(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を抑制または治療することに使用するための、カルシニューリン阻害剤を含む組成物と組み合わせた、5−(2−(4−フルオロ−3−メトキシ−5−メチルフェニルアミノ)−5−メチルピリミジン−4−イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール−2(3H)−オン(化合物I)または(5−(2−(4−フルオロ−3−メトキシ−5−メチルフェニルアミノ)−5−メチルピリミジン−4−イルアミノ)−2−オキソベンゾ[d]オキサゾール−3(2H)−イル)メチルリン酸ナトリウム(化合物II)の遊離酸またはその薬学的に許容される塩を含むJAK1/3阻害剤を含む組成物であって、ここで、JAK1/3阻害剤とカルシニューリン阻害剤の併用効果は個別としてのJAK1/3阻害剤またはカルシニューリン阻害剤の効果より大きく、JAK1/3阻害剤はカルシニューリン阻害剤との組み合わせで同種移植片拒絶反応を抑制または治療するように作用し、カルシニューリン阻害剤がタクロリムスであり、JAK1/3阻害剤を含む組成物とカルシニューリン阻害剤を含む組成物が移植レシピエントに逐次、実質的に同時に、または同時に投与されるように用いられる、前記組成物。
移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を抑制または治療することに使用するための、カルシニューリン阻害剤を含む組成物と組み合わせた、5−(2−(4−フルオロ−3−メトキシ−5−メチルフェニルアミノ)−5−メチルピリミジン−4−イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール−2(3H)−オン(化合物I)または(5−(2−(4−フルオロ−3−メトキシ−5−メチルフェニルアミノ)−5−メチルピリミジン−4−イルアミノ)−2−オキソベンゾ[d]オキサゾール−3(2H)−イル)メチルリン酸ナトリウム(化合物II)の遊離酸またはその薬学的に許容される塩を含むJAK1/3阻害剤を含む組成物であって、ここで、JAK1/3阻害剤またはカルシニューリン阻害剤の少なくとも一方は、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を抑制または治療するための準最適用量で投与されるように用いられ、そしてJAK1/3阻害剤とカルシニューリン阻害剤の併用効果は個別としてのJAK1/3阻害剤またはカルシニューリン阻害剤の効果より大きく、JAK1/3阻害剤はカルシニューリン阻害剤との組み合わせで同種移植片拒絶反応を抑制または治療するように作用し、カルシニューリン阻害剤がタクロリムスであり、JAK1/3阻害剤を含む組成物とカルシニューリン阻害剤を含む組成物が移植レシピエントに逐次、実質的に同時に、または同時に投与されるように用いられる、前記組成物。
移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を抑制または治療することに使用するための、5−(2−(4−フルオロ−3−メトキシ−5−メチルフェニルアミノ)−5−メチルピリミジン−4−イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール−2(3H)−オン(化合物I)または(5−(2−(4−フルオロ−3−メトキシ−5−メチルフェニルアミノ)−5−メチルピリミジン−4−イルアミノ)−2−オキソベンゾ[d]オキサゾール−3(2H)−イル)メチルリン酸ナトリウム(化合物II)の遊離酸またはその薬学的に許容される塩を含むJAK1/3阻害剤およびカルシニューリン阻害剤を含む組成物であって、ここで、JAK1/3阻害剤とカルシニューリン阻害剤の併用効果は個別としてのJAK1/3阻害剤またはカルシニューリン阻害剤の効果より大きく、JAK1/3阻害剤はカルシニューリン阻害剤との組み合わせで同種移植片拒絶反応を抑制または治療するように作用し、カルシニューリン阻害剤がタクロリムスである、前記組成物。
カルシニューリン阻害剤が、カルシニューリン阻害剤の一連の漸減された用量として移植レシピエントに投与されるように用いられる、請求項1〜8のいずれか一項記載の組成物。
5−(2−(4−フルオロ−3−メトキシ−5−メチルフェニルアミノ)−5−メチルピリミジン−4−イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール−2(3H)−オン(化合物I)または(5−(2−(4−フルオロ−3−メトキシ−5−メチルフェニルアミノ)−5−メチルピリミジン−4−イルアミノ)−2−オキソベンゾ[d]オキサゾール−3(2H)−イル)メチルリン酸ナトリウム(化合物II)の遊離酸またはその薬学的に許容される塩とカルシニューリン阻害剤とを含み、カルシニューリン阻害剤がタクロリムスである、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を抑制または治療するための組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
I. 略語
AUC 曲線下面積
BN Brown Norway系ラット
CHEP 培養ヒト赤血球前駆細胞
CI 併用係数
化合物I 5-(2-(4-フルオロ-3-メトキシ-5-メチルフェニルアミノ)-5-メチルピリミジン-4-イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール-2(3H)-オン
化合物II (5-(2-(4-フルオロ-3-メトキシ-5-メチルフェニルアミノ)-5-メチルピリミジン-4-イルアミノ)-2-オキソベンゾ[d]オキサゾール-3(2H)-イル)メチルリン酸ナトリウム
化合物III 5-(2-(3-メトキシ-4,5-ジメチルフェニルアミノ)-5-メチルピリミジン-4-イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール-2-(3H)-オン
DSA ドナー特異的抗体
EPO エリスロポエチン
HD 高用量
H+E ヘマトキシリンとエオシン
IFN インターフェロン
IL インターロイキン
IMPDH イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ
JAK ヤヌスキナーゼ
LD 低用量
Lew Lewis系ラット
MCP-1 単球走化性タンパク質-1
MLR 混合リンパ球反応
mTOR 哺乳類ラパマイシン標的タンパク質
Tac タクロリムス
Th Tヘルパー細胞
【0014】
II. 用語
特に断りのない限り、技術用語は従来の使用法に従って用いられる。特に説明がない限り、本明細書中で用いるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。単数形の用語「a」、「an」および「the」は、文脈が別途明らかに指示しない限り、複数形の指示対象を含む。本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料は本開示の実施または試験に用いることができるが、適切な方法および材料が以下に記載される。
【0015】
本明細書に記載のすべての刊行物、特許出願、特許、および他の引用文献は、それらの全体が参照により組み入れられる。コンフリクトの場合には、用語の説明を含めて、本明細書が支配するものとする。さらに、材料、方法および例は例示にすぎず、限定することを意図していない。
【0016】
本開示のさまざまな態様の検討を容易にするために、以下に特定の用語の説明が提供される。
【0017】
5-(2-(4-フルオロ-3-メトキシ-5-メチルフェニルアミノ)-5-メチルピリミジン-4-イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール-2(3H)-オン(化合物I): 下記の構造を有する化合物:
化合物IはJAK1/3キナーゼ阻害剤である(例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際特許出願公開番号WO 2010/085684を参照されたい)。
【0018】
5-(2-(3-メトキシ-4,5-ジメチルフェニルアミノ)-5-メチルピリミジン-4-イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール-2-(3H)-オン(化合物III): 下記の構造を有する化合物:
化合物IIIはJAK1/3キナーゼ阻害剤である(例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際特許出願公開番号WO 2010/085684を参照されたい)。
【0019】
(5-(2-(4-フルオロ-3-メトキシ-5-メチルフェニルアミノ)-5-メチルピリミジン-4-イルアミノ)-2-オキソベンゾ[d]オキサゾール-3(2H)-イル)メチルリン酸ナトリウム(化合物II): 下記の構造を有する化合物:
化合物IIはJAK1/3キナーゼ阻害剤である化合物Iのプロドラッグである(例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際特許出願公開番号WO 2010/085684を参照されたい)。
【0020】
投与: 治療薬などの薬剤を、任意の効果的な経路で、対象に提供するまたは与えること。典型的な投与経路としては、限定するものではないが、注射(例えば、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、および静脈内)、経口、管内、舌下、直腸、経皮、鼻腔内、膣および吸入経路が挙げられる。
【0021】
同種移植片拒絶反応: 「同種移植」は、ある個体に由来する臓器、組織、体液または細胞を、遺伝学的に同一でない同種の個体に移植することである。本明細書中で用いる「同種移植片拒絶反応」は、同種移植片に対する免疫応答に起因する、移植レシピエントにおける移植された細胞、組織、臓器などに対する部分的または完全な免疫応答を指す。同種移植片は、ドナー細胞上に存在する組織適合抗原に対するレシピエントの細胞媒介性または体液性のいずれかの免疫反応を通して拒絶されることがある。最強の抗原として、ヒト白血球グループA(HLA)抗原が挙げられる。
【0022】
カルシニューリン阻害剤: カルシニューリンのホスファターゼ活性を阻害する免疫抑制化合物のクラス。カルシニューリン阻害剤は、例えば、イムノフィリン(例:サイクロフィリンまたはFKBP1A)への結合と、これに続くカルシニューリンへの該複合体の結合、およびカルシニューリンのホスファターゼ活性の阻害によって、作用する。典型的なカルシニューリン阻害剤としては、シクロスポリン、タクロリムス、ピメクロリムス、およびボクロスポリンが挙げられる。
【0023】
免疫抑制剤: 体液性もしくは細胞性免疫系または補体系の成分など、免疫系の1つまたは複数の側面の機能または活性を低下させる任意の化合物。免疫抑制剤は「免疫抑制薬」とも呼ばれる。
【0024】
いくつかの例では、免疫抑制剤は、JAK1および/またはJAK3の活性を阻害しない(例えば、実質的に阻害しない)免疫抑制化合物を含む、「非JAK1/3阻害免疫抑制剤」である。そのような非JAK1/3阻害免疫抑制剤としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:(1)代謝拮抗薬、例えばプリン合成阻害剤(例えば、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMPDH)阻害剤、例:アザチオプリン、ミコフェノール酸、およびミコフェノール酸モフェチル)、ピリミジン合成阻害剤(例:レフルノミドおよびテリフルノミド)、ならびに葉酸拮抗薬(例:メトトレキサート);(2)カルシニューリン阻害剤、例えばタクロリムス、シクロスポリンA、ピメクロリムス、およびボクロスポリン;(3)TNFα阻害剤、例えばサリドマイドおよびレナリドマイド;(4)IL-1受容体アンタゴニスト、例えばアナキンラ;(5)哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害剤、例えばラパマイシン(シロリムス)、デフォロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、およびバイオリムスA9;(6)コルチコステロイド、例えばプレドニゾン;ならびに(7)多くの細胞標的または血清標的のいずれか1つに対する抗体(抗リンパ球グロブリンおよび抗胸腺細胞グロブリンを含む)。
【0025】
典型的な細胞標的およびそれぞれの阻害化合物としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:補体成分5(例:エクリズマブ);腫瘍壊死因子(TNF)(例:インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、アフェリモマブおよびゴリムマブ);IL-5(例:メポリズマブ);IgE(例:オマリズマブ);BAYX(例:ネレリモマブ);インターフェロン(例:ファラリモマブ(faralimomab));IL-6(例:エルシリモマブ(elsilimomab));IL-12およびIL-13(例:レブリキズマブおよびウステキヌマブ);CD3(例:ムロモナブCD3、オテリキシズマブ、テプリズマブ、ビシリズマブ);CD4(例:クレノリキシマブ、ケリキシマブおよびザノリムマブ);CD11a(例:エファリズマブ);CD18(例:エルリズマブ);CD20(例:アフツズマブ、オクレリズマブ、パスコリズマブ);CD23(例:ルミリキシマブ);CD40(例:テネリキシマブ、トラリズマブ);CD62L/L-セレクチン(例:アセリズマブ);CD80(例:ガリキシマブ);CD147/ベイシジン(basigin)(例:ガビリモマブ);CD154(例:ルプリズマブ);BLyS(例:ベリムマブ);CTLA-4(例:イピリムマブ、トレメリムマブ);CAT(例:ベルチリムマブ(bertilimumab)、レルデリムマブ(lerdelimumab)、メテリムマブ(metelimumab));インテグリン(例:ナタリズマブ);IL-6受容体(例:トシリズマブ);LFA-1(例:オデュリモマブ(odulimomab));ならびにIL-2受容体/CD25(例:バシリキシマブ、ダクリズマブ、イノリモマブ)。
【0026】
症状の抑制または治療: 症状もしくは疾患の「抑制」とは、症状もしくは疾患(例えば、対象における同種移植片拒絶反応)の完全な発現を抑制することを意味する。対照的に、「治療」とは、症状もしくは疾患が発現し始めた後で、その症状もしくは疾患の兆候や症候を改善する治療的介入を意味する。疾患もしくは症状を抑制または治療するための薬学的組成物の量を投与される対象は、そのような疾患の標準的な診断技術によって、例えば家族歴または疾患や症状を発現するリスク因子に基づいて、識別することができる。
【0027】
JAK1/3阻害剤: ヤヌスキナーゼ(JAK)は、JAK1、JAK2、JAK3、およびTYK2を含む細胞質タンパク質チロシンキナーゼのファミリーである。サイトカインのその受容体への結合時に(例えば、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、およびIL-21)、結合したJAKの細胞質尾部が近接して、JAKのチロシン残基のトランスリン酸化が起こり、結果的にJAK活性化が生じる。いくつかの例では、2,4-ピリミジンジアミン化合物(例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際公開番号WO 2010/085684に記載されるもの)はJAKの阻害剤である。いくつかの例では、JAK1/3阻害剤は、JAK1および/またはJAK3活性を選択的に阻害する化合物であり、例えば、それがJAK2および/またはTYK2活性を阻害するよりも大きな程度にJAK1およびJAK3活性を阻害する。特定の例では、JAK1/3阻害剤は、5-(2-(4-フルオロ-3-メトキシ-5-メチルフェニルアミノ)-5-メチルピリミジン-4-イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール-2(3H)-オン(化合物I)である。
【0028】
薬学的に許容される担体: 本開示において有用な薬学的に許容される担体は従来のものである。Remington: The Science and Practice of Pharmacy, The University of the Sciences in Philadelphia, 編者, Lippincott, Williams, & Wilkins, Philadelphia, PA, 第21版 (2005)は、本明細書に開示される薬剤の医薬送達に適した組成物および製剤を記載している。
【0029】
一般に、担体の性質は採用される特定の投与方法に依存する。例えば、非経口製剤は通常、ビヒクルとして水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなどの薬学的および生理学的に許容される液体が含まれる注射液を含む。固体組成物(例えば、粉剤、丸剤、錠剤またはカプセル剤の形態)の場合には、慣用の非毒性固体担体として、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムを挙げることができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与される薬学的組成物は、少量の非毒性補助物質、例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、防腐剤、pH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウラートを含むことができる。
【0030】
薬学的に許容される塩: 化合物の塩であって、その塩は、さまざまな有機および無機の対イオン、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、またはテトラアルキルアンモニウムから誘導されるか、あるいは分子が塩基性の官能基を含む場合は、有機または無機酸の塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、酒石酸塩、メシル酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、またはシュウ酸塩である。薬学的に許容される酸付加塩は、生物学的にまたはその他の点で望ましい酸パートナーによって形成されるが、遊離塩基の生物学的有効性を保持する塩であり、そうした酸パートナーは、例えば、無機酸(塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、もしくはリン酸など)または有機酸(酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、もしくはサリチル酸など)である。薬学的に許容される塩基付加塩としては、無機塩基から誘導されるもの、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、またはアルミニウム塩が挙げられる。典型的な塩はアンモニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩である。薬学的に許容される非毒性の有機塩基から誘導される塩には、一級、二級および三級アミン、天然に存在する置換アミンを含む置換アミン、環状アミン、ならびに塩基性イオン交換樹脂の塩が含まれ、そうした有機塩基は、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などである。典型的な有機塩基はイソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン、およびカフェインである。例えば、Handbook of Pharmaceutical Salts, Properties, Selection and Use, Wiley VCH (2002); Berge et al., J. Pharm. Sci. 66:1-19, 1977を参照されたい。
【0031】
プロドラッグ: 例えば、腸内での加水分解または血液中での酵素的変換によって、親化合物を生成するようにインビボで変換される化合物。一般的な例としては、カルボン酸部分をもつ活性形態を有する化合物のエステルおよびアミド形態が挙げられるが、これらの形態に限定されるものではない。例えば、Prodrugs as Novel Delivery Systems, Higuchi and Stella編, ACS Symposium Series, Vol. 14, 1975; Bioreversible Carriers in Drug Design, Roche編, Pergamon Press, 1987を参照されたい。
【0032】
対象: ヒトおよび非ヒト哺乳類を含むカテゴリの、生きている多細胞脊椎生物。いくつかの例では、対象は移植レシピエント(例えば、肝臓、心臓、肺、または腎臓移植などの臓器移植を受けた対象)である。
【0033】
準最適用量: 治療効果(例えば、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応の治療もしくは抑制)をもたらさないか、または最適ではない治療効果を生じさせる薬剤の量。いくつかの例では、例えば、副作用(カルシニューリン阻害免疫抑制剤の場合の腎毒性など)の発生または重症度を低減させるために、対象に治療薬の準最適用量を投与することが望ましい。当業者であれば、対象、治療すべき疾患のタイプおよび重症度、治療薬などを考慮に入れて、準最適用量を決定することができる。
【0034】
開示された方法のいくつかの具体例では、薬剤はタクロリムスであり、そして準最適用量は、約0.2mg/kg未満の用量、例えば、ヒト対象では約0.15、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02mg/kg、またはそれより少ない用量を含む。
【0035】
相乗効果: 個別としての各薬剤の合計の効果より大きい、例えば相加効果より大きい、効果をもたらす2種以上の薬剤(例えば、2種以上の治療薬)の作用。2種以上の薬剤が相乗効果を生じるか否かを判定するための方法は、当業者に公知である。いくつかの例では、相乗作用はアイソボログラムを用いて決定される(例えば、Tallarida, J. Pharmcol. Exp. Ther. 298:865-872, 2001を参照されたい)。アイソボログラム上の「線の下側」のポイントは相乗作用を示す一方で、アイソボログラム上の「線の上側」のポイントは劣加法性(subadditive)または拮抗作用を示す。他の例では、2種以上の化合物の相乗効果は、併用係数(combination index: CI)を用いて決定される。例えば、Chou, Synergism and Antagonism in Chemotherapy, Chou and Rideout編, pp. 61-102, Academic Press, 1991; Chou, Pharmacol. Rev. 68:621-681, 2006を参照されたい。1未満のCI値(<1)は相乗作用を示す;1に等しいCI値は相加作用を示す;そして1を超えるCI値(>1)は拮抗作用を示す。用量-効果曲線およびCI値は、市販のソフトウェア、例えばCalcuSyn (Biosoft社, Cambridge, 英国)またはCompuSyn (ComboSyn Inc., Paramus, NJ)を利用して決定することができる。
【0036】
タクロリムス: FK506またはフジマイシン(fujimycin)の別名でも知られる、カルシニューリン阻害免疫抑制剤。タクロリムスは、細菌ストレプトマイセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)が含まれていた日本の土壌サンプルの発酵ブロス中で最初に発見された23員環のマクロライド系ラクトンである。この化合物は、患者の免疫系の活性を低減し、かつ同種移植片拒絶反応の危険性を下げるために、同種異系臓器移植後に使用されることが多い。タクロリムスはT細胞およびインターロイキン-2活性を低減させる。それはまた、重度のアトピー性皮膚炎(湿疹)、骨髄移植後の重度の難治性ブドウ膜炎、および皮膚疾患白斑を治療する際の局所用製剤にも使用される。
【0037】
治療に有効な量: 疾患または症状、例えば移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応、を治療または抑制するのに十分な化合物または化合物の組み合わせの量。治療に有効な量である化合物または化合物の組み合わせの量は、その化合物、疾患または症状およびその重症度、対象の年齢などに応じて変化する。治療に有効な量は当業者によって決定され得る。
【0038】
III. 同種移植片拒絶反応を治療または抑制する方法
本明細書には、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を治療または抑制(または場合によっては予防)する方法が開示される。前記方法は、JAK1/3阻害剤と非JAK1/3阻害免疫抑制剤の組み合わせを移植レシピエントに投与することを含む。いくつかの例では、移植レシピエントに投与されるJAK1/3阻害剤および/または非JAK1/3阻害免疫抑制剤の量は、低減された量(例えば、標準的な投与量より少ない)または準最適量であって、同種移植片拒絶反応を抑制または治療するのに有効であるが、副作用の数、重症度および/または持続時間を低減させる可能性のある量である。
【0039】
いくつかの態様では、前記方法は、移植レシピエントに、第1の量の、5-(2-(4-フルオロ-3-メトキシ-5-メチルフェニルアミノ)-5-メチルピリミジン-4-イルアミノ)ベンゾ[d]オキサゾール-2(3H)-オン(化合物I)またはそのプロドラッグを含むJAK1/3阻害剤を投与する段階、および該移植レシピエントに第2の量の非JAK1/3阻害免疫抑制剤を投与する段階を含み、ここで、第1の量と第2の量の併用効果は個別としての第1の量または第2の量の効果より大きく、JAK1/3阻害剤は非JAK1/3阻害免疫抑制剤との組み合わせで同種移植片拒絶反応を抑制または治療するように作用する。
【0040】
他の態様では、前記方法は、移植レシピエントに第1の量の化合物Iまたはそのプロドラッグを含むJAK1/3阻害剤を投与する段階、および該移植レシピエントに第2の量の非JAK1/3阻害免疫抑制剤を投与する段階を含み、ここで、第1の量または第2の量の少なくとも一方(または両方)は個別に同種移植片拒絶反応を抑制または治療するための準最適用量であり、そして第1の量と第2の量の併用効果は個別としての第1の量または第2の量の効果より大きく、JAK1/3阻害剤は非JAK1/3阻害免疫抑制剤との組み合わせで同種移植片拒絶反応を抑制または治療するように作用する。準最適用量(例えば、化合物Iまたはカルシニューリン阻害剤などの非JAK1/3阻害免疫抑制剤の準最適用量)は、治療効果(例えば、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応の治療もしくは抑制)をもたらさないか、または最適ではない治療効果を生じさせる量を含む。いくつかの例では、例えば、副作用(例えば、カルシニューリン阻害免疫抑制剤の場合の腎毒性)の発生または重症度を低減させるために、少なくとも1種の治療薬の準最適用量を対象に投与することが望ましい。
【0041】
いくつかの例では、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を抑制または治療するための第1の量(例えば、化合物Iまたはそのプロドラッグの量)と第2の量(例えば、カルシニューリン阻害剤などの非JAK1/3阻害免疫抑制剤の量)の併用効果は、第1の量または第2の量の個別の効果より大きい。いくつかの例では、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を抑制または治療するための第1の量と第2の量の併用効果は、相加的または実質的に相加的である。他の例では、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を抑制または治療するための第1の量と第2の量の併用効果は、相乗的である。
【0042】
当業者は、JAK1/3阻害剤である化合物Iまたはそのプロドラッグと非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、タクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤)の併用効果が、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を治療または抑制するために、個別にいずれか一方の化合物の効果より大きいか否かを判定することができる。薬物の併用効果(例えば、相加作用または相乗作用)を評価するための方法としては、以下が挙げられる:アイソボラー(isobolar)分析または相加複合曲線(additive composite curve)(Tallarida, J. Pharmacol. Exp. Ther. 298:865-872, 2001)、Bliss独立性モデル(Bliss, Ann. Appl. Biol. 26:585-615, 1939)、Loewe相加性モデル(Loewe, Arzneim-Forsch 3:285-290, 1953)、Chou-Talalay併用係数(CI; Chou and Talalay, Trends Pharmacol. Sci. 4:450-454, 1983; Chou and Talalay, Adv. Enzyme Regul. 22:27-55, 1984; Chou, Cancer Res. 70:440-446, 2010)、およびその他(例えば、Yan et al., BMC Systems Biol. 4:50, 2010)。特定の例では、JAK1/3阻害剤(例えば化合物I)と非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えばタクロリムス)の組み合わせは、それらのCIが1未満であるか1に等しい場合には、個別にいずれか一方の化合物より同種移植片拒絶反応を治療または抑制するための効果が大きい。いくつかの例では、1のCIは、化合物Iと非JAK1/3阻害免疫抑制剤の併用効果が相加的であることを示す。他の例では、1未満のCIは、化合物Iと非JAK1/3阻害免疫抑制剤の併用効果が相乗的であることを示す。特定の態様では、化合物I(またはそのプロドラッグ)と非JAK1/3阻害免疫抑制剤の併用効果の結果として、該薬剤の一方または両方は、該薬剤が個別に投与される場合の量より少ない用量で移植レシピエントに投与することができ、結果的に副作用(例えば、臓器毒性)が減少する。
【0043】
特定の態様において、本明細書に開示される方法は、同種移植片拒絶反応を治療または抑制するために移植レシピエントにJAK1/3阻害剤、例えば化合物Iまたはそのプロドラッグ(例えば化合物II)を投与することを含む。化合物Iは下記の構造を有する2,4-ピリミジンジアミン化合物である:
化合物IIは下記の構造を有する化合物Iのプロドラッグ形態である:
これらの化合物、その合成方法、およびJAKキナーゼ(例えば、JAK1およびJAK3)の阻害を評価するための方法は、参照により本明細書に組み入れられる国際特許出願公開番号WO 2010/085684に記載されている。
【0044】
本明細書に開示される方法はまた、同種移植片拒絶反応を治療する、抑制する、あるいは予防するために移植レシピエントに非JAK1/3阻害免疫抑制剤を投与することを含む。非JAK1/3阻害免疫抑制剤には、JAK1またはJAK3キナーゼ活性を実質的に阻害しない免疫抑制化合物が含まれる。いくつかの例では、非JAK1/3阻害免疫抑制剤は、JAK1またはJAK3キナーゼ経路(例えば、IL-2に応答してT細胞の増殖、IL-4に応答してB細胞でのCD23アップレギュレーション、またはA549もしくはU937細胞でIFN-γに応答してICAM-1のアップレギュレーション)を約100μM以上(例えば、200μM、500μM、1mMまたはそれ以上)のIC
50で阻害する。当業者であれば、特定の免疫抑制剤がJAK1/3キナーゼ活性を阻害するか否かを、通常の方法を用いて判定することができる。
【0045】
いくつかの態様において、非JAK1/3阻害免疫抑制剤はカルシニューリン阻害免疫抑制剤である。カルシニューリン阻害免疫抑制剤の例としては、シクロスポリン(例:SANDIMMUNE(登録商標)、CICLORAL(登録商標)、またはGENGRAF(登録商標))、タクロリムス(例:PROGRAF(登録商標))、ピメクロリムス、およびボクロスポリンが挙げられる。開示された方法の特定の態様では、非JAK1/3阻害免疫抑制剤はタクロリムスである。
【0046】
他の態様において、非JAK1/3阻害免疫抑制剤として、以下が挙げられる:mTORの阻害剤、例えばシロリムス(ラパマイシン、RAPAMUNE(登録商標))、エベロリムス(ZORTRESS(登録商標))、テムシロリムス、デフォロリムス、ゾタロリムスまたはバイオリムスA9;IMPDH阻害剤、例えばアザチオプリン(AZASAN(登録商標))、ミコフェノール酸(MYFORTIC(登録商標))またはミコフェノール酸モフェチル(CELLCEPT(登録商標));TNFα阻害剤、例えばサリドマイド(THALOMID(登録商標))またはレナリドマイド(REVLIMID(登録商標));IL-1受容体アンタゴニスト、例えばアナキンラ(KINERET(登録商標));または多くの細胞標的もしくは血清標的のいずれか1つに対する抗体(例えば、上記のもの)。
【0047】
いくつかの態様において、移植レシピエントは、臓器または他の組織の移植、例えば、肝臓移植、腎臓移植、心臓移植、肺移植、骨髄移植、小腸移植、膵臓移植、気管移植、皮膚移植、角膜移植、または肢移植の1つ以上を受けた対象である。特定の例では、移植レシピエントは心臓移植、肺移植、肝臓移植、または腎臓移植を受けた者である。いくつかの態様では、開示された方法は、移植レシピエントに組織または臓器を移植する前に、その組織または臓器にJAK1/3阻害剤を投与することを含む。
【0048】
開示された方法は、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を治療または抑制する(あるいは予防する)ために有用である。前記方法は、超急性拒絶反応、急性拒絶反応、および/または慢性拒絶反応を含めて、どのようなタイプの同種移植片拒絶反応をも治療または抑制することができる。超急性拒絶反応は移植後数時間から数日以内に発生し、既存のドナーに対する抗体を有するレシピエントの補体応答によって媒介される。超急性拒絶反応では、抗体が移植後直ちに移植血管系内に観察され、凝血、虚血、そして最終的には壊死および死亡につながる。超急性拒絶反応は、移植前スクリーニング(例えば、ABO血液型抗体のスクリーニング)のために、比較的まれである。急性拒絶反応は移植後数日から数ヶ月で発生する。それはT細胞媒介応答であり、移植組織のT細胞浸潤、移植組織の構造損傷、および移植組織の血管系への損傷の存在に基づいて確認される。最後に、慢性拒絶反応は移植後数ヶ月から数年で発生し、移植された組織に対する慢性炎症および免疫反応を伴う。慢性拒絶反応はまた、同種移植片の慢性血管障害を含むことがあり、これは移植された組織の血管系の線維化が関係する。当業者は、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応のタイプおよび重症度を診断することができる。
【0049】
IV. 薬学的組成物および投与
化合物Iまたはそのプロドラッグ(例えば化合物II)などのJAK1/3阻害剤を含む薬学的組成物は、適切な薬学的に許容される担体を用いて、選択された特定の投与方法に応じて、製剤化することができる。同様に、カルシニューリン阻害剤などの非JAK1/3阻害免疫抑制剤は、適切な薬学的に許容される担体を用いて、選択された特定の投与方法に応じて、製剤化することができる。化合物Iまたはそのプロドラッグ(例えば化合物II)などのJAK1/3阻害剤と、カルシニューリン阻害剤(例えばタクロリムス)などの非JAK1/3阻害免疫抑制剤を含む組成物もまた、適切な薬学的に許容される担体を用いて、選択された特定の投与方法に応じて、製剤化することができる。
【0050】
本開示において有用な薬学的に許容される担体および賦形剤は従来のものである。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, The University of the Sciences in Philadelphia, 編者, Lippincott, Williams, & Wilkins, Philadelphia, PA, 第21版(2005)を参照されたい。例えば、非経口製剤は通常、薬学的および生理学的に許容される液体ビヒクル、例えば水、生理食塩水、他の平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなどである注射可能な液体を含む。固体組成物(例えば、粉剤、丸剤、錠剤またはカプセル剤の形態)の場合には、慣用の非毒性固体担体として、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムを挙げることができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与される薬学的組成物は、少量の非毒性補助物質、例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、防腐剤、pH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウラートを含むことができる。
【0051】
いくつかの態様において、JAK1/3阻害剤である化合物Iまたはそのプロドラッグ(例えば化合物II)は、放出制御製剤、例えばマイクロカプセル製剤中に含められる。他の態様では、非JAK1/3阻害免疫抑制剤を放出制御製剤、例えばマイクロカプセル製剤中に含める。さまざまなタイプの生分解性・生体適合性ポリマーを用いることができ、種々の合成化合物、タンパク質および核酸をカプセル化する方法は、当技術分野において十分に説明されている(例えば、米国特許出願公開第2007/0148074号;第2007/0092575号;および第2006/0246139号;米国特許第4,522,811号;第5,753,234号;第7,081,489号;PCT公開番号WO/2006/052285;Benita, Microencapsulation: Methods and Industrial Applications, 第2版, CRC Press, 2006を参照されたい)。
【0052】
他の態様において、JAK1/3阻害剤である化合物Iまたはそのプロドラッグ(例えば化合物II)は、ナノ分散系に含められる。さらなる態様では、非JAK1/3阻害免疫抑制剤をナノ分散系に含める。ナノ分散系およびそのようなナノ分散体を製造する方法は、当業者によく知られている。例えば、米国特許第6,780,324号;米国特許出願公開第2009/0175953号を参照されたい。例えば、ナノ分散系は生物学的に活性な薬剤および分散剤(例えば、ポリマー、コポリマー、または低分子量界面活性剤)を含む。典型的なポリマーまたはコポリマーとしては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(D,L-乳酸)(PLA)、ポリ(D,L-乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、およびポリ(エチレングリコール)が挙げられる。典型的な低分子量界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、ポリソルベート、ソルビタン、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル、ポリ(オキシエチレン)アルキルエステル、およびこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの例では、ナノ分散体は溶媒蒸発法を用いて製造される。例えば、Kanaze et al., Drug Dev. Indus. Pharm. 36:292-301, 2010; Kanaze et al., J. Appl. Polymer Sci. 102:460-471, 2006を参照されたい。
【0053】
いくつかの例において、化合物Iまたはそのプロドラッグ(例えば化合物II)は、そのような化合物の薬学的に許容される塩を含む。適切な薬学的に許容される塩は、さまざまな有機および無機の対イオン、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、またはテトラアルキルアンモニウムから誘導されるか、あるいは分子が塩基性の官能基を含む場合は、有機または無機酸の塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、酒石酸塩、メシル酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、またはシュウ酸塩である。例として、化合物Iは遊離塩基として、または薬学的に許容される酸付加塩として投与することができる。薬学的に許容される酸付加塩は、生物学的にまたはその他の点で望ましい酸パートナーによって形成されるが、遊離塩基の生物学的有効性を保持する塩であり、そうした酸パートナーは、例えば、無機酸(塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、もしくはリン酸など)または有機酸(酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸もしくはサリチル酸など)である。例として、化合物IIは対応する遊離酸として、または薬学的に許容される塩基付加塩、例えば、例示されたジナトリウム塩もしくは別の薬学的に許容される塩基付加塩として投与することができる。薬学的に許容される塩基付加塩は、対イオンを与えるためのアルカリ金属塩基、アルカリ土類金属塩基、または他の金属塩基などの無機塩基から誘導されるもの、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、またはアルミニウム塩を含む。当業者には理解されるように、同一の対イオンを用いて、異なる付加塩を形成することができ、例えば、化合物IIのモノまたはジナトリウム塩を形成することが可能である。典型的な塩はアンモニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩である。薬学的に許容される非毒性の有機塩基から誘導される塩には、一級、二級および三級アミン、天然に存在する置換アミンを含む置換アミン、環状アミン、ならびに塩基性イオン交換樹脂の塩が含まれ、そうした有機塩基は、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などである。典型的な有機塩基はイソプロピルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、コリン、およびカフェインである。これらの塩は、標準的な手法によって、例えば遊離酸を適切な有機または無機塩基と反応させることによって、調製することができる。本明細書に記載の化合物はどれも、その薬学的に許容される塩として代替的に投与することができる。また、薬学的に許容される塩には、遊離の酸、塩基、および両性イオンの形態も含まれる。適切な薬学的に許容される塩の説明は、Handbook of Pharmaceutical Salts, Properties, Selection and Use, Wiley VCH (2002); Berge et al., J. Pharm. Sci. 66:1-19, 1977に見出すことができる。
【0054】
薬学的組成物の剤形は、選択された投与方法によって決定される。例えば、注射液に加えて、局所用、吸入用、経口用および坐薬用の製剤を用いることができる。局所製剤には、点眼剤、軟膏剤、スプレー剤、パッチ剤などが含まれる。吸入製剤は液体(例えば、溶液または懸濁液)とすることができ、ミスト、スプレーなどが含まれる。経口製剤は液体(例えば、シロップ剤、溶液剤もしくは懸濁液剤)、または固体(例えば、粉剤、丸剤、錠剤もしくはカプセル剤)であり得る。坐薬製剤は固体、ゲルまたは懸濁液の形態であり得る。固体組成物用の、慣用の非毒性固体担体には、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、セルロース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが含まれる。そのような剤形を製造するための実際の方法は当業者に知られているか、当業者には明らかであろう。
【0055】
本開示の化合物はヒトまたは他の動物に投与することができ、それらの化合物は経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、皮内、髄腔内、皮下、吸入または坐薬など、さまざまな方法でヒトまたは動物の組織に対して有効である。1つの非限定的な例として、該化合物は経口投与される。別の非限定的な例として、該化合物は静脈内に投与される。特定の投与方法および投薬レジメンは、その症例の詳細事項(例えば、対象、疾患、関係する病状、および治療が予防的であるかどうか)を考慮に入れて、担当医によって選択されるだろう。治療は、数日から数ヶ月、あるいは数年の期間にわたって、化合物の1日用量または複数回分割の1日用量を含むことができる。特定の例では、治療は、化合物Iまたはそのプロドラッグの1日2回用量と、非JAK1/3阻害免疫抑制剤、例えばカルシニューリン阻害剤(例:シクロスポリンまたはタクロリムス)の1日1回用量を含む。
【0056】
開示された化合物の部位特異的投与は、例えば、移植レシピエント(肺移植レシピエントなど)における同種移植片拒絶反応を治療または抑制するために、化合物I(もしくはそのプロドラッグ)または非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、タクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤)を肺または気道に投与することによって、行うことができる。例として、個体の肺に投与する一方法は、噴霧器または吸入器の使用を介した吸入によるものである。例えば、化合物(化合物Iまたはカルシニューリン阻害剤など)はエアロゾルまたは微粒子に製剤化され、そして当業者に周知の標準的な噴霧器を用いて肺に吸入される。肺または気道への他の投与経路には、気管支、鼻腔内、またはその他の吸入経路が含まれる。いくつかの例では、化合物は以下により投与される:吸入(例えば、エアロゾル吸入による);気管支鏡、気管内チューブ、または人工換気装置による肺への直接導入;経鼻投与(鼻腔内または経鼻);気管支または気管内(例えば、気管への直接注入または気管切開による)。
【0057】
当業者は、開示された方法で用いるJAK1/3阻害剤(例えば、化合物Iまたはそのプロドラッグ)および非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、カルシニューリン阻害剤)の適切な用量を特定することができる。投与量は、治療される対象、疾患のタイプおよび重症度(例えば、同種移植片のタイプおよび拒絶反応のタイプ(超急性、急性または慢性拒絶など))、ならびに投与方法などの諸要因に依存するであろう。非JAK1/3阻害免疫抑制剤は、標準的または一般的な投与量に従って、例えば市販の剤形でまたはThe Physician's Desk Referenceの2006年版(Thomspon PDR, Montvale, NJ)に記載のように、使用することができる。開示された方法のいくつかの例では、対象に投与される非JAK1/3阻害免疫抑制剤の量は標準用量より少なくすることができる(例えば、準最適用量)。
【0058】
JAK1/3阻害剤である化合物Iまたはそのプロドラッグ(化合物IIなど)を含む薬学的組成物は、正確な用量の個別の投与に適した単位剤形に製剤化することができる。特定の非限定的な一例として、単位投与量は約1mgから約5gまでの化合物Iまたはそのプロドラッグの形態のその同等物(例えば、約100mg〜約2.5g、約250mg〜約1g、または約500mg〜約750mg)を含有する。いくつかの例では、単位投与量は約1mg、10mg、25mg、50mg、75mg、100mg、150mg、200mg、250mg、500mg、750mg、1g、1.5g、2g、2.5g、3g、4g、または5gの化合物Iまたはそのプロドラッグを含有する。投与される活性化合物の量は、治療される対象、疾患の重症度、および投与方法に依存し、そして最良には処方医師の判断に委ねられる。これらの範囲内で、投与される製剤は、治療を受ける対象において所望の効果を達成するのに有効な量の活性成分を含むであろう。
【0059】
いくつかの例において、化合物Iまたはそのプロドラッグの(非JAK1/3阻害免疫抑制剤と組み合わせて投与する場合の)治療に有効な量は、約0.5mg/kg〜約100mg/kg(例えば、約1mg/kg〜約50mg/kg、約10mg/kg〜約25mg/kg、または約1mg/kg〜約15mg/kg)である。特定の例では、化合物Iまたはそのプロドラッグの(非JAK1/3阻害免疫抑制剤と組み合わせて投与する場合の)治療に有効な量は、約0.5mg/kg〜約7mg/kgまたは約1mg/kg〜約12mg/kgまたは約10mg/kg〜約20mg/kg、例えば約15mg/kgである。いくつかの例では、化合物Iまたはそのプロドラッグの(非JAK1/3阻害免疫抑制剤と組み合わせて投与する場合の)治療に有効な量は、約0.5mg/kg/日〜約100mg/kg/日(例えば、約1mg/kg/日〜約60mg/kg/日、約10mg/kg/日〜約30mg/kg/日、または約1mg/kg/日〜約30mg/kg/日)である。さらなる例では、化合物Iまたはそのプロドラッグの(非JAK1/3阻害免疫抑制剤と組み合わせて投与する場合の)治療に有効な量は、約0.5mg/kg/日、1mg/kg/日、2.5mg/kg/日、5mg/kg/日、7.5mg/kg/日、10mg/kg/日、15mg/kg/日、20mg/kg/日、25mg/kg/日、50mg/kg/日、75mg/kg/日、または100mg/kg/日である。当業者は、動物(例えば、ラットまたはマウス)への用量から適切なヒト用量を推定することができる(例えば、Reagan-Shaw et al., FASEB J. 22:659-661, 2008を参照されたい)。
【0060】
非JAK1/3阻害免疫抑制剤と組み合わせて投与される化合物Iまたはそのプロドラッグの治療に有効な量は、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を治療または抑制するのに必要な化合物Iまたはそのプロドラッグの量とすることができる。非JAK1/3阻害免疫抑制剤と組み合わせて投与される化合物Iまたはそのプロドラッグの治療に有効な量は、1回量で、または数回量で、例えば週1回、週2回、毎日、または1日2回、治療の経過中に投与することができる。当業者は、非JAK1/3阻害免疫抑制剤と組み合わせて投与される化合物Iまたはそのプロドラッグの治療に有効な量を、例えば、治療される対象、疾患の重症度およびタイプ、ならびに治療薬の投与方法に基づいて、決定することができる。
【0061】
非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、カルシニューリン阻害剤、IMPDH阻害剤、またはmTOR阻害剤)を含む薬学的組成物は、正確な用量の個別の投与に適した単位剤形に製剤化することができる。特定の非限定的な一例として、単位投与量は約0.1mgから約5gまで(例えば、約0.5mg〜約2.5g、約1mg〜約1g、約1mg〜約1g、または約100mg〜約5g)の非JAK1/3阻害免疫抑制剤を含有する。いくつかの例では、単位投与量は約0.1mg、0.2mg、0.5mg、1mg、5mg、10mg、25mg、50mg、75mg、100mg、250mg、500mg、750mg、1g、1.5g、2g、2.5g、3g、4g、または5gの非JAK1/3阻害免疫抑制剤を含有する。投与される活性化合物の量は、特定の非JAK1/3阻害免疫抑制剤、治療される対象、疾患の重症度、および投与方法に依存し、そして最良には処方医師の判断に委ねられる。これらの範囲内で、投与される製剤は、治療を受ける対象において所望の効果を達成するのに有効な量の活性成分を含むであろう。
【0062】
いくつかの例において、化合物IまたはそのプロドラッグなどのJAK1/3阻害剤と組み合わせて投与される非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、カルシニューリン阻害剤、IMPDH阻害剤、またはmTOR阻害剤)の治療に有効な量は、約0.01mg/kg〜約50mg/kg(例えば、約0.1mg/kg〜約40mg/kg、約1mg/kg〜約25mg/kg、または約1mg/kg〜約15mg/kg)である。特定の例では、化合物Iまたはそのプロドラッグと組み合わせて投与されるタクロリムスの治療に有効な量は、約1mg/kg〜約5mg/kg、例えば約1mg/kgである。いくつかの例では、非JAK1/3阻害免疫抑制剤の(化合物Iまたはそのプロドラッグと組み合わせて投与する場合の)治療に有効な量は、約0.01mg/kg/日〜約50mg/kg/日(例えば、約0.5mg/kg/日〜約25mg/kg/日、約1mg/kg/日〜約10mg/kg/日、または約1mg/kg/日〜約5mg/kg/日)である。さらなる例では、非JAK1/3阻害免疫抑制剤の(化合物Iまたはそのプロドラッグと組み合わせて投与する場合の)治療に有効な量は、約0.01mg/kg/日、0.02mg/kg/日、0.05mg/kg/日、0.1mg/kg/日、0.25mg/kg/日、0.5mg/kg/日、0.75mg/kg/日、1mg/kg/日、2mg/kg/日、3mg/kg/日、4mg/kg/日、5mg/kg/日、7.5mg/kg/日、10mg/kg/日、15mg/kg/日、または20mg/kg/日である。
【0063】
開示された方法のいくつかの特定の例において、非JAK1/3阻害剤はタクロリムスである。当業者は移植レシピエントに投与されるタクロリムスの用量を選択することができる。いくつかの例では、前記方法は、タクロリムスを約0.01〜0.2mg/kg/日の用量で移植レシピエントに投与することを含む。特定の例では、前記方法は、移植レシピエントにタクロリムスを準最適用量で、例えば約0.2mg/kgより少ない用量で、例えばヒト対象では約0.15、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02mg/kgより少ない用量で、投与することを含む。当業者は、動物(例えば、ラットまたはマウス)への用量から適切なヒト用量を推定することができる(例えば、Reagan-Shaw et al., FASEB J. 22:659-661, 2008を参照されたい)。他の要因としては、治療される対象、疾患の重症度、および投与方法が挙げられ、これらはタクロリムスの適切な用量を選択する際に当業者によって考慮され得る。
【0064】
非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、カルシニューリン阻害剤、IMPDH阻害剤、またはmTOR阻害剤)の治療に有効な量は、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を治療または抑制するのに必要な、化合物Iまたはそのプロドラッグと組み合わせて投与される非JAK1/3阻害免疫抑制剤の量とすることができる。非JAK1/3阻害免疫抑制剤の治療に有効な量は、1回量で、または数回量で、例えば週1回、週2回、毎日、または1日2回、治療の経過中に投与することができる。当業者は、化合物Iまたはそのプロドラッグと組み合わせて投与される非JAK1/3阻害免疫抑制剤の治療に有効な量を、例えば、治療される対象、疾患の重症度およびタイプ、ならびに治療薬の投与方法に基づいて、決定することができる。
【0065】
JAK1/3阻害剤である化合物Iまたはそのプロドラッグ(例えば、化合物II)および非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、タクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤)を含む薬学的組成物は、正確な用量の個別の投与に適した単位剤形に製剤化することができる。特定の非限定的な一例として、そのような組成物は、約1mg〜約5gの化合物Iまたはそのプロドラッグ(例えば、約100mg〜約2.5g、約250mg〜約1g、または約500mg〜約750mg)および約0.1mg〜約5gの非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、約0.5mg〜約2.5g、約1mg〜約1g、約1mg〜約1g、または約100mg〜約5g)を含む。非限定的な一例として、前記組成物は化合物Iとタクロリムスを含む。別の非限定的な例では、前記組成物は化合物IIとタクロリムスを含む。化合物Iまたはそのプロドラッグと非JAK1/3阻害免疫抑制剤を含む組成物の治療に有効な量は、1回量で、または数回量で、例えば週1回、週2回、毎日、または1日2回、治療の経過中に投与することができる。当業者は、非JAK1/3阻害免疫抑制剤と化合物Iまたはそのプロドラッグの治療に有効な量を、例えば、治療される対象、疾患の重症度およびタイプ、ならびに治療薬の投与方法に基づいて、決定することができる。
【0066】
いくつかの例において、本明細書に開示された方法は、化合物Iまたはそのプロドラッグと組み合わせて移植レシピエントに投与される非JAK1/3阻害免疫抑制剤の用量を徐々に減らす(漸減する(tapering))ことを含む。一例として、非JAK1/3阻害免疫抑制剤の用量は、JAK1/3阻害剤の化合物Iまたはそのプロドラッグのみが移植レシピエントに投与されるようになるまで、漸減される。非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、カルシニューリン阻害剤またはmTOR阻害剤)の薬量漸減は当業者によく知られている。いくつかの例では、非JAK1/3阻害免疫抑制剤は、一連の漸減された用量として、例えば約5〜25%の線形テーパーとして投与される。例えば、非JAK1/3阻害免疫抑制剤の投与量は単位時間あたり(例えば、1日あたり、週あたり、または月あたり)約5〜25%(例えば、約5%、10%、15%、20%、または25%)低減される。特定の例では、非JAK1/3阻害免疫抑制剤はタクロリムスであり、かつタクロリムスは一連の漸減された用量として投与される。当業者は、適切な一連の漸減用量を、特定の非JAK1/3阻害免疫抑制剤、治療される対象、疾患の重症度およびタイプ、ならびに治療薬の投与方法に基づいて、選択することができる。
【0067】
JAK1/3阻害剤の化合物I(またはそのプロドラッグ)および非JAK1/3阻害免疫抑制剤(例えば、タクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤)を移植レシピエントに投与する場合、投与は逐次、同時(simultaneous, concurrent)、または実質的に同時とすることができる。逐次投与は、所望の効果が達成される限り、任意の時間だけ分断され得る。本明細書に記載の組成物の複数回投与も考えられる。JAK1/3阻害剤の化合物Iまたはそのプロドラッグと非JAK1/3阻害免疫抑制剤の併用投与は、JAK1/3阻害剤の化合物I(またはそのプロドラッグ)と共に逐次的に非JAK1/3阻害免疫抑制剤を投与する(例えば、初めに一方の薬剤で治療し、その後他方の薬剤で治療する)か、あるいは両方の薬剤を実質的に同時に投与する(例えば、投与を行う上で重複する)ことを含む。逐次投与では、対象は異なる時点で薬剤にさらされるが、ただし、他方の薬剤が投与されるとき、最初の薬剤の若干量が対象の体内に残っている(または治療効果を有する)必要がある。両方の薬剤による同時治療は、同じ1回分で(例えば、物理的に混合して)、または同時に投与される個別の1回分で行うことができる。
【0068】
同種移植片拒絶反応(例えば、急性もしくは慢性の同種移植片拒絶反応)があるか、または同種移植片拒絶反応のリスクがある対象(例えば、同種移植を受けた対象)は、本明細書に開示された治療法を用いた治療の候補者である。
【0069】
以下の実施例は、いくつかの特定の特徴および/または態様を説明するために提供される。これらの実施例は、記載された特定の特徴または態様に本開示を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0070】
実施例1: 材料および方法
インビボ薬物動態:
雄性Lewis系ラットに、それぞれ化合物I HD(60mg/kg/BID)、化合物I LD(15mg/kg/BID)、化合物III HD(20mg/kg/BID)、および化合物III LD(5mg/kg/BID)の投与量で経口投与した。薬物の血漿レベルを投与の0.5、1、1.5、2、3、4、6、8および10時間後に定量化した。化合物Iと化合物IIIの血漿レベルはLC/MS/MSにより定量化した。
【0071】
薬力学:
化合物IIIおよび化合物Iの活性は細胞ベースのアッセイのパネルで評価した。化合物IIIと化合物IはJAK1/3依存性シグナル伝達の選択的阻害剤である。非選択的JAK阻害剤(化合物IV)のデータが参考のために示される。混合リンパ球反応(MLR)は、あるドナーから新たに調製したナイーブヒト末梢血リンパ球を、別のドナー由来のCD80+/CD86+成熟樹状細胞と共に、5日間インキュベートすることによって行った。CD3+/CD71+(抗CD3-APC、クローンHIT3a、抗CD71-FITC、クローンM-A712; BD Biosciences社, San Jose, CA)増殖細胞の割合は、蛍光活性化セルソーティング(FACS; BD Bioscience社)で評価した。インターロイキン2(IL-2)依存性ヒト初代T細胞増殖は、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存アッセイ(Promega社, Madison, WI)を用いて評価した。ヒト初代T細胞において異なるサイトカインによって誘導されるSTATリン酸化は、細胞内FACS解析(抗pY694-STAT5 AlexaFluor488、抗pY701-STAT1 AlexaFluor488、および抗pY693-STAT4 AlexaFluor488; BD Biosciences社)によって測定した。異なるサイトカインによって誘導されるSTATリン酸化は、赤血球溶解(Lyse/Fixバッファー, BD Biosciences社)およびメタノール透過処理後の全血中で実施した。インターフェロンγ(IFN-γ)シグナル伝達は、FACSによりICAM-1表面発現を測定することによって(ICAM-1-APC, BD Bioscience社)、U937単球細胞株で評価した。
【0072】
培養したヒト赤血球前駆細胞(CHEP)のエリスロポエチン(EPO)依存性生存は、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存アッセイ(Promega社)を用いて判定した。ヒト初代T細胞活性化は、プレート結合型抗CD3および抗CD28刺激(抗ヒトCD3, BD Biosciences社;抗ヒトCD28, Immunotech社, プラハ, チェコ共和国)後に、ELISA(R&D Systems社, Minneapolis, Minnesota, USA)でIL-2産生を測定することによって評価した。IgEによる刺激時にヒト培養肥満細胞(CHMC)により放出されるトリプターゼの酵素活性は、トリプターゼバッファー中での合成蛍光ペプチド基質Z-Ala-Lys-Arg-7-アミノ-4-メチルクマリン(MP Biomedicals社, Solon, OH, USA)の切断によって定量化した。B細胞受容体依存性Erkリン酸化は、細胞内FACS(抗pT202/pY204-ERK1/2-AlexaFluor488; BD Biosciences社)によってRamos細胞で測定した。細胞増殖アッセイは、細胞数を測定するための核染色(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール2塩酸塩(DAPI; Invitrogen社, Darmstadt, ドイツ)を用いて、A549上皮細胞およびH1299肺癌細胞で行った。
【0073】
増殖因子依存性タンパク質リン酸化は、HeLa細胞において、透過処理した細胞をホスホ(phospho)特異的抗体で染色することによって検出し、化学発光(Luminator, Wallacマルチラベルカウンター; Perkin Elmer社)により定量化した。Aktリン酸化はインスリン刺激後に測定し、そしてEGFRリン酸化はEGF刺激後に測定した(ホスホAKT, Cell signaling technology社, Danvers, MA; 1μMインスリン, Millipore社, Billerica, MA; ホスホEGFR, tyr1173, クローン53A3, Cell Signaling Technology社; 200ng/ml組換えヒトEGF, PeproTech社, Hamburg, ドイツ)。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)はVEGFで刺激し、VEGFR2リン酸化はELISAによって評価した(100ng/ml VEGF165, R&D Systems社; ウサギ抗ホスホVEGFR2 mAb, Cell Signaling Technology社)。
【0074】
動物および異所性心臓移植:
体重350gの雄性Brown Norway(BN)系およびLewis(Lew)系ラットをHarlan (Indianapolis, IN)から購入し、通常の条件下で飼育した。すべての動物は標準ラット固形飼料と水を自由に与えられ、米国医学研究学会(National Society for Medical Research)によって制定された「実験動物ケアに関する原則」(Principles of Laboratory Animal Care)および米国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって発表された「実験動物のケアと使用に関する指針」(Guide for the care and Use of Laboratory Animals)(米国立衛生研究所公開第85-23号、1985年改訂版)に従って人的ケアを受けた。同種異系(BNからLewへ)および同系(LewからLewへ)の異所性心臓移植は、以前に記載されたとおりに行った(Ono et al., J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 57:225-229, 1969)。簡単に説明すると、2%イソフルランを用いてラットを麻酔した。ドナーに500I.U.のヘパリンを静脈内ボーラス投与した。心停止は20mlのブレトシュナイダー液(Bretschneider solution)(カストジオール(Custodiol), Dr. F. Koehler Chemie社, Bensheim, ドイツ)を用いて達成した。ドナー心臓の大動脈と肺動脈をそれぞれ、レシピエントの腹部大動脈と下大静脈に端側吻合(end-to-side-anastomosis)によって吻合した。心臓鼓動スコアは、スコア0(触知可能な収縮なし)からスコア4(強い規則的な収縮)まで、各動物について移植後に直接評価した。鼓動スコア4の動物のみを試験に加えた。
【0075】
免疫抑制および試験デザイン:
化合物Iと化合物IIIはRigel社(South San Francisco, カリフォルニア州)により提供され、そしてタクロリムスはAstellas社(Munich, ドイツ)により提供された。すべての薬物をそれぞれ2つの異なる濃度で経口投与した:化合物I LD(15mg/kg BID; n=6)およびHD(60mg/kg BID; n=6);化合物III LD(5mg/kg BID; n=6)およびHD(20mg/kg BID; n=6); Tac LD(1mg/kg QD; n=6)およびHD(4mg/kg QD; n=6)。すべての薬物の投与は同一の時点に毎日実施した。タクロリムスは24時間ごとに1日1回(QD)だけ適用した。化合物I(BID)と化合物III(BID)の投与の間、12時間の休止を各薬物適用の合間に維持した。
【0076】
5日間試験:
異所性BN心臓移植のLewレシピエントをそれらのグループにランダムに割り当てた。動物は治療しないまま放置される(グループ1および2;表1の5日間試験を参照)か、あるいは経口投与によってそれらのグループの特定の投薬治療を受けた(グループ3〜8;表1の5日間試験を参照)。未治療の同系移植グループLew-Lewを対照として作出した。
【0077】
移植片生着試験:
BNからLewへの異所性心臓移植を実施した。レシピエント動物を表1に従って10日間治療し(10日間生着試験グループ)、移植片の生着を、腹壁を介してドナー心臓の鼓動を毎日触診することによってモニタリングした。スコアは0〜4の心臓鼓動スコアに従って評価した。拒絶反応の時点は触知可能な心臓収縮の最後の日として定義され、移植片拒絶反応を開腹によって確認した。
【0078】
(表1)試験グループ
【0079】
組織学および免疫組織化学:
移植片を移植5日後に回収し、4%パラホルムアルデヒド(Science Services社, Munich, ドイツ)中で固定し、脱水して、パラフィン内に包埋した。移植片を3μmの厚さの断面にスライスし、ヘマトキシリンとエオシン(H+E; Waldeck, Carl Roth GmbH, Munster, ドイツ)で染色して、標準的な光学顕微鏡で観察した。H+E染色における急性心臓移植拒絶反応の程度は、2004 ISHLTワーキングフォーミュレーション(working formulation)(Stewart et al., J. Heart Lung Transplant. 24:1710-1720, 2005)に従って経験豊かな病理学者により検査された。
【0080】
パラフィン包埋組織切片を脱パラフィン化し、再水和した。バックグラウンド染色を防ぐために、切片をタンパク質ブロッキング液(ZytoChem Plus (AP) Polymerキット; Zytomed Systems GmbH, Berlin, ドイツ)と共にインキュベートした。抗原賦活化後、ラットCD68およびCD3に対する特異的抗体(Serotec社, Raleigh, NC)を加えて、それぞれマクロファージとリンパ球を同定し、そしてアルカリホスファターゼおよびニューフクシン基質反応(Zytomed System GmbH; Dako社, Carpinteria, CA)によって可視化した。切片をH+E(Waldeck社)で対比染色した。一次抗体溶液と共に一晩インキュベートし、次いで洗浄した後、増強試薬(ZytoChem)を加え、続いてニューフクシン基質システム(Dako社)によって誘導されるアルカリホスファターゼの酵素反応を生じさせた。
【0081】
心筋内の炎症性細胞密度はライカQWinソフトウェア(Leica Microsystems GmbH, Wetzlar, ドイツ)で評価し、細胞/高倍率視野(HPF)として表した。すべての染色の組織学的分析は病理学者によって行われた。
【0082】
Quantibodyアレイ:
カスタムメイドのサイトカイン抗体アレイ(Raybiotech社, Norcross, GA)を用いて、移植組織内サイトカインIFN-γ、IL-10、および単球走化性タンパク質(MCP)-1の発現プロファイルを同定した。心臓を400μlのRIPAバッファー(Sigma-Aldrich社, St. Louis, MO)中で均質にホモジナイズした。上清中のタンパク質含有量は、比色BCAタンパク質アッセイ(Thermo Fisher Scientific社, Rockford, IL)を562nmの波長で用いて、メーカーのプロトコルに従って定量した。Quantibody(登録商標)アレイガラスチップあたり合計300μgのタンパク質を用いて、細胞内サイトカイン含有量をELISAにより4回の反復実験で定量的に測定した(ヒトサイトカインアレイ1, Raybiotech社)。すべての値は標準曲線に正規化された。ガラスチップ解析はRaybiotech社によって実施された。
【0083】
酵素結合免疫スポット法(Enzyme Linked Immune Spot Technique, ELISPOT):
リンパ球は採取されたばかりの脾臓から単離した。1x10
7個/mlのマイトマイシン阻害BN脾細胞と1x10
6個/mlのLew脾細胞を用いたELISPOTアッセイは、メーカーのプロトコル(BD Biosciences社)に従って実施した。96ウェルプレートにIFN-γ、IL-17、およびIL-4をコーティングして、Tヘルパー細胞(Th)1-、Th17-、およびTh2-応答を独立して評価した。すべてのアッセイを4回反復して行った。スポットはスキャンおよび解析用のELISPOTプレートリーダー(CTL社, Cincinnati, オハイオ州)を用いて自動的に数値化された。
【0084】
ドナー特異的抗体(DSA):
ドナー脾細胞を単離して、ACKバッファー(Lonza社, Walkers ville, MD)を用いて赤血球を溶解した。レシピエントラット由来の血清は補体を除去し、等量の血清と脾細胞懸濁液(5xl0
6細胞/ml)を室温で30分間インキュベートした。IgM抗体は、該細胞を、ラットIgMのFc部分に特異的なコンジュゲート化マウス抗体(モノクローナル抗ラットIGM, クローンRTM-32, Sigma社)とインキュベートし、続いて488コンジュゲート化二次抗体(Invitrogen社)とインキュベートすることによって染色した。細胞をPBSで洗浄し、2%パラホルムアルデヒド(Science Services社)で固定し、そしてFACSCalibur(商標)システム(BD Biosciences社)で解析した。蛍光データはFlowjoソフトウェア(Tree Star Inc.社, Ashland, OR)を用いて平均蛍光強度(MFI)として表した。
【0085】
副作用:
EDTAサンプルおよび血清は、それぞれ白血球百分率数、BUN、クレアチニン、コレステロール、HDL、LDL、トリグリセリド、AST、およびALTのために移植5日後に採取された。分析は標準的な臨床化学の手順で行った。
【0086】
併用係数(CI):
Chouのメジアン効果原理(median-effect principle)(Synergism and Antagonism in Chemotherapy, Chou and Rideout編, pp. 61-102, Academic Press, 1991)は、各薬剤の効果はその用量に関係する、という前提に基づいており、したがって、次の式を用いて算出することができる:(fa/fu)=(D/Dm)m、ここで、faおよびfuは、用量Dの薬物によって、それぞれ影響を受ける(%抑制、またはむしろ対照を超える生着日数)および影響を受けない(1-fa)システムの分率を表す。完全な保護(fa=1)は、同種移植片の少なくとも28日間の生着と定義される。Dmは50%抑制に必要な用量(ED
50)であり、メジアン効果(m)は用量-効果曲線のシグモイド性(sigmoidicy)を記述する係数である。2種の薬物間の相互作用は、各薬物が異なる作用機序を有する相互に非排他的な場合では、x%抑制を達成するための用量の併用係数(CI)式によって評価される:
コンピュータソフトウェアプログラムを用いて、用量-効果パラメータ(Dm、mおよびr)、ならびにCI値を決定した(CalcuSyn, Biosoft社, Cambridge, 英国)。
【0087】
統計分析:
データは平均値±標準偏差(SD)として提示される。グループ間の比較は、最小有意差事後検定(Least Significant Difference post hoc test)を用いて、グループ間の分散分析(ANOVA)により行った。0.05未満の確率値(p)を有意とみなした。統計分析はWindows用のSPSS統計ソフトウェアパッケージ17.0(SPSS社, Chicago, IL)を用いて行った。
【0088】
実施例2: 薬物動態および薬力学
薬物動態は雄性Lewis系ラットで実施した。血漿レベルを10時間以内に測定した。化合物I HD(60mg/kg BID)、化合物I LD(15mg/kg BID)、化合物III HD(20mg/kg BID)、および化合物III LD(5mg/kg BID)の得られた血漿濃度を
図1に示す。化合物I HDと化合物I LDの血漿レベルは投与後1.5〜2時間でピークに達した。化合物III HDの血漿レベルは3〜3.5時間後にピークに達し、化合物III LDのレベルは投与後2時間でピークに達した。化合物I HD用量グループの濃度-時間曲線下面積(AUC)は、化合物I LDのそれより>13倍高かった。化合物III HDグループの血漿レベルは、化合物III LD用量と比較して、>22倍高いAUCをもたらした。
【0089】
化合物IIIおよび化合物Iは、初代ヒトT細胞におけるIL-2シグナル伝達の阻害剤についてのスクリーニングで、JAK1/3キナーゼの強力な小分子阻害剤として同定された。表2には、JAK依存性および非JAK依存性細胞ベースアッセイのパネルでの化合物IIIと化合物Iの効力が、比較のためにpan-JAK阻害剤(化合物IV)と共に示される。化合物IIIと化合物Iは、IL-2に応答してJAK1/3依存性Stat5リン酸化を、それぞれ35nMおよび21nMのEC
50で阻害し、かつ生じるT細胞増殖を同様のEC
50でブロックした。これに合致して、化合物IIIと化合物Iはまた、混合リンパ球反応(MLR)において樹状細胞の共刺激に対する初代ヒトT細胞の増殖応答を、それぞれ22nMおよび16nMのEC
50で、強力に阻害した。初代ヒトT細胞では、化合物IIIと化合物Iはまた、IFN-γに応答してStat1のJAK1/Tyk2依存性リン酸化を阻害したが、IL-12に応答してStat4のJAK2/Tyk2依存性リン酸化を弱く阻害したにすぎなかった。さらに、化合物IIIと化合物Iは、エリスロポエチン(EPO)に応答してJAK2依存性の臍帯血由来ヒト赤血球前駆細胞(CHEP)の分化および生存、ならびにIFN-γに応答してU937細胞におけるJAK1/2依存性ICAM-1発現、の限られた阻害を示した。まとめると、このデータは、化合物IIIと化合物Iが細胞内のJAK2およびTyk2キナーゼに比して20倍以上の選択性でJAK1およびJAK3キナーゼを強力に阻害することを示している。対照的に、化合物IVはpan-JAK阻害剤であって、JAK2およびTyk2シグナル伝達(EPOおよびIL-12)だけでなく、JAK1およびJAK3シグナル伝達(IL-2およびIFN-γ)をも強力に阻害する。阻害剤のJAKキナーゼ選択性は全血アッセイでも評価された。化合物の効力は、おそらく血清タンパク質結合または赤血球分配のために、血中で著しく減少したが、IL-2およびIFN-γシグナル伝達の選択的阻害は保持された。
【0090】
化合物はさらに、細胞ベースのアッセイのパネルでプロファイリングして、以下のキナーゼを含む広範なキナーゼ標的に対するそれらの活性を評価した:細胞質チロシンキナーゼ、例えばSyk、Lck、ZAP-70、および受容体型チロシンキナーゼ、VEGFR、INSRおよびEGFR、ならびにこれらの受容体および受容体近位キナーゼの下流のシグナル伝達に関与する多数のセリントレオニンキナーゼ(例えば、PI3キナーゼ経路、MAPK経路、PKCおよびNFκB経路)。化合物IIIと化合物Iは細胞内のこれらの他のキナーゼ標的のすべての非常に限られた阻害を示した。
【0091】
(表2)細胞ベースのアッセイにおける化合物Iと化合物IIIの効果
ND, 測定せず。
【0092】
実施例3: 5日間の同種移植に関する試験
移植5日後に、回収した同系心臓のH+E染色断面は、筋細胞の壊死、浮腫、出血および血管炎といった、拒絶反応の病理学的徴候を何も示さなかった(
図2A)。投薬なしグループは、最大グレードの心筋組織の破壊、大量の単核細胞の浸潤、および筋細胞アーキテクチャーの破壊を示した(
図2A)。投薬なしグループとは対照的に、すべての投薬グループは、あまりばらつきのないグレードの細胞浸潤および組織形態の変容を示した(
図2A)。
【0093】
得られたISHLT 2004分類(Stewart et al., J. Heart Lung Transplant. 24:1710-1720, 2005)が
図2Bに示される。投薬なしグループは、スコア化された心臓の67%がISHLTスコア3であり、33%がISHLTスコア2であることを示した。組織学的H+E染色は心臓組織構造の大規模な崩壊を示した。同系Lew-Lewグループは、心臓の83%がISHLTスコア1で、17%がスコア0であることを示した。投薬なしグループと比較して、同系グループのH+E染色は均質かつ整然とした心臓組織を示した。タクロリムスHD投薬治療の結果、33%がISHLTスコア2となり、67%がISHLTスコア1となった。化合物I HD治療の結果、17%がISHLTスコア3、17%がスコア2、50%がスコア1、そして17%がスコア0となった。3つのHD投薬グループ間で比較すると、化合物III HD投薬グループが最良の結果を示して、スコア3を示したものはなく、17%がISHLTスコア2、50%がスコア1、そして33%がスコア0であった。用量依存効果がすべての投薬グループで観察された。
【0094】
単核細胞浸潤のさらなる定量化を免疫組織化学により評価して、CD3+リンパ球およびCD68+マクロファージを同定した(
図2Cおよび2D)。大量のCD3+細胞と、さらにCD68+細胞の浸潤が投薬なしグループに観察された。投薬なしグループとは対照的に、同系グループの心臓組織は有意に少ないCD3+およびCD68+細胞浸潤を示した(p<0.001)。
【0095】
3つすべての高用量治療グループは、投薬なしグループと比較して、CD3+細胞浸潤の有意な減少を示し(p<0.001)、そしてCD68+細胞は、投薬なしグループと比較して、化合物I HDおよび化合物III HD投薬グループにおいて有意に減少した(p<0.001)。化合物I HDおよび化合物III HD治療は、Tac HD投薬グループと比較して、有意に少ないCD68+細胞浸潤をもたらした(p<0.001)。さらに、化合物I LDおよび化合物III LD治療は、Tac LDグループと比較して、少ないCD68+およびCD3+細胞浸潤をもたらした(p<0.05)。
【0096】
マイトマイシンで阻害されたドナー細胞を移植5日後のレシピエント細胞とインキュベートした。投薬なしグループは、ドナー抗原に対する細胞の強いIFN-γ放出を示した。ほんのわずかなIFN-γスポットが、投薬なしグループと比較して、同系グループに観察された(p<0.001)一方で、IFN-γスポット頻度は、投薬なしグループと比較して、すべてのHD治療グループで、ならびに化合物I LDおよび化合物III LDグループでも有意に減少した(p<0.001;
図3A)。化合物I LDおよび化合物III LD治療は、Tac LD治療と比較して、ドナー特異的抗原に対するIFN-γ応答を抑制する上で、有意に良好な結果を示した(p<0.001)。Tac LDは、投薬なしグループと比較して、IFN-γスポット頻度の有意な減少を示さなかった。化合物I LDおよびHD、ならびにTac LDおよびHDによる治療は、Th1細胞に対して用量依存効果を示した(Tac HD対LD:p<0.001;化合物I HD対LD:p<0.001)。化合物III LD治療は、Tac HDグループと比較して、少ないIFN-γスポット頻度をもたらした(p<0.05)。
【0097】
同じ傾向がTh2細胞のIL-4放出について見られた(
図3B)。すべての治療グループは、投薬なしグループと比較して、サイトカイン放出を有意に減少させた(p<0.0011)。すべてのHD治療グループは、全身性のTh2応答を抑制するのに同様の効力を示した。しかしながら、LD治療グループにおけるJAK1/3阻害剤は、Tac LD治療と比較して、IL-4スポット頻度を有意に減少させた(p<0.001)。IL-17サイトカイン放出は、投薬なしグループと比較して、化合物I HDおよび化合物I LDグループによって有意に抑制された(化合物I HD p<0.010;化合物I LD p<0.001;
図3C)。化合物I LDは、Tac LDと比較して、有意に少ないスポット頻度をもたらした(p<0.001)。
【0098】
DSAは移植5日後にフローサイトメトリーによって測定した。DSAの定量化は、すべてのLDおよびHD投薬グループにおいて有意に減少したIgM抗体を示した(投薬なしに対してp<0.001;
図3D)。すべてのグループはDSA抑制の用量依存効果を示した。化合物Iおよび化合物III治療グループにおけるDSAの抑制は、Tac治療グループと比較して、有意に良好ではなかったが、蛍光の平均値は、Tac治療グループと比較して、化合物Iおよび化合物III投薬グループで低かった。
【0099】
サイトカイン放出の移植組織内定量化は移植の5日後に行った。
図4(左のパネル)は、ナチュラルキラーT細胞、CD4+ Tヘルパー細胞、およびCD8+細胞傷害性Tリンパ球によるIFN-γの放出を示す。移植組織内IFN-γ放出は、化合物I HDおよび化合物III HD投薬グループにおいて有意に少なかった(p<0.05)。
図4のグラフ(中央のパネル)は、単球およびリンパ球のIL-10放出を示し、該放出は、投薬なしグループと比較して、化合物I HDまたは化合物III HDで治療した2つのグループにおいて有意に減少した(p<0.05)。さらに、化合物I HDおよび化合物III HDは、Tac HD治療と比較して、有意に少ないIL-10放出をもたらした(p<0.05;
図4)。単球、マクロファージおよび樹状細胞によるMCP-1放出は、投薬なしグループと比較して、治療グループに有意差は認められなかった(
図4、右のパネル)。それにもかかわらず、化合物I HDおよび化合物III HDによる治療は、Tac HD治療と比べて、MCP-1放出の低い平均値を示した。
【0100】
明らかな不快の徴候、例えば下痢または神経学的機能障害などは、治療期間中または後にどの動物にも観察されなかった。造血系の病理学的変化はEDTA血液サンプルで何も認められなかった。さらに、BUN、クレアチニン、コレステロール、LDL、HDL、トリグリセリド、AST、およびALTが血清サンプルで測定された。総コレステロールはすべての治療グループで同等であった。Tac HD、化合物I HD、化合物I LD、および化合物III HDは、投薬なしグループと比較して、HDL値の増加による脂質プロファイルのプラスの効果を示した(それぞれ平均46.7mg/dl、平均50.2mg/dl、平均41.2mg/dl、平均46.3mg/dl、および平均26.0mg/dl)(それぞれp<0.003、p<0.001、p<0.038、およびp<0.003)。LDLレベルは、投薬なしグループと比較して、Tac HD、Tac LD、化合物I HD、および化合物III LDにおいて減少した(それぞれ平均9.9mg/dl、平均7.5mg/dl、平均8.7mg/dl、平均19.6mg/dl)(それぞれp<0.03、p<0.006、p<0.011、およびp=0.019)。
【0101】
ASTおよびALTの血清レベルは、投薬グループにおける肝毒性の副作用を評価するために測定された。Tac LDグループにおける治療量以下のタクロリムス治療を除いて、すべての投薬グループは、投薬なしグループおよび同系グループと比べて、血清ALTの上昇を示した(p<0.05)。血清ASTレベルはすべてのグループにおいて影響を受けないままであった。
【0102】
実施例4: 長期生着試験
移植片の生着は、腹壁を介してドナー心臓の鼓動を毎日触診することによってモニタリングし、10日後に動物の治療を停止した。移植片の生着は、投薬なしグループと比較して、Tac LDおよび化合物III LD治療グループで有意に延長された(それぞれ7±0日、13±2日、13±2日)(p<0.05)(
図5)。化合物I LD治療は、投薬なしと比較して、より長い生着をもたらした(それぞれ15±3日、7±0日)(p<0.001)。すべてのHD投薬グループは、投薬なしおよびLD治療グループと比較して、有意に良好に移植片の生着を長引かせた(Tac HD、20±3日;化合物I HD、22±5日;化合物III HD、20±4日)(p<0.001)。用量依存効果が観察されたが、最良の結果は化合物I HD治療により達成された。化合物I HDと化合物III HDの両方は、インビボで心臓同種移植片機能を維持するために同様の効力を示し、投薬なしグループでの7±0日(p<0.001)およびTac HD治療グループでの20±3日と比較して、それぞれ22±5日および20±2日の平均生着日数をもたらした。
【0103】
化合物I LDまたは化合物III LDとTac LDとの併用レジメンの結果は
図5に示される。化合物I LDとTac LDとの併用は化合物I HD単剤療法と同程度に有効であった(それぞれ22±5日および22±6日の平均生着)。化合物I LDまたはTac LDの単一薬物レジメンと比較して、移植片の生着は有意に延長された(p<0.001)。得られた併用係数0.584は、化合物I LDとTac LDとの併用投薬の相乗効果を示した。化合物III LDとTac LDとの併用は13±2日の平均生着をもたらし、これは化合物III LD投薬の単一レジメンの場合と同じであった。また、化合物III LDとTac LDとの併用レジメンには、Tac LD治療の単一レジメンと比べて、何の利点も見られなかった。その併用係数の計算は3.0となり、これは、併用療法における化合物III LDとTac LDの拮抗作用を示している。
【0104】
実施例5: 同種移植片拒絶反応を治療または抑制する方法
本実施例では、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を、JAK1/3阻害剤および非JAK1/3阻害免疫抑制剤を用いて治療または抑制する典型的な方法を記述する。しかし、当業者であれば、こうした具体的な方法からそれる方法もまた、移植レシピエントにおける同種移植片拒絶反応を首尾よく治療または抑制するために、使用され得ることを理解するであろう。
【0105】
本明細書に開示された教示に基づいて、同種移植片拒絶反応は、移植レシピエントに、JAK1/3阻害剤である化合物Iまたはそのプロドラッグと、非JAK1/3阻害免疫抑制剤であるカルシニューリン阻害剤のタクロリムスを投与することによって、移植レシピエントにおいて治療または抑制され得る。
【0106】
一例において、臨床試験には、同種移植片拒絶反応を治療または抑制するための確立されたプロトコル(例えば、タクロリムス)に従う対象の半数が含まれる。残りの半数は、化合物Iまたはそのプロドラッグを含むJAK1/3阻害剤とタクロリムスを投与することによって治療される。いくつかの例では、対象は移植レシピエント(例えば、心臓、肺、肝臓、または腎臓移植を受けた対象)である。
【0107】
第1の量のJAK1/3阻害剤である化合物Iまたはそのプロドラッグ(化合物II)と、第2の量のタクロリムスが移植レシピエント(例えば、心臓、肺、肝臓、もしくは腎臓移植を受けたまたは受ける対象)に投与される。化合物I(または化合物II)とタクロリムスの投与は、当技術分野で知られた任意の方法で、例えば、経口、吸入、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下投与により、達成することができる。いくつかの例では、化合物Iまたは化合物IIとタクロリムスはそれぞれ経口的に投与される。
【0108】
JAK1/3阻害剤である化合物Iまたはそのプロドラッグ(例えば化合物II)とタクロリムスの量は、治療される対象、対象が受けたまたは受ける移植のタイプ、および治療用組成物の投与方法に依存する。理想的には、各薬剤の治療に有効な量は、組み合わせで、対象に実質的な細胞傷害作用を生じさせることなく、移植レシピエントにおける症状(例えば、同種移植片拒絶反応)を予防、軽減、抑制、および/または治療するのに十分な、それぞれの量である。有効な量は、例えば、用量応答曲線を確立するルーチン試験を用いて、当業者によって容易に決定され得る。さらに、特定の例示的な投与量が上に提供されている。治療用組成物は、単回投与送達で、長時間にわたる連続送達により、反復投与プロトコルで(例えば、各化合物に応じて、1日1回または1日2回の反復投与プロトコルにより)投与することができる。治療用組成物の投与は長期間かかる(例えば、数ヶ月または数年の期間にわたる)ことがある。
【0109】
化合物I(またはそのプロドラッグ)とタクロリムスの投与後、移植レシピエントは同種移植片拒絶反応(例えば、移植片対宿主病もしくは移植片線維症)の存在または重症度についてモニタリングされる。特定の例では、対象は、例えば治療開始後1ヶ月に開始して、1回または複数回分析される。当技術分野で知られた任意の方法を用いて、対象をモニタリングすることができる。例えば、急性の同種移植片拒絶反応は、同種移植片の生検によって評価することができる。患者および移植片の生着はまた、例えば、移植後6ヶ月および12ヶ月に評価することもできる。同種移植片拒絶反応に伴う症状の存在または重症度の減少は治療の有効性を示している。
【0110】
当業者であれば、化合物I(またはそのプロドラッグ、例えば化合物II)とタクロリムスの併用療法は、動物での安全性について試験された後、動物またはヒトでの臨床試験に用いられることが理解されよう。一例では、同種移植の動物モデルが開示された薬剤の治療的価値および適切な用量を決定するために使用される。
【0111】
本開示の原理が適用され得る多くの可能な態様を考慮して、説明された態様は単なる例であり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを認識すべきである。むしろ、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によって規定される。したがって、本発明者らは、特許請求の範囲の精神および範囲内に入るすべてを、本発明として請求するものである。