(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128568
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】航空機のインテーク構造
(51)【国際特許分類】
B64D 33/02 20060101AFI20170508BHJP
B64C 21/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
B64D33/02
B64C21/00
【請求項の数】4
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2015-64210(P2015-64210)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-182885(P2016-182885A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2015年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一成
(72)【発明者】
【氏名】磯 英雄
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 健
【審査官】
諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05779189(US,A)
【文献】
特開昭56−017799(JP,A)
【文献】
特開昭55−156800(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0181743(US,A1)
【文献】
米国特許第06527224(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 33/02
B64C 21/00−21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体前方からの空気を取り込む航空機のインテーク構造であって、
前記航空機の機体表面のうち、前記インテークの直前に位置する部分には、機体前方から滑らかに隆起したバンプが設けられており、
前記インテークの周辺の平面視において、前記バンプの最大幅が、前記インテークの最大幅よりも広いことを特徴とする航空機のインテーク構造。
【請求項2】
前記バンプは、機体前方から前記インテークに向かって滑らかに幅が広がるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の航空機のインテーク構造。
【請求項3】
前記バンプは、当該バンプの幅方向において、前記インテークよりも側方まで延在する部分を備えることを特徴とする請求項2に記載の航空機のインテーク構造。
【請求項4】
前記バンプは、当該バンプの幅方向に圧力勾配を生じさせ、機体前方からの境界層を前記インテークの側部よりもさらに側方へ排除するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の航空機のインテーク構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機のインテーク構造に関し、特にインテークへの境界層の流入を抑制するのに有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機のインテーク(空気取入口)構造の設計においては、インテーク前方の機体表面で発達してくる境界層の取り扱いが重要となる。境界層は機体表面との摩擦によりエネルギーを失った気流であるため、これがインテークに流入してエンジンへ供給されると、エンジン性能の低下などの問題が生じる。
【0003】
インテークへの境界層の流入を防止する技術としては、インテークと機体表面との間に境界層の厚み程度の隙間を設け、この隙間にダイバータ(境界層隔壁)を設けるものが古くから知られている。このダイバータを用いた技術では、境界層の外側の気流のみをインテークに流入させることが可能ではあるが、ダイバータ自体の重量や空気抵抗により機体性能の低下などの問題が生じる。
【0004】
そこで近年では、ダイバータに依らずに境界層を排除する技術として、インテーク前方の機体表面にバンプ(こぶ)を設けるダイバータレス・インテークが提案され、実用化されてきている(例えば、特許文献1参照)。このダイバータレス・インテークでは、バンプ上に生じる圧力勾配によって境界層をインテークの側方へ排除することで、当該インテークへの境界層の流入が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5779189号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在実用化されているダイバータレス・インテークでは、バンプの幅がインテークの幅よりも狭いものとなっている。そのため、インテークの側部近傍に気流の集中を生じさせ、空気抵抗の増加などの空力特性の悪化を招来してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、インテーク側部での気流の集中を抑制しつつインテークへの境界層の流入を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、機体前方からの空気を取り込む航空機のインテーク構造であって、
前記航空機の機体表面のうち、前記インテークの直前に位置する部分には、機体前方から滑らかに隆起し
たバンプが設けられて
おり、
前記インテークの周辺の平面視において、前記バンプの最大幅が、前記インテークの最大幅よりも広いことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の航空機のインテーク構造において、
前記バンプは、機体前方から前記インテークに向かって滑らかに幅が広がるように形成されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の航空機のインテーク構造において、
前記バンプは、当該バンプの幅方向において、前記インテークよりも側方まで延在する部分を備えることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の航空機のインテーク構造において、
前記バンプは、当該バンプの幅方向に圧力勾配を生じさせ、機体前方からの境界層を前記インテークの側部よりもさらに側方へ排除するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、航空機の機体表面のうちインテークの直前に位置する部分に、機体前方から滑らかに隆起し
たバンプが設けられて
おり、インテーク周辺の平面視において、このバンプの最大幅がインテークの最大幅よりも広く形成されている。
これにより、機体前方からインテークに向かう境界層が、バンプ上に生じる圧力勾配によってインテーク側部よりもさらに側方へ確実に排除される。
したがって、インテーク側部での気流の集中を抑制しつつ、インテークへの境界層の流入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】航空機のうちインテークダクト周辺の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、航空機のうち、本実施形態におけるインテーク10aを有するインテークダクト10周辺の斜視図であり、
図2は、インテーク10a周辺の平面図であり、
図3は、
図2のIII−III線での断面図である。
【0013】
図1に示すように、インテークダクト10は、航空機の胴体20に設けられており、機体前方に向かって開口するインテーク(空気取入口)10aから取り込んだ空気を、その後方に配置された図示しないエンジンまで導くものである。
より詳しくは、インテークダクト10は、機体前後方向に略沿った略コ字状のダクト壁11で胴体20表面を囲うようにして機体側方へ突設されており、当該胴体20表面とダクト壁11とでダクト管を構成している。
【0014】
このダクト管を構成する胴体20の表面のうち、インテーク10aの周辺部分には、滑らかに隆起するバンプ21が設けられている。
バンプ21は、
図2及び
図3に示すように、機体前後方向に沿って、インテーク10aの直前から滑らかに幅広になりつつ隆起して、インテーク10aを過ぎた後に再び滑らかに沈下するように形成されている。
【0015】
バンプ21のうち、インテーク10aの直前に位置する略前半部は、その幅(最大幅)W2がインテーク10aの幅(最大幅)W1よりも広く形成されている。そのため、航空機の飛行中に前方からインテーク10aに向かう気流のうち、胴体20表面の境界層は、
図2及び
図3に矢印で示すように、バンプ21上に生じる圧力勾配によってインテーク10aの両側方へ確実に排除される。
【0016】
以上のように、本実施形態のインテーク構造によれば、航空機の機体(胴体20)表面のうちインテーク10aの直前に位置する部分に、機体前方から滑らかに隆起しつつインテーク10aよりも広い幅W2に形成されたバンプ21が設けられている。
これにより、機体前方からインテーク10aに向かう境界層が、バンプ21上に生じる圧力勾配によってインテーク10aの側部よりもさらに側方へ確実に排除される。
したがって、インテーク10aの側部での気流の集中を抑制しつつ、インテーク10aへの境界層の流入を抑制することができる。ひいては、空気抵抗の増加などの空力特性の悪化や、エンジン性能の低下を抑制することができる。
【0017】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0018】
10 インテークダクト
10a インテーク
11 ダクト壁
20 胴体(航空機の胴体)
21 バンプ
W1 幅(インテークの幅)
W2 幅(バンプの幅)