【文献】
Xinnan Zhang et al,Alkyl-Substituted Thieno[3,2-b]thiophene Polymers and Their Dimeric Subunits,Macromolecules,2004年,37,p6306-6315
【文献】
Lorenzo Testaferri et al,Preparation and Tautomeric Structures of Some Potential 2,5-Dyhydroxythieno[3,2-b]thiophenes,Journal of Organic Chemistry,1978年,43(11),p2197-2200
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明は以下の実施形態および例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0020】
「チエノチオフェン重合体」
本発明のチエノチオフェン重合体は、上記一般式(1)で表される単位を有する。すなわち、[3,2−b]チオフェン−2,5−ジイル基、あるいは、3位および/または6位が置換されたチエノ[3,2−b]チオフェン−2,5−ジイル基を構成単位として有する高分子化合物(ポリチエノチオフェン)である。
チエノチオフェン重合体は、該重合体を構成する全単位(100モル%)のうち、上記一般式(1)で表される単位を90〜100モル%含有することが好ましく、96〜100モル%含有することがより好ましく、100モル%含有すること(すなわち、チエノチオフェン重合体が上記一般式(1)で表される繰り返し単位から実質的になること)が特に好ましい。
【0021】
上記一般式(1)中、R
1およびR
2は各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基からなる群より選ばれる。アルキル基およびアルコキシ基は置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。
アルキル基としては炭素数2〜12のアルキル基が好ましく、アルコキシ基としては炭素数2〜12のアルコキシ基が好ましい。アルキル基やアルコキシ基の炭素数が2以上であれば、良好な溶解性を有するチエノチオフェン重合体が得られる。一方、炭素数が12以下であれば、良好な電子的特性を有するチエノチオフェン重合体が得られる。
【0022】
R
1およびR
2の組合せとしては、R
1が水素原子であり、R
2が炭素数2〜12のアルキル基またはアルコキシ基である組合せが好ましい。特に、アルキル基およびアルコキシ基の1つ以上の任意の炭素原子に結合する水素原子が、炭素数1〜3のアルキル基によって置換されていることがより好ましい。以下、このようなアルキル基およびアルコキシ基を分岐型アルキル基、分岐型アルコキシ基という。R
2が分岐型アルキル基または分岐型アルコキシ基であれば、十分な溶解性を有するチエノチオフェン重合体が得られる。
【0023】
分岐型アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−エチルオクチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基などが挙げられる。
分岐型アルコキシ基としては、例えば、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、2−エチルオクチルオキシ基などが挙げられる。
【0024】
チエノチオフェン重合体の数平均分子量(Mn)は1,000以上であり、好ましくは1,000〜1,000,000であり、より好ましくは2,000〜500,000であり、さらに好ましくは3,000〜100,000である。
チエノチオフェン重合体の数平均分子量が1,000未満であると、チエノチオフェン重合体からなる膜の物性や電子的特性が不十分となる。一方、数平均分子量が1,000,000を超えると、チエノチオフェン重合体の溶解性が著しく低下する恐れがある。
【0025】
また、チエノチオフェン重合体の数平均分子量(Mn)と、質量平均分子量(Mw)とから求められる分子量分布(Mw/Mn)は1.0〜1.7であり、好ましくは1.0〜1.6であり、より好ましくは1.0〜1.5であり、特に好ましくは1.0〜1.4である。
分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内であるチエノチオフェン重合体は単分散であり、立体規則性に優れる。加えて、高密度かつ規則的に集積化できるので、電子的特性にも優れる。分子量分布(Mw/Mn)が1.7を超えると、チエノチオフェン重合体からなる膜の電子的特性が不十分となる。
【0026】
チエノチオフェン重合体の数平均分子量(Mn)および質量平均分子量(Mw)は、それぞれ、ポリスチレンを標準物質として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される。
【0027】
<チエノチオフェン重合体の製造方法>
チエノチオフェン重合体は、例えば、上記一般式(2)で表されるチエノチオフェン化合物を有機溶媒中で有機マグネシウム試薬と反応させ(反応工程)、得られた反応物を少なくとも触媒の存在下で重合させた後(重合工程)、前記有機溶媒を蒸発させるか、または貧溶媒を加えて沈殿させる(重合体単離工程)ことで得られる。
【0028】
(反応工程)
反応工程は、有機溶媒中でチエノチオフェン重合体の原料(モノマー)となるチエノチオフェン化合物と、有機マグネシウム試薬とを反応させる工程である。
チエノチオフェン化合物は、上記一般式(2)で表される化合物である。
上記一般式(2)中のR
1およびR
2は、上記一般式(1)中のR
1およびR
2と同じであり、具体例および好ましい例についても同様である。
【0029】
上記一般式(2)中のX
1およびX
2は各々独立に、ハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。
X
1およびX
2の組合せとしては、ヨウ素原子と臭素原子、臭素原子と塩素原子、ヨウ素原子と塩素原子の組合せが好ましく、ヨウ素原子と臭素原子の組合せがより好ましい。
【0030】
本発明に用いられる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状または環状の脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類などが挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素、エーテル類が好ましい。
これら有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。
なお、チエノチオフェン化合物とマグネシウム試薬との反応の際に使用する有機溶媒と、得られた反応物の重合の際に使用する有機溶媒とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
有機溶媒の使用量は、チエノチオフェン化合物1gに対して、0.01〜10,000mLが好ましく、より好ましくは0.1〜1,000mLであり、さらに好ましくは1〜100mLである。
【0032】
本発明に用いられる有機マグネシウム試薬としては、例えば、式R
3MgX
3(式中、R
3は炭素数1〜8のアルキル基、ビニル基またはフェニル基であり、X
3は塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)で表される化合物が挙げられる。特に好ましい有機マグネシウム試薬としては、イソプロピルマグネシウムクロライドが挙げられる。
【0033】
有機マグネシウム試薬の使用量は、チエノチオフェン化合物1モルに対して、0.5〜10モル当量が好ましく、より好ましくは0.9〜1.1モル当量であり、さらに好ましくは0.95〜1.05モル当量である。有機マグネシウム試薬の使用量が0.5モル当量以上であれば、十分な反応性を示す。一方、使用量が10モル当量以下であれば、十分な触媒量で重合反応が進行する。
【0034】
チエノチオフェン化合物と有機マグネシウム試薬との反応は、例えば、非特許文献1に記載されているグリニャールメタセシス反応と呼ばれる公知の反応である。
チエノチオフェン化合物と有機マグネシウム試薬との反応温度は、−60〜160℃が好ましく、より好ましくは−40〜120℃であり、さらに好ましくは−20〜80℃である。
また、反応時間は、1分間〜100時間が好ましく、より好ましくは5分間〜24時間であり、さらに好ましくは10分間〜6時間である。
【0035】
(重合工程)
重合工程は、チエノチオフェン化合物と有機マグネシウム試薬との反応により得られる反応物を少なくとも触媒の存在下で重合させる工程である。
触媒としては、Ni(II)、Ni(0)、Pd(II)、Pd(0)の化合物からなる群より選ばれる1種以上の物質を含むものが好ましい。その中でも、ホスフィン化合物を含むニッケル錯体またはパラジウム錯体が好適である。さらに、ホスフィン化合物を含み、かつイミダゾリウム、イミダゾリジニウムなどいわゆるN−ヘテロ環状カルベン(NHC)を配位子として含むNi(II)錯体、Ni(0)錯体、Pd(II)錯体、またはPd(0)錯体がより好ましい。
【0036】
ホスフィン化合物としては、エチレンジホスフィン化合物、プロピレンジホスフィン化合物などが挙げられる。
エチレンジホスフィン化合物としては、例えば、1,2−ビス(ジメチルホスフィンノ)エタン、1,2−ビス(ジエチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジ−n−プロピルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジイソプロピルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンなどが挙げられる。
プロピレンジホスフィン化合物としては、例えば、1,2−ビス(ジメチルホスフィンノ)プロパン、1,2−ビス(ジエチルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジ−n−プロピルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジイソプロピルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンなどが挙げられる。
【0037】
また、ホスフィン化合物としては、上述した以外にも、トリフェニルホスフィン、トリアダマンチルホスフィンなどを用いることができる。
ホスフィン化合物を含むニッケル錯体またはパラジウム錯体は、例えば、該ホスフィン化合物の存在下に、ニッケルまたはパラジウムの酢酸塩や塩化物を還元して製造することができる。
【0038】
ホスフィン化合物を含み、かつN−ヘテロ環状カルベン(NHC)を配位子として含むニッケル錯体またはパラジウム錯体としては、例えば、[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン]トリフェニルホスフィンニッケル(II)ジクロリド、[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン](3−クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリド、(1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリデン)(3−クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリドなどが挙げられる。
これらの触媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0039】
触媒の使用量は、チエノチオフェン化合物1モルに対して、0.0001〜10モル当量が好ましく、より好ましくは0.001〜5モル当量であり、さらに好ましくは0.01〜5モル当量である。
【0040】
反応物を重合するに際しては、触媒と塩化リチウムの共存下で反応物を重合させることが好ましい。触媒と塩化リチウムの共存下で反応物を重合させると、重合反応がより効果的に進行する。
塩化リチウムの使用量は、チエノチオフェン化合物1モルに対して、0.1〜20モル当量が好ましく、より好ましくは0.5〜10モル当量であり、さらに好ましくは1〜5モル当量である。塩化リチウムの使用量が0.1モル当量以上であれば、触媒効果がある。一方、使用量が20モル当量以下であれば、十分な触媒効果が得られる。
【0041】
重合時の反応温度は、−60〜100℃が好ましく、より好ましくは−50〜60℃であり、さらに好ましくは−40〜40℃である。
また、反応時間は、10分間〜1,000時間が好ましく、より好ましくは30分間〜500時間であり、さらに好ましくは1〜200時間である。
【0042】
(重合体単離工程)
重合体回収工程は、重合工程により得られた重合混合物から有機溶媒を蒸発させるか、または貧溶媒を加えて重合体を沈殿させ、チエノチオフェン重合体を単離する工程である。
貧溶媒としては、チエノチオフェン重合体が溶けない溶媒であれば特に制限されず、例えば、ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状または環状の脂肪族炭化水素;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;水などが挙げられる。これらの中でも、メタノールが好ましい。これら貧溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。
貧溶媒の使用量は、有機溶媒10mLに対して、1〜1,000mLが好ましく、より好ましくは5〜100mLである。
【0043】
なお、重合体単離工程に先立ち、必要に応じて重合混合物を塩酸水溶液や水で洗浄してもよい。
【0044】
<作用効果>
以上説明した本発明のチエノチオフェン重合体は、上記一般式(1)で表される単位を有し、数平均分子量が1,000以上であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.0〜1.7である。分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内であるチエノチオフェン重合体は単分散であり、立体規則性に優れる。加えて、高密度かつ規則的に集積化できるので、電子的特性にも優れる。
また、本発明のチエノチオフェン重合体は溶解性に優れる。特に、上記一般式(1)中のR
2が分岐型アルキル基または分岐型アルコキシ基であれば、溶解性がより向上する。よって、本発明のチエノチオフェン重合体を用いれば、有機デバイスを製造する際の溶液加工が容易である。
【0045】
また、上述したチエノチオフェン重合体の製造方法では、反応工程と重合工程の2段階反応でチエノチオフェン重合体を製造する。重合工程の前に反応工程を行うことで、上記一般式(1)で表される単位を有するチエノチオフェン重合体を高収率で製造できる。
【0046】
しかも、上述したチエノチオフェン重合体の製造方法によれば、数平均分子量が1,000以上であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.0〜1.7であるチエノチオフェン重合体を比較的に容易に製造できる。
チエノチオフェン重合体の数平均分子量は、具体的には、モノマーの反応性、重合工程で用いる触媒の種類や添加量、重合時の反応温度や反応時間、溶媒の種類などを調整することで制御できる。
一方、チエノチオフェン重合体の分子量分布は、具体的には、モノマーと有機マグネシウム試薬のモル比などを調整することで制御できる。例えばモル比が1:1のとき、分子量分分布が1に近いチエノチオフェン重合体が得られやすい傾向にある。
【0047】
<用途>
本発明のチエノチオフェン重合体は、電界効果型有機トランジスタ(OFET)や有機発光ダイオード(OLED)、有機薄膜太陽電池(OPV)等の有機デバイスの材料として好適である。特に、有機薄膜光電変換素子に用いられる有機薄膜の材料として好適である。
【0048】
「有機薄膜」
本発明の有機薄膜は、上述した本発明のチエノチオフェン重合体と、有機半導体材料とを含む。
有機半導体材料としては、フラーレン誘導体、銅フタロシニアン(CuPc)、ジンクフタロシアニン(ZnPc)、ポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)などが挙げられる。これらの中でも、有機溶媒中での溶解性に優れ、n型半導体の特性が良好である点で、フラーレン誘導体が好ましい。
【0049】
チエノチオフェン重合体と有機半導体材料との質量比(チエノチオフェン重合体/有機半導体材料)は、1:0.5〜1:2.5 が好ましく、より好ましくは1:0.7〜1:2である。チエノチオフェン重合体と有機半導体材料(例えばフラーレン誘導体など)と混合して、多くのp/n接合を有するバルクヘテロジャンクションを形成するが、チエノチオフェン重合体の割合が多すぎても少なすぎても、半導体特性が著しく低下する傾向にあり、十分な性能が得られにくくなる。
【0050】
<有機薄膜の形成方法>
有機薄膜は、例えば以下のようにして形成できる。
まず、本発明のチエノチオフェン重合体と有機半導体材料とを有機溶媒に溶かして塗布液を調製する。得られた塗布液を基材上などの所定の場所に塗布し、加熱によりアニール処理することにより、有機薄膜を形成できる。
塗布液に用いる有機溶媒としては、クロロベンゼンなど、公知一般の有機溶媒を用いることができる。
塗布方法としては、スピンコート、ドクターコート、スリットコート、グラビア印刷、スクリーン印刷等の各種印刷法など、公知一般の塗布方法を採用できる。
塗布量については特に制限されないが、アニール処理後の膜厚が5〜1000nm程度となる量が好ましく、より好ましくは10〜100nmである。
【0051】
加熱方法としては特に限定されず、例えば、オーブン、赤外線などを用いることができる。
加熱温度は80〜150℃が好ましく、加熱時間は1〜20分程度が好ましい。
【0052】
本発明のチエノチオフェン重合体は溶解性に優れるので、有機デバイスを製造する際の溶液加工が容易である。よって、本発明であれば、容易に有機薄膜を形成することができる。
本発明の有機薄膜は、有機薄膜光電変換素子の構成材料として好適である。
【0053】
「有機薄膜光電変換素子」
本発明の有機薄膜光電変換素子は、少なくとも正極と、該正極に対向して配置された負極と、前記正極と前記負極との間に設けられた機能層とを備える。
機能層は有機薄膜層を有し、該有機薄膜層は上述した本発明の有機薄膜を含む。
以下、
図1を参照しながら、本発明の有機薄膜光電変換素子の一例について説明する。
【0054】
図1は、本発明に係る有機薄膜光電変換素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示す有機薄膜光電変換素子10は、基板11上に、正極12、正極バッファー層13、有機薄膜層14、負極バッファー層15、負極16の各層が順に積層して構成されている。
【0055】
基板11としては、例えば、ガラス、石英、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のプラスチックフィルムやシート、あるいは、これらプラスチックフィルムにバリア層も設けたものを用いることができる。
なお、基板11に近い側の電極を正極12とする場合には、正極12側から光を入射させるために透光性基板とすることが好ましい。
【0056】
正極12としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物等の透明電極を用いることができる。正極12の形成方法としては、スパッタ法や抵抗加熱法等の真空蒸着法など、公知の成膜法を採用できる。正極12の膜厚は、50nm程度が好ましい。
負極16の材料としては、電子注入効率が高く、仕事関数が低い金属材料を用いることができる。このような金属材料としては、例えば、Mg、Al、Ybなどが挙げられる。負極16は、スパッタ法や抵抗加熱法等の真空蒸着法など、公知の成膜方法により、負極バッファー層15上に上記金属材料を成膜することで形成できる。負極16の膜厚は、50〜100nmが好ましい。
【0057】
正極バッファー層13の材料としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)と、ポリ(スチレンスルホン酸)との混合物(以下、「PEDOT:PSS」という。)を用いることができる。正極バッファー層13の膜厚は、50〜100nmが好ましい。
負極バッファー層15の材料としては、フッ化リチウム、カルシウム、BCP(Bathocuproine)などが挙げられる。負極バッファー層15の膜厚は数nmが好ましい。
【0058】
有機薄膜層14は、本発明の有機薄膜を含む。
有機薄膜層14は、本発明の有機薄膜のみで構成されていてもよいし、他の有機薄膜を含んでいてもよい。
【0059】
上述した各層は、用いる材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、スピンコート、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法などを用いて形成することができる。
【0060】
本発明の有機薄膜光電変換素子は、有機薄膜太陽電池として好適である。
なお、本発明の有機薄膜光電変換素子は、
図1に示すものに限定されず、少なくとも正極12と負極16の間に有機薄膜層14が設けられ、正極12と負極16との間でキャリア移動を生じる構造となっていればよい。
また、
図1に示す有機薄膜光電変換素子10は、機能層として正極バッファー層13と、有機薄膜層14と、負極バッファー層15とを備えているが、機能層は少なくとも有機薄膜層14を有していれば、これら以外の層を有していてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0062】
「実施例1」
<チエノチオフェン重合体の合成>
反応は三方コックを備えたナスフラスコを用い、窒素気流下で、以下のようにして行った。
ヒートガンを用いてナスフラスコ内を減圧下乾燥してアルゴン置換し、室温に戻した。このナスフラスコに、モノマーとして2−ブロモ−5−ヨード−3−(2,4,4−トリメチルペンチル)チエノ[3,2−b]チオフェン91.3mg(0.200mmol)と、有機溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)1mLとを加え、0℃で攪拌した。さらに、有機マグネシウム試薬として2Mのイソプロピルマグネシウムクロライド(i−PrMgCl)のTHF溶液0.1mL(0.2mmol)をゆっくりと加え、30分間攪拌して反応を行った(反応工程)。
モノマーのグリニャール化をガスクロマトグラフィー(GC)で確認した後、反応液に、触媒として[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン]トリフェニルホスフィンニッケル(II)ジクロリド8.03mg(5.1mol%)をTHF1mLに溶解させて加え、室温で3.5日間攪拌し、反応物を重合した(重合工程)。
重合工程で得られた重合混合物を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、減圧下で有機溶媒を留去し(重合体単離工程)、赤褐色のチエノチオフェン重合体を44.4mg(粗収率89%)得た。
得られたチエノチオフェン重合体は、上記一般式(1)中、R
1が水素原子であり、R
2が2,4,4−トリメチルペンチルである単位からなるポリマーである。
また、得られたチエノチオフェン重合体の数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)を、ポリスチレンを標準物質として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したところ、Mn=3,100、Mw/Mn=1.69であった。
【0063】
<有機薄膜光電変換素子の作製>
得られたチエノチオフェン重合体10mgと、フラーレン誘導体としてPCBM([6,6]-Phenyl-C
61-Butyric acid Methyl ester)「70」10mgと、有機溶媒としてo−ジクロロベンゼン2gとをサンプル瓶に加え、攪拌しながら80℃のヒートプレートで2時間加熱し、さらに60℃で数時間保温して十分に溶解させた後、0.5μmのフィルターを通して、塗布液を調製した。
別途、ITO電極を有するガラス基板にスピンコータでPEDOT:PSSを塗布し、135℃で10分間乾燥し、正極バッファー層を形成した。正極バッファー層の膜厚は約50nmであった。次いで、前記正極バッファー層上に、先に調製した塗布液をスピンコータで塗布し、室温(25℃)で10分間乾燥し、有機薄膜を形成した。有機薄膜の膜厚は約100nmであった。次いで、上記有機薄膜上に、フッ化リチウム0.1nm、アルミニウム100nmを順次真空蒸着して、有機薄膜光電変換素子を作製した。
実施例1で得られたチエノチオフェン重合体は、有機溶媒に対する溶解性に優れていた。従って、溶液加工が容易であり、容易に有機薄膜を形成できた。
【0064】
「実施例2」
<チエノチオフェン重合体の合成>
ナスフラスコに塩化リチウム(LiCl)35.3mg(0.832mmol)を加えヒートガンで加熱乾燥しながらアルゴン置換した。別途用意したナシフラスコを同様に加熱乾燥させ、窒素置換し、2−ブロモ−5−ヨード−3−(2,4,4−トリメチルペンチル)チエノ[3,2−b]チオフェン91.3mg(0.200mmol)加え、再びアルゴン置換し、乾燥THF1mLを加えシリンジを用いてナスフラスコへ移動した。LiClをなるべく溶解させるように攪拌しながら、0℃に冷却し、そこへi−PrMgClを0.1mL(0.2mmol)加えた。別途用意したナシフラスコを同様に加熱乾燥させ、窒素置換し、Ni(NHC)Cl
2を7.89mg(5mol%)加えて窒素置換し、乾燥THF1mLに溶解させ、シリンジを用いてその溶液を先ほどのナスフラスコへ加えた。その後反応容器を室温に戻し、3時間後及び6時間後にそれぞれサンプリングし、1日後に5Mの塩酸を加え反応を停止させた。その後クロロホルムで抽出し、抽出物を水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去し、赤黒色の固体45.1mg(粗収率90.4%)を得た。
得られたチエノチオフェン重合体のMnとMwを測定したところ、Mn=2,090、Mw/Mn=1.54であった。
【0065】
<有機薄膜光電変換素子の作製>
実施例2で得られたチエノチオフェン重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして有機薄膜光電変換素子を作製した。
実施例2で得られたチエノチオフェン重合体は、有機溶媒に対する溶解性に優れていた。従って、溶液加工が容易であり、容易に有機薄膜を形成できた。
【0066】
「比較例1」
<チエノチオフェン重合体の合成>
触媒として、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン・塩化ニッケルを用い、室温で1日間攪拌し、反応物を重合した以外は、実施例1と同様にして赤褐色のチエノチオフェン重合体を43.5mg(粗収率87.2%)得た。
得られたチエノチオフェン重合体のMnとMwを測定したところ、Mn=690、Mw/Mn=3.20であった。
【0067】
<有機薄膜光電変換素子の作製>
比較例1で得られたチエノチオフェン重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして有機薄膜光電変換素子を作製しようとした。
しかし、比較例1で得られたチエノチオフェン重合体は、有機溶媒に対する溶解性に劣り、溶液加工が困難であった。そのため、有機薄膜を形成できなかった。