(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリイミド前駆体の非溶媒が、グリコールジエーテル系溶媒、カルボン酸ジエステル系溶媒、グリコールモノエーテルアセテート系溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
前記ポリイミド前駆体の非溶媒の混合量が、全溶媒量に対して10wt%以上、50wt%未満である事を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミド前駆体溶液。
前記のアミド系有機溶媒がN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドのいずれか一種、若しくは二種以上の混合物であることを特徴とする請求項6に記載のポリイミド前駆体溶液。
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延し、加熱乾燥・イミド化させることを特徴とするポリイミド多孔質膜又は被覆物の製造方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性、耐薬品性に優れ、空孔率が高いポリイミド多孔質膜又は被覆物を形成しうるポリイミド前駆体溶液を提供し、また膜厚が薄い場合であっても高い空孔率を有するポリイミド多孔質膜を得ることが可能な新しい技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリイミド前駆体の良溶媒と非溶媒の沸点差のみならず、ポリイミド前駆体の凝固性に着目して鋭意研究を重ねた結果、膜厚が薄い場合であっても空孔率が十分に高いポリイミド多孔質膜が得られるポリイミド前駆体溶液を製造する条件を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の事項に関する。
【0007】
1.下記一般式(1)で示される反復単位からなるポリイミド前駆体と、ポリイミド前駆体の良溶媒と、前記ポリイミド前駆体の良溶媒より30℃以上高い沸点を有し、かつポリイミド前駆体1wt%溶液の凝固価が2g/g以下であるポリイミド前駆体の非溶媒とを混合してなる事を特徴とするポリイミド前駆体溶液。
【0008】
【化1】
〔式中、Bは、芳香族環を含む4価のユニットであり、式中、Aは、芳香族環を含む2価のユニットである。〕
【0009】
2.前記ポリイミド前駆体の非溶媒が、グリコールジエーテル系溶媒、カルボン酸ジエステル系溶媒、グリコールモノエーテルアセテート系溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上の混合物であることを特徴とする前記項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0010】
3.前記ポリイミド前駆体の非溶媒の混合量が、全溶媒量に対して10wt%以上、50wt%未満である事を特徴とする前記項1又は前記項2に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0011】
4.一般式(1)中、Bで示される構造の一部に下記化学式(2)で示される構造を含むことを特徴とする前記項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0012】
【化2】
【0013】
5.一般式(1)中、Aで示される構造の一部に下記化学式(3)で示される構造を含むことを特徴とする前記項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0014】
【化3】
【0015】
6.前記ポリイミド前駆体の良溶媒が、アミド系有機溶媒であることを特徴とする前記項1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0016】
7.前記のアミド系有機溶媒がN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドのいずれか一種、若しくは二種以上の混合物であることを特徴とする前記項6に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0017】
8.前記項1〜7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延し、加熱乾燥・イミド化させることを特徴とするポリイミド多孔質膜又は被覆物の製造方法。
【0018】
9.前記項8に記載の方法によって製造することを特徴とするポリイミド多孔質膜。
【0019】
10.前記項8に記載の方法によって製造することを特徴とする被覆物。
【0020】
11.膜厚が100μm以下であり、且つ空孔率が20%以上であることを特徴とする前記項9に記載のポリイミド多孔質膜。
【0021】
12.膜厚が100μm以下であり、且つ空孔率が20%以上であることを特徴とする前記項10に記載の被覆物。
【発明の効果】
【0022】
本発明によって、耐熱性、耐薬品性に優れ、空孔率が高いポリイミド多孔質膜又は被覆物を形成しうるポリイミド前駆体溶液を得る事ができる。本発明のポリイミド前駆体溶液を用いる事で、凝固浴を必要としない簡便で安価なプロセスでポリイミド多孔質膜を得る事が出来る。また、比較的薄い膜厚であっても高い空孔率を有する多孔質膜が得られる為、製造する膜厚の選択幅も広げることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体と、ポリイミド前駆体の良溶媒と、前記ポリイミド前駆体の良溶媒より30℃以上高い沸点を有し、かつポリイミド前駆体1wt%溶液の凝固価が2g/g以下であるポリイミド前駆体の非溶媒とからなる。
【0026】
<ポリイミド前駆体モノマー>
本発明に用いるポリイミド前駆体は、前記一般式(1)で示される反復単位からなり、式中、Bはテトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットである。また、Aはジアミン成分に起因する2価のユニットである。ポリイミド前駆体を構成するユニットについて以下に詳述する。
【0027】
ユニットBは、テトラカルボン酸成分に起因する4価のユニットである。テトラカルボン酸成分はポリイミド前駆体を重合可能な範囲で特に限定されないが例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2、2‐ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物及びその混合物が挙げられる。その中でも特にs−BPDA、a−BPDAが得られるポリイミドの耐熱性、耐薬品性、力学特性の観点から好ましい。
【0028】
ユニットAは、ジアミン成分に起因する2価のユニットである。ジアミン成分はポリイミド前駆体を重合可能な範囲で特に限定されないが例えば、p−フェニレンジアミン(PPD)、m−フェニレンジアミン(MPD)などのフェニレンジアミン類、3,5−ジアミノ安息香酸などのジアミノ安息香酸類、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメトキシ−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル類、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノビフェニルメタン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニルメタン、2,2’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどのジアミノジフェニルメタン類、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−(3,4'−ジアミノジフェニル)プロパンなどのジアミノジフェニルプロパン類、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのビス(アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン類、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどのジアミノジフェニルスルホン類、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−ジベンゾチオフェン、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチル−ジベンゾチオフェン、3,7−ジアミノ−2,6−ジメチル−ジベンゾチオフェンなどのジアミノジベンゾチオフェン類、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,8−ジエチル−ジフェニレンスルフォン、3,7−ジアミノ−2,8−ジメトキシ−ジフェニレンスルフォン、2,8−ジアミノ−3,7−ジメチル−ジフェニレンスルフォンなどのジアミノジフェニレンスルフォン類(後述のジアミノジベンゾチオフェン=5,5−ジオキシド類に同じ)、4,4’−ジアミノビベンジル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビベンジルなどのジアミノビベンジル類、0−ジアニシジン、0−トリジン、m−トリジンなどのジアミノビフェニル類、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノンなどのジアミノベンゾフェノン類、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’,5,5’−テトラクロロベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、2,2’−ジクロロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジン、2,2',5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’,5,5’−テトラブロモベンジジン、3,3’−ジブロモベンジジン、2,2’−ジブロモベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサクロロベンジジンなどのジアミノベンジジン類、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)などのビス(アミノフェノキシ)ベンゼン類、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼンなどのジ(アミノフェニル)ベンゼン類、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンなどのビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン類、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパンなどのビス〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン類、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホンなどのジ〔(アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン類、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)ビフェニルなどのジ(アミノフェニル)ビフェニル類、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)−ベンゾイミダゾール(DAPBI)などのジアミノベンゾアゾール類及びその混合物が挙げられる。その中でも特にODAが力学特性の観点から好ましい。その他、脂環族ジアミンとして、イソホロンジアミン、シクロヘキサンジアミンなどを、重合性を妨げない範囲で適宜利用できる。
【0029】
<良溶媒>
本発明のポリイミド前駆体の良溶媒としては、ポリイミド前駆体を溶解するものであれば特に限定されないが、具体的にはアミド系溶媒が挙げられる。アミド系溶媒の例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)等を挙げる事が出来る。良溶媒は後述する非溶媒よりも沸点が低い必要がある為、なるべく沸点が低い事が好ましく、特にN,N−ジメチルアセトアミド(沸点165℃)、N,N−ジエチルアセトアミド(沸点182〜186℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃)が好適に用いられる。これらの良溶媒は、それぞれ単体で用いてもよいし、二種以上の混合物として用いても構わない。
【0030】
<非溶媒>
本発明のポリイミド前駆体の非溶媒は、前記ポリイミド前駆体の良溶媒より30℃以上高い沸点を有し、かつポリイミド前駆体1wt%溶液の凝固価が2g/g(ポリイミド前駆体1wt%溶液)以下である必要がある。本発明における凝固価は、ポリイミド前駆体を良溶媒中に1wt%溶解した溶液1gを凝固させるのに必要な非溶媒の量(g)で定義される。具体的には、ポリイミド前駆体を良溶媒中に1wt%溶解した溶液10gを25℃に保ち、この溶液を攪拌しながら非溶媒を少量ずつ添加し、ポリイミド前駆体が析出し始める時点(目視により溶液が白濁した時点)における非溶媒の添加量をポリイミド前駆体溶液1gに対する値に換算したものである。
【0031】
本発明に用いる非溶媒としては、特にグリコールジエーテル系溶媒、及び又はカルボン酸ジエステル系溶媒、及び又はグリコールモノエーテルアセテート系溶媒が好ましい。具体的にポリイミド前駆体1wt%の凝固価が2g/g以下であるグリコールジエーテル系溶媒としては、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(BDM:沸点212℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(MTPOM:沸点215℃)などが好適に利用できる。良溶媒にDMFを用いる場合は、ジエチレングリコールジエチルエーテル(EDE:沸点189℃)なども好適に利用できる。なお、トリエチレングリコールジメチルエーテル(MTM:沸点216℃)は、凝固価が高く、ポリイミド前駆体の凝固性が悪い為に、高い空孔率の多孔質膜を得る為には多量に加えなければならない為、経済的観点及びポリイミド前駆体溶液の安定性の観点から好ましくない。また、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(DM:沸点194℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DB:沸点230℃)等のグリコールモノエーテル系溶媒は、ポリイミド前駆体が加水分解して溶液の粘度が低下し、製膜に悪影響を及ぼす懸念がある為、好ましくない。
【0032】
カルボン酸ジエステル系溶媒としては、こはく酸ジメチル(沸点200℃)、こはく酸ジエチル(沸点218℃)、グルタル酸ジメチル(沸点210〜215℃)、グルタル酸ジエチル(沸点237℃)、アジピン酸ジメチル(沸点215〜225℃)、アジピン酸ジエチル(沸点245℃)等が好ましい。また、こはく酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチルの混合物である二塩基酸エステル(商品名DBE:三協化学株式会社)等も好適に用いる事が出来る。
【0033】
グリコールモノエーテルアセテート系溶媒としては、エチルカルビネートアセテート(ECA:沸点218℃)、ブチルカルビネートアセテート(BCA:沸点247℃)等が具体的に挙げられる。後述する加熱乾燥、イミド化過程で最終的に除去する為に、非溶媒の沸点は高すぎない方が良いことから、沸点が250℃以下の溶媒がより好ましい。これらの非溶媒は、それぞれ単体で用いてもよいし、二種以上の混合物として用いても構わない。
【0034】
本発明において、非溶媒の混合量は、非溶媒の種類及び凝固価に応じて適宜決定されるが、概ね全溶媒量の10wt%以上、50wt%未満の範囲である。非溶媒の添加量は後述のように系がバイノーダルライン近傍で且つ一相領域(=相分離を生じない)範囲にコントロールすることが重要である。10wt%以下では非溶媒の量が足りず、良好な多孔質膜を得る事が困難となり、50wt%以上加える事は、経済的な観点及びポリイミド前駆体溶液の安定性の観点から好ましくない。
【0035】
本発明の多孔質膜形成の原理は、ポリイミド前駆体の良溶媒と、良溶媒より沸点の高い非溶媒を含むポリイミド前駆体溶液を加熱することで、沸点の低い良溶媒が相対的に早く蒸発する事で系がバイノーダルラインを通過し、相分離が誘起されて多孔化するものである。この手法において、高い空孔率の多孔質膜を得る為には、系がバイノーダルラインに到達した際(=相分離が生じる際)に、なるべく多くの溶媒が残っていることが重要となる。用いる非溶媒の凝固価が高い場合、バイノーダルラインに到達する(=相分離する)までに多くの時間を要する。その為、空孔率の高い多孔質膜を得る為には長時間加熱しても非溶媒が蒸発しないように、良溶媒と非溶媒の沸点差を大きくとるか、非溶媒の混合量を多くする必要がある。本発明では、前記のポリイミド前駆体1wt%溶液の凝固価が2g/g以下とすることで凝固性を制御し、少ない非溶媒の混合量でポリイミド前駆体溶液の組成をバイノーダルラインに近づける事が可能なため、相分離するまでに要する時間を短くすることが出来る。結果として、良溶媒が多く蒸発する前に凝固させる事で、比較的高い空孔率を達成しやすくなる為、良溶媒と非溶媒の沸点差は概ね30℃以上あれば、高い空孔率の多孔質膜が得られる。
【0036】
<ポリイミド前駆体溶液>
本発明のポリイミド前駆体溶液は、前記の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを用いて、公知の方法で重合することが出来る。良溶媒と非溶媒を含有するポリイミド前駆体溶液を得る方法は特に限定されないが、例えば予めポリイミド前駆体の良溶媒と非溶媒を混合した中に略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを添加して均一になるまで混合することで良溶媒と非溶媒を含有したポリイミド前駆体溶液を得る事が出来る。また、ポリイミド前駆体の良溶媒中に略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを添加して均一になるまで混合することでポリイミド前駆体の良溶媒溶液を製造し、さらにこれらを撹拌しならが非溶媒を少量ずつ加えて均一になるまで混合する事で、良溶媒と非溶媒を含有したポリイミド前駆体溶液を得る事が出来る。本発明では、非溶媒及びそれに含まれる微量の水分がポリイミド前駆体の重合に悪影響を与える懸念から、後者の手法を特に好適に用いることが出来る。
【0037】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを混合する際の反応温度は、−30〜120℃が好ましく、−20〜80℃がより好ましい。反応時間は、0.5時間〜100時間が好ましく、2時間〜48時間がより好ましい。テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合割合は等モルとなるように調整することが好ましいが、これらのモノマーの比率を若干変動させることにより、ポリイミド前駆体の重合度を任意に調節することができる。
【0038】
なお、必要に応じてポリイミド前駆体溶液に有機リン含有化合物などを加えてもよい。
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。有機リン含有化合物を使用することによって、後述するポリイミド前駆体の多孔質膜の強度が向上したり、ポリイミド前駆体の多孔質膜を支持体から剥離し易くしたりすることができる。
【0039】
さらに、本発明のポリイミド前駆体の溶液には、必要に応じて例えば、各種界面活性剤、有機シラン、顔料、導電性のカーボン粒子や微細炭素繊維、金属微粒子等の充填材、摩滅材、誘電体、潤滑材等の他公知の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。また、他の重合体が本発明の効果を損なわない範囲で添加されていてもよい。
【0040】
本発明のポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の濃度は、通常1〜50wt%、好ましくは5〜30wt%である。1wt%未満では、固形分が不足することで良好な多孔質膜が得られない為に好ましくなく、50wt%を超えると溶媒中へのポリイミド前駆体の溶解が難しくなる。
【0041】
本発明のポリイミド前駆体溶液中の非溶媒の含有量は、非溶媒の種類に応じて適宜決定されるが、概ね全溶媒量の10wt%以上、50wt%未満の範囲である。非溶媒の添加量は前記のように系がバイノーダルライン近傍で且つ一相領域(=相分離を生じない)範囲にコントロールすることが重要である。10wt%以下では非溶媒の量が足りず、良好な多孔質膜を得る事が困難となり、50wt%以上加える事は、経済的な観点及びポリイミド前駆体溶液の安定性の観点から好ましくない。
【0042】
本発明のポリイミド前駆体溶液の溶液粘度は、1Pa・s〜3000Pa・s、好ましくは5Pa・s〜1000Pa・s、特に好ましくは10Pa・s〜500Pa・sである。溶液粘度が3000Pa・sを越えると後述する多孔質膜形成の際に基板上に流延し、膜厚を均一に調整するのが困難になり、且つ相分離による多孔構造形成時の溶媒置換速度の制御が難しくなって孔径、空孔率、孔形状などの多孔質特性を均質に制御することが困難になるので適当ではない。溶液粘度が1Pa・s未満では流延膜としての形状を保持できなくなり厚みムラが生じ易くなるのでるので適当ではない。
【0043】
<ポリイミド多孔質膜及び製造方法>
本発明において、ポリイミド多孔質膜とは、ポリイミド多孔質膜の自己支持膜及び支持体上にコーティング等によって形成された多孔質膜の被覆物を示す。ポリイミド多孔質膜は、本発明のポリイミド前駆体溶液から、公知の方法によって得る事ができる。以下、多孔質膜を製造する方法について具体的に説明する。
【0044】
まず、本発明のポリイミド前駆体溶液を支持体上にフィルム状に流延する。流延方法は特に限定されず、ブレードやTダイなどを用いてガラス板やステンレス板等の支持体上に流延する方法や、連続可動式のドラムやベルト上に連続的に流延して長尺状の流延物を得る方法等を用いる事ができる。その他コーティング等によって支持体上に形成する場合の基材としては、例えば、金属箔、金属線、無機材料板、プラスチックフィルム等が挙げられる。次に流延物を加熱し、相分離による多孔化を介しながら乾燥させることで、ポリイミド前駆体の多孔質膜を得る。加熱温度及び加熱時間は適宜決める事が出来るが、概ね50℃〜200℃で3分〜120分乾燥させる。その後、支持体上のポリイミド前駆体の多孔質膜を必要に応じて支持体から剥離し、追加の加熱処理を行う事でイミド化を完結させてポリイミド多孔質膜を得る。熱イミド化処理は、例えば、ポリイミド前駆体の多孔質膜を、ピン、チャック若しくはピンチロールなどを用いて熱収縮により平滑性が損なわれないように支持体に固定し、大気中又は不活性雰囲気中にて加熱することにより行うことができる。加熱条件は、約100℃〜200℃の比較的低温から加熱を開始し、最終的に280〜600℃、好ましくは300〜550℃まで2分〜120分、好ましくは3分〜90分、さらに好ましくは5分〜60分加熱することでポリイミド多孔質膜を得る事ができる。
【0045】
本発明で得られるポリイミド多孔質膜は、ポリイミド前駆体の凝固価と、良溶媒との沸点差を制御したポリイミド前駆体溶液を用いて製造される為、特に膜厚が比較的薄い場合であっても空孔率が十分に高いポリイミド多孔質膜を得る事が可能である。具体的には膜厚が100μm以下であっても空孔率20%以上の多孔質膜を得られる為、製造する膜厚の選択幅も広げることが可能であり、各種用途への展開が可能となる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
以下の例で用いた酸二無水物、ジアミン、良溶媒及び非溶媒は以下のとおりである。
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)
N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)
ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(BDM)
二塩基酸エステル:No.23エステル(DBE):三協化学株式会社製
エチルカルビネートアセテート(ECA)
ジエチレングリコールジエチルエーテル(EDE)
トリエチレングリコールジメチルエーテル(MTM)
ジエチレングリコールモノメチルエーテル(DM)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DB)
ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDM)
【0048】
以下の例で用いた特性の測定方法を以下に示す。
【0049】
〔ポリイミド前駆体溶液の粘度測定〕
得られたポリイミド前駆体溶液の回転粘度を測定した。測定はTOKIMEC社製のE型回転粘度計でコーン角1.34°、半径24mmのコーンプレートを用いて、1rpm(ずり速度4.48s
−1)での測定値を粘度の指標とした。
【0050】
〔凝固価の測定〕
ポリイミド前駆体を良溶媒中に1wt%溶解した溶液10gを25℃に保ち、この溶液を攪拌しながら非溶媒を少量ずつ添加し、ポリイミド前駆体が析出し始める時点(目視により溶液が白濁した時点)における非溶媒の添加量をポリイミド前駆体溶液1gに対する値に換算して求めた。
【0051】
〔白化時間(相分離時間)〕
支持体上に流延したポリイミド前駆体溶液の液膜を80℃に設定したホットプレート上で加熱した際に、液膜全面が白化(=相分離)するまでに要した時間を測定し、白化時間と定義して相分離のし易さの指標とした。
【0052】
〔膜厚の測定〕
得られた多孔質膜の厚みは東京精密社製 高精度デジタル測長器MINIAX PH−13及び同社表示ユニットDH−150を用いて測定した。
【0053】
〔密度及び空孔率の測定〕
所定の大きさに切り取った多孔質膜の膜厚及び質量を測定し、目付質量から密度及び空孔率を下記一般式(2)、(3)によって求めた。
密度(g/cm
3)=w/S×d (一般式2)
空孔率(%)=(1−(w/S×d)/D)×100 (一般式3)
(式中、Sは多孔質フィルムの面積、dは膜厚、wは測定した質量、Dはポリイミド緻密膜の密度をそれぞれ意味する。ポリイミド緻密膜の密度は1.37g/cm
3として計算した。)
【0054】
〔製造例1〕
撹拌羽、窒素導入管、排気管を取り付けた500mlのガラス製セパラブルフラスコにODA16.20g及びDMAc200gを投入し、撹拌混合した。さらにs−BPDA約23.80gを徐々に加えながら撹拌し、室温で48時間混合してポリイミド前駆体のDMAc溶液(ポリイミド前駆体固形分約16.7wt%)を調整した。s−BPDAの量は、ポリイミド前駆体溶液の粘度が約200Pa・sとなるように調整した。
【0055】
〔製造例2〕
DMAcの代わりにDMFを用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、ポリイミド前駆体のDMF溶液(ポリイミド前駆体固形分約16.7wt%)を調整した。s−BPDAの量は、ポリイミド前駆体溶液の粘度が約200Pa・sとなるように調整した。
【0056】
〔実施例1〕
製造例1で得られたポリイミド前駆体のDMAc溶液30gを撹拌翼で撹拌しながらDMAc2.5g、モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩0.009gを加え、さらにBDM10gを少量ずつ加え、均一になるまで撹拌して良溶媒と非溶媒を含有するポリイミド前駆体溶液を調整した。この溶液を平滑な200mm角のガラス製支持体上に、スペーサーフィルムとブレードを用いて約250μmの厚みに流延後、支持体ごと80℃に設定したホットプレート上で30分加熱した。得られたポリイミド前駆体の多孔質膜を支持体から剥離し、四方を拘束するピンテンターに貼り付け、熱風炉にて130℃から10℃/minの設定値で320℃まで昇温し10分間同温度を保持した後、冷却してポリイミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の特性を表1に示す。また、得られた多孔質膜の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図1に示す。凝固価が2g/g以下かつ良溶媒との沸点差を30℃以上に制御した非溶媒を用いる事で、比較的早くポリイミド前駆体溶液の液膜が白化(=相分離)し、高い空孔率を示す多孔質膜が得られた。
【0057】
〔実施例2〕
添加するDMAc量を16.25g、BDM量を17.5gとした他は、実施例1と同様の方法でポリイミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の特性を表1に示す。凝固価が2g/g以下かつ良溶媒との沸点差を30℃以上に制御した非溶媒を用いる事で、比較的早くポリイミド前駆体溶液の液膜が白化(=相分離)し、高い空孔率を示す多孔質膜が得られた。
【0058】
〔実施例3〕
添加する非溶媒をBDMの代わりにDBEを用いた他は、実施例1と同様の方法でポリイミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の特性を表1に示す。凝固価が2g/g以下かつ良溶媒との沸点差を30℃以上に制御した非溶媒を用いる事で、比較的早くポリイミド前駆体溶液の液膜が白化(=相分離)し、高い空孔率を示す多孔質膜が得られた。
【0059】
〔実施例4〕
添加する非溶媒をBDMの代わりにECAを用いた他は、実施例1と同様の方法でポリイミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の特性を表1に示す。凝固価が2g/g以下かつ良溶媒との沸点差を30℃以上に制御した非溶媒を用いる事で、比較的早くポリイミド前駆体溶液の液膜が白化(=相分離)し、高い空孔率を示す多孔質膜が得られた。
【0060】
〔実施例5〕
製造例2で得られたポリイミド前駆体のDMF溶液を用い、DMAcの代わりにDMFを、BDMの代わりにEDEを添加した他は、実施例1と同様の方法でポリイミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の特性を表1に示す。凝固価が2g/g以下かつ良溶媒との沸点差を30℃以上に制御した非溶媒を用いる事で、比較的早くポリイミド前駆体溶液の液膜が白化(=相分離)し、高い空孔率を示す多孔質膜が得られた。
【0061】
〔比較例1〕
添加する非溶媒をBDMの代わりにMTMを用いた他は、実施例1と同様の方法でポリイミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の特性を表1に示す。凝固価が大きい非溶媒を用いた場合、良溶媒との沸点差が30℃以上であってもポリイミド前駆体溶液の液膜が白化(=相分離)するのが遅い為、高い空孔率を示す多孔質膜を得る事は出来なかった。
【0062】
〔比較例2〕
添加する非溶媒をBDMの代わりにDMを用いた他は、実施例1と同様の方法でポリイミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の特性を表1に示す。凝固価が大きい非溶媒を用いた場合、良溶媒との沸点差が30℃近い場合であっても、ポリイミド前駆体溶液の液膜が白化(=相分離)せず、高い空孔率を示す多孔質膜を得る事は出来なかった。また、ポリイミド前駆体溶液を1週間室温で放置した場合、溶液の粘度が大きく低下し、モノエーテル系溶媒によるポリイミド前駆体の加水分解が示唆された。
【0063】
〔比較例3〕
添加する非溶媒をBDMの代わりにEDEを用いた他は、実施例1と同様の方法でポリイミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の特性を表1に示す。良溶媒と非溶媒の沸点差が30℃以下の非溶媒を用いた場合、凝固価が2g/g以下であっても高い空孔率を示す多孔質膜を得る事は出来なかった。
【0064】
〔比較例4〕
添加する非溶媒をBDMの代わりにEDMを用いた他は、実施例1と同様の方法でポリイミド多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の特性を表1に示す。良溶媒と非溶媒の沸点差が30℃以下の非溶媒を用いた場合、凝固価が2g/g以下であっても高い空孔率を示す多孔質膜を得る事は出来なかった。
【0065】
【表1】