(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ステンレス鋼材は、さらに、質量%で、Nb:4.0%以下、Mo:0.01〜4.0%、Cu:0.01〜3.0%、V:0.03〜0.15%の1種または2種以上を含む、請求項1に記載の拡散接合用ステンレス鋼材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の技術などによりステンレス鋼材の拡散接合は直接法によっても可能となった。しかし、工業的には、直接法はステンレス鋼材の拡散接合方法の主流として定着するには至っていない。その主たる理由は、接合部の信頼性(接合強度や密着性)確保と、製造負荷抑制の両立が難しいことにある。従来の知見によると、直接法により接合部の信頼性を確保するためには接合温度を1100℃を超える高温としたり、ホットプレスやHIP等により高い面圧を付与したりする負荷の大きい工程を採用する必要があり、それによるコスト増大が避けられない。ステンレス鋼材の拡散接合を通常のインサート材挿入法と同等の作業負荷にて実施すると、接合部の信頼性を十分に確保することは難しいのが現状である。
【0006】
そこで、拡散接合時にフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの駆動力を利用すること(特許文献7)や、結晶粒成長の駆動力を利用すること(特許文献8)により、特別な高温加熱や高面圧を付与することなく、インサート材挿入法と同等の作業負荷で実施できる拡散接合品の製造方法が提案された。また、拡散接合に供するステンレス鋼材の表面酸化物をできるだけ低減して拡散接合性を高める方法(特許文献9、10)が提案された。これらの方法は、良好な接合性を確保するためには、使用されるステンレス鋼材の接合前の表面粗さを規制する必要がある。そのため、拡散接合製品に使用されるステンレス鋼材には一層の接合性の向上が求められている。
【0007】
本発明は、表面粗さの程度に影響されないで、拡散接合性をさらに向上させた拡散接合成型品に適したステンレス鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フェライト相、マルテンサイト相、オーステナイト相の少なくとも2種以上からなる複相組織を有する複相系ステンレス鋼材について、拡散接合前の平均結晶粒径、γmax量、クリープ伸びを制御することによって、鋼材の表面粗さに影響されることなく、良好な拡散接合性が得られることを見出し、拡散接合用ステンレス鋼材として本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 本発明は、拡散接合前の金属組織がフェライト相、マルテンサイト相またはオーステナイト相の少なくとも2種以上からなる複相組織を有する複相系ステンレス鋼材であって、前記複相組織の平均結晶粒径が20μm以下であり、下記(a)式で示されるγmaxが10〜90であり、1.0MPaの負荷を1000℃、0.5hで加えたときのクリープ伸びが0.2%以上である、拡散接合用ステンレス鋼材である。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−47Nb−52Al+470N+189 ・・・(a)式
ここで、上記(a)式における元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
【0010】
(2) 本発明は、前記ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.2%以下、Si:1.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Ni:10.0%
以下、Cr:10.0〜30.0%、N:0.3%以下、Ti:0.15%以下、Al:0.15%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、TiとAlの合計量が0.15%以下である、上記(1)に記載の拡散接合用ステンレス鋼材である。
【0011】
(3) 本発明は、前記ステンレス鋼材は、さらに、質量%で、Nb:4.0%以下、Mo:0.01〜4.0%、Cu:0.01〜3.0%、V:0.03〜0.15%の1種または2種以上を含む、上記(1)または上記(2)に記載の拡散接合用ステンレス鋼材である。
【0012】
(4) 本発明は、前記ステンレス鋼材は、さらに、質量%で、B:0.0003〜0.01%を含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の拡散接合用ステンレス鋼材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フェライト相、マルテンサイト相、オーステナイト相の少なくとも2種以上からなる複相組織を有する複相系ステンレス鋼が、拡散接合前の平均結晶粒径およびγmax、接合温度でのクリープ伸びを最適な範囲で備えたことにより、優れた拡散接合性を有するステンレス鋼材が提供されるため、良好な接合界面を呈する拡散接合成型品が提供される。さらに、TiおよびAlの合計含有量を抑制することにより、拡散接合性が向上した拡散接合成型品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
ステンレス鋼材の直接法による拡散接合は、従来の手法に従えば、(i)接合面の凹凸が変形して密着し、接合した箇所の接合面積が増大する過程、(ii)密着した箇所で接合前鋼材の表面酸化物皮膜が消失する過程、(iii)未接合部であるボイド内の残留ガスが母材と反応する過程が並行して進行することにより完了すると考えられている。
【0017】
発明者らは、これまで、上記(ii)の過程に着目して母材成分や不動態皮膜中に含まれる成分、表面粗さを規制し、工業的にネックとなる生産性の低下を回避すべく検討してきた。しかし、上記(ii)の工程を制御しても、工業的に安定した接合性の確保は困難な場合があり、上記(i)の工程も加味して安定した接合性を得るための鋼材に関して種々研究を重ねてきた。その結果、拡散接合に供するステンレス鋼が複相組織を有する複相系ステンレス鋼である場合、拡散接合前の結晶粒径を微細にすることが極めて有効であることを見出した。
【0018】
[複相組織]
ステンレス鋼は、一般に、常温での金属組織に基づいてオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などに分類される。本発明の「複相組織」は、フェライト相、マルテンサイト相、オーステナイト相の少なくとも2種以上からなる金属組織を有するものである。本発明の「複相系ステンレス鋼材」は、かかる複相組織を有するものであり、接合温度域でオーステナイト+フェライト2相組織となる鋼をいうものとする。このような2相系のステンレス鋼の中には、フェライト系ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼に分類されるステンレス鋼が含まれることもある。
【0019】
本発明では、低温・低面圧下で直接法による拡散接合を実現するために、拡散接合に供するステンレス鋼材に、フェライト相、マルテンサイト相、オーステナイト相の少なくとも2種以上からなる複相組織を有する複相系ステンレス鋼を用いる。このステンレス鋼は、拡散接合が進行する温度域では、フェライト相およびマルテンサイト相が一部オーステナイト相へ相変態し、オーステナイト相+フェライト相の2相組織となり、お互いの相が高温下で生じる結晶粒成長を抑制することで、微細な組織を維持し、粒界すべりを起因すると推定されるクリープ変形が容易に生じ得る。その結果、接合面の凹凸部において容易な変形が促進され、接合した箇所の接合面積が増大することにより、低温・低面圧下で直接法による拡散接合が可能となる。
【0020】
本発明の複相系ステンレス鋼材は、直接接触させて拡散接合により一体化させるステンレス鋼材の双方あるいはその一方に使用できるものである。一体化させる相手材としては、本発明のステンレス鋼材を適用できる他、それ以外の2相系鋼種、拡散接合の加熱温度域でオーステナイト単相となるオーステナイト系鋼種、フェライト単相となるフェライト系鋼種などを適用することができる。
【0021】
[成分組成]
本発明で適用対象となる複相系ステンレス鋼は、Ti、Al以外の成分元素については、拡散接合性の観点からは特にこだわる必要はなく、用途に応じて種々の成分組成を採用することができる。ただし、本発明では拡散接合が進行する温度域でオーステナイト+フェライト2相組織が対象であり、下記(a)式で示されるγmaxが10〜90を満たす成分組成の鋼を採用する必要がある。具体的な成分組成範囲として、以下のものを例示することができる。
【0022】
質量%で、C:0.2%以下、Si:1.0%以下、Mn:3.0%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Ni:10.0%
以下、Cr:10.0〜30.0%、N:0.3%以下、Ti:0.15%以下、Al:0.15%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、TiとAlの合計量が0.15%以下である。
【0023】
さらに、質量%で、Nb:4.0%以下、Mo:0.01〜4.0%、Cu:0.01〜3.0%、V:0.03〜0.15%の1種または2種以上を含むことができる。さらに、質量%で、B:0.0003〜0.01%を含むことができる。
【0024】
以下、ステンレス鋼材に含まれる成分について説明する。
【0025】
Cは、固溶強化により鋼の強度、硬さを向上させるが、含有量が多くなると、鋼の加工性、靱性を低下させるため、C含有量は、0.2%以下とした。好ましくは、0.08%以下である。
【0026】
Siは、鋼の脱酸に使用されるが、過多であると靭性、加工性を低下させる。また、強固な表面酸化膜を形成して、拡散接合性を阻害するため、1.0%以下とした。好ましくは、0.6%以下である。
【0027】
Mnは、高温酸化特性を向上させる元素であるが、過多であると、加工硬化して冷間加工性を低下させるため、3.0%以下とした。
【0028】
Pは、不可避的不純物であり、粒界腐食性を高めるとともに、靭性の低下を招くため、0.05%以下が好ましく、0.03質量%以下がより好ましい。
【0029】
Sは、不可避的不純物であり、熱間加工性を低下させるため、0.03%以下が好ましい。
【0030】
Niは、オーステナイト生成元素であり、また、還元性酸環境中での耐食性を向上させる作用を有するが、過多であると、オーステナイト相が安定となり、フェライト結晶の成長を抑制することができないため、安定なオーステナイト単相を形成してフェライト結晶の成長を抑制するため、10.0%以下とした。
【0031】
Crは、不働態被膜を形成して耐食性を付与する元素である。
10.0%未満では、その効果が十分でない。
30.0%を超えると、加工性が低下する。そのため、Cr含有量は、10.0〜30.0%とした。
【0032】
Nは、不可避的不純物であり、冷間加工性を劣化させるため、0.3%以下が好ましい。
【0033】
Tiは、C、Nを固定する作用を有するため、耐食性や加工性を改善するうえで有効な元素である。Alは、脱酸剤として添加されることが多い。他方、TiおよびAlは、易酸化性元素であるから、鋼材表面の酸化皮膜中に含まれるTi酸化物やAl酸化物は、真空拡散接合の熱処理において還元されにくい。そのため、これらのTi酸化物やAl酸化物が多いと、拡散接合時に上記(ii)の過程の進行を妨げるおそれがあることから、
Ti含有量は、0.15質量%以下、Al含有量は、0.15質量%以下が好ましく、より好ましくは0.05質量%以下である。そして、TiとAlの合計含有量は、0.15質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以下である。
【0034】
Nbは、炭化物または炭窒化物を形成し、鋼の結晶粒を微細化して靭性を高める効果があるが、過多であると加工性の低下を招くため、4.0質量%以下が好ましい。
【0035】
Moは、強度を低下させることなく耐食性を向上させる作用を有する。過多であると加工性の低下を招くため、0.01〜4.0質量%が好ましい。
【0036】
Cuは、耐食性を向上させるのに効果的であり、また、フェライト相を生成する作用を有するが、過多であると加工性が低下するため、0.01〜3.0質量%が好ましい。
【0037】
Vは、固溶Cを炭化物として固定することにより、加工性や靭性の向上に寄与する元素であるが、過剰に含有すると、製造性の低下を招くので、0.03〜0.15%が好ましい。
【0038】
Bは、Nを固定することにより、耐食性や加工性の改善に寄与する元素であるが、過剰に含有すると、熱間加工性の低下を招くので、0.0003〜0.01%が好ましい。
【0039】
上記化学組成を有する複相系ステンレス鋼として、特に下記(a)式で示されるγmaxが10〜90である鋼を適用することができる。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−47Nb−52Al+470N+189 ・・・(a)式
ここで、上記(a)式における、C、Si等の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
【0040】
γmaxは、1100℃程度に加熱保持した場合に生成するオーステナイト相の量(体積%)を表す指標である。γmaxが100以上の場合はオーステナイト単相となる鋼種であるとみなすことができ、γmaxが0以下の場合はフェライト単相となる鋼種であるとみなすことができる。
本発明の複相系ステンレス鋼は、γmaxが10〜90であると、拡散接合が進行する温度域でオーステナイト+フェライト2相となり、この2相が互いに高温下での結晶粒成長を抑制するため、微細結晶組織を得るのに有効である。γmaxが50〜80であるとさらに好ましい。
【0041】
[接合前の平均結晶粒径]
本発明の複相系ステンレス鋼は、細粒組織であるほど、上記(i)の過程を迅速に進行させることができる。そのため、接合前の平均結晶粒径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0042】
[表面粗さ]
本発明の微細結晶粒を有する複相系ステンレス鋼は、上記(i)の過程が迅速に進行するので、上記(ii)の過程による影響が小さく、表面粗さRaの程度によって接合性が制約されることはない。ただ、拡散接合に供するステンレス鋼材の表面粗さが大きくなると、上記(ii)の過程における酸化皮膜の消失が遅くなる傾向にある。そのため、ステンレス鋼材の表面は、平滑であることが好ましく、表面粗さRaとしては0.3μm以下が好ましい。
【0043】
[拡散接合製品の製造方法]
本発明のステンレス鋼材は、直接法による真空拡散接合を行うことにより、接合性の良好な拡散接合品が得られる。具体的な拡散接合処理としては、例えば、接触面圧0.1〜1.0MPaで直接接触させた状態とし、圧力1.0×10
−2Pa以下、好ましくは1.0×10
−3Pa以下、露点−40℃以下の炉内で、900〜1100℃に加熱保持することにより、拡散接合を進行させる。保持時間は、0.5〜3hの範囲で調整すればよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で適宜変更して実施できる。
【0045】
表1に示す化学組成を有するステンレス鋼について、30kgの真空溶解で溶製し、得られた鋼塊を30mm厚の板に鍛造した後、1230℃で2hの熱間圧延を行って3.0mm厚の熱延板を得た。次いで、焼鈍、酸洗、冷間圧延を行って、1.0mmの厚さの冷延板を得た。その後、該冷延板に後述する焼鈍処理を施して冷延焼鈍板を製造し、これを供試材とした。
【0046】
【表1】
【0047】
FM−1鋼〜FM−4鋼は、拡散接合前の金属組織がフェライト+マルテンサイト2相鋼(α+M相)、FA−1鋼およびFA−2鋼は、拡散接合前の金属組織がフェライト+オーステナイト2相鋼(α+γ相)、F−1鋼は、拡散接合前の金属組織がフェライト単相鋼(α相)、A−1鋼は、拡散接合前の金属組織がオーステナイト単相鋼(γ相)である。M−1鋼は、拡散接合前の金属組織がマルテンサイト単相鋼(M相)である。
各鋼板は、冷延後の焼鈍温度を900℃〜1200℃の間で変化させることにより、平均結晶粒径の異なる供試材を得た。また、表面粗さの影響を調査するため、一部の鋼板を用いて冷延焼鈍板の仕上げ処理を変更することにより、表面粗さRaの異なる供試材を得た。
【0048】
(平均結晶粒径)
鋼板の拡散接合前の平均結晶粒径(μm)は、冷間圧延方向に平行な板厚断面の金属組織を連続した1mm
2以上で観察し、求積法を用いて単位面積内に含まれる結晶粒の個数を算出し、結晶粒1つ当たりの平均面積を1/2乗した値を用いた。
【0049】
(表面粗さ)
表面粗さRa(μm)は、表面粗さ測定装置(東京精密社製;SURFCOM2900DX)により、圧延方向に対し直角方向の表面粗さRaを測定した。
【0050】
(クリープ伸び)
クリープ伸びは、以下に示す方法で測定した。各鋼板から、JIS13B試験片を切り出し、一方のつかみ部中央にφ5mmの穴を開けた。当該試験片に標点間50mmのけがきを入れた後、高温引張試験機において、穴を有するつかみ部が下方となるように取り付けた。標点間内の温度が1000℃になるまで昇温し、その温度で15min均熱した後、1.0MPaの応力が加わるように算出された錘を備えたSUS310S製ワイヤを当該つかみ部の穴に取り付けて、0.5h保持した。その後、当該SUS310S製ワイヤを試験片から取り外し、さらに空冷により常温まで冷却した。そして、標点間の長さLを測定し、クリープ伸び(%)として、(L−50)/50×100を算出した。
【0051】
(接合性試験)
各鋼板から20mm×20mmの平板試験片を取り出し、以下の方法で拡散接合を行った。同一鋼材2枚の試験片を互いに表面同士が接触するように積層した状態とし、錘を有する冶具を用いて、これら2枚の試験片の接触表面に付与される面圧を0.1MPaとなるように調整した。以下、積層した平板試験片を「鋼材」という。当該鋼材が積層された状態のものを「積層体」という。その後、冶具と積層体を真空炉に挿入し、真空引きを行って圧力1.0×10
−3〜1.0×10
−4Paの初期真空度とした後、1000℃まで約1hで昇温し、その温度で2h保持した後、冷却室に移して冷却した。冷却は900℃まで上記真空度を維持し、その後Arガスを導入して90kPaのArガス雰囲気中で約100℃以下まで冷却した。上記熱処理を終えた積層体について、超音波厚さ計(オリンパス社製;Model35DL)を用いて、
図1に示すように20mm×20mmの積層体表面上に3mmピッチで設けた49箇所の測定点において厚さ測定を行った。プローブ径は1.5mmとした。ある測定点での板厚測定値が2枚の鋼材の合計板厚を示す場合には、その測定点に対応する両鋼材の界面位置では原子の拡散によって両鋼材が一体化しているとみなすことができる。一方、板厚測定値が両鋼材の合計板厚
と異なる場合には、その測定点に対応する両鋼材の界面位置に未接合部(欠陥)が存在する
とみなすことができる。加熱処理後の積層体の断面組織と、この測定手法により得られた測定結果との対応関係を調べたところ、測定結果が両鋼材の合計板厚となった測定点の数を測定総数49で除した値(これを、以下「接合率」という。)によって、接触面積に占める接合部分の面積率が精度良く評価できることを確認した。そこで、以下の評価基準で拡散接合性を評価した。
◎:接合率100%(優秀)
○:接合率90〜99%(良好)
△:接合率60〜89%(やや良好)
×:接合率0〜59%(不良)
種々の検討の結果、○評価において拡散接合部の強度が十分に確保され、かつ両部材間のシール性(連通する欠陥を介する気体の漏れが生じない性質)も良好であることから、○評価以上を合格と判定した。
【0052】
表2に各鋼の冷延焼鈍後の平均結晶粒径およびγmax、表面粗さ、クリープ伸び、接合性評価結果を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示すように、本発明例1〜6は、接合率が90%以上であり、1000℃という比較的低温でかつ0.1MPaという低い面圧であっても良好な拡散接合性を示した。また、本発明例1〜6は、表面粗さRaの程度にかかわらず、良好な拡散接合性を示しており、表面粗さによる影響が見られなかった。本発明の構成を備えた複相系ステンレス鋼材は、表面粗さが増大しても拡散接合性が低下しないので、その拡散接合性が鋼材表面性状に制約されないことが分かる。
なお、表2の数値に付した下線は、本発明の範囲外であることを示す。
【0055】
それに対し、比較例1〜10は、平均結晶粒径、γmax、クリープ伸びが本発明の範囲から外れていたので、2相高温域での接合面の凹凸部の変形が小さく、接合した箇所の接合面積が増加しなかった。そのため、その多くの接合率は、80%未満のやや不良または不良であった。
また、比較例5〜7のフェライト単相鋼、比較例8〜9のオーステナイト単相鋼について、表面粗さRaによる接合率の変化をみると、表面粗さが極めて小さい比較例7と比較例9が90%以上の接合率を示した一方で、それ以外の比較例は、表面粗さが大きく、接合率が低下した。このように、単相系では、表面粗さが大きいと接合率が不良となり、その拡散接合性が表面粗さにより制約されることが分かる。