【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明の第1の態様によれば、金属の電着のための基板として適切な電解プレートであって、
その一部が二相ステンレス鋼からなる電解プレートが提供される。
【0035】
好ましくはこの二相ステンレス鋼は、316Lステンレス鋼に関して低ニッケルおよび/または低モリブデン鋼である。好ましくは、
二相ステンレス鋼は実質的に、近似的に、22〜26%Cr、4〜7%Ni、0〜3%Mo、および0.1〜0.3%Nを含む組成によって特徴付けられる。代替としてこの
二相ステンレス鋼は実質的に、近似的に、1.5%Ni、21.5%Cr、5%Mn、0.2%Nを含む組成によって特徴付けられる。
【0036】
一実施形態ではこの電解プレートは、スタータシート陰極ブランクとしての使用に適している。
【0037】
本発明の第2の態様によれば、金属の電着のための基板として適切な電解プレートであって、
その一部が「グレード304
ステンレス」鋼からなる電解プレートが提供される。
【0038】
一実施形態ではこの電解プレートは、実質的に永久的および/または再使用可能であり、例えば陰極マザープレートである。
【0039】
好ましくは、上記グレード
304ステンレス鋼は実質的に、近似的に、<0.8%C、17.5〜20%Cr、8〜11%Ni、<2%Mn、<1%Si、<0.045%P、<0.03%S、残りFeを含む組成によって特徴付けられる。
【0040】
もう一つの実施形態ではこのグレード304ステンレス鋼は、2B仕上げによって用意される。
【0041】
第1、第2態様の実施形態では、電解プレートの表面(複数可)は、このプレートに所定の接着特性を与えるように修正される。用語「所定の接着特性」は、金属の電着が要求される表面が電着物の動作接着とその後の処理とを可能にするために必要な接着性であり、修正された表面からの電着物の機械的分離を防止するには不十分な強度である接着性を作り出すように修正された表面粗さを有することを意味すると取られるべきである。
【0042】
好ましい実施形態では、この電解プレートは陰極であり、電着物は電気精錬または電解採取のいずれかによる銅である。
【0043】
もう一つの実施形態では、バフ研磨表面仕上げがこのプレートに、所定の接着特性を与える。好ましくはこのバフ研磨表面仕上げは、電着された金属の動作接着とその後の処理とを可能にするために必要であり、さらには修正された表面からの電着された金属の機械的分離を防止するには不十分である接着性を作り出すように修正された、表面粗さを有するめっき表面である。
【0044】
一実施形態ではバフ研磨仕上げは、典型的には約0.6〜2.5μmの範囲内の表面粗さR
aによって画定される。
【0045】
特に好ましい実施形態ではバフ研磨仕上げは、典型的には約0.6〜1.2μmの範囲内の表面粗さR
aによって画定される。
【0046】
好ましくは、バフ研磨仕上げは、研磨工具、アングルグラインダ、電気または空気駆動サンダ、またはこれらの組合せなどの装置によって施されてもよい。
【0047】
もう一つの実施形態では、プレートの表面には一つ以上の空洞が形成され、それによってプレートに所定の接着特性を与える。
【0048】
一実施形態ではこれらの空洞の少なくとも幾つかは、プレートの厚みを完全に貫通して延びるが、代替の実施形態ではこれらの空洞の少なくとも幾つかは、プレートの厚みを単に部分的に通して延びる。
【0049】
もう一つの実施形態ではこれらの空洞は、最上部の空洞より上の電着された金属が比較的除去容易であり、最上部の空洞のレベルにあるか、より下にある電着金属が比較的除去困難であるように、電着された金属の上部堆積ラインから間隔をあけて配置される。
【0050】
好ましくはこれらの空洞は、プレートの最上部から実質的に15〜20cmのところに配置され、それによって比較的除去容易な上部金属部と比較的除去困難な下部金属部との形成を容易にする。
【0051】
一実施形態では電着された金属は、まず上部金属部とプレートとの間に楔打込みする屈曲装置によって除去可能である。
【0052】
さらなる実施形態では、プレートの表面に一つ以上の溝部が形成され、それによってプレートに、所定の接着特性を与える。これらの溝部はプレートの表面上で実質的に任意の形状または方位であり得るが、分離装置が電着金属を最上部から底部の方に引き剥がすという事実に結びついたV溝制約により、好ましくは水平ではない。
【0053】
もう一つの実施形態では、プレートの表面に一つ以上の横桟部が配置され、それによってプレートに、所定の接着特性を与える。これらの横桟部は、プレートの表面上で実質的に任意の形状または方位であり得る。実質的に水平な横桟部(複数可)は、より多くの陽極スラッジが堆積でき、それによって電着物の純度を損なうという付随するトレードオフによって、より大きな動作接着性を与える。
【0054】
もう一つの実施形態ではプレートの表面はエッチングされ、それによってプレートに所定の接着特性を与える。好ましくはこのエッチングは電気化学的手段によって実行される。
【0055】
さらなる実施形態ではプレートは、切り落としコーナー技術および/またはV溝技術を含み、それによってプレート上の電着物の剥離を容易にする。
【0056】
本発明の第3の態様によれば、第1の態様および/または第2の態様による電解プレート上に金属を電着する方法が提供される。
【0057】
本発明の第4の態様によれば、電解プレート上への金属の電着と接着のために適した
二相ステンレス鋼電解プレートを製造する方法であって、
電解金属堆積物の動作接着とその後の処理とを可能にするために必要であり、さらには修正された表面からの上記の電着された金属の機械的分離を防止するには不十分である接着性を作り出すために修正された表面粗さを有するめっき表面を得るように
二相ステンレス鋼プレートの表面を修正することを含む方法が提供される。
【0058】
本発明の第5の態様によれば、第4の態様による方法によって製造される、二相ステンレス鋼電解プレートが提供される。
【0059】
本発明の第6の態様によれば、電解プレート上への金属の電着と接着のために適したグレード
304ステンレス鋼電解プレートを製造する方法であって、
電解金属堆積物の動作接着とその後の処理とを可能にするために必要であり、さらには修正された表面からの上記の電着された金属の機械的分離を防止するには不十分である接着性を作り出すために修正された、表面粗さを有するめっき表面を得るようにグレード
304ステンレス鋼プレートの表面を修正することを含む方法が提供される。
【0060】
本発明の第7の態様によれば、第6の態様による方法によって形成される、グレード
304ステンレス鋼電解プレートが提供される。
【0061】
上記の利点にもかかわらず、ニッケルとモリブデン両方の予測できない(また現在急速に上がりつつある)価格は、工業規格陰極プレートとしての316Lステンレス鋼の経済的使用に増大する圧力をかけている。
【0062】
現在使用されている再使用可能陰極技術は、それに関連した原材料の法外なコストという欠点から損害を受けている。したがって再使用可能陰極の使用範囲は狭い。驚くべきことに、新しい材料と管理された表面仕上げの組合せが陰極製造において、利用される原材料の品質とコスト両方の救済が可能であることが見出されている。コスト低減が実現すれば、今度は再使用可能陰極市場の範囲を拡大する可能性があり、これを他の材料の電着にまで拡大される可能性がある。
【0063】
実用可能な代替の「永久的」陰極プレートの開発の機会が存在する。不都合なことにこのような材料は、
その一部には、下記を同時に示す陰極プレートを提供するという二相の問題によって、直ちに得られるものとはなっていない。
【0064】
1.強酸性のH
2SO
4/CuSO
4媒体における十分な耐食性、および
2.接着性が陰極ブレードへの化学的または物理的損傷なしに、堆積物の物理的手段による即時分離を可能にしなくてはならない場合で、めっきされた電極の電極処理装置への安全な搬送を可能にするための銅堆積物の十分な動作接触接着性。
【0065】
したがって、より経済的に実用可能な陰極プレートを製造するために、上記の特性を示す代替材料が必要である。低ニッケル・オーステナイトステンレス鋼を使用することは、非オーステナイト鋼を使用することを有すると考えられている。しかしながら、低ニッケル
二相ステンレス鋼の使用は、これが適切な仕上げで利用可能であれば実用可能な代替陰極プレートと考えられていた。
【0066】
ステンレス鋼の最も広く使用されているタイプは、「オーステナイト」ステンレス鋼である。「完全オーステナイト」鋼構造は、少なくとも7%のニッケル含有量を有し、これは延性、広範囲に及ぶ使用温度、非磁気特性、および良好な溶接性を与える。オーステナイトステンレス鋼の用途範囲は、家庭用品、容器、工業用配管および容器、建築物正面および建造構造物を含む。
【0067】
「フェライト」ステンレス鋼は、軟鉄に似ているがより良好な耐食性という特性を有する。これらの鋼の最も大きな共通点は、構造物的用途で12〜17%クロム、最もよく使用されるのは12%であり、家庭用品、ボイラー、洗濯機および屋内建造物では17%である。
【0068】
「二相」鋼は、オーステナイトとフェライトのほぼ等しい割合の2相構造を有する。二相構造は、強度と延性の両方を与える。
二相ステンレス鋼は、石油化学、製紙、パルプおよび造船工業で最もよく使用される。このフェライト/オーステナイト状態を達成するために、合金元素の種々の組合せが使用され得る。最も一般的な
二相ステンレス鋼の組成は、22〜26%Cr、4〜7%Ni、0〜3%Mo、オーステナイトを安定化するための少量の窒素(0.1〜0.3%)の範囲内である。一つの適切な商業的二相ステンレス鋼は、近似的に1.5%Ni、21.5%Cr、5%Mn、および0.2%Nを含有する。
【0069】
前述のように電気精錬工業において一般に容認されている知識は、電着された金属を陰極プレートに十分に接着させるには、陰極プレート上には2B仕上げが必要であるということである。利用可能な二相ステンレス鋼の一部は電気精錬工業の要件に合致する耐食性を示すが、これらの材料は2B仕上げでは利用可能でない。
【0070】
2B仕上げは製造によって
二相ステンレス鋼に与えることはできないので、実用可能な代替手段は、その表面接着特性を真似ること、すなわち
二相ステンレス鋼の表面をバフ研磨および/またはブラッシングすることによる「2Bの様な」仕上げの製造と考えられていた。
【0071】
2B仕上げを必要とする容認された知識とは反対に、本出願人らは意外にも、
二相ステンレス鋼が銅の電解採取のために陰極プレートに「そのままで」使用されるとき、電着物のプレートへの動作接着は、必要なさらなる処理を考慮するために容認できるほどに迅速であることを見出した。
【0072】
しかしながら、
二相ステンレス鋼陰極プレートの有効性を広げるために、本発明の範囲内で二つのさらなる修正が開発された。
【0073】
第1に、陰極の表面には、横桟、溝および/または孔などの「物理的ロック」が加えられ得る。横桟および/または溝は、陰極の一つ以上の表面に亘って水平、垂直、斜めまたはそれらの任意の組合せであってよい。任意で横桟(複数可)および/または溝(複数可)は、陰極の前面と後面両方の最下部の幅に亘って実質的に水平に配置され得る。横桟(複数可)および/または溝(複数可)は、固形の堆積物が重力下で滑り落ち得ない表面を与えることによって電解採取された銅堆積物の「巻きほどき」を防止するために役立つ。しかしながら実質的に水平な横桟は、陽極スラッジが堆積し得る表面を与えるという前述の問題から不利益を被り、また実質的に水平な溝は陰極表面にV溝制約を与える。
【0074】
好ましくは、溝(複数可)は、実質的にプレートの長さに沿って実質的に垂直に配置される。この選択は、最上部から底部へ動作するISA PROCESS(登録商標)屈曲除去装置の動作の正常モードから生じる。溝が水平に配置されれば、その結果生じるV溝制約は、電着された金属を表面から引き剥がして溝の周りで破損させる可能性がある。
【0075】
同様に、陰極プレートの表面(複数可)上に一つ以上の孔を配置すると、孔内に銅めっきすることが可能になり、それによって陰極により良好な接着性が与えられる。孔(複数可)は、プレートの厚み/幅を完全に、または部分的に貫通して延びることができ、好ましくは最上部の孔より上に上部めっき部分を配置可能にし、かつ最上部の孔のレベルの位置とそれより下の位置に下部めっき部分を配置可能にするために、プレートの最上部から15〜20cmのところに配置される。
【0076】
上部めっき部分は、プレートへの接着性が孔のないプレートに関して改善されていないので、比較的除去が容易である。しかし、下部めっき部分では一つ以上の空洞内の金属めっきに起因するより大きな動作接着性が動作接着性を向上させるので、比較的除去が困難である。したがって、電解プレートの表面上で最上部から底部へと動作する除去装置は、上部めっき部分とプレート自体との間に楔打込みして、その後の下部めっき部分の除去をより容易にする。
【0077】
プレートは、銅堆積物を除去する最初の段階で、グリップされて曲げられる。孔の内部に形成された堆積物とそれによって与えられた接着は、機械的に壊れ易いことが好ましい。したがって、孔の最適なサイズ/数/配置/深さは、スケール、陰極サイクル長さおよび精錬される金属にしたがって変わり得る。
【0078】
より良好な動作接着性を与える第2の手段は、電解採取された銅堆積物がよりよく接着し得るエッチング面を作り出すように、陰極の表面を電気化学的にエッチングすることである。しかしながら、このような電気化学的エッチングは、実質的に平坦な銅シートがさらにそれから製造できるようにステンレス鋼プレートの実質的な垂直性を保持しなくてはならない。
【0079】
二相ステンレス鋼陰極プレートの明らかな利点は、コストの点で実証される。
二相ステンレス鋼は一般に、316L鋼より安価である。さらに
二相ステンレス鋼は、現在陰極プレートに使用されている316L鋼より遥かに強く、これは二相陰極プレートがこれらプレートの本質的な機能を損なわずに、予測可能なほどに、より薄く作られ得ることを意味する。プレートは必ず、陰極表面からの電着物の分離のための屈曲を受けるために十分に強くなくてはならない。316L陰極プレートは典型的には約3.25mmの厚さであるが、
二相ステンレス鋼は原則として約1mm厚さの陰極プレートを維持するほど十分に丈夫である。しかしながら陰極プレートの表面(複数可)上への横桟、溝および/または孔の選択的配置は、このようなプレートが好ましくは約2.0〜2.25mmの厚さであることを意味する。とにかく現在の価格で2.25mm厚の二相ステンレス鋼陰極は、機能的に同等な3.25mm厚の316L陰極プレートに対してさらに大きなコスト節減を表している。工業的規模の電気精錬所の経済効率の点からのこれらの節減の重要性は、過小評価されるべきではない。
【0080】
二相ステンレス鋼陰極プレートのさらなる市場は、スタータシートとして存在する。スタータシート技術は上述され、適切な
二相ステンレス鋼スタータシートを達成することの利点は、コストと加工効率の両方において証明される。
【0081】
本発明の範囲内でのさらなる開発において、陰極プレートとしての低グレード「304
ステンレス」鋼が使用される。グレード
304ステンレス鋼は、典型的には、<0.8%C、17.5〜20%Cr、8〜11%Ni、<2%Mn、<1%Si、<0.045%P、<0.03%S、残りFeの組成を有する。
【0082】
グレード304
ステンレス鋼は、最も多面的で広く使用されるステンレス鋼である。
グレード304
ステンレス鋼のバランスしたオーステナイト構造により、このグレードをシンク、底深い容器およびソースパンなどの絞りステンレス部品の製造において優位にしている中間の焼きなましをすることなしに、大幅に深絞りすることが可能になる。グレード304
ステンレス鋼は、工業、建築および輸送の分野での用途のための種々の部品に直ちにブレーキ形成または圧延形成される。オーステナイト構造はまた、
グレード304
ステンレス鋼に優れた靭性を与える。
【0083】
しかしながらグレード
304ステンレス鋼は、陰極プレートとして有効であるには余りにも腐食され易いという汚名を受けてきた。これは温暖な塩化物環境において点食および亀裂腐食を受けることであり、周囲温度において最大約200mg/L塩化物、60℃において150mg/Lに低減する塩化物を有する飲料水に耐性があると考えられる。これらの理由から、グレード304
ステンレス鋼は、潜在的な実質的に永久的な陰極プレートとしては一般に無視されてきた。
【0084】
しかしながらグレード
304ステンレス鋼は2B仕上げで製造でき、本出願人らは意外にも、
グレード304ステンレス鋼から3.0〜3.25mmの厚さに作られた2B仕上げの陰極プレートが銅の電解採取で使用されたとき意外にも効果的であることを発見した。
【0085】
本出願人らは、電解採取された銅堆積物の十分な動作接着性を作り出して、さらに従来のISA PROCESS(登録商標)陰極剥離装置による堆積物の即座の分離を可能にするために適したバフ研磨仕上げまたは研磨仕上げを開発した。
【0086】
ステンレス鋼は、陰極構成への組立ての前または後に「バフ研磨」され得る。したがって各場合で使用される装置は異なる。原則は、金属を研削または研磨するために利用可能な商業的工具の一つを利用することである。これらは、研磨工具、アングルグラインダ、電気または空気駆動サンダであり得る。バフ研磨媒体の選択と利用される装置の速度選択は、意図される陰極設計のめっき表面の正しい仕上げを得ることにとって極めて重要である。
【0087】
本発明の範囲内のもう一つの予測可能な開発として、二相および/またはグレード304
ステンレス鋼陰極プレート(複数可)への切り落としコーナー陰極技術の適用がある。切り落としコーナー陰極技術は、本出願人らの国際特許出願第PCT/AU2004/000565号に開示されている。陰極ブレードのサイド周辺部と下方周辺部は、底部エッジの反対側端部の間に延びて、これら端部をそれぞれのサイドエッジに接続するコーナーエッジ部とそれぞれの下方周辺部およびサイド周辺部との短絡を終端する。
【0088】
さらに、本発明の二相および/またはグレード304
ステンレス鋼陰極プレートは、V溝技術と連携して使用され得ることが考えられる。陰極プレートの底部エッジおよび/またはコーナーエッジ部分は、陰極ブレードから2枚の別々のシートへの銅の分離を助けるためのV溝などの溝を含む。
【0089】
本発明の好ましい実施形態は、例示のみを目的として下記の添付の図面を参照しながら説明される。