特許第6127812号(P6127812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6127812メタンガス採取方法及び再ハイドレート化抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6127812
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】メタンガス採取方法及び再ハイドレート化抑制剤
(51)【国際特許分類】
   E21B 43/00 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
   E21B43/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-158571(P2013-158571)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-30967(P2015-30967A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】川本 英貴
(72)【発明者】
【氏名】水田 元就
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昭郎
【審査官】 岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−513218(JP,A)
【文献】 特開2007−308891(JP,A)
【文献】 特開2012−172418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00−49/10
E21C 25/00−51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内のメタンハイドレートからメタンガスを採取する方法であって、
前記メタンハイドレートを分解してメタンガスと水とを生成する工程と、
再ハイドレート化抑制剤中において、生成した前記メタンガスと前記水との再ハイドレート化を抑制する工程とを有しており、
前記再ハイドレート化抑制剤が、前記メタンハイドレートの密度よりも大きく、かつ前記水の密度よりも小さい密度を有する油状物質からなるメタンガス採取方法。
【請求項2】
地盤内のメタンハイドレートが分解して生成したメタンガスと水との再ハイドレート化を抑制する再ハイドレート化抑制剤であって、前記メタンハイドレートの密度よりも大きく、かつ前記水の密度よりも小さい密度を有する油状物質からなる再ハイドレート化抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底や水底などの地盤内に固定されたメタンハイドレートを分解してメタンガスを採取する方法、及び分解により生成したメタンガスと水との再ハイドレート化を抑制するための再ハイドレート化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源に替わる新たなエネルギー資源として、メタンハイドレートが注目されている。メタンハイドレート(CH・5.75HO)は、天然ガスの主成分であるメタンガスが低温・高圧の条件下で水と結合し、シャーベット状に固まった物質であり、海域では大陸棚近くの海底下数百メートル程度までの深さの海底地層に、陸域では北極や南極圏の永久凍土の地下数百〜千メートルの堆積物中に存在している。
メタンハイドレートは、世界中に広く、かつ大量に埋蔵されていることが分かっており、最近の研究・調査結果では、世界におけるメタンハイドレート埋蔵量は、従来型天然ガスの資源量と同等量と云われており、日本周辺海域においても、天然ガス国内消費量の100年分に相当する量が存在すると云われている。
【0003】
上述した通り、メタンハイドレートは、メタンガスを主成分とする天然ガスが低温・高圧の条件下で水と結合し、シャーベット状に固まった物質、すなわち、水素結合による水分子の籠状構造の中にメタンが入り込んだ氷状の固体結晶である。メタンハイドレートは、海底や湖底、地中深くの低温高圧の条件で安定的に存在する。このように、安定に存在しているメタンハイドレートは固体であり、在来型エネルギー資源である石油や天然ガスのように流動性を持たないことから、メタンハイドレートが存在する地層まで掘削しても自噴することがない。このため、メタンハイドレートをメタンガスと水とに分解し、流動性のあるメタンガスとして採り出すことが一般的である。
【0004】
海底や地中に固体として存在するメタンハイドレートからメタンガスを生成する場合は、メタンガスハイドレートが存在する場所又はそれを採り出そうとする場所で、水と流動性のあるメタンガスに分解させる。メタンハイドレートからメタンガスを採掘する手法として、減圧法、加熱法、インヒビター注入法など温度や圧力の条件を変化させ、相平衡状態を変化させることによってメタンハイドレートを分解し、メタンガスを採取(回収、生産)する手法が提案されている。
【0005】
減圧法は、例えば特許文献1に記載されているように、海底(湖底)地盤内にパイプ(減圧井戸)を設置し、このパイプ内の水位を低下させること等によって、地層の圧力を下げてメタンハイドレートが分解領域になるように保つことで、メタンガスを回収するものである。このため、減圧法は、人工的な熱源を必要せず、掘削費を大幅に削減できるとして、他の手法に比べて経済性等で優位であり、最も有望な手法として期待されている。
しかし、メタンハイドレートが分解しメタンガスと水を生成する際の反応は、吸熱反応である。このため、メタンハイドレートが分解した際、発生したメタンガスの周辺温度が下がり、かつメタンガスの近傍に水が存在するので、メタンガスが再ハイドレート化してしまうという問題がある。
【0006】
また、加熱法は、特許文献2及び特許文献3に記載されているように、水蒸気や温水等の温度の高い流体を圧入して、メタンハイドレートの貯留層の温度を上昇させることにより、メタンハイドレートの分解を促進させる方法であり、他の回収法と比較して高いガスの生産性が期待されている。
しかし、この方法では、熱伝導により外部に熱エネルギーが逃げ、また分解による吸熱反応で熱が奪われることから、多量の熱エネルギーを供給し続けなければ、堆積層内部での熱水の温度が低下し、メタンハイドレートを分解し、かつ再ハイドレート化を抑制することは難しい。
【0007】
また、インヒビター法は、メタノール等の水と混和・可溶化する薬剤を水に混ぜることで、メタンハイドレート層に注入する方法である。このような薬剤を混入した水をメタンハイドレート層内に注入すると、その成分の濃度により、メタンハイドレートが化学平衡的に分解する領域に移動させることができ、減圧や加熱を極端に行わなくてもメタンハイドレートを分解することができる手法である。
しかし、この方法では、薬剤を常に供給し続けなければ薬剤濃度が低下するので、持続的な効果が得られなくなる。すわなち、薬剤供給を止めてしまうと、化学平衡的に分解領域とはならず、分解自体が進行せず、仮に分解できても、再ハイドレート化してしまう問題がある。さらにインヒビター法は、環境への影響も懸念される。
【0008】
上述のように、地盤内のメタンハイドレートを分解してメタンガスを採り出す方法としては様々な方法が提案されているものの、十分に効率良く採取する手段は未だ提案されていない。特に、メタンハイドレート分解が吸熱反応であるため、一旦生成したメタンガスが周辺の水と再度結合する再ハイドレート化を抑制するような技術は未だ見いだされていない状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−262083号公報
【特許文献2】特開平9−158662号公報
【特許文献3】特開平10−317869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解決することであり、詳しくは、地底や海底、水底などの地盤内に固定されたメタンハイドレートを分解した際に、再ハイドレート化を抑制して、効率よくメタンガスを採取できるメタンガス採取方法、及びこの採取方法に用いる再ハイドレート化抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、地盤内のメタンハイドレートからメタンガスを採取する方法において、特定の密度を有する油状物質を用いることによって、メタンハイドレートの分解により生産されたメタンガスと水との再ハイドレート化を抑制して、効率よくメタンガスを採取できることを見いだした。
【0012】
すなわち、本発明のメタンガス採取方法は、地盤内のメタンハイドレートからメタンガスを採取する方法であって、前記メタンハイドレートを分解してメタンガスと水とを生成する工程と、再ハイドレート化抑制剤中において、生成した前記メタンガスと前記水との再ハイドレート化を抑制する工程とを有しており、前記再ハイドレート化抑制剤が、前記メタンハイドレートの密度よりも大きく、かつ前記水の密度よりも小さい密度を有する油状物質からなるメタンガス採取方法である。
【0013】
また、本発明の再ハイドレート化抑制剤は、地盤内のメタンハイドレートが分解して生成したメタンガスと水との再ハイドレート化を抑制する再ハイドレート化抑制剤であって、前記メタンハイドレートの密度よりも大きく、かつ前記水の密度よりも小さい密度を有する油状物質からなる再ハイドレート化抑制剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のメタンガス採取方法によれば、地底や海底、水底などの地盤内に固定されたメタンハイドレートを分解した際に、再ハイドレート化を抑制して、効率よくメタンガスを採取することができる。
また、本発明の再ハイドレート化抑制剤は、本発明の採取方法にて使用した際、メタンハイドレートの分解を円滑に行ない、分解により生成したメタンと水を分離することができるので、再ハイドレート化を抑制することができる
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の再ハイドレート化抑制剤を減圧法と組み合わせて使用した場合の本発明のメタンガス採取方法を模式的に示す概略図である。
図2】ビーカー中の再ハイドレート化抑制剤にメタンハイドレートを投入した後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のメタンガス採取方法及び再ハイドレート化抑制剤について説明する。なお、本明細書において記号「〜」を用いて規定された数値範囲は「〜」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2〜5」は2以上5以下を表す。
【0017】
〔メタンガス採取方法〕
本発明のメタンガス採取方法は、地盤内のメタンハイドレートからメタンガスを採取する方法であって、前記メタンハイドレートを分解してメタンガスと水とを生成するメタンハイドレート分解工程と、再ハイドレート化抑制剤中において、生成した前記メタンガスと前記水との再ハイドレート化を抑制する再ハイドレート化抑制工程とを有する。
【0018】
<メタンハイドレート分解工程>
まず、地盤内のメタンハイドレートを分解してメタンガスと水とに生成する工程について説明する。
本発明において地盤とは、メタンハイドレートが存在する地下の地盤を表し、例えば、陸上では、北極や南極などの極地方に存在する永久凍土層、湖底に存在する地層、海域では大陸棚などの海底下の地層部分などが挙げられる。地盤内とは、メタンハイドレートが安定に存在できる温度および圧力領域にある地層のことを表す。
【0019】
メタンハイドレートを分解してメタンガスと水を生成する方法としては、減圧、加熱、インヒビター注入などの方法が挙げられ、本発明においてはいずれの分解方法も用いることができる。
前述のとおり、メタンハイドレートは、メタンガスを主成分とする天然ガスが低温・高圧の条件下で水と結合し、シャーベット状に固まった物質、すなわち、水素結合による水分子の籠状構造の中にメタンが入り込んだ氷状の固体結晶である。メタンハイドレートは海底や湖底、地中深くの低温高圧の条件下で安定的に存在するので、圧力を低下(減圧)させたり、温度を上昇(加熱)させたりすることで、平衡状態を崩すことができ、メタンと水とに分解することができる。
【0020】
一般的な減圧方法は、海面から地盤内のメタンハイドレート層まで繋がる杭井を設け、その杭井内の水をホンプなどの排水手段によりくみ出すことによって、メタンハイドレート層周辺の圧力を低下させる方法である。このように圧力をメタンハイドレートの分解領域にまで低下させることにより、メタンハイドレートが分解し、メタンガスが回収される。
【0021】
また、一般的な加熱法は、メタンハイドレート層に温水などを直接供給することでメタンハイドレート層周辺の温度を上げる方法である。このように温度をメタンハイドレートの分解領域にまで上昇させることにより、メタンハイドレートが分解し、メタンガスが回収される。
【0022】
また、インヒビター注入は、水と混和又は可溶化するメタノール等の薬剤を水に混ぜ、メタンハイドレート層に注入することにより、その薬剤の濃度によりメタンハイドレートの平衡状態を分解領域に移動させる方法である。このように濃度をメタンハイドレートの分解領域にまで上昇させることにより、メタンハイドレートが分解し、メタンガスが回収される。
【0023】
本発明のメタンガス採取方法におけるメタンハイドレート分解工程においては、上記の分解方法のうち1つの方法を用い又は2つ以上を組み合わせて併用することができる。好ましい分解方法としては、減圧法及び加熱法であり、より好ましくは減圧法である。
【0024】
<再ハイドレート化抑制工程>
本発明のメタンガス採取方法は、再ハイドレート化抑制剤中において、生成したメタンガスと水との再ハイドレート化を抑制する工程を有する。
再ハイドレート化抑制剤とは、水と相分離することが可能な油状物質であり、かつこの油状物質の密度が、メタンハイドレートの密度よりも大きく、水の密度よりも小さいものである。
メタンハイドレートがメタンガスと水に分解する際の反応は吸熱反応である。すなわち、分解の際にメタンハイドレート周辺の熱が奪われる状態となる。この際、分解後のメタンガスの周辺に水が存在すると、吸熱反応により温度が低下することになり、水とメタンガスが再び結合し、再ハイドレート化してしまうという問題が生じる。この問題は、減圧法、加熱法、インヒビター注入法など、いずれの分解方法においても起こる問題である。
【0025】
本発明で用いる再ハイドレート化抑制剤は、上述の再ハイドレート化を抑制するための薬剤であり、メタンハイドレートの密度よりも大きく、かつ水の密度よりも小さい密度を有しており、水と相分離可能な油状物質からなる。
メタンハイドレートが再ハイドレート化抑制剤中に存在するときは、メタンハイドレートは再ハイドレート化抑制剤の上方へ移動し、一部が浮いた状態で存在する。これは、メタンハイドレートの密度が再ハイドレート化抑制剤の密度よりも小さいからである。そして、メタンハイドレートが再ハイドレート化抑制剤の上方へ移動中に、または抑制剤に浮いた状態で分解することで、メタンはガスとなり杭井の上方で回収することができる。
一方、メタンハイドレートの分解により生成した水は、再ハイドレート化抑制剤の下方へ沈降する。これは、メタンハイドレート化抑制剤の密度が水の密度よりも小さいためである。言い換えれば、油状物質である再ハイドレート化抑制剤と水との油水分離を利用して、メタンハイドレートから分解した水とメタンを素早く分離することで、再ハイドレート化を防ぐことができる。
なお、軽質の鉱物油などの油状物質は、一般的には水よりも密度が小さく、さらにメタンハイドレートよりも密度が小さい。このような油状物質を使用した場合、メタンハイドレートが油状物質と水との界面に浮遊して、生成したメタンガスの周辺に水が存在することとなるため、再ハイドレート化を抑制する効果はあまり得られない。
【0026】
図1を参照しながら、本発明の再ハイドレート化抑制剤を上記の減圧法と組み合わせて使用した場合の本発明のメタンガス採取方法の一例を説明する。
まず、ポンプなどの排水手段を使って杭井から水を汲み出すなどして、メタンハイドレート層に掛かる圧力を下げる。杭井内が減圧状態であるので、杭井の横穴からメタンハイドレートが杭井内に流入する。その後、再ハイドレート化抑制剤をメタンハイドレート層と接触する高さまで充填する。この際に、メタンハイドレート層へ掛かる圧力が小さくなるように再ハイドレート化抑制剤の充填量はできるだけ少なくしておくことが必要となる。あるいは、水を汲み上げて圧力を下げる工程において、予め再ハイドレート化抑制剤を杭井内に投入しておき、その後に下部から水を汲み上げて圧力を低下させてもよい。
【0027】
この方法により、得られたメタンガスおよびメタンハイドレートは、再ハイドレート化抑制剤の中に存在することとなり、メタンガスはそのまま杭井の上方から回収できる。一方、メタンハイドレートそのものは、再ハイドレート化抑制剤の上方で気体との界面に浮遊する状態となる。その後、メタンハイドレートが徐々に分解されメタンガスは杭井の上方から回収できる。分解により生成した水は沈降するので、再ハイドレート化抑制剤の下方に相分離して水層として貯留される。この工程を繰り返すことで、水層の水の量が増加するので、増加した分の水については、汲み出すかまたは排出を行う。
【0028】
また、メタンハイドレートの分解による吸熱反応により、再ハイドレート化抑止剤の温度が徐々に低下する可能性がある。この場合は、再ハイドレート化抑制剤を杭井で循環させるなどの方法により、杭井外部の海水の熱を利用して、暖めるのが好ましい(図示せず)。
【0029】
次に、本発明の再ハイドレート化抑制剤を上記の加熱法と組み合わせて使用した場合の本発明のメタンガス採取方法の一例を説明する。
まず、杭井内のメタンハイドレート層付近に存在する水を再ハイドレート化抑制剤に置換する。置換後、加熱した再ハイドレート化抑制剤を注入することで、メタンハイドレート層付近の温度が上昇し、メタンハイドレートの分解が進行する。分解により生成したメタンガスは上方から回収され、水は下方に沈降し水層として貯留される。この工程を繰り返すことで、水層の水の量が増加するので、増加した分の水については、汲み出すかまたは排出を行う。
通常の加熱法では、再ハイドレート化を防止するために温度を高く上げる必要があり、多量のエネルギーを消費することになるが、本発明においては再ハイドレート化抑制剤が再ハイドレート化を抑制できるので、供給する熱量を従来の加熱法と比較して大幅に低減することができる。
【0030】
本発明の再ハイドレート化抑制剤を上記のインヒビター注入法と組み合わせて使用した場合の本発明のメタンガス採取方法の一例を説明する。
まず、インヒビターをメタンハイドレート層に注入した後、分解により生成したガスと水が杭井に流入してきた際、ガスと水とを再ハイドレート化抑制剤中に通すことで、再ハイドレート化を抑制できる。また、再ハイドレート化を抑制するためにインヒビターを多量に投入している場合、本発明の再ハイドレート化抑止剤を使用することで、インヒビターの使用量を大幅に低減することができる。これにより、環境への影響を軽減することもできる。
【0031】
本発明の再ハイドレート化抑制剤と組み合わせることのできるメタンハイドレート分解法は、上記の減圧法、過熱法、及びインヒビター注入法に限定されない。これらの方法は一例に過ぎず、他のメタンハイドレート分解法も本発明の再ハイドレート化抑制剤と組み合わせることが可能である。また、上記の減圧法、過熱法、インヒビター注入法、その他の方法を任意に組み合わせたものに、本発明の再ハイドレート化抑制剤をさらに組み合わせるなどして、より効率よくメタンガスを回収することも可能である。
【0032】
このようにメタンハイドレートの分解により生成されたメタンガスは海上にて安定的に回収することができる。回収されたメタンガスはパイプライン等を通じてメタンガスが利用される施設、例えば発電所や液化天然ガス複合発電所等に移送することができる。
【0033】
〔再ハイドレート化抑制剤〕
次に、本発明のメタンガス採取方法に用いられる再ハイドレート化抑制剤について説明する。
本発明の再ハイドレート化抑制剤は、水と相分離が可能で、かつメタンハイドレートよりも密度が大きく、水よりも密度が小さい油状物質であり、例えば、このような密度を有する重油やエステル油、油脂、脂肪酸、エーテル油等の油状物質が用いられる。
メタンハイドレートの密度は0.91g/cmである。また、メタンハイドレートの分解により生成した水の密度は、海水を含有するので純水よりも高く、1.02〜1.03/cmである。したがって、本発明の再ハイドレート化抑制剤としての油状物質の密度は、0.91g/cmより大きく、1.02g/cm未満のものが好ましく、さらに好ましくは0.92〜1.00g/cm、特に好ましくは0.93〜0.99g/cmである。
なお、油状物質の密度は、温度15℃、常圧下(101.325kPa)にて、JIS K2249によって測定することができる。
また、密度の異なる2種以上の油状物質を混合して、混合後の密度が上記範囲内に入る混合物を本発明の再ハイドレート化抑制剤として用いることができる。
【0034】
油状物質が高粘度であると、分解により生成したメタンガスが油状物質を通り抜ける際に時間がかかり効率が悪いので、低粘度の油状物質を用いることが好ましい。したがって、油状物質の40℃における動粘度は、1〜400mm2/sが好ましく、3〜100mm2/sがさらに好ましい。
なお、油状物質の動粘度は、温度40℃、常圧下(101.325kPa)にて、JIS K2283によって測定することができる。
【0035】
また、本発明の再ハイドレート化抑制剤は、海底や湖底、メタンハイドレート層周辺の低温下において流動性を有する液体である必要がある。さらに、低温下で流動性が低い油状物質であると、分解時の吸熱反応により油状物質の温度が低下し、油状物質が凝固するおそれがあるので、流動点が少なくとも0℃以下、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−20℃以下の油状物質を用いることが好ましい。
なお、油状物質の流動点は、常圧下(101.325kPa)にて、JIS K2269によって測定することができる。
【0036】
さらに、本発明の再ハイドレート抑制剤は、生分解性を有しているものが好ましい。生分解性としては、既知の生分解性試験方法を用いて測定することができる。例えば、OECD(経済協力開発機構)化学品テストライン 301B法、301C法、301F法、ASTM(アメリカ材料試験協会) D 5864、D 6731などを利用して測定することができる。上記いずれかの方法にて測定して得られた分解度が好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である油状物質が好適である。
【0037】
上記の密度、粘度、流動点及び生分解性を有する油状物質としては、重油やエステル油、油脂、脂肪酸、エーテル油などが挙げられる。特に、これらの中でも生分解性が高いものとしては、油脂、モノエステル、ポリオールエステル類などが挙げられる。これらの中でも、メタンハイドレート分解時には、多少なりとも水と接する機会があるので、加水分解安定性に優れるものが好ましく、ヒンダード型のポリオールエステルが特に好ましく使用できる。
具体的には、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールから選ばれるアルコール類と炭素数4〜22の脂肪酸とをエステル化することにより得られるヒンダード型ポリオールエステル類が好ましい。より好ましくは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールから選ばれるアルコール類と炭素数4〜12の飽和脂肪酸とのエステル類、またはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールから選ばれるアルコール類とパルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸などの炭素素16〜22の不飽和脂肪酸とのエステル類が挙げられ、これらの中から選ばれる1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
さらに、エステルが低粘度であれば、メタンハイドレート分解時の水が分離し易いので、ネオペンチルグリコールまたはトリメチロールプロパンと炭素数4〜12の飽和脂肪酸とのエステル類、オペンチルグリコールまたはトリメチロールプロパンとパルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸などの炭素16〜22の不飽和脂肪酸とのエステル類が好ましい。また、上記エステル類は、上述の各種アルコール類に対して、炭素数の異なる脂肪酸を2種以上反応させて得られたエステルや、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を混合して得られた混合脂肪酸などと反応して得られたエステルを使用することもできる。
【0038】
本発明の再ハイドレート化抑制剤には、所望により、各種の添加剤を加えることができる。かかる添加剤としては、酸化防止剤、さび止め剤、金属不活性化剤、加水分解抑制剤、油性剤、スラッジ分散剤、スケール防止剤等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
〔再ハイドレート化抑制剤の調製〕
トリメチロールプロパンと直鎖C8(炭素数8)脂肪酸/直鎖C10(炭素数10)脂肪酸(55質量%/45質量%)とのトリエステル化物を常法にて調製して、再ハイドレート化抑制剤を得た。
再ハイドレート化抑制剤であるトリエステル化物の諸物性は以下のとおりである。
・密度:0.951g/cm(15℃、常圧)
・40℃動粘度:19.6mm/s(常圧)
・流動点:−37.5℃(常圧)
・生分解性:82.4%(OECD 301C法)
なお、上記の各物性の測定はそれぞれ上述の方法に従った。
【0040】
〔メタンハイドレートの調製〕
2Lのオートクレーブにイオン交換水150gを投入した。投入後、外部冷媒により内温を10℃にし、攪拌しながらメタンガスを封入し、8MPaの圧力条件とした。その後、攪拌しながら、1時間かけて内温を1℃まで低下させた。1℃状態を維持したまま、攪拌を継続することで、圧力が徐々に低下し始めた。1℃維持から3時間経過後、3MPa付近で圧力の低下がなくなったので、オートクレーブ内で調製された白色固体状のメタンハイドレートを取り出した。
【0041】
〔再ハイドレート化抑制実験〕
ビーカーに再ハイドレート化抑制剤である上記トリエステル化物を入れ、上記で調製したメタンハイドレートを調製直後にビーカーに投入した。その投入後の状態を図2として写真を示す。なお、この試験は、本発明の再ハイドレート化抑制剤を減圧法と組み合わせて使用した場合の本発明のメタンガス採取方法を例示的に示すものである。
【0042】
図2から、メタンハイドレートが再ハイドレート化抑制剤(トリエステル化物)の上方に浮き、メタンハイドレートの分解により生成した水が滴のように沈降して、再ハイドレート化抑制剤(トリエステル化物)の下方に水層として貯留されていることが分かる。
【0043】
本発明の再ハイドレート化抑制剤を用いた本発明のメタンガス採取方法によれば、地底や海底、水底などの地盤内に固定されたメタンハイドレートを分解した際に、分解により生成したメタンと水を分離することができるので、再ハイドレート化を抑制し、効率よくメタンガスを採取することができる。すなわち、従来の減圧法や加熱法などで問題であった再ハイドレート化を抑制して、より効率よくメタンガスを回収することができる。
図1
図2