレルは、そのスクリューにディスク幅の広いニーディングディスクのエレメントを設け、その下流側に逆ネジ型フルフライトを接続し、1つの混練部B3とした。14個目のバレルは、そのスクリューにミキシングエレメントを設け、かつその下流側に逆ネジ型フルフライトを接続し、混練部B4とした。これにより、12〜17個目のバレルが真空領域VAとなり、その長さは全スクリュー長さの35%であった。混練部B1〜B4以外の他のバレルにおけるスクリューは、二条ネジのフライトスクリューエレメントであり、搬送部を構成した。
また、オープンベントOV1から真空領域VAの最上流側までの長さは、全スクリュー長さの41%であった。
【0088】
下記押出条件にて、供給部Aのホッパーから送り出し部の2軸スクリューを用いてポリアミドオリゴマー1を供給口から投入し、さらに、ホッパーから乾燥窒素を常時流して反応押出を実施し、ポリアミド樹脂1を得た。ダイDから押し出された溶融樹脂の温度(以下、樹脂出口温度という)は、309℃であった。また、押出条件は以下の通りである。
なお、押出中、オープンベントOV1及びOV0では、水蒸気が上方向に吹き出していた。オープンベントOV1及びOV0の上方1mの高さにて、風速計(カノマックス社製アネモマスターライト Model6006)をかざして、水蒸気の風量を測定した。その結果、ベント口から排出される水蒸気の風量は、0.8〜1.2m/sと測定され、OV1及びOV0が加圧状態であることを確認した。
〈押出条件〉
フィーダー量:10kg/h
スクリュー回転数:300rpm
設定温度(℃):C1/C2/C3〜C14/C15/C16/C17
=260/320/310/300/300/300
真空ベントVV1、VV2の真空度:VV1、VV2共に150torr
※なお、C1〜C17それぞれは、1〜17個目それぞれのバレルにおける設定温度を示す。C17はダイである。
【0089】
実施例2
ポリアミドオリゴマー2を用い、下記押出条件にて反応押出を実施したこと以外は、実施例1と同様にポリアミド樹脂2を得た。樹脂出口温度は、318℃であった。また、実施例1と同様にOV1及びOV0から水蒸気が吹き出していることを確認した。風速計で水蒸気の風量を測定したところ、風量は、0.9〜1.4m/sであり、OV1及びOV0は加圧状態であることを確認した。
〈押出条件〉
フィーダー量:20kg/h
スクリュー回転数:200rpm
設定温度(℃):C1/C2/C3〜C14/C15/C16/C17
=240/300/300/290/290/290
真空ベントVV1、VV2の真空度:VV1、VV2共に100torr
【0090】
実施例3
ポリアミドオリゴマー3を用い、下記押出条件にて反応押出を実施したこと以外は、実施例1と同様にポリアミド樹脂3を得た。樹脂出口温度は、247℃であった。また、実施例1と同様にOV1及びOV0から水蒸気が吹き出していることを確認した。風速計で水蒸気の風量を測定したところ、風量は、0.8〜1.4m/sであり、OV1及びOV0は加圧状態であることを確認した。
〈押出条件〉
フィーダー量:10kg/h
スクリュー回転数:100rpm
設定温度(℃):C1/C2/C3〜C14/C15/C16/C17
=220/250/250/240/240/240
真空ベントVV1、VV2の真空度:VV1、VV2共に100torr
【0091】
実施例4
ポリアミドオリゴマー4を用い、下記押出条件にて反応押出を実施したこと以外は、実施例1と同様にポリアミド樹脂4を得た。樹脂出口温度は、305℃であった。また、実施例1と同様にOV1及びOV0から水蒸気が吹き出していることを確認した。風速計で水蒸気の風量を測定したところ、風量は1.0〜1.5m/sであり、OV1及びOV0は加圧状態であることを確認した。
〈押出条件〉
フィーダー量:20kg/h
スクリュー回転数:200rpm
設定温度(℃):C1/C2/C3〜C14/C15/C16/C17
=260/300/300/290/290/290
真空ベントVV1、VV2の真空度:VV1、VV2共に90torr
【0092】
実施例5
ポリアミドオリゴマー5を用い、下記押出条件にて反応押出を実施したこと以外は、実施例1と同様にポリアミド樹脂5を得た。樹脂出口温度は、364℃であった。また、実施例1と同様にOV1及びOV0から水蒸気が吹き出していることを確認した。風速計で水蒸気の風量を測定したところ、風量は0.9〜1.5m/sであり、OV1及びOV0は加圧状態であることを確認した。
〈押出条件〉
フィーダー量:10kg/h
スクリュー回転数:100rpm
設定温度(℃):C1/C2/C3〜C14/C15/C16/C17
=320/350/350/350/350/350
真空ベントVV1、VV2の真空度:VV1、VV2共に160torr
【0093】
実施例6
ポリアミドオリゴマー6を用い、下記押出条件にて反応押出を実施したこと以外は、実施例1と同様にポリアミド樹脂6を得た。樹脂出口温度は、265℃であった。また、実施例1と同様にOV1及びOV0から水蒸気が吹き出していることを確認した。風速計で水蒸気の風量を測定したところ、風量は0.8〜1.4m/sであり、OV1及びOV0は加圧状態であることを確認した。
〈押出条件〉
フィーダー量:30kg/h
スクリュー回転数:200rpm
設定温度(℃):C1/C2/C3〜C14/C15/C16/C17
=240/260/260/240/240/240
真空ベントVV1、VV2の真空度:VV1、VV2共に96torr
【0094】
比較例1
ポリアミドオリゴマー7を用い、下記押出条件にて反応押出を実施したこと以外は、実施例1と同様の方法にて、反応押出を試みた。しかしながら、ポリアミドオリゴマーの水分量が多いことに起因して、オープンベントから大量の水が噴出するとともに、ホッパー方向へ水蒸気が逆流して、粉状オリゴマーが押出機内でベントアップして固まり、押出ができなかった。
〈押出条件〉
フィーダー量:10kg/h
スクリュー回転数:200rpm
設定温度(℃):C1/C2/C3〜C14/C15/C16/C17
=260/320/310/300/300/300
真空ベントVV1,VV2の真空度:真空引きできず
【0095】
比較例2
図9に、比較例2で用いた押出機の概略図を示した。
図9に示すように、比較例2で用いた押出機は、実施例1と同様の供給部Aを備えており供給口の上部にオープンベントOV0を有する。押出機は、また、供給部Aを設けたバレルを1個目のバレルとして、17個(ダイDを含む)のバレルを接続してなるものである。17個のバレルのうち、供給部A側から5個目のバレルに、オープンベントOV1を設け、12、15個目のバレルにそれぞれ真空ベントVV1、VV2を設け、17個目のバレルをダイDとした。また、3〜4個目のバレルは、それぞれスクリューにディスク幅の広いニーディングディスクのエレメントを設け、混練部B1とした。また、10〜11個目のバレルは、そのスクリューにディスク幅の広いニーディングディスクのエレメントを設け、その下流側に逆ネジ型フルフライトを接続し、1つの混練部B2とした。14個個目のバレルは、そのスクリューにローターを設け、かつその下流側に逆ネジ型フルフライトを接続し、混練部B3とした。
混練部B1〜B3以外の他のバレルにおけるスクリューは、二条ネジのフライトスクリューエレメントであり、搬送部を構成した。
また、オープンベントOV1から真空領域VAの最上流側までの長さは、全スクリュー長さの41%であった。
【0096】
下記押出条件にて、フィーダーを用いて供給部Aのホッパーからポリアミドオリゴマー1を投入し、さらに、ホッパーから乾燥窒素を常時流して反応押出を実施した。しかしながら、サージングが発生し、樹脂の押し出しが断続的になって、安定してダイスからポリアミド樹脂を押出すことができなかった。これは、スクリュー回転数が低く、押出機の上流部分で反応が十分に進まず、オープンベントOV1の下に位置するポリアミド樹脂の分子量が上がっていないためと考えられる。すなわち、オープンベントOV1の下に位置するポリアミド樹脂の相対粘度(η1)とダイスから出てきたポリアミド樹脂の相対粘度(η2)との相対粘度差(η2−η1)が大きいためと考えられる。
また、実施例1と同様にOV0及びOV1から水蒸気が吹き出していることを確認した。風速計で水蒸気の風量を測定したところ、風量は1.0〜1.4m/sであり、OV0及びOV1は加圧状態であることを確認した。
〈押出条件〉
フィーダー量:10kg/h
スクリュー回転数:200rpm
設定温度(℃):C1/C2/C3〜C14/C15/C16/C17
=260/320/310/300/300/300
真空ベントの真空度:VV1、VV2共に72torr
【0097】
実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂の相対粘度、水分率、黄色度、ガラス転移温度、及び融点を測定し、ポリアミド樹脂の熱安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
実施例1〜6の方法では、分子量が十分増加し、黄色度が小さく色調が良好なポリアミド樹脂を得ることができた。一方、比較例1及び2の方法では、樹脂を押し出すことができないか、押出機からの樹脂の押し出しが断続的であり、安定してポリアミド樹脂を得ることができなかった。