特許第6127974号(P6127974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6127974近赤外線カットフィルターおよび近赤外線カットフィルターを用いた装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6127974
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】近赤外線カットフィルターおよび近赤外線カットフィルターを用いた装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20170508BHJP
   H01L 27/14 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   G02B5/22
   H01L27/14 D
【請求項の数】6
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2013-533613(P2013-533613)
(86)(22)【出願日】2012年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2012072360
(87)【国際公開番号】WO2013038938
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-202121(P2011-202121)
(32)【優先日】2011年9月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】坪内 孝史
【審査官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−298820(JP,A)
【文献】 特開2001−117201(JP,A)
【文献】 特開平01−228960(JP,A)
【文献】 特開平01−228961(JP,A)
【文献】 米国特許第05543086(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
H01L 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収剤および樹脂を含む樹脂製基板(I')を有し、透過率が下記(A)〜(D)を満たし、前記光吸収剤が下記式(II)で表される化合物であることを特徴とする近赤外線カットフィルター。
(A)波長430〜580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が80%以上
(B)波長630〜650nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が70%以上
(C)波長800〜1000nmにおいて、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下
(D)波長550〜700nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が15nm未満;
【化1】
[式(II)中、
aは独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、−NRef基(ReおよびRfはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)、またはヒドロキシ基を表し、
bは独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、−NRgh基(RgおよびRhはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、または−C(O)Ri基(Riは炭素数1〜5のアルキル基を表す。)を表す。)、またはヒドロキシ基を表し、
cは独立に水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、または任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基を表す。]
【請求項2】
前記光吸収剤が、樹脂製基板(I')中に、前記樹脂100重量部に対して0.001〜0.01重量部の量で含有されることを特徴とする請求項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項3】
前記樹脂が、環状オレフィン系樹脂または芳香族ポリエーテル系樹脂であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項4】
前記近赤外線カットフィルターが固体撮像素子用であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線カットフィルターに関する。詳しくは、十分な視野角を持ち、特にCCD、CMOSイメージセンサー等の固体撮像素子用視感度補正フィルターとして好適に用いることができる近赤外線カットフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話などの固体撮像装置にはカラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサーが使用されているが、これら固体撮像素子はその受光部において人間の目では感知できない近赤外線に感度を有するシリコンフォトダイオードを使用している。これらの固体撮像素子では、人間の目で見て自然な色合いにさせる視感度補正を行うことが必要であり、特定の波長領域の光線を選択的に透過もしくはカットする近赤外線カットフィルターを用いることが多い。
【0003】
このような近赤外線カットフィルターとしては、従来から、各種方法で製造されたものが使用されている。例えば、ガラスなど透明基材の表面に銀等の金属を蒸着して近赤外線を反射するようにしたもの、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等の透明樹脂に近赤外線吸収色素を添加したものなどが実用に供されている。
【0004】
しかしながら、ガラス基材に金属を蒸着した近赤外線カットフィルターは製造コストがかかるだけでなく、カッティング時に異物として基材のガラス片が混入してしまうという問題があった。さらに、基材として無機質材料を用いる場合は、近年の固体撮像装置の薄型化・小型化に対応していくためには限界があった。
【0005】
また、特開平6−200113号公報(特許文献1)には、基材として透明樹脂を用い、透明樹脂中に近赤外線吸収色素を含有させた近赤外線カットフィルターが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された近赤外線カットフィルターは、近赤外線吸収能が必ずしも十分ではない場合があった。
【0007】
また、本出願人は、特開2005−338395号公報(特許文献2)、および特開2011−100084号公報(特許文献3)にて、ノルボルネン系樹脂製基板と近赤外線反射膜を有する近赤外線カットフィルターを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−200113号公報
【特許文献2】特開2005−338395号公報
【特許文献3】特開2011−100084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載された近赤外線カットフィルターは、近赤外線カット能、耐吸湿性、耐衝撃性に優れるが、十分な視野角の値をとることはできない場合があった。
特許文献3に記載された近赤外線カットフィルターは、近赤外線カット能、耐吸湿性、耐衝撃性に優れ視野角が広いが、十分な可視光領域の透過率の値をとることはできない場合があった。
【0010】
本発明は、可視光領域の透過率が高く、さらに、視野角が広く、近赤外線カット能に優れ、特にCCD、CMOSイメージセンサー等の固体撮像素子用に好適に用いることができる近赤外線カットフィルターを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1] 樹脂および下記式(I)で表される化合物に由来する構造を有する光吸収剤(A)を含む樹脂製基板(I)を有し、
前記光吸収剤(A)が、前記樹脂製基板(I)中に、前記樹脂100重量部に対して0.001〜0.01重量部の量で含有されることを特徴とする近赤外線カットフィルター。
【0012】
【化1】
[式(I)中、Ra、RbおよびYは、下記(i)または(ii)を満たす。
(i)Raは独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、−NRef基(ReおよびRfはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)、またはヒドロキシ基を表し、
bは独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、−NRgh基(RgおよびRhはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、または−C(O)Ri基(Riは炭素数1〜5のアルキル基を表す。)を表す。)、またはヒドロキシ基を表し、
Yは独立に−NRjk基(RjおよびRkはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、または任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基を表す。)を表す。
(ii)1つのベンゼン環上の2つのRaのうちの1つが、同じベンゼン環上のYと相互に結合して、構成原子数5または6の窒素原子を少なくとも1つ含む複素環を形成し、
bおよび該結合に関与しないRaはそれぞれ独立に前記(i)のRbおよびRaと同義である。]
【0013】
[2] 前記式(I)で表される化合物が、下記式(II)で表される化合物であることを特徴とする[1]に記載の近赤外線カットフィルター。
【0014】
【化2】
[式(II)中、RaおよびRbはそれぞれ独立に、前記式(I)の(i)と同義であり、Rcは独立に水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、または任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基を表す。]
【0015】
[3] 光吸収剤および樹脂を含む樹脂製基板(I')を有し、透過率が下記(A)〜(D)を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルター。
(A)波長430〜580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が80%以上
(B)波長630〜650nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が70%以上
(C)波長800〜1000nmにおいて、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下
(D)波長550〜700nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が15nm未満
【0016】
[4] 前記光吸収剤が下記式(I)で表される化合物に由来する構造を有する光吸収剤(A)であることを特徴とする[3]に記載の近赤外線カットフィルター。
【0017】
【化3】
[式(I)中、Ra、RbおよびYは、下記(i)または(ii)を満たす。
(i)Raは独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、−NRef基(ReおよびRfはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)、またはヒドロキシ基を表し、
bは独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、−NRgh基(RgおよびRhはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、または−C(O)Ri基(Riは炭素数1〜5のアルキル基を表す。)を表す。)、またはヒドロキシ基を表し、
Yは独立に−NRjk基(RjおよびRkはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、または任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基を表す。)を表す。
(ii)1つのベンゼン環上の2つのRaのうちの1つが、同じベンゼン環上のYと相互に結合して、構成原子数5または6の窒素原子を少なくとも1つ含む複素環を形成し、
bおよび該結合に関与しないRaはそれぞれ独立に前記(i)のRbおよびRaと同義である。]
【0018】
[5] 前記式(I)で表される化合物が、下記式(II)で表される化合物であることを特徴とする[4]に記載の近赤外線カットフィルター。
【0019】
【化4】
[式(II)中、RaおよびRbはそれぞれ独立に、前記式(I)の(i)と同義であり、Rcは独立に水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、または任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基を表す。]
【0020】
[6] 前記光吸収剤(A)が、樹脂製基板(I')中に、前記樹脂100重量部に対して0.001〜0.01重量部の量で含有されることを特徴とする[4]または[5]に記載の近赤外線カットフィルター。
【0021】
[7] 前記樹脂が、環状オレフィン系樹脂または芳香族ポリエーテル系樹脂であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の近赤外線カットフィルター。
【0022】
[8] 前記近赤外線カットフィルターが固体撮像素子用であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の近赤外線カットフィルター。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。
[10] [1]〜[8]のいずれかに記載の近赤外線カットフィルターを具備することを特徴とするカメラモジュール。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、可視光領域の透過率が高く、吸収(透過)波長の入射角依存性が小さく、視野角が広く、近赤外線カット能に優れ、吸湿性が低く、ソリが生じにくく、異物のない近赤外線カットフィルターを製造することができる。
また、本発明によれば、固体撮像装置およびカメラモジュール等を薄型化および小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1(a)は、従来のカメラモジュールの一例を示す断面概略図である。図1(b)は、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'を用いた場合のカメラモジュールの一例を示す断面概略図である。
図2図2は、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率を測定する方法を示す概略図である。
図3図3は、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率を測定する方法を示す概略図である。
図4図4は、実施例1で得られた近赤外線カットフィルターの、垂直方向から測定した場合の透過率曲線(0°)および垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率曲線(30°)である。
図5図5は、実施例11で得られた近赤外線カットフィルターの、垂直方向から測定した場合の透過率曲線(0°)および垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率曲線(30°)である。
図6図6は、参考例1で得られた近赤外線カットフィルターの、垂直方向から測定した場合の透過率曲線(0°)および垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率曲線(30°)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0026】
〔近赤外線カットフィルター〕
本発明に係る近赤外線カットフィルターは、下記式(I)で表されるスクアリリウム構造を有する化合物(以下「化合物(I)」ともいう。)に由来する構造を有する光吸収剤(A)0.001〜0.01重量部および樹脂100重量部を含む樹脂製基板(I)を有することを特徴とする。本発明の近赤外線カットフィルターは、下記樹脂製基板(I)と下記近赤外線反射膜とを有することが好ましい。
本発明の近赤外線カットフィルターは、このような樹脂製基板(I)を有することで、特に、入射角依存性の小さい近赤外線カットフィルターとなる。
【0027】
また、本発明に係る近赤外線カットフィルターは、光吸収剤(以下「光吸収剤(A')」ともいう。)および樹脂を含む樹脂製基板(I')を有し、透過率が下記(A)〜(D)を満たすことを特徴とする。
(A)波長430〜580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が80%以上
(B)波長630〜650nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が70%以上
(C)波長800〜1000nmにおいて、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下
(D)波長550〜700nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が15nm未満
【0028】
≪樹脂製基板≫
前記樹脂製基板(I)は、光吸収剤(A)および樹脂を含んでなり、前記樹脂製基板(I')は、光吸収剤(A')および樹脂を含んでなる。この光吸収剤(A')としては、前記光吸収剤(A)が好ましい。
以下、樹脂製基板(I)および樹脂製基板(I')のことを単に「樹脂製基板」ともいう。
前記樹脂製基板は、下記(E)および(F)を満たすことが好ましい。
【0029】
(E)吸収極大が波長640〜800nmの範囲、好ましくは660〜750nm、さらに好ましくは670〜730nmの範囲にあることが望ましい。
基板の吸収極大波長がこのような範囲にあれば、該基板は、近赤外線を選択的に効率よくカットすることができる。
【0030】
(F)波長640nmにおいて、前記樹脂製基板の垂直方向から測定した場合の透過率が65%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上の範囲にあることが望ましい。
【0031】
樹脂製基板の吸収極大が前記範囲にあり、かつ、波長640nmにおいて、前記樹脂製基板の垂直方向から測定した場合の透過率が前記範囲にあると、該基板に光を入射したときに近赤外線の波長領域付近の波長で透過率が急変することとなる。
【0032】
このような樹脂製基板を近赤外線カットフィルターに用いた場合には、そのフィルターの(Ya)と(Yb)の差の絶対値が小さくなり、吸収波長の入射角依存性が小さく、視野角の広い近赤外線カットフィルターとなる。
【0033】
また、前記樹脂製基板を有する近赤外線カットフィルターを、カメラモジュール等レンズユニットに用いた場合には、レンズユニットの低背化を実現できるため好ましい。
【0034】
光吸収剤(A)を特定量で含む基板を用いることで、前記(E)および(F)を満たす樹脂製基板が得られる。
【0035】
カメラモジュールなどの用途によっては、波長400〜700nmのいわゆる可視光領域において、樹脂製基板の厚みを100μmとした時の該基板の平均透過率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは65%以上である。
【0036】
前記樹脂製基板の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択することができ、特に制限されないが、該基板が前記(E)および(F)を満たすように調整することが好ましく、より好ましくは50〜250μm、さらに好ましくは50〜200μm、特に好ましくは80〜150μmである。
【0037】
樹脂製基板の厚みが前記範囲にあると、該基板を用いた近赤外線カットフィルターを小型化、軽量化することができ、固体撮像装置等さまざまな用途に好適に用いることができる。特にカメラモジュール等レンズユニットに用いた場合には、レンズユニットの低背化を実現することができるため好ましい。
【0038】
<光吸収剤(A')>
前記光吸収剤(A')としては、得られる近赤外線カットフィルターが下記(A)〜(D)を満たすような光吸収剤であれば特に制限されないが、このような近赤外線カットフィルターを容易に得ることができるなどの点から、フタロシアニン系化合物、シアニン化合物、スクアリリウム化合物等が好ましく、下記光吸収剤(A)がより好ましい。
【0039】
<光吸収剤(A)>
前記光吸収剤(A)は、化合物(I)に由来する構造を有する。光吸収剤(A)は、スクアリリウム構造を有する染料であることが好ましい。
【0040】
【化5】
【0041】
式(I)中、Ra、RbおよびYは、下記(i)または(ii)を満たす。
(i)Raは独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、−NRef基(ReおよびRfはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)、またはヒドロキシ基を表し、
bは独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、−NRgh基(RgおよびRhはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、または−C(O)Ri基(Riは炭素数1〜5のアルキル基を表す。)を表す。)、またはヒドロキシ基を表し、
Yは独立に−NRjk基(RjおよびRkはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、または任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基を表す。)を表す。
(ii)1つのベンゼン環上の2つのRaのうちの1つが、同じベンゼン環上のYと相互に結合して、構成原子数5または6の窒素原子を少なくとも1つ含む複素環を形成し、Rbおよび該結合に関与しないRaはそれぞれ独立に前記(i)のRbおよびRaと同義である。
【0042】
前記Raの炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等を挙げることができ、これらの基の任意の水素原子がメチル基またはエチル基などで置換されていてもよい。
【0043】
前記−NRef基におけるReおよびRfの炭素数1〜5のアルキル基、Rbの炭素数1〜5のアルキル基、−NRgh基におけるRgおよびRhの炭素数1〜5のアルキル基、ならびに−C(O)Ri基におけるRiの炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基およびペンチル基等を挙げることができる。
【0044】
前記−NRjk基におけるRjおよびRkの炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基等の鎖状脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状脂肪族炭化水素基;などを挙げることができる。
【0045】
前記−NRjk基におけるRjおよびRkの任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基としては、前記鎖状脂肪族炭化水素基の任意の水素原子が−NR'R''基(R'およびR''は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基またはペンチル基等の鎖状脂肪族炭化水素基を表す。)、−CN、−OH、−OR(Rはメチル基、エチル基またはプロピル基を表す。)等の置換基で置換された置換鎖状脂肪族炭化水素基;前記環状脂肪族炭化水素基の任意の水素原子がメチル基またはエチル基等で置換された置換環状脂肪族炭化水素基などを挙げることができる。
【0046】
前記−NRjk基におけるRjおよびRkの炭素数6〜12の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基等を挙げることができる。
前記−NRjk基におけるRjおよびRkの任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基としては、フェニル基やベンジル基等の任意の水素原子がメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基またはペンチル基等の鎖状脂肪族炭化水素基で置換された置換フェニル基などを挙げることができる。
【0047】
前記式(I)の(ii)における、1つのベンゼン環上の2つのRaのうちの1つが、同じベンゼン環上のYと相互に結合した、構成原子数5または6の窒素原子を少なくとも1つ含む複素環としては、例えば、ピロリジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン、ピリダジン、ピリミジンおよびピラジンを挙げることができる。これらの複素環のうち、当該複素環を構成し、かつ、ベンゼン環を構成する炭素原子の隣の1つの原子が窒素原子である複素環が好ましく、ピロリジンがさらに好ましい。
【0048】
化合物(I)は、例えば、下記式(I−1)で表される構造の共鳴構造である化合物(I−2)を含む。つまり、化合物(I)としては、例えば、化合物(I−1)および化合物(I−2)が挙げられる。
【0049】
【化6】
【0050】
前記 光吸収剤(A)は、該光吸収剤(A)をその良溶媒に溶解させることで得られる溶液の透過率を測定(光路長1cm)した時に、該溶液中の光吸収剤(A)の濃度によらず、波長640〜800nmに吸収極大があり、かつ、波長640nmにおける透過率が65%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上となる化合物であることが望ましい。
【0051】
なお、従来の近赤外線カットフィルターでは、このような光吸収剤(A)は、その透過率曲線が急峻な傾きを有すること、近赤外線領域における吸収領域が狭いこと、およびガラス等の基板に混ぜて近赤外線カットフィルターを製造する際に該光吸収剤(A)がガラスの成形温度に耐えることができないなどの理由から用いられてこなかった。もし、光吸収剤(A)を用いるとすると、該光吸収剤は近赤外線領域における吸収領域が狭いため、十分な近赤外線カット能を有する近赤外線カットフィルターを得るには、その添加量を多くせざるを得ず、得られる近赤外線カットフィルターは可視光領域の透過率が低くなる傾向にあると考えられる。以上のことなどから、従来は、本発明のように特に、可視光領域の透過率が高く、入射角依存性の小さい近赤外線カットフィルターは得られなかった。
【0052】
本発明では、特に、前記光吸収剤(A)を用いることで、前記(E)および(F)を満たす近赤外線カットフィルターを得ることができる。このため、本発明の近赤外線カットフィルターは、特に下記(A)、(B)および(D)の特徴を有することになる。このため、入射角依存性が小さく、視野角の広い近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0053】
また、従来、後述する近赤外線反射膜を、蒸着などにより基材上に設ける場合、近赤外線カットフィルターの視野角が狭くなる等の性能が劣化する場合があった。しかし、前記光吸収剤(A)を含む前記樹脂製基板(I)は、近赤外線反射膜を設けることで生じうる近赤外線カットフィルターの性能の劣化を防ぐことができる。よって、近赤外線反射膜を蒸着などにより樹脂製基板上に設けた場合であっても、入射光の入射角に依存しない安定した吸収波長領域を有する近赤外線カットフィルターが得られる。
【0054】
前記化合物(I)は、下記式(II)で表される化合物(以下「化合物(II)」ともいう。)であることが好ましい。
【0055】
【化7】
【0056】
式(II)中、RaおよびRbはそれぞれ独立に、前記式(I)の(i)と同義であり、Rcは独立に水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、または任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基を表す。
【0057】
式(II)中のRcで表される炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、および任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基としては、前記−NRjk基におけるRjおよびRkの炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、任意の水素原子が置換基で置換された炭素数1〜8の置換脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、および任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6〜12の置換芳香族炭化水素基で挙げた基と同様の基等を挙げることができる。
【0058】
式(II)中、Raは独立に水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基が好ましく、水素原子、メチル基が特に好ましい。
式(II)中、Rbは独立に水素原子、メチル基、ヒドロキシ基、−NH−C(O)−CH3基、−N(CH3)−C(O)−CH3基、−N(CH32基が好ましく、水素原子、メチル基、−NH−C(O)−CH3基が特に好ましい。
式(II)中、Rcは独立に水素原子、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、シクロヘキシル基、メチルベンジル基、−(CH22−N(CH32基が好ましく、水素原子、メチル基が特に好ましい。
【0059】
化合物(II)は、その共鳴構造である下記式(II−1)で表される化合物であってもよい。
【0060】
【化8】
【0061】
前記化合物(II)としては、下記の化合物(a−1)〜(a−19)等を挙げることができる。なお、下記化合物中、「Ac」は−C(O)−CH3を表す。
【0062】
【化9】
【0063】
【化10】
【0064】
【化11】
【0065】
これらの中でも、化合物(a−10)は、塩化メチレンによく溶解し、化合物(a−10)を塩化メチレンに0.0001重量%の濃度で溶解させた溶液の分光透過率測定(光路長1cm)を行った場合に、波長640〜800nmに吸収極大があり、かつ、化合物(a−10)0.01重量部、JSR株式会社製の環状オレフィン系樹脂「アートン G」100重量部、さらに塩化メチレンを加えて得られる樹脂濃度が20重量%の溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥させた後、ガラス板から剥離し、さらに減圧下100℃で8時間乾燥させて得られる厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの樹脂製基板(I)の分光透過率測定を行った場合に、波長640nmにおいて、前記樹脂製基板(I)の垂直方向から測定した場合の透過率が65%以上となる。このため、化合物(a−10)を用いることが、吸収(透過)波長の入射角依存性が小さく、視野角の広い近赤外線カットフィルターを製造することができる点で好ましい。
【0066】
前記光吸収剤(A)は、一般的に知られている方法で合成すればよく、たとえば、特開平1−228960号公報に記載されている方法で合成すればよい。
【0067】
本発明において、光吸収剤(A)の使用量は、前記樹脂製基板が前記(E)および(F)を満たすように適宜選択されることが好ましく、具体的には、樹脂製基板(I)の製造時に用いる樹脂100重量部に対して、0.001〜0.01重量部、好ましくは0.003〜0.01重量部、さらに好ましくは0.005〜0.01重量部、特に好ましくは0.007〜0.01重量部である。
【0068】
光吸収剤(A)の使用量が前記範囲内にあると、可視光領域の透過率が高く、吸収波長の入射角依存性が小さく、視野角が広く、近赤外線カット能、430〜580nmの範囲における透過率および強度に優れた近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0069】
光吸収剤(A)の使用量が前記範囲より多いと、光吸収剤(A)の特性(性質)がより強く表れる近赤外線カットフィルターを得ることができる場合もあるが、430〜580nmの範囲における透過率が所望の値より低下する恐れや、樹脂製基板や近赤外線カットフィルターの強度が低下する恐れがある。また、光吸収剤(A)の使用量が前記範囲より少ないと、430〜580nmの範囲における透過率の高い近赤外線カットフィルターを得ることができる場合もあるが、光吸収剤(A)の特性が表れにくくなる恐れがあり、吸収波長の入射角依存性が小さく、視野角が広い樹脂製基板や近赤外線カットフィルターを得ることが困難になる場合がある。
【0070】
本発明の近赤外線カットフィルターに含まれる光吸収剤(A)および(A')は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
<樹脂>
本発明で用いる樹脂製基板は、光吸収剤(A)または(A')と樹脂とを含んでなればよく、該樹脂としては透明樹脂が好ましい。このような樹脂としては、本発明の効果を損なわないものである限り特に制限されないが、例えば、熱安定性およびフィルムへの成形性を確保し、かつ、100℃以上の蒸着温度で行う高温蒸着により下記近赤外線反射膜を形成しうるフィルムとするため、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは110〜380℃、より好ましくは110〜370℃、さらに好ましくは120〜360℃である樹脂が望ましい。また、樹脂のガラス転移温度が、120℃以上、好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上である場合には、誘電体多層膜をより高温で蒸着形成し得るフィルムが得られるため望ましい。
【0072】
前記樹脂としては、厚さ0.1mmでの全光線透過率が、好ましくは75〜94%であり、さらに好ましくは78〜94%であり、特に好ましくは80〜94%である樹脂を用いることが望ましい。全光線透過率がこのような範囲であれば、得られる基板は、良好な透明性を示す。
【0073】
このような樹脂としては例えば、環状オレフィン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリサルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリパラフェニレン樹脂(PPP)、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂(PEPO)、ポリイミド樹脂(PPI)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、(変性)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アリルエステル系硬化型樹脂およびシルセスキオキサン系紫外線硬化樹脂を挙げることができる。
【0074】
前記樹脂のうち、透明性の高い環状オレフィン系樹脂または芳香族ポリエーテル系樹脂を用いると可視光領域の透過率が特に高くなるため好ましく、また、これらの樹脂は、吸湿性が低く、ソリが生じにくいため好ましい。
また、樹脂として、特に環状オレフィン系樹脂または芳香族ポリエーテル系樹脂を用いると、前記光吸収剤(A)や(A')のこれらの樹脂への分散性が良好であるため、光学特性が均一な、成形加工性に優れる基板を得ることができる。
【0075】
本発明の近赤外線カットフィルターに含まれる樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
〈環状オレフィン系樹脂〉
本発明に用いられる透明樹脂として、環状オレフィン系樹脂が挙げられる。環状オレフィン系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、下記式(X0)で表される単量体および下記式(Y0)で表される単量体からなる群より選ばれる少なくとも1つの環状オレフィン系単量体を重合することで得られる樹脂、または必要に応じてさらに得られた樹脂を水素添加することで得られる樹脂を用いることができる。
環状オレフィン系単量体は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
【化12】
(式(X0)中、Rx1〜Rx4は、それぞれ独立に下記(i')〜(ix')より選ばれる原子または基を表し、kx、mxおよびpxは、それぞれ独立に、0または正の整数を表す。)
(i')水素原子
(ii')ハロゲン原子
(iii')トリアルキルシリル基
(iv')酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはケイ素原子を含む連結基を有する、置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基
(v')置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基
(vi')極性基(但し(iv')を除く)
(vii')Rx1とRx2またはRx3とRx4とが、相互に結合して形成されたアルキリデン基を表し、該結合に関与しないRx1〜Rx4は、それぞれ独立に前記(i')〜(vi')より選ばれる原子または基を表す
(viii')Rx1とRx2またはRx3とRx4とが、相互に結合して形成された単環もしくは多環の炭化水素環または複素環を表し、該結合に関与しないRx1〜Rx4は、それぞれ独立に前記(i')〜(vi')より選ばれる原子または基を表す
(ix')Rx2とRx3とが、相互に結合して形成された単環の炭化水素環または複素環を表し、該結合に関与しないRx1およびRx4は、それぞれ独立に前記(i')〜(vi')より選ばれる原子または基を表す
【0078】
【化13】
(式(Y0)中、Ry1およびRy2は、それぞれ独立に前記(i')〜(vi')より選ばれる原子または基を表すか、下記(x')を表し、KyおよびPyは、それぞれ独立に、0または正の整数を表す。)
(x')Ry1とRy2とが、相互に結合して形成された単環または多環の脂環式炭化水素、芳香族炭化水素または複素環を表す
【0079】
前記(ii')ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が挙げられる。
【0080】
前記(iii')トリアルキルシリル基としては、炭素数1〜12のトリアルキルシリル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜6のトリアルキルシリル基である。このようなトリアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基およびトリイソプロピルシリル基等が挙げられる。
【0081】
前記酸素原子、硫黄原子、窒素原子またはケイ素原子を含む連結基としては、カルボニル基(−CO−)、オキシカルボニル基(−OCO−)、カルボニルオキシ基(−COO−)、スルホニル基(−SO2−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−、−CONH−)およびシロキサン結合(−OSi(R)2−(式中、Rはメチル基、エチル基等のアルキル基を表す。))等が挙げられる。前記(iv')の置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基は、これらの連結基を複数含む基であってもよい。
これらの中でも近赤外線反射膜との接着性や密着性に優れる等の点、光吸収剤(A)の分散性や溶解性の点でカルボニルオキシ基(*−COO−)およびシロキサン結合(−OSi(R)2−)が好ましい。但し*が式(X0)の環に結合するものとする。
【0082】
前記置換または非置換の炭素数1〜30の炭化水素基としては、置換または非置換の炭素数1〜15の炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基およびプロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基およびシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ビフェニル基、フェニルエチル基等の芳香族炭化水素基;ビニル基、アリル基およびプロペニル基等のアルケニル基が挙げられる。これらの基の中でも、メチル基およびエチル基が耐熱安定性の点で好ましい。
置換基としては、ヒドロキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0083】
前記(vi')極性基としては、例えば、ヒドロキシ基;メトキシ基およびエトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基およびベンゾイルオキシ基等のカルボニルオキシ基;シアノ基;アミノ基;アシル基;スルホ基;カルボキシル基が挙げられる。
【0084】
また、Rx1とRx2またはRx3とRx4とが、相互に結合して形成されたアルキリデン基としては、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基等が挙げられる。
【0085】
x1とRx2またはRx3とRx4とが、相互に結合して形成された単環もしくは多環の炭化水素環または複素環、Rx2とRx3とが、相互に結合して形成された単環の炭化水素環または複素環、Ry1とRy2とが、相互に結合して形成された単環または多環の脂環式炭化水素、芳香族炭化水素または複素環としては、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロへキシレン、シクロへプチレン、シクロブテニレン、シクロペンテニレン、シクロヘキセニレン、フェニレン、ナフチレン等が挙げられる。
【0086】
x、mx、px、Ky、Pyは、それぞれ独立に、0〜3の整数が好ましい。また、より好ましくはkx+mx+pxが0〜4の整数、さらに好ましくはkx+mx+pxが0〜2の整数であり、特に好ましくはkx+mx+pxが1である。Ky+Pyは0〜4の整数であることが好ましく、Ky+Pyは0〜2の整数であることがより好ましい。mxが0であり、kx+pxが1である環状オレフィン系単量体を用いると、ガラス転移温度が高く、かつ機械的強度にも優れた樹脂が得られるため好ましい。
【0087】
前記環状オレフィン系単量体の種類および量は、得られる樹脂に求められる特性により適宜選択される。
【0088】
前記環状オレフィン系単量体として、その分子内に酸素原子、硫黄原子、窒素原子およびケイ素原子から選ばれる少なくとも1種の原子を少なくとも1個含む構造(以下「極性構造」ともいう。)を有する化合物を用いると、光吸収剤(A)や(A')の分散性に優れる樹脂が得られ、また、他素材(近赤外線反射膜等)との接着性や密着性に優れる樹脂製基板が得られるなどの利点がある。特に、前記式(X0)中、Rx1およびRx3がそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜3の炭化水素基、好ましくは水素原子またはメチル基であり、かつ、Rx2またはRx4のいずれか一つが極性構造を有する基であって他が水素原子または炭素数1〜3炭化水素基である化合物を重合した樹脂は、吸水(湿)性が低く好ましい。また、Ry1またはRy2のいずれか一つが極性構造を有する基であって他が水素原子または炭素数1〜3炭化水素基である化合物を重合した樹脂は、吸水(湿)性が低く好ましい。さらに、前記極性構造を有する基が下記式(Z0)で表される基である環状オレフィン系単量体は、得られる樹脂の耐熱性と吸水(湿)性とのバランスがとりやすいため、好ましく用いられる。
【0089】
−(CH2zCOOR …(Z0
(式(Z0)中、Rは置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基を表し、zは0または1〜10の整数を表す。)
【0090】
前記式(Z0)において、zの値が小さい基ほど得られる重合体の水素添加物のガラス転移温度が高くなり耐熱性に優れるので、zが0または1〜3の整数であることが好ましく、更に、zが0である環状オレフィン系単量体はその合成が容易である点で好ましい。
また、前記式(Z0)におけるRは、炭素数が多いほど得られる重合体の水素添加物の吸水(湿)性が低下する傾向にあるが、ガラス転移温度が低下する傾向にもあるので、耐熱性を保持する観点からは炭素数1〜10の炭化水素基が好ましく、特に炭素数1〜6の炭化水素基であることが好ましい。
【0091】
なお、前記式(X0)において、前記式(Z0)で表される基が結合した炭素原子に、炭素数1〜3のアルキル基、特にメチル基が結合していると、耐熱性と吸水(湿)性のバランスの良い化合物となる傾向にあるため好ましい。加えて、前記式(X0)において、mxが0であり、かつ、kx+pxが1である化合物は、反応性が高く、高収率で樹脂(重合体)が得られること、また、耐熱性が高い重合体水素添加物が得られること、さらに工業的に入手しやすいことから好適に用いられる。
【0092】
前記環状オレフィン系樹脂は、前記環状オレフィン系単量体と該単量体と共重合可能な単量体とを本発明の効果を損なわない範囲で共重合させた重合体であってもよい。
【0093】
これら共重合可能な単量体として、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロドデセンなどの環状オレフィンや1,4−シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロドデカトリエンなどの非共役環状ポリエンを挙げることができる。
これらの共重合可能な単量体は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0094】
前記環状オレフィン系単量体の重合方法については、単量体の重合が可能である限り特に制限されないが、例えば、開環重合または付加重合によって重合することができる。
【0095】
前記開環重合反応により得られる重合体は、その分子中にオレフィン性不飽和結合を有している。また、前記付加重合反応においても、重合体がその分子中にオレフィン性不飽和結合を有する場合がある。このように、重合体分子中にオレフィン性不飽和結合が存在すると、係るオレフィン性不飽和結合が経時着色やゲル化等劣化の原因となる場合があるので、このオレフィン性不飽和結合を飽和結合に変換する水素添加反応を行うことが好ましい。
【0096】
水素添加反応は、通常の方法、すなわち、オレフィン性不飽和結合を有する重合体の溶液に公知の水素添加触媒を添加し、これに常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを0〜200℃、好ましくは20〜180℃で作用させることによって行うことができる。
【0097】
水素添加重合体の水素添加率は、500MHz、1H−NMRで測定して得られるオレフィン性不飽和結合に水素が付加した割合が通常50%以上、好ましく70%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。
水素添加率が高いほど、熱や光に対する安定性に優れた樹脂となり、該樹脂を用いることで、長期にわたって安定した特性を維持できる樹脂製基板が得られるため好ましい。
【0098】
〈芳香族ポリエーテル系樹脂〉
本発明に用いられる透明樹脂として、芳香族ポリエーテル系樹脂が挙げられる。前記芳香族ポリエーテル系重合体とは、主鎖にエーテル結合を形成する反応により得られる重合体のことをいう。芳香族ポリエーテル系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、下記式(1)で表される構造単位(以下「構造単位(1)」ともいう。)および下記式(2)で表される構造単位(以下「構造単位(2)」ともいう。)からなる群より選ばれる少なくとも一つの構造単位(以下「構造単位(1−2)」ともいう。)を有する樹脂(以下「樹脂(1)」ともいう。)であることが好ましい。このような樹脂(1)から得られる基板は、耐熱性および力学的強度に優れ、さらに、透明性および表面平滑性等に優れる。
【0099】
【化14】
【0100】
前記式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立に炭素数1〜12の1価の有機基を示す。
a〜dは、それぞれ独立に0〜4の整数を示し、好ましくは0または1である。
【0101】
炭素数1〜12の1価の有機基としては、炭素数1〜12の1価の炭化水素基、ならびに酸素原子および窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含む炭素数1〜12の1価の有機基等を挙げることができる。
【0102】
炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖の炭化水素基、炭素数3〜12の脂環式炭化水素基および炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0103】
前記炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖の炭化水素基としては、炭素数1〜8の直鎖または分岐鎖の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖の炭化水素基がより好ましい。
【0104】
前記炭素数3〜12の脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜8の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数3または4の脂環式炭化水素基がより好ましい。
【0105】
酸素原子を含む炭素数1〜12の有機基としては、水素原子、炭素原子および酸素原子からなる有機基が挙げられ、中でも、エーテル結合、カルボニル基またはエステル結合と炭化水素基とからなる総炭素数1〜12の有機基等を好ましく挙げることができる。
【0106】
窒素原子を含む炭素数1〜12の有機基としては、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる有機基が挙げられ、具体的には、シアノ基、イミダゾール基、トリアゾール基、ベンズイミダゾール基およびベンズトリアゾール基等が挙げられる。
【0107】
酸素原子および窒素原子を含む炭素数1〜12の有機基としては、水素原子、炭素原子、酸素原子および窒素原子からなる有機基が挙げられ、具体的には、オキサゾール基、オキサジアゾール基、ベンズオキサゾール基およびベンズオキサジアゾール基等が挙げられる。
【0108】
前記式(1)におけるR1〜R4としては、吸水(湿)性の低い樹脂が得られるなどの点から炭素数1〜12の1価の炭化水素基が好ましく、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。
【0109】
【化15】
【0110】
前記式(2)中、R1〜R4およびa〜dは、それぞれ独立に前記式(1)中のR1〜R4およびa〜dと同義であり、Yは、単結合、−SO2−または>C=Oを示し、R7およびR8は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1〜12の1価の有機基またはニトロ基を示し、mは、0または1を示す。但し、mが0の時、R7はシアノ基ではない。gおよびhは、それぞれ独立に0〜4の整数を示し、好ましくは0である。
炭素数1〜12の1価の有機基としては、前記式(1)における炭素数1〜12の1価の有機基と同様の有機基等を挙げることができる。
【0111】
前記樹脂(1)は、前記構造単位(1)と前記構造単位(2)とのモル比(但し、両者の合計(構造単位(1)+構造単位(2))は100である。)が、光学特性、耐熱性および力学的特性の観点から構造単位(1):構造単位(2)=50:50〜100:0であることが好ましく、構造単位(1):構造単位(2)=70:30〜100:0であることがより好ましく、構造単位(1):構造単位(2)=80:20〜100:0であることがさらに好ましい。
ここで、力学的特性とは、樹脂の引張強度、破断伸びおよび引張弾性率等の性質のことをいう。
【0112】
また、前記樹脂(1)は、さらに、下記式(3)で表される構造単位および下記式(4)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一つの構造単位(以下「構造単位(3−4)」ともいう。)を有してもよい。前記樹脂(1)がこのような構造単位(3−4)を有すると、該樹脂(1)を含む基板の力学的特性が向上するため好ましい。
【0113】
【化16】
【0114】
前記式(3)中、R5およびR6は、それぞれ独立に炭素数1〜12の1価の有機基を示し、Zは、単結合、−O−、−S−、−SO2−、>C=O、−CONH−、−COO−または炭素数1〜12の2価の有機基を示し、nは、0または1を示す。eおよびfは、それぞれ独立に0〜4の整数を示し、好ましくは0である。
炭素数1〜12の1価の有機基としては、前記式(1)における炭素数1〜12の1価の有機基と同様の有機基等を挙げることができる。
【0115】
炭素数1〜12の2価の有機基としては、炭素数1〜12の2価の炭化水素基、炭素数1〜12の2価のハロゲン化炭化水素基、酸素原子および窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含む炭素数1〜12の2価の有機基、ならびに酸素原子および窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含む炭素数1〜12の2価のハロゲン化有機基等を挙げることができる。
【0116】
炭素数1〜12の2価の炭化水素基としては、炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖の2価の炭化水素基、炭素数3〜12の2価の脂環式炭化水素基および炭素数6〜12の2価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0117】
炭素数1〜12の2価のハロゲン化炭化水素基としては、前記炭素数1〜12の2価の炭化水素基において、その少なくとも一部の水素原子がフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換された基等が挙げられる。
【0118】
酸素原子および窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含む炭素数1〜12の有機基としては、水素原子および炭素原子と、酸素原子および/または窒素原子とからなる有機基が挙げられ、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合またはアミド結合と炭化水素基とを有する総炭素数1〜12の2価の有機基等が挙げられる。
【0119】
酸素原子および窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含む炭素数1〜12の2価のハロゲン化有機基としては、前記酸素原子および窒素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含む炭素数1〜12の2価の有機基において、その少なくとも一部の水素原子がフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子で置換された基等が挙げられる。
【0120】
前記式(3)におけるZとしては、単結合、−O−、−SO2−、>C=Oまたは炭素数1〜12の2価の有機基が好ましく、吸水(湿)性の低い樹脂が得られるなどの点から炭素数1〜12の2価の炭化水素基がより好ましく、該炭素数1〜12の2価の炭化水素基としては、炭素数3〜12の2価の脂環式炭化水素基がより好ましい。
【0121】
【化17】
【0122】
前記式(4)中、R7、R8、Y、m、gおよびhは、それぞれ独立に前記式(2)中のR7、R8、Y、m、gおよびhと同義であり、R5、R6、Z、n、eおよびfは、それぞれ独立に前記式(3)中のR5、R6、Z、n、eおよびfと同義である。なお、mが0の時、R7はシアノ基ではない。
【0123】
前記樹脂(1)は、前記構造単位(1−2)と前記構造単位(3−4)とのモル比(但し、両者の合計(構造単位(1−2)+構造単位(3−4))は100である。)が、光学特性、耐熱性および力学的特性の観点から構造単位(1−2):構造単位(3−4)=50:50〜100:0であることが好ましく、構造単位(1−2):構造単位(3−4)=70:30〜100:0であることがより好ましく、構造単位(1−2):構造単位(3−4)=80:20〜100:0であることがさらに好ましい。
【0124】
前記樹脂(1)は、光学特性、耐熱性および力学的特性の観点から前記構造単位(1−2)および前記構造単位(3−4)を全構造単位中70モル%以上含むことが好ましく、全構造単位中95モル%以上含むことがより好ましい。
【0125】
前記樹脂(1)は、例えば、下記式(5)で表される化合物(以下「化合物(5)」ともいう。)および下記式(7)で表される化合物(以下「化合物(7)」ともいう。)からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物を含む成分(以下「(A)成分」ともいう。)と、下記式(6)で表される化合物(以下「化合物(6)」ともいう。)を含む成分(以下「(B)成分」ともいう。)とを、反応させることにより得ることができる。
【0126】
【化18】
【0127】
前記式(5)中、Xは独立してハロゲン原子を示し、フッ素原子が好ましい。
【0128】
【化19】
【0129】
前記式(7)中、R7、R8、Y、m、gおよびhは、それぞれ独立に前記式(2)中のR7、R8、Y、m、gおよびhと同義であり、Xは、独立に前記式(5)中のXと同義である。但し、mが0の時、R7はシアノ基ではない。
【0130】
【化20】
【0131】
前記式(6)中、RAは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、アセチル基、メタンスルホニル基またはトリフルオロメチルスルホニル基を示し、この中でも水素原子が好ましい。なお、式(6)中、R1〜R4およびa〜dは、それぞれ独立に前記式(1)中のR1〜R4およびa〜dと同義である。
【0132】
化合物(5)および化合物(7)からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物は、(A)成分100モル%中に、80モル%〜100モル%含まれていることが好ましく、90モル%〜100モル%含まれていることがより好ましい。
また、(B)成分は、必要に応じて下記式(8)で表される化合物を含むことが好ましい。化合物(6)は、(B)成分100モル%中に、50モル%〜100モル%含まれていることが好ましく、80モル%〜100モル%含まれていることがより好ましく、90モル%〜100モル%含まれていることがさらに好ましい。
【0133】
【化21】
【0134】
前記式(8)中、R5、R6、Z、n、eおよびfは、それぞれ独立に前記式(3)中のR5、R6、Z、n、eおよびfと同義であり、RAは、独立に前記式(6)中のRAと同義である。
【0135】
これらの樹脂(1)の合成に用いられ得る化合物(5)〜(8)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0136】
〈透明樹脂の市販品〉
本発明に用いることができる透明樹脂の市販品としては、以下の市販品等を挙げることができる。環状オレフィン系樹脂の市販品としては、例えば、JSR株式会社製アートン、日本ゼオン株式会社製ゼオノア、三井化学株式会社製APEL、ポリプラスチックス株式会社製TOPASを挙げることができる。ポリエーテルサルホン樹脂の市販品としては、住友化学株式会社製スミカエクセルPES、住友ベークライト株式会社製スミライトなどを挙げることができる。ポリイミド樹脂の市販品としては、三菱ガス化学株式会社製ネオプリムLなどを挙げることができる。ポリカーボネート樹脂の市販品としては、帝人株式会社製ピュアエースなどを挙げることができる。シルセスキオキサン系紫外線硬化樹脂の市販品としては、新日鐵化学株式会社製シルプラスなどを挙げることができる。
【0137】
<その他成分>
前記樹脂製基板には、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに、酸化防止剤;紫外線吸収剤;光吸収剤(A)以外の近赤外線を吸収する染料や顔料;反射防止剤、ハードコート剤、帯電防止剤などのコーティング剤;および金属錯体系化合物;等の添加剤を添加することができる。また、後述する溶液キャスティング法により樹脂製基板を製造する場合には、レベリング剤や消泡剤を添加することで樹脂製基板の製造を容易にすることができる。これらその他成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0138】
前記酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2'−ジオキシ−3,3'−ジ−t−ブチル−5,5'−ジメチルジフェニルメタン、およびテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが挙げられる。
【0139】
前記紫外線吸収剤としては、例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、および2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンが挙げられる。
【0140】
なお、これら添加剤は、樹脂製基板を製造する際に、樹脂などとともに混合してもよいし、樹脂を製造する際に添加してもよい。また、添加量は、所望の特性に応じて適宜選択されるものであるが、樹脂100重量部に対して、通常0.01〜5.0重量部、好ましくは0.05〜2.0重量部である。
【0141】
<樹脂製基板の製造方法>
本発明に用いる樹脂製基板は、例えば、樹脂と光吸収剤(A)や(A')とを含む組成物を溶融成形、キャスト成形により形成することができる。
【0142】
(A)溶融成形
前記樹脂製基板は、前記樹脂と光吸収剤(A)や(A')とを溶融混練りして得られたペレットを溶融成形する方法;前記樹脂と光吸収剤(A)や(A')とを含有する樹脂組成物を溶融成形する方法;光吸収剤(A)や(A')と前記樹脂と溶媒とを含む樹脂組成物から溶媒を除去して得られたペレットを溶融成形する方法;などにより製造することができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、溶融押出成形またはブロー成形を挙げることができる。
【0143】
(B)キャスト成形
前記樹脂製基板は、光吸収剤(A)や(A')と前記樹脂と溶媒とを含む樹脂組成物を適当な基材の上にキャスティングして溶媒を除去すること;反射防止剤、ハードコート剤および/または帯電防止剤等のコーティング剤と、光吸収剤(A)や(A')と、前記樹脂とを含む樹脂組成物を適当な基材の上にキャスティングすること;反射防止剤、ハードコート剤および/または帯電防止剤等のコーティング剤と、光吸収剤(A)や(A')と、前記樹脂とを含む硬化性組成物を適当な基材の上にキャスティングして硬化、乾燥させること;などにより製造することもできる。
【0144】
前記基材としては、例えば、ガラス板、スチールベルト、スチールドラムおよび透明樹脂(例えば、ポリエステルフィルム、環状オレフィン系樹脂フィルム)が挙げられる。
【0145】
前記樹脂製基板は、基材から塗膜を剥離することにより得ることができ、また、本発明の効果を損なわない限り、基材から塗膜を剥離せずに基材と塗膜との積層体を前記樹脂製基板としてもよい。
さらに、ガラス板、石英または透明プラスチック製等の光学部品に、前記樹脂組成物をコーティングして溶媒を乾燥させたり、前記硬化性組成物をコーティングして硬化、乾燥させるたりすることにより、光学部品上に直接樹脂製基板を形成することもできる。
【0146】
前記方法で得られた樹脂製基板中の残留溶媒量は可能な限り少ない方がよく、通常3重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。残留溶媒量が前記範囲にあると、変形や特性が変化しにくい、所望の機能を容易に発揮できる樹脂製基板が得られる。
【0147】
≪近赤外線反射膜≫
本発明に用いられる近赤外線反射膜は、近赤外線を反射する能力を有する膜である。このような近赤外線反射膜としては、アルミ蒸着膜、貴金属薄膜、酸化インジウムを主成分とし、酸化錫を少量含有させた金属酸化物微粒子を分散させた樹脂膜、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜などを用いることができる。
【0148】
本発明の近赤外線カットフィルターは、このような近赤外線反射膜を有することで、特に下記(C)の特徴を有することになる。このため、近赤外線を十分にカットすることのできるフィルターを得ることができる。
【0149】
本発明において、近赤外線反射膜は樹脂製基板の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。片面に設ける場合には、製造コストや製造容易性に優れ、両面に設ける場合には、高い強度を有し、ソリの生じにくい近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0150】
これら近赤外線反射膜の中では、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜を好適に用いることができる。
【0151】
高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、好ましくは屈折率の範囲が1.7〜2.5の材料が選択される。
【0152】
これら材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、または酸化インジウム等を主成分とし、酸化チタン、酸化錫および/または酸化セリウムなどを少量(例えば、主成分に対し0〜10%)含有させたものが挙げられる。
【0153】
低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、好ましくは屈折率の範囲が1.2〜1.6の材料が選択される。
【0154】
これら材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウムおよび六フッ化アルミニウムナトリウムが挙げられる。
【0155】
高屈折率材料層と低屈折率材料層とを積層する方法については、これら材料層を積層した誘電体多層膜が形成される限り特に制限はない。例えば、前記樹脂製基板上に、直接、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法またはイオンプレーティング法などにより、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜を形成することができる。
【0156】
また、樹脂製基板と近赤外線反射膜との密着性を向上させる目的で、樹脂製基板の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の表面処理をしてもよい。
【0157】
これら高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚みは、通常、遮断しようとする近赤外線波長をλ(nm)とすると、0.1λ〜0.5λの厚みが好ましい。厚みがこの範囲あると、屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)がλ/4で算出される光学的膜厚と高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚みとがほぼ同じ値となって、反射・屈折の光学的特性の関係から、特定波長の遮断・透過を容易にコントロールできる傾向にある。
【0158】
ただし、可視光領域(波長420〜700nm)にわずかな反射が見られる場合には、反射率を低減するために、0.1λ〜0.5λの厚みから外れる厚さの層を数層加えてもよい。その際の厚みは0.03λ〜0.1λが好ましい。
【0159】
誘電体多層膜における高屈折率材料層と低屈折率材料層との合計の積層数は、5〜60層、好ましくは10〜50層であることが望ましい。
【0160】
さらに、誘電体多層膜を形成した際に基板にソリが生じてしまう場合には、これを解消するために、基板両面に誘電体多層膜を形成したり、基板の誘電体多層膜を形成した面に紫外線等の電磁波を照射したりする等の方法をとることができる。なお、電磁波を照射する場合、誘電体多層膜の形成中に照射してもよいし、形成後別途照射してもよい。
【0161】
≪その他の機能膜≫
本発明の近赤外線カットフィルターは、本発明の効果を損なわない範囲において、樹脂製基板と誘電体多層膜等の近赤外線反射膜の間、樹脂製基板の近赤外線反射膜が設けられた面と反対側の面、または近赤外線反射膜の樹脂製基板が設けられた面と反対側の面に、樹脂製基板や近赤外線反射膜の表面硬度の向上、耐薬品性の向上、帯電防止および傷消しなどの目的で、反射防止膜、ハードコート膜や帯電防止膜などの機能膜を適宜設けることができる。
本発明の近赤外線カットフィルターは、前記機能膜からなる層を1層含んでもよく、2層以上含んでもよい。本発明の近赤外線カットフィルターが前記機能膜からなる層を2層以上含む場合には、同様の層を2層以上含んでもよいし、異なる層を2層以上含んでもよい。
【0162】
機能膜を積層する方法としては、特に制限されないが、反射防止剤、ハードコート剤および/または帯電防止剤等のコーティング剤などを樹脂製基板または近赤外線反射膜上に、前記と同様に溶融成形、キャスト成形する方法等を挙げることができる。
また、前記コーティング剤などを含む硬化性組成物をバーコーター等で樹脂製基板または近赤外線反射膜上に塗布した後、紫外線照射等により硬化することによっても製造することができる。
【0163】
前記コーティング剤としては、紫外線(UV)/電子線(EB)硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などが挙げられ、具体的には、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系およびエポキシアクリレート系樹脂などが挙げられる。
【0164】
また、前記硬化性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。前記重合開始剤としては、公知の光重合開始剤または熱重合開始剤を用いることができ、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用してもよい。重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0165】
前記硬化性組成物中、重合開始剤の配合割合は、硬化性組成物の全量を100重量%として、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%である。重合開始剤の配合割合が前記範囲にあると、硬化性組成物は硬化特性および取り扱い性に優れ、所望の硬度を有する反射防止膜、ハードコート膜や帯電防止膜などの機能膜を得ることができる。
【0166】
さらに、前記硬化性組成物には溶剤として有機溶剤を加えてもよく、有機溶剤としては、公知のものを使用することができる。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。
これら溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0167】
前記機能膜の厚さは、好ましくは0.1μm〜20μm、さらに好ましくは0.5μm〜10μm、特に好ましくは0.7μm〜5μmである。
【0168】
また、樹脂製基板と機能膜および/または近赤外線反射膜との密着性や、機能膜と近赤外線反射膜との密着性を上げる目的で、樹脂製基板や機能膜の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の表面処理をしてもよい。
【0169】
≪近赤外線カットフィルターの特性等≫
本発明の近赤外線カットフィルターは、その光線透過率が、下記(A)〜(D)を満たすことが好ましい。
【0170】
(A)波長430〜580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が80%以上、好ましくは82%以上、さらに好ましくは85%以上の範囲にあることが望ましい。本発明では、厚さ0.1mmでの全光線透過率が高い樹脂、当該波長領域に吸収を持たない光吸収剤(A)や(A')等を用いることで、このような波長430〜580nmにおいて、高い透過率を有する近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0171】
近赤外線カットフィルターを固体撮像装置やカメラモジュール等のレンズユニットにおける視感度補正用フィルター等に用いる場合、波長430〜580nmにおける透過率の平均値が前記範囲にあり、この波長範囲において透過率が略一定であることが好ましい。
【0172】
波長430〜580nmの範囲における透過率の平均値としては高い方が好ましい。透過率の平均値が高いと、フィルターを通過する光の強度が充分確保され、下記用途等に好適に用いることができる。
【0173】
一方、波長430〜580nmの範囲における透過率の平均値が低いと、フィルターを通過する光の強度が充分確保されず、下記用途に好適に用いることができないおそれがある。
【0174】
(B)波長630〜650nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が70%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは78%以上の範囲にあることが望ましい。本発明では、特に、前記光吸収剤(A)を用いることで、所定の透過率となる近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0175】
近赤外線カットフィルターの波長630〜650nmの範囲における透過率が前記範囲にあると、可視光領域の透過率が高く、また、該フィルターに光を入射したときに、近赤外線の波長領域付近の波長で透過率が急変することとなる近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0176】
(C)波長800〜1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下の範囲にあることが望ましい。本発明では、樹脂製基板上に近赤外線反射膜を設けることで、このような波長800〜1000nmにおける透過率が十分に低い近赤外線カットフィルターを得ることができる。
特に、前記誘電体多層膜などの高い近赤外線反射能を有する近赤外線反射膜を樹脂製基板(I)上に設けることで、波長800〜1000nmにおける透過率が十分に低い近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0177】
本発明の近赤外線カットフィルターは近赤外線の波長(800nm以上)を選択的に低減させるものであるため、800〜1000nmの範囲における透過率の平均値は低い方が好ましい。透過率の平均値が低いと、近赤外線カットフィルターは、近赤外線を十分にカットすることができる。
【0178】
一方、波長800〜1000nmの範囲における透過率の平均値が高いと、フィルターは、近赤外線を充分カットすることができず、該フィルターをPDP等に用いた場合には、家庭内において、PDP周辺にある電子機器の誤作動を防ぐことができないおそれがある。
【0179】
(D)波長550〜700nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Yb)の差の絶対値(|Ya−Yb|)が15nm未満、好ましくは10nm未満、さらに好ましくは8nm未満の範囲にあることが望ましい。
【0180】
本発明では、前記光吸収剤(A)を用いることで、所定の透過率となる波長の差の絶対値が前記所定の範囲となる近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0181】
波長550〜700nmの範囲において、(Ya)と(Yb)の差の絶対値が前記範囲にあると、このようなフィルターをデジタルカメラ等に用いた場合には、画像の周辺部と中心部で同等の明るさおよび色調を示し、視野角の広いデジタルカメラ等を得ることができる。
【0182】
一方、(Ya)と(Yb)の差の絶対値が15nm以上である近赤外線カットフィルターをデジタルカメラ等に用いると、画像の周辺部と中心部で明るさに差があったり、色調が異なったり、特定の色が見えにくくなったりする恐れがあるため、下記用途に好適に用いることができない場合がある。
【0183】
本発明においては、近赤外線カットフィルターに上下左右から光を入射させた場合に、どの位の角度まで正常に光を透過させることが可能かを示す指標として「視野角」を用いることもある。
【0184】
正常に光を透過させることができるかどうかの判断として、本発明では、波長550〜700nmの範囲において、フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Ya)と、フィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が15nm未満となることを一つの基準とする。
【0185】
前記近赤外線カットフィルターの厚みは、該フィルターの透過率が前記(A)〜(D)を満たすように調整することが好ましく、特に制限はないが、好ましくは50〜250μm、より好ましくは50〜200μm、さらに好ましくは、80〜150μmである。
【0186】
近赤外線カットフィルターの厚みが前記範囲にあると、フィルターを、小型化、軽量化することができ、固体撮像装置等さまざまな用途に好適に用いることができる。特にカメラモジュール等レンズユニットに用いた場合には、レンズユニットの低背化を実現することができるため好ましい。
【0187】
<近赤外線カットフィルターの用途>
本発明の近赤外線カットフィルターは、視野角が広く、優れた近赤外線カット能等を有する。したがってカメラモジュールのCCDやCMOSイメージセンサーなどの固体撮像素子の視感度補正用として有用である。特に、デジタルスチルカメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ等の固体撮像装置等に有用である。
【0188】
ここで、本発明で得られる近赤外線カットフィルターをカメラモジュールに用いる場合について具体的に説明する。
【0189】
図1に、カメラモジュールの断面概略図を示す。
図1(a)は、従来のカメラモジュールの構造の断面概略図であり、図1(b)は、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'を用いた場合の、とり得ることができるカメラモジュールの構造の一つを表す断面概略図である。
【0190】
図1(b)では、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'をレンズ5の上部に用いているが、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'は、図1(a)に示すようにレンズ5とセンサー7の間に用いることもできる。
【0191】
従来のカメラモジュールでは、近赤外線カットフィルター6に対してほぼ垂直に光が入射する必要があった。そのため、フィルター6は、レンズ5とセンサー7の間に配置する必要があった。
【0192】
ここで、センサー7は、高感度であり、5μ程度のちりやほこりが触れるだけで正確に作動しなくなるおそれがあるため、センサー7の上部に用いるフィルター6は、ちりやほこりの出ないものであり、異物を含まないものである必要があった。また、前記センサー7の特性から、フィルター6とセンサー7の間には、所定の間隔を設ける必要があり、このことがカメラモジュールの低背化を妨げる一因となっていた。
【0193】
これに対し、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'は、(Ya)と(Yb)の差の絶対値が15nm以下である。つまり、フィルター6'の垂直方向から入射する光と、フィルター6'の垂直方向に対して30°から入射する光の透過波長に大きな差はないため(吸収(透過)波長の入射角依存性が小さいため)、フィルター6'は、レンズ5とセンサー7の間に配置する必要がなく、レンズの上部に配置することもできる。
【0194】
このため、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'をカメラモジュールに用いる場合には、該カメラモジュールの取り扱い性が容易になり、また、フィルター6'とセンサー7の間に所定の間隔を設ける必要がないため、カメラモジュールの低背化が可能となる。
【実施例】
【0195】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、この実施例により何ら限定されるものではない。なお、「部」は、特に断りのない限り「重量部」を意味する。
【0196】
まず、各物性値の測定方法および物性の評価方法について説明する。
【0197】
(1)分子量:
東ソ−製のHタイプカラムが装着された、ウオターズ(WATERS)社製のゲルパーミエ−ションクロマトグラフィー(GPC)装置(150C型)を用い、o−ジクロロベンゼン溶媒、120℃の条件で、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定した。
【0198】
(2)ガラス転移温度(Tg):
エスアイアイ・ナノテクノロジーズ株式会社製の示差走査熱量計(DSC6200)を用いて、昇温速度:毎分20℃、窒素気流下で測定した。
【0199】
(3)飽和吸水率:
ASTM D570に準拠し、合成例で得られた樹脂から厚さ3mm、縦50mm、横50mmの試験片作成し、得られた試験片を23℃の水中に1週間浸漬させた後、試験片の重量変化より吸水率を測定した。
【0200】
(4)分光透過率:
株式会社日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計(U−4100)を用いて測定した。
【0201】
ここで、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率は、図2のようにフィルターに対し垂直に透過した光を測定した。
【0202】
また、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率は、図3のようにフィルターの垂直方向に対して30°の角度で透過した光を測定した。
【0203】
なお、実施例において、分光透過率は、(Yb)を測定する場合を除き、光が基板、フィルターに対して垂直に入射する条件で、該分光光度計を使用して測定した。(Yb)を測定する場合には、光がフィルターの垂直方向に対して30°の角度で入射する条件で該分光光度計を使用して測定した。
【0204】
[合成例1]
下記式(a)で表される8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下「DNM」ともいう。)100部と、1−ヘキセン(分子量調節剤)18部と、トルエン(開環重合反応用溶媒)300部とを、窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を80℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒として、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.6mol/リットル)0.2部と、メタノール変性の六塩化タングステンのトルエン溶液(濃度0.025mol/リットル)0.9部とを添加し、この溶液を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。
【0205】
【化22】
【0206】
このようにして得られた開環重合体溶液1,000部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C6533を0.12部添加し、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱撹拌して水素添加反応を行った。
【0207】
得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体(以下「樹脂A」ともいう。)を得た。樹脂Aの分子量は数平均分子量(Mn)が32,000、重量平均分子量(Mw)が137,000であり、ガラス転移温度(Tg)は165℃であった。
【0208】
[合成例2]
3Lの4つ口フラスコに2,6−ジフルオロベンゾニトリル35.12g(0.253mol)、9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン125.65g(0.250mol)、炭酸カリウム41.46g(0.300mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下「DMAc」ともいう。)443gおよびトルエン111gを添加した。続いて、4つ口フラスコに温度計、撹拌機、窒素導入管付き三方コック、ディーンスターク管および冷却管を取り付けた。
【0209】
次いで、フラスコ内を窒素置換した後、得られた溶液を140℃で3時間反応させ、生成する水をディーンスターク管から随時取り除いた。水の生成が認められなくなったところで、徐々に温度を160℃まで上昇させ、そのままの温度で6時間反応させた。
室温(25℃)まで冷却後、生成した塩をろ紙で除去し、ろ液をメタノールに投じて再沈殿させ、ろ別によりろ物(残渣)を単離した。得られたろ物を60℃で一晩真空乾燥し、白色粉末B(以下「樹脂B」ともいう。)を得た(収量95.67g、収率95%)。
【0210】
得られた樹脂Bの構造分析を行った。結果は、赤外吸収スペクトルの特性吸収が、3035cm-1(C−H伸縮)、2229cm-1(CN)、1574cm-1、1499cm-1(芳香環骨格吸収)、1240cm-1(−O−)であった。樹脂Bは、数平均分子量(Mn)が67,000であり、重量平均分子量(Mw)が146,000であり、ガラス転移温度(Tg)は275℃であった。得られた樹脂Bは前記構造単位(1)を有していた。
【0211】
[合成例3]
9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン125.65g(0.250mol)の代わりに、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン87.60g(0.250mol)を使用した以外は合成例2と同様に合成を行い、樹脂Cを得た。樹脂Cは、数平均分子量(Mn)が75,000であり、重量平均分子量(Mw)が188,000であり、ガラス転移温度(Tg)は285℃であった。
【0212】
[合成例4]
9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン125.65g(0.250mol)の代わりに、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン78.84g(0.225mol)および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン6.71g(0.025mol)を使用した以外は合成例2と同様に合成を行い、樹脂Dを得た。樹脂Dは、数平均分子量(Mn)が36,000であり、重量平均分子量(Mw)が78,000であり、ガラス転移温度(Tg)は260℃であった。
【0213】
[合成例5]
2,6−ジフルオロベンゾニトリル35.12g(0.253mol)の代わりに、4,4−ジフルオロジフェニルスルホン(DFDS)63.56g(0.250mol)を使用した以外は合成例2と同様に合成を行い、樹脂Eを得た。樹脂Eの分子量は数平均分子量(Mn)が37,000であり、重量平均分子量(Mw)が132,000であり、ガラス転移温度(Tg)は265℃であった。
【0214】
[実施例1]
容器に、合成例1で得た樹脂A100重量部、スクアリリウム系化合物「a−10」(前記式(a−10)で表される化合物)0.01重量部、さらに塩化メチレンを加えることで、樹脂濃度が20重量%の溶液(ex1)を得た。
次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した塗膜をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
【0215】
この基板の分光透過率を測定し、吸収極大波長と、波長640nmの透過率を求めた。
この結果を表1に示す。
【0216】
この基板の吸収極大波長は699nmであった。また、波長640nmの透過率は82%であった。
【0217】
続いて、係る基板の片面に、蒸着温度100℃で、近赤外線を反射する多層蒸着膜〔シリカ(SiO2:膜厚35〜190nm)層とチタニア(TiO2:膜厚12〜112nm)層とが交互に積層されてなるもの,積層数20〕を形成し、さらに基板のもう一方の面に、蒸着温度100℃で、近赤外線を反射する多層蒸着膜〔シリカ(SiO2:膜厚33〜161nm)層とチタニア(TiO2:膜厚10〜101nm)層とが交互に積層されてなるもの,積層数22〕を形成し、厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを得た。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を測定し、(Ya)、(Yb)を求めた。
この結果を表1に示す。また、透過率曲線を図4に示す。
【0218】
波長430〜580nmにおける透過率の平均値は93%、波長630〜650nmにおける透過率の平均値は88%、波長800〜1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
【0219】
また、波長550〜700nmの範囲において、フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Ya)と、フィルターの垂直方向に対して 30°の角度から測定した場合の透過率が75%となる波長の値(Yb)の差の絶対値(|Ya−Yb|)は3nmであった。
【0220】
[実施例2]
実施例1で得られた基板の片面に、蒸着温度100℃で、近赤外線を反射する多層蒸着膜〔シリカ(SiO2:膜厚36〜190nm)層とチタニア(TiO2:膜厚11〜113nm)層とが交互に積層されてなるもの,積層数40〕を形成し、厚さ0.104mmの近赤外線カットフィルターを得た。さらに、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0221】
[実施例3]
実施例1で得られた基板の両面に、荒川化学工業株式会社製ハードコート剤「ビームセット」を、硬化後の膜厚が各0.002mmとなるようにバーコーターにて塗布した後UV照射して硬化し、厚さ0.104mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.109mmの近赤外線カットフィルターを製造した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0222】
[実施例4]
実施例1で得られた基板の両面に、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートとメチルエチルケトンとを50:50の割合で混合した組成物を、乾燥後の膜厚が片面0.002mmとなるようにバーコーターにて塗布したのちUV照射して硬化し、厚さ0.104mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.109mmの近赤外線カットフィルターを製造した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0223】
[実施例5]
樹脂Aの代わりにJSR株式会社製の環状オレフィン系樹脂「アートン G」を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0224】
[実施例6]
樹脂Aの代わりに株式会社製のポリカーボネート樹脂「ピュアエース」を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0225】
[実施例7]
樹脂Aの代わりに合成例2で得た樹脂Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0226】
[実施例8]
樹脂Aの代わりに合成例3で得た樹脂Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
【0227】
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0228】
[実施例9]
樹脂Aの代わりに合成例4で得た樹脂Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
【0229】
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0230】
[実施例10]
樹脂Aの代わりに合成例5で得た樹脂Eを用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
【0231】
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0232】
[実施例11]
実施例1で得られた基板の片面に、蒸着温度100℃で、近赤外線を反射する多層蒸着膜〔シリカ(SiO2:膜厚35〜190nm)層とチタニア(TiO2:膜厚12〜112nm)層とが交互に積層されてなるもの,積層数20〕を形成し、さらに基板のもう一方の面に、蒸着温度100℃で、近赤外線を反射する多層蒸着膜〔シリカ(SiO2:膜厚34〜166nm)層とチタニア(TiO2:膜厚11〜103nm)層とが交互に積層されてなるもの,積層数22〕を形成し、厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを得た。さらに、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。また、透過率曲線を図5に示す。
【0233】
[比較例1]
溶液(ex1)の代わりに、樹脂Aを塩化メチレンに溶解して得た固形分20%の溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0234】
[参考例1]
スクアリリウム系化合物「a−10」を0.04重量部用いたこと以外は実施例5と同様にして、厚さ0.1mm、縦60mm、横60mmの基板を得た。
さらに、実施例1と同様にしてこの基板から厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。結果を表1に示す。また、透過率曲線を図6に示す。
【0235】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0236】
本発明の近赤外線カットフィルターは、デジタルスチルカメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0237】
1:カメラモジュール
2:レンズ鏡筒
3:フレキシブル基板
4:中空パッケージ
5:レンズ
6:近赤外線カットフィルター
6':本発明で得られる近赤外線カットフィルター
7:CCDまたはCMOSイメージセンサー
8:近赤外線カットフィルター
9:分光光度計
図1
図2
図3
図4
図5
図6