【0014】
本発明の抑制剤は、例えば以下の方法によって製造することができる。
水可溶性アルミニウム塩、例えば塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、塩基性硝酸アルミニウム水溶液と、アルカリ金属の炭酸塩、重炭酸塩又はアンモニウムの炭酸塩、重炭酸塩等とを反応させ、生成沈殿するアルミナ水和物を分離・洗浄した後、このアルミナ水和物をグリコール酸とクエン酸の混合溶液中に溶解させることによって製造することができる。なお、上記炭酸塩に代えて、アルカリ金属の水酸化物又は水酸化アンモニウムを用いることもできるが、アルカリ金属の炭酸塩又は炭酸アンモニウムが好ましく、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムがより好ましい。
【0017】
本発明の抑制剤の組成は、グリコール酸/Al
2O
3(モル比)=1.0〜4.0の範囲であり、且つ、クエン酸/Al
2O
3(モル比)=0.1〜1.5の範囲であることが好ましい。上記両範囲が満たされる場合において、とりわけ本発明の効果が発揮される。なお、グリコール酸とクエン酸の合計量については、上記範囲の上限と下限をそれぞれ合計した、(グリコール酸+クエン酸)/Al
2O
3(モル比)=1.1〜5.5の範囲となる。有機酸の総量がアルミニウム正塩より大幅に多くなると、塩基性骨材と有機酸との反応が激しくなるために実用性が低下する傾向となる。一方、アルミニウム塩としての安定性を損なう程度にまで有機酸の総量が少ないと、スレーキング抑制効果が低下する傾向となる。
尚、上記に例示した製造方法では系外への逸失が実質的に無いため、原料に由来する成分量がそのまま最終的に得られる製品に保持される。従って、上記両範囲を満たすような製品を製造するためには、上記両範囲を満たすように原料比を設定すればよい。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。尚、実施例において%は、特に断らない限り全て質量%を示す。
【0023】
〔実施例1〕
硫酸アルミニウム水溶液(Al
2O
3=8.1%) 1000gに炭酸ナトリウム水溶液(Na
2O=6.5%) 4080gを攪拌下で徐々に添加し、アルミナ水和物を生成させた。このアルミナ水和物を濾別し、アルミナ水和物中に硫酸イオンが定性的に検出されなくなるまで洗浄した。得られたアルミナ水和物(Al
2O
3=10%)に、70%グリコール酸水溶液とクエン酸1水和物を、グリコール酸/Al
2O
3(モル比)=2.0、クエン酸/Al
2O
3(モル比)=0.5となるように添加・混合し、アルミナ水和物の溶解後、得られた溶液を噴霧乾燥することにより粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0024】
〔実施例2〕
グリコール酸/Al
2O
3(モル比)=2.0、クエン酸/Al
2O
3(モル比)=1.0とした以外は、実施例1と同様にして粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0025】
〔実施例3〕
グリコール酸/Al
2O
3(モル比)=1.5、クエン酸/Al
2O
3(モル比)=1.0とした以外は、実施例1と同様にして粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0026】
〔実施例4〕
グリコール酸/Al
2O
3(モル比)=2.5、クエン酸/Al
2O
3(モル比)=0.5とした以外は、実施例1と同様にして粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0027】
〔実施例5〕
グリコール酸/Al
2O
3(モル比)=3.0、クエン酸/Al
2O
3(モル比)=0.5とした以外は、実施例1と同様にして粉末のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0028】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして得たアルミナ水和物に、グリコール酸をグリコール酸/Al
2O
3(モル比)=4.0となるように添加・混合し、アルミナ水和物の溶解後、得られた溶液を噴霧乾燥することにより粉末のグリコール酸アルミニウム化合物を得た。
【0029】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして得たアルミナ水和物に、クエン酸をクエン酸/Al
2O
3(モル比)=2.0となるように添加・混合し、アルミナ水和物の溶解後、得られた溶液を噴霧乾燥することにより粉末のクエン酸アルミニウム化合物を得た。
【0030】
〔参考例〕
実施例1と同様にして得たアルミナ水和物に、70%グリコール酸水溶液をグリコール酸/Al
2O
3(モル比)=2.5、乳酸を乳酸/Al
2O
3(モル比)=2.0となるように添加・混合し、アルミナ水和物の溶解後、得られた溶液を噴霧乾燥することにより粉末のグリコール酸・乳酸アルミニウム化合物を得た。
【0031】
(スレーキング試験)
塩基性骨材としてマグネシア骨材UBE98S(宇部マテリアルズ株式会社製)100質量部に対して、硬化材としてハイアルミナセメントスーパーES(電気化学工業株式会社製)8質量部、及びスレーキング抑制剤として上記実施例、比較例または参考例で得られた粉末を0.5質量部添加し、1分間の空練りを行った。次に、水を19質量部加え、3分間混練した後、混練物を2×2×8cmの鋳型へ流し込み、振動成形機にて流し込み成形を行った。25℃で24時間養生後、脱枠し、さらに80℃で15時間乾燥し、成形体を得た。この成形体をオートクレーブ中(110℃の飽和水蒸気下)に7時間静置した後、成形体の長辺の膨張率を測定し、さらに目視により評価した。尚、評価は表1に示した基準で行い、結果を表3に示した。
【0032】
【表1】
【0033】
(流動性試験)
塩基性骨材としてマグネシア骨材UBE98S(宇部マテリアルズ株式会社製)300質量部に対して、硬化材としてハイアルミナセメントスーパーES(電気化学工業株式会社製)24質量部、及びスレーキング抑制剤として上記実施例、比較例または参考例で得られた粉末を1.5質量部添加し、1分間の空練りを行った。次に、水70質量部を加え、3分間混練した後、混練物を内径5cm×高さ7cmの塩ビパイプに流し込み、1分後にその塩ビパイプを引き抜き、混練物の広がりにより流動性を評価した。尚、評価は表2に示した基準で行い、結果を表3に示した。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
表3の結果より、参考例のグリコール酸・乳酸アルミニウム化合物は優れたスレーキング抑制効果を示したが、流動性については実用には耐え得るが向上が望まれるレベルであった。
一方、実施例1〜5のグリコール酸・クエン酸アルミニウム化合物は、スレーキング抑制及び流動性の両方において優れた効果を示した。