(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
本願発明は、風力や潮流等の流体の作用を利用して発電を行う流体発電装置において、ケーシングとケーシング内に設けられた発電部とを有する発電機構を複数備えたシステムを採用し、ケーシングの形状及び複数の発電機構の配置態様を工夫することにより、複数の発電機構を用いるメリットを享受するとともに、流体の流出口の周囲に渦を形成する発電機構を複数用いることによる相乗効果を得ることを可能とし、効率的な発電を実現しようとするものである。以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
以下に説明する本発明の実施の形態では、本願発明に係る流体発電装置として、風力の作用を利用して発電を行う風力発電装置を例にとって説明する。ただし、本願発明に係る流体発電装置は、例えば、潮流の作用を利用して発電を行う潮流発電装置や、海流、河川の流水を利用した水力発電装置など、流体の作用を利用して発電を行う発電装置として適用することが可能である。
【0029】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る風力発電装置1は、風力の作用を利用して発電を行うための複数のロータ機構5を備え、マルチロータシステムとしての集合風車を構成する。すなわち、本実施形態の風力発電装置1は、3つのロータ機構5を備える。ロータ機構5は、風力発電装置1において、基本ユニットとしての風車を構成し、所定の配置態様で集合配置される。
【0030】
ロータ機構5は、ケーシングとしての風胴体20と、風胴体20内に設けられたロータとしての羽根車30とを有する。ロータ機構5は、自然界の風の流れを利用して羽根車30を回転させることで、羽根車30の回転エネルギー(運動エネルギー)を発電機によって電気エネルギーに変換し、発電を行う。
【0031】
風力発電装置1が備える3つのロータ機構5は、地表面上に設けられた支持台等により構成される所定の設置面2上に立設された支柱3により、所定の配置態様で支持される。本実施形態では、3つのロータ機構5は、構成及び大きさを互いに共通とする。
【0032】
本実施形態の風力発電装置1における3つのロータ機構5の配置態様について説明する。3つのロータ機構5は、羽根車30の回転軸の軸方向(以下「ロータ軸方向」という。)が略平行方向であるように配置されている。また、3つのロータ機構5は、同一の垂直面内に配置されている。つまり、3つのロータ機構5は、ロータ軸方向(前後方向)について同じ位置に設けられている。ただし、3つのロータ機構5のロータ軸方向の位置については、同じ位置である場合に限らず、隣り合うロータ機構5同士がロータ軸方向にずれた位置、つまり食い違い状の配置(staggered配置)で設けられてもよい。なお、以下の説明では、風力発電装置1及びロータ機構5において、風下側又は下流側は後側であり、風上側又は上流側は前側である。
【0033】
図1及び
図2に示すように、3つのロータ機構5は、二等辺三角形(
図1及び
図2では、二等辺三角形の一例としての正三角形を示しており、同様に、
図7、
図9及び
図10では、正三角形を示している)状に配置されている。すなわち、3つのロータ機構5は、ロータ軸方向視において、各ロータ機構5の羽根車30の回転軸の位置が1つの辺を水平方向に沿わせた正三角形の頂点の位置に対応するような配置で設けられている。言い換えると、3つのロータ機構5は、各ロータ機構5の羽根車30の回転軸の位置を結ぶ3つの直線によりロータ軸方向視で正立した正三角形が形成されるように設けられている。
【0034】
したがって、3つのロータ機構5のうち、2つのロータ機構5が、互いに同じ高さ位置に配設され、残り1つのロータ機構5が、他の2つのロータ機構5の間の上方の位置に設けられている。すなわち、高さ位置を互いに同じとする2つのロータ機構5が下段に配置され、下段の2つのロータ機構5間の中心位置の上方に、上段のロータ機構5が1つ配置されている。以下の説明では、3つのロータ機構5を区別する場合、便宜上、
図1に示すように、ロータ機構5の背面視において、下段左側のロータ機構5をロータ機構5A、下段右側のロータ機構5をロータ機構5B、上段のロータ機構5をロータ機構5Cとする。
【0035】
また、正三角形状に配置された3つのロータ機構5において、隣り合うロータ機構5間には、所定の隙間(以下「風車間隙間」という。)10が設けられている。つまり、ロータ機構5は、他のロータ機構5との間に、3つのロータ機構5が位置する垂直面に沿う方向について所定の寸法を有する風車間隙間10を隔てて配置されている。なお、風車間隙間10の詳細については後述する。
【0036】
以上のような態様で配置される3つのロータ機構5は、設置面2上に設置された支柱3に対して、所定の支持構造によって支持される。本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、3つのロータ機構5は、支柱3に対して、複数の支持杆7を介して支持されている。風力発電装置1は、3つのロータ機構5、支柱3及び支持杆7を含めて左右対称に構成されている。具体的には次のとおりである。
【0037】
支柱3は、設置面2に対する垂直方向(鉛直方向)に直線状に延設されている。支柱3は、3つのロータ機構5の前側の位置、かつ下段の2つのロータ機構5の間の中央の位置にて、上端が下段のロータ機構5の中心位置、つまり下段のロータ機構5の羽根車30の回転軸の位置と略同じ高さに達する高さ(長さ)で設けられている。
【0038】
また、支柱3にロータ機構5を固定支持するための支持杆7としては、縦支持杆7a、横支持杆7b、一対の上斜め支持杆7c及び一対の下斜め支持杆7dが設けられている。縦支持杆7aは、支柱3の上端から上方に延設され、支柱3の上方に位置する上段のロータ機構5Cの羽根車30の回転軸部31に連結されている。横支持杆7bは、支柱3の上端から左右両側に水平方向に延設され、下段の2つのロータ機構5A,5Bのそれぞれの羽根車30の回転軸部31に連結されている。つまり、横支持杆7bは、下段の左右のロータ機構5A,5Bのそれぞれの回転軸部31同士を互いに連結するように水平方向に配されている。
【0039】
一対の上斜め支持杆7cは、上段のロータ機構5Cと下段の左右のロータ機構5A,5Bのそれぞれの回転軸部31同士を互いに連結するように斜めに配されている。したがって、一対の上斜め支持杆7cと横支持杆7bとにより、3つのロータ機構5の配置に対応した正三角形状が形成される。一対の下斜め支持杆7dは、一対の上斜め支持杆7cとの関係において上下対称に配設され、支柱3の上下方向の中間部から左右両側に斜め上方に向けて延設され、下段の左右のロータ機構5A,5Bのそれぞれの回転軸部31に連結されている。
【0040】
したがって、
図2に示すように、ロータ機構5の正面視において、一対の上斜め支持杆7c及び一対の下斜め支持杆7dにより、対角線の方向を上下方向・左右方向に沿わせた菱形形状が形成される。つまり、縦支持杆7a及び横支持杆7bは、上斜め支持杆7c及び下斜め支持杆7dからなる菱形形状の対角線の方向に沿うように設けられている。
【0041】
なお、支柱3に対して3つのロータ機構5を支持するための支持構造は、特に限定されるものではない。ロータ機構5の支持構造としては、設置面2上の所定の高さ位置において、3つのロータ機構5をその相対的な位置関係を保持した状態で支持固定することができ、十分な耐風安定性が得られるような構造であれば、適宜の構成が採用される。
【0042】
次に、ロータ機構5の構成について、
図3から
図5を加えて説明する。ロータ機構5は、環状ないし筒状の風胴体20と、風胴体20内に設けられ、風力の作用を受けて所定の回転軸回りに回転する発電用のロータとしての羽根車30とを有する。
【0043】
風胴体20は、全体として、筒軸方向の寸法が径方向の寸法よりも短い筒状の外形をなす環状の部材である。風胴体20は、その筒状の外形におけるロータ軸方向の一方側(
図5において左側)の開口を風の流入口20aとし、ロータ軸方向の他方側(
図5において右側)の開口を風の流出口20bとする。
【0044】
風胴体20は、その流出口20bの周囲に渦を形成することで風胴体20内を流れる風の内部流れの速度を増加させる形状を有する。風胴体20は、風の流れ方向に対して非流線形の形状を有し、羽根車30の周囲を囲って内外流を分離させる。具体的には、風胴体20は、筒状に構成された本体部21と、本体部21の流出口20b側の端部に設けられた鍔部22とを有する。
【0045】
本体部21は、羽根車30の回転軸に一致する中心軸を通る縦断面視(
図5参照)で、中心軸側に凸となる湾曲面をなす筒状ないし環状の部分である。風胴体20の中心軸方向について、本体部21の風下側(流出口20b側)の過半部分は、風上側(流入口20a側)から風下側に向けて徐々に拡径する形状を有し、かかる部分はディフューザ部として機能する。つまり、風胴体20の流路断面は、本体部21の風下側の過半部分において、流入口20a側から流出口20b側にかけて徐々に広がっている。このようにディフューザ部として機能する本体部21の風下側の過半部分は、詳細には、羽根車30が有する複数のブレード(羽根)32のブレード面よりも下流側の部分である。なお、風上側から風下側にかけて徐々に拡径する本体部21の風下側の過半部分は、縦断面視において、本実施形態のような曲線状をなす部分ではなく、直線状をなす部分、つまり円錐面状の部分であってもよい。
【0046】
一方、本体部21の風上側の部分は、本体部21の風下側の過半部分とは逆に、風下側から風上側に向けて徐々に拡径する形状、つまり風上側から風下側に向けて徐々に縮径する形状を有する。これにより、風胴体20の流路断面は、流入端から一旦絞られ、風速が加速される。ただし、流入口20aの口径は、流出口20bの口径よりも小さい。また、風上側から風下側にかけて徐々に縮径する本体部21の風上側の部分は、上記の風下側の過半部分と同様に円錐面状の部分であってもよい。
【0047】
鍔部22は、流出口20bの周囲に渦を形成するための部分である。鍔部22は、本体部21の風下側の端部の周囲、つまり流出口20bの周囲において、風胴体20の中心軸方向に対して垂直な面に沿うように、流出口20bの全周にわたって設けられた環状の平板部である。したがって、鍔部22は、風胴体20の縦断面視において、本体部21の風下側の縁端から風胴体20の中心軸方向に対して垂直な方向に風胴体20の径方向の外側に折れ曲がった直線状の部分となる(
図5参照)。鍔部22の幅、つまり鍔部22の本体部21からの突出高さは、特に限定されるものではないが、例えば、風胴体20の最小内径寸法D1の数%から50%の範囲内の寸法に設定される。
【0048】
このように、風胴体20は、流出口20bの周囲に渦を形成するための渦生成部としての鍔部22を有する。風胴体20は、風下側の端部に鍔部22を有することで、全体的な形状を非流線形形状とする。
【0049】
羽根車30は、その回転軸方向を長手方向とする円筒状ないし紡錘形状の回転軸部31と、回転軸部31の周面からロータ軸方向視で回転軸部31の径方向に沿って放射状に設けられた複数のブレード32とを有する。回転軸部31は、ブレード32の付け根を図示せぬロータ軸に連結するハブと、ハブからロータ軸を介して連結される増速機や発電機等を収納するナセルとを含む。また、本実施形態では、羽根車30は、回転軸部31の周方向に等間隔で配置された3枚のブレード32を有する。なお、羽根車30が有するブレード32の枚数や各ブレード32の形状は、特に限定されるものではない。
【0050】
羽根車30は、風胴体20内において、回転軸部31の中心軸、つまり回転軸が風胴体20の中心軸に一致するように、風胴体20に対して同心配置される。羽根車30は、ロータ軸方向について、ブレード32が風胴体20の本体部21の流入口20a側寄りの位置、詳細にはブレード32が本体部21の最小内径位置の近傍に位置するように設けられる。また、羽根車30は、風胴体20の内周面20cにブレード32の先端が触れないように、内周面20cに対して若干のクリアランスを保持した状態で回転するように設けられている。なお、羽根車30の回転軸部31については、その前側の大部分が、風胴体20の流入口20aから外側に露出した状態となっている。
【0051】
以上のような構成を備えるロータ機構5によれば、風胴体20が集風体(風レンズ)として機能し、風胴体20による風の集中作用によって、より強い風が羽根車30のブレード32に当たることになる。これにより、ロータ機構5を通過する風の速度が増加する。かかる作用について、
図6を用いて詳細に説明する。
【0052】
図6に示すように、上述のとおり縦断面視で湾曲面をなす筒状ないし環状の本体部21と、流出口20b側の端部に設けられた鍔部22とを有する風胴体20においては、主に鍔部22の作用により、風胴体20の内外部流が風胴体20の外周・内周の全周で剥離し、風胴体20の下流側に、カルマン渦と呼ばれる強い渦が形成される(矢印群A1参照)。このカルマン渦は、風胴体20の下流側において風胴体20の周方向について非定常的に(交互に)生成され、部分的に強い渦列を形成する。
【0053】
このようにカルマン渦による渦列が形成されることにより、風胴体20の下流側(流出口20b付近)において安定した低圧領域が形成される。この低圧領域が、圧力差によってロータ機構5に流れ込む風(矢印A2参照)を引込み、風胴体20内を流れる風の内部流れの速度を増加させる(矢印A3参照)。特に、ブレード32の先端部付近の流れが相対的に大きく増速する(矢印A4参照)。
【0054】
このようなメカニズムによるロータ機構5における内部流れの増速により、羽根車30の回転数が増加し、ロータ機構5として高トルクの駆動力が出力され、出力としての発電量が向上する。風力発電による出力(発電量)は、風速の3乗に比例する。実際、本実施形態のロータ機構5のように風胴体20と羽根車30とを備える構成によれば、同じロータ径の羽根車30のみの構成(風胴体20が無い構成)との比較において、2〜3倍の出力増加が得られることが実証されている。
【0055】
以上のように、本実施形態のロータ機構5は、集風体としての風胴体20によって風エネルギーを集中させて発電効率を高めたレンズ風車として構成されている。したがって、本実施形態のロータ機構5によれば、効率良く風の流れを増速することが可能となり、効率的な発電を行うことができる。
【0056】
また、本実施形態のロータ機構5によれば、上記のような羽根車30のみの構成との比較において、空力騒音を極めて小さくすることが可能となる。このことは、ロータ機構5においては、羽根車30を取り囲む風胴体20によって、騒音の原因となる羽根車30の翼端渦が抑制ないし解消されることに基づく。さらに、本実施形態のロータ機構5によれば、例えば非可聴の低周波(1〜3Hz)の騒音が極めて低い等の優れた低周波特性が得られることが、周波数解析により判明している。
【0057】
なお、本実施形態に係る風胴体20においては、鍔部22は、風胴体20の中心軸方向に対して垂直な面に沿う環状の平板部として設けられているが、これに限定されるものではない。鍔部22としては、風胴体20を非流線形形状にして風胴体20の下流側で渦を形成させる部分であればよい。したがって、鍔部22としては、例えば、外周が周方向に四角形、六角形などの規則性、周期性を持つような形状や、楕円形状、長方形状、菱形形状、さらには上下非対称な異形形状の部分であってもよい。また、鍔部22としては、風胴体20の縦断面視において本体部21に対して滑らかにつながるような曲線をなす部分、つまり本体部21とともにラッパ状の形状をなす部分等であってもよい。
【0058】
また、
図3から
図5に示すように、風胴体20は、複数の位相制御板部23を有する。位相制御板部23は、風胴体20の周方向を板厚方向とする板状の部分であり、風胴体20の外周側において、本体部21と鍔部22との間にリブ状に架設されている。本実施形態では、位相制御板部23は、風胴体20の周方向に略等間隔に12箇所に設けられている。
【0059】
位相制御板部23は、その内側(風胴体20側)の辺部につき、風胴体20の縦断面視において本体部21と鍔部22とがなす断面形状に沿う形状を有し、風胴体20の外周面20dに対して全体的に接触した状態で、風胴体20と一体的に設けられている。また、位相制御板部23は、その外側(風胴体20側と反対側)の辺部につき、風胴体20の風上側から風下側への拡径に応じて傾斜する直線状の形状を有する。また、位相制御板部23には、軽量化等のため、複数の(本実施形態では3つの)孔23aが穿設されている。
【0060】
上述したように風胴体20の下流側に生じるカルマン渦においては、風胴体20の円周方向について形成される渦の強弱(ゆらぎ)が存在する。そこで、位相制御板部23は、風胴体20の周方向にゆらぐ渦の位相を揃えることで、風胴体20の下流側においてカルマン渦を生じさせる流れを強くしかつ安定させる。風力発電装置1の設置場所においてロータ機構5が受ける風は、基本的には自然風等の不規則な流れのものであり、位相制御板部23は、このような不規則な流れに作用して強制的に流れを安定させる。
【0061】
詳細には、位相制御板部23によれば、風胴体20の下流側における渦形成の位相が揃い、その結果、風胴体20の下流側においてより強い渦が形成され、付近の静圧がより低圧化する。つまり、位相制御板部23によって、風胴体20の円周方向についての渦の強弱(ゆらぎ)が緩和され、各部における渦形成が安定化する。これにより、位相制御板部23が無い構成との比較において、風胴体20の下流側においてより強い渦形成がより多くの時間に行われ、風胴体20の下流側がより低圧化され、風胴体20の下流側において安定した強い低圧領域が得られる。結果として、風胴体20の下流側における低圧領域による引込み作用によって得られる風の内部流れの増速作用が向上する。
【0062】
このように風胴体20がその外周側に位相制御板部23を有する構成によれば、上述したようなカルマン渦による渦列及びそれを利用した流れを安定させることができ、ロータ機構5に流入する風の速度を効果的に増速することが可能となる。これにより、発電効率の向上を図ることが可能となる。
【0063】
なお、風胴体20が有する位相制御板部23の形状、枚数、板厚、孔23aの有無等は、特に限定されるものではなく、ロータ機構5の大きさ等により適宜設定される。例えば、位相制御板部23としては、その外側(風胴体20側と反対側)の辺部について風胴体20の径方向の外側に凸となるような曲線状の形状を有するものや、鍔部22の上流側から鍔部22を乗り越えて鍔部22の下流側に突出する形状を有するもの等であってもよい。
【0064】
また、本実施形態の風力発電装置1は、電気的構成として、各ロータ機構5に対応した発電装置を備え、各発電装置において対応するロータ機構5が備える羽根車30の回転力を受けることで、発電装置を駆動して発電を行い、外部に電気を供給する。ただし、風力発電装置1の電気的構成は、特に限定されるものではない。
【0065】
以上のような構成を備えるロータ機構5が、上述したように、ロータ軸方向が略平行方向であるとともに、同一の垂直面内において二等辺三角形(前述の通り、二等辺三角形の一例としての正三角形)状に対応するような配置で、設置面2上の支柱3に支持された状態で3つ設けられている。そして、
図1、
図2及び
図7に示すように、3つのロータ機構5は、隣り合うロータ機構5の風胴体20間に、所定の寸法の風車間隙間10を隔てて配置されている。
【0066】
風車間隙間10は、風力発電装置1の背面視において、隣り合うロータ機構5の、羽根車30の回転軸及び風胴体20の中心軸の位置に一致するロータ機構5の中心位置(以下「ロータ中心位置」という。)同士を結ぶ方向の最小隙間寸法に相当する。したがって、本実施形態では、ロータ軸方向の位置を互いに同じとする3つのロータ機構5が、風胴体20の最大外径部分となる鍔部22の部分を同一の垂直面内に位置させる構成において、風車間隙間10は、隣り合うロータ機構5の鍔部22間の隙間となる。なお、流入口20aから流出口20bにかけて徐々に拡径する本体部21と、流出口20bの外周側に突出する鍔部22とを有する風胴体20においては、鍔部22の部分が、ロータ機構5の最大外径部分となる。
【0067】
本実施形態のように、3つのロータ機構5が正三角形状に配置された構成においては、風車間隙間10として、上段のロータ機構5Cと下段左側のロータ機構5Aとの間の風車間隙間10X、下段左側のロータ機構5Aと下段右側のロータ機構5Bとの間の風車間隙間10Y、下段右側のロータ機構5Bと上段のロータ機構5Cとの間の風車間隙間10Zの3つの風車間隙間10が存在する(
図7参照)。これらの3つの風車間隙間10の寸法は、基本的には互いに同じ寸法に設定される。
【0068】
本実施形態では、風車間隙間10は、羽根車30の回転軸に垂直な面に沿う方向について風胴体20の最大外径寸法D2よりも小さい寸法を有する。ここで、風胴体20の最大外径寸法D2は、上述のとおり風胴体20における最大外径部分となる鍔部22の部分における外径寸法である(
図5参照)。すなわち、本実施形態の風力発電装置1においては、風車間隙間10の寸法を隙間寸法sとした場合、隙間寸法s<最大外径寸法D2となる。
【0069】
このように互いの間に風胴体20の最大外径寸法D2よりも小さい風車間隙間10を隔てて配置されている3つのロータ機構5は、上述したように支柱3に対して複数の支持杆7を含む支持構造により支持されているが、これに加え、互いの位置関係を保持するための支持構造(風車間支持構造)により支持されている。すなわち、本実施形態の風力発電装置1においては、3つのロータ機構5の相対的な位置関係を保持するための風車間支持構造が設けられている。風車間支持構造について、
図2を用いて説明する。
【0070】
風車間支持構造は、各ロータ機構5の風胴体20が有する鍔部22を利用して設けられている。
図2に示すように、本実施形態の風力発電装置1においては、風車間支持構造として、複数の支持部材40が設けられている。支持部材40は、棒状の部材であり、隣り合うロータ機構5の間において、鍔部22間に架設された状態で設けられている。
【0071】
具体的には、
図2に示すように、本実施形態では、支持部材40として、隣り合うロータ機構5の間において、外側支持部材40aと内側支持部材40bとの2本の支持部材40が設けられている。外側支持部材40a及び内側支持部材40bは、いずれも、隣り合うロータ機構5の間において、対応するロータ機構5同士の間において羽根車30の回転軸部31同士を互いに連結する支持杆7に対して平行な方向に配されている。
【0072】
すなわち、上段のロータ機構5Cと下段左側のロータ機構5Aとの間、及び上段のロータ機構5Cと下段右側のロータ機構5Bとの間においては、外側支持部材40a及び内側支持部材40bは、それぞれ上斜め支持杆7cと平行に配されている。また、下段左右のロータ機構5A,5B間においては、外側支持部材40a及び内側支持部材40bは、横支持杆7bと平行に配されている。
【0073】
そして、外側支持部材40aは、正三角形状に配置された3つのロータ機構5の外周側において、風胴体20の円形状に対して略接線状に配された状態で、隣り合うロータ機構5の鍔部22間に架設されている。また、内側支持部材40bは、外側支持部材40aに対して、上斜め支持杆7cあるいは横支持杆7bを間に挟んだ内側において、隣り合うロータ機構5の鍔部22間に架設されている。外側支持部材40a及び内側支持部材40bは、その両端部がロータ機構5の鍔部22に対して溶接やボルト止め等によって固定されることで、各ロータ機構5の風胴体20に固定される。
【0074】
このように、3つのロータ機構5の相対的な位置関係を保持するための風車間支持構造を設けることにより、複数の支持杆7を含む支持構造によって支柱3に支持される3つのロータ機構5について、相互の位置関係を確実に保持することができる。これにより、3つのロータ機構5の相対的な位置関係の変動を防止することができ、各ロータ機構5間に設けられた風車間隙間10の寸法を一定の大きさに保持することが可能となる。
【0075】
なお、風車間支持構造の構成は、本実施形態の構成に限定されるものではない。風車間支持構造の構成としては、支柱3に支持された3つのロータ機構5の相対的な位置関係を保持することができ、十分な耐風安定性が得られるような構造であれば、適宜の構成が採用される。
【0076】
以上のように、本実施形態に係る風力発電装置1は、ロータとしての羽根車30の周囲に集風体としての風胴体20を備えたレンズ風車(0040段落で定義したものをレンズ風車と呼ぶ)を基本ユニットとするマルチロータシステムとして研究開発されたものである。マルチロータとは、基本ユニットの風車を垂直面内にタワー構造で支持し、一つの集合システムで大きな出力を得るものである。
【0077】
本実施形態の風力発電装置1によれば、通常の風車に比べて大幅な軽量化が図れ、コストの低減、メンテナンス性の向上、及び設備利用率の向上を図ることができるとともに、複数のロータによる相乗的な作用を得ることが可能であり、効率的な大出力化を図ることができる。以下、このような効果について詳細に説明する。
【0078】
まず、マルチロータシステムを採用することにより、理論的には、通常の同定格の単体風車(以下「通常風車」という。)に比べ、重量は1/√nになる。詳細には次のとおりである。
【0079】
通常風車とマルチロータシステムとを想定し、直径をそれぞれD、dとすると、両者の面積を互いに同じ面積とした場合、次式(1)が成り立つ。
D
2=nd
2 ・・・(1)
ここで、nは風車の数である。
【0080】
また、通常風車及びマルチロータシステムの風車それぞれの質量をM、mとした場合、次式(2)、(3)が成り立つ。
M=kD
3 ・・・(2)
m=kd
3 ・・・(3)
ここで、kは比例定数である。
【0081】
上記式(1)〜(3)より、マルチロータシステムのn個の風車と通常風車の質量比をRとすると、次式(4)が導かれる。
R=nm/N=1/√n ・・・(4)
【0082】
以上より、本実施形態のように3つのロータ機構5を備える構成を採用することで、通常風車に比べ、重量を1/√3に軽減することができ、風車に関して大幅な軽量化を達成することができる。
【0083】
また、マルチロータシステムを採用することにより、通常風車に比べ、風車の軽量化に加え、風車の小型化を図れることから、基本ユニット、つまりロータ機構5の大量生産により、低コスト化を図ることが可能となる。すなわち、通常風車に比べて小型のロータ機構5は、大量生産に適しているため、風力発電装置1の1機当たりのコストを低減することができる。
【0084】
また、マルチロータシステムを採用することにより、通常風車に比べ、各基本ユニットが小型であることから、メンテナンスを容易に行うことができる。この点、特に洋上に設置された風力発電装置に関しては、本実施形態に係る風力発電装置1によれば、大型な通常風車との比較において、メンテナンス性を大幅に向上させることができる。
【0085】
また、マルチロータシステムを採用することにより、故障が生じた場合であっても、部分的な故障で収まることになるため、設備利用率の向上を図ることができる。すなわち、単体の風車を備えた構成によれば、その風車に故障が生じた場合、装置全体が運転停止状態となるが、本実施形態の風力発電装置1によれば、仮に複数のロータ機構5のうちのいずれかのロータ機構5が故障したとしても、それは部分的な故障であって装置全体が運転停止とはならないため、設備の継続的な稼働が可能であり、設備の利用率を向上させることができる。
【0086】
以上のようなマルチロータシステムによる効果に加え、本実施形態の風力発電装置1によれば、3つのロータ機構5による相乗効果を得ることができ、効率的な出力の向上を達成することが可能となる。すなわち、一般的な通常の単体風車を複数用いた従来のマルチロータシステムにおいては、複数組み上げられた風車によるシステム全体としての出力は、マルチロータシステムを構成する各風車の単独での出力の合計と同じとなるか、あるいはわずか増加(1−3%)となる。つまり、3台の風車を備えるマルチロータシステムの場合、そのシステム全体としての出力は、単に各風車の出力の3台分の合計の出力と同等かわずかな増加となる。さらに、従来のダクト付の風車を集合配置させた構成によれば、風の進路に対してダクトが壁のような存在として作用し、システム全体としての出力は、各風車の出力の合計の出力よりも小さくなると考えられる。これに対し、本実施形態の風力発電装置1によれば、装置全体の出力として、3台の各ロータ機構5の出力の合計を上回る出力を得ることができる。このことは、次のようなメカニズムに基づく。
【0087】
本実施形態のロータ機構5によれば、上述したように、風胴体20が集風体(風レンズ)として機能し、風胴体20による風の集中作用によって羽根車30を介してロータ機構5を通過する風の速度が増加する。すなわち、ロータ機構5においては、風胴体20の下流側において、渦形成による安定した低圧領域が形成され、これにより風が引き込まれ、風胴体20の内部流れの速度が増加する(
図6参照)。
【0088】
このように内部流れの増速作用が得られるロータ機構5を、上述したように互いの間に所定の風車間隙間10を介して垂直面内に集合配置させることにより、3つのロータ機構5の風胴体20間のギャップを通過する風の流れが加速し、風胴体20の下流側に形成される渦が強められる。これにより、風胴体20の下流側に形成される低圧領域の圧力、特にブレード32の下流側の圧力がより低圧化し、風の引込み作用が強められ、風胴体20の下流側に対してより多くの風の流れが呼び込まれる。
【0089】
以上のような流体力学的原理により、単体でも従来の風車と比べて高い出力効率が得られるレンズ風車としてのロータ機構5が、集合風車として、互いの間に風車間隙間10を介して近傍に複数配置されることにより、レンズ風車としての高効率なメカニズムの根本原理、即ち集風リングとしての風胴体20による渦形成により下流側を低圧化し流れを引き込むという作用が、マルチロータ化によって相互作用して活かされ、相乗的な効果を発揮する。つまり、本実施形態の風力発電装置1によれば、レンズ風車としてのロータ機構5の高効率性をより効果的に用いることができ、相乗効果を得ることができる。これにより、風力発電装置1のシステム全体としての高出力化を図ることができ、効率的な発電を行うことができる。このように、本実施形態の風力発電装置1は、ロータ機構5における風胴体20の外の空気の流れに着目し、渦で低圧領域を形成するといった思想に基づき、複数のロータ機構5の間に風車間隙間10を設けることで、出力の向上を図ったものである。
【0090】
風力発電装置1による相乗的な効果については、数値的には、本実施形態の風力発電装置1のように3つのロータ機構5を、風車間隙間10を介して正三角形状に配置した構成によるシステム全体の出力は、3つの各ロータ機構5の単独での出力の合計に対して10%程度増加するという実験結果が得られている。かかる実験結果について、
図7及び
図8を用いて説明する。
【0091】
本実験は、独立した3台のロータ機構5A,5B,5Cの出力の合計の測定値を基準として、風車間隙間10の寸法の大きさを変化させた場合の風力発電装置1の全体出力の変化を測定したものである。
図8に示すグラフは、所定の大きさの3つのロータ機構5A,5B,5Cが、本実施形態の風力発電装置1のように同一の垂直面内において正三角形状に沿うように、つまりロータ中心位置同士を結ぶ直線が正三角形状となるように、風車間隙間10を介して集合配置された構成(以下「集合配置構成」という。)による全体の出力(Total Power Output of 3 WLT(Wind Lens turbines) in multi rotor arrangement)を示す。
【0092】
図8に示すグラフにおいて、横軸は、風車間隙間10の寸法をs、風胴体20の最大外径部分である鍔部22の直径をDとした場合のs/D(Space between brims of turbines s/D[-] (D=brim diameter))である。つまり、横軸は、風胴体20の最大外径寸法D2に対する風車間隙間10の寸法sの比率(以下「隙間寸法比率」という。)である。また、縦軸は、出力(Power Output [Watt])である。なお、本実験では、
図7に示すように、3つのロータ機構5の正面視において、上段のロータ機構5Cのみ右回り回転(時計方向回転)とし、下段の2つのロータ機構5A,5Bは左回り回転(反時計方向回転)とした。
【0093】
図8に示すグラフにおいて、菱形形状で示す点(P1〜P11)は、3つのロータ機構5A,5B,5Cによる集合配置構成の出力の測定値を示す。この測定値についての測定誤差は約±2%であると推測される。また、
図8に示すグラフにおいて、破線で示す直線L1は、上記のとおり基準となる測定値であって、独立した(Stand alone)3台のロータ機構5A,5B,5Cの出力の合計の測定値(以下「独立合計測定値」という。)を示す。本実験では、独立合計測定値は、約1.21[Watt]である。
【0094】
図8に示すように、本実験による集合配置構成の出力の測定値に関し、隙間寸法比率s/Dが0の場合における測定値(点P2参照)は、約1.08[Watt]であり、この測定値は、直線L1で示す独立合計測定値に対して約−11%の値である。この場合、風車間隙間10の寸法は0であり、隣り合うロータ機構5は、鍔部22同士を直接接触させた状態である。このように、風車間隙間10の寸法が0の場合、集合配置構成の出力は独立風車の出力の合計よりも低下することが観察できた。
【0095】
また、隙間寸法比率s/Dが0.04の場合における測定値(点P3参照)は、直線L1で示す独立合計測定値と略同じ値である。これに対して風車間隙間10の寸法が大きく、隙間寸法比率s/Dが0.15の場合、測定値(点P5参照)は、約1.28[Watt]である。この測定値は、直線L1で示す独立合計測定値に対する増加率が+6%の値である。さらに風車間隙間10の寸法が大きく、隙間寸法比率s/Dが0.58の場合、測定値(点P9参照)は、約1.32[Watt]である。この測定値は、直線L1で示す独立合計測定値に対する増加率が+9%の値である。
【0096】
またさらに風車間隙間10の寸法が大きく、隙間寸法比率s/Dが0.77の場合、測定値(点P10参照)は、約1.28[Watt]である。この測定値は、直線L1で示す独立合計測定値に対する増加率が+6%の値である。そして、隙間寸法比率s/Dが1の場合、測定値(点P11参照)は、約1.26[Watt]である。この測定値は、直線L1で示す独立合計測定値に対する増加率が+4%の値である。
【0097】
以上のような測定結果から、ロータ機構5の集合配置構成において風車間隙間10を設けることにより、集合配置構成の出力は、独立風車の出力の合計に対して向上することがわかる。特に、本実験では、集合配置構成の出力の独立風車の出力の合計に対する増加率について、隙間寸法比率s/Dの値が0.5から0.6までの範囲内にピークが存在することがわかる。一方で、隙間寸法比率s/Dの値が0の場合、つまり風車間隙間10が存在しない場合は、集合配置構成の出力は独立風車の出力の合計に対して減少している。
【0098】
これらの結果は、ロータ機構5間に存在する風車間隙間10が集合配置構成の出力の向上に寄与することを示している。すなわち、本実験により、風車間隙間10が存在しない状態では、上述したように各ロータ機構5において得られる内部流れの増速作用が相殺されて集合配置構成の出力が独立風車の出力の合計に対して減少し、かかる状態から風車間隙間10の寸法が大きくなるにつれて内部流れの増速作用が相乗的に作用して集合配置構成の出力が独立風車の出力の合計に対して増加し、風車間隙間10がある程度の大きさを越えると、その相乗的な作用が徐々に低下することがわかる。したがって、本実験において集合配置構成の出力についての増加率が+4%となっている、隙間寸法比率s/Dが1の場合から、風車間隙間10の寸法が大きくなるにつれ、集合配置構成の出力についての増加率は徐々に低下し、最終的には集合配置構成の出力の値は直線L1で示す独立合計測定値に収束していくと考えられる。
【0099】
以上のように、本実験により、レンズ風車としてのロータ機構5を、風車間隙間10を介して集合配置させてマルチロータ化することで、その全体出力が独立したロータ機構5の出力の合計よりも5〜10%程度増加することが実証された。
【0100】
上述のような実験結果を踏まえ、本実施形態に係る風力発電装置1においては、ロータ機構5間における風車間隙間10の寸法としては、風胴体20の最大外径寸法D2の2倍よりも小さい寸法が採用される。
【0101】
特に、風車間隙間10の寸法は、風胴体20の最大外径寸法D2の0.05〜1.5倍の寸法であることが好ましい。風車間隙間10の寸法が風胴体20の最大外径寸法D2の0.05倍の寸法よりも小さくなると、各ロータ機構5による内部流れの増速作用の相乗的な作用がほとんど得られず、ロータ機構5の集合配置による出力増加の効果を得ることが困難となる。一方、風車間隙間10の寸法が風胴体20の最大外径寸法D2の1.5倍の寸法よりも大きくなると、ロータ機構5が独立した状態に近くなるため、各ロータ機構5による内部流れの増速作用の相乗的な作用がほとんど得られず、ロータ機構5の集合配置による出力増加の効果を得ることが困難となる。
【0102】
さらに、風車間隙間10の寸法に関しては、上述した実験結果によれば、風車間隙間10の寸法は、風胴体20の最大外径寸法D2の0.4〜0.7倍の寸法であることが好ましく、より好ましくは、風車間隙間10の寸法は、風胴体20の最大外径寸法D2の0.5〜0.6倍の寸法である。ただし、風車間隙間10の寸法は、最大外径寸法D2との関係のほか、例えば、鍔部22の高さ(幅)、本体部21の最大・最小外径の寸法、風胴体20の流れ方向長さ(21の流れ方向長さ)や最小内径寸法D1等との関係や、これらのうちの2つ以上の組合せとの関係等に基づいて適宜設定される。
【0103】
また、本実施形態に係る風力発電装置1においては、風胴体20は、流出口20bの周囲に、渦を形成するための環状の平板部である鍔部22を有する構成を採用する。かかる構成によれば、上述したように3つのロータ機構5の相対的な位置関係を保持するための風車間支持構造を設けるに際し、鍔部22を利用することができるので、比較的容易に風車間支持構造を設けることができる。すなわち、鍔部22は、ロータ軸方向に対して垂直な平面に沿う平板状の部分であるため、隣り合うロータ機構5間において、支持部材40等といった風車間支持構造の構成部材を設けるに際し、この支持部材を支持する部分として好適に用いられる。
【0104】
このように、本実施形態の風力発電装置1によれば、羽根車30の周囲を囲みロータ機構5の外装部分を構成する風胴体20が鍔部22を有することから、鍔部22を支持部材の固定部分として利用して風胴体20同士を所定の配置関係で接続・連結しやすくなる。これにより、複数のロータ機構5を集合配置させる際、隣り合うロータ機構5間の接続構成を容易に設けることができ、同接続構成について、比較的簡単に構造強度を保ちながら風車構造系として設計・製造することが可能となる。
【0105】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について、
図9及び
図10を用いて説明する。なお、第1実施形態と共通する内容については共通の符号を用いて適宜説明を省略する。本実施形態に係る風力発電装置51は、第1実施形態の風力発電装置1に対して、所定の垂直面内に二等辺三角形(前述の通り、
図9及び
図10では、二等辺三角形の一例として正三角形)状に配置された3つのロータ機構5を備える点で共通し、これら3つのロータ機構5を支持する構造系の点で異なる。
【0106】
図9及び
図10に示すように、本実施形態に係る風力発電装置51において、ロータ機構5は、地表面上に設けられた支持台等により構成される所定の設置面上に立設された支柱構造機構により支持される。支柱構造機構は、3つのロータ機構5の風上側に設けられ、設置面上に固定される土台部60と、土台部60に対して上下方向(鉛直方向)を回転軸方向として回転可能(旋回可能)に支持され3つのロータ機構5を所定の配置で支持する旋回支持部70とを有する。
【0107】
土台部60は、円板状の基部61と、基部61の上面の中央部に突設され、下側から上側にかけてテーパ状に縮径する円錐台形状を有する支持突部62とを有する。支持突部62の上側に、旋回支持部70が回転可能に支持される。旋回支持部70は、支持突部62に対して所定の旋回機構を介して設けられている。つまり、旋回支持部70の基部70aと、支持突部62との間には、旋回支持部70を土台部60に対して旋回可能に支持する旋回機構が設けられている。
【0108】
旋回支持部70は、基部70aの上端部から上方に向けて延設される縦支持部71と、縦支持部71に対して長手方向の中央部に交差して水平方向に延設され縦支持部71とともに十字状をなす横支持部72と、一対の上斜め支持部73と、一対の下斜め支持部74とを有する。これらの各支持部は、いずれも直線状の部分であり、3つのロータ機構5が位置する垂直面に対して平行な平面において、一対の上斜め支持部73及び一対の下斜め支持部74は、対角線を上下方向・左右方向に沿わせる菱形形状をなし、かかる菱形形状に対して、縦支持部71及び横支持部72が対角線状に配される。
【0109】
縦支持部71の上端部は、上段のロータ機構5Cを構成する羽根車30の回転軸部31に接続される。また、横支持部72の左右両端部は、それぞれ下段のロータ機構5A,5Bの回転軸部31に接続される。また、一対の上斜め支持部73のうちの一方の上斜め支持部73は、その上端部を上段のロータ機構5Cの回転軸部31に接続させるとともに、下端部を下段の一方のロータ機構5Aの回転軸部31に接続させ、他方の上斜め支持部73は、その上端部を上段のロータ機構5Cの回転軸部31に接続させるとともに、下端部を下段の他方のロータ機構5Bの回転軸部31に接続させる。また、一対の下斜め支持部74のうちの一方の下斜め支持部74は、その上端部を下段の一方のロータ機構5Aの回転軸部31に接続させるとともに、下端部を縦支持部71の下方に位置する基部70aに接続させ、他方の下斜め支持部74は、その上端部を下段の他方のロータ機構5Bの回転軸部31に接続させるとともに、下端部を基部70aに接続させる。
【0110】
また、旋回支持部70を構成する支持部は、いずれも、その一部をロータ機構5の上流側に位置させることから、ロータ機構5に対する風の流れに応じて、横断面形状が流線形形状となるような形状を有する。
【0111】
具体的には、3つのロータ機構5の配置に対して左右中央の位置にて上下方向に配される縦支持部71は、その上端部を、上段のロータ機構5Cの上流側に位置させる。このため、縦支持部71の上半部71aは、その横断面形状が流線形形状となるような形状を有する。詳細には、縦支持部71の上半部71aは、横断面形状の長手方向がロータ軸方向(前後方向)となり、左右方向を板厚方向とするような略板状の形状を有する。これに対し、縦支持部71の下半部71bは、横断面形状が円形状となる円柱形状を有し、その後面側に、左右方向を板厚方向とする板状の部分であるリブ部71cが、縦支持部71の長手方向に沿って設けられている。
【0112】
また、水平方向に配される横支持部72は、その両端部を、下段の左右のロータ機構5A,5Bの上流側に位置させる。このため、横支持部72は、全体的に、縦支持部71の上半部71aと同様に、横断面形状が流線形形状となるような形状を有する。詳細には、横支持部72は、ロータ軸方向を長手方向とする横断面形状を有し、上下方向を板厚方向とするような略板状の形状を有する。
【0113】
また、一対の上斜め支持部73は、その上部を、上段のロータ機構5Cの上流側に位置させるとともに、下部を、下段のロータ機構5Aまたはロータ機構5Bの上流側に位置させる。このため、上斜め支持部73は、全体的に、横断面形状が流線形形状となるような形状を有する。詳細には、上斜め支持部73は、横支持部72等と同様に、横断面形状がロータ機構5に対する風の流れに応じた流線形形状となるような形状を有する。また、一対の下斜め支持部74は、その下部を、下段のロータ機構5Aまたはロータ機構5Bの上流側に位置させる。このため、下斜め支持部74は、上斜め支持部73と同様に、全体的に、横断面形状が流線形形状となるような形状を有する。
【0114】
また、旋回支持部70においては、縦支持部71と横支持部72の交差部分から前側に向けて棒状の中央支持杆75が突設されている。中央支持杆75は、後方から前方にかけて徐々に縮径するように略縦長円錐形状を有する。そして、中央支持杆75の先端部からは、一対の上斜め支持部73及び一対の下斜め支持部74がなす菱形形状の頂点部に向けて、4本のワイヤ状(細線状)の支持線部76が配設されている。各支持線部76は、その一端側を中央支持杆75の先端部に接続させ、他端側を各ロータ機構5の回転軸部31あるいは基部70aに接続させる。4本の支持線部76は、一対の上斜め支持部73及び一対の下斜め支持部74とともに略四角錐形状をなす。
【0115】
また、本実施形態の風力発電装置51が備える支柱構造機構では、各ロータ機構5において、羽根車30の回転軸部31と風胴体20とを繋ぐ支持アーム66及び支持線部67が設けられている。支持アーム66及び支持線部67は、いずれもロータ軸方向視で風胴体20の径方向に沿うように配された直線状の支持杆部である。
【0116】
支持アーム66は、風胴体20の前側において、回転軸部31から延出され、先端側を風胴体20の流入口20a側の開口縁端部に接続させた状態で、回転軸部31と風胴体20との間に架設されている。本実施形態では、支持アーム66の先端側は、位相制御板部23の前端部に接続されている。支持アーム66は、旋回支持部70を構成する支持部と同様に、全体的に、横断面形状が流線形形状となるような形状を有する。
【0117】
支持線部67は、回転軸部31において、支持アーム66よりも前側から延出され、先端側を支持アーム66の先端部に接続させた状態で設けられている。支持線部67は、ワイヤ状(細線状)の部分である。
【0118】
支持アーム66及び支持線部67は、各ロータ機構5において、その中心部分に設けられる回転軸部31に対して、旋回支持部70が設けられた側と反対側に配設されている。具体的には、上段のロータ機構5Cにおいては、支持アーム66及び支持線部67は、回転軸部31に対して上側に設けられている。本実施形態では、上段のロータ機構5Cにおいて、支持アーム66及び支持線部67は、それぞれ4本、風胴体20の周方向について略等間隔(略等角度間隔)で設けられている。また、下段の左右のロータ機構5A,5Bにおいては、支持アーム66及び支持線部67は、回転軸部31に対して左右の外側に設けられている。本実施形態では、下段のロータ機構5A,5Bのそれぞれにおいて、支持アーム66及び支持線部67は、それぞれ3本、風胴体20の周方向について略等間隔(略等角度間隔)で設けられている。
【0119】
本実施形態の風力発電装置51は、3つのロータ機構5の支持構造系の一例を示すものである。すなわち、本実施形態に係る風力発電装置51によっても、第1実施形態の風力発電装置1と同様に、風車間隙間10を隔てる3つのロータ機構5の集合配置による出力の増加効果が得られる。そして、本実施形態の風力発電装置51の3つのロータ機構5の支持構造系については、各部の流線形形状によって各ロータ機構5の内外における風の流れを妨げることなく、各ロータ機構5による内部流れの増速作用及びこれらの相乗的な作用を得ながら、3つのロータ機構5の配置関係を堅牢に保持する良好な支持構成が得られる。
【0120】
また、本実施形態に係るロータ機構5の支持構造系によれば、土台部60に対して回転可能な状態で3つのロータ機構5を支持する旋回支持部70により、3つのロータ機構5の向きを全体的に変化させることが可能となる。したがって、例えば、3つのロータ機構5を、風の流れに対応して、風胴体20の流入口20a側が常に風上側を向くように回転させることが可能となる。かかる構成を採用することで、3つのロータ機構5の向きを、最大出力が得られる向きへと自動的に調整することができる。なお、3つのロータ機構5の向きを変えるための回転(旋回)の機構に関しては、風の流れの微小な変動に過度に追従しないように、回転を機械的に抑制するための機構を設けたり、制御装置16によって過度な追従を抑制する制御を行ったりすることができる。
【0121】
以上、各実施形態により説明した本発明に係る風力発電装置は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。
【0122】
例えば、上述した実施形態では、風胴体20は、全体として、径方向の寸法がロータ軸方向の寸法よりも長くなるような形態を有するが、これに限定されるものではない。すなわち、風胴体20としては、例えば、
図11(a)に示すように、本体部21の径方向の寸法B1がロータ軸方向の寸法B2よりも短くなるような形態を有するものであったり、
図11(b)に示すように、本体部21の径方向の寸法B1とロータ軸方向の寸法B2とが同程度となるような形態を有するものであったり、あるいは
図5のようにB2をB1よりもかなり小さくしてもよい。
【0123】
また、風胴体20が有する鍔部22の高さについても、風胴体20の径方向の寸法やロータ軸方向の寸法にかかわらず、特に限定されるものではない。したがって、例えば、鍔部22の高さは、風胴体20の半径と同程度の大きさであったり、風胴体20の半径よりも大きかったりしてもよい。
【0124】
また、集合風車の基本ユニットであるロータ機構5としては、上述したように大量生産によるコストの低減を図るためには、構成の共通化を図ることが好ましいが、風力発電装置としては、例えば、風胴体20や羽根車30の寸法等が互いに異なる複数種類の大小様々なロータ機構5を集合配置させた構成であってもよい。
【0125】
また、風力発電装置1が備える複数のロータ機構5の回転方向については、全てのロータ機構5の回転方向を統一させた構成と、上述した実験のように一部のロータ機構5の回転方向を他のロータ機構5の回転方向と異ならせた構成が考えられる。例えば、水力発電装置において複数のロータ機構5が水中に設置されている場合、ジャイロ効果等の影響を考慮し、互いに隣り合うロータ機構5の回転方向を互いに逆方向とする構成や、左右対称あるいは上下対称となるように偶数個のロータ機構5を配設するとともに、対称の中心から左右あるいは上下のそれぞれに位置するロータ機構5の回転方向を互いに逆方向とする構成等が適宜採用される。
【0126】
また、マルチロータとして集合配置されるロータ機構5の個数も、上述した実施形態のような3個の場合に限定されるものではない。5個のロータ機構5が集合配置される場合は、例えば、
図12(a)に示すように、5個のロータ機構5は、所定の垂直面内において、上段に横並びに3個、これらの横並びの各ロータ機構5の間の直下に位置するように、下段に横並びに2個のような態様で配置される。このような配置態様において、隣り合うロータ機構5間には、所定の大きさの風車間隙間10が設けられる。なお、このような5個のロータ機構5を、隙間寸法比率s/Dの値が0.1の条件下で集合配置させてマルチロータ化することで、その全体出力が独立したロータ機構5の出力の合計よりも12%程度増加することが実験により実証された。
【0127】
また、7個のロータ機構5が集合配置される場合は、例えば、
図12(b)に示すように、7個のロータ機構5は、
図12(a)に示す5個の配置に加え、横並びの3個のロータ機構5の上方に、下段の横並びの2個のロータ機構5と上下方向に対称的に横並びに2個のロータ機構5が配置される。なお、このような7個のロータ機構5を、隙間寸法比率s/Dの値が0.1の条件下で集合配置させてマルチロータ化することで、その全体出力が独立したロータ機構5の出力の合計よりも14%程度増加することが実験により実証された。
【0128】
さらに、9個のロータ機構5が集合配置される場合は、例えば、
図13(a)に示すように、9個のロータ機構5は、
図12(b)に示す7個の配置に加え、上段の2個のロータ機構5の左右両側に左右方向に対称的にそれぞれ1個のロータ機構5が配置される。また、14個のロータ機構5が集合配置される場合は、例えば、
図13(b)に示すように、14個のロータ機構5は、
図13(a)に示す9個の配置に加え、横並びの4個のロータ機構5の上方に、左右方向に対称的に横並びに5個のロータ機構5が配置される。
【0129】
図12(a)、
図12(b)、
図12(c)、
図12(d)に示す5個、7個、9個、14個のロータ機構5の集合配置の態様は、上述した実施形態のような正三角形状に対応する3個のロータ機構5の配置態様の組合せということができる。すなわち、これらの集合配置の態様は、複数のロータ機構5が、ロータ軸方向視で、羽根車30の回転軸の位置(ロータ中心位置)を正三角形の頂点に位置させる配置を最小単位として配置された態様である。かかる配置態様は、隣り合う正三角形状の配置で2個のロータ機構5を共有した配置態様と言える。
【0130】
さらに、ロータ機構5の集合配置の態様としては、
図14(a)に示すように、4個のロータ機構5が四角形(
図14(a)では、四角形の一例として正方形)状に対応するように配置された態様や、
図14(b)に示すように、5個のロータ機構5が五角形(
図14(b)では、五角形の一例として正五角形)状に対応するように配置された態様や、
図14(c)に示すように、6個のロータ機構5が六角形(
図14(c)では、六角形の一例として正六角形)状に対応するように配置された態様等が挙げられる。
【0131】
以上のように例示したロータ機構5の配置態様に関し、上述した実施形態及び
図14(a)、(b)、(c)に示すような配置態様は、複数のロータ機構5が、ロータ軸方向視で、各ロータ機構5のロータ中心位置を所定の円周上にてこの円周の周方向に等間隔に位置させた配置態様であると言える。また、
図12(b)に示すような配置態様は、上述のような所定の円周上における等間隔の配置に加え、ロータ中心位置を所定の円周の中心に一致させた配置態様であると言える。さらに、複数のロータ機構5の配置態様としては、例えば、上述した各配置態様とは上下反対の倒立した配置や、縦方向(上下方向)または横方向(左右方向)に一列または複数列に並べた配置等であってもよく、また、集合配置されるロータ機構5の個数は、数十個等であってもよい。以上のように、ロータ機構5の集合配置の態様としては、様々な態様が考えられる。
【0132】
なお、本実施形態において3個のロータ機構5が集合配置される場合は、
図15に示すように、上段の1個のロータ機構5(5C)と下段の2個のロータ機構5(5A、5B)とが角度θ(60°≦θ≦180°)を有する二等辺三角形として配置されるものとする。上段のロータ機構5Cと下段のロータ機構5A、5Bとの間には、それぞれ前記の風車間隙間10が設けられるものとする。一方、下段の2個のロータ機構5A、5Bの間には、風車間隙間10L(風車間隙間10Lの長さ≧風車間隙間10の長さ)が設けられる。
【0133】
すなわち、前述の
図1、
図2、
図7、
図9及び
図10に示す配置態様は、
図15において角度θ=60度且つ風車間隙間10L=風車間隙間10である場合の配置態様を示している。また、特に角度θ=180°の場合には、3個のロータ機構5は並列配置される。そして、このような配置構成では、角度θの値が大きい程システム全体としての出力が大きくなるという実験結果が得られている。かかる実験結果について、
図16を用いて説明する。
【0134】
本実験は、独立した3台のロータ機構5A、5B、5Cの出力の合計の測定値を基準として、角度θが90°、180°の場合の各々における風力発電装置1の全体出力の変化を測定したものである。
図16に示すグラフは、所定の大きさの3つのロータ機構5A、5B、5Cが、同一の垂直面内において角度θが90°又は180°となるように風車間隙間10を介して集合配置された構成(以下「集合配置構成」という。)による全体出力を示す。
【0135】
図16に示すグラフにおいて、横軸は、風車間隙間10の寸法をs、風胴体20の最大外径部分である鍔部22の直径をDとした場合のs/D(Space between brims of turbines s/D[-] (D=brim diameter))である。つまり、横軸は、風胴体20の最大外径寸法D2に対する風車間隙間10の寸法sの比率(以下「隙間寸法比率」という。)である。また、縦軸は、出力(Power Output [Watt])である。なお、本実験では、
図15に示す3つのロータ機構5の正面視において、上段のロータ機構5Cのみ右回り回転(時計方向回転)とし、下段の2つのロータ機構5A,5Bは左回り回転(反時計方向回転)とした。
【0136】
図16に示すグラフにおいて、点R1〜R14は角度θが90°の場合、点S1〜S11は角度θが180°の場合の3つのロータ機構5A、5B、5C(鍔部22の高さが風胴体20の最大外径寸法D2の7.5%)による集合配置構成の出力の測定値を示している。この測定値についての測定誤差は約±2%であると推測される。また、
図16に示すグラフにおいて、破線で示す直線L2は、上記のとおり基準となる測定値であって、独立した(Stand alone)3台のロータ機構5A,5B,5Cの出力の合計の測定値(以下「独立合計測定値」という。)を示す。
【0137】
図16から分かるように、角度θが90°、180°の順に角度θの値が大きくなる程、集合配置構成による全体出力の増加が大きくなっている。例えば、隙間寸法比率s/Dが0.15の場合、全体出力の増加率は、角度θが90°の場合には+約6〜7%、角度θが180°の場合には+約8〜10%の増加率である。
【0138】
以上のような測定結果から、3つのロータ機構5の集合配置構成において、集合配置構成の出力は、角度θの値が大きくなる程、独立風車の出力の合計に対して向上することがわかる。特に、本実験では、集合配置構成の出力の独立風車の出力の合計に対する増加率について、角度θが60°の場合は、隙間寸法比率s/Dの値が0のときに集合配置構成の出力は独立風車の出力の合計に対して減少しているのに対し、角度θが90°、180°の場合には、集合配置構成の出力は独立風車の出力の合計に対して増加しているという顕著な特徴が示された。
【0139】
このような角度θの値と集合配置構成の出力との関係の理由について、以下考察を行う。
【0140】
すなわち、角度θが90°、180°の場合(60°より大きい場合)であって隙間寸法比率s/Dの値が小さい場合、各ロータ機構5による内部流れの増速作用の相乗的な作用(本明細書においては「干渉作用」ともいう。)に加え、3つのロータ機構5の全体が側面視横長一体の2次元的な物体形状に近づくことによる2次元的な渦放出に起因して、出力が増加したと考えられる。
【0141】
一方、角度θが60°の場合であって隙間寸法比率s/Dの値が低い場合には、3個のロータ機構5の間、すなわち3個のロータ機構5の真ん中に形成される隙間を、流体が流れにくくなることに起因して、出力が減少したと考えられる。
【0142】
以上のように、角度θの値が大きくなる程、3つの各ロータ機構5による内部流れの干渉作用よりも、隣り合わせの2つのロータ機構5(5Aと5C、又は、5Aと5B)のそれぞれにおける内部流れの干渉作用が強まり、流体が通りにくい隙間が存在しなくなるために、出力が増加するものと考えられる。そのため、本実施形態において3個のロータ機構5が集合配置される場合、正三角形を除く二等辺三角形状の配置態様であって、できるだけ並列配置に近い(上記の角度θの値が大きい)形状とすることが望ましい。これにより、風車間隙間10が小さい場合であっても、安定して集合配置構成の出力を向上させることができる。
【0143】
なお、本実験では、集合配置構成の出力の独立風車の出力の合計に対する増加率について、角度θが90°の場合には、隙間寸法比率s/Dの値が0.1〜0.25までの範囲内にピークが存在することがわかる。一方、角度θが180°の場合には、隙間寸法比率s/Dの値が0.3〜0.5までの範囲内にピークが存在することが分かる。
【0144】
また、
図16では、鍔部22の高さが風胴体20の最大外径寸法D1の7.5%である場合を例示しているが、鍔部22の高さが風胴体20の最大外径寸法D2の3%である場合よりも全体的に出力が向上したという別の実験結果も得られた。そのため、鍔部22の高さを大きくすることで、上記の干渉作用が強まり、集合配置構成の出力を高くすることができるともいえる。
【0145】
以上、
図16で3つのロータ機構5の集合配置態様とその集合配置構成の出力との関係について説明してきた。当該考察によれば、4つ以上のロータ機構5を集合配置させる場合の配置態様も同様に、流体が通りにくい隙間ができる限り存在しないように構成することで、風車間隙間10が小さい場合であっても、安定して集合配置構成の出力を向上させることも可能であるといえる。
【0146】
なお、
図12(a)、
図12(b)、
図12(c)、
図12(d)に示す5個、7個、9個、14個のロータ機構5の集合配置の態様を、
図15に係る二等辺三角形状に対応する3個のロータ機構5の配置態様の組合せにしても良い。この場合、これらの集合配置の態様は、複数のロータ機構5が、ロータ軸方向視で、羽根車30の回転軸の位置(ロータ中心位置)を二等辺三角形の頂点に位置させる配置を最小単位として配置された態様になる。かかる配置態様は、隣り合う二等辺三角形状の配置で2個のロータ機構5を共有した配置態様と言える。
【0147】
また特に、複数のロータ機構5が、ロータ軸方向視で、羽根車30の回転軸の位置を、正三角形を除く二等辺三角形の頂点に位置させる配置を最小単位として配置された態様とすることで、風車間隙間10が小さい場合であっても、安定して集合配置構成の出力を向上させることが可能となる。
【0148】
更に、複数のロータ機構5の配置態様としては、例えば、上述した各配置態様とは上下反対の倒立した配置等であってもよく、また、集合配置されるロータ機構5の個数は、数十個等であってもよい。以上のように、ロータ機構5の集合配置の態様としては、様々な態様が考えられる。
【0149】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態について、
図17を用いて説明する。なお、上述した各実施形態と共通する内容については共通の符号を用いて適宜説明を省略する。本実施形態に係る風力発電装置101は、所定の垂直面内に二等辺三角形(
図17では、二等辺三角形の一例としての正三角形)状に配置された3つのロータ機構5を全体的に囲繞するケーシング部材120を備える。
【0150】
ケーシング部材120は、基本的には、各ロータ機構5の風胴体20と同様の構成を有する。すなわち、ケーシング部材120は、全体として、筒軸方向の寸法が径方向の寸法よりも短い筒状の外形をなす環状の部材であり、筒状の外形におけるロータ軸方向の一方側の開口を風の流入口とし、ロータ軸方向の他方側の開口を風の流出口とする。
【0151】
また、ケーシング部材120は、その流出口の周囲に渦を形成することでケーシング部材120内を流れる風の内部流れの速度を増加させる形状を有する。ケーシング部材120は、風の流れ方向に対して非流線形の形状を有し、複数のロータ機構5の周囲を囲って内外流を分離させる。具体的には、ケーシング部材120は、筒状に構成された本体部121と、本体部121の流出口側の端部に設けられた鍔部122とを有する。
【0152】
本体部121は、風胴体20の本体部21と同様に、縦断面視で、中心軸側に凸となる湾曲面をなす筒状ないし環状の部分である。すなわち、ケーシング部材120の中心軸方向について、本体部121の風下側(流出口側)の過半部分は、風上側(流入口側)から風下側に向けて徐々に拡径する形状を有し、かかる部分はディフューザ部として機能する。つまり、ケーシング部材120の流路断面は、本体部121の風下側の過半部分において、流入口側から流出口側にかけて徐々に広がっている。なお、風上側から風下側にかけて徐々に拡径する本体部121の風下側の過半部分は、縦断面視において、曲線状をなす部分ではなく、直線状をなす部分、つまり円錐面状の部分であってもよい。
【0153】
一方、ケーシング部材120の本体部121の風上側の部分は、本体部121の風下側の過半部分とは逆に、風下側から風上側に向けて徐々に拡径する形状、つまり風上側から風下側に向けて徐々に縮径する形状を有する。これにより、ケーシング部材120の流路断面は、流入端から一旦絞られ、風速が加速される。ただし、風上側から風下側にかけて徐々に縮径する本体部121の風上側の部分は、上記の風下側の過半部分と同様に円錐面状の部分であってもよい。
【0154】
鍔部122は、風胴体20の鍔部22と同様に、ケーシング部材120の流出口の周囲に渦を形成するための部分である。すなわち、鍔部122は、本体部21の風下側の端部の周囲において、ケーシング部材120の中心軸方向に対して垂直な面に沿うように、流出口の全周にわたって設けられた環状の平板部である。したがって、鍔部122は、ケーシング部材120の縦断面視において、本体部121の風下側の縁端からケーシング部材120の中心軸方向に対して垂直な方向にケーシング部材120の径方向の外側に折れ曲がった直線状の部分となる。鍔部122の幅、つまり鍔部122の本体部121からの突出高さは、特に限定されるものではないが、例えば、ケーシング部材120の最小内径寸法の数%から50%の範囲内の寸法に設定される。
【0155】
このように、ケーシング部材120は、流出口の周囲に渦を形成するための渦生成部としての鍔部122を有する。ケーシング部材120は、風下側の端部に鍔部122を有することで、全体的な形状を非流線形形状とする。
【0156】
なお、本実施形態の風力発電装置101が備えるケーシング部材120は、複数のロータ機構5を全体的に囲繞する構成のものであれば、形状等は特に限定されず、例えば、ケーシング部材120内に位置する複数のロータ機構5の配置態様に応じて、三角柱状や四角柱状等の多角形状の部材であったり、楕円柱状の部材であったりしてもよい。また、ケーシング部材120内に位置するロータ機構5の数は、本実施形態では3つであるが、このロータ機構5の数及び配置態様についても特に限定されるものではない。
【0157】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態について、
図18を用いて説明する。なお、上述した各実施形態と共通する内容については共通の符号を用いて適宜説明を省略する。本実施形態に係る風力発電装置201は、所定の配置態様で設けられる複数のロータ機構5の各ロータ機構5において、風胴体20内に設けられる羽根車30が複数配置されている。
【0158】
図18に示す例では、所定の垂直面内に二等辺三角形(
図18では、二等辺三角形の一例としての正三角形)状に配置された各ロータ機構5の風胴体20内に、3つの羽根車30が配置されている。3つの羽根車30は、ロータ軸方向を共通の方向とするように配置されている。また、3つの羽根車30は、同一の垂直面内に配置されている。つまり、3つの羽根車30は、ロータ軸方向(前後方向)について同じ位置に設けられている。ただし、3つの羽根車30のロータ軸方向の位置については、同じ位置である場合に限らず、隣り合う羽根車30同士がロータ軸方向にずれた位置、つまり食い違い状の配置(staggered配置)で設けられてもよい。
【0159】
3つの羽根車30は、正三角形状に配置されている。すなわち、3つの羽根車30は、ロータ軸方向視において、その回転軸の位置が1つの辺を水平方向に沿わせた正三角形の頂点の位置に対応するような配置で設けられている。したがって、3つの羽根車30のうち、2つの羽根車30が、互いに同じ高さ位置に配設され、残り1つの羽根車30が、他の2つの羽根車30の間の上方の位置に設けられている。
【0160】
本実施形態のように、ロータ機構5において風胴体20内に設けられる発電用の羽根車30は、複数であってもよい。なお、各ロータ機構5において風胴体20内に複数の羽根車30が設けられる場合、羽根車30の数や配置態様は特に限定されるものではない。また、ロータ機構5において大きさが異なる複数種類の羽根車30が風胴体20内に設けられたり、風力発電装置201が備える複数のロータ機構5ごとに大きさ等が異なる羽根車30が設けられたりしてもよい。
【0161】
また、例えば、前述の第3実施形態とこの第4実施形態とを組み合わせることで、ケーシング部材120が、複数の羽根車30を全体的に囲繞する構成であっても良い。例えば、側面視で角丸長方形状のケーシング部材120が、並列配置の複数のロータ機構5を全体的に囲繞する構成である。
【0162】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態について、
図19〜
図21を用いて説明する。なお、上述した各実施形態と共通する内容については共通の符号を用いて適宜説明を省略する。本実施形態に係る風力発電装置52は、第1実施形態の風力発電装置1や第2実施形態の風力発電装置51と、ロータ機構500の構成が異なる(詳しくは、
図21参照)。また、3つのロータ機構500の配置が所定の垂直面内に二等辺三角形状である点で共通し、これら3つのロータ機構500を支持する構造系等が異なる。
【0163】
なお、この第5実施形態で説明する3つのロータ機構500の配置形態は、正三角形を除く二等辺三角形の形状であるものとし、前述の
図15において角度θの値が90°である場合に相当する。但し、正三角形状の配置である場合を本発明の技術的範囲から除くものではない。
【0164】
図19及び
図20に示すように、本実施形態に係る風力発電装置52において、3つのロータ機構500は、地表面等の設置面2上に鉛直上方向に立設された支持機構構造により支持される。支持機構構造は、3つのロータ機構500の風上側に設けられ、設置面2上に立設される支柱80と、支柱80の上面中央部に突設され、略円柱状形状の支持突部81とを有する。支持突部81の上側に、逆台形型の旋回支持部90が回転可能に支持される。旋回支持部90は、支持突部81に対して所定の旋回機構を介して設けられている。
【0165】
旋回支持部90には、鉛直上方に延設される上側風車支持アーム91、水平方向右側やや下向き方向に延設される右側風車支持アーム92と、水平方向左側やや下向き方向に延設される左側風車支持アーム93とを有する。旋回支持部90は、これら支持アームの支持基部である。これら各風車支持アーム91〜93は旋回支持部90に対して補強リブ91A〜91Cにより補強された状態で取り付けられている。また、本実施形態では、角度θの値が90°であるように各風車支持アーム91〜93が配設される。
【0166】
上側風車支持アーム91の上端部は、上段のロータ機構500Cを構成する羽根車100の固定軸部101に接続される。羽根車100の構成については
図21を用いて後述する。また、右側風車支持アーム92の右端部は、下段のロータ機構500Aの固定軸部101に接続される。さらに、右側風車支持アーム93の右端部は、下段のロータ機構500Bの固定軸部101に接続される。また、ロータ機構500Cの固定軸部101とロータ機構500Aの固定軸部101との間には、両者間を支持する支持部材94が配設されている。同様に、ロータ機構500Cの固定軸部101とロータ機構500Bの固定軸部101との間にも、両者間を支持する支持部材94が配設されている。
【0167】
また、各ロータ機構500において、羽根車100の固定軸部101と風胴体20とを繋ぐ支持アーム95及び支持線部96が設けられている。支持アーム95及び支持線部96は、いずれもロータ軸方向視で風胴体20の径方向に沿うように配された直線状の支持杆部である。
【0168】
支持アーム95は、風胴体20の前側において、固定軸部101から延出され、先端側を風胴体20の流入口20a側の開口縁端部に接続させた状態で、固定軸部101と風胴体20との間に架設されている。本実施形態では、支持アーム95の先端側は、位相制御板部23の前端部に接続されている。また、支持アーム95は、各ロータ機構500を支持する風車支持アーム91〜93の各々について、当該風車支持アーム91〜93の延長線方向及び当該延長線と垂直方向に合計3本架設される。
【0169】
支持線部96は、その一旦側が各ロータ機構500の固定軸部101に接続され、他端側が風胴体20の流入口20a側の開口縁端部のうち支持アーム95が取り付けられていない開口縁端部に接続されるワイヤ(細線)状の支持部材である。
【0170】
以上に示すように、この第5実施形態に係る風力発電装置52では、3つのロータ機構500の各々が、一箇所の旋回支持部90から延設される複数本(ここでは3本)の風車支持アーム91〜93によって支持される構成となっており、前述した
図1、
図2、
図9及び
図10に示す構成に比べて、極めて簡易な構成となっている。
【0171】
なお、この第5実施形態に係る風力発電装置52では、支持基部としての旋回支持部90が3つのロータ機構500の重心位置となるように、各風車支持アーム91〜93が延設され且つ3つのロータ機構500が設けられることが望ましい。旋回支持部90が3つのロータ機構500の重心位置であることにより、以下の作用を奏する。その作用とはすなわち、強風時等に、各ロータ機構500において風荷重(スラスト力)により発生するモーメントが、全体として相殺されることである。これにより、風力発電装置52全体としての安定性が優れたものとなる。
【0172】
また、前述の第1実施形態の風力発電装置1と同様に、3つのロータ機構500の集合配置による出力の増加効果が得られる。また、前述の第2実施形態の風力発電装置51と同様に、支持突部80に対して回転可能な状態で3つのロータ機構500を支持する旋回支持部90により、3つのロータ機構500の向きを全体的に変化させることが可能となる。したがって、例えば、3つのロータ機構500を、風の流れに対応して、風胴体20の流入口20a側が常に風上側を向くように回転させることが可能となる。かかる構成を採用することで、3つのロータ機構500の向きを、最大出力が得られる向きへと自動的に調整することができる。3つのロータ機構500の向きを変えるための回転(旋回)の機構に関しては、風の流れの微小な変動に過度に追従しないように、回転を機械的に抑制するための機構を設けたり、制御装置によって過度な追従を抑制する制御を行ったりすることができる。
【0173】
なお、ロータ機構500の数が4個以上の場合(例えば
図12、
図13、
図14に相当)には、各ロータ機構500は、旋回支持部90から4以上の方向に延びる支持アームによって各々支持されてもよい。この場合も、旋回支持部90が各ロータ機構500の重心位置であることが望ましい。
【0174】
続いて、本実施形態5に係るロータ機構500の構成について説明する。
【0175】
図21は、本発明の第5実施形態に係るロータ機構500の構成を示す縦断面図である。
図22に示すロータ機構500は、第1実施形態に係る羽根車30(
図5参照)の代わりに、羽根車100が設けられている点でロータ機構5と異なる。
【0176】
羽根車100は、風胴体20内において、固定軸部101の中心軸が風胴体20の中心軸に一致するように、風胴体20に対して同心配置される。
【0177】
固定軸部101は、例えば中空の肉厚鋼管によって形成され、ブレード102の回転軸方向を長手方向とする円筒状ないし紡錘形状の筐体であり、回転しない固定軸である。この固定軸部101は、その前側が風胴体20の流入口20aより外側に露出し、その後側が鍔部22より外側に露出している。この固定軸部101の内部には、ブレード102のピッチ機構104が配設される。この固定軸部101の外周には、アウタロータ発電機103が配設される。
【0178】
ブレード102は、固定軸部101上の流入口20a側寄りの位置において、固定軸部101の周面からアウタロータ発電機103を介して放射状に設けられた羽根部分である。このブレード102は、風胴体20の内周面20cに当該ブレード102の先端が触れないように、内周面20cに対して若干のクリアランスを保持した状態で回転するように設けられている。本実施形態では、固定軸部101の周方向に等間隔で3枚のブレード102が配置される。なお、ブレード102の枚数や各ブレード102の形状は、特に限定されるものではない。
【0179】
アウタロータ発電機103は、固定軸部101の外周上に配設され、固定軸に固定されたステータコイル(以下、単に「コイル」ともいう。)103aと、コイル103aを前後から覆うよう配置された磁石103bとが外殻103内には配置された発電機である。このアウタロータ発電部103では、ブレード102の回転に応じて磁石103bが外殻103cとともに固定軸部101の軸周りを回転することによって発電を行う。このアウタロータ発電部103はフライホイール(はずみ車)に相当する。なお、風車がストール時には内部発熱するが、外殻103cや固定軸部101からの放熱により放熱性を向上させることができる。
【0180】
ピッチ機構104は、固定軸部101内に配設され、ブレード102のピッチ角を制御するための機構である。第5実施形態に係るロータ機構500によれば、前述の各実施形態と異なり、主軸を中空の固定軸部101としている。そのため、当該固定軸部101の内部空間を利用して、強風時のフェイルセーフとしてピッチ角制御(例えば、ブレードのピッチ角をほぼゼロとすることで揚力を発生させず風を逃がす制御、いわゆるフェザーリング制御)を実現することができる。制御内容については既知の技術であるとして、ここでは説明を省略する。
【0181】
スポーク105は、羽根車100の固定軸部101と風胴体20とを繋ぐワイヤ(細線)状の支持部材である(
図19の支持線部96に相当)。このスポーク105は、風胴体20の前側において、固定軸部101の前端から延出され、先端側を風胴体20の流入口20a側の開口縁端部に接続させた状態で、固定軸部101と風胴体20との間に架設される。また、風胴体20の後側において、固定軸部101の後端から延出され、先端側を風胴体20の鍔部22の開口縁端部に接続させた状態で、固定軸部101と風胴体20との間に架設される。
【0182】
このスポーク105が少なくとも4箇所に配設されることにより、風胴体20を上下流側並びに鉛直上下方向から支持することができる。従って、ロータ機構500の強度、すなわち強風時等にロータ機構500に加わる風荷重に対する構造上の安定性を高めることができる。従来、レンズ風車としてのロータ機構は、重量が軽すぎると空力フラッタを起こし易いという構造上の課題があったが、このような課題を解決することができる。また、このようなスポーク105は安価であるため、低コストにもつながる。また、通常のマルチロータシステムを構成する各風車はダウンウインド型の風車であるが、上記のアウタロータ発電部103やスポーク105を配設することによって、アップウインド型の風車にすることも可能である。
【0183】
以上説明してきたように、第5実施形態に係るロータ機構500によれば、主軸が中空の固定軸部101であることにより、この固定軸部101の内部空間を利用し、ピッチ機構104を設けることができる。また、アウタロータ発電部103及びスポーク105がロータ機構500の集風体(風胴体20)を固定支持することにより、上記の構造上の課題を解決することができる。また、各ロータ機構500にヨー機構、ナセルやスリップリングの機構が不要になるため、全体の構成をシンプル化及び軽量化することができる。なお、
図19や
図20に示す風力発電装置52において、ロータ機構500の代わりに、前述のロータ機構(
図5参照)を設けても良い。
【0184】
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態について、
図22を用いて説明する。
図22は、本発明の第6実施形態に係る風力発電装置の構成概略を示す図である。なお、
図22では、前述の第2実施形態に係る風力発電装置51(
図10参照)に対応する風力発電装置200において、3つのロータ機構5の各々の羽根車201の回転軸部202において、ブレード203を駆動する駆動部210、制御部220を更に備えた構成を簡易的に示している。
図22の羽根車201、回転軸部202、ブレード203は、それぞれ
図10の羽根車30、回転軸部31、ブレード32に対応する。
【0185】
まず、この第6実施形態に係る前提について説明する。一般的に、小型風車のピッチ角は固定である。そのため、風速10m/s〜20m/s程度の強風時には、大きな空力トルクを生じ、ブレードの素材強度や構造強度の限界以上の過回転に陥りやすい、或いは、ブレードの回転により風荷重が増加し、大きな転倒モーメントを生じ得るという課題が生じる。また、風速20m/s−60m/s程度の暴風時には、通常の10倍以上の風荷重を受け、風車本体が倒壊する恐れが生じ得るという課題が生じる。
【0186】
上記の課題を解決すべく、この第6実施形態に係る風力発電装置200では、風速10m/s〜20m/s程度の強風時における安全運転又は安全停止、並びに、風速20m/s−60m/s程度の暴風時における構造安全設計を考慮して、駆動部210や制御部220が、以下に説明する動作を行う。
【0187】
駆動部210は、制御部220によって動作制御され、ブレード203を時計回り又は反時計回りに所定の回転速度(角速度)で回転させたり、ブレード203の回転を停止させたりする駆動を行う。この駆動部210は、具体的には、回転軸部200内の不図示のロータ軸を回転駆動させる機構であり、回転軸部200内のナセルに収納される。
【0188】
制御部220は、駆動部210の駆動制御を行う制御装置である。この制御部220は、例えば支柱の最下部の支持突部62に収納される。制御部220と駆動部210とは不図示の配線等により接続される。なお、制御部220が行う制御とは、不図示の風速計等により風速が所定速度以上の強風時を検出した場合に、下段のロータ機構5A、5Bの回転状態を異なる状態にする制御である。
【0189】
制御部220は、例えば一方のロータ機構5Bを短絡停止させることによって、下段のロータ機構5A、5Bの回転状態を異ならせる。そうすると、短絡停止したロータ機構5Bに対する風荷重が低減され、左右のロータ機構5A、5Bのそれぞれに対する風荷重が異なる状態になり、風力発電装置200はヨー回転を開始する。このように、ヨー機構のパッシブ特性を利用して強制的にヨー回転させることができる。すなわち、ファーリングが可能となる。
【0190】
また、制御部220は、上記制御でヨー回転力が足りない場合には、短絡停止させたロータ機構5Bを、他方のロータ機構5Aと逆回転させることにより、当該ロータ機構5Bに風向きと逆向きの推進力を生じさせることで、ヨー軸である縦支持部71周りのヨーモーメントを増加させる。これにより、ファーリングが可能となる。
【0191】
以上説明してきたように、第6実施形態に係る風力発電装置200によれば、強風時等において、ヨー軸である縦支持部71を挟んで対向する側に配置される下段のロータ機構5A、5Bの回転状態を異ならせるよう制御することで、強制的にヨー回転を行わせている。これにより、風速10m/s〜20m/s程度の強風時における安全運転又は安全停止を実現でき、並びに、風速20m/s−60m/s程度の暴風時における倒壊等を防止することができる。
【0192】
なお、この第6実施形態では、3つのロータ機構5が配置される場合を例示して説明を行ってきたが、4つ以上のロータ機構5が配置されるマルチロータシステムであっても同様の制御を行うことが望ましい。すなわち、4つ以上のロータ機構5が鉛直方向のヨー軸回りに回転可能な配置態様である場合、ヨー軸を挟んで対向する側に配置される少なくとも一対のロータ機構5に関し、一方のロータ機構5と他方のロータ機構5との回転状態を異ならせる制御を行う。また、ヨー軸を挟んで対向する側に各々複数のロータ機構5が配置され、一方側に配置されるロータ機構5が複数である場合には、そのうちのいずれか一つ以上について上記の制御を行う。特に、ヨー軸から最も離間したロータ機構5に対して上記制御を行うことにより、効果的にヨーモーメントを増加させることができる。
【0193】
以上説明したように、本発明に係る流体発電装置は、風や潮流等の流体の流れを利用してロータ機構のロータ(羽根車)を回転させることで発電を行うものであり、集風構造体あるいは集水構造体がロータの周囲についているロータ機構を、回転軸の方向を共通とする配置で複数備え、複数のロータ機構を適切な隙間間隔で垂直面内に集合配置させたユニット群の構造システム(マルチロータシステム)として構成されている。
【0194】
例えば風力発電の場合、通常、集合風車としての全体出力は単体風車の集合数倍(n倍)になるだけであるところ、本発明に係る流体発電装置によれば、単体のロータ機構の集合数倍以上の出力を得ることができることから、最もコストパフォーマンスが高い汎用規模サイズのロータ機構を集合させることで、大出力化、空力騒音の低減、低コスト化、良好なメンテナンス性、軽量化を達成することができ、大出力の風車・水車の新しい姿を提供することが可能となる。
【0195】
本発明に係る流体発電装置の実用化の展望としては、上述した実施形態に係る風力発電装置1の構成を採用することで、例えば、3kW程度の小型のレンズ風車を基本ユニットとすることで20kW程度への大出力化が図れ、300kW程度の中型のレンズ風車を基本ユニットとすることでメガワット程度の大出力化が図れると考えられる。レンズ風車はもとよりとても静かな風車である。したがって、例えば、空力騒音は問題にならない中型の数百kWサイズのレンズ風車を基本ユニットとして集合化させ、メガワット機にすることで、メガワット機以上の大型機に特有な空力騒音が極端に小さく、低周波騒音が皆無で、環境にやさしく、社会に受け入れられる風力発電装置を実現することが可能となる。
【0196】
以上、各実施形態により説明した本発明に係る風力発電装置は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。