(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内輪及び外輪を有する軸受をハブ輪に取り付けてなる車輪用ハブユニットにおいて、構成部品である検査対象、及び前記検査対象以外の構成部品である非検査対象のうち検査対象の被検査位置に音響検査素子又は振れ検出素子を配置し、前記音響検査素子を用いる場合には前記検査対象又は前記非検査対象を回転させることにより前記検査対象の検査を行い、前記振れ検出素子を用いる場合には前記検査対象を回転させることにより前記検査対象の検査を行う方法であって、
前記検査は、前記外輪を治具で保持し、次いで前記内輪及び前記ハブ輪に前記治具以外の一対の治具で軸線方向に沿って予圧用の荷重を付与し、しかる後前記一対の治具を回転させることにより行われ、
前記一対の治具のうち一方の治具は、予圧用の荷重を受ける軸部と、前記内輪の車体側端面に押し付ける押付面とを有し、前記押付面が前記内輪の車体側端面に接して前記内輪を他方の治具側に押し付け、
前記検査対象又は前記非検査対象を回転させるにあたり、前記内輪及び前記外輪のうち一方の軌道輪を固定して他方の軌道輪を軸線方向に移動させた場合の移動量としての内部すきまを負すきまとする荷重以上の予圧を前記軸受に付与し、前記軸受の内部すきまを前記予圧の付与前の正すきまから前記予圧の付与後に負すきまとする
車輪用ハブユニットの検査方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
(車輪用ハブユニットの全体構成)
図1は車輪用ハブユニットの全体を示す。
図1に示すように、車輪用ハブユニット1は例えば駆動輪用ハブユニットからなる。車輪用ハブユニット1は、内方部材2,外方部材(外輪)3及び複列の転動体4,5を備えている。車輪用ハブユニット1は、車体(図示せず)と車輪(図示せず)との間に配置されている。車輪用ハブユニット1のハブ輪6は、転がり軸受(玉軸受)Aを介して車体側(車両インナ側:
図1では右側)に回転可能に支持されている。転がり軸受Aは、内輪7,外輪3及び転動体4・5を有する。転がり軸受Aはハブ輪6に取り付けられている。転がり軸受Aは、シール部材10・11及びパルサーリング12のスリンガ120と共に車輪用ハブユニット1を構成する。
【0012】
(内方部材2の構成)
内方部材2は、ハブ輪6及び内輪7からなる。内方部材2は、中心軸線O上に回転可能に配置されている。
【0013】
ハブ輪6は、胴部6a,6b(大径の胴部6a,小径の胴部6b)を有する。ハブ輪6は、ドライブシャフト(図示せず)に等速自在継手(図示せず)等を介してトルク伝達可能に連結されている。ハブ輪6は、等速自在継手にナット止めされている。ハブ輪6は、例えば中炭素鋼からなる円筒状の成形体によって形成されている。ハブ輪6には、中心軸線Oに沿って両方向に開口する貫通孔6cが設けられている。貫通孔6cの内周部には、等速自在継手のステム(図示せず)を連結するためのセレーション(スプライン)60cが設けられている。
【0014】
大径の胴部6aは、内側軌道面60aを外周面に有する。内側軌道面60aは、複列の転動体4,5のうち車輪側(
図1では左側)列の転動体4を転動させる。大径の胴部6aは、ハブ輪6の車輪側に配置されている。大径の胴部6aには、その外周面から突出して車輪(図示せず)を取り付けるための円環状の車輪取付用フランジ6dが一体に設けられている。車輪取付用フランジ6dには、円周方向に並列してハブボルト8を挿通させる複数のボルト挿通孔60d(2個のみ図示)が設けられている。大径の胴部6aの外径は、小径の胴部6bの外径よりも大きい寸法に設定されている。大径の胴部6aには、車輪側端面から突出するインロー部6eが設けられている。
【0015】
小径の胴部6bは、内輪7を取り付けるための凹状の取付面60bを外周面に有する。小径の胴部6bは、内輪7内に挿入されてハブ輪6の車体側(
図1では右側)に配置されている。
【0016】
一方、内輪7は、複列の転動体4,5のうち車体側列の転動体5を転動させる内側軌道面7aを有する。内輪7は、小径の胴部6bの取付面60bに圧入して取り付けられている。内輪7は、例えば冷間圧延鋼板からなる円筒状の成形体によって形成されている。内輪7の車体側端部には、ハブ輪6(内輪7)の回転速度を検出するためのパルサーリング12が配置されている。
【0017】
パルサーリング12は、スリンガ120及び着磁ゴム121を有する。スリンガ120は、円筒部120a及び円環部120bからなる鋼製の円環部材によって形成されている。スリンガ120は、内輪7における車体側端部の外周面に圧入して取り付けられている。着磁ゴム121は、例えば加硫によってスリンガ120の円環部120bに接着されている。着磁ゴム121は、ゴム製の円環部材に例えばフェライト系のステンレス鋼粉を混入し、円周方向にN極とS極とを等配に磁化して形成されている。
【0018】
(外輪3の構成)
外輪3は、第1の外側軌道面3a及び第2の外側軌道面3bを有する。第1の外側軌道面3aは、複列の転動体4,5のうち車輪側列の転動体4を転動させる。第2の外側軌道面3bは、車体側列の転動体5を転動させる。外輪3は、車体側に懸架装置(図示せず)の構成部品としてのナックル9を介して取り付けられている。外輪3は、中心軸線Oの両方向に開口する例えば中炭素鋼からなる円筒状の成形体によって形成されている。外輪3には、その外周面から突出する円環状の車体取付用フランジ3dが一体に設けられている。車体取付用フランジ3dには、円周方向に並列してナックルボルト(図示せず)を挿通させる複数のボルト挿通孔(図示せず)が設けられている。
【0019】
(複列の転動体4,5の構成)
一方側(車輪側)列の転動体4は鋼球からなる。車輪側列の転動体4は、ハブ輪6の内側軌道面60aと外輪3の第1の外側軌道面3aとの間に介在して配置されている。車輪側列の転動体4は、玉保持器(図示せず)によって転動可能に保持されている。車輪側列の転動体4の車輪側には、ハブ輪6の外周面と外輪3の内周面との間に介在する車輪側のシール部材10が配置されている。
【0020】
他方側(車体側)列の転動体5は鋼球からなる。車体側列の転動体5は、内輪7の内側軌道面7aと外輪3の第2の外側軌道面3bとの間に介在して配置されている。車体側列の転動体5は、玉保持器(図示せず)によって転動可能に保持されている。車体側列の転動体5の車体側には、パルサーリング12(スリンガ120の円筒部120a)の外周面と外輪3の内周面との間に介在する車体側のシール部材11が配置されている。
【0021】
(車輪用ハブユニット1の動作)
本実施の形態に示す車輪用ハブユニット1の動作は、従来における車輪用ハブユニットの動作と同様に行われる。すなわち、車両のエンジン側からトルクが等速自在継手等を介してハブ輪6に伝達されると、ハブ輪6が内輪7と共に回転する。ハブ輪6には車輪が取り付けられているため、エンジン側からのトルクが車輪にも伝達され、車輪がハブ輪6と共に回転する。
【0022】
次に、本実施の形態に示す車輪用ハブユニット1の検査方法につき、
図2を参照して説明する。
図2は車輪用ハブユニットの検査方法を示す。
【0023】
本実施の形態に示す車輪用ハブユニット1の検査方法は、
図2に示すようにして行われる。先ず、ハブ輪6及び内輪7を一対の治具100,101(上治具100,下治具101)で挟持する。次いで、上治具100に対して下治具101の方向に挟圧用の荷重P
1を付与するとともに、車輪用ハブユニット1の構成部品である検査対象としての外輪3に軸線(中心軸線O)方向に沿って下方(車体取付用フランジ3d側)に荷重付与部材102で予圧用の荷重P
2を付与する。予圧用の荷重P
2を外輪3に付与する前において、転がり軸受Aのアキシアル内部すきまは正すきまである。予圧用の荷重P
2を外輪3に付与した後において、転がり軸受Aのアキシアル内部すきまは負すきまである。「アキシアル内部すきま」とは、内輪7及び外輪3のうち一方の軌道輪を固定して他方の軌道輪を軸線方向に移動させた場合の移動量としての内部すきまをいう。荷重P
1,P
2の付与は、下治具101を軸線方向(中心軸線O方向)定位置に配置して行われる。しかる後、外輪3の外周面(被検査位置)に音響検査素子103を接触させて非検査対象(外輪3を除く車輪用ハブユニット1の構成部品)及び上治具100と共に下治具101を中心軸線Oの回りに例えば1000〜2000rpmで回転させる。P
1及びP
2は荷重の大きさを表す。
【0024】
この際、上治具100には、スラスト軸受(図示せず)等を介して挟圧用の荷重P
1を付与する。外輪3の車体取付用フランジ3dには、荷重付与部材102を介して挟圧用の荷重P
1の方向と同一の方向に予圧用の荷重P
2を付与する。挟圧用の荷重P
1は、予圧用の荷重P
2よりも大きくても小さくてもよく、予圧用の荷重P
2と同じ大きさの荷重としてもよい。予圧用の荷重P
2は、転がり軸受Aに対してそのアキシアル内部すきまを負すきまとする荷重以上とする荷重に設定する。予圧用の荷重P
2は、その大きさと転がり軸受Aのアキシアル内部すきまの減少量とを測定してこれら測定値間の相関関係を予めデータ化しておき、このデータ化された相関関係に基づいて決定する。
【0025】
車輪用ハブユニット1の検査方法において、上治具100としては、挟圧用の荷重P
1を受ける受面100a、内輪7の車体側端面7bに押し付ける押付面100bを有する押付部材を用いる。下治具101としては、ハブ輪6の車輪取付用フランジ6dの端面61dに当接する端面101a、及びハブ輪6のインロー部6eを収容可能な開口部101bを有し、例えばモータ(図示せず)によって回転する回転部材を用いる。荷重付与部材102としては、外輪3の車体取付用フランジ3dの端面30dに予圧用の荷重P
2を付与する押付部102a、及び外輪3の車体取付用フランジ3dの端面31dに予圧用の荷重−P
2を付与する押付部102bを有する移動部材を用いる。音響検査素子103としては例えば速度型センサを用いる。
【0026】
これにより、非検査対象から外輪3に伝わる振動数を検出して車輪用ハブユニット1の音響値を測定することができる。音響検査素子103で検出された振動数が規定値(NG振動数)以上である場合には車輪用ハブユニット1を欠陥品とし、NG振動数よりも小さい場合には車輪用ハブユニット1を良品とする。
【0027】
[第1の実施の形態の効果]
以上説明した第1の実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0028】
転がり軸受Aのアキシアル内部すきまを予圧の付与前の正すきまから予圧の付与後に負すきまとするため、車輪用ハブユニット1の出荷前における検査対象の検査時に転がり軸受Aの予圧を再現して転がり軸受Aのがたつき発生を抑制することができ、検査の信頼性を高めることができる。
【0029】
本実施の形態においては、荷重付与部材102の押付部102aが外輪3の車体取付用フランジ3dの端面30dに予圧用の荷重P
2を付与する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、荷重付与部材102の押付部102bが外輪3の車体取付用フランジ3dの端面31dに予圧用の荷重−P
2(|−P
2│=|P
2|)を付与するものでもよい。この場合、予圧用の荷重|−P
2|は、挟圧用の荷重|P
1|よりも大きい荷重とすると、車輪用ハブユニット1全体が予圧用の荷重−P
2の方向に移動して検査を行うことが困難なものとなるため、|P
1|よりも小さい荷重(|−P
2|<|P
1|)とする必要がある。荷重P
2は下向きの荷重を示す。荷重−P
2は上向きの荷重を示す。
【0030】
本実施の形態においては、外輪3を除く車輪用ハブユニット1の構成部品を回転させることにより、車輪用ハブユニット1の検査(音響値の測定)が行われる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、外輪3を回転させることにより、音響値の測定を行うこともできる。
【0031】
本実施の形態においては、車輪用ハブユニット1を検査するために、外輪3の音響値を測定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ハブ輪6(車輪取付用フランジ6d,インロー部6e)及びスリンガ120(シール部材11)の振れ値を測定して車輪用ハブユニット1を検査することもできる。
【0032】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に示す車輪用ハブユニット1の検査方法につき、
図3を用いて説明する。
図3は車輪用ハブユニットの検査方法を示す。
【0033】
本実施の形態に示す車輪用ハブユニット1の検査方法は、
図3に示すようにして行われる。先ず、車輪用ハブユニット1において構成部品である検査対象以外の構成部品である非検査対象としての外輪3をホルダ(治具)205で保持する。次いで、ハブ輪6及び内輪7に一対の治具200,201(上治具200,下治具201)でそれぞれ予圧用の荷重P
3(下向きの荷重)と予圧用の荷重−P
3(上向きの荷重)を付与する。しかる後、検査対象としてのハブ輪6(車輪取付用フランジ6dの端面61dとインロー部6eの外周面)及びパルサーリング12(スリンガ120の円環部120bの端面)にそれぞれ振れ検出素子202,203,204を接触させて上治具200及び下治具101を同期させて検査対象(外輪3を除く車輪用ハブユニット1)と共に一回転させる。この場合、振れ検出素子202は、車輪取付用フランジ6dの端面61dに接触して配置される。振れ検出素子203は、インロー部6eの外周面に接触して配置される。振れ検出素子204は、スリンガ120の円環部120bの端面に接触して配置される。P
3は荷重の大きさを表す。
【0034】
この際、上治具200には予圧用の荷重P
3を付与する。下治具200には予圧用の荷重−P
3(|−P
3|=|P
3|)を付与する。予圧用の荷重P
3,−P
3は、転がり軸受Aに対してそのアキシアル内部すきまを負すきまとする荷重以上とする荷重に設定する。予圧用の荷重P
3,−P
3は、その大きさと転がり軸受Aのアキシアル内部すきまの減少量とを測定してこれら測定値間の相関関係を予めデータ化しておき、このデータ化された相関関係に基づいて決定する。荷重P
3は下向きの荷重を示す。荷重−P
3は上向きの荷重を示す。
【0035】
車輪用ハブユニット1の検査方法において、上治具200としては、予圧用の荷重P
3を受ける軸部200a、及びハブ輪6の貫通孔6cの車輪側端面(車輪用ハブユニット1を等速自在継手にナット止めする場合にナットが当接する端面)60eに押し付ける押付面200bを有し、例えばモータ(図示せず)によって回転する回転部材を用いる。下治具201としては、予圧用の荷重−P
3を受ける軸部201a、及び内輪7の車体側端面7bに押し付ける押付面201bを有し、例えばモータ(図示せず)によって回転する回転部材を用いる。ホルダ205としては、外輪3の車体取付用フランジ3dを把持するフィンガー部205a,205bを有する。これらフィンガー部205a,205bのうち少なくとも一方の部材(例えばフィンガー部205a)としては、中心軸線O方向に移動する移動部材を用いる。
【0036】
これにより、検査対象としてのハブ輪6(車輪取付用フランジ6dとインロー部6e)及びスリンガ120(シール部材11)の振れを測定することができる。振れ検出素子202,203,204で検出された振れ値が規定値(NG振れ値)以上である場合には車輪用ハブユニット1を欠陥品とし、NG振れ値よりも小さい場合には車輪用ハブユニット1を良品とする。
【0037】
[第2の実施の形態の効果]
以上説明した第2の実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0038】
転がり軸受Aのアキシアル内部すきまを予圧の付与前の正すきまから予圧の付与後に負すきまとするため、車輪用ハブユニット1の出荷前における検査対象の検査時に転がり軸受Aの予圧を再現して転がり軸受Aのがたつき発生を抑制することができ、検査の信頼性を高めることができる。
【0039】
(第2の実施の形態の変形例)
本実施の形態においては、ハブ輪6及び内輪7に予圧を付与する場合に一対の治具200,201が用いられる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、一対の治具200,201に代えて
図4に示すように他の一対の治具としてボルト400及びナット401を用いてもよい。この場合、ボルト400には、ナット401に螺合するねじ部400a、及びハブ輪6のセレーション60cに嵌合するセレーション(スプライン)400bが設けられている。車輪用ハブユニット1の検査時には、外輪3を保持した状態でハブ輪6及び内輪7等がボルト400及びナット401と共に回転するため、ボルト400のセレーション400bから回転トルクがハブ輪6のセレーション60cに伝達されず、ハブ輪6のセレーション60cが損傷することはない。
【0040】
本実施の形態においては、車輪用ハブユニット1を検査するために、ハブ輪6(車輪取付用フランジ6dとインロー部6e)及びスリンガ120(シール部材11)の振れ値を測定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、外輪3の音響値を測定して車輪用ハブユニット1を検査することもできる。
【0041】
以上、本発明の車輪用ハブユニットの検査方法を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0042】
(1)上記実施の形態では、パルサーリング12のスリンガ120に振れ検出素子204を接触させてシール部材11の振れ値を測定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、パルサーリング12の着磁ゴム121に振れ検出素子204を接触させて着磁ゴム121の振れ値を測定することもできる。
【0043】
(2)上記実施の形態では、音響検査素子103として例えば速度型センサを用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、加速度型センサなど他の接触式センサを用いてもよい。この他、音響検査素子としては、接触式センサに代えて例えば超音波センサ等の非接触式センサを用いてもよい。
【0044】
(3)上記実施の形態では、駆動輪用ハブユニットに適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、従動輪用ハブユニットにも上記実施の形態と同様に適用可能である。