特許第6128959号(P6128959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 多木化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6128959
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】スレーキング抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
   C04B35/66
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-113081(P2013-113081)
(22)【出願日】2013年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-231456(P2014-231456A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】角谷 定宣
(72)【発明者】
【氏名】井筒 裕之
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−325068(JP,A)
【文献】 特開2003−261391(JP,A)
【文献】 特開2000−320981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸としてグリコール酸とクエン酸とのみを含有するスレーキング抑制剤であって、
グリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物からなるスレーキング抑制剤。
但し、上記グリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物の組成は、
グリコール酸/Al2O3(モル比)=1.0〜4.0の範囲であり、且つ、
クエン酸/Al2O3(モル比)=0.1〜1.5の範囲である。
【請求項2】
請求項1記載のスレーキング抑制剤を用いた、塩基性骨材のスレーキング抑制方法。
【請求項3】
請求項1記載のスレーキング抑制剤と、塩基性骨材とを含有する耐火組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物からなるスレーキング抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
不定形耐火物の骨材として、耐食性に優れるマグネシア、ドロマイト等の塩基性骨材が広く利用されている。しかし、塩基性骨材は、特に施工水の乾燥時にスレーキング(消化)現象が進行し、結果として体積膨張による亀裂の発生や組織の脆弱化等により不定形耐火物に悪影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
本願出願人は、これまで耐火物用結合剤として有用な種々の有機酸金属塩に関する技術を開示してきた。例えば、特許文献1では塩基性乳酸アルミニウムを、また、特許文献2ではオキシカルボン酸の多価金属塩を開示した。さらに、特許文献3ではグリコール酸・乳酸アルミニウム、及びクエン酸・乳酸アルミニウムを開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭61-16745号公報
【特許文献2】特許第2640620号公報
【特許文献3】特許第2704371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記耐火物用結合剤のうち、特に特許文献3に記載のグリコール酸・乳酸アルミニウムは、塩基性乳酸アルミニウムよりも塩基性骨材に対し優れたスレーキング抑制効果を発揮するものである。しかし、塩基性骨材との混練時および施工時における流動性については改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、塩基性骨材に対し優れたスレーキング抑制効果を発揮し、且つ、塩基性骨材との混練時および施工時に良好な流動性が得られるスレーキング抑制剤の開発を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、グリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物からなるスレーキング抑制剤によって上記課題が解決されることを見出し、係る知見を基に本発明を完成させるに至った。
【0008】
なお、例えば特許文献2には、オキシカルボン酸の多価金属塩の1つとして脂肪族オキシカルボン酸のアルミニウム塩が例示され、脂肪族オキシカルボン酸を列挙した中にグリコール酸及びクエン酸が記載されているが、これは単なる列挙にとどまっているものであり、グリコール酸及びクエン酸という特定の組合せの有機酸によるアルミニウム化合物からなる本発明のスレーキング抑制剤については完全に想定外である。
【0009】
即ち、本発明は下記の通りである。
[1]グリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物からなるスレーキング抑制剤。
[2]前記グリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物の組成が、グリコール酸/Al2O3(モル比)=1.0〜4.0の範囲であり、且つ、クエン酸/Al2O3(モル比)=0.1〜1.5の範囲である、上記[1]記載のスレーキング抑制剤。
[3]上記[1]又は[2]記載のスレーキング抑制剤を用いた、塩基性骨材のスレーキング抑制方法。
[4]上記[1]又は[2]記載のスレーキング抑制剤と、塩基性骨材とを含有する耐火組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物からなるスレーキング抑制剤は、例えばこれを塩基性骨材を使用する不定形耐火物の原料としたときに、高いスレーキング抑制効果が得られるため、スレーキングによる不定形耐火物の脆弱化防止に有用である。
また、塩基性骨材との混練時および施工時に良好な流動性が得られるため作業性に優れるという利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物からなるスレーキング抑制剤(以下、「本発明の抑制剤」と称することがある)について詳細に説明する。
【0012】
本発明の抑制剤は、有機酸としてグリコール酸とクエン酸のみを実質的に含有するものである。ここで、「有機酸としてグリコール酸とクエン酸のみを実質的に含有する」とは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば他の有機酸、例えば乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、グルタル酸などを含有しても構わないという意味である。即ち、本発明の抑制剤は、有機酸としてグリコール酸とクエン酸のみを実質的に含有する有機酸アルミニウム化合物からなるスレーキング抑制剤、とも云える。但し、本発明の実施形態としては、上記他の有機酸は可能な限り含有されないことが好ましい。
【0013】
本発明の抑制剤によって本発明の効果が得られる理由は定かではないが、敢えてグリコール酸とクエン酸に分けて考察すると、グリコール酸はスレーキング抑制効果に作用し、クエン酸は塩基性骨材との混練時および施工時における流動性向上に作用すると推定される。
【0014】
本発明の抑制剤は、例えば以下の方法によって製造することができる。
水可溶性アルミニウム塩、例えば塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、塩基性硝酸アルミニウム水溶液と、アルカリ金属の炭酸塩、重炭酸塩又はアンモニウムの炭酸塩、重炭酸塩等とを反応させ、生成沈殿するアルミナ水和物を分離・洗浄した後、このアルミナ水和物をグリコール酸とクエン酸の混合溶液中に溶解させることによって製造することができる。なお、上記炭酸塩に代えて、アルカリ金属の水酸化物又は水酸化アンモニウムを用いることもできるが、アルカリ金属の炭酸塩又は炭酸アンモニウムが好ましく、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムがより好ましい。
【0015】
また、本発明の抑制剤は、硫酸アルミニウムとグリコール酸とクエン酸との混合溶液に、アルカリ土類金属の炭酸塩又は重炭酸塩を反応させ、沈殿物(水不溶性の沈殿物)を除去することにより製造することができる。尚、この製造方法においては沈殿物を可能な限り除去することが望ましい。
【0016】
本発明の抑制剤は、上述の製造方法によって得られた水溶液状のものを乾燥して粉末化したものであってもよい。乾燥方法は常法により適宜乾燥すればよく、例えば、噴霧乾燥、通気乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
【0017】
本発明の抑制剤の組成は、グリコール酸/Al2O3(モル比)=1.0〜4.0の範囲であり、且つ、クエン酸/Al2O3(モル比)=0.1〜1.5の範囲であることが好ましい。上記両範囲が満たされる場合において、とりわけ本発明の効果が発揮される。なお、グリコール酸とクエン酸の合計量については、上記範囲の上限と下限をそれぞれ合計した、(グリコール酸+クエン酸)/Al2O3(モル比)=1.1〜5.5の範囲となる。有機酸の総量がアルミニウム正塩より大幅に多くなると、塩基性骨材と有機酸との反応が激しくなるために実用性が低下する傾向となる。一方、アルミニウム塩としての安定性を損なう程度にまで有機酸の総量が少ないと、スレーキング抑制効果が低下する傾向となる。
尚、上記に例示した製造方法では系外への逸失が実質的に無いため、原料に由来する成分量がそのまま最終的に得られる製品に保持される。従って、上記両範囲を満たすような製品を製造するためには、上記両範囲を満たすように原料比を設定すればよい。
【0018】
本発明の抑制剤の使用形態として、例えば、本発明の抑制剤と塩基性骨材とを含有する耐火組成物が挙げられる。塩基性骨材としては、水と反応性のある塩基性骨材であることが好ましく、例えば、電融マグネシア、海水マグネシア、天然マグネシア、アルミナ-マグネシアスピネル、マグネシアクロム(又はクロムマグネシア)、ドロマイト、カルシアなどの物質(骨材)が挙げられる。
【0019】
耐火組成物中の本発明の抑制剤の配合量については、塩基性骨材100質量部に対して、0.05〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜5質量部の範囲である。上記配合量が0.05質量部未満では本発明の効果が十分発現しない場合があり、また、10質量部を超えて配合しても配合量に相当するほどの効果は期待できないことから経済的ではない。
【0020】
耐火組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で目的に応じて、本発明の抑制剤と塩基性骨材以外の耐火物用材料を含有させることができる。そのような耐火物用材料として、例えば、アルミナセメント等の硬化材、アルミナ質骨材(例えば、溶融アルミナ、易焼結アルミナ)等の中性骨材、カーボン等が挙げられる。さらに、作業時間の調整等の目的で添加される、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンやEDTA、アミノ酸等のキレート剤が挙げられる。また、結合剤として添加される、クロム酸、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水ガラス、各種ゾル等が挙げられる。加えて、高分子系分散剤、リン酸塩系分散剤等の分散剤、アルミナフラワー、シリカフラワー、ジルコンフラワーなどの超微粉、難溶性リン酸塩や非晶質シリカの粉末などが挙げられる。
【0021】
耐火組成物の調製方法は、本発明の抑制剤と塩基性骨材とを充分に混合した後、これにアルミナセメントなどの硬化材を添加混合する方法が、スレーキング抑制効果を最も良く発揮できるため望ましい。また、本発明の抑制剤を硬化材またはその他の耐火物用材料と混合した後、当該混合物と塩基性骨材とを混合してもよい。さらには、塩基性骨材とアルミナセメント等の硬化材やその他の耐火物用材料とを混合した後、本発明の抑制剤とを混合してもよい。しかし、これらは一例であって、本発明はこのような調製方法に特段限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。尚、実施例において%は、特に断らない限り全て質量%を示す。
【0023】
〔実施例1〕
硫酸アルミニウム水溶液(Al2O3=8.1%) 1000gに炭酸ナトリウム水溶液(Na2O=6.5%) 4080gを攪拌下で徐々に添加し、アルミナ水和物を生成させた。このアルミナ水和物を濾別し、アルミナ水和物中に硫酸イオンが定性的に検出されなくなるまで洗浄した。得られたアルミナ水和物(Al2O3=10%)に、70%グリコール酸水溶液とクエン酸1水和物を、グリコール酸/Al2O3(モル比)=2.0、クエン酸/Al2O3(モル比)=0.5となるように添加・混合し、アルミナ水和物の溶解後、得られた溶液を噴霧乾燥することにより粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0024】
〔実施例2〕
グリコール酸/Al2O3(モル比)=2.0、クエン酸/Al2O3(モル比)=1.0とした以外は、実施例1と同様にして粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0025】
〔実施例3〕
グリコール酸/Al2O3(モル比)=1.5、クエン酸/Al2O3(モル比)=1.0とした以外は、実施例1と同様にして粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0026】
〔実施例4〕
グリコール酸/Al2O3(モル比)=2.5、クエン酸/Al2O3(モル比)=0.5とした以外は、実施例1と同様にして粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0027】
〔実施例5〕
グリコール酸/Al2O3(モル比)=3.0、クエン酸/Al2O3(モル比)=0.5とした以外は、実施例1と同様にして粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0028】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして得たアルミナ水和物に、グリコール酸をグリコール酸/Al2O3(モル比)=4.0となるように添加・混合し、アルミナ水和物の溶解後、得られた溶液を噴霧乾燥することにより粉末のグリコール酸アルミニウム化合物を得た。
【0029】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして得たアルミナ水和物に、クエン酸をクエン酸/Al2O3(モル比)=2.0となるように添加・混合し、アルミナ水和物の溶解後、得られた溶液を噴霧乾燥することにより粉末のクエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0030】
〔参考例〕
実施例1と同様にして得たアルミナ水和物に、70%グリコール酸水溶液をグリコール酸/Al2O3(モル比)=2.5、乳酸を乳酸/Al2O3(モル比)=2.0となるように添加・混合し、アルミナ水和物の溶解後、得られた溶液を噴霧乾燥することにより粉末のグリコール酸・乳酸アルミニウム化合物を得た。
【0031】
(スレーキング試験)
塩基性骨材としてマグネシア骨材UBE98S(宇部マテリアルズ株式会社製)100質量部に対して、硬化材としてハイアルミナセメントスーパーES(電気化学工業株式会社製)8質量部、及びスレーキング抑制剤として上記実施例、比較例または参考例で得られた粉末を0.5質量部添加し、1分間の空練りを行った。次に、水を19質量部加え、3分間混練した後、混練物を2×2×8cmの鋳型へ流し込み、振動成形機にて流し込み成形を行った。25℃で24時間養生後、脱枠し、さらに80℃で15時間乾燥し、成形体を得た。この成形体をオートクレーブ中(110℃の飽和水蒸気下)に7時間静置した後、成形体の長辺の膨張率を測定し、さらに目視により評価した。尚、評価は表1に示した基準で行い、結果を表3に示した。
【0032】
【表1】
【0033】
(流動性試験)
塩基性骨材としてマグネシア骨材UBE98S(宇部マテリアルズ株式会社製)300質量部に対して、硬化材としてハイアルミナセメントスーパーES(電気化学工業株式会社製)24質量部、及びスレーキング抑制剤として上記実施例、比較例または参考例で得られた粉末を1.5質量部添加し、1分間の空練りを行った。次に、水70質量部を加え、3分間混練した後、混練物を内径5cm×高さ7cmの塩ビパイプに流し込み、1分後にその塩ビパイプを引き抜き、混練物の広がりにより流動性を評価した。尚、評価は表2に示した基準で行い、結果を表3に示した。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
表3の結果より、参考例のグリコール酸・乳酸アルミニウム化合物は優れたスレーキング抑制効果を示したが、流動性については実用には耐え得るが向上が望まれるレベルであった。
一方、実施例1〜5のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物は、スレーキング抑制及び流動性の両方において優れた効果を示した。