特許第6128768号(P6128768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128768
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】ランダムアクセス制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 74/08 20090101AFI20170508BHJP
【FI】
   H04W74/08
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-158256(P2012-158256)
(22)【出願日】2012年7月17日
(65)【公開番号】特開2014-22854(P2014-22854A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098132
【弁理士】
【氏名又は名称】守山 辰雄
(72)【発明者】
【氏名】松本 宏明
【審査官】 久慈 渉
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−505979(JP,A)
【文献】 特表2006−501720(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/043099(WO,A2)
【文献】 国際公開第2004/030319(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局装置と移動局とを有する無線システムにおいて、前記移動局が、前記基地局装置から送信された報知情報からランダムアクセス手順の実施が許可される確率を示す持続値を決定し、当該持続値と乱数発生手段によって発生された乱数とを用いてランダムアクセス手順の開始タイミングを制御するランダムアクセス制御方法であって、
持続値と乱数との比較によりランダムアクセス手順を開始するか否かを判断する持続テスト間の時間Tと、0<P≦1である持続値Pと、0≦R<1である乱数Rとを用いて、R≦1−(1−P)Nの条件を満たす最小のN(但し、Nは1以上の整数)を特定して遅延時間T’=(N−1)×Tを算出し、
遅延時間T’のタイマーをセットし、
遅延時間T’のタイマーの満了後に、ランダムアクセス手順を開始することを特徴とするランダムアクセス制御方法。
【請求項2】
ランダムアクセス手順の実施が許可される確率を示す持続値を記憶する記憶手段と、乱数を発生する乱数発生手段とを有する移動局が、前記記憶された持続値と前記発生された乱数とを用いてランダムアクセス手順の開始タイミングを制御するランダムアクセス制御方法であって、
持続値と乱数との比較によりランダムアクセス手順を開始するか否かを判断する持続テスト間の時間Tと、0<P≦1である持続値Pと、0≦R<1である乱数Rとを用いて、R≦1−(1−P)Nの条件を満たす最小のN(但し、Nは1以上の整数)を特定して遅延時間T’=(N−1)×Tを算出し、
遅延時間T’のタイマーをセットし、
遅延時間T’のタイマーの満了後に、ランダムアクセス手順を開始することを特徴とするランダムアクセス制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、W−CDMA移動体通信システムなどの移動局の動作に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、W−CDMA(Wideband-Code Division Multiple Access)移動体通信システムなどでは、移動局から基地局への上り方向の通信においてランダムアクセスが行われる。ランダムアクセスに用いられる伝送チャネルは共通チャネルである。このため、複数ユーザからの同時アクセスによる衝突が発生する可能性がある。このような衝突の発生確率を低減するためには、各ユーザのアクセスタイミングを分散することが有効である。
【0003】
各ユーザのアクセスタイミングを分散するために、移動局は、持続値(persistence value)に基づいてランダムアクセス手順を開始するか否かを判断する持続テスト(persistence test)を実施する。
持続値Pは、報知情報により移動局に通知されるパラメータから決定される0<P≦1の値で、ランダムアクセス手順の実施が許可される確率を示す。つまり、移動局は、確率Pでランダムアクセス手順を開始することができるが、確率(1−P)でランダムアクセス手順を開始することができない。
【0004】
図5には、持続テストの概念図を示してある。持続テストは、移動局側で発生させた乱数R(0≦R<1)と持続値Pとを比較することで実現される。乱数Rが持続値Pより小さいか同じである場合は持続テストの成功とし、乱数Rが持続値Pよりも大きい場合は持続テストの失敗とする。
持続テストに成功した場合は、移動局はランダムアクセス手順を開始する。一方、持続テストに失敗した場合は、予め定められた時間Tが経過した後に再び持続テストを実施する。持続テストは成功するまで繰り返される。
【0005】
従来方式のランダムアクセス制御を図6の動作フローに沿って説明する。
移動局は、上位の基地局装置から送信された報知情報のパラメータから持続値Pを決定した後、以下の処理を行う。
まず、予め定められた時間Tをタイマーにセットする(ステップS21)。次に、0≦R<1である乱数Rを発生させ(ステップS22)、乱数Pと持続値Pとの比較を行う(ステップS23)。その結果、R≦Pの場合は持続テストの成功とし、ランダムアクセス手順を開始する(ステップS24)。一方、R>Pの場合は持続テストの失敗とし、時間Tのタイマーが切れるまで待機し(ステップS25)、タイマー満了後に上記手順(ステップS21〜S23)を再度実施する。
【0006】
なお、ランダムアクセス制御に関しては、例えば、非特許文献1の「11.2.2 Control of RACH transmissions for FDD mode」(p.105-p.106)等に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】3GPP TS 25.321 V9.7.0(2011−09)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来方式のランダムアクセス制御では、持続テストは成功するまで繰り返し実施され、その度に乱数の発生処理が必要となる。このため、図7に示すように、持続テスト回数に比例して処理負荷が増大する。特に、持続値Pが小さい値の場合は、持続テストに失敗する確率が高く、持続テスト回数が多くなる傾向にある。その結果、ランダムアクセス制御の処理負荷が高くなり、移動局の消費電力を増大させる要因となり得る。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みて為されたものであり、移動局におけるランダムアクセス制御の処理負荷を軽減する技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基地局装置と移動局とを有する無線システムにおいて、前記移動局が、前記基地局装置から送信された報知情報からランダムアクセス手順の実施が許可される確率を示す持続値を決定し、当該持続値と乱数発生手段によって発生された乱数とを用いてランダムアクセス手順の開始タイミングを制御するランダムアクセス制御方法であって、持続値と乱数との比較によりランダムアクセス手順を開始するか否かを判断する持続テストに関し、前記決定された持続値Pについての持続テストが成功するまでに要する持続テスト回数の確率分布の区間を、持続テスト回数毎の累積確率を区分点として小区間に区分した場合について、前記発生された乱数Rが属する小区間に対応する持続テスト回数を算出し、持続テストの繰り返しにおける持続テスト間の時間と前記持続テスト回数の算出値に応じた係数とに基づいて、持続テストが成功するまでの時間に相当する遅延時間を決定し、前記決定した遅延時間が経過したタイミングで、ランダムアクセス手順を開始する、ことを特徴とするランダムアクセス制御方法。
【0011】
ここで、一構成例として、前記持続値Pは、0<P≦1であり、前記乱数Rは、0≦R<1であり、前記持続テスト回数は、1以上の整数であるNであり、前記持続テスト回数の累積確率は、1−(1−P)Nであり、前記持続テスト回数の算出値は、前記乱数R=0の場合は1であり、前記乱数R>0の場合は1−(1−P)N-1<R≦1−(1−P)NとなるNであり、前記持続テスト回数の算出値に応じた係数は、N−1であり、前記遅延時間は、前記持続テスト間の時間をTとして、(N−1)×Tの演算により算出する。
【0012】
また、本発明は、ランダムアクセス手順の実施が許可される確率を示す持続値を記憶する記憶手段と、乱数を発生する乱数発生手段とを有する移動局が、前記記憶された持続値と前記発生された乱数とを用いてランダムアクセス手順の開始タイミングを制御するランダムアクセス制御方法であって、持続値と乱数との比較によりランダムアクセス手順を開始するか否かを判断する持続テストに関し、前記記憶された持続値Pについての持続テストが成功するまでに要する持続テスト回数毎の累積確率と前記発生された乱数Rとに基づいて、ランダムアクセス手順を開始するタイミングを決定する、ことを特徴とするランダムアクセス制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るランダムアクセス制御方法によれば、本発明を適用しない場合に比べ、移動局におけるランダムアクセス制御の処理負荷の軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る移動局の機能ブロックの例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る移動局における遅延時間を決定する方法の概念図である。
図3】本発明の一実施形態に係る移動局によるランダムアクセス制御の動作フローの例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る移動局によるランダムアクセス制御の処理負荷を説明する図である。
図5】持続テストの概念図である。
図6】従来方式のランダムアクセス制御の動作フローを示す図である。
図7】従来方式のランダムアクセス制御の処理負荷を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る移動局の機能ブロックの例を示してある。
本例の移動局1は、受信部2、持続値決定部3、持続値記憶部4、乱数発生部5、遅延時間決定部6、ランダムアクセス手順処理部7といった機能部を有する。本例の移動局1は、例えば、W−CDMA移動体通信システムなどの移動局となる無線通信端末であり、基地局への上り方向の通信においてランダムアクセスを行う。
【0016】
受信部2は、上位の基地局装置から無線により送信された報知情報を受信する。
持続値決定部3は、受信部2により受信された報知情報のパラメータから、ランダムアクセス手順の実施が許可される確率を示す持続値P(0<P≦1)を決定する。
持続値記憶部4は、持続値決定部3により決定された持続値Pを記憶する。
乱数発生部5は、乱数R(0≦R<1)を発生する。
遅延時間決定部6は、持続値記憶部4に記憶された持続値P(持続値決定部3により決定された持続値P)と乱数発生部5により発生された乱数Rとに基づいて、ランダムアクセス手順を開始するまでの遅延時間T’を決定する。
ランダムアクセス手順処理部7は、遅延時間決定部6による遅延時間T’の決定後、当該遅延時間T’が経過したタイミングで、ランダムアクセス手順を開始する。
【0017】
遅延時間決定部6にて算出する遅延時間T’について説明する。
従来方式のランダムアクセス制御では、持続テストに失敗すると、当該持続テストの開始時に設定された時間Tのタイマーが切れるまで待機する。このため、ランダムアクセス手順を開始するまでには、時間Tの(持続テスト回数−1)倍の遅延が生じることになる。つまり、持続テストに成功するまでに要する持続テスト回数がN回の場合、ランダムアクセス手順を開始するまでの遅延時間は(N−1)×Tとなる。ここで、持続テスト回数Nは、1以上の整数である。また、時間Tは、持続テストの処理に要する時間を含むものとする。
【0018】
持続テストに成功するまでの持続テスト回数がN回となるのは、(N−1)回目までの持続テストに失敗し、N回目の持続テストで成功する場合であり、その確率は、P×(1−P)N-1である。したがって、持続テストに成功するまでに要する持続テスト回数Nの累積確率は、(式1)で表すことができる。ここで、持続テスト回数Nの累積確率は、N回目までの持続テストで成功する確率の累積値であり、Nについて単調増加で、N→∞のとき1に収束する。
【数1】
【0019】
持続値Pについての持続テストを時間Tの間隔で成功するまで繰り替えし実施することは、N=1,2,・・・についてP×(1−P)N-1の確率で(N−1)×Tの遅延時間を与えることと同等だと解釈できる。ここで、持続値Pについての持続テストが成功するまでに要する持続テスト回数の確率は、図2に示すように、0以上1未満の区間[0,1)に分布する。本発明では、持続テスト回数の確率分布の区間[0,1)を、持続テスト回数N(N=1,2,・・・)における各々の累積確率1−(1−P)Nを区分点として、小区間に区分する。そして、乱数R(0≦R<1)が属する小区間を特定し、その小区間に対応する持続テスト回数Nに応じて遅延時間T’を決定する。
【0020】
具体的には、1−(1−P)N-1<R≦1−(1−P)NとなるNを求め、T’=(N−1)×Tと決定する。例えば、N=3に対応する小区間、すなわち、1−(1−P)2と1−(1−P)3とで区切られる小区間に乱数Rが属する場合には、T’=(3−1)×T=2×Tとなる。なお、R=0の場合は、Pが如何なる値であっても持続テストに成功するので、N=1となり、T’=0となる。
【0021】
以上のような概念の処理を行うことで、持続値Pについての持続テストの成功までに要することが想定される時間に相当する遅延時間T’を、1回の乱数発生により決定することができる。
なお、図2を参照して説明した分布区間の区分は、本発明の思想を概念的に説明するために用いたものであり、下記のように、遅延時間T’の決定に際して分布区間を区分する処理が必須であることを意味するものではない。
【0022】
本例の移動局1によるランダムアクセス制御を、図3の動作フローに沿って説明する。
移動局1は、上位の基地局装置から送信された報知情報のパラメータから持続値Pを決定した後、以下の処理を行う。
まず、乱数発生部4にて、0≦R<1である乱数Rを発生する(ステップS11)。
次に、遅延時間決定部6にて、カウンタNを1で初期化し(ステップS12)、乱数RとNについての累積確率1−(1−P)Nとの比較を行う(ステップS13)。この結果、R>1−(1−P)Nの場合は、カウンタNをインクリメント(1を加算)して(ステップS14)、再度ステップS13を実施する。そして、R≦1−(1−P)Nとなった場合には、遅延時間T’=(N−1)×Tをタイマーにセットする(ステップS15)。
その後、ランダムアクセス手順処理部7にて、遅延時間T’のタイマーが切れるまで待機し(ステップS16)、タイマー満了後にランダムアクセス手順を開始する(ステップS17)。
【0023】
すなわち、本例では、持続テスト回数を表すNを1ずつ増加させながらR≦1−(1−P)Nの条件を満たすか否かを判定していき、当該条件を満たす最小の持続テスト回数Nを特定している。これは、持続値Pについての持続テストが成功するまでに要する持続テスト回数の確率分布の区間について、乱数Rが属する小区間に対応する持続テスト回数Nを特定する処理に相当する。このようにして持続テスト回数Nを特定できれば、T’=(N−1)×Tの演算を行うことで、持続テストを行うことなく、持続テストが成功するまでの時間に相当する遅延時間T’を求めることができる。
【0024】
以上のように、本例の移動局1によるランダムアクセス制御では、持続テストに成功するまでに要する持続テスト回数毎の累積確率に基づいて遅延時間を決定しているため、従来技術のランダムアクセス制御と同等の効果を得ることができる。しかも、本例に係るランダムアクセス制御では、乱数の発生処理は1回のみであり、また、持続テストを繰り返し実施する必要もない。このため、ランダムアクセス手順を開始するタイミングの決定に係る処理負荷は、図4のよう持続値の大小に関わらず一定になり、従来方式のランダムアクセス制御に比べて処理負荷の軽減が期待できる。
【0025】
ここで、上述した持続テスト数Nや遅延時間T’の算出手法は一例に過ぎず、他の算出手法により持続テスト数Nや遅延時間T’を算出しても構わない。
また、本例では、遅延時間決定部6の機能を、電子部品を用いた回路構成により実現しているが、ソフトウェアとハードウェア資源の協働により実現するようにしてもよい。すなわち、例えば、遅延時間決定部6の処理内容を規定したソフトウェアをプロセッサ等のハードウェア資源により実行することで、遅延時間決定部6の機能を実現してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1:移動局、 2:受信部、 3:持続値決定部、 4:持続値記憶部、 5:乱数発生部、 6:遅延時間決定部、 7:ランダムアクセス手順処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7