(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129091
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】アンテナ装置及びこれを用いた携帯電子機器
(51)【国際特許分類】
H01Q 7/00 20060101AFI20170508BHJP
G06K 19/07 20060101ALI20170508BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20170508BHJP
H01Q 1/24 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
H01Q7/00
G06K19/07 270
G06K19/077 272
H01Q1/24 C
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-17086(P2014-17086)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-144366(P2015-144366A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2014年10月27日
【審判番号】不服2016-8859(P2016-8859/J1)
【審判請求日】2016年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】麻生 裕文
(72)【発明者】
【氏名】友成 寿緒
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 由智
(72)【発明者】
【氏名】小町 俊文
【合議体】
【審判長】
大塚 良平
【審判官】
林 毅
【審判官】
中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−162195(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0307746(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 7/00
H01Q 1/24
G06K 19/07
G06K 19/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面を有する第1の金属部材と、
前記第1の主面と同一平面を構成する第2の主面を有し、第1の方向に延在する少なくとも1本のスリットによって前記第1の金属部材から分断された第2の金属部材と、
前記第1及び第2の主面に垂直なコイル軸を有するアンテナコイルとを備え、
前記第1の金属部材は、前記アンテナコイルが実装される携帯電子機器の筐体の少なくとも一部を構成しており、
前記アンテナコイルの内径部は、前記スリット並びに前記第1及び第2の金属部材と平面視にて重なっており、
前記スリットの前記第1の方向と交差する第2の方向におけるスリット幅は、前記アンテナコイルの前記第1の方向における長さよりも長い領域であって、前記アンテナコイルを前記第1の方向に横切るよう平面視にて重なる領域において一定幅を有し、
前記スリット幅は、前記アンテナコイルの内径部のうち前記第1の金属部材と重なる領域の前記第2の方向における幅よりも狭く、且つ、前記アンテナコイルの内径部のうち前記第2の金属部材と重なる領域の前記第2の方向における幅よりも狭いことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記スリットは複数本設けられている、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記スリットは2本設けられている、請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1の金属部材から見て前記アンテナコイルよりも遠方に位置し、前記アンテナコイルに固定された磁性体シートをさらに備える、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第2の金属部材は、前記第1の金属部材と共に前記筐体の一部を構成する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記筐体は絶縁性樹脂からなるカバーを備え、前記第1及び第2の金属部材は、前記カバーの裏面に形成された金属膜からなる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
筐体と、
前記筐体内に設けられた回路基板と、
前記回路基板と共に前記筐体内に設けられたアンテナ装置とを備え、
前記アンテナ装置は、
第1の主面を有する第1の金属部材と、
前記第1の主面と同一平面を構成する第2の主面を有し、第1の方向に延在する少なくとも1本のスリットによって前記第1の金属部材から分断された第2の金属部材と、
前記第1及び第2の主面に垂直なコイル軸を有するアンテナコイルとを備え、
前記第1の金属部材は、前記筐体の少なくとも一部を構成しており、
前記アンテナコイルの内径部は、前記スリット並びに前記第1及び第2の金属部材と平面視にて重なっており、
前記スリットの前記第1の方向と交差する第2の方向におけるスリット幅は、前記アンテナコイルの前記第1の方向における長さよりも長い領域であって、前記アンテナコイルを前記第1の方向に横切るよう平面視にて重なる領域において一定幅を有し、
前記スリット幅は、前記アンテナコイルの内径部のうち前記第1の金属部材と重なる領域の前記第2の方向における幅よりも狭く、且つ、前記アンテナコイルの内径部のうち前記第2の金属部材と重なる領域の前記第2の方向における幅よりも狭いことを特徴とする携帯電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関し、特に、NFC(Near Field Communication:近距離無線通信)に好適なアンテナ装置に関するものである。また、本発明は、そのようなアンテナ装置が実装された携帯電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の携帯電子機器にはRFID(Radio Frequency Identification:電波による個体識別)システムが搭載されており、そのための通信手段としてリーダ・ライタ等と近距離無線通信を行うためのアンテナが搭載されている。
【0003】
一方、携帯電子機器には内蔵回路を外部ノイズから保護すると共に機器内で発生するノイズの不要輻射を防止するため、金属シールドが設けられている。特に最近は、薄型化、軽量化、落下等の衝撃に対する耐久性、デザイン性等を考慮して、携帯電子機器の筐体自体が樹脂製から金属製となり、金属シールドを兼ねるケースも増えてきている。しかし、一般に金属シールドは電波を妨げることから、アンテナを設ける場合には金属シールドと重ならない位置に設ける必要があり、金属シールドが広範囲に設けられているときにはアンテナの配置が問題となる。
【0004】
上記問題を解決するため、例えば特許文献1〜3に開示されたアンテナ装置は、導体層に開口部を形成すると共に当該開口部と外縁との間を連接するスリットを形成し、内径部が開口部と重なるようにアンテナコイルを配置している。このアンテナ装置によれば、コイル導体に電流が流れることにより生じる磁界を遮るように、導体層に電流が流れ、そして導体層の開口部の周囲に流れるスリットの周辺を通り、縁端効果により導体層の周囲にも電流が流れる。これにより、導体層からも磁界が生じ、導体層が磁束を大きく周回させるので、アンテナ装置と相手側アンテナとの通信距離を広げることができる。すなわち、導体層をアンテナコイルの通信距離を広げるアクセラレータとして機能させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4687832号公報
【特許文献2】特開2002−111363号公報
【特許文献3】特開2013−162195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のアンテナ装置は、導体層に開口部及びスリットを形成する必要があり、アンテナコイルをレイアウトする上での制約となるという問題がある。例えば、設計上の制約から所望の位置に開口部を形成することができない場合や、開口部を形成することはできてもスリットを形成することが許されない場合には、当該アンテナ装置を構成することができないという問題がある。また、カメラモジュールのレンズを露出させるための開口部をアンテナコイルの開口部として利用できない場合にも同様の問題が生じる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、携帯電子機器に設けられた導体層に開口部が設けられていない場合でもアンテナコイルの通信距離をのばすことが可能なアンテナ装置を提供することにある。また、本発明の目的は、そのようなアンテナ装置を用いて構成された高性能な携帯電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明によるアンテナ装置は、第1の主面を有する第1の金属部材と、前記第1の主面と平行な第2の主面を有する第2の金属部材と、前記第1及び第2の主面に垂直なコイル軸を有するアンテナコイルとを備え、前記第1の金属部材は、前記アンテナコイルが実装される携帯電子機器の筐体の少なくとも一部を構成しており、前記第1の金属部材と第2の金属部材との間には、少なくとも1本のスリットが形成されており、前記アンテナコイルの内径部は、前記スリットと平面視にて重なっており、前記スリットは、少なくとも前記アンテナコイルと平面視にて重なる領域において一定幅を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明による携帯電子機器は、筐体と、前記筐体内に設けられた回路基板と、前記回路基板と共に前記筐体内に設けられたアンテナ装置とを備え、前記アンテナ装置は、第1の主面を有する第1の金属部材と、前記第1の主面と平行な第2の主面を有する第2の金属部材と、前記第1及び第2の主面に垂直なコイル軸を有するアンテナコイルとを備え、前記第1の金属部材は、前記筐体の少なくとも一部を構成しており、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材との間には、少なくとも1本のスリットが形成されており、前記アンテナコイルの内径部は、前記スリットと平面視にて重なっており、前記スリットは、少なくとも前記アンテナコイルと平面視にて重なる領域において一定幅を有することを特徴とする。
【0010】
従来のアンテナ装置は、アンテナコイルの内径部とほぼ同じ大きさの開口部を携帯電子機器側の金属層に予め形成し、開口部の形成位置にアンテナコイルを配置する必要があったため、設計上の制約が大きかった。しかし、本発明によるアンテナ装置は、開口部を設けることなく、アンテナコイルの内径部と比べて非常に狭い幅のスリットのみを設け、一方向に延びるスリットと内径部が重なるようにアンテナコイルを設けるので、スリットの延在方向の任意の位置にアンテナコイルを置くことができ、アンテナコイルのレイアウトの自由度を高めることができる。
【0011】
本発明において、前記アンテナコイルの内径部は、前記第1及び第2の金属部材と平面視にて重なる部分を有することが好ましい。アンテナコイルの内径部のうち金属部材と重ならない領域の面積は、金属層に開口部を形成する従来のアンテナ装置よりも小さいが、そのことによる問題は発生せず、従来のアンテナ装置と同等のアンテナ特性を得ることが可能である。
【0012】
本発明において、前記スリットは複数本設けられていることが好ましく、前記スリットは2本設けられていることが特に好ましい。この場合、本発明によるアンテナ装置は、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材との間に2本のスリットが形成されるように前記第1の金属部材と前記第2の金属部材との間に設けられた第3の金属部材をさらに備え、前記アンテナコイルの内径部は、前記第1及び第2のスリットと平面視にて重なっていることが好ましい。第1及び第2の金属部材間に2本のスリットを設ける場合には、1本のスリットを設ける場合よりもアンテナコイルの通信距離をさらにのばすことができる。
【0013】
本発明によるアンテナ装置は、前記第1の金属部材から見て前記アンテナコイルよりも遠方に位置し、前記アンテナコイルに固定された磁性体シートをさらに備えることが好ましい。この構成によれば、アンテナコイルのインダクタンスを高めることができ、アンテナコイルの通信距離をのばすことができる。
【0014】
本発明において、前記第2の金属部材は、前記第1の金属部材と共に前記筐体の一部を構成することが好ましい。この構成によれば、携帯電子機器の筐体を利用してアンテナ装置を構成することができ、これによりアンテナコイルの通信距離をのばすことができる。
【0015】
本発明によるアンテナ装置は、絶縁性樹脂からなるカバーを備え、前記第1及び第2の金属部材は、前記カバーの表面に形成された金属膜からなることもまた好ましい。この構成によれば、携帯電子機器の筐体の一部である金属膜を利用してアンテナ装置を構成することができ、これによりアンテナコイルの通信距離をのばすことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導体層に開口部が設けられていない場合でもアンテナコイルの通信距離をのばすことが可能なアンテナ装置を提供することができる。また、本発明によれば、そのようなアンテナ装置を用いて構成された高性能な携帯電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるアンテナ装置を含む携帯電子機器の構成を示す図であって、(a)は略正面断面図、(b)は略側面断面図である。
【
図2】
図2は、アンテナコイル21に対するカバー11の作用を説明するための略平面図である。
【
図3】
図3は、アンテナコイル21に対するカバー11の作用を説明するための略断面図である。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、アンテナコイル21のレイアウト例を示す略平面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施の形態によるアンテナ装置の構成を示す図であって、(a)及び(b)は略正面図、(c)は略側面断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第3の実施の形態によるアンテナ装置の構成を示す図であって、(a)及び(b)は略正面図、(c)は略側面断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第4の実施の形態によるアンテナ装置を含む携帯電子機器の構成を示す図であって、(a)は略正面断面図、(b)は略側面断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の第5の実施の形態によるアンテナ装置を含む携帯電子機器の構成を示す図であって、(a)は略正面断面図、(b)は略側面断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第6の実施の形態によるアンテナ装置の構成を示す略側面断面図である。
【
図10】
図10(a)〜(c)は、本発明の第7の実施の形態によるアンテナ装置の構成を示す略平面図であって、特にスリットの形状のバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるアンテナ装置を含む携帯電子機器の構成を示す図であって、(a)は略正面断面図、(b)は略側面断面図である。
【0020】
図1(a)及び(b)に示すように、このアンテナ装置1は、携帯電子機器10の筐体を構成する金属製のカバー11と、カバー11の主面に垂直なコイル軸を有するアンテナコイル21とを備えている。特に限定されないが、携帯電子機器10としてはスマートフォンを挙げることができる。
【0021】
携帯電子機器10の外形は薄型の直方体であり、その内部にはメイン回路基板30やバッテリーパック31が内蔵されている。携帯電子機器10の一方の主面(前面)にはディスプレイ32が設けられており、ディスプレイ32の外周部には樹脂フレーム14が設けられている。特に限定されないが、アンテナコイル21はメイン回路基板30と共に携帯電子機器10の長手方向(Y方向)の一端側(上部)に設けられており、バッテリーパック31は他端側(下部)に設けられている。
【0022】
カバー11は携帯電子機器10の他方の主面(背面)と4つの側面を構成している。カバー11の材料に金属を用いる理由は、剛性及び磁気シールド性を高めつつ薄型化及び軽量化を図るためである。また、カバー11には開口部APが形成されており、カメラ33は開口部APから露出するように設けられている。
【0023】
カバー11には開口部APとは独立した1本のスリットSL1が形成されており、スリットSL1は携帯電子機器10の長手方向の一端側に位置している。スリットSL1内には絶縁性樹脂が設けられており、この絶縁性樹脂はカバー11と共に筐体の一部を構成している。スリットSL1はカバー11の幅方向(X方向)に延びてカバー11を分断しており、これによりカバー11は第1の金属部材11aと第2の金属部材11bとに分割されている。第1の金属部材11aと第2の金属部材11bは電気的に絶縁されている。第2の金属部材11bの主面(第2の主面)は第1の金属部材11aの主面(第1の主面)と同一平面であって携帯電子機器10の背面をなしている。
【0024】
アンテナコイル21は矩形スパイラル導体からなる平面アンテナであり、フレキシブル基板22の主面に形成されている。アンテナコイル21は絶縁膜23で覆われており、またフレキシブル基板22の裏面には磁性体シート24が設けられている。フレキシブル基板22及び磁性体シート24はカバー11から見てアンテナコイル21よりも遠方に位置している。磁性体シート24はアンテナコイル21から発生する磁束の磁路を構成するものである。
【0025】
アンテナコイル21は第1の金属部材11aと第2の金属部材11bとの境界付近に配置されており、アンテナコイル21の約下半分は第1の金属部材11aと平面視にて重なりを有している。一方、アンテナコイル21の約上半分は第1の金属部材11aと平面視にて重なりを有しておらず、第2の金属部材11bと重なりを有している。そして、第1の金属部材11aと第2の金属部材11bとの間には携帯電子機器10の幅方向に延びる一定幅のスリットSL1が形成されている。アンテナコイル21の上下方向の中央領域は、第1の金属部材11a及び第2の金属部材11bのどちらとも重ならない領域である。
【0026】
アンテナコイル21の固定方法は特に限定されず、メイン回路基板30側に固定されてもよく、カバー11側に固定されてもよい。バッテリーパック31がアンテナコイル21と重なる位置に設けられている場合には、アンテナコイル21をバッテリーパック31上に固定することも可能である。フレキシブル基板22上のアンテナコイル21は外側を向いているが、内側を向くように設けられてもよい。
【0027】
図示されていないが、アンテナコイル21の両端はメイン回路基板30上の対応するコネクタに接続されている。接続方法は特に限定されず、例えばフレキシブル基板22のリード部に形成した引き出し導体を介してメイン回路基板30とアンテナコイル21とを接続するように構成してもよい。あるいは、給電ピンを用いて接続することも可能である。
【0028】
スリットSL1の幅Wはアンテナコイル21の内径部21aの幅よりも狭く、スリットSL1はアンテナコイル21の内径部を横切っている。すなわち、アンテナコイル21はその内径部がスリットSL1と平面視にて重なるようにレイアウトされている。アンテナコイル21のスリットSL1と略平行な部分は、第1の金属部材11a及び第2の金属部材11bと重なっていることが好ましい。
【0029】
スリットSL1はカバー11の幅方向(X方向)の一端から他端まで一定幅の直線スリットであることが好ましいが、必ずしも全長にわたって一定幅である必要はなく、少なくともアンテナコイル21の実装領域と平面視にて重なる領域において一定幅であればよい。
【0030】
図2及び
図3は、アンテナコイル21に対するカバー11の作用を説明するための図であって、
図2は略平面図、
図3は略断面図である。
【0031】
図2及び
図3に示すように、アンテナコイル21に反時計回りの電流Iaが流れるとき、アンテナコイル21の内径部を貫通する磁束φが発生し、この磁束φはスリットSL1を通過してカバー11と鎖交する。一方、カバー11にはこの磁束を打ち消そうとする方向の磁束によって生じる電流が流れ、この電流は縁端効果により第1及び第2の金属部材11a,11bの周囲に沿った渦電流Ibとなる。渦電流Ibの向きはアンテナコイル21に流れる電流Iaと同じく反時計回りである。
【0032】
ここで、スリットSL1を通過した磁束φはカバー11を透過しないので、カバー11のスリットSL1を内側とし、カバー11の外縁を外側とする経路を通って迂回しようとする。その結果、磁束φは相対的に大きなループを描き、例えばリーダ・ライタのアンテナコイル(不図示)と鎖交することになる。すなわちアンテナ装置1は通信相手側アンテナと磁気的に結合する。特に、カバー11の面積がアンテナコイル21の面積よりも大きいことから、大きなループ磁界を生じさせることができる。さらに、カバー11の外側から見てアンテナコイル21よりも遠方に磁性体シート24が設けられているので、アンテナコイル21のインダクタンスを大きくすることができ、これによりアンテナ特性の向上を図ることができる。
【0033】
図4(a)及び(b)は、アンテナコイル21のレイアウト例を示す略平面図である。
【0034】
図4(a)に示すように、アンテナコイル21は、幅方向の右側端部にオフセット配置されており、カメラ33を露出させるための開口部APは幅方向の中央部に配置されている。開口部APとスリットSL1は連結されることなく互いに独立している。この構成によれば、カメラ33を中央に配置しつつ、アンテナコイル21をカメラ33から引き離すことができ、アンテナコイル21のレイアウトに余裕を持たせることができる。すなわち、開口部APの位置に制約されることなくアンテナコイル21を自由にレイアウトすることができる。
【0035】
図4(b)に示すように、アンテナコイル21は、幅方向の右側端部にオフセット配置されており、カメラ33を露出させるための開口部APは幅方向の左側端部にオフセット配置されている。開口部APとスリットSL1は連結されることなく互いに独立している。この構成によれば、アンテナコイル21をカメラ33からさらに引き離すことができ、アンテナコイル21のレイアウトに余裕を持たせることができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によるアンテナ装置1は、カバー11がアンテナコイル21の磁束を大きく周回させるので、アンテナ装置から通信相手側アンテナまでの通信距離をのばすことができる。また、アンテナコイル21はカバー11のスリットSL1と平面視にて重なる位置に設けられ、特にスリットSL1がアンテナコイル21の内径部21aを通過しているので、スリットSL1の延在方向の任意の位置にアンテナコイル21を配置することが可能であり、アンテナコイル21のレイアウトの自由度を高めることができる。
【0037】
図5は、本発明の第2の実施の形態によるアンテナ装置の構成を示す図であって、(a)及び(b)は略正面図、(c)は略側面断面図である。
【0038】
図5(a)〜(c)に示すように、このアンテナ装置2の特徴は、カバー11に2本のスリットSL1,SL2が形成されている点にある。その他の構成は第1の実施形態と同様である。特に限定されないが、2本のスリットSL1,SL2の幅W1,W2は同一であることが好ましい。
【0039】
2本のスリットSL1,SL2を形成するため、第1の金属部材11aと第2の金属部材11bとの間には第3の金属部材11cが設けられている。第3の金属部材11cはスリットSL1,SL2と平行な細長い直線形状を有している。第3の金属部材11cの幅はスリットSL1,SL2の幅よりも広いことが好ましいが、広すぎるとスリットSL1,SL2をアンテナコイル21の内径部に収めることができないことから、適切な幅に設定する必要がある。スリットSL1からスリットSL2までの幅W0はアンテナコイル21の内径部21aよりも狭いことが必要である。
【0040】
スリットSL1はカバー11の幅方向(X方向)に延びてカバー11を分断しており、これによりカバー11は第1の金属部材11aと第3の金属部材11cに分割されている。また、スリットSL2はカバー11の幅方向に延びてカバー11を分断しており、これによりカバー11は第2の金属部材11bと第3の金属部材11cに分割されている。第1〜第3の金属部材11a〜11cは互いに電気的に絶縁されている。
【0041】
本実施形態によるアンテナ装置2は、第1の実施の形態によるアンテナ装置1と同等かそれ以上の効果を奏することができる。すなわち、カバー11がアンテナコイル21の磁束を大きく周回させるので、アンテナ装置から通信相手側アンテナまでの通信距離をのばすことができる。特に、2本のスリットを設ける場合には、1本のスリットを設ける場合よりもアンテナコイルの通信距離をさらにのばすことができる。また、アンテナコイル21はカバー11のスリットSL1,SL2と平面視にて重なる位置に設けられ、特にスリットSL1,SL2がアンテナコイル21の内径部21aを通過しているので、スリットSL1,SL2の延在方向の任意の位置にアンテナコイル21を配置することが可能であり、アンテナコイル21のレイアウトの自由度を高めることができる。
【0042】
図6は、本発明の第3の実施の形態によるアンテナ装置の構成を示す図であって、(a)及び(b)は略正面図、(c)は略側面断面図である。
【0043】
図6(a)〜(c)に示すように、このアンテナ装置3の特徴は、カバー11に3本のスリットSL1,SL2,SL3が形成されている点にある。その他の構成は第1の実施形態と同様である。特に限定されないが、3本のスリットSL1,SL2,SL3の幅W1,W2,W3は同一であることが好ましい。
【0044】
3本のスリットSL1,SL2,SL3を形成するため、第1の金属部材11aと第2の金属部材11bとの間には第3及び第4の金属部材11c,11dが設けられている。第3及び第4の金属部材11c,11dはスリットSL1,SL2,SL3と平行な細長い直線形状を有している。第3及び第4の金属部材11c,11dの幅はスリットSL1,SL2,SL3の幅よりも広いことが好ましいが、広すぎるとスリットSL1,SL2の両方をアンテナコイル21の内径部に収めることができないことから、適切な幅に設定する必要がある。スリットSL1からスリットSL2までの幅W0はアンテナコイル21の内径部よりも狭いことが必要である。
【0045】
スリットSL1はカバー11の幅方向に延びてカバー11を分断しており、これによりカバー11は第1の金属部材11aと第3の金属部材11cに分割されている。また、スリットSL2はカバー11の幅方向に延びてカバー11を分断しており、これによりカバー11は第3の金属部材11cと第4の金属部材11dに分割されている。さらに、スリットSL3はカバー11の幅方向に延びてカバー11を分断しており、これによりカバー11は第4の金属部材11dと第2の金属部材11bに分割されている。第1〜第3の金属部材11a〜11cは互いに電気的に絶縁されている。
【0046】
本実施形態によるアンテナ装置3は、第1の実施の形態によるアンテナ装置1と同等の効果を奏することができる。すなわち、カバー11がアンテナコイル21の磁束を大きく周回させるので、アンテナ装置から通信相手側のアンテナコイルまでの通信距離をのばすことができる。また、アンテナコイル21はカバー11のスリットSL1〜SL3と平面視にて重なる位置に設けられ、特にスリットSL1〜SL3がアンテナコイル21の内径部21aを通過しているので、スリットSL1〜SL3の延在方向の任意の位置にアンテナコイル21を配置することが可能であり、アンテナコイル21のレイアウトの自由度を高めることができる。
【0047】
図7は、本発明の第4の実施の形態によるアンテナ装置を含む携帯電子機器の構成を示す図であって、(a)は略正面断面図、(b)は略側面断面図である。
【0048】
図7(a)及び(b)に示すように、このアンテナ装置4の特徴は、カバー11が絶縁性樹脂からなり、カバー11の裏面に金属膜13が形成されている点にある。カバー11は携帯電子機器10の反対側の主面(背面)と4つの側面を構成しており、金属膜13は、カバー11の主面の大部分を広範囲に覆っている。このような金属膜13は、実質的に筐体の一部である。
【0049】
カバー11及び金属膜13には開口部APが形成されており、カメラ33は開口部APから露出するように設けられている。また、金属膜13には開口部APとは独立した1本のスリットSL1が形成されており、スリットSL1は携帯電子機器10の長手方向の一端側に位置している。スリットSL1は金属膜13の幅方向(X方向)に延びて金属膜13を分断しており、これにより金属膜13は第1の金属部材13aと第2の金属部材13bとに分割されている。第1の金属部材13aと第2の金属部材13bは電気的に絶縁されている。第2の金属部材13bの主面(第2の主面)は第1の金属部材11aの主面(第1の主面)と同一平面であって携帯電子機器10の背面と平行である。
【0050】
本実施形態によるアンテナ装置4は、第1の実施の形態によるアンテナ装置1と同様の効果を奏することができる。すなわち、金属膜13がアンテナコイル21の磁束を大きく周回させるので、アンテナ装置から通信相手側アンテナまでの通信距離をのばすことができる。また、アンテナコイル21は金属膜13のスリットSL1と平面視にて重なる位置に設けられ、特にスリットSL1がアンテナコイル21の内径部21aを通過しているので、スリットSL1の延在方向の任意の位置にアンテナコイル21を配置することが可能であり、アンテナコイル21のレイアウトの自由度を高めることができる。
【0051】
図8は、本発明の第5の実施の形態によるアンテナ装置を含む携帯電子機器の構成を示す図であって、(a)は略正面断面図、(b)は略側面断面図である。
【0052】
図8(a)及び(b)に示すように、このアンテナ装置5の特徴は、絶縁性樹脂からなるカバー11の裏面に金属膜13が形成され、さらにアンテナコイル21に固定された金属シート12が設けられている点にある。そして、カバー11側の金属膜(第1の金属部材)13とアンテナコイル21側の金属シート(第2の金属部材)12とを組み合わせることでスリットSL1が形成されている。金属シート12の主面(第2の主面)は金属膜13の主面(第1の主面)と平行である。その他の構成は第4の実施形態と同様である。
【0053】
本実施形態によるアンテナ装置5は、第1の実施の形態によるアンテナ装置1と同様の効果を奏することができる。すなわち、金属膜13と金属シート12とがアンテナコイル21の磁束を大きく周回させるので、アンテナ装置から通信相手側アンテナまでの通信距離をのばすことができる。また、アンテナコイル21は金属膜13と金属シート12との間のスリットSL1と平面視にて重なる位置に設けられ、特にスリットSL1がアンテナコイル21の内径部21aを通過しているので、スリットSL1の延在方向の任意の位置にアンテナコイル21を配置することが可能であり、アンテナコイル21のレイアウトの自由度を高めることができる。しかも、筐体自体にスリットSL1を設ける必要がないことから、筐体のデザイン自由度も高められる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0055】
例えば、上記実施形態においては、アンテナコイルとして平面コイルを用いているが、本発明は平面コイルに限定されず、例えば
図9に示すような巻線タイプのアンテナコイル25を用いてもよい。また、上記実施形態においては完全に真っ直ぐな直線スリットを例に挙げたが、本発明はこれに限定されず、例えば
図10(a)に示すような折れ曲がりパターンを有していてもよく、
図10(b)に示すような櫛歯パターンを有していてもよく、
図10(c)に示すような波形パターンを有していてもよい。さらに、上記実施形態においては、アンテナコイルがフレキシブル基板から見て外側を向いているが、内側を向くように実装してもかまわない。さらにまた、各実施形態を組み合わせて構成することも可能である。
【0056】
また、上記実施形態においては、アンテナコイルと平面視にて重なる位置にメイン回路基板が設けられているが、アンテナコイルと平面視にて重なる位置にバッテリーパックを設けることも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1〜5 アンテナ装置
10 携帯電子機器
11 カバー
11a 第1の金属部材
11b 第2の金属部材
11c 第3の金属部材
11d 第4の金属部材
12 金属シート
13 金属膜
13a 第1の金属部材
13b 第2の金属部材
14 樹脂フレーム
21 アンテナコイル
21a アンテナコイルの内径部
22 フレキシブル基板
23 絶縁膜
24 磁性体シート
25 アンテナコイル
30 メイン回路基板
31 バッテリーパック
32 ディスプレイ
33 カメラ
AP 開口部
Ia 電流
Ib 渦電流
SL1,SL2,SL3 スリット
φ 磁束