(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128210
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】可逆空気圧式ベーンモーター
(51)【国際特許分類】
F01C 1/344 20060101AFI20170508BHJP
F01C 21/18 20060101ALI20170508BHJP
F01C 21/10 20060101ALI20170508BHJP
B25B 21/00 20060101ALI20170508BHJP
B25B 21/02 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
F01C1/344 F
F01C21/18
F01C21/10
B25B21/00 C
B25B21/02 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-514468(P2015-514468)
(86)(22)【出願日】2013年5月29日
(65)【公表番号】特表2015-524032(P2015-524032A)
(43)【公表日】2015年8月20日
(86)【国際出願番号】EP2013061002
(87)【国際公開番号】WO2013178646
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年3月22日
(31)【優先権主張番号】1250572-3
(32)【優先日】2012年6月1日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】502212604
【氏名又は名称】アトラス・コプコ・インダストリアル・テクニーク・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100064388
【弁理士】
【氏名又は名称】浜野 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン,アンデルス アーバン
【審査官】
瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−168872(JP,A)
【文献】
実開昭60−195901(JP,U)
【文献】
実開昭56−31601(JP,U)
【文献】
米国特許第3752241(US,A)
【文献】
米国特許第2463155(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/05
B25B 21/00
F01C 1/344,21/10,21/18
F04C 2/344
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力空気入口通路(11)と、排出空気出口通路(15)とを備えた固定子ハウジング(10)と、相対する端壁(13、14)を備えて固定子ハウジング(10)内に支持されたシリンダ(12)と、シリンダ(12)内で回転可能でありかつシリンダ(12)と共にクリアランスシール部(37)を形成するベーン担持回転子(16)と、クリアランスシール部(37)の両側に配置されかつ動的圧力空気を供給或いはシリンダ(12)からの排出空気を掃気するようにされた空気連通ポート(36、19)と、クリアランスシール部(37)と直径方向に相対して配置された主出口(20)と、空気連通ポート(36,19)を入口通路(11)及び出口通路(15)に交互に接続するための二つの位置の間でシフト可能な方向制御弁(21)とを有して成る可逆空気圧式ベーンモーターにおいて、
・ 主出口(20)と空気連通ポート(36、19)それぞれのうちの一つのポートとの間の角度位置に補助出口ポート(28、29)が設けられ、方向制御弁(21)をその一方の位置から他方の位置にシフトする際に、方向制御弁(21)が上記補助出口ポート(28、29)と出口通路(15)との間の連通をそれぞれ開いたり閉じたりするための制御部(32,33)を備え、また
・ 空気連通ポート(36、19)及び上記補助出口ポート(28、29)がシリンダ(12)の一方の端壁(13)に配置されていること、
を特徴とするベーンモーター。
【請求項2】
方向制御弁(21)の制御部(32、33)が主出口(20)の一方の側にある補助出口ポート(28)を前記出口通路(15)に開くと同時に主出口(20)の同じ側にある空気連通ポート(36)を出口通路(15)に接続し、主出口(20)の反対側にある補助出口ポート(29)が閉じられるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のベーンモーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダを備えた固定子ハウジング、シリンダ内で回転可能でありかつシリンダ壁に対してクリアランスシール部を形成するベーン担持回転子を有し、固定子ハウジングが、回転方向の切り替えによって動力圧力空気を供給したりシリンダからの排気を掃気したりする空気連通ポートをクリアランスシール部の両側に配置し、また両回転方向でシリンダからの排気を排出する主出口をクリアランスシール部と直径方向に対向する位置に設けている可逆空気圧式ベーンモーターに関するものである。モーターの回転方向の切り替えによって空気連通ポートを圧力空気源と大気とに交互に接続するために方向制御弁が設けられる。
【背景技術】
【0002】
上記可逆型の空気圧式ベーンモーターは、両回転方向において等しい効率でモーターを動作させるために、クリアランスシール部と直径方向に対向する位置に主出口を有している。非対称に位置された主出口を備える一方向回転用に設計されたベーンモーターと比較すると、可逆モーターの効率は相当に低い。これは、可逆モーターの主出口の対称的な位置が原因で、シリンダから主出口を通って解放できなかった排出空気の僅かな再圧縮を引き起こすことになるからである。この再圧縮が可逆型モーターの出力減少を引き起こしてしまう。
【0003】
従来技術における可逆型モーターの別の問題点は、主出口の設計を最適化する可能性が制限されていることから高い騒音レベルを生じさせる傾向にある点である。
【0004】
従来技術による空気圧式工具は、米国特許公開第2007/0217940号に開示されている。この工具は、第一方向(弛緩モード)で高いトルクを、反対方向(緊締モード)で低いトルクを発生するよう構成されている。しかし、この構成の問題点は緊締モードで非効率的である点にある。すなわち、ほとんどの用途では両方向において高いトルクを発生することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、両回転方向において、動力出力及びアイドル速度動作が共に増大する改良型の可逆空気圧式ベーンモーターを提供することにある。
【0006】
本発明のさらなる目的は、バランスの取れた排気出口設計を可能にすることによって、騒音減衰に対する適応性の大きな可逆ベーンモーターを提供することにある。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、固定子ハウジングと、空気連通ポートを備えたシリンダと、クリアランスシール部に対して対称的に位置された主出口とを有し、さらに排気の再圧縮を回避する手段を有する改良型の可逆空気圧式ベーンモーターを提供することにある。
【0008】
本発明による空気圧式ベーンモーターのさらなる目的及び利点は、以下の明細書及び特許請求の範囲の記載から明らかになる。
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】動力ナットランナーに適用した場合における本発明の可逆ベーンモーターを示す部分断面側面図。
【
図4a】方向制御弁が一つの動作位置にある
図2と同じモーターの後端面図。
【
図4b】方向制御弁が別の動作位置にある、
図4aと同じ端面図。
【
図5a】空気連通ポートのうちの一つが出口通路に接続され、補助ポートのうちの一つが閉じられる状態に方向制御弁がある、モーターの縦断面図。
【
図5b】上記空気連通ポートが圧縮空気入口に接続され、補助ポートが出口通路に開放される別の状態に方向制御弁がある、
図5aと同じ縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図示したモーターは、本発明の特徴を備える可逆ベーンモーターである。かかるモーターは、可逆モーターが望ましい空気圧式手持ち型動力ナットランナーに組み込まれている。モーターは、ナットランナーハウジングと一体に形成される固定子ハウジング10を備え、また圧力空気入口通路11及び排出空気出口通路15が設けられている。入口通路11は絞り弁25で制御され、絞り弁25は固定子ハウジング10に支持されたレバー26によって操作可能である。さらに固定子ハウジング10内には、シリンダ12と回転子16とが装着され、シリンダ12は二つの端壁13、14を備え、回転子16は複数のベーン23a‐23eを担持し、これらのベーン23a‐23eは複数のセル24a‐24eを画定している。回転子16は、シリンダ12内で回転可能であり、そして端壁13、14における軸受17、18によって支持されている。従来の方法では、回転子16は固定子ハウジング10に対して偏心して配置され、シリンダ12に対してクリアランスシール部37を形成する。この種のナットランナーで一般的に行われている方法では、回転子16は、減速機27と図示していないトルク反応リリースクラッチとを介してナットランナーの出力端に接続され、トルク反応リリースクラッチは自動遮断弁34に回転子の中心を通って伸びるロッド35を介して接続されている。
【0012】
シリンダ端壁のうちの一つの端壁13には、二つの空気連通ポート36、19が設けられ、二つの空気連通ポート36、19はシール部37の両側に設けられ、回転子の回転方向の切り替えによって動力空気の供給及びシリンダからの排出空気の掃気を交互にするようにされている。
図3参照。シリンダ12には、シール部37と直径方向に相対して、恒久的に開いた主排出空気出口20が設けられ、かかる主出口20は、シリンダ12における複数の開口部を備えまた排気チャンバー33と連通している。上記特徴は従来の可逆ベーンモーターにおいて周知であり、このことは、対称的に配置された空気連通ポート36、19及び主出口20が何れの回転方向でもモーターの等しい動力出力及びアイドル速度をもたらすことを意味している。
【0013】
方向制御弁21は、後端壁13で回転可能に支持され、そして有効な二つの位置の間でレバー22によってシフト可能である。これらの位置のうちの一方の位置では、弁21は空気入口通路11から空気連通ポートのうちの一つのポート36へ圧力空気を送ると同時に、排出空気出口通路15を介して大気へ出口を掃気するために他方の空気連通ポート19を開くよう構成されている。他方の位置では、方向制御弁21は、空気供給をもう一方の空気連通ポート19に切り替えるのに対して、最初に述べた空気連通ポート36は大気へ出口を掃気するために開かれる。従って、モーターの回転は方向制御弁21によって選択的な方向に変えることができる。
【0014】
この種のモーターに特有の欠点は、回転子16の与圧されたセルのうちのセル24aの最初のベーン23aが主出口20を通過すると、このセル24aは主出口20を通って排気される点にある。しかし、このセル24aの後追ベーン23bが主出口20を通り過ぎると、セル24aは回転子16の継続的な回転で寸法がより小さくなり、主出口20を通り抜けられずセル24aに封じ込められた空気は、先導ベーン23aが掃気機能を有する空気連通ポート19を通り過ぎるまでに、ある程度再圧縮されることになる。このように封じ込められた空気容積の再圧縮は、回転子の動作にある程度の抵抗、延いては出力の好ましくない減少を引き起こす。
【0015】
本発明によるモーターには、封じ込められた空気の再圧縮が原因で引き起こされる出力損失を回避するために、主出口20の両側に配置された補助出口ポート28、29が主出口20と空気連通ポート36、19との間の角度位置に設けられている。これらの補助出口ポート28、29は、それぞれ二つの開口部を備え、所定の回転方向で正しい補助出口ポートが開かれるように方向制御弁21によって個々に制御される。この目的のために、方向制御弁21には、制御部32a、32b、32cが設けられ、かかる制御部は、弁21の実際の角度位置で空気連通ポート36、19及び補助出口ポート28、29を交互に遮断したり或いは開放したりするように構成されている。
【0016】
例えば、方向制御弁21の一方の位置では、主出口20と空気連通ポート36との間の角度位置に配置される補助出口ポート28は、空気連通ポート36が排出空気出口通路15を介して大気に開かれると同時に大気に開かれ、もう一方の補助出口ポート29は閉じられる。このことは、補助出口ポート28と空気連通ポート36の掃気地点との間の走行セルの角度距離が非常に短いこと、さらにセルに封じ込められた空気の再圧縮が実質的に回避されることを意味している。これにより、回転子動作への抵抗は相当に小さく、従ってアイドル回転数を高め、動力出力を増大させている。
【0017】
方向制御弁21のもう一方の位置では、主出口20と空気連通ポート19との間に配置された補助出口ポート29は、空気連通ポート19が排出空気を掃気するために開かれるのと同時に開かれ、補助出口ポート28は閉じられる。これにより、最初に説明した方向と同じ動作特徴と動力出力とを備えて逆方向にモーターを回転させる。このことは、本発明のモーターは従来技術のモーターのように両方向に同じ動作特性で、しかも両方向に相当高い出力及びアイドル回転数で動作できることを意味している。
【0018】
図5aには、空気連通ポート19が出口通路を介して大気と接続する位置に方向制御弁21が示され、補助出口ポート28は弁21の制御部32aで閉じられ、
図5bには、その逆の位置に方向制御弁21が示され、空気連通ポート19は圧力空気入口通路11に接続され、補助出口ポート28は出口通路15に開かれている。
【0019】
モーターが時計回りの回転で作動する際には、補助出口ポート29は閉じられ、補助出口ポート28は開かれている。回転子12の回転中、走行セル24aの排出は、前のように、先導ベーン23aが主出口20を通過する際に排出空気が主出口20を通って排出されることによって開始されるが、後追ベーン23bが主出口20を通過する前に先導ベーン23aは補助出口ポート28をまさに通過しようとしており、このことは、セル24aが依然として出口通路15及び大気と繋がっていることを意味している。補助出口ポート28と掃気連通ポート19との間の距離は非常に短いので、セル24aの閉鎖及び従ってセル内の排出空気の再圧縮は起こらないことになる。上記動作の順序は、回転子12におけるセル24a‐24eを画定するすべてのベーンで同じである。
【0020】
回転子12が反時計回りの回転方向では、補助出口ポート29は開いており補助出口ポート28は閉じている。セル24aの先導ベーンはベーン23eとなり、ベーン23aは後追ベーンとなる、そしてセル24aの排出は、先導ベーン23eが主出口20を通過する際に開始される。上記の場合のように、先導ベーン23eが開かれた補助出口ポート29に到達し、そして後追ベーン23aが主出口20に到達する前に先導ベーン23eが開かれた補助出口ポート29を通過し、それでセル24aは出口通路15に接続されて留まることになる。このことは、セル24aの容積が減少するので、セル24aの中にある排出空気が再圧縮されないことを意味している。
【0021】
本発明によれば、モーターの寸法を大きくせずに、可逆空気圧式ベーンモーターの出力を増大させることが可能である。これは、工具の全体的な寸法及び重量が極めて重大である動力工具への用途において特に重要である。
【0022】
本発明は、図示し説明してきた実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で自由に変えることができることに留意されたい。例えば、補助出口ポート28、29の正確な位置及び設計は変えることができ、さらに最適なモーターの同調を得るように適用することができる。補助出口ポート28、29の位置及び寸法は回転子のベーン及びセルの数に依存して変更してもよい。ベーンが少なくなればなる程、セルは大きくなる。
【符号の説明】
【0023】
10 固定子ハウジング
11 入口通路
12 シリンダ
13;14 端壁
15 出口通路
16 回転子
17;18 軸受
19;36 空気連通ポート
20 主出口
21 方向制御弁
22 レバー
23a‐23e ベーン
24a‐24e セル
25 絞り弁
26 レバー
27 減速ギア
28;29 補助出口ポート
32a‐32e 制御部
34 遮断弁
37 クリアランスシール部