特許第6128595号(P6128595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128595
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 1/01 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
   B23Q1/01 T
   B23Q1/01 H
   B23Q1/01 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-148090(P2013-148090)
(22)【出願日】2013年7月17日
(65)【公開番号】特開2015-20223(P2015-20223A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】新家 一朗
(72)【発明者】
【氏名】麻原 俊一
(72)【発明者】
【氏名】市川 純文
【審査官】 永石 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−166306(JP,A)
【文献】 特開2005−262358(JP,A)
【文献】 特開平06−155203(JP,A)
【文献】 特開2002−263972(JP,A)
【文献】 特開2005−111656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械の固定部をなすベースとワークを加工するための移動可能な可動部を有する工作機械において、
前記可動部は、第1の材料および第2の材料からなる複合材料を用いて形成されるとともに、前記複合材料は、比重が前記固定部を形成する材料の比重よりも小さくなるように形成され、かつ、前記第1の材料および前記第2の材料は、線熱膨張係数が前記固定部を形成する材料の線熱膨張係数よりも一方を大きく、他方を小さくし、
前記複合材料は、前記第1の材料をコアとして前記第2の材料が前記第1の材料を挟み込むように貼り合わせて対称に形成されるバイメタルとし、
前記第1の材料および前記第2の材料は、平板状をなすとともに、温度変化時における前記第1の材料および前記第2の材料の前記固定部を形成する材料に対する前記線熱膨張の差が解消されるように前記第1の材料および前記第2の材料にひずみが生じるときの前記各材料に作用する力が等しくなるように、厚みを設定することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記第1の材料および前記第2の材料は、いずれも比重を前記固定部を形成する材料の比重よりも小さくすることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記厚みを、線熱膨張係数とヤング率に基づいて設定することを特徴とする請求項1または2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記厚みを、
[数1]
t1/t2=E2/E1×(K0−K2)/(K1−K0)
ただし、t1:第1の材料の厚み、t2:第2の材料の厚み、E1:第1の材料のヤング率、E2:第2の材料のヤング率、K0:固定部を形成する材料の線熱膨張係数、K1:第1の材料の線熱膨張係数、K2:第2の材料の線熱膨張係数を用いて設定することを特徴とする請求項に記載の工作機械。
【請求項5】
前記第2の材料は、前記第1の材料よりもヤング率が高い材料とすることを特徴とする請求項に記載の工作機械。
【請求項6】
前記ベースとともに前記固定部をなすコラムを含んで、前記ベースに対する前記可動部をサドルまたはワークテーブルとし前記コラムに対する前記可動部を加工ヘッドとすることを特徴とする請求項に記載の工作機械。
【請求項7】
前記第1の材料は、アルミニウムとし、前記第2の材料は、炭素繊維強化プラスチックとすることを特徴とする請求項に記載の工作機械。
【請求項8】
前記固定部を形成する材料は、鉄系材料または石材とすることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関し、特に、可動部に、機械の固定部を形成する材料よりも軽量でかつ線熱膨張が同等な複合材料を用いた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、機械の固定部をなすベースにサドルやワークテーブル等の可動部を搭載して構成されており、構造体の主要部は鋳物や炭素鋼等の鉄系材料で形成されることが多い。しかしながら、工作機械の可動部も鉄系材料等の重量物で形成することとすると、高速かつ高加速の加工に限界を生じ軌跡追従精度を向上させることができない。そこで、特許文献1に開示されるように、可動部をアルミニウム等の軽量物で形成し、高速かつ高加速の加工を実現する工作機械が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−185720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の如くサドルやワークテーブルを軽量物とし、ベースを重量物とする等、可動部とこれを搭載する固定部を異なる材料で形成することとすると、線熱膨張係数の違いにより温度変化による固定部に対するひずみが生じ加工精度に大きく影響を及ぼすことがある。このような問題に対し、ベースも軽量物で形成することも考えられるが、ベースを軽量物とすると駆動力に対し発生する反力の影響を受けてしまい工作機械全体が振動する等、性能の低下を引き起こしてしまう。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、可動部の軽量化を図りつつも温度変化による固定部に対するひずみを防止して高速かつ高精度の加工を実現することができる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、工作機械に係る請求項1の発明は、機械の固定部をなすベースとワークを加工するための移動可能な可動部を有する工作機械において、可動部は、第1の材料および第2の材料からなる複合材料を用いて形成されるとともに、複合材料は、比重が固定部を形成する材料の比重よりも小さくなるように形成され、かつ、第1の材料および第2の材料は、線熱膨張係数が固定部を形成する材料の線熱膨張係数よりも一方を大きく、他方を小さくし、複合材料は、第1の材料をコアとして第2の材料が第1の材料を挟み込むように貼り合わせて対称に形成されるバイメタルとし、第1の材料および第2の材料は、平板状をなすとともに、温度変化時における第1の材料および第2の材料の固定部を形成する材料に対する線熱膨張の差が解消されるように第1の材料および第2の材料にひずみが生じるときの各材料に作用する力が等しくなるように、厚みを設定することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、可動部は、第1の材料および第2の材料からなる複合材料を用いて形成されるとともに、複合材料は、比重が固定部を形成する材料の比重よりも小さくなるように形成され、かつ、第1の材料および第2の材料は、線熱膨張係数が固定部を形成する材料の線熱膨張係数よりも一方を大きく、他方を小さくし、複合材料は、第1の材料をコアとして第2の材料が第1の材料を挟み込むように貼り合わせて対称に形成されるバイメタルとし、第1の材料および第2の材料は、平板状をなすとともに、温度変化時における第1の材料および第2の材料の固定部を形成する材料に対する線熱膨張の差が解消されるように第1の材料および第2の材料にひずみが生じるときの各材料に作用する力が等しくなるように、厚みを設定することとしたので、機械の固定部をなすベースに対し可動部が軽量化されるとともに、可動部の線熱膨張と固定部の線熱膨張を容易に同等とすることができる。また、本発明によれば、温度変化時のバイメタルの線熱膨張係数の相違による湾曲を相殺、つまり第1の材料と一方の第2の材料との間に生じる線熱膨張係数の相違による湾曲および第1の材料と他方の第2の材料との間に生じる線熱膨張係数の相違による湾曲を相互に相殺しつつ、固定部を形成する材料に対する第1の材料および第2の材料の線熱膨張の差を解消することができる。これにより可動部の軽量化を図りつつも温度変化による固定部に対するひずみを防止して高速かつ高精度の加工を実現することができる。
【0008】
第1の材料および第2の材料は、いずれも比重を固定部を形成する材料の比重よりも小さくすることとすれば、複合材料の比重を固定部を形成する材料の比重よりも確実に小さく整理することができ、可動部の軽量化を確実に実現することができる(請求項2)。
【0011】
第1の材料および第2の材料は、詳しくは、厚みを、線熱膨張係数とヤング率に基づいて設定することができ(請求項)、更に詳しくは、厚みを、
[数1]
t1/t2=E2/E1×(K0−K2)/(K1−K0)
ただし、t1:第1の材料の厚み、t2:第2の材料の厚み、E1:第1の材料のヤング率、E2:第2の材料のヤング率、K0:固定部を形成する材料の線熱膨張係数、K1:第1の材料の線熱膨張係数、K2:第2の材料の線熱膨張係数を用いて設定することができる(請求項)。
【0012】
第2の材料は、第1の材料よりもヤング率が高い材料とすることとすれば、複合材料の外側にヤング率の高い材料が配設されるので、曲げ弾性係数を高くすることができ、可動部の曲げ剛性を向上させることができる。また、複合材料の内部を切削性の良い材料とすることでタップを容易に立てることもできる(請求項)。ベースとともに固定部をなすコラムを含んで、ベースに対する可動部をサドルまたはワークテーブルとしコラムに対する可動部を加工ヘッドとすることができる(請求項)。
【0013】
第1の材料は、アルミニウムとし、第2の材料は、炭素繊維強化プラスチックとすることとすれば、可動部の比重をベースの比重よりも確実に小さく設定することができ、鉄系材料の線熱膨張係数よりも一方を大きく、他方を小さく設定することができ、可動部を形成する複合材料の外側にヤング率の高い材料を配設することができるので好ましい(請求項)。固定部を形成する材料は、例えば鉄系材料または石材とすることができる(請求項)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可動部の軽量化を図りつつも温度変化による固定部に対するひずみを防止して高速かつ高精度の加工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る工作機械の全体概要を示す側面図である。
図2】同工作機械の全体概要を示す正面図である。
図3】サドル乃至テーブルに用いられる複合材料の構成を示す図である。
図4】複合材料の温度変化時のひずみが発生した状態を説明するための図である。
図5】複合材料の湾曲が発生した状態および湾曲が相殺される状態を説明するための図である。
図6】複合材料の温度変化時のひずみが解消される状態を説明するための第2の図 である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1および図2は本発明の実施形態に係る工作機械の概略を示す構成図である。なお、以下においては、工作機械1の正面側から見て左右方向をX軸方向、前後方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向として説明するものとする。
【0017】
これらの図を参照して工作機械の概要を説明すると、工作機械1は、ベース2、サドル3、ワークテーブル4、コラム5、および加工ヘッド6を有している。ベース2は、機械の基部であり固定部をなしている。サドル3は、第1のリニアモーションガイド7を介してベース2の上面に設けられており、X軸方向に移動可能な可動部となっている。ワークテーブル4は、第2のリニアモーションガイド8を介してサドル3の上面に設けられており、ワークを載置可能となっている。ワークテーブル4は、Y軸方向に移動可能な可動部となっている。コラム5は、ベース2の上面後部から立設しており、上部で90°屈曲して前方に延出している。コラム5は、ベース2とともに機械の固定部をなしている。加工ヘッド6は、コラム5の延出部5aの前面に設けられており、Z軸方向に移動可能な可動部となっている。
【0018】
機械の固定部であるベース2およびコラム3と機械の部品部分である第1のリニアモーションガイド7および第2のリニアモーションガイド8は、鋳物や炭素鋼等の鉄系材料または石材を用いて形成されている。機械の可動部であるサドル3、ワークテーブル4、および加工ヘッド6は、第1の材料10および第2の材料20からなる複合材料30を用いて形成されており、図示せぬ防塵カバーで覆われている。
【0019】
図3に示すように、第1の材料10および第2の材料20は、いずれも平板状となっている。複合材料30は、第1の材料10をコアとして、第2の材料20が第1の材料10を挟み込むように対称に形成されている。複合材料30は、接着剤40を介して第1の材料10および第2の材料20を貼り合わせて形成される。第1の材料10にはアルミニウムが、第2の材料20には炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が、採用されている。
【0020】
表1に示すように、アルミニウムおよび炭素繊維強化プラスチックの比重はいずれも固定部を形成する鉄系材料より小さくなっている(以下においては、固定部を形成する材料は主に鉄系材料として説明するものとする)。つまり、複合材料30は比重が鉄系材料の比重よりも小さくなるように形成されている。
【0021】
更に、アルミニウムの線熱膨張係数は、鉄系材料よりも大きく、炭素繊維強化プラスチックの線熱膨張係数は、鉄系材料よりも小さくなっており、第1の材料(アルミニウム)10と第2の材料(炭素繊維強化プラスチック)20の線熱膨張係数の中間値は略鉄系材料の線熱膨張係数となっている。複合材料30は、線熱膨張係数の異なる材料を貼り合わせて形成されるバイメタルとなっている。
【0022】
このように複合材料30を対称構造のバイメタルとすることにより、複合材料30において第1の材料10および第2の材料20の線熱膨張の差を解消しながら、鉄系材料の線熱膨張と同等に設定することができる。すなわち、図4に示すように、設計温度Tで鉄系材料、第1の材料10、および第2の材料20の長さがいずれもLの状態(図4(a)、線熱膨張に差のないように機械が設計された状態)から周囲の環境温度がT+dTに変化して鉄系材料、第1の材料10、および第2の材料20がそれぞれ線熱膨張し各材料の長さがそれぞれL0、L1、L2となった状態(図4(b))において、第1の材料10および第2の材料20をそれぞれ単体で見たときは、線熱膨張係数の相違から各材料10,20は鉄系材料に対して線熱膨張にそれぞれ差(L0−L1),(L0−L2)を生じた状態となる。この線熱膨張の差(L0−L1),(L0−L2)は、複合材料30において第1の材料10および第2の材料20を対称に配置することにより、対称に発生することとなる。
【0023】
つまり、一般に、バイメタルは温度変化時に線熱膨張の相違により湾曲を生じることが知られているが、複合材料30を対称に形成することにより、図5に示すように、第1の材料10と一方の第2の材料20との間に生ずる熱膨張係数の相違による湾曲50(図5(a))と第1の材料10と他方の第2の材料20との間に生ずる熱膨張係数の相違による湾曲60(図5(b))が相互に反対方向に生じ、これら湾曲50,60が相互に相殺されることとなる(図5(c))。
【0024】
更に、図6に示すように、第1の材料10と第2の材料20を、接着剤40を介して接合することにより、第1の材料10および第2の材料20の鉄系材料に対する線熱膨張の差(L0−L1),(L0−L2)を解消する方向に各材料10,20に力F1,F2が対称に作用し、複合材料30に線熱膨張の差(L0−L1),(L0−L2)を解消する方向にひずみが生じると考えられる。この力F1,F2およびひずみの相関関係は、ヤング率によれば第1の材料10および第2の材料20の厚みt1,t2に応じて変化すると考えられる。
【0025】
つまり、数1に示すように、温度変化時における第1の材料10および第2の材料20の鉄系材料に対する線熱膨張の差(L0−L1),(L0−L2)が解消されるように第1の材料10および第2の材料20にひずみ(L0−L1),(L0−L2)が生じるときの各材料10,20に作用する力F1,F2が等しくなるように、線熱膨張係数とヤング率に基づいて、各材料10,20の厚みt1,t2を設定することができると考えられる。このように複合材料30の厚みを設定することで、鉄系材料に対する線熱膨張の差(L0−L1),(L0−L2)を解消することができる。
【0026】
[数1]
t1/t2=E2/E1×(K0−K2)/(K1−K0)
ただし、
t1:第1の材料の厚み
t2:第2の材料の厚み
E1:第1の材料のヤング率
E2:第2の材料のヤング率
K0:鉄の線熱膨張係数
K1:第1の材料の線熱膨張係数
K2:第2の材料の線熱膨張係数
【0027】
ここで、数1の誘導について詳細に説明すると次のようになる。
すなわち、周囲の環境温度が設計温度TからT+dTに変化したとき、設計温度Tの状態からの材料の伸び量dLは熱膨張の式より数2のように表される。したがって、鉄系材料、第1の材料10、および第2の材料20の伸び量dL0、dL1、およびdL2は数2を用いるとそれぞれ数3のように表される。
【0028】
[数2]
dL=K×L×dT
[数3]
dL0=dT×K0×L
dL1=dT×K1×L
dL2=dT×K2×L
【0029】
ただし、
dL:伸び量
dL0:鉄系材料の伸び量
dL1:第1の材料10の伸び量
dL2:第2の材料20の伸び量
dT:温度変化
K:線熱膨張係数
K0:鉄系材料の線熱膨張係数
K1:第1の材料10の線熱膨張係数
K2:第2の材料20の線熱膨張係数
L:設計温度Tの状態の鉄系材料、第1の材料10、および第2の材料20の長さ
【0030】
更にまた、温度変化dT時の鉄系材料、第1の材料10、および第2の材料20の長さL0、L1、およびL2は、数3の伸び量dL0、dL1、およびdL2を用いると数4のように表される。したがって、温度変化dT時における第1の材料10および第2の材料20の鉄系材料に対する線熱膨張の差(L0−L1),(L0−L2)は数4を用いてそれぞれ数5および数6のように表される。
【0031】
[数4]
L0=L+dT×K0×L
L1=L+dT×K1×L
L2=L+dT×K2×L
[数5]
L0−L1=dT×L×(K0−K1)
[数6]
L0−L2=dT×L×(K0−K2)
【0032】
ここで、ヤング率E、応力σ、およびひずみ量εの関係は数7のように表され、更に力F、応力σ、および材料の断面積Sの関係は数8のように表される。よって、σ=E×εとして数8に代入すると、力Fはヤング率E、ひずみ量ε、断面積Sを用いて数9のように表される。
[数7]
E=σ/ε
[数8]
F=σ×S
[数9]
F=E×S×ε
【0033】
更にまた、第1の材料10の厚みをt1、幅をaとすると、温度変化時dT時においても第1の材料10の長さL1を鉄系材料の長さL0と同じとするために第1の材料10に作用する力F1はひずみ量εを線熱膨張の差L0−L1として数10のように表され、更にL0−L1に数5を代入して数11のように表される。
[数10]
F1=E1×(a×t1)×(L0−L1)
[数11]
F1=E1×(a×t1)×dT×L×(K0−K1)
【0034】
同様に第2の材料20の厚みをt2、幅をaとすると、温度変化時においても第2の材料20の長さL2を鉄系材料の長さL0と同じとするために第2の材料20に作用する力F2はひずみ量εを線熱膨張の差L0−L2として数12のように表され、更にL0−L2に数6を代入して数13のように表される。
[数12]
F2=E2×(a×t2)×(L0−L2)
[数13]
F2=E2×(a×t2)×dT×L×(K0−K2)
【0035】
F1とF2は常に釣り合いの状態となるため数14のように等式で結ばれ、数14に数12および数13を代入して数15が得られ、各材料の厚みt1,t2、ヤング率E1,E2、線熱膨張係数K0,K1,K2の相関関係が数16つまり数1の如く得られる。
[数14]
F1=−F2
[数15]
E1×(a×t1)×dT×L×(K0−K1)
=−E2×(a×t2)×dT×L×(K0−K2)
[数16]([数1])
t1/t2=E2/E1×(K0−K2)/(K1−K0)
【0036】
表1に計算例を示すように、第1の材料10をアルミニウム、第2の材料20を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)としたときは、第1の材料10の厚みを第2の材料の厚み20の約2.5倍に設定することで、温度変化時における第1の材料10および第2の材料20の固定部を形成する材料に対する線熱膨張の差が解消される。
【0037】
【表1】
【0038】
ここで、本発明においては、第2の材料(炭素繊維強化プラスチック)20は、第1の材料(アルミニウム)10よりもヤング率が高くなっており、複合材料30は外側にヤング率の高い材料が配設されている。このように外側にヤング率の高い材料を配設することで、曲げ弾性係数を高くすることができ、可動部であるサドル3、ワークテーブル4、および加工ヘッド6の曲げ剛性を向上させることができる。複合材料30の内部を切削性の良い材料とすることでタップを容易に立てることもできる。
【0039】
以上説明したように本発明によれば、可動部であるサドル3、ワークテーブル4、および加工ヘッド6は、第1の材料10および第2の材料20からなる複合材料30を用いて形成されるとともに、複合材料30は、比重が固定部を形成する材料の比重よりも小さくなるように形成され、より詳しくは第1の材料10および第2の材料20は、いずれも比重を固定部を形成する材料の比重よりも小さく設定され、かつ、第1の材料10および第2の材料20は、線熱膨張係数が固定部を形成する材料の線熱膨張係数よりも一方を大きく、他方を小さくすることとしたので、機械の固定部をなすベース2とコラム5に対し可動部が軽量化されるとともに、可動部の線熱膨張と固定部の線熱膨張を同等とすることができる。これにより可動部の軽量化を図りつつも温度変化による固定部に対するひずみを防止して高速かつ高精度の加工を実現することができる。工作機械1の可動部を軽量かつ剛性の高い構造とすることで、駆動系から見た固有振動数が上がり、高い制御ゲインを設定することができ、高速高加速での軌跡追従精度の向上を実現する。
【0040】
また、複合材料30は、第1の材料10をコアとして第2の材料20が第1の材料10を挟み込むように貼り合わせて対称に形成されることとしたので、温度変化時のバイメタルの線熱膨張係数の相違による湾曲を相殺しつつ、固定部を形成する材料に対する第1の材料10および第2の材料20の線熱膨張の差を解消することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、工作機械の軽量化を図る場合に役立つ。
【符号の説明】
【0042】
1:工作機械
2:ベース
3:サドル
4:ワークテーブル
5:コラム
5a:延出部
6:加工ヘッド
7:第1のリニアモーションガイド
8:第2のリニアモーションガイド
10:第1の材料
20:第2の材料
30:複合材料
40:接着剤
50,60:湾曲
t1:第1の材料10の厚み
t2:第2の材料20の厚み
E1:第1の材料10のヤング率
E2:第2の材料20のヤング率
L0:鉄材の長さ
L1:第1の材料10の長さ
L2:第2の材料20の長さ
ε1:第1の材料10のひずみ(鉄系材料に対する第1の材料10の線熱膨張の差)
ε2:第2の材料20のひずみ(鉄系材料に対する第2の材料20の線熱膨張の差)
図1
図2
図3
図4
図5
図6