(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128510
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】透析排水を培地として使用する藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20170508BHJP
C02F 3/32 20060101ALI20170508BHJP
C12P 5/00 20060101ALI20170508BHJP
C12R 1/89 20060101ALN20170508BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12N1/12 B
C02F3/32
C12P5/00
C12N1/12 A
C12R1:89
C12P5/00
C12R1:89
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-265617(P2012-265617)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2014-108101(P2014-108101A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】304024865
【氏名又は名称】学校法人杏林学園
(73)【特許権者】
【識別番号】510154039
【氏名又は名称】藻バイオテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 麻里
(72)【発明者】
【氏名】米澤 夏岐
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 石根
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 信
(72)【発明者】
【氏名】福岡 利仁
【審査官】
上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−207154(JP,A)
【文献】
特開2008−161753(JP,A)
【文献】
特公昭47−034949(JP,B1)
【文献】
特開昭60−000895(JP,A)
【文献】
特開平05−301097(JP,A)
【文献】
特開平03−240484(JP,A)
【文献】
特開2001−300582(JP,A)
【文献】
特開昭57−014533(JP,A)
【文献】
特開2008−155116(JP,A)
【文献】
特開平11−137672(JP,A)
【文献】
特開平09−313895(JP,A)
【文献】
特開昭58−051888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンB12及びPIV 金属の添加された腹膜透析排水を培地として使用する、藻類の培養方法。
【請求項2】
前記腹膜透析排水が加熱処理されている、請求項1に記載の培養方法。
【請求項3】
前記腹膜透析排水が5〜50%に希釈されている、請求項1又は2に記載の培養方法。
【請求項4】
前記腹膜透析排水が10〜40%に希釈されている、請求項3に記載の培養方法。
【請求項5】
前記腹膜透析排水が20〜30%に希釈されている、請求項4に記載の培養方法。
【請求項6】
前記藻類がユーグレナ藻類である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項7】
ビタミンB12及びPIV 金属の添加された腹膜透析排水を培地とした藻類によるバイオマス製造方法。
【請求項8】
前記腹膜透析排水が加熱処理されている、請求項7に記載のバイオマス製造方法。
【請求項9】
前記腹膜透析排水が5〜50%に希釈されている、請求項7又は8に記載のバイオマス製造方法。
【請求項10】
前記腹膜透析排水が10〜40%に希釈されている、請求項9に記載のバイオマス製造方法。
【請求項11】
前記腹膜透析排水が20〜30%に希釈されている、請求項10に記載のバイオマス製造方法。
【請求項12】
前記藻類がユーグレナ藻類である、請求項7〜11のいずれか1項に記載のバイオマス製造方法。
【請求項13】
藻類を利用した腹膜透析排水の浄化方法であって、腹膜透析排水にビタミンB12及びPIV 金属を添加して藻類を増殖させることにより腹膜透析排水のリン酸濃度を低下させることを特徴とする、腹膜透析排水の浄化方法。
【請求項14】
前記腹膜透析排水が加熱処理されている、請求項13に記載の腹膜透析排水の浄化方法。
【請求項15】
前記腹膜透析排水が5〜50%に希釈されている、請求項13又は14に記載の腹膜透析排水の浄化方法。
【請求項16】
前記腹膜透析排水が10〜40%に希釈されている、請求項15に記載の腹膜透析排水の浄化方法。
【請求項17】
前記腹膜透析排水が20〜30%に希釈されている、請求項16に記載の腹膜透析排水の浄化方法。
【請求項18】
前記藻類がユーグレナ藻類である、請求項13〜17のいずれか1項に記載の腹膜透析排水の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析排水を培地として使用する藻類、特にユーグレナ藻類の培養方法、透析排水を培地とした藻類によるバイオマス製造方法、さらには藻類を利用した透析排水の浄化方法、を提供する。
【背景技術】
【0002】
生物細胞が産生する産物から得られるバイオマス、特にバイオ燃料は、近年、地球温暖化又は埋蔵資源の枯渇等の問題から注目を集めている。このバイオマスの中でも、微細藻類が産生する炭化水素やトリアシルグリセロール等オイル又は多糖類は、食料又と競合せず、大量培養が可能であることから、工業的利用の期待が高く、微細藻類からのバイオ燃料やその他の有用成分の獲得が有望視されている。しかしながら、工業的に藻類の大量培養を行うには、運転コストや培地に用いる大量の水資源および栄養塩の確保等の経済的な問題点を解決せねばならない。
【0003】
一方で、人口増加や産業の発展に伴い年々排水排出量は増加しており、水不足が深刻化している今、これらの排水を資源として再利用しようと様々な取り組みが成されている。藻類は排水中に含まれる栄養塩を吸収して増殖することが可能であるため、藻類培養に排水を用いることで、低コスト、省エネルギー、そして二酸化炭素排出量の削減を実現した藻類バイオマス生産が可能と考えられる。
【0004】
排水の一つに、腹膜透析を行うことで発生する透析排水がある。腹膜透析は、慢性腎不全の患者が、家庭や職場で透析液交換することによって患者自身の手で処置することのできる簡便で拘束の少ない利点の多い治療方法である。腹膜透析の際に出る透析排水は大量であり、腹膜透析液交換は通常、1日に4〜6回行われ、1回当たりの排液量も1,500〜2,000mlと多いため、その廃棄処理は患者にとって深刻な問題ではあった。特に自動腹膜透析装置(APD)を使用するAPD療法を選択した場合、患者が一度に処理しなくてはならない排液量は、成人で8,000〜10,000mlとなる。
透析排水はグルコース、窒素、リン等藻類培養に必要な要素を豊富に含むが、これらは透析治療後にpH調整や有機物の分解処理を経て下水に放出されてしまい、その有効活用についてはあまり研究されていない。また、日本で2012年現在透析治療を受けている患者数は30万人を超えており、排出される透析排水も膨大な量となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】Bioresour Technol. 2011 Jan;102(1):17-25. Epub 2010 Jul 1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
透析排水を藻類培養への適用に関する研究は今までに行われていない。透析排水を廃棄せず、藻類培養に有効活用できれば、排水の問題も藻類バイオマス生産の効率化も図れる。従って、本研究では透析排水を用いた藻類培養の有効性評価を目的とし、増殖試験による透析排水培地条件の最適化、培養後の培地の水質分析、回収後の藻類に含まれるオイル含量の定量を行った。
【0007】
詳しくは、本研究では腹膜透析排水(Peritoneal Dialysis Wastewater: PWD)を用い、藻類の培養を行った。腹膜透析排水を蒸留水で希釈した培地では増殖があまり見られなかったため、AF-6合成培地を希釈液に用い、腹膜透析排水の濃度を変えた培地をそれぞれろ過滅菌とオートクレーブ滅菌したもので増殖試験を行った。その結果、オートクレーブ滅菌を施した培地ではろ過滅菌を施したものよりも増殖が良く、また排水濃度は25%程度のものが最適であった。この結果より、藻類培養に必要な成分でAF-6培地に含まれているものが、腹膜透析排水では不足していることが分かった。次にAF-6培地から各成分を除いたものを排水濃度25%の希釈液として用いたところ、ビタミン B
12、PIV 金属(微量金属)を除いたものでは増殖が見られなかった。この結果から、腹膜透析排水に不足している、ビタミン B
12と微量金属成分を添加することで、AF-6合成培地を添加したものと同様の増殖が得られることが示唆され、実際に培養実験により確認された。また、水質分析の結果、透析排液にビタミン B
12、PIV 金属を添加した培地に含まれるリンと窒素は、培養後2週間でほぼ除去されることが明らかとなった。
【0008】
以上の結果から、腹膜透析排水を用いた藻類の培養においては、ビタミンB
12、PIV 金属を添加したものが細胞の増殖および栄養塩除去の点で最適な培地であることが明らかとなった。本研究により、透析排水を用いた藻類培養の可能性が示唆された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本願は以下の発明を提供する。
(1)ビタミンB
12及びPIV 金属の添加された透析排水を培地として使用する、藻類の培養方法。
(2)前記透析排水が加熱処理されている、(1)の培養方法。
(3)前記透析排水が5〜50%に希釈されている、(1)又は(2)の培養方法。
(4)前記透析排水が10〜40%に希釈されている、(3)の培養方法。
(5)前記透析排水が20〜30%に希釈されている、(4)の培養方法。
(6)前記藻類がユーグレナ藻類である、(1)〜(5)のいずれかの培養方法。
(7)ビタミンB
12及びPIV 金属の添加された透析排水を培地とした藻類によるバイオマス製造方法。
(8)前記透析排水が加熱処理されている、(7)のバイオマス製造方法。
(9)前記透析排水が5〜50%に希釈されている、(7)又は(8)のバイオマス製造方法。
(10)前記透析排水が10〜40%に希釈されている、(9)のバイオマス製造方法。
(11)前記透析排水が20〜30%に希釈されている、(10)のバイオマス製造方法。
(12)前記藻類がユーグレナ藻類である、(7)〜(11)のいずれかのバイオマス製造方法。
(13)藻類を利用した透析排水の浄化方法であって、透析排水にビタミンB
12及びPIV 金属を添加して藻類を増殖させることにより透析排水のリン酸濃度を低下させることを特徴とする、透析排水の浄化方法。
(14)前記透析排水が加熱処理されている、(13)の透析排水の浄化方法。
(15)前記透析排水が5〜50%に希釈されている、(13)又は(14)の透析排水の浄化方法。
(16)前記透析排水が10〜40%に希釈されている、(15)の透析排水の浄化方法。
(17)前記透析排水が20〜30%に希釈されている、(16)の透析排水の浄化方法。
(18)前記藻類がユーグレナ藻類である、(13)〜(17)のいずれかの透析排水の浄化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、透析排水の有効利用が図れるとともに、藻類の増殖速度を増大させることで藻類バイオマス製造の効率化をも図ることができる。しかも、透析排水の効率的な浄化も達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】藻類培養培地AF-6に透析排水の濃度を変え、かつ透析排水をオートクレーブ処理又はろ過処理した場合の藻類の増殖速度を示す。
【
図2】藻類培養培地AF-6から各種成分を除き、透析排水を添加して培養した場合の藻類の増殖速度を示す。
【
図3】透析排水にビタミンB12及びPIV金属を添加した場合の藻類の増殖速度を示す。
【
図4】透析排水にビタミンB
12及びPIV 金属を添加して藻類を増殖させることにより透析排水のリン酸濃度が低下することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、透析排水とは、腹膜透析により発生した排水をいう。腹膜透析排水の成分には、例えば以下の表に示すように、グルコース、尿素、クレアチニン、尿酸、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン、アンモニウムイオン、3−インドキシル硫酸などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【表1】
【0013】
本発明において、透析排水は希釈せずに使用してもよいが、好ましくは希釈して使用する。透析排水の希釈のためには水、例えば蒸留水、イオン交換水、滅菌水、又は細胞の培養に適する様々な細胞培養培地を選択できる。例えば藻類の培地としては、淡水産藻類用の培地(例えば、AF6培地、C培地、URO培地、VT培地等)、又は海産藻類用培地(ESM培地、f/2培地、IMR培地、MNK培地等)がある。本発明では透析排水を水又は適当な細胞培養培地で5〜50 v/v %、好ましくは10〜40 v/v %、より好ましくは20〜30v/v%、最も好ましく25v/v%になるように希釈する。
【0014】
透析排水は、好ましくは無菌濾過、又は加熱滅菌、例えばオートクレーブにより加熱・加圧滅菌してから藻類の培養などに使用する。特に理論に拘束されるわけではないが、オートクレーブ滅菌が好ましく、その理由は透析排水に含まれる尿素が熱分解され、その結果アンモニア態窒素量が増加し、藻類の増殖が促進されるからと考えられる。
【0015】
本発明における藻類の培養は、ビタミンB
12及びPIV 金属(微量金属)の添加された透析排水を培地として使用する。好ましくは、ビタミンB
12の濃度は透析排水100mlあたり0.01〜10μg、好ましくは0.01〜1μgであろう。PIV 金属は好ましくは以下の表2の組成からなる。
【表2】
【0016】
好ましくは、PIV金属の各成分は上記表に示されている数値の1%〜500%の範囲内、好ましくは1%〜500%の範囲内、より好ましくは1%〜100%の範囲内になるように設定する。
【0017】
本明細書で使用される藻類細胞には、真正細菌又は古細菌等の原核生物、及び藻類、原生動物、植物、菌又は動物等の真核生物の全ての細胞が含まれる。当該細胞は、好ましくは藻類、植物、菌の細胞であり、特に藻類の細胞である。本明細書で使用される「藻類」には、藍藻類、原核緑藻類、紅藻類、灰色藻類、クリプト藻類、渦鞭毛藻類、黄金色藻類、珪藻類、褐藻類、ラビンリンチュラ類、黄緑藻類、ハプト藻類、ラフィド藻類、真正眼点藻類、クロララクニオン藻類、ユーグレナ藻類、プラシノ藻類、緑藻類、車軸藻類などがあり、好ましくは、微細藻類とよばれる、藍藻類、珪藻類、ラビンチュラ類、真正眼点藻類、クリプト藻類、渦鞭毛藻類、黄金色藻類、ハプト藻類、ラフィド藻類、ユーグレナ藻類、プラシノ藻類や緑藻類がある。本発明に適する藻類としては、好ましくは、ユーグレナ、ボトリオコッカス、スピルリナ、ミクロキスティス・エルギノーサ、スピルリナ、オーランチオキトリウム、シゾキトリウムがある。特に好ましいのはユーグレナ属の藻類であり、より好ましいのはユーグレナ・グラシリス、最も好ましいのはユーグレナ・グラシリスNIES-48株である。
【0018】
本発明における藻類の培養又は透析排水の浄化は、当該株を本発明でいうビタミンB
12及びPIV 金属の添加された透析排水に播種し、定法にしたがって培養することにより行われる。培地としては、さらに適宜炭素源や窒素源、適宜ビタミン類や、プロテアーゼペプトン、酵母抽出物等を含ませることもできる。透析排水は、調製後、必要であれば適当な酸又は塩基を加えることにより適宜pHを調整できる。培地の好適なpHは培養する藻類の種類に依存するであろう。培養条件も培養する藻類の種類に依存し、温度は5〜40℃、好ましくは10〜35℃、より好ましくは10〜30℃にて、通常1〜10日間、好ましくは3〜7日間培養を行い、通気又は嫌気攪拌培養、振とう培養又は静置培養で行うことができる。
【0019】
本発明に使用する藻類培養は適当な細胞培養手段を有する培養装置で培養してよい。「細胞培養手段」とは、細胞を培養するためのあらゆる機能を有する手段を意味し、例えば、培養槽であり、当該培養槽は、攪拌装置、振動装置、温度制御装置、pH調節装置、濁度測定装置、光制御装置、CO
2等の特定気体濃度測定装置及び圧力測定装置から選択される1又は複数の装置を有してもよい。当該培養槽は濃縮・分離槽と同一の槽であっても、濃縮・分離槽とは別の槽であってもよい。濃縮・分離槽と別の槽である場合、適切な手段、例えば流路等により連結されていてもよい。
【0020】
一般的に細胞の培養工程には、細胞数が時間に対して対数的に増殖する対数増殖期と、対数増殖期後の定常期がある。例えば藻類の場合、光合成及び増殖用培地の栄養素により対数的に増殖する増殖期と、バイオマスを産生するバイオマス産生期に分けることができる。好ましくは増殖期とバイオマス産生期で培地を交換することが望ましい。
【0021】
本発明はさらに透析排水を培地とした藻類によるバイオマス製造方法を提供する。本発明のバイオマス製造方法は、ビタミンB
12及びPIV 金属の添加された透析排水を培地として藻類を培養し、藻類にバイオマスを産生させることを特徴とする。
【0022】
本明細でいう「バイオマス」とは、細胞が産生するあらゆるバイオマスのことを言い、具体的には、例えば、燃料、食料、医療品、及びその他の工業用品又は生活用品として必要なバイオマスやその原料のことを言う。当該バイオマスには、樹脂、燃料又は界面活性剤糖のもととなる炭化水素、糖類、タンパク質、アミノ酸等がある。例えば藻類の産生するバイオマスとしては、有機炭素源を利用して産生した炭化水素などのオイルや多糖類がある。具体的には、オイルとして、アルカン、エポキシアルカン、アルカデイエン、アルカトリエン、トリテルペノイド、テトレテルペノイドなどの炭化水素、グリセリン1分子の脂肪酸3分子が結合したトリアシルグリセロールなどがあり、より具体的には藻類がユーグレナ・グラシリスNIES-48の場合、トリアシルグリセロールなどの脂質や嫌気的条件下で産生されるワックスエステル等がある。多糖類としては、フコースを含む多糖類等があり、また天然色素としてカロチノイドがある。
【0023】
本発明の藻類が産生するバイオマスは、当業者に既知の方法で抽出及び分析することができる。例えば、上記の通り培養して増殖させ、得られた培養液から遠心分離又は濾過等により回収した湿藻体を、凍結乾燥又は加温による乾燥等により乾燥させる。または、培養後の培地をそのままバイオマスの抽出ステップに用いてもよい。
【0024】
得られた細胞乾燥物、又は培養後の細胞を含有する培地から、有機溶媒を用いて脂質たるバイオマスを抽出できる。抽出は、異なる有機溶媒を用いて2度以上行ってもよい。有機溶媒としては、バイオマスの種類に応じるであろうが、例えばクロロホルム・メタノール混合溶媒(例えば、1:1、1:2)、又はエタノール・ジエチルエーテル混合溶媒等の極性溶媒と弱極性溶媒の混合液を用いることができる。上記抽出後に、例えば窒素気流下で濃縮乾固したサンプルから、n−ヘキサンを用いて抽出する。得られた抽出液を、当業者に既知の方法で精製する。例えば、シリカゲルや酸性白土を用い、極性脂質を吸着させて精製することができる。また、精製したバイオマスをNMR,IR、ガスクロマトグラフィー、GC/MS等により分析する。
【0025】
前記藻類は、その乾燥重量当たり、当該バイオマスを、少なくとも10%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%産生することができる。
【0026】
本発明はさらに藻類を利用した透析排水の浄化方法を提供する。この方法は、透析排水にビタミンB
12及びPIV 金属を添加して藻類を上記のとおりに増殖させることにより透析排水のリン酸濃度を低下させることを特徴とする。リン酸は、場合により培養2週間で85〜95%、あるいはそれ以上を除去することが可能である。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によりその技術的範囲が限定されるものではない。
【0028】
実験に用いた藻類と透析排水
本実験では微細藻類の対象にユーグレナ・グラシリス(
Euglena gracilis)NIES-48株(strain Z)を用いた。透析排水は腹膜透析排水(Peritoneal Dialysis Wastewater :PDW)を用いた。成分組成を表1に記載する。
【表3】
【0029】
実験1 透析排水培地を用いたEuglena gracilisの増殖試験について
本実験では、PDWの濃度を5, 10, 25%(v/v)に設定して、AF-6合成培地(NaNO
3 0.14g/L、NH
4NO
3 0.022mg/L、MgSO
4・7H
2O 0.03mg/L、CaCl
2・2H
2O 0.01mg/L、Fe-citrate 2mg/L、 Citric acid 2mg/L、KH
2PO
4 0.01mg/L、K
2HPO
4 5mg/L、Biotin 2μg/L Thiamine HCl 0.01mg/L、Vitamin B
12 1μg/L、PIV metals(FeCl
3・6H
2O 0.98mg/L、MnCl
2・4H
2O 0.18mg/L、ZnSO
4・7H
2O 0.11mg/L、CoCl
2・6H
2O 0.02mg/L、Na
2MoO
4・2H
2O 0.0125mg/L、Na
2EDTA・2H
2O 0.05g/L)、MES 0.04g/L、pH 6.6)により希釈したものを用いた。300mL容量の三角フラスコに150mLの培地を入れ、各培地にろ過滅菌とオートクレーブ滅菌の2通りの滅菌方法を分けて行い、計6種類の培地を用意した。なお、コントロールとしてはAF-6合成培地を用いた。
【0030】
前培養にはHUT培地を用い、KH
2PO
4 0.02g/L、MgSO
4・7H
2O 0.025g/L、Sodium acetate 0.4g/L、Potassium citrate 0.04mg/L、Polypeptone 0.6g/L、Yeast extract 0.4g/L、Vitamin B
12 0.5μg/L、Thiamine HCl 0.4mg/L、(pH6.4)をオートクレーブ滅菌することにより調製した。調製した培地150mLを300mL容量の三角フラスコに入れ、培養温度25℃、光照射強度120 μmol m
-2 s
-1(24時間連続照射)に設定し、130rpmで振とう培養を行った。72時間培養した後、1500rpmで15分間遠心分離を行った。その後滅菌水で洗浄を行い、コントロールを含めた上記7種類の培地に
E. gracilisを接種した。培養条件は前培養と同様、25℃、光照射強度120 μmol m
-2 s
-1(24時間連続照射)とし、130rpmで振とう培養を行った上、増殖の変化を観察した
【0031】
培養期間中24時間ごとに細胞を回収し細胞数を計測することによって増殖の経時変化の測定を行った。細胞数計測にはフックスローゼンタール血球計算盤(サンリード硝子有限会社)を用いた。
【0032】
以上の結果を
図1に示す。AF-6合成培地を希釈液に用い、腹膜透析排水の濃度を変えた培地をそれぞれろ過滅菌とオートクレーブ滅菌したもので増殖試験を行ったところ、オートクレーブ滅菌を施した培地ではろ過滅菌を施したものよりも増殖が良く、また排水濃度は25%程度のものが最適であった。濾過滅菌よりもオートクレーブ滅菌した透析排水を使用した方が増殖は促進されたのは、おそらくは透析排水中の尿素の熱分解によりアンモニア態窒素が増加したからと考えられる。
【0033】
なお、腹膜透析排水を蒸留水で希釈した培地では増殖があまり見られなかったため(結果は示していない)、藻類培養に必要な成分でAF-6培地に含まれているものが、腹膜透析排水では不足していることが分かった。
【0034】
実験2 培地条件決定のための補足成分の特定
本実験では、全ての培地のPDWを25%(v/v)に設定し、希釈にはAF-6から以下に定める成分を除いた改変培地を用いた。なお、コントロールにはAF-6合成培地でPDWを同濃度に希釈した培地を用いた。AF-6より各成分を除いた3種類の各改変培地(AF-6から1)クエン酸, Fe-クエン酸塩、2)クエン酸, Fe-クエン酸塩, PIV 金属、3)ビタミン B
12を除いたもの)を用いて希釈した培地及びコントロール、以上の4種類の培地を100mL容量の試験管に70mL分注し(n=3)、オートクレーブ滅菌を施した。その後前培養開始後72時間経過した
E. gracilisを接種した(前培養条件は実験1と同様)。本培養条件は培養温度25℃、光照射強度120 μmol m
-2 s
-1(24時間連続照射)、エアフィルター(ADVANTEC)を介して通気培養を行った。増殖の経時変化は実験1同様、血球計算盤を用いて測定した。
【0035】
以上の結果を
図2〜3に示す。この結果から、腹膜透析排水に不足している、ビタミン B
12と微量金属成分(PIV金属)を添加することで、AF-6合成培地を添加したものと同様の増殖が得られることが示唆され、実際に培養実験により確認された。
【0036】
実験3 実験2の結果による追加培養と詳細分析
本実験では蒸留水にビタミン B
12 1μg/L、PIV metals(FeCl
3・6H
2O 0.98mg/L、MnCl
2・4H
2O 0.18mg/L、ZnSO
4・7H
2O 0.11mg/L、CoCl
2・6H
2O 0.02mg/L、Na
2MoO
4・2H
2O 0.0125mg/L、Na
2EDTA・2H
2O 0.05g/L)を添加した希釈液でPDWを25%に希釈した培地、AF-6を用いてPDWを25%又は50%(v/v)の濃度に希釈した培地、コントロールとして蒸留水でPDWを希釈した培地の計4種類の培地を調製した。各培地は300mL容量三角フラスコに150mL分注してオートクレーブ滅菌を施した。本培養条件は培養温度25℃、光照射強度120 μmol m
-2 s
-1(24時間連続照射)とし、130rpmで振とう培養した(
E. gracilisの前培養条件は実験1と同様)。
【0037】
経時的に培養液5mLを採取し、ろ過(GF/Cフィルター:Whatman)した後、ろ液中の窒素濃度、リン濃度を工業排水試験法によって測定して
E. gracilisによる除去能を判定した。培養終了時の培養液をGF/Cフィルターを用いてろ過し、60℃で24時間乾燥させた後に乾燥重量の測定を行った。
【0038】
以上の結果を
図4に示す。水質分析の結果、透析排液にビタミン B
12、PIV 金属を添加した培地に含まれるリンと窒素は、培養後2週間でほぼ除去されることが明らかとなり、透析排水の浄化に有効であることがわかった。